日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
ダブルバルーン小腸内視鏡を用いた硬化療法にて治療効果を得た小腸多発血管腫の1例
山田 啓策 山村 健史中村 正直澤田 つな騎水谷 泰之前田 啓子古川 和宏宮原 良二横井 太紀雄廣岡 芳樹
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2019 年 61 巻 6 号 p. 1231-1236

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要旨

70歳代男性.1カ月間持続する黒色便にて当科紹介となった.上下部消化管内視鏡検査では,明らかな出血源を認めなかった.小腸出血を疑いカプセル内視鏡検査を施行したところ,全小腸にわたり多発する隆起性病変を認めた.ダブルバルーン小腸内視鏡検査を行いジャンボバイオプシー目的の内視鏡的粘膜切除術(Endoscopic mucosal resection:EMR)にて海綿状血管腫と診断した.後日多発する血管腫に対してpolidocanol(Aethoxysklerol)による硬化療法を行った.4日後の内視鏡観察では,血管腫は縮小を認め,以後黒色便も消失した.小腸に多発する血管腫に対して内視鏡的硬化療法が有用であった1例を経験したので報告する.

Ⅰ 緒  言

小腸に生じる多発血管腫はまれな疾患とされている.また小腸病変からの出血に対しては外科的治療による報告がほとんどであり,内視鏡的に治療しえた報告は少ない.今回われわれはダブルバルーン小腸内視鏡(double-balloon enteroscopy:DBE)により海綿状血管腫と診断し,更に硬化療法にて治療効果を得た症例を経験したため,若干の文献的考察を含めて報告する.

Ⅱ 症  例

症例:70歳代 男性.

主訴:黒色便.

既往歴:慢性炎症性脱髄性多発神経炎,高脂血症,2型糖尿病,発作性心房細動,下肢静脈瘤.

家族歴:特記すべきことなし.

現病歴:1カ月前から黒色便を認めており,徐々にふらつきを自覚するようになった.

神経内科の当院定期受診日に血液検査でHb 7.5g/dlと顕著な貧血を認めたため消化器内科紹介となった.

入院時現症:身長164.8cm,体重53.5kg,体温35.7℃,血圧91/47mmHg,脈拍93回/分,呼吸数20回/分,SpO2 97%,眼球結膜に黄疸なし,眼瞼結膜に貧血あり,表在リンパ節触知せず,腹部平坦・軟で圧痛なし,皮膚に異常所見なし.

血液生化学検査所見:WBC 10,400/mm3,RBC 2.24×106/mm3,Hb 7.5g/dl,Ht 23.5%,Plt 20.1×104/mm3と貧血を認めた.

腹部ダイナミックCT検査:動脈相では濃染されず門脈相から平衡相で小腸の広範囲に濃染される病変を多数認めた.石灰化は認めなかった(Figure 1).その他貧血の原因となるような所見は認めなかった.

Figure 1 

腹部ダイナミックCT.

動脈相で濃染されず門脈相から平衡相で小腸の広範囲に濃染される病変を多数認め,海綿状血管腫に典型的な造影効果と思われた.石灰化は認めなかった.

経過:2カ月間でHb 14.7g/dlからHb 7.5g/dlと急激な貧血の進行とふらつきを認めたため入院とした.同日緊急上部消化管内視鏡検査を施行したが,出血源は認めなかった.入院後は発作性心房細動のために内服していたエドキサバントシル酸塩水和物を休薬に伴う塞栓症のリスクを話したうえで,中止とした.第4病日施行した下部消化管内視鏡検査では,S状結腸に暗赤色の粘膜下腫瘍を複数認めた(Figure 2).鉗子で圧迫すると弾性軟であり,色調と形態から血管腫が疑われたが,観察時に出血は認めなかった.小腸出血を疑い同日にカプセル内視鏡(capsule endoscopy:CE)を施行したところ,中部空腸から下部回腸にかけて暗赤色の隆起性病変を多数認めた.上部回腸に血性腸液を認め,同部からの出血が疑われた(Figure 3).精査のためにDBEを施行したところ,CEの所見と同様に小腸に多発する隆起性病変を認めた.上部回腸には長径15mmの大きな病変を認め,頂部は凹凸不整であった(Figure 4).隆起性病変に対して超音波内視鏡(endoscopic ultrasonography:EUS)を施行すると腫瘍は第3層を主座とした内部エコー不均一な粘膜下腫瘍で,一部に隔壁を形成するように無エコー領域を認めた(Figure 5).以上より血管腫が最も疑われた.またジャンボバイオプシー目的に,中部回腸に認めた長径10mmの隆起性病変に対して,内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection:EMR)を施行.病理結果は粘膜下層を主座として大小様々な径の血管が1層の内皮細胞に裏打ちされて増生している海綿状血管腫の所見であった(Figure 6-a,b).DBE施行時には既に止血しており出血源が明らかでなかったこと,また血管腫が広範囲の小腸に分布していたことから外科的手術よりも内視鏡治療が望ましいと考えた.第18病日内視鏡治療目的に経口的DBEを施行,ミダゾラムにて鎮静を行い,合計約30病変の血管腫に対して1病変あたり0.1-0.3mlのpolidocanol(Aethoxysklerol)を注入した(Figure 7-a).内視鏡治療は約2時間を要したが検査中の偶発症は認めなかった.また,polidicanolは小腸血管腫に対する硬化療法においては保険適応外ではあるが,その点も患者に十分な説明をしたうえで使用した.第22病日にpolidicanol注入後の粘膜面の変化の確認と硬化剤未注入の小さな血管腫に対して追加治療を行うために,再度経口的DBEを施行するとpolidocanolを注入した血管腫は一部潰瘍を形成しており注入前と比べて縮小していた(Figure 7-b).残存している小さな血管腫に対しては,さらにpolidocanolを注入した.硬化療法後5カ月経過しているが,黒色便は消失し貧血進行もなく現在外来通院中である.

Figure 2 

下部消化管内視鏡検査.

S状結腸に暗赤色を呈した粘膜下腫瘍を多数認めた.

Figure 3 

カプセル内視鏡検査.

暗赤色の多発する隆起性病変を認め,上部回腸に血性腸液を認めた.

Figure 4 

ダブルバルーン小腸内視鏡検査.

中部空腸から下部回腸にかけて隆起性病変を多数認め,上部回腸には長径15mmの凹凸不整な隆起性病変を認めた.またリンパのうっ滞と思われる黄白色斑が散見していた.

Figure 5 

超音波内視鏡検査.

第3層を主座とした内部エコー不均一な粘膜下腫瘍であり,一部に隔壁を形成するように無エコー領域を認めた.

Figure 6 

a:病理組織学的所見 (HE染色×12.5).

粘膜下層を主座として大小さまざまな拡張血管が見られた.

b:病理組織学的所見 (HE染色×250).

1層の内皮細胞が裏打ちした毛細血管の密な増生が見られ,海綿状血管腫の所見であった.

Figure 7 

a:ダブルバルーン小腸内視鏡検査(硬化療法時).

血管腫に対してpolidocanolを注入した.

b:ダブルバルーン小腸内視鏡検査(治療4日後).

Polidocanol注入して4日後の内視鏡では血管腫の縮小と潰瘍形成を認めた.

Ⅲ 考  察

小腸腫瘍は全消化管腫瘍のうち5%程度の頻度といわれており 1,血管腫はさらにその小腸腫瘍の約7~11%を占めるにすぎない 2

消化管血管腫はKaijserらにより病理形態学的に,Ⅰ型:多発性静脈拡張症,Ⅱ型:海綿状血管腫;a.びまん性b.限局性ポリープ状,Ⅲ型:単純性毛細血管腫,Ⅳ型:血管腫症のように分類されている 3.Hansenは欧米ではそれぞれの型の頻度はⅠ型:Ⅱ型:Ⅲ型:Ⅳ型は4:4:1:1であったと報告している 4.一方本邦では1:8:5:3との報告がある 5.本症例はKaijserの分類によるとⅡ型であった.

小腸血管腫の診断契機は筒井ら 6の小腸血管腫の本邦報告例118例の検討によると下血で発症したものが76例(64.4%)と最も多く,次に腹痛20例(16.9%),貧血16例(13.5%)であった.またその118例の中で術前診断が可能であったのはわずか22例で,そのうち12例がKaijserの分類でいうとⅣ型で消化管以外にも血管腫を認めたため診断できた症例であった.皮膚および消化管にゴムまり様の独特の感触を有する海綿状血管腫を合併する青色ゴムまり様母斑症候群(Blue rubber bleb nevus syndrome:BRBNS)が知られている.本症例では,皮膚科に受診するもBRBNSを疑わせる皮膚所見は認めなかった.

小腸血管腫の内視鏡所見の特徴は広基性から亜有茎性の隆起で類円形,青色多房性であるとされており,小病変は正常粘膜に被覆され扁平であるが,大きな病変は粘膜が菲薄化・脱落し血管腫の頂部が露出して凸凹不整になると考えられている7).本症例においても小病変は暗赤色の扁平な粘膜下腫瘍様隆起を呈していたが,大きな病変は多房性で頂部が凹凸不整であった.

小腸血管腫の治療は一般的に手術が基本とされているが術前診断されないまま手術に至る症例も多いため大量の小腸切除を余儀なくされることがある.本例はEMRの手技を利用して治療前に血管腫と診断することが可能であった.また,診断されても本症例のように病変が多発することも多く,手術では全病変の切除が困難である.近年術中内視鏡も含め,内視鏡治療の報告が増加し,エタノールやポリドカノール,モノエタノールアミンオレイン酸塩などの硬化剤による局注療法,ポリペクトミーやEMR,レーザー凝固,高周波電気凝固などの報告が見られる 7),8.ただし,小腸壁は胃と異なり菲薄であるため穿孔のリスクも高く,また不十分な内視鏡治療は治療後の再発を来す恐れもあり 9,内視鏡治療の際には十分な注意が必要と思われる.小腸血管腫はもともと粘膜下層を主座とする病変であるが,ときに漿膜,他臓器にも及ぶことがあるとされており 10)~11,そのような病変を内視鏡的に切除する場合は,ポリペクトミーやEMRは穿孔のリスクが高い.また硬化療法の場合においても注入液による漿膜面の壊死の可能性についても考慮が必要と考えられる 12.以上のことから内視鏡治療の適応はEUSで腫瘤が粘膜下層までに留まっている病変としている報告が多い 13),14.本例は大きさ10mm以上の血管腫に対してはEUSを施行し粘膜下層までに限局した粘膜下腫瘍であることを確認したうえで,内視鏡治療を選択した.

ポリペクトミーやEMRで一病変ずつ切除するのは時間も要し,出血のリスクも高くなる.またpolidocanolはエタノールやモノエタノールアミンオレイン酸塩などの他の硬化剤と比較して組織損傷も少なく,創傷治癒も速やかに起こるといわれている 15.井川ら 16の報告でも多発する小腸血管腫に対するpolidocanolの良好な治療成績が報告されている.本症例は硬化療法による内視鏡治療にて血管腫の縮小を認めており良好な治療効果が得られた.また硬化療法後に黒色便や貧血の進行は認めておらず,一定の治療効果があったと考えられた.しかし小さな血管腫はまだ残存しており,今後も慎重な経過観察が必要である.

Ⅳ 結  語

多発する小腸血管腫に対して硬化療法による内視鏡治療で治療効果を得た症例を経験した.内視鏡的硬化療法は小腸血管腫の治療として有用である可能性がある.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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