要旨
日本消化器内視鏡学会は,新たに科学的な手法で作成した基本的な指針として,「早期胃癌の内視鏡診断ガイドライン」を作成した.内視鏡での早期胃癌診断は精度の高い検査としてその有用性が認知され,近年普及してきている.この分野の情報はエビデンスレベルが低いものが多く,専門家のコンセンサスに基づき推奨の強さを決定しなければならないことが多かった.本診療ガイドラインは,[Ⅰ]内視鏡検査施行前の胃癌のリスク層別化,[Ⅱ]早期胃癌発見,[Ⅲ]早期胃癌の質的診断,[Ⅳ]胃癌の治療方針を決定する診断,[Ⅴ]内視鏡検査後のリスク層別化,[Ⅵ]早期胃癌のサーベイランスの6つの項目に分け,現時点での指針とした.
[1]はじめに
内視鏡による早期胃癌診断を安全かつ正確に実施するためには,基本的な指針が必要である.これまで,内視鏡による胃癌治療,または内視鏡に特定しない胃癌検診に関するガイドラインは刊行されているが,早期胃癌の内視鏡診断に特化したガイドラインは作成されていなかった.そこで,日本消化器内視鏡学会ガイドライン委員会は,早期胃癌の内視鏡診断ガイドラインを,科学的な手法に基づいた基本的な指針となるものとして新たに作成することを決定した.本ガイドラインは,胃内視鏡検査を受ける可能性のあるすべての成人を対象とし,早期胃癌を内視鏡によって正確に診断することで胃癌患者の生命予後と生活の質を改善することが目的である.そのために,これまでに利用可能なエビデンスを整理・解釈し,個々の患者の価値観を踏まえた上での適切な臨床判断を行うための推奨を提供する(Table 1).
作成方法は,近年行われており国際的に標準とされているevidence based medicine(EBM)の手法に則って行った.具体的には「Minds診療ガイドライン作成の手引き 2014」
1)に従ったガイドライン作成を心がけた(Table 2).執筆の形式は,ステートメントを掲げた総説形式とした.なお,この領域におけるレベルの高いエビデンスは少なく,専門家のコンセンサスを重視せざるを得なかった.本ガイドラインが内視鏡による早期胃癌診断の有用な指針となることを期待する.
[2]本ガイドラインの作成手順
1.委員
日本消化器内視鏡学会ガイドライン作成委員として消化器内視鏡医6名が作成を委嘱された.また内部評価委員として,消化器内視鏡医3名,病理医1名,ガイドライン作成方法論担当医1名,疫学専門医1名が評価を担当した.併せて,外部評価委員3名に評価を依頼した(Table 3).
2.推奨の強さとエビデンスレベル,ステートメント
作成委員により,早期胃癌の定義と内視鏡で早期胃癌を診断する意義,内視鏡検査施行前の胃癌のリスク層別化,早期胃癌発見,早期胃癌の質的診断(癌と非癌の鑑別),胃癌の治療方針を決定する診断,内視鏡検査後のリスク層別化,早期胃癌のサーベイランスの7つの項目が設定された.なお,早期胃癌の定義と内視鏡で早期胃癌を診断する意義については,本ガイドラインの大前提であるため,ステートメントとせず序文として掲載することとした.したがって,最終的には6つの項目それぞれについて,クリニカル・クエスチョン(CQ)を作成したが,内部評価委員会の意見を参考に修正を加え最終的に19個となった.これに対し,当該診療を理解する上で重要な基本的事項(臨床的・疫学特徴,病態,診療の全体の流れ,すでにスタンダードになった診療方法等)については,「Background knowledge」として区別した.具体的には,background knowledgeは最新の情報を記載し,CQはシステマティックレビューを経て推奨作成・提示を行うものとして,切り分けて対応した.この考え方は,「Mindsからの提言 診療ガイドラインにおけるクリニカルクエスチョンとは?(http://minds4.jcqhc.or.jp/minds/guideline/pdf/Proposal4_ver.1.0.pdf)」を参考とした.そして,各CQに対して,PubMed,Cochraneおよび医学中央雑誌にて遡及可能な限り古い年代から2017年2月までの期間で,系統的に文献検索を行った.キーワード・検索式については,各ステートメント別に詳記した.不足した文献に対してはハンドサーチも採用した.検索した文献を評価してランダム化比較試験・観察研究(コホート研究・ケースコントロール研究)・メタアナリシス,またこれらの論文で不足する場合には症例集積研究を採用し,動物実験・遺伝子研究を除外して,各CQに対するステートメントと解説文を作成した.そして,作成委員は各担当分野の各文献のエビデンスレベルおよびステートメントに対する推奨の強さとエビデンスレベルを「Minds診療ガイドライン作成の手引き2014」に従って設定した.
作成されたステートメントと解説文を用いて総説形式のガイドラインを作成し,ステートメント案に対して,作成委員と内部評価委員の合計12名により修正Delphi法による投票を行った.修正Delphi法は,1-3:非合意,4-6:不満,7-9:合意,として7以上のものをステートメントとして採用した.6点以下の評価がある場合はディスカッションを行いステートメントあるいは推奨度を修正し,7点以上となるまで投票を繰り返した.完成したガイドライン案は外部評価委員の評価を受けるとともに,学会会員に公開されてパブリックコメントを求めた上で,それぞれの結果に関する議論を経て修正を加え,本ガイドラインが完成した.
3.対象
本ガイドラインの利用者として想定しているのは,消化器内視鏡診療に関わる医療従事者である.ガイドラインはあくまでも標準的な指針であり,個々の患者の意志,年齢,合併症,社会的状況,施設の事情などにより柔軟に運用する必要がある.
[3]本論文内容に関連する著者の利益相反
(1)開示:本ガイドライン作成委員,評価委員の利益相反に関して各委員には下記の内容で申告を求めた.
本ガイドラインに関係し,委員個人として何らかの報酬を得た企業・団体について:報酬(100万円以上),株式の利益(100万円以上,あるいは5%以上),特許使用料(100万円以上),講演料等(50万円以上),原稿料(50万円以上),研究費,助成金(100万円以上),奨学(奨励)寄付など(100万円以上),企業などが提供する寄附講座(100万円以上),研究とは直接無関係なものの提供(5万円以上).
八尾建史(講演料:オリンパス),岡 政志(講演料:マイランEPD),井上和彦(講演料:武田薬品工業,エーザイ,アストラゼネカ,第一三共,大塚製薬),間部克裕(講演料:武田薬品工業,エーザイ,寄付講座:エーザイ),八尾隆史(講演料:武田薬品工業).
(2)管理:利益相反の管理については,上記の経済的利益相反に加え,学術的利益相反についても申告し,推奨度を決定する投票の際に利益相反ありの委員は,投票を棄権した.
[4]資金
本ガイドライン作成に関係した費用は,日本消化器内視鏡学会によるものである.
[5]改訂
本ガイドラインの改訂は,新しいエビデンスの集積と機器や手技の進歩を見極めて,約5年を目標に本学会のガイドライン委員会が中心となって行う.
[6]早期胃癌の内視鏡診断ガイドライン
序文:早期胃癌の定義と内視鏡で早期胃癌を診断する意義
早期胃癌の定義は,胃粘膜に発生する上皮性悪性腫瘍のうち,リンパ節転移の有無を問わず,腫瘍の浸潤が粘膜内または粘膜下層までに留まるものである
1).
早期胃癌を内視鏡により発見し治療することで胃癌による死亡率を減らすことができるかどうかのエビデンスについては,内視鏡を施行する群と施行しない群について死亡率をアウトカムとするランダム化比較試験を行うことは現実的に不可能であるので,観察研究の結果を参照する以外方法がない.また,「早期胃癌を内視鏡により発見し治療すれば,胃癌による死亡率を減らすこと」を直接提示した報告はないが,(1)対策型内視鏡検診により胃癌(早期胃癌と進行胃癌)の死亡率を減少させる効果,(2)対策型検診により発見された胃癌に早期胃癌の比率が多いという間接的なアウトカム,(3)発見された早期胃癌を治療した群は,治療しなかった群よりも死亡数が少ないというエビデンスに基づき,早期胃癌を内視鏡により発見し治療をすれば,胃癌による死亡率を減らすことが期待される.
(1)PubMedでスクリーニングと胃癌の死亡率について文献検索を行った結果,2編の症例対照研究
2),3),2編のコホート研究
4),5)について記載した論文が検索された.韓国の胃癌に対するスクリーニング・プログラムを受けた被験者を対象としたコホート研究
6)によると,胃内視鏡検査を受けた被験者の胃癌による死亡のオッズ比は,0.53(95%CI:0.51~0.56)と報告されている.すなわち,内視鏡によるスクリーニング検査は,胃癌による死亡率の減少効果に貢献すると考えられる.別の症例対照研究において,胃癌と診断された36カ月以内に,胃内視鏡によるスクリーニングを受けていた対象者は,まったく受けていない対象者と比較して30%のオッズの低下が報告されている
2).他の症例対照研究の結果,胃癌に対する内視鏡によるスクリーニング検査を受けている被験者は,受けていない被験者と比較し,胃癌により死亡するオッズ比が0.206(95%CI:0.044~0.965)であったと報告されている
3).
(2)また,死亡率をアウトカムにした研究ではなく,リードタイムバイアスを考慮する必要があるが,胃癌に対するスクリーニング検査を受けた集団と受けない集団についての比較試験を対象としたメタアナリシスの結果によると,スクリーニングを受けた患者集団において発見された胃癌における早期胃癌の占める割合は73%であり,スクリーニングを受けていない集団の43%より,有意に多かったと報告されている
7).
(3)発見された早期胃癌を治療すると死亡数が減少するかという点については,遡及的観察研究で治療群における胃癌死亡率のハザード比は0.51で,治療しなかった群より低かったと報告されている
8).
これら(1),(2),(3)の結果を総合的に考えると,内視鏡で発見された早期胃癌を治療すれば胃癌による死亡数は減少すると推察できる.
また,内視鏡による有害事象は,日本消化器内視鏡学会が行った多施設共同前向き観察研究で上部消化管内視鏡観察11,081件の偶発症頻度は0.171%(生検3,447件中,0.667%)であったが死亡例はなかった
9).益と害のバランスについては評価できるエビデンスが充分には示されていない.患者により内視鏡検査を受けたいという価値観や好みにはばらつきがあり,負担についても内視鏡による患者の苦痛は人により異なる
10).内視鏡検査で早期胃癌を発見することについて,日本人全体に対する医療経済性を検討した論文はない.今後検討の余地が残されている.しかし,日本では,保険診療,対策型検診を利用した内視鏡検査は比較的安価であり,コストに見合った利益を得る点では,問題ないと考えられる.人的資源については,日本消化器内視鏡学会の会員数は34,258人(2018年2月現在)であり問題ないと考えられる.また,有症状者など胃癌の発見とは別の目的で施行した保険診療としての内視鏡検査により多数の早期胃癌が発見されているので,現在のところ,保険診療においては資源に充分見合ったものと推測される.対策型検診については,2016年に正式に認められたばかりであり,マンパワーについて現時点では評価できない.
本ガイドラインに記載された内容は,対象の年齢やHelicobactor pylori(H. pylori)感染率により,異なる可能性がある.
本ガイドラインでは,[Ⅰ]内視鏡検査施行前の胃癌のリスク層別化,[Ⅱ]早期胃癌発見,[Ⅲ]早期胃癌の質的診断(癌と非癌の鑑別診断),[Ⅳ]胃癌の治療方針を決定する診断,[Ⅴ]内視鏡検査後のリスク層別化,[Ⅵ]早期胃癌のサーベイランス,という6つの大きな項目を,実際の診療の時系列に沿って順を追って設定した.そして,これらのステートメントから導き出した「早期胃癌診断のための内視鏡診療アルゴリズム」の提案を行ったことが,本ガイドラインの大きな特徴である.
[Ⅰ]内視鏡検査施行前の胃癌のリスク層別化
ステートメント:1-1
胃癌のリスクとしてH. pylori感染,胃粘膜萎縮,遺伝性疾患,喫煙など明らかなリスクファクターが指摘されている.その他にも食事,嗜好,Epstein-Barr(EB)ウイルスなどが可能性のあるリスクファクターとして報告されている.
修正Delphi法による評価 なし(background knowledge)
エビデンスレベル:C
解説:
H. pylori感染と胃癌との間には強い関連があることが分かっており
1),2),International Agency for Research on Cancer(IARC)でもH. pyloriはGroup 1の発癌因子に挙げられている.H. pyloriの中には病原蛋白であるCagAを持つものがあり,このCagAが胃癌の発生と強く関連することが
3),メタアナリシスでも示されている
4).また,H. pylori感染率と胃癌の発生率との相関は人種によって異なるが
5),これはH. pyloriの持つCagAのタイプが異なることが原因の1つと考えられ,East-Asian-typeのCagAをもつH. pylori感染者はnon-East-Asian-typeのCagAをもつH. pylori感染者より有意に胃癌の有病率が高く
6),マレーシアのような多民族国家内の人種間
7)やアジア諸国間
8)でもH. pyloriのCagAのタイプの割合が異なっており,このことにより人種間での胃癌の発生率の違いが生じていると考えられる.その他にもH. pyloriが胃粘膜上皮に空胞変性を引き起こす空胞化毒素VacAの有無も胃癌の発生と関連があるとされている
9),10).VacAはCagA同様構造多型がありVacAのs1/m1型とCagAの組み合わせが胃癌の発生に強く関連している
11),12).
胃粘膜萎縮の有無は,H. pylori感染と同様に胃癌の発生と強い関連をもつ
13)~15).血清ペプシノゲンは萎縮性胃炎の指標として用いられており,特に胃底腺領域のみから産生されるPG Ⅰと胃底腺,幽門腺両方より産生されるPG Ⅱの比であるPG Ⅰ/PG Ⅱ比が萎縮の程度と相関するといわれている
16).このPG Ⅰ/PG Ⅱ比の低値が胃癌の発生と相関することが長期間の前向き大規模コホート研究
17),システマティックレビュー
18),メタアナリシス
19)において示されている.
その他の胃癌のリスクを先天的因子,後天的因子に分けて考えると,先天的因子として遺伝子多型や遺伝性疾患,性別,人種などが挙げられる.遺伝子多型については肯定的な結果も多いが否定的な結果も多く,また人種や胃癌の組織型によりその関連性は異なるなど今後のさらなる検討が必要である
20)~23).
遺伝性疾患として遺伝性びまん性胃癌(hereditary diffuse gastric cancer:HDGC),その他Lynch症候群,家族性大腸腺腫症(familial adenomatous polyposis:FAP),Peutz-Jeghers症候群,Li-Fraumeni症候群に伴う胃癌などがある
24).HDGCは常染色体優性遺伝の形式で遺伝し未分化型胃癌が発生する
24),25).原因遺伝子としてCDH1遺伝子の変異を認めることがあり,この遺伝子変異を認めると大部分が40歳以前に胃癌を発症する.またLynch症候群は生殖細胞系列でのミスマッチ修復遺伝子(MLH1・MSH2・MSH6・PMS2)の変異を認め,6~13%の胃癌発生リスクがあるといわれている
26).FAPはAPC遺伝子の変異によって発症するAPC関連ポリポーシスに含まれており,日本人,韓国人においては一般人に比べて胃癌の発生率は10倍である
27).また類縁疾患の胃腺癌および近位胃ポリポーシス(gastric adenocarcinoma and proximal polyposis of the stomach:GAPPS)においても胃癌の発生リスクが高いとされている
27).その他,Peutz-Jeghers症候群やLi-Fraumeni症候群でも消化管癌のリスクが高いとされている
28),29).また胃癌の家族歴があることは1.5~3.5倍の危険度があるといわれており
30),遺伝性素因も含め家族歴の有無は重要な因子と考えられる.性別では女性に比べ男性のほうが胃癌の発生率が高く
31),女性におけるエストロゲンが胃癌の発生率を下げる可能性が示唆されている
32).人種では胃癌はアジア,特に東アジアに多くみられるが
5),マレーシアのような多民族国家における前向きコホート研究ではH. pylori感染率はすべての民族で高かったにも関わらず,インド系に比べ中華系の人種に胃癌が多く発生していたと報告されており,同じ地域でも人種により胃癌発生率は異なることが示されている
33).
後天的因子として食事,嗜好,疾患,薬物,職業,運動,H. pylori感染などが挙げられる.食事に関して果物や野菜がリスクを下げるという報告が多いが
34),35),種類によるという報告
36)~38)や否定的なものもあり
39),さらなる検討の余地がある.魚の摂取と胃癌リスクとの関連ははっきりとせず
40),赤身の加工肉の摂取は胃癌リスクを増加させる可能性が示唆されている
41).高脂肪の乳製品の摂取に関しては胃癌のリスクを上げる,関連がないなどの報告がある
34),42).別のメタアナリシスでは脂肪摂取は胃癌のリスクを上げる可能性があるが,飽和脂肪酸がリスクを上げるのに対し,多価不飽和脂肪酸や植物脂肪はリスクを下げ,単価不飽和脂肪酸や動物脂肪はリスクと関連がないなど,サブグループ解析に一致した結果がないという結論であった
43).また塩漬けの食べ物の摂取と胃癌リスクに関するメタアナリシスでは胃癌リスクが50%上昇するという結果が出ている
44).塩分摂取量を調べた前向きコホート研究においても,特にH. pylori感染を伴う萎縮性胃炎患者で塩分摂取と胃癌のリスク増加に関連を認めている
45).ビタミンCに関しては多国間多施設大規模研究で胃癌リスクの低下に寄与する可能性が示唆されたが
46),いまだ賛否が分かれている
47)~49).またbody mass index(BMI)と胃癌との関係についてBMI上昇と胃癌リスクの上昇が関連するというメタアナリシスの結果がある一方
50),噴門部癌と関連はあったが非噴門部癌にはなかったとするメタアナリシス
51)の結果もある.BMIと食道腺癌・噴門部癌との間にみられる強い関連に比べ
52),まだ議論の余地があると思われる.飲酒と胃癌リスクの関連に関して,日本人におけるシステマティックレビューと他のメタアナリシスにおいて明らかな関連がないと報告されているが,方法などを統一した上での計画的な検討が必要と考えられた
53),54).喫煙は胃癌のリスク増加との関連については否定的な報告もあるが
55),肯定的な報告も多く
56),57),IARCでもsufficient evidenceがある発癌因子として挙げられている.コーヒー摂取と胃癌リスクに関しては3つのメタアナリシスで,胃癌リスク低下に関連があるかもしれない
58),関連がない
59),関連ないが噴門部癌のリスクは増加させるかもしれない
60),と一定の見解がない.緑茶摂取についても同様で,日本人女性において胃癌リスクを低下させるかもしれないというシステマティックレビュー
61)はあるが関連がないとするメタアナリシスもある
62),63).生活習慣に関して胃癌患者と年齢,人種,性別をマッチさせた症例対照研究にて夕食から就寝までの時間が3時間未満,食後に歩かないことが胃癌リスクの上昇と関連したと報告され,今後のさらなる研究が期待される
64).他疾患と胃癌との関係について糖尿病は胃癌リスクの増加と強い関連が示唆されるという報告があるが
65)~68),男性患者において関連がないというシステマティックレビューもある
65).また内服薬では非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDs)
69),70),特にaspirinが胃癌のリスクを減少させるという報告があるが,その投与量が異なっており,さらなる検討が必要と思われる
71),72).またスタチン系薬剤による胃癌リスクの低下もメタアナリシスにおいて示唆されているが薬剤の種類による違いや長期予後などまだ不明な点が多くこちらもさらなる研究が必要である
73).その他職業上のアスベスト曝露が胃癌リスクを増加させるというメタアナリシスがあり
74),IARCでも限られた証明のみとはされているがGroup 1の発癌因子として挙げられている.またEBウイルスは胃癌組織の10%前後に認められ
75),76),胃癌リスクとの関連性が証明されている
77),78).しかし,in situ hybridization(ISH)法での検索では強い関連を認めるがPCR法単独では不充分な結果で
77),また成人の90%以上がEBウイルスに潜伏感染していることと
76)実際の胃癌における陽性率との相違からも,IARCでは発癌因子に挙げられてはいるが限られた証明のみとされており,リスクファクターとしてどれだけの重みがあるかはまだ議論の余地が残っている.
以上,胃癌のリスクに影響を与える因子は上記のように様々あるが,実際にはこのような因子が複雑に関連すると考えられ
39),42),50),79),H. pylori感染,胃粘膜萎縮,遺伝性素因,喫煙など関連性の強い因子以外は一定の評価が得られていないのが現状と考えられる.またIARC
80)や国立がん研究センター
81)のホームページでも胃癌のリスク因子に関する記載があるのでご参照頂きたい.
今回の文献抽出については,databaseはCochraneおよびPubMedを用いた.gastric cancerとrisk factor,atrophy,smoking,drinking,alcohol,salt,preserved meat,vegitable,fruit,CagA,Gastrin 17,sex,age,family history,(past history, gastric cancer),(past history, gastric adenoma),(past history, esophageal cancer),Helicobacter pylori antibody,(Helicobacter pylori antibody, risk stratification),serum pepsinogen,(serum pepsinogen, risk stratification)の組み合わせを用いて検索をかけた結果546編の論文がヒットし,システマティックレビュー34編,メタアナリシス76編が検索された(重複あり).重複を除き胃癌のリスクファクターに関係のあるシステマティックレビュー9編,メタアナリシス30編,その他関連文献を引用した.またガイドライン委員会での話し合いの過程においてgastric cancerとEB virus,systematic,meta-analysisの組み合わせを用いてPubMedにて70編の論文が検索され(重複あり),重複を除き胃癌のリスクファクターに関係のあるシステマティックレビュー2編を引用した.その他文献内の引用文献およびPubMedを用いたハンドサーチにて21編追加引用した.
ステートメント:1-2
内視鏡検査前の胃癌リスクの層別化は可能であり,経済効果も期待できる.しかし,具体的な方法については課題が残されている.
修正Delphi法による評価 なし(background knowledge)
エビデンスレベル:C
解説:
日本において血清ペプシノゲン値および血清H. pylori抗体価を用いた胃癌リスクの層別化によるコホート内対象研究が
1),また,日本を含む多国間において血清H. pylori抗体価を用いたリスク層別化による大規模コホート研究が行われている2).また,4つのコホート研究のメタアナリシスにおいても血清ペプシノゲン値および血清H. pylori抗体価を用いた胃癌リスクの層別化の可能性が示唆されたが,群の分け方による解釈や測定方法の相違などの問題があるため,具体的なリスク層別化の方法については課題がある
3).シンガポールからの報告では,胃癌高リスク群と低リスク群に分けて内視鏡的サーベイランスを行った場合に有意に費用減少効果を認めている
4),5).しかしながら,シンガポールと日本では母集団の胃癌の有病率,H. pylori感染率に相違があるため,日本における検査前のリスク層別化にそのまま当てはめることはできない.
今回の文献抽出については,1-1で検索されたものの関連文献およびハンドサーチにて検索された文献5編を引用した.
ステートメント:1-3
血清H. pylori抗体および血清ペプシノゲンの組み合わせが胃癌のリスク層別化に有用である可能性がある.しかし,高度萎縮症例,過去感染例での偽陰性やH. pylori抗体価のカットオフ値やその測定方法,ペプシノゲン値の解釈,PG Ⅰ/PG Ⅱ比のカットオフ値などの課題がある.
修正Delphi法による評価 中央値:9,最低値:7,最高値:9
推奨の強さ:2 エビデンスレベル:C
解説:
1-1,1-2に提示したエビデンスを考えると,H. pylori感染の有無と血清ペプシノゲンの測定を行うことが胃癌リスクの層別化に有用である可能性があるといえる.H. pylori感染の有無を調べる方法として培養法,鏡検法,尿素呼気テストなどがあるが,簡便な方法として,血清H. pylori抗体の計測が胃癌リスクの層別化に有用であることが証明されている
1).また,血清ペプシノゲン値も胃癌リスクのスクリーニングに有用であることが示されており
2),血清H. pylori抗体価と血清ペプシノゲン値の測定により対象を4群に分けるいわゆるABC検診が提唱されている
3).すなわちPG ⅠとPG Ⅰ/PG Ⅱ比の組み合わせ,および血清H. pylori抗体価によりA群[Hp(-),PG(-)],B群[Hp(+),PG(-)],C群[Hp(+),PG(+)],D群[Hp(-),PG(+)]に分けることにより胃癌のリスクを層別化する方法であり,前向きコホート研究でA群に比べC群が6.0倍,D群が8.2倍胃癌の発生リスクが高いという結果でその有用性が証明された
3).しかし,H. pylori感染率の高い集団が対象ではリスク層別化にならないという意見
4)やA群の中にH. pylori既感染例や現感染例が含まれる事実
5),システマティックレビューで4群ではなくA群,B群,C+D群の3群に分けたほうが妥当であるという結果
6)などの問題点が報告されており,H. pylori抗体価のカットオフ値やその測定方法,ペプシノゲン値の解釈,PG Ⅰ/PG Ⅱ比のカットオフ値などについて検討がなされている
7)~9).
その他1-1で挙げられた因子のうち遺伝的素因については発端者以外は家族歴聴取により拾い上げが可能なため,家族歴の聴取はリスクの層別化に有用な可能性がある.
今回の文献抽出については,1-1で検索されたもの文献1編,その他関連論文,1-2で引用した文献,およびハンドサーチにて検索された文献8編を引用した.
[Ⅱ]早期胃癌発見
ステートメント:2-1
蠕動運動が激しく観察が難しい症例では,胃蠕動運動抑制剤の使用を考慮する.
修正Delphi法による評価 中央値:8,最低値:6,最高値:9
推奨の強さ:決定できない エビデンスレベル:D
解説:
胃は前庭部を中心に蠕動運動が活発で,内視鏡観察に支障を来す場合がある.そのため上部消化管内視鏡検査の際に,蠕動運動抑制剤が前投薬として使用されることがある
1).蠕動運動抑制剤は注射剤として,抗コリン薬である臭化ブチルスコポラミンとグルカゴンがあり,局所散布製剤としてペパーミントオイルおよびその主成分であるl-menthol製剤がある
2),3).Hikiらはランダム化比較試験でl-menthol製剤の胃の蠕動運動抑制効果を示した
3).
臭化ブチルスコポラミン投与の禁忌に,緑内障,前立腺肥大症,重篤な心疾患,麻痺性イレウスがあり,主な副作用として心悸亢進,排尿障害,口渇,視調節障害などがあるため,高齢者では使用しにくい
4).グルカゴン投与の禁忌には褐色細胞腫,コントロール不良な糖尿病があり,副作用の遅発性低血糖発作には注意が必要である.グルカゴンは臭化ブチルスコポラミンと比較して心臓血管系の影響は少ない
5).ペパーミントオイル,l-menthol製剤は重篤な副作用がなく,比較的安全に使用できる
2),3).
蠕動運動を抑制することにより,内視鏡の観察が容易になると考えられるが,いずれの蠕動運動抑制剤も早期胃癌の発見を向上させるということを,明確に示した研究は存在しない.しかしながら,よりよい視野を保つことができれば,早期胃癌の発見率が向上することが推測されるため,蠕動運動が激しく観察が難しい症例では,必要に応じて胃蠕動運動抑制剤の使用を考慮する.なお,薬剤のコストは高い順にグルカゴン,l-menthol製剤,臭化ブチルスコポラミンである.
ガイドライン作成委員会推奨決定会議では,推奨度を明記しないという以外に,“蠕動運動が激しく観察に制限がかかる症例では,胃蠕動運動抑制剤の使用を弱く推奨する”という意見も出た.
今回の文献抽出に関しては,databaseはPubMedおよび医学中央雑誌を用いた.PubMedでは検索式(gastroscopy OR esophagogastroduodenoscopy) AND (antidiarrheals OR antiperistaltic OR “cholinergic antagonists” OR “scopolamine hydrobromide” OR “scopolamine butylbromide” OR glucagon OR peppermint) Filters: Humans; English; Japaneseをかけた結果288文献がヒットし,医学中央雑誌では,検索式((((蠕動/TH or 蠕動運動/AL) or (薄荷/TH or ハッカ/AL) or cholinergic/AL and antagonists/AL or (“Scopolamine Hydrobromide”/TH or scopolamine/AL) or (Glucagon/TH or glucagon/AL))) and ((内視鏡/TH or 内視鏡/AL) or 上部消化管内視鏡検査/AL)) and (PT=会議録除く)をかけた結果153文献がヒットした.その中で本ステートメントに沿った文献を絞り込み,さらにハンドサーチにて文献を追加した.
ステートメント:2-2
粘膜の視認性が向上すれば,早期胃癌の発見につながることが推測されるため,胃内粘液溶解除去剤および消泡剤の使用が強く推奨される.
修正Delphi法による評価 中央値:8,最低値:7,最高値:9
推奨の強さ:1 エビデンスレベル:D
解説:
粘膜表面に付着している泡や粘液は,内視鏡観察の妨げになり,粘膜の微細な変化を見落とす原因となる.そのため,粘膜の視認性を向上させる目的で,胃内粘液溶解除去剤および消泡剤が前処置薬として使用されることが多い
1).胃内粘液溶解除去剤にはプロナーゼとN-アセチルシステインがあり,日本ではプロナーゼが胃内視鏡検査における胃内粘液の溶解除去として承認されている.プロナーゼの投与により,粘膜の視認性が改善するというランダム化比較試験が複数報告されており
2)~4),色素内視鏡やNBI(narrow-band imaging)拡大観察に対しても有用とされている
5),6).
一方,消泡剤にはジメチコンが使用される.プラセボとジメチコンの投与を比較したランダム化比較試験ではジメチコン投与群では胃内の泡が有意に少なく,特に残胃の症例で消泡効果が強く表れた
7).ジメチコンの投与が検査時間の短縮
8)や内視鏡医の満足度の向上につながるという報告もある
9).
メタアナリシスでは,ジメチコン単剤投与は,プロナーゼやN-アセチルシステイン単剤投与よりも内視鏡視認性の向上効果を認めた.また,ジメチコンにプロナーゼやN-アセチルシステインを併用した際の視認性の向上効果は限定的であった
10).
胃内粘液溶解除去剤および消泡剤が早期胃癌の発見を向上させるということを,明確に示した研究は存在しない.しかしながら,粘膜の視認性が向上すれば,早期胃癌の発見につながることが推測されるため,日本では胃内粘液溶解除去剤および消泡剤の使用が勧められる.なお,ジメチコン,プロナーゼは安価で副作用の頻度が低いため,使用しやすい薬剤である.しかし,プロナーゼは粘液の除去に伴い,患部より出血するおそれがあるため,胃内出血の疑いがある患者には慎重投与とされている.
ガイドライン作成委員会推奨決定会議では,胃内粘液溶解除去剤および消泡剤が直接早期胃癌の発見を向上させるというエビデンスはないが,粘膜の視認性が向上するという強いエビデンスがあり,安価で副作用が少なく,容易に入手でき,かつ患者負担も少ないことから,強く奨励することとなった.
今回の文献抽出に関しては,databaseはPubMedおよび医学中央雑誌を用いた.PubMedでは検索式((gastroscopy OR esophagogastroduodenoscopy) AND (expectorants[pa] OR pronase OR “antifoaming agents” OR defoaming OR Simethicone OR Octoxynol))Filters: Humans; English; Japaneseをかけた結果93文献がヒットし,医学中央雑誌では(((内視鏡/TH or 内視鏡/AL) or 上部消化管内視鏡検査/AL) and ((粘液溶解/AL or (去痰剤/TH or 去痰剤/AL) or (Pronase/TH or pronase/AL) or (Pronase/TH or プロナーゼ/AL) or (消泡剤/TH or 消泡剤/AL))) and (PT=会議録除く)の検索式をかけた結果130文献がヒットした.その中で本ステートメントに沿った文献を絞り込み,さらにハンドサーチにて文献を追加した.
ステートメント:2-3
不安が強い場合や,反射や体動により観察が難しい症例では,副作用に注意して鎮静剤・鎮痛剤を使用してもよい.
修正Delphi法による評価 中央値:8,最低値:7,最高値:9
推奨の強さ:決定できない エビデンスレベル:D
解説:
鎮静剤は,患者の不安や不快感を取り除き,鎮痛剤は意識レベルの低下を来さずに痛みを軽減させる.鎮静剤・鎮痛剤は内視鏡検査に対する患者側の受容性や満足度を改善する.また,鎮静剤・鎮痛剤は内視鏡医の観点からも,検査の完遂や診断精度および治療成績の向上に有用である
1).鎮静剤・鎮痛剤の副作用としては,呼吸抑制,循環抑制,徐脈,不整脈,前向性健忘,脱抑制,吃逆などがある.死亡を含む重篤な偶発症の報告もあり,鎮静剤・鎮痛剤を使用する場合は,モニタリング実施可能な人員配置と診療環境の確保が重要である.また,内視鏡終了後も覚醒までの間は患者監視を継続する必要がある
1).
現時点では,鎮静剤・鎮痛剤が早期胃癌の発見に寄与することを,明確に示した研究は存在しない.しかし,患者の不安が強い場合や,苦痛や体動により観察が難しい症例では,鎮静剤・鎮痛剤を使用してもよい.また,鎮静剤・鎮痛剤の使用に関しては前述の副作用や偶発症への対策がとれる施設環境が必要である.
ガイドライン作成委員会推奨決定会議では,当初,“不安が強い場合や,反射や体動により観察が難しい症例では,副作用に注意して鎮静剤・鎮痛剤の使用を考慮する”というステートメントであった.しかし,修正Delphi投票の結果,中央値が7,範囲7-9であったため,再度討議を行ったところ,日本全国でみると鎮静剤・鎮痛剤の使用できる人員配置や診療環境には制限があり,細径内視鏡などの内視鏡機器の開発や内視鏡技術の向上により鎮静剤・鎮痛剤の使用を減少させることも可能であることから,“使用を考慮する”から“使用してもよい”と表現を弱くした.
なお,上部消化管内視鏡検査の際の鎮静剤・鎮痛剤の投与については,日本消化器内視鏡学会のガイドラインを参照して行う
1).
今回の文献抽出に関しては,databaseはPubMedおよび医学中央雑誌を用いた.PubMedでは検索式 (“stomach neoplasms” AND Hypnotics and Sedatives [Pharmacological Action]) Filters: Humans; English; Japaneseをかけた結果42文献がヒットし,“stomach neoplasms/diagnosis” AND analgesics[Pharmacological Action] Filters: Humans; English; Japaneseをかけた結果12文献がヒットした.医学中央雑誌では検索式(((胃腫瘍/TH or 胃腫瘍/AL)) and ((催眠剤と鎮静剤/TH or 催眠剤と鎮静剤/AL))) and (PT=会議録除く)をかけた結果72文献がヒットし,((((胃腫瘍/TH or 胃腫瘍/AL)) and (((SH=診断的利用,診断,画像診断,X線診断,放射性核種診断,超音波診断) or (診断/TI)))) and ((鎮痛剤/TH or 鎮痛剤/AL))) and (PT=会議録除く)かけた結果64文献がヒットした.さらにハンドサーチにて文献を検索したが,鎮静剤・鎮痛剤が早期胃癌の発見に寄与することを示した研究は存在しなかった.
ステートメント:2-4
胃の観察時間と早期胃癌の発見は関連性があり,充分な時間をかけて胃内を観察すべきである.
修正Delphi法による評価 中央値:8,最低値:7,最高値:9
推奨の強さ:1 エビデンスレベル:D
解説:
上部消化管内視鏡検査時間と早期胃癌の発見に関した研究は,これまで3つ報告されている.Tehらは,837件の内視鏡検査のうち,挿入から抜去までの平均検査時間が7分未満の内視鏡医は早期胃癌を発見できなかったが,平均検査時間が7分以上の内視鏡医は早期胃癌を4病変(0.9%)発見したと報告した
1).Kawamuraらの報告では,15,763件の内視鏡検査を解析し,挿入から抜去までの平均検査時間が5分未満の内視鏡医の早期胃癌の発見率は0.2%に対して,5分以上の内視鏡医は0.4%と高い傾向にあった
2).Parkらは,111,962件の内視鏡検査を,十二指腸までの挿入と洗浄の時間を除いた純粋な胃内の平均観察時間が3分以下のfast endoscopist群と,3分を超えるslow endoscopist群に分けて検討を行った
3).早期胃癌の発見率はfast endoscopist群が0.06%に対して,slow endoscopist群は0.09%であり,有意にslow endoscopist群が高い早期胃癌の発見率を示した(P=0.0455).なお,この3つの論文の平均検査時間および観察時間は,いずれも生検をしていない症例で算出している.
このように,平均検査時間が短い内視鏡医は早期胃癌の偽陰性が多い可能性が示唆される.しかし,個々の症例で何分以上,観察をすればよいかについては明確な結論は出ていない.
今回の文献抽出に関しては,databaseはPubMedおよび医学中央雑誌を用いた.PubMedでは検索式 “stomach neoplasms/diagnosis” AND (“examination time”[tiab] OR “observation time”[tiab] OR “time factors”) AND (endoscopy OR endoscopic) をかけた結果194文献がヒットし,医学中央雑誌では((((胃腫瘍/TH or 胃腫瘍/AL)) and (((SH=診断的利用,診断,画像診断,X線診断,放射性核種診断,超音波診断) or (診断/TI)))) and (((観察/TH or 観察/AL) or 経過観察/AL) and ((時間/TH or 時間/AL) or (時間因子/TH or 時間因子/AL)))) and (PT=会議録除く)の検索式をかけた結果68文献がヒットした.その中で本ステートメントに沿った文献を絞り込み,さらにハンドサーチにて文献を追加した.
ステートメント:2-5
早期胃癌の発見のために,系統立って胃内を観察すべきである.
修正Delphi法による評価 中央値:9,最低値:7,最高値:9
推奨の強さ:1 エビデンスレベル:D
解説:
Hosokawaらは,胃癌なしと診断された内視鏡検査から3年以内に胃癌でがん登録されたものを偽陰性と定義すると,偽陰性率は25.8%と報告している.さらに,内視鏡経験が10年未満の医師による検査の偽陰性率は32.4%,10年以上では19.5%であり,経験が少ない内視鏡医は有意に偽陰性率が高値であった
1).海外を含めたメタアナリシスでは,同様の定義の偽陰率は11.3%であった
2).このように,少なくない割合の胃癌が内視鏡検査で偽陰性となっているのが現実である.
胃癌の見逃しの一因として,胃内の不充分な観察が挙げられる.胃は屈曲した広い管腔を持つ臓器であり,胃内をすべて観察したつもりでも盲点が存在し,胃癌の見逃しにつながる.特に接線方向となる体部の前後壁および,近接像となり視野がとりにくい胃角から前庭部の後壁は観察が不良となりやすい.また,噴門小彎は見下ろしで接線方向となり,見上げでは内視鏡に隠れて観察不良となる
3).さらに,体部大彎は空気量が少ないと,ひだの間に病変が隠れてしまうため,よく伸展して観察する必要がある.
胃の内視鏡観察方法と早期胃癌の発見に関しての研究はなく,観察方法は施設や検査医により相違があるのが現状であるが,早期胃癌の偽陰性を防ぐには,胃内をくまなく系統立って観察する必要がある.Yaoは系統立った観察法の1つとして,systematic screening protocol for the stomach(SSS)を提唱している
4).また,胃癌の発見率はトレーニングにより改善するという報告もあり
5),6),内視鏡検査を行う医師には,充分なトレーニングが求められる.
今回の文献抽出に関しては,databaseはPubMedおよび医学中央雑誌を用いた.PubMedでは検索式 “stomach neoplasms/diagnosis”[majr] AND (“gastric mucosa/pathology” OR observ*[tiab]) AND (endoscopy OR endoscopic) AND methods[sh] Filters: Humans; English; Japaneseをかけた結果176文献がヒットし,医学中央雑誌では検索式((((胃腫瘍/TH or 胃腫瘍/AL)) and (((SH=診断的利用,診断,画像診断,X線診断,放射性核種診断,超音波診断) or (診断/TI)))) and ((観察/TH or 観察/AL)) and ((内視鏡/TH or 内視鏡/AL)) and (((胃粘膜/TH or 胃粘膜/AL)) and (SH=病理学))) and (PT=会議録除く)をかけた結果58文献がヒットした.その中で本ステートメントに沿った文献を絞り込み,さらにハンドサーチにて文献を追加した.
ステートメント:2-6
現在,早期胃癌の発見に対する,画像強調観察の有用性が検討されている.
修正Delphi法による評価 中央値:8,最低値:6,最高値:9
推奨の強さ:決定できない エビデンスレベル:D
解説:
内視鏡観察は大きく,①通常観察(白色光),②画像強調観察,③拡大内視鏡観察,④顕微内視鏡観察,⑤断層イメージングに分類される.さらに画像強調観察は,画像強調効果を得る方法によって,デジタル法,光デジタル法,色素法に亜分類される(Figure 1)
1)~3).
色素法の中でコントラスト法のインジゴカルミンは,以前より早期胃癌の内視鏡診断に用いられている.インジゴカルミンは粘膜表面の陥凹部に留まることで,粘膜の微細な凹凸を強調し,病変の視認性を向上させる
4).しかし,インジゴカルミンが早期胃癌の拾い上げに有用であることを示したランダム化比較試験はない.
光デジタル法の狭帯域光法は,特定の帯域に制限した波長の照射光を用いる観察法であり,NBIやレーザー光を光源としたBLI(blue laser imaging)とLCI(linked color imaging)がある.海外から非拡大NBI観察と白色光通常観察の多施設ランダム化比較試験の報告があり,腸上皮化生の検出率は非拡大NBI観察で有意に高かったが,胃癌の検出には有意差はなかった
5).日本でも同様の多施設ランダム化比較試験が現在進行中である(UMIN000014503).また,BLI,LCIに関しても早期胃癌の拾い上げに関するランダム化比較試験が現在進行中である(UMIN 000011324,UMIN000023863).
光デジタル法の蛍光法に分類されるAFI(autofluorescence imaging)は励起光を粘膜に照射することで生じる自家蛍光を撮像して,疑似カラー表示する観察法である
6).白色光通常観察で見落としやすい平坦な病変や色調変化に乏しい病変で有用であるが,炎症性変化や再生性変化も疑陽性所見として拾い上げてしまい,AFI単独の臨床的有用性は低い
7).白色光通常観察にAFIとNBI拡大観察を併用することにより,胃腫瘍の診断精度が向上するという報告もある
8).
現状では胃の内視鏡観察は白色光が基本であり,早期胃癌の拾い上げに対する画像強調観察の有用性については,現在のところ明らかではない.また,画像強調観察はすべての施設で使用できるわけではなく,使用できる施設は限定されている.
今回の文献抽出に関しては,databaseはPubMedおよび医学中央雑誌を用いた.PubMedでは検索式“stomach neoplasms/diagnosis”[majr] AND (enhanced OR laser OR “linked color” OR autofluorescen* OR “narrow band”) AND “sensitivity and specificity” Filters: Humans; English; Japaneseをかけた結果72文献がヒットし,医学中央雑誌では((((胃腫瘍/TH or 胃腫瘍/AL)) and (((SH=診断的利用,診断,画像診断,X線診断,放射性核種診断,超音波診断) or (診断/TI)))) and ((内視鏡法/TH or 内視鏡法/AL)) and (強調/AL or (蛍光/TH or 蛍光/AL) or (レーザー/TH or レーザー/AL)) and ((感度と特異度/TH or 感度と特異度/AL))) and (PT=会議録除く)の検索式をかけた結果22文献がヒットした.その中で本ステートメントに沿った文献を絞り込み,さらにハンドサーチにて文献を追加した.
[Ⅲ]早期胃癌の質的診断(癌と非癌の鑑別診断)
ステートメント:3-1
早期胃癌の質的診断に画像強調観察は有用であり,行うことを提案する.
修正Delphi法による評価 中央値:8,最低値:7,最高値:9
推奨の強さ:2 エビデンスレベル:A
解説:
病変を拾い上げたあとには,病変の癌と非癌の質的診断が必要となる.画像強調観察は,白色光通常観察で視認が困難な所見を認識できるため,質的診断に使用されることが多い.
インジゴカルミンによる色素法(コントラスト法)は,早期胃癌の診断に以前から用いられている
1).インジゴカルミンの散布により,病変周囲のひだや病変境界の所見,粘膜模様の変化が明瞭となり,癌と非癌の鑑別にしばしば使用される.しかし,インジゴカルミン色素法が癌と非癌の鑑別に有用であることを示したランダム化比較試験はない.
狭帯域光法であるNBIは,拡大観察の併用で早期胃癌の質的診断に有用であることが複数報告されている
2)~12).Ezoeらは1cm以下の胃陥凹性病変を対象に癌と非癌を鑑別する多施設ランダム化比較試験を行い,胃小陥凹性病変に対するNBI拡大観察の正診率は90.4%,感度60.0%,特異度94.3%で,白色光通常観察と比較して正診率,特異度が有意に優れていることを報告している
5).しかし,粘膜表層に非癌上皮が残存する未分化型癌はNBI拡大観察による診断が困難である
6).隆起性病変でもNBI拡大観察は,癌と腺腫の鑑別に有用であると報告されている
8)~11).白色光通常観察とNBI拡大観察の質的診断能を比較したメタアナリシスではNBI拡大観察の有用性が示されている
12).
日本消化器内視鏡学会,日本消化器病学会,日本胃癌学会の3学会は合同で,早期胃癌の拡大内視鏡診断アルゴリズム(magnifying endoscopy simple diagnostic algorithm for gastric cancer:MESDA-G)を提唱した.MESDA-Gでは,病変と非病変との間の境界線(demarcation line)と,胃粘膜の微小血管構築像(microvascular pattern:V)と表面微細構造(microsurface pattern:S)の整・不整を評価するVS classification systemが,早期胃癌の診断に用いられる(Figure 2)
4).
また,狭帯域光法であるBLI拡大観察もNBI拡大観察と同様に早期胃癌の質的診断に有用であるという報告がある
13),14).
以上のように,画像強調観察を併用した拡大観察は,早期胃癌の質的診断に有用で,optical biopsyとして,生検を減少させる効果が期待される
6),15).しかし,現時点では画像強調観察が可能な施設には制限があり,今後の普及が望まれる.
ガイドライン作成委員会推奨決定会議では,画像強調観察は早期胃癌の質的診断に有用であるという強いエビデンスがあるが,観察可能な施設には制限があるため,推奨度は2とした.
今回の文献抽出に関しては,databaseはPubMedおよび医学中央雑誌を用いた.PubMedでは検索式“stomach neoplasms/diagnosis” AND (“image enhancement” OR “white light”) AND (qualitative OR magnifying OR “blue laser” OR “linked color” OR autofluorescence OR “narrow band”) Filters: Humans; English; Japaneseをかけた結果53文献がヒットし,医学中央雑誌では(((胃腫瘍/TH or 胃腫瘍/AL)) and ((画像強調/TH or 画像強調/AL)) and ((質的研究/TH or 質的研究/AL) or 質的/AL)) and (PT=会議録除く)の検索式をかけた結果24文献がヒットした.その中で本ステートメントに沿った文献を絞り込み,さらにハンドサーチにて文献を追加した.
[Ⅳ]胃癌の治療方針を決定する診断
ステートメント:4-1
治療前の精密内視鏡検査は,早期胃癌患者の治療方針を決定するために必要である.
修正Delphi法による評価 中央値:9,最低値:7,最高値:9
推奨の強さ:1 エビデンスレベル:D
解説:
「胃癌治療ガイドライン第5版」によると,早期胃癌と診断された時点で内視鏡治療もしくは外科治療を行うことが推奨されている
1).内視鏡治療は外科的治療と比較して侵襲が少なく,胃が温存されることからQOLが良好であるため,リンパ節転移の可能性が極めて低い可能性のある病変に対しては原則,内視鏡治療を行う
1).このような観点から,EMR/ESDの絶対適応病変は,「2cm以下のUL0の肉眼的粘膜内癌(cT1a),分化型癌」,ESDの絶対適応病変は,「①2cmを超えるUL0のcT1a,分化型癌,②3cm以下のUL1のcT1a,分化型癌,③2cm以下のUL0のcT1a,未分化型癌」である
2)~5).したがって,内視鏡治療の適応の決定には,(1)組織型,(2)大きさ,(3)深達度,(4)潰瘍合併の有無を診断する必要がある.特に,切除標本の側方断端に癌細胞が陽性となると非治癒切除となるため,正確な浸潤範囲の診断が必要である
6)~11).このような治療前の精密内視鏡検査は,胃癌発見と同時に行うか,発見時の内視鏡診断が不充分であれば,別の機会に改めて専門医師によって行う.精密内視鏡検査の介入が治療の根治性や胃癌死亡率に与える影響は報告がなく不明であるが,正確な内視鏡診断は,内視鏡治療の根治性,患者のQOL,医療経済性の向上に貢献すると推測される.
今回の文献抽出に関しては,databaseはPubMedを用いて検索式 (“stomach cancer” OR “stomach neoplasms” OR “gastric cancer”) AND (detection OR diagnosis) AND (“histological type” OR burden OR depth OR invasion OR cicatrix)をかけた結果,英文30文献がヒットし,さらにハンドサーチにて文献を追加した.
ステートメント:4-2
癌の組織型の診断は,内視鏡診断および鉗子生検による病理組織診断により総合的に行う.
修正Delphi法による評価 中央値:9,最低値:8,最高値:9
推奨の強さ:2 エビデンスレベル:D
解説:
日本では古くから分化型と未分化型の早期胃癌の内視鏡像の形態的差違が報告され
1),2),臨床で用いられてきた.肉眼型では隆起型(0-Ⅰ),表面隆起型(0-Ⅱa)の病変は分化型癌の頻度が高く,未分化型癌の頻度は低い
2).表面陥凹型(0-Ⅱc)の病変について,未分化型癌は陥凹境界が明瞭で断崖状を呈し,陥凹内に大小不同の顆粒が認められ
2),褪色調を呈する
1).また,ひだ集中を伴った病変では,粘膜ひだの急なヤセや中断が認められる
2).分化型癌は発赤調を呈することが多く
1),3),4),陥凹面は凹凸の変化に乏しく,陥凹境界は微細な棘状を呈し,粘膜ひだの急なヤセや中断は少なく,辺縁隆起を伴うものが多い
2).また,分化型癌は病変周囲が腸上皮化生粘膜,未分化型癌は胃固有腺粘膜であることが多いため,病巣の背景粘膜の性状の診断も,組織型診断の一助となる
2).
近年はNBI拡大内視鏡像についても分化型,未分化型早期胃癌の特徴が報告されている.分化型癌では明瞭なdemarcation lineの内側にirregular micrivascular patternを認め
5),網目状の微細血管模様を呈する頻度が高い
6)と報告されている.一方,未分化型癌では癌部周囲のregular subepithelial capillary network patternが減少・消失
5),irregular corkscrew pattern
6)~8),absent microsurface pattern
7),9)を呈する頻度が高いと報告されている.
しかし,上述の報告はいずれも単施設の後ろ向き研究であり,内視鏡による組織型診断のエビデンスレベルはいまだ充分高いとはいえない.また,分化型と未分化型が混在する癌の内視鏡による組織型診断は,現状では限界がある.内視鏡検査は病巣全体を診断できるメリットがある.一方,鉗子生検による病理組織診断は病巣内の一点の診断で必ずしも病巣全体の組織型を反映しているとは限らない.したがって,癌の組織型の診断は,内視鏡診断および鉗子生検による病理組織診断を総合的に判断して診断を行う必要がある.
今回の文献抽出に関しては,databaseはPubMedを用いて検索式 “stomach neoplasms/pathology”[majr] AND early AND (endoscopy OR endoscopic OR gastroscopy) AND (histolog* OR histopathol*) Filters: Humans; English; Japaneseをかけた結果,英文320+和文16文献がヒットし,そのなかで本ステートメントに沿った文献を絞り込み,さらにハンドサーチにて文献を追加した.
ステートメント:4-3
内視鏡検査でおおよその病変の大きさの推定は可能であるが,最終的には切除標本の病理組織学的所見が判明した後に大きさの判定をするという前提で診断を行う.
修正Delphi法による評価 なし(background knowledge)
エビデンスレベル:D
解説:
早期胃癌を対象として大きさの診断精度を系統的に検討した報告はない.実際の臨床では,内視鏡スコープ径や生検鉗子の開口径と病変との比較,メジャーディスクやメジャー鉗子を用いた計測により,病変の大きさが推定されている
1)~5).しかし,生検鉗子を用いた潰瘍モデルの測定では病変サイズの26.5±5.7%~41.8±3.3%の過小評価であった
2).また,内視鏡的な大きさの計測は,異なる内視鏡医間のみならず,同じ内視鏡医が複数回計測した場合にも測定値のばらつきが認められ
5),内視鏡的な目視による大きさの計測は観察距離や角度により誤差があることが指摘されている
1)~5).内視鏡治療の適応規準となる病巣径は,病理組織学的所見に基づいて導かれている.したがって,内視鏡治療を行うかどうかの適応は内視鏡で推定した大きさによって決定することが原則であるが,最終的な病変の大きさの判定は切除標本の病理組織学的な大きさで行うことを前提とする.
今回の文献抽出に関しては,databaseはPubMedを用いて検索式 “stomach diseases”[mesh] AND (endoscopy OR endoscopic OR gastroscopy) AND (measurement OR measuring OR size) NOT (resection OR surgery[sh]) Filters: Humans; English; Japaneseをかけた結果,英文752文献がヒットし,そのなかで本ステートメントに沿った文献を絞り込み,さらにハンドサーチにて文献を追加した.
ステートメント:4-4
早期胃癌の深達度診断は原則として白色光通常観察により行う.白色光通常観察により診断が困難な場合には,超音波内視鏡(endoscopic ultrasonography:EUS)が補助的診断として有用な場合がある.
修正Delphi法による評価 中央値:8,最低値:7,最高値:9
推奨の強さ:2 エビデンスレベル:C
解説:
早期胃癌の治療方針の決定には,粘膜(cT1a)癌と粘膜下層(cT1b)癌の深達度の鑑別診断が必要である.深達度診断に最も多く行われている検査法は白色光通常観察である.白色光通常観察による粘膜下層から0.5 mm以深の癌(pT1b2)の指標として,集中するひだの肥大や癒合
1),2),30 mm以上の腫瘍径
3),著明な発赤
3),表面不整
1),3),4),辺縁隆起
2),粘膜下腫瘍様の辺縁隆起
3),4),台状挙上所見
5),6)などがあり,これらを用いたcT1b2の陽性的中率は63~89%程度
6)~9)と報告されている.早期胃癌の深達度診断に対するEUSの有用性については多数の報告がある
7)~11).しかし,EUSと通常内視鏡の深達度診断の正診率を比較した観察研究(非ランダム化比較試験)では,Choiらは通常内視鏡がEUSより優れていたこと(73.7% vs. 67.4%,P<0.001)
2),Yanaiらは正診率に有意な差がなかったこと(63% vs. 71%,no significance)
12)を報告している.したがって,早期胃癌の深達度診断は,原則として通常内視鏡検査により行い,白色光通常観察でcT1bと診断された病変に対して,補助的にEUSを用いることが提案される
4),6),7).
今回の文献抽出に関しては,databaseはPubMedを用いて検索式“stomach neoplasms”[mesh] AND early AND (“Neoplasm Invasiveness” OR invasi* OR depth) AND (endoscopy OR endoscopic) Filters: Humans; English; Japaneseをかけた結果,英文887+和文124文献がヒットし,そのなかで本ステートメントに沿った文献を絞り込み,さらにハンドサーチにて文献を追加した.
ステートメント:4-5
早期胃癌に合併した活動性潰瘍,潰瘍瘢痕の有無は,原則として白色光通常観察で診断を行う.
修正Delphi法による評価 中央値:8,最低値:8,最高値:9
推奨の強さ:2 エビデンスレベル:D
解説:
内視鏡治療の適応決定のためには,術前に潰瘍(UL)の有無を診断する必要がある.ULの有無は,原則として通常内視鏡で,癌巣の中に明らかな活動性潰瘍または潰瘍瘢痕の所見があるかどうかで行う.活動性潰瘍とは,浅いびらんを除く,粘膜が欠損した深さのある白苔を伴った開放性潰瘍を指す.癌巣内の治癒期,瘢痕期の潰瘍の形態的特徴はひだ集中所見であるため,SM深部浸潤に伴うひだ集中所見と鑑別する必要がある
1).白色光を用いた通常観察に色素法(コントラスト法)を併用すると,微細なひだ集中所見をより明瞭に観察することが可能である
1)~3).また,EUSはULの有無の診断のみでなく,ESDの困難度に関連するULの深度の診断にも有用と報告されている
4).
今回の文献抽出に関しては,databaseはPubMedを用いて検索式 “stomach neoplasms”[majr] AND (“stomach ulcer” OR cicatrix OR scar) AND (endoscopy OR endoscopic) AND pathology[sh] Filters: Humans; English; Japaneseをかけた結果,英文274+和文83文献がヒットし,そのなかで本ステートメントに沿った文献を絞り込み,さらにハンドサーチにて文献を追加した.
ステートメント:4-6
画像強調内視鏡は浸潤範囲診断に有用である.
修正Delphi法による評価 中央値:9,最低値:8,最高値:9
推奨の強さ:1 エビデンスレベル:B
解説:
早期胃癌を外科的あるいは内視鏡的に切除する上で,側方断端陽性を回避して局所根治を得るためには,厳密な浸潤範囲診断が必要である
1)~3).早期胃癌の浸潤範囲診断には従来白色光通常観察とインジゴカルミン色素法が広く行われてきた.インジゴカルミン色素法は癌の浸潤に伴う胃粘膜上皮の表面構造の変化を明瞭化するため,癌と非癌粘膜の境界を診断するために有効である
4),5).しかしながら,インジゴカルミン色素法は早期胃癌の18.9~21.6%
6)~9)の症例で全周の境界診断が不可能であったと報告されている.したがって,現代の高解像度内視鏡を用いてもインジゴカルミン色素法による浸潤範囲診断の限界例は約2割程度に存在すると推測される.
近年,NBI拡大観察による,VS classification system
10)が早期胃癌の浸潤範囲診断についても高い診断能をもち
6)~9),11),12),インジゴカルミン色素法に対する上乗せとしてNBI拡大観察を行うと,インジゴカルミン色素法で診断が不可能であった病変の72.6%で浸潤範囲の正診が可能となったことが報告されている
13).早期胃癌の浸潤範囲診断に対するインジゴカルミン色素法とNBI拡大観察の正診率を直接比較した報告では,ESD例のみを対象とした単施設のランダム化比較試験ではNBI拡大観察が有意に良好であったが(89.4 % vs. 75.9 %,P = 0.007)
6),ESD例と外科的切除例を対象とした多施設のランダム化比較試験ではNBI拡大観察の優越性は示されなかった(88.0% vs. 85.7%,P =0.63)
13).
今回の文献抽出に関しては,databaseはPubMedを用いて検索式“stomach neoplasms”[mesh] AND early AND (“neoplasm invasiveness” OR invas* OR extent OR margin OR horizontal) AND (endoscopy OR endoscopic OR gastroscopy) NOT (surgery[sh] OR resection PR dissection) Filters: Humans; English; Japaneseをかけた結果,英文265+和文182文献がヒットし,そのなかで本ステートメントに沿った文献を絞り込み,さらにハンドサーチにて文献を追加した.
[Ⅴ]内視鏡検査後のリスク層別化
ステートメント:5-1
萎縮,腸上皮化生,鳥肌,皺襞腫大,胃黄色腫が胃癌のリスクと関連する内視鏡所見である.
修正Delphi法による評価 なし(background knowledge)
エビデンスレベル:B
解説:
萎縮と腸上皮化生は分化型胃癌のリスクとして古くから知られているが,その研究の多くは組織所見による評価
1)~4)であり,内視鏡所見と胃癌リスクの関連性を評価したものは少ない.Uemuraら
5)は1,246例のH. pylori感染者および280例の未感染者を前向きに平均7.8年間内視鏡観察した結果,感染者から36例の胃癌が発生し,高度の萎縮(内視鏡による診断),胃体部優勢胃炎,腸上皮化生(組織による診断)が有意なリスク因子であったと報告した.木村・竹本分類で評価した内視鏡的胃粘膜萎縮の広がりと胃癌リスクとの関連(相対危険度)は,「萎縮なし~軽度」を1とした場合,「中等度萎縮」では1.7(95%CI:0.8~3.7),「高度萎縮」では4.9(95%CI:2.8~19.2)と萎縮の進展とともに高かったことを報告している.Masuyamaら
6)は,内視鏡検査を施行した27,777例(早期胃癌272例および進行胃癌135例を含む)を登録し,内視鏡的胃粘膜萎縮の程度(C1〜O3)と胃癌の有病率について後向きに検討している.その結果,C1では胃癌有病率0%(0/4,506),C2 0.25%(9/3,660),C3 0.71%(21/2,960),O1 1.32%(75/5,684),O2 3.70%(140/3,780)およびO3 5.33%(160/3,004)であり,Uemuraらの研究と同様に内視鏡的胃粘膜萎縮の広がりとともに胃癌の頻度は有意に高くなったと報告している.韓国からは内視鏡検査が施行された60,261例のうち,発見胃癌75例の内視鏡所見を後向きに検討した結果,内視鏡所見としての萎縮(OR=8.47,95%CI:4.65~15.40,P<0.001)と腸上皮化生(OR=5.80,95%CI:3.24~10.35,P<0.001)が多変量解析にて独立した危険因子であったことが報告されている
7).Sugimotoら
8)は,H. pylori胃炎932例,早期胃癌189例および除菌後胃癌79例を対象に「胃炎の京都分類」
9)の内視鏡スコアに準じて,萎縮・腸上皮化生・皺襞腫大・鳥肌・びまん性発赤と胃癌との関連性を後向きに比較検討している.その結果,早期胃癌における萎縮および腸上皮化生のスコアはH. pylori胃炎より有意に高値を示し,多変量解析にて腸上皮化生(OR=4.453,95%CI:3.332~5.950,P<0.001)と男性が有意なリスク因子であったと報告している.
Kamadaら
10)は,29歳以下の鳥肌胃炎と性・年齢をマッチさせたH. pylori胃炎における胃癌のリスクを後向きに比較検討している(症例対照研究).鳥肌胃炎例からの胃癌発見率は4.7%(7/
150)で,対照群の0.08%(3/3,939)に比して有意に高く(オッズ比 64.2),若年者の鳥肌胃炎が未分化型胃癌と強い関連性があることを示唆している.Watanabeら
11)は前向きコホート研究において,内視鏡検査における皺襞腫大型胃炎の胃癌発生率(1,749人/人口10万・年)は対照(皺襞腫大なし)の発生率(43人/人口10万・年)に比して有意に高率であったと報告している.また,胃X線検査を用いた報告ではあるが,Nishibayashiら
12)は胃体部の皺襞幅が7mm以上のものは4mm以下と比較し,胃癌のリスクが35.5倍高く,胃体部のびまん型胃癌のリスクであることを指摘し,Yamamichiら
13)も同様に皺襞腫大型胃炎1,253例を3年間前向き観察した結果,5例の胃癌が発生し,皺襞腫大は胃癌リスクを予測する因子であることを報告している.
Sekikawaら
14)は,内視鏡検査が施行された1,823例を前向きに内視鏡で経過観察し,胃黄色腫の有無と胃癌の発生との関連性について検討している.その結果,研究期間中に対象例から早期胃癌が29例発生し,多変量解析にて内視鏡的開放型萎縮(OR=7.19,95%CI:2.50~20.83,P<0.0001)および黄色腫(OR=5.85,95%CI:2.67~12.82,P<0.0001)がそれぞれ独立した胃癌発生のリスク因子であったと報告している.
以上のことから,胃癌のリスクと関連する内視鏡所見は,萎縮,腸上皮化生,鳥肌,皺襞腫大,胃黄色腫である.内視鏡診療においては,これらの所見が胃癌のリスク因子であることを充分に認識した上で検査を行うことが重要である.ただし,腸上皮化生の内視鏡診断について特異型は白色光での診断が可能であるが,非特異型は白色光での診断が困難で,画像強調観察,特にNBI
15)やLCI
16)が診断に有用である.
欧州では前庭部と胃体部の定点生検組織を用いて組織学的萎縮の程度の組み合わせから胃癌リスクを総合的に評価するOLGA(operative link on gastritis assessment)分類
17)や萎縮の換わりに組織学的腸上皮化生の程度から胃癌リスクを同様に評価するOLGIM(operative link on gastric intestinal metaplasia assessment)分類
18)が提唱されている.最近は画像強調観察法による内視鏡所見が組織によるリスク評価とよく相関することが報告されている
19).内視鏡所見により胃癌のリスク層別が可能であれば,複数の生検に伴う費用や出血リスクなどを低減できる点が有利である.内視鏡による組織学的萎縮・腸上皮化生の診断能という観点からは内視鏡所見と組織所見の対比が重要と考えられるが,本ステートメント作成においては,すべて内視鏡所見と胃癌発生との関連性を検討した文献を利用した.
なお,本ステートメントはbackground knowledgeのため推奨度は評価していない.
今回の文献抽出に関しては,databaseはPubMedを用いて検索式 (“stomach neoplasms/diagnosis”[majr] OR gastritis[majr]) AND (“risk stratification” OR “risk assessment”) AND (endoscopy OR endoscopic) をかけた結果,105文献がヒットし,そのなかで本ステートメントに沿った文献を絞り込み,さらにハンドサーチにて文献を追加した.
ステートメント:5-2
内視鏡的H. pylori未感染所見および胃粘膜萎縮により胃癌リスク層別化は可能であり,この2項目による層別化を行うことを提案する.
修正Delphi法による評価 中央値:9,最低値:7,最高値:9
推奨の強さ:2 エビデンスレベル:C
解説:
現在,胃癌のリスク層別化は主に血清抗H. pylori抗体価と血清ペプシノゲン値の組み合わせ
1)により行われているが,内視鏡検査後には胃癌リスクに関連する内視鏡所見を診断できるため,それらによるリスク層別が可能であろうか.ステートメント5-1にて萎縮,腸上皮化生,鳥肌,皺襞腫大および胃黄色腫が胃癌のリスクと関連することが示された.木村・竹本分類は網目状・樹枝状血管の透見と粘膜の褪色調変化から内視鏡的に胃粘膜萎縮の広がりを評価する.ただし,血管透見像は内視鏡検査時の送気の程度により左右され客観性を欠くという問題点も指摘されている.ステートメント5-1に示したようにUemuraら
2)やMasuyamaら
3)の報告からは,木村・竹本分類を用いてC1~C2(軽度萎縮),C3~O1(中等度萎縮),O2~O3(高度萎縮)と胃粘膜萎縮の程度を評価することで胃癌リスクの層別化がある程度可能と考えられる.腸上皮化生による胃癌リスクの層別化に関しては,白色光における内視鏡観察では腸上皮化生の正確な診断ができないため,内視鏡所見から評価した報告はなく,組織学的所見をもとに検討した報告
4)~7)のみである.さらに萎縮と腸上皮化生の組み合わせによるリスク層別化の報告もない.しかし,画像強調観察であるNBI
8),9)やLCI
10)を用いると腸上皮化生を良好に診断することができるため,腸上皮化生の内視鏡所見から胃癌リスクを層別化できる可能性が示唆され,今後の検討が待たれる.
鳥肌
11),皺襞腫大
12)および胃黄色腫
13)に関しては,個々の所見の有無と胃癌リスクとの関連性の評価はあるが,これらを胃癌のリスク層別化に用いた報告はない.一方,RAC(regular arrangement of collecting venules)は胃体部に集合細静脈が規則的に配列する像で,この所見はH. pylori未感染,すなわち胃癌リスクの極めて低い所見として報告
14)されている.以上から,H. pylori未感染所見と内視鏡的胃粘膜萎縮(木村・竹本分類)を用いることにより,胃癌低リスク群と高リスク群にリスク層別は可能と推測され,今後充分なレベルのエビデンスの作成が期待される.
今回の文献抽出に関しては,databaseはPubMedを用いて検索式 (“stomach neoplasms”[majr] OR gastritis[majr]) AND (endoscopy OR endoscopic) AND findings AND “risk factors” AND “gastric mucosa/pathology”)をかけた結果,188文献がヒットし,そのなかで本ステートメントに沿った文献を絞り込み,さらにハンドサーチにて文献を追加した.
[Ⅵ]早期胃癌のサーベイランス
ステートメント:6-1
胃癌発生のリスク因子(臨床所見・内視鏡所見)のある症例にはサーベイランス内視鏡検査が推奨される.
修正Delphi法による評価 中央値:9,最低値:6,最高値:9
推奨の強さ:1 エビデンスレベル:B
解説:
スクリーニングとは対象集団への共通検査によって,目標疾患の罹患が疑われるか,あるいは発症が予測される対象者をその集団の中から選別することである.一方,サーベイランスは,疾病の発生を継続的に調査・把握して疾病の予防と管理を図るシステムを示す.
検査において疾患を発見する効率は対象の疾患リスク(検査前確率)に大きく関連する.胃癌発生に関連するリスク因子には,臨床所見(ステートメント1-1)とともにいくつかの内視鏡所見(ステートメント5-1)があり,内視鏡検査後には両所見から対象患者の胃癌発生のリスクを把握することができる.内視鏡検査後,胃癌発生の危険因子(臨床所見・内視鏡所見)のある例には継続的な内視鏡検査(サーベイランス内視鏡)が推奨される.日本の内視鏡検査受検者のうちH. pylori感染者の割合は,1970年代に74.7%であったものが2010年代には35.1%にまで低下している
1).また,それに伴って胃癌発生の高リスク因子である胃体部粘膜の萎縮と腸上皮化生の頻度は,1970年代にはそれぞれ82%と32%であったものが,2010年代には19%と4.7%にまで低下している
1).すなわち,現在の日本人は従来のようにすべてが胃癌の高リスク群ではなく,高リスク群と低リスク群が混在した集団であることが分かる.したがって,高リスク群を絞り込んで適切な間隔でのサーベイランス内視鏡を推奨することは,胃癌発見を効率化するとともに内視鏡検査に関連する害(コスト・負担・偶発症リスク)を全体として低減させうる.
胃癌高リスク群に対するサーベイランス内視鏡の有効性とその適切な間隔を直接検討した高レベルのエビデンスはない.日本や韓国では,従来H. pyloriの感染割合が高く,感染者の多く(≧70%)に胃癌の高リスク病変である萎縮や腸上皮化生を認めるため
1),全国民に対してスクリーニング検査を行うことが推奨されてきた.このような胃癌高発生国におけるスクリーニング内視鏡の間隔(検診間隔)と胃癌発生の関連性についての検討は,高リスク例に対するサーベイランス内視鏡の有効性と適切な検査間隔の参照になると推測される.内視鏡検査の間隔と胃癌死亡減少効果について,韓国の国家胃癌スクリーニング対象例の症例対照研究では内視鏡検診の受検により47%の死亡率減少効果を認めたが,40~69歳では検査間隔が4年以上あっても有意な死亡率減少効果があった
2).日本の症例対照研究では,2~4年以内に内視鏡検査を受けていた例で30%の死亡率減少効果を認めたが,3年以内の受検者でのみ効果が有意であった
3).内視鏡検査の間隔と発見された胃癌のステージについて,韓国の横断研究では検査間隔が1~3年までの例ではStage Ⅰの割合が70%程度でほぼ変わらなかったのに対して4年以上の例では60%程度と有意に少なかったことが
4),また内視鏡検査の毎年受検例では粘膜内癌の割合が75%であったのに比べて2年ごと受検例では57%と有意に低かったことが報告されている
5).以上から,概して胃癌高リスク群に対して胃癌死亡抑制効果からは3年程度までの検査間隔が許容されるが,内視鏡治療適応となる早期の胃癌発見を目的とした場合の検査間隔はより短いほうが好ましいことが示唆される.ただし最適なサーベイランス内視鏡の間隔については,検査の目的や費用対効果の観点から今後さらに詳細な検討が必要である.
日本のコホート研究(1,603例の消化性潰瘍,胃ポリープ,機能性ディスペプシアを平均7.8年間追跡)では,H. pylori感染のない280例からは胃癌発生がなかったことが報告されている
6).また胃癌3,161例の横断研究で,対象例のうちH. pylori未感染例の占める割合は0.66%であったとされており
7),胃癌高発生国である日本においてもH. pylori未感染例における胃癌の発生は極めて低いことが分かる.内視鏡検査の処理能力・コスト・負担・潜在的な偶発症リスクを考慮すると,器質的疾患のないH. pylori未感染例に対するサーベイランス内視鏡は推奨されない.ただし,これは有症状時の内視鏡検査や検診としてスクリーニング検査を受けることを妨げるものではない.また,H. pylori感染以外の胃癌リスク因子(自己免疫胃炎,EBウイルス感染,遺伝性びまん性胃癌
8)など)について今後の検討が必要である.
早期胃癌内視鏡治療後例は異時性の多発胃癌が高頻度に発生(累積3年発生割合:5.9%)し,その発生は5年以上経過した後も変わらないため
9),長期にわたるサーベイランス内視鏡が必須である.日本のコホート研究で1年ごとのサーベイランス内視鏡により,その大半(95%以上)が内視鏡切除で根治可能であったと報告されているが
9),同施設からのその後の多数例の検討では異時性多発胃癌による死亡例も発生したことが報告されており,注意深い検査が必要である
10).
今回の文献抽出に関しては,databaseはPubMedおよびCochlanを用いて検索式(“stomach cancer” OR “stomach neoplasms” OR “gastric cancer”) AND (endoscopy OR endoscopic) AND surveillance AND (period OR interval)をかけた結果,61件がヒットした.そのなかで本ステートメントに沿った文献15編を絞り込み,さらにハンドサーチにて文献を追加した.
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