2019 年 61 巻 6 号 p. 1352
【背景】内視鏡的乳頭切除術(Endoscopic papillectomy:EP)は,良性疾患のみならず早期乳頭部癌に対しても施行されている.しかし,早期乳頭部癌に対するEPの有用性については,十分な検証がなされておらずコンセンサスが得られていない.
【対象と方法】1999年5月から2016年12月の間に,乳頭部腫瘍と診断されEPを施行した177例を対象に,臨床像と病理組織学的データを遡及的に検討した.
【結果】EPを施行した177例中,腺腫は136例,腺癌が35例であり,腺癌の内訳はTis-T1a 27例,T1b 4例,T2 4例であった.Tis-T1aの大きさは平均14.1mm,T1bは平均17.0mmであった.病理組織学的には,T1bの50%が中分化型であったが,Tis-T1aでは96.3%が高分化型乳頭腺癌であり,T1bでは1例(25%)にリンパ管侵襲を認めたが,Tis-T1aでは認めなかった.最長5年間の経過観察をしているが,EP後の乳頭部癌再発を認めなかった(Tis-T1aが平均48.5カ月間,T1b平均は26.5カ月間).
【結語】T1a乳頭部癌に対するEPは,有用且つ治癒が期待できる治療法と考えられた.今後,大規模かつ長期間の前向き検討が必要と考えられる.
現時点で早期乳頭部癌に対するEPを推奨するガイドラインはない.今回の検討では乳頭部粘膜内に癌が留まるT1aは,リンパ管脈管侵襲やリンパ節転移はなく,長期間の経過観察でも再発例を認めていない.Yoonら 2)も,Tisとfocal T1乳頭部癌ではリンパ管脈管侵襲,リンパ節転移,膵管胆管内進展のいずれも認めなかったと報告しており,T1aに対するEPは治癒可能な治療法となる可能性がある.
本検討におけるEPの適応は,①一括切除可能な4cm未満の大きさであり,②生検で腺腫あるいは腺癌と診断されており,③EUSやIDUSで膵管や胆管への腫瘍進展や腫瘍浸潤がなく,④潰瘍形成,砕けやすく脆いといった進行癌を示唆する内視鏡所見を認めない病変である.
一括切除率は腺腫77.9%,腺癌83.9%であり,追加切除やアルゴンプラズマ凝固などの内視鏡治療を併用することにより,完全切除率は腺腫99.3%,腺癌100%と両者に有意差は認めなかった.さらに,EPに伴う出血,膵炎,胆管炎といった偶発症を,腺腫はそれぞれ22.1%,11.0%,2.9%に,腺癌では19.4%,9.7%,3.2%に認めたが,いずれの発症率も両者に有意差はなく,腺癌に対するEPの安全性は腺腫に対するEPと変わらないと考えられた.
腺癌に対するEPの問題点として術前診断と最終診断の不一致が挙げられる.本検討では術前に病変の1-2カ所から生検を施行していたが,術前診断と最終診断が一致していたのは81.9%(145/177例)であった.25例は過少診断,7例が過剰診断となっており,過形成や炎症と最終診断された6例に対するEPは過剰治療と考えられた.
現時点ではT1aとT1bを確実に診断できる画像診断法が無く,複数の生検を施行しても腺腫と腺癌の正診は困難である.そのため,腺腫に対するEPは治療法として確立しているが,早期乳頭部癌に対するEPは“total biopsy”に位置付けられている.
著者らは今回の検討を踏まえ,T1a乳頭部癌に対するEPは“total biopsy”として最終病理診断が確定できるだけでなく,腺腫と同様に治癒も期待出来る“staging ampullectomy”となりうるとしており,今後多施設共同の前向き検討が行われ早期乳頭部癌に対するEPの適応基準が明確になることを期待する.