2019 年 61 巻 8 号 p. 1538-1546
症例は41歳,男性,吐血で発症し行った上部消化管内視鏡検査で胃穹窿部後壁の粘膜下腫瘍様隆起からの噴出性出血を認めた.内視鏡的静脈瘤結紮術用Oリングを用い結紮止血後行った腹部造影CTで,大動脈から分枝する拡張した左胃動脈枝からの出血が疑われた.同日夜間に再破裂したため再度結紮術を行ったのちに胃全摘・脾摘術を施行した.病理学的に検討すると,Segmental arterial mediolysis(SAM)の変化が認められた.
腹部大動脈から分岐する腹腔動脈は通常,総肝動脈,脾動脈,左胃動脈の3本に分岐するが正常変異(normal variant)も多い.本症例では総肝動脈・胃十二指腸動脈・右胃大網動脈が欠損し胃穹窿部内腔に拡張突出した左胃動脈枝から破裂出血した.内視鏡的止血後,胃・脾全摘出術を行ったところ病理学的にSAMに矛盾しない中膜の変化が存在し粘膜面にびらんも伴っていたことから,同部位が出血点と診断した.本態性血小板血症(essential thrombocythemia,ET)が基礎疾患にあり,この治療薬による粘膜傷害が破裂を励起した一因と考えられた.
SAMによる腹部動脈破裂の報告例は複数あり破裂部位も様々であるが,多くは腹腔内または後腹膜血種で発症する.今回,胃動脈瘤が胃内腔へ破裂し内視鏡的結紮術で一時止血した稀少な症例を経験したため,病理学的および文献的考察を加え報告する.
患者:41歳,男性.
主訴:吐血.
現病歴:25歳時,勤務先から帰宅途中に突然嘔気あり吐血し搬送先の他院で内視鏡的クリップ止血術を施行された.翌日に湧出性出血を認めたためエタノール注入で追加止血され,発症7日後の血管造影では左胃動脈拡張とそれに連続した動静脈奇形が指摘された.手術をすすめられたが本人が経過観察を希望し,通院も数回受診したが自己判断で中断していた.39歳時より本態性血小板血症(essential thrombocythemia,ET)を指摘され前医血液内科でアナグレリド塩酸塩水和物,アスピリンを定期処方されていた.今回,平成27年6月某日朝6時に吐血し当院に救急搬送された.
現症:意識清明,血圧は96/66mmHg,その他のバイタルには異常を認めなかった.眼瞼結膜で蒼白,呼吸音は清,心音は異常なし,腹部は平坦軟で圧痛を認めなかった.
血液検査:WBC 17,220/µL,Hb 5.8g/dL,plt 66.5×104/µL,Alb 2.2g/dL,BUN 33.3mg/dL,Cre 1.55mg/dL,T-Bil 0.4mg/dL,AST 9IU/L,ALT 9IU/L,LDH 103IU/L,Na 137mEq/L,K 4.1mEq/L,CRP 0.0mg/dL.
来院時単純CT:出血の原因となる疾患を示唆する所見を認めなかった.
緊急上部消化管内視鏡検査:胃穹窿部後壁に粘膜下腫瘍様の隆起とその頂部からの噴出性出血を認めた.隆起は軟で,内視鏡上は粘膜面に発赤や潰瘍を認めず噴出性出血であることから胃静脈瘤と判断した(Figure 1-a).先端内視鏡を一旦抜去し静脈瘤結紮用ニューモ・アクティベイトEVLデバイスTMを装着し再挿入,Oリングにより同部位を結紮止血した(Figure 1-b).

a:胃穹窿部後壁に胃静脈瘤を疑う隆起と,頂部からの噴出性出血を認めた.拍動は確認できなかった.
b:同部位を静脈瘤結紮用Oリングで結紮すると止血され,ほかに出血源となる病変を認めず内視鏡を終了した.
止血後,根治治療決定のため行った腹部造影CTでは胃静脈瘤は認めず,腹腔内にも門脈系の側副血行路の発達は認めなかった.動脈相では胃体部から穹窿部にかけて左胃動脈から灌流する動脈拡張を認め,同部位からの破裂の可能性が考えられた.動脈塞栓術や外科手術の必要性および本態性血小板血症を制御する必要性も考慮し血液内科通院先の施設に転院依頼,待機しつつ保存加療持続点滴とオメプラゾール静脈内投与し保存的加療を行っていたが,同日19時に再度大量吐血しショックバイタルとなった.意識障害・呼吸不全を伴っていたため人工呼吸器管理とし,赤血球濃厚液および血漿製剤を投与しつつ集中治療室で上部消化管内視鏡検査を行った.前回結紮した部位のリングは脱落しており,同部位とその口側の二カ所に湧出性出血を認め,再度Oリングで各々結紮止血した(Figure 2).入院時に施行した造影CTを再読し,当科,当院外科,当院放射線科と治療方針について検討した.腹腔動脈から分岐した左胃動脈が胃穹窿部の内腔で拡張し,その末梢側は胃体後壁を経て脾動脈領域を灌流していた.通常腹腔動脈から分枝する総肝動脈・脾動脈は欠損しており胃十二指腸動脈・右胃大網動脈も描出されず,肝血流は上腸間膜動脈分枝の膵十二指腸アーケードを介して流入,右胃大網動脈も同様に膵頭アーケードを介していた.総肝動脈・脾動脈が欠損しているため胃・脾臓の血流は左胃動脈が主となっていた.血管塞栓術について検討したが,左胃動脈を塞栓すれば上記の正常変異から胃・脾梗塞となる可能性が高く,SuperselectiveIVRでは突出した瘤の近傍に側副血行路が多く認められ,効果不十分であると考え胃・脾全摘術を施行した(Figure 3,4).

1次止血後約11時間後の再出血.前回Oリングで結紮した部位(→)とその近傍(⇉)の二カ所に湧出性出血を認め,再度Oリングで各々結紮した.

入院後の造影CT動脈相.
腹腔動脈から分岐した左胃動脈が胃穹窿部で拡張している.

造影CTの3-D血管再構築像.
通常腹腔動脈から分枝する総肝動脈・脾動脈は欠損していた.腹腔動脈から分岐した左胃動脈が胃穹窿部で拡張したのち,末梢側が脾動脈領域を灌流していた.
胃十二指腸動脈・右胃大網動脈も描出されず,肝血流は上腸間膜動脈からの膵十二指腸アーケードを介して流入し(▶)右胃大網動脈も膵頭アーケードを介していた(▶▶).
術中所見:腹腔内血腫は認めなかった.左胃動脈は壁内拡張血管を経て後胃動脈へ流入したのち脾臓へ灌流していたが,脾臓は低形成であった.胃壁沿いに左胃動脈の分枝を結紮切離したのち全胃・脾を切除した(Figure 5).

粘膜下層に発達した動脈を伴い,胃壁肥厚していた(括弧).粘膜方向に突出した動脈が破裂していた(矢印).
術後経過:術後は出血症状無くHbは漸増した.血小板値は術後1日目および3日目は正常値で経過していたが,術後6日目に血小板値が115.7×104/µLと,術後侵襲や脾臓摘出による一過性増多とは考えにくい増加傾向を示した.ETは通常,反応性脾腫を伴うが本例は脾低形成であったため脾血流障害による脾機能低下を原因とする二次性血小板増多の可能性も考えたが,前医血液内科主治医と協議し同日からアスピリンを再開した.術後8日目には経口摂取を開始した.血症板漸増が継続したため血小板過多による凝集機能異常から出血傾向となる可能性を考慮し術後10日目でアスピリンを中止,術後11日目からアナグレリド塩酸塩を再開するとその2日後より血小板値は低減していった.以降症状無く,術後23日目(第25病日)にはHb 10.6g/dL,plt 47.1×104/µLとなり同日退院した.
病理組織標本では,潰瘍部に突出していた動脈の一部に破裂,弾性板の断裂がみられた(Figure 6).この部位には粥状硬化やMönckeberg型中膜硬化症を疑う変化は無く,好中球等浸潤に伴う空胞や壁構造破壊を認めており,粘膜傷害に伴う胃潰瘍出血以外の病態の鑑別は困難であった.しかし,潰瘍付近の粘膜下層~漿膜側剝離面の動脈では内腔拡張,内膜と中膜の肥厚を認め,これを弾性線維染色(Elastica van Gieson stain,EVG染色)すると炎症性変化の乏しい中膜-外膜の空胞化,中膜および中膜-外膜間の剝離を認めた.HE染色では空胞化や中膜-外膜間の剝離は指摘できなかったが,EVG染色(Figure 7-a~c),Alcian blue染色では中膜-外膜の空胞化,中膜および中膜-外膜間の剝離,外弾性板の断裂が認められた.内膜のプラークや線維形成肥厚を認めなかったことから血管内皮障害や血管炎は否定的と考えた.線維筋性異形成(fibromuscular dysplasia,FMD)も病理学的に鑑別の1つに挙がったが,若年女性で好発し腹部血管の発症が稀であること,FMDは内膜に増殖した細胞線維性組織が動脈内腔の狭窄性病変をきたし内弾性板を断裂させる病態から,これを除外した.以上の鑑別と病理組織所見から,SAMと診断した.

出血部位の弱拡大写真.
粘膜下層~粘膜層に拡張した動脈が突出し,潰瘍から内腔へ穿破している(矢印).

a:潰瘍付近の粘膜下層~漿膜側剝離面のEVG染色.動脈壁肥厚や拡張とともに,内膜-中膜間剝離がみられる.SAMの解離性動脈瘤は,外膜~中膜の融解に拠る中外膜境界部の解離に拠るものが典型的だが,ここでは内中膜境界部が剝離している.
b:a右側囲みの拡大像.中膜-外膜の空胞化(➤)と外弾性板の断裂(→)が認められた.
c:a左側囲みの拡大像.内弾性板の剝離も認めたが,外弾性板の断裂も認めた(→).中膜の剝離や空胞化(➤)もみられたが,その一部は中膜と外膜の間にも存在し,SAMとして矛盾しない.
Segmental arterial mediolysis(SAM)は,Slavinらが1976年に腹部内臓動脈瘤の3剖検例からsegmental mediolytic arteritisの概念を提唱しのちにSAMと改称された 1).
腹部大動脈から分岐する動脈に分節性の解離性動脈瘤が形成されるもので,内臓の動脈壁(稀に冠動脈壁)に分節性に生じる融解性病変を特徴としている.病理学的には平滑筋細胞の細胞質内空胞変性からはじまり,これらの空胞が癒合し,細胞膜を破壊して中膜の融解をきたす.動脈壁内への出血や外膜周囲へのフィブリン沈着も認められ,病変が貫壁性になると動脈壁にgapが形成されて動脈解離や動脈壁の破裂による大出血となる.
SAMにおけるこれらの過程で中膜に肉芽組織を形成したのち線維化におきかわったFMDに一致する病理学的変化を有する症例も存在し,LieはSAMがFMDの前駆病変で一亜型である可能性を指摘している 2).一方Slavinは,中膜および外膜型FMDは主にSAMによって誘発されるが,内膜型のFMDはSAMとは関連していないと指摘している 3).また,本邦において厚生労働省難治性血管炎に関する研究班による病理アトラスでこれら2つの病態は独立して提示されており関連については述べられておらず,これら3者の位置づけのいずれと分類されていくのかについて今後のさらなる研究が待たれる.
SAMの病態として,Slavinは腹部内臓動脈の攣縮とそれによる虚血により励起されることを示唆している.Slavinの最近のイヌを用いた研究で,ノルエピネフリンが腹部,脳底および冠動脈の修復反応を障害にする過程に関与していることを示した.その過程とは,①細胞質へのCa2+過剰負荷から起こるミトコンドリア機能障害による中膜の融解やアポトーシス,②中膜外側膜を外膜から剪断する強力な血管収縮応答,および③異常な修復反応による解離性損傷や線維筋性異形成であるとしている.これらが内側平滑筋細胞膜上のα-1アドレナリン受容体の高密度領域に分布して起こることが,特徴的な分節性病変の本態と述べている.SAMの進行段階で形成された肉芽組織は中膜および中-外膜の断裂が修復される.修復された動脈は血管造影では描出できない状態に戻るか,中膜融解の状態が存続するか,FMDに移行するかの経過をたどるとし,腹部動脈におけるSAMはFMDの前駆過程である可能性を指摘している 4).以上のようにSAMとFMDの鑑別は病理学的に解釈がむつかしいが,臨床的にはFMDが若年女性に好発することと内膜への繊維性増生を特徴とすることから鑑別診断し得る.また,他の動脈変性をきたす鑑別疾患としては血管炎症候群,粥状硬化症,Mönckeberg型中膜硬化症が挙げられるが血管炎における好中球や好酸球の著明な浸潤,粥状硬化症における粥腫形成,Mönckeberg型中膜硬化症における骨化を伴う中膜硬化といった病理学的特徴からSAMと鑑別することができる.
SAMの概念が提唱されて以降,広く知られるようになるまでに原因不明の腹部動脈破裂については国内外で報告が多数みられるが,病態の診断に至っていない症例も多い.本邦では稲田らが1999年にSAMの病理に関する論文を発表,以降もSAMの病理学的見地から自験症例や過去症例の再検考察を報告した 5)~10).この時期以降,国内でSAMの確定診断症例報告が多数発表されておりこの報告の以前ではSAMと診断し得なかった症例も存在する可能性が考えられる.
今回,1999年から2017年における医中誌で検索したSAM確定診断症例は自検例を含む63例 11)~58)で,破裂部位,治療について検討した.好発部位は中結腸動脈が19例と最も多く,次に膵十二指腸動脈およびその分枝11例,左胃動脈9例,上腸間膜動脈9例,右結腸動脈7例,腹腔動脈6例,脾動脈6例,右胃大網動脈5例であった.その他,左結腸動脈,総肝動脈など上腸間膜動脈および腹腔動脈分枝の様々な部位で発生しており複数部位での発症は22例であった.また,発症様式のうちわけは非破裂症例が3例 11)~13),腎梗塞が1例 14),破裂発症した症例が59例であった.破裂発症例では腹腔内出血が40例,後腹膜血腫が13例,腹腔および後腹膜への出血が1例 15),結腸間膜内血腫が1例 16),結腸内への穿破が1例 17),十二指腸内への穿破が2例 18),19),胃内腔への穿破は自験例の1例であった.赤坂ら 20)が行った原因不明の胃動脈破裂の症例報告における集計では,胃領域動脈瘤・胃大網動脈瘤による破裂または出血47例の責任血管は左胃動脈19例,右胃大網動脈14例,左胃大網動脈5例,後胃動脈3例で,赤坂報告症例を含む胃内腔出血が6例,腹腔内出血が38例であったという.これら47例のうち原疾患がSAMであった症例数については未検証であるがいずれにしても胃内腔への穿破は稀である.またSAMは同時性・異時性にも散発する.60例中21例は複数の動脈にSAMの変化を認めており,本症例を含めた6例で異時性破裂している.SAMを診断した際には破裂部位の同定はもとより他病変の検索および,稀ではあるが消化管内へ静脈瘤様の隆起が無いか診断しておく必要がある.
SAMの胃内腔への穿破の病因として2つの要因を以下に考察する.第一に,腹部動脈の正常変異を伴っていたこと,第二にETの治療中であったことである.腹部動脈の走行異常が記述されていた症例は2例あり,1例はBillroth-Ⅱ法再建後 21),もう1例は正中弓状靭帯狭窄症候群 15)であった.これら2例は本症例では総肝動脈と脾動脈が欠損していたが,左胃動脈が本来の領域と脾臓を灌流していることが胃内で太く蛇行し突出する構造に関連していた可能性が考えられる.第二に,ETの治療薬が破裂に関与した可能性について考察する.検索範囲内でETにSAMが合併した症例は本症例のみである.ETの治療薬であるアナグレリド塩酸塩(ANA)は,元来血小板凝集抑制剤としての開発研究課程の副作用として血小板減少が認められたことからET治療薬として認可された非殺細胞性の治療薬である.ANA+低用量アスピリン併用療法は,生命予後ハイリスク群の第一選択であるヒドロキシウレア+低用量アスピリン併用療法と比し静脈血栓症のリスクは低いが,重篤な出血の頻度が高いといわれている 36).本症例の病理標本では胃内腔に突出した胃壁内の粘膜下層にSAMの変化を伴う拡張動脈が存在しており,これにANA+アスピリンによる血小板凝集抑制作用と粘膜傷害が重複し穿破した可能性があると考えた.
腹部動脈の出血に対する治療について,63例の集計ではIVRで治療した症例が15例,手術症例が41例(うち9例はIVRでの治療困難で手術に移行)であった.保存加療の症例は7例でうち3例は死亡している.
消化管内穿破した3症例の治療は,カニュレーション困難による結腸部分切除を行った症例が1例 17),腹腔動脈近位での瘤形成および腹腔動脈起始部解離のため腹腔動脈切除・血行再建術を行った症例が1例 18),胃十二指腸および上腸間膜動脈コイル塞栓を行った症例が1例で 19)あった.またこれら3症例のうち十二指腸穿破した1例が上部消化管内視鏡検査を施行し,十二指腸球部にびらんを伴う粘膜下腫瘍様隆起として観察していた 18).消化管内穿破の症例においても治療はInterventional Radiology(IVR)または手術により治療すべきであるが,噴出性出血を認めた本症例ではOリング結紮により一時止血した.文献考察から手術となった症例では腹腔動脈など近位の動脈瘤,解離の存在,カニュレーション困難などが理由とされていた.本症例では内視鏡上鶉卵大の瘤形成が観察されたが,造影CT,切除標本からSAMの内腔への5mm前後の拡張動脈の集塊であり正常変異が無ければIVRも考慮していたと顧みる.
SAMの消化管内穿破は稀であるが,消化管内に粘膜下腫瘍様または静脈瘤様の隆起を認めた際に基礎疾患や局在から静脈瘤のみならずSAMを疑うことの必要性,SAMの噴出性出血に対するOリングによる一時止血の有用性を示唆する症例であったと考える.
2000年以前も腹部動脈の破裂の報告は多くみられていたが,近年では破裂の病因としてSAMが確定診断された症例が多数報告されている.多くは腹腔内か後腹膜への出血であるが,胃内腔に穿破しOリングで一時止血し得た稀な症例であると考え報告した.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし