2019 年 61 巻 8 号 p. 1576-1581
32歳女性,心窩部痛,背部痛で受診し,高アミラーゼ血症(1,627IU/L)を認めた.CTで膵頭部に造影効果乏しい43×37mm大の腫瘤を認め,腸間膜,傍大動脈リンパ節が腫大していた.上部消化管内視鏡で,十二指腸下行脚に白色顆粒状の小隆起性病変を認め,十二指腸濾胞性リンパ腫と思われた.また,膵周囲の腫大したリンパ節による急性閉塞性膵炎も発症しており,膵管ステントを留置した.PET-CTで右腋窩,両鼠径,腹腔内リンパ節にFDG集積を認め,可溶性IL-2Rも上昇しており,右腋窩リンパ節摘出術施行した.病理組織診で形質転換したfollicular lymphomaと診断され,R-CHOPで治療した.
消化管悪性リンパ腫は節外性リンパ腫の中で30%~50%と最も頻度が高く,発生部位は胃,小腸,大腸などに多く見られる.消化管濾胞性リンパ腫は,十二指腸下行脚に好発することが知られており,スクリーニング目的の上部消化管内視鏡検査において,十二指腸に白色顆粒状の小隆起性病変として認めることがある.しかし,十二指腸濾胞性リンパ腫のため,膵頭部周囲のリンパ節腫大を来し,急性膵炎を発症するのは稀な病態である.今回われわれは,急性閉塞性膵炎で発症し,診断に難渋した濾胞性悪性リンパ腫の1例を経験したので報告する.
32歳,女性.
既往歴,家族歴に特記事項はない.
2014年6月に心窩部痛,背部痛のため受診となった.全身状態は良好であり,バイタルサインは正常であった.眼瞼結膜に貧血や眼球結膜に黄染を認めず.表在リンパ節は触知しなかった.上腹部に軽度の圧痛を認めた.血液検査(Table 1)は,アミラーゼ,リパーゼ,トリプシン,エラスターゼ-1の上昇を認めたが,可溶性IL-2レセプターは361U/mLと正常値であった.computed tomography(CT)では膵頭部に造影効果の乏しい43×37mm大の腫瘍,腹腔内リンパ節の腫大を認め,腫瘍に伴う急性膵炎と診断した(Figure 1).magnetic resonance imaging(MRI)では腫瘍は膵実質と比較し,T1WIで低信号,T2WIでやや高信号の腫瘤として描出された.また,diffusionでは拡散低下の所見を認めた.magnetic resonance cholangiopancreatography(MRCP)で,膵頭部腫瘍による圧排のため,膵頭部主膵管の狭窄像と遠位胆管の狭窄像を認めた.しかし,主膵管の途絶や明らかな上部胆管や肝内胆管の拡張を認めなかった(Figure 2).膵頭部腫瘍部は超音波内視鏡検査(endoscopic ultrasonography:EUS)で内部に一部無エコーに描出される部位があり,嚢胞性変化もしくは壊死性変化が疑われたため(Figure 3),腫瘍部からの超音波内視鏡下穿刺吸引生検法(endoscopic ultrasound-guided fine-needle aspiration:EUS-FNA)は播種の危険性を考慮して行わず,15×20mm大の腹腔内腫大リンパ節より22G針によるEUS-FNAを施行した.しかしこの時点では確定診断には至らなかった.約2週間で黄疸を自覚し,採血でも総ビリルビン4.4mg/dlとビリルビンの上昇を認め,閉塞性黄疸を発症した.膵頭部腫瘤径は53×38mmに増大しており,腫瘍の増大による閉塞性黄疸の発症が疑われたため,緊急ERCP施行した.ERPでは,主膵管の途絶はないものの,膵頭部に圧排による強い膵管狭窄像を認めた.ERCでは,遠位胆管の圧排・狭窄による肝内胆管,上部胆管の拡張を認めたため,それぞれ膵管ステント(Geenen型5Fr12cm(COOK)),胆管ステント(Flexima7Fr10cm(BOSTON))を留置した.その後膵酵素は低下し,腹部症状の改善が見られた.黄疸も総ビリルビン4.4mg/dlから0.8mg/dlまで減黄でき,化学療法が可能となった.

入院時検査所見.

造影CT.
膵頭部に43×37mmの腫瘤を認めた.腫瘍腹側と背側で造影効果が異なっていた.その他に多数の腸間膜リンパ節の腫大を認めた.

MRCP.
腫瘍による膵頭部主膵管の圧排を認め,尾側の主膵管の拡張を認めた.腫瘍自体は描出されていない.遠位胆管の描出は不良であり,肝内胆管の有意な拡張は認められなかったが,腫瘍による遠位胆管の圧排・狭窄が疑われた.

超音波内視鏡(十二指腸下行脚走査).
病変より乳頭側の主膵管の拡張は認めず,膵頭部の病変は辺縁が高エコーに,内部に一部無エコーに描出される部位が有り,嚢胞性変化もしくは壊死性変化が疑われた.
以上の画像所見より鑑別診断として悪性リンパ腫,SPN(solid pseudopapillary neoplasm),膵癌,anaplastic carcinomaなどを疑った.後日撮影したfluorodeoxyglucose-positron emission tomography(FDG-PET)で膵頭部腫瘤にFDGの集積が認められ,他にも右腋窩リンパ節,下腸間膜リンパ節にも集積を認めた.上部消化管内視鏡検査(Figure 4),及び小腸カプセル内視鏡検査では,十二指腸下行脚から回腸末端にかけて広範囲に小結節性病変の集簇が認められ,濾胞性リンパ腫として典型的な所見であった.消化管の生検とPET-CTで集積を認めた右腋窩リンパ節摘出術で確定診断した.消化管生検では,follicular lymphoma(grade1)の結果であった.30×25mm大の右腋窩リンパ節の摘出標本では,大小様々な大きさのリンパ濾胞を認め,癒合傾向があり,被膜外に浸潤した部分も認められた.胚中心は拡大し,中型~大型の異型リンパ球が増殖しており,免疫染色でCD79a,CD10,bcl-2陽性で,follicular lymphoma(grade3b,Ann Arbor stageⅣE)と診断した(Figure 5).2014年8月~2015年1月の期間でR-CHOP(rituximab,cyclophosphamide,hydroxydaunomycin,vincristine,predonisolone)療法6クール施行+放射線療法(36Gy)を行い,complete responseが得られた.治療前後の可溶性IL-2レセプターは655U/mLから282U/mLと低下していた.PET-CTでも膵頭部腫瘤は消失し,FDGの集積も認めなかった(Figure 6).現在治療後3年経過観察中であるが,無再発生存中である.

上部消化管内視鏡所見(十二指腸下行脚).
治療前後で白色顆粒状の小結節性病変の消失を認めた.

病理(a:十二指腸,b:腋窩リンパ節).
a:リンパ濾胞様構造が認められるが,centroblastは目立たず,Grade1相当であった.
b:大小様々な大きさのリンパ濾胞を認め,癒合傾向があり,被膜外に浸潤した部分も認められた.胚中心は拡大し,中型~大型の異型リンパ球が増殖しており,Grade3bと考えられた.

PET-CT.
治療前後で膵頭部腫瘤は消失しており,FDGの集積も認めなくなった.
悪性リンパ腫は診断時にすでに多臓器に病変を伴っている場合が多く,しばしば原発巣を決定することが困難である.リンパ節以外に発生する悪性リンパ腫は節外性悪性リンパ腫と呼ばれ,多くは胃・腸管に見られ,リンパ腫の30~40%と稀ではない.元来膵は,胃や回盲部などと異なり,リンパ装置がないが,炎症によって二次的にリンパ球の遊走,集簇が起これば,リンパ濾胞形成が生じるので,膵もしくは膵周囲リンパ節にも悪性リンパ腫が発生する可能性があるとされている 1).本症例では,十二指腸下行脚に白色顆粒状隆起性病変を認め,十二指腸原発の濾胞性リンパ腫が疑われた.十二指腸の生検にてfollicular lymphoma(grade1)の組織診断を得た.また興味深いことに,腋窩リンパ節摘出標本では,grade3bのfollicular lymphomaへ病理組織学的に形質転換があった点である.濾胞性リンパ腫では形質転換することが知られており,本症例も十二指腸濾胞性リンパ腫が膵周囲のリンパ節や腋窩リンパ節に転移する際に,形質転換を来し急速にリンパ節も増大し,急性膵炎や閉塞性黄疸が発症したものと思われた.治療として,R-CHOP療法によって膵病変や腹腔内リンパ節も消失し,改善したことから一連の病変であったと考えられた.
悪性リンパ腫の治療の基本は化学療法であり,特に膵癌と明確に鑑別される必要があるが,稀な腫瘍であることと画像上比較的多彩な所見を示すことから術前診断は困難と言える.膵癌の診断で手術後に組織学的に悪性リンパ腫と診断され,術後化学療法が追加される症例もあり,また手術適応外と診断された膵癌の中に悪性リンパ腫が含まれている可能性も否定できない.鑑別には組織診断が必須であり,開腹下生検 2),十二指腸生検 3),4),経皮的針生検 5),6)などが行われていたが,最近ではEUS-FNA 7)~10)の有用性が報告されている.本症例では,膵頭部腫瘤はエコー上嚢胞性変化が疑われ,穿刺による播種 11)を危惧し,15×20mm大の腹腔内腫大リンパ節を22G針で穿刺したが,確定診断に至らなかった.これは,Yasudaら 12)が報告するように正確な病型診断は免疫染色を含む組織診でなければ困難であると考える病理医は多く,穿刺針の太さも議論にあげられる.悪性リンパ腫の病型診断では,免疫染色のための十分な組織量がより必要とされるため,22G針で得られた検体量では不足しており,19Gの穿刺針やフランシーン形状の穿刺針などを使用したり,採取方法にもfanning technique,door-knocking method,woodpecker methodなどの組織量を多く採取する方法を工夫することも必要であった.また,フローサイトメトリーなどもリンパ腫の診断に有効であるとの報告もされている 10),12).さらに,今回われわれが診断に苦慮したのは,当初はEUSで内部不均一な無エコーの膵頭部腫瘤を膵腫瘍性病変と考えていたが,膵由来ではなく,十二指腸濾胞性リンパ腫が形質転換し,膵頭部周囲の腫大したリンパ節が背側より膵実質を圧排していたという点である.悪性リンパ腫は均質な組織学的構造状態により,エコーで無~低エコーの嚢胞性病変と診断されることもあり 13),また細胞密度の程度によってはCTやMRIでも様々なパターンで描出され,術前診断が困難なことが多い 14),15).本症例でも,EUSで無エコーの様に描出され,同部位はT2でやや高信号に,MRCPでは腫瘍自体は描出されず,PET-CTでFDG集積しており,様々なパターンで描出されているが,各種画像の比較をすることで充実性病変としての診断を得られたのではないかと考えられた.本症例は,十二指腸濾胞性リンパ腫が形質転換し,急速に膵頭部周囲のリンパ節腫大を来し,急性閉塞性膵炎や閉塞性胆管炎を発症した稀な症例であったと思われた.
急性閉塞性膵炎を契機に診断された十二指腸原発濾胞性リンパ腫の1例を経験したので,文献的考察を加え報告した.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし