日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
Rokitansky憩室に発生した早期食道癌に対してESDを施行した1例
武居 友子 矢作 雅史猪股 研太亀山 哲章緒方 謙太郎大森 泰
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キーワード: 食道憩室, 表在食道癌, ESD
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2019 年 61 巻 9 号 p. 1630-1635

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要旨

症例は73歳,男性.切歯より25-29cmに,病変内にRokitansky憩室を伴う,半周性の早期食道癌を認めた.EUSで憩室部分の筋層の欠損がないことを確認後,全身麻酔下にESDを施行した.憩室底部は繊維化が高度であり,剝離後の観察では,筋層と外膜は保たれているが,縦隔が透見された.術後に軽度の縦隔炎を合併したが,抗菌薬投与により治癒した.Rokitansky憩室は,全層性の真性憩室だが,慢性の炎症により固有筋層が菲薄化もしくは欠損している場合があり,穿孔のリスクが高い.そのため,Rokitansky憩室にかかる早期食道癌に対する内視鏡治療の適応は,化学放射線療法など選択も含めて充分に検討すべきであり,EUSによる憩室内の筋層の確認と,穿孔に備えた準備が必要である.

Ⅰ 緒  言

粘膜固有層までの早期食道癌は,内視鏡的切除による根治率が高く標準治療となっている.しかし,稀に食道憩室と早期食道癌の合併を認めることがある.食道憩室に発生した早期食道癌では,憩室内の筋層が断裂または菲薄化していることが多いため,内視鏡治療は穿孔のリスクが高い.食道穿孔は,縦隔炎,気胸,気管損傷など重篤な合併症を引き起こす可能性があり,食道憩室内病変に対する内視鏡治療の適応は慎重に判断すべきである.

Ⅱ 症  例

症例:73歳,男性.

主訴:なし.

既往歴:結核(12歳),早期S状結腸癌(63歳).

生活歴:喫煙15本15年,機会飲酒 Flusher.

現病歴:検診目的に前医で上部消化管内視鏡検査を施行したところ,胸部食道にヨード不染を認めた.生検で扁平上皮癌の診断となり,治療目的で当院へ紹介となった.

血液検査所見:CEA 1.7ng/ml(基準値5.0 ng/ml以下),SCC 1.7ng/ml(基準値1.5ng/ml以下).その他に特記すべき異常所見なし.

上部消化管内視鏡検査所見:切歯より25-29cmの後壁に,半周性,発赤調の平坦な病変を認めた.切歯より27-29cmの椎体右側にRokitansky憩室を認め,憩室は病変内に位置していた(Figure 1-a).NBI観察で,病変は明瞭なBrownish areaとして描出された(Figure 1-b).NBI併用拡大観察では,密度の上昇したB1血管を認めた.ヨード染色では,病変は境界明瞭な不染帯となり,Pink Color Sign陽性であった.

Figure 1 

上部消化管内視鏡検査.

a:通常光観察.切歯より25-29cmに,後壁を中心とした半周性の,発赤した平坦な病変を認めた.病変内の椎体の右側に,2cm大のRokitansky憩室を伴っていた.

b:NBI観察.病変は明瞭なBrownish areaとして描出され,拡張したドット状血管を認めた.

c:超音波内視鏡検査(12MHz).食道壁は9層に描出され,憩室部分の観察で,固有筋層にあたる第6-8層は保たれていた.

超音波内視鏡所見(EUS):オリンパス社電子ラディアル走行方式(GF-UE260-AL5)12MHzによる観察で,食道壁は9層に描出された.腫瘍の粘膜下層への浸潤を疑う所見はなく,憩室部分の筋層欠損はないと判定した(Figure 1-c).

治療経過:表在食道癌,予測深達度EP/LPMと診断し,全身麻酔下にESDを施行した(Olympus Dual knife J KD-655,CO2送気).ヨード散布後に全周マーキングを施行し,局注液はムコアップを使用した.

全周切開後に口側より粘膜下層の剝離を進めたところ,憩室底部粘膜下層に強い繊維化と高度の癒着を認めた(Figure 2-a,b).糸付きクリップを用いて粘膜下層に緊張をかけ,先端フードを装着し粘膜下層に潜り込むことで視野を確保しながら,憩室底部の癒着部分を剝離した(Figure 2-c,d).切除時間は2時間8分であった.剝離後の観察では,憩室底で菲薄化した筋層と外膜は保たれているものの,胸膜を通して右肺の動きが透見された.術後の胸部X線撮影では軽微な縦隔気腫と皮下気腫を認めたため(Figure 3),減圧目的の胃管の留置と抗菌薬の投与を行った.術後は縦隔炎により,炎症反応はWBC10,400/µl,CRP4.78mg/dlと軽度上昇したが,発熱は認めなかった.術後第3病日には炎症反応の開演と縦隔気腫の消失を確認し,第4病日に胃管を抜去した.第5病日より食事再開し,発熱等がないことを確認して第8病日に退院となった.

Figure 2 

ESD所見.

a:ヨード散布後に全周マーキングを施行した.

b:全周切開後に口側より粘膜下層の剝離を行った.

c:憩室の底部で,粘膜下層に高度の繊維化を認めた.

d:剝離後の観察では,憩室底で縦隔が透見された.

Figure 3 

術後胸部単純X線写真.少量の縦隔気腫と皮下気腫を認めた.

病理組織学的診断(Figure 4):Esophageal squamous cell carcinoma,0-Ⅱb,T1a-EP,ly0,v0,HM0,VM0,27×35mm.

Figure 4 

a:切除標本.ヨード不染に一致して上皮内癌(青線部)を認めた.

b:憩室部の病理組織像(HE染色 対物10倍).異型上皮が全層性の増殖を示し,carcinoma in situ(CIS)と診断した.

Ⅲ 考  察

食道憩室内の食道癌は比較的稀な病態である.憩室内での食物のうっ滞による慢性刺激や炎症,食道腺導管の閉塞による二次的変化が,食道癌の発生に関与するとの報告もあるが,その関連については明らかではない 1

食道憩室には,全層性の真性憩室であるRokitansky憩室と,筋層が欠損した圧出性の仮性憩室であるZenker憩室および横隔膜上憩室がある.横隔膜上憩室内の早期食道癌に対してESDを施行した報告もあるが 2,Zenker憩室や横隔膜上憩室は仮性憩室のため穿孔のリスクが高く,視野の確保も難しい部位であることから,これらの憩室にかかる病変のESDは原則禁忌とされている 3.一方Rokitansky憩室は,気管分岐部に好発し,縦隔リンパ節炎などの炎症の波及により,食道壁が牽引されて生じる真性憩室のため,ESDの適応となりうる.しかし,慢性の炎症により固有筋層が菲薄化もしくは欠損している場合があり,ESDの適応は慎重に判断すべきである.ESD前の評価として,超音波内視鏡検査による固有筋層の観察が有用とされており 3),4,さらに食道造影検査による憩室の評価や,CT検査による憩室周囲臓器の確認も必要と思われる.

2017年度版食道癌診療ガイドラインでは,内視鏡切除の対象とならないStageⅠ食道癌患者に対して,手術を行わない場合には化学放射線療法を行うことが強く推奨されている 5.ESDの適応となるT1a病変に対する,化学放射線療法の治療成績は明らかではないが,StageⅠ(UICC T1N0M0)を対象とした前向き第Ⅱ相試験であるJCOG9708で,化学放射線療法(60Gy,シスプラチン+5-FU)の完全奏効割合87.5%,4年生存無再発率68.1%と報告されており 6,T1a病変ではより良好な成績が期待できる.Ishikawaら 7は,T1a病変18例において,50-60Gyの放射線単独療法後の再発を認めなかったことを報告しており,放射線単独療法も選択肢となりうると考えられる.憩室内に限局した病変であれば,胸腔鏡と内視鏡を併用した憩室切除術の有用性が報告されており,比較的低侵襲な手術として,選択肢の1つとなりうると思われる 8.ESDの利点としては高い根治率,比較的短期の治療期間,低侵襲であることが挙げられる.本症例では,憩室が小さく,EUSで筋層が保たれているため,ESDによる穿孔のリスクは低いと考え,内視鏡治療を選択した.しかし,実際には憩室内の線維化により剝離に難渋し,術後に縦隔炎を合併した.幸い重症化には至らなかったが,憩室内病変では,病変および憩室の位置と大きさ,耐術能,予測深達度,EUS所見,内視鏡治療の技量等を考慮し,治療法を決定すべきである.

憩室内の病変に対してESDを施行する場合には,穿孔や気胸などの合併症のリスクにつき術前に充分に説明するとともに,穿孔を防ぐための工夫が必要である.本症例では,体動や呼吸性変動の影響を小さくするため,全身麻酔下にESDを施行した.また,粘膜下層への充分な局注,糸付きクリップの使用,先端フードの装着が,視野の確保に有用であった.Yamaguchiら 9は,憩室内病変のESDに Stag Beetle knifeが有用であったと報告しているように,線維化した粘膜下層をより正確に剝離できる,デバイスの選択が望ましいと考える.

また,穿孔に備えた物品の準備も必要である.ESD施行時に,憩室部で固有筋層の欠損部を認めた場合,可能であれば内視鏡用クリップによる閉鎖を行うことが望ましいとされているが,Tanakaら 10は,ESD施行中に診断された,食道憩室による固有筋層の3cm大の欠損部に対して,留置スネアとクリップによる閉鎖も報告している.また,Takimotoら 11は,ESDによる穿孔に対して,ポリグリコール酸シートの有用性を報告している.これらの物品に加え,穿孔や気胸に備え,経鼻胃管や胸腔ドレーンも併せて準備しておくことが望ましいと思われる.

術後の画像評価については,食道ESD後縦隔気腫の出現頻度は,ESD直後のCT検査で63%と高率であり,その有用性については明らかではない.しかし,高度の縦隔気腫症例では発熱の頻度が多く,剝離面への筋層露出は縦隔気腫の危険因子であるとの報告がされていることから,食道憩室におけるESDで筋層が露出した場合には,術後CT検査の施行が望ましいと考える.また食道ESD後の皮下気腫の発生頻度とその意義については明らかではないが,病態としては縦隔気腫から皮下気腫へ進展したと考えられるため,高度縦隔気腫の所見として,慎重に経過観察する必要があると思われる 12

Ⅳ 結  語

Rokitansky憩室にかかる早期表在癌に対してESDを施行した1例を経験した.憩室内は筋層の菲薄化を認め,術後に軽度の縦隔炎を合併した.憩室内の病変に対するESDは穿孔のリスクが高く,その適応は,EUSにより憩室内の筋層が確認され,化学放射線療法よりも内視鏡治療の方が望ましいと考えられる症例に限定すべきであると考えられた.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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