51歳男性.上部消化管内視鏡検査にて胃体部に多発する粘膜下腫瘍(SMT)様病変を認め,病理生検でneuroendocrine tumor(NET),WHO分類G2だった.胃体部は広範に萎縮を認め,血清ガストリン著明高値,抗胃壁細胞抗体陽性で,CT・PET-CTでは明らかな異常所見は認めず,A型胃炎に伴った計8個の多発胃NET(Type Ⅰ)と診断した.内視鏡治療か外科的治療かで方針選択に苦慮するも,最終的には本人とも相談し胃全摘術+リンパ節郭清術を選択した.術後病理では胃体部に合計14カ所(最大径7mm)のNETを認め,多くはG1で一部G2だった.本症例では胃全摘術を選択したが近年はより低侵襲な治療(内視鏡的切除や縮小手術)の報告も多くなってきており,Type Ⅰ多発胃NETに対する治療法の選択を中心とした文献的考察を加え報告する.
胃の神経内分泌腫瘍(Neuroendocrine tumor:NET)はRindiら 1)によりType ⅠからⅢに分類されており,中でもType ⅠはA型胃炎を背景にNETが多発することが特徴とされる.今回われわれはType Ⅰの多発胃NET症例に対し胃全摘術を施行した症例を経験した.文献的考察も含め,報告する.
患者:51歳,男性.
主訴:検診異常.
既往歴:特記事項なし.
生活歴:飲酒歴なし,喫煙:20本×30年.
現病歴:検診の上部消化管造影検査で胃の隆起性病変を指摘され2017年4月に近医を受診した.上部消化管内視鏡検査(Esophagogastroduodenoscopy:EGD)で胃に粘膜下腫瘍(SMT)様病変を複数認め,病理生検でNETの診断であり当科紹介となった.
入院時現症:身長171.8cm,体重70.8kg.血圧132/97mmHg,心拍数89/分・整,体温36.9℃.眼球結膜に黄疸・貧血なし.表在リンパ節触知せず.腹部は平坦,軟,圧痛なし,腫瘤触知せず.顔面紅潮・下痢などの症状は特に認めなかった.
入院時臨床検査成績(Table 1):軽度の貧血を認めた.生化学検査,CEA・CA19-9は正常域だった.血清抗Helicobacter pylori(H. pylori)IgG抗体は3U/ml未満だった.そして血清Gastrinは3,000mg/ml以上と著明高値であり,抗胃壁細胞抗体は160倍と陽性,また抗内因子抗体は陰性だった.

臨床検査成績.
EGD(前医施行.Figure 1):背景胃粘膜は高度の萎縮を体部全体に認めるが幽門前庭部は萎縮は目立たず,いわゆる逆萎縮所見を認めた(Figure 1-a,b).また胃体部に径2~5mmの多発する発赤調のSMT様隆起を認め,最大病変は体下部前壁の径1cm大のSMTで頂部には発赤調の浅い陥凹を伴い拡張蛇行した血管も認めていた(Figure 1-c).

上部消化管内視鏡検査(前医施行画像).
a,b:背景胃粘膜は高度の萎縮を胃体部全体に認めるが幽門前庭部粘膜では萎縮は目立たず,いわゆる逆萎縮所見であった.胃体部には径2~5mmの発赤調のSMT様隆起が多発していた.
c:胃内のSMT様隆起のうち最大のものは体下部前壁の径10mm前後の病変であり,頂部には発赤調の浅い陥凹を伴い拡張蛇行した血管も認めた.
前医で施行された最大病変を含む計3カ所のSMT様隆起からの病理生検では,すべてで上皮様細胞の索状ないしリボン状の胞巣状増殖を認め,chromogranin Aとsynaptophysinが陽性でNETと診断された.核分裂像は認めず,体下部前壁の最大病変はKi-67陽性率がhot spotで約5%,また体中部大彎の3mmの病変はhot spotにおいて約15%であり,WHO分類NET(G2)と診断した(Figure 2).

生検組織学的所見(前医施行,胃体中部大彎の病変.a:Synaptophysin染色×100,b:Ki-67染色×100倍).
a:Synaptophysin染色は陽性であった.
b:Ki-67陽性率は平均5%弱で,hot spotでは約15%だった.
超音波内視鏡検査(Endoscopic Ultrasonography:EUS Figure 3):当科にて胃体下部前壁の最大病変に対し細径超音波プローブ(オリンパス社製,UM-3R(20MHz))を用いて評価した.観察時に胃壁を十分に伸展できず可視範囲での評価だが,病変は胃壁第2~3層が主座と思われる径9mmの境界明瞭なlow echoic lesionとして見られた.

超音波内視鏡検査(オリンパス社製,UM-3R(20MHz)).
胃壁を十分に伸展できず可視範囲での評価だが,病変は胃壁第2~3層が主座と思われる径9mmの境界明瞭なlow echoic lesionとして見られた.
病理検査を施行されていない小病変計5カ所より生検を追加し,すべてNET(G1)だった.
腹部造影CT:胃体部に径10mm大の造影効果のある腫瘤を認め,胃体下部前壁のSMT病変と思われた.明らかなリンパ節腫大・転移性病変などは認めず,膵病変も認めなかった.
PET-CT:FDGの異常集積は認めなかった.
EGDで認めた逆萎縮所見,高ガストリン血症と抗胃壁抗体陽性所見からA型胃炎と診断し,それに併発した多発性胃神経内分泌腫瘍(Rindi分類Type Ⅰ)と診断した.
膵・消化管神経内分泌腫瘍診療ガイドライン(第1版) 2)では,Type Ⅰ胃NETで内視鏡的完全切除が困難な場合は胃切除を考慮するとある.本症例では胃体部全体に少なくとも8カ所のNETを認めており,他にも胃NETが潜伏している可能性もありすべての病変の内視鏡的切除は困難と判断した.またNETの大部分はG1であるが一部G2も認めており,治療方針については患者本人にも十分に説明・相談し,同年7月に腹腔鏡補助下胃全摘術+リンパ節郭清術(D1+)を施行した.
切除標本(Figure 4):胃体部に数mm大の小隆起が散在していた.評価可能な範囲では胃体部全体に計14個のNETを認め,最も大きかった胃体下部前壁の病変は径7mmだった.

切除標本.
胃体部全体に数mm大の小隆起が散在していた(黄色腺).病理評価可能な範囲では,胃体部全体に少なくとも計14個のNETを認めた.最も大きかった胃体下部前壁の病変(矢印)は径7mmだった.
病理組織学的所見:背景胃粘膜は胃底腺領域の著明な萎縮が見られ,ほぼ全域にendocrine cell micronestsが見られた.逆に幽門腺領域は保たれていた.最も大きかった胃体下部前壁の病変はHE染色では粘膜下層を主体として一部粘膜内に及ぶ7mm大の腫瘤として認め,小型類円形の均一な核,両染性~好酸性微細顆粒状細胞質をもつ細胞が分岐細索状・小胞巣状に増殖しておりロゼット様構築も認めた(Figure 5-a).核分裂像・脈管侵襲像は認めず,chromogranin染色陽性,synaptophysin染色陽性,Ki-67陽性率は高倍率10視野で平均1%以下だがhot spotで約3%であり,NET(G2)の所見だった(Figure 5-b).その他胃粘膜も病理検索したところ,粘膜下層を主体に数mm大の腫瘤を計13個認め,すべてNET(G1)だった.しかし初回胃生検にて認めたNET(G2)は同定することができなかった.また郭清リンパ節ではすべて転移は見られなかった.

術後組織学的所見(胃体下部前壁の病変.a:HE染色×100,b:Ki-67染色×100倍).
a:粘膜下層を主体として小型類円形の均一な核・両染性~好酸性微細顆粒状細胞質をもつ細胞が分岐細索状・小胞巣状に増殖しており,ロゼット様構築も見えた.核分裂像・脈管侵襲像は認めなかった.
b:Ki-67陽性率は平均1%以下で,hot spotでは約3%だった.
以上より,術後病理診断は多発胃NET(Type Ⅰ,WHO分類G2一部G1)と診断した.術後経過は良好で現在も通院にて経過観察をしているが転移再発などは見られていない.また術後に再検した血清ガストリン値は97mg/mlと正常値になっていた.
胃NETはRindiら 1)によりType Ⅰ~Ⅲに分類されており,Type Ⅰは自己免疫性胃炎(いわゆるA型胃炎)に関連した慢性萎縮性胃炎を背景として小径のNET(G1)が多発することが特徴とされる.本邦では2015年に膵・消化管神経内分泌腫瘍診療ガイドライン 2)が作成されており,胃NETでは腫瘍径が2cmを超える,または内視鏡切除困難(腫瘍径>1cm,あるいは腫瘍個数が6個以上)であるType Ⅰ・Ⅱは手術適応とされ,術式についても局所切除,幽門洞切除,幽門側胃切除もしくは胃全摘術+リンパ節郭清などが挙げられている.粘膜下層までの浸潤の場合でも腫瘍径>1cmの場合は比較的高いリンパ節転移率である 3)ことからリンパ節郭清を伴う胃切除が推奨されているが,本症例のような腫瘍多数のみの場合,具体的な術式の選択については言及が少ない.Borchら 4)はType Ⅰ胃NETについて内視鏡的切除の適応を腫瘍個数5個以下かつ腫瘍径10mm以下にした場合の有効性を報告しており,またGilliganら 5)は大きさが1cm以下で個数3~5病変までのType Ⅰ・Ⅱ胃NETを内視鏡切除の適応としてそれ以外は外科的治療の対象としている.それらをもとに本ガイドラインではType Ⅰ・Ⅱにおける内視鏡切除困難の定義が腫瘍個数6個以上とされていると思われるが,本症例は胃体部全体に少なくとも計8個の病変を認めており,内視鏡的切除のみでは根治は困難と判断した.
一方Type Ⅰ胃NETは一般的に生命予後が良好であるとされている.Type Ⅰ胃NETでは幽門腺G細胞からのガストリン過分泌が腫瘍多発の原因になっており,ガストリン抑制目的に前庭部切除を行ったところ術後に残存胃NETが消失したという報告がある 6).Gilliganら 5)はType Ⅰ・Ⅱで大きさが1cm以上または個数が3~5病変より多い場合は初回治療として局所切除+前庭部切除を推奨している.ENETSガイドライン(2016)ではType Ⅰ胃NETは1cm未満では経過観察も容認されており,1cm以上もしくは筋層浸潤の恐れがある場合に内視鏡的切除を行いその結果T2もしくは切除断端が陽性の場合は局所的切除もしくは胃部分切除を考慮するとしており,ガストリン抑制目的の前庭部切除については議論の余地があるとしている 7).NCCN(National Comprehensive Cancer Network)ガイドラインでは具体的なサイズや腫瘍個数の記載はないものの,目立つ腫瘍は内視鏡的切除を行い,その後増大するものに対しては前庭部切除を考慮するとしている 8).また今回医学中央雑誌にて2000~2018年までの範囲で「NET」「胃全摘」のワードで検索したところ,胃全摘術を施行したType Ⅰ多発胃NET症例は27症例認めた.それらの胃全摘を選択した理由を見ると,2000年から当初は多発病変の根絶,または多発に加え病変径10mm以上であり転移の予防目的が多かったが,2009~2018年に報告された計5例 9)~13)では4例 9),10),12),13)が既に所属リンパ節転移が判明している,もしくは病変の脈管侵襲が判明している症例であり,より転移リスクの高い症例だった.このように以前は多発病変に対し胃全摘も行われていたが近年はより低侵襲な治療の選択例も多くなっており,多発するType Ⅰ胃NETの場合でも局所治療や縮小手術のコンセンサスは徐々に得られてきていると思われる.
本症例の場合は方針決定において本邦ガイドラインを参考にし,胃全摘もしくは前庭部切除併用の内視鏡的切除を考慮したが,ガイドライン中ではガストリン分泌抑制目的の前庭部切除(幽門洞切除)については記載があるものの具体的な推奨までには至っていなかった.患者本人とも十分に相談し,他の胃病変の潜伏も否定できないこと,若年であること,NET G2も含まれていたことから胃全摘術+リンパ節郭清術を選択した.術後結果からは未確認病変も含め計14個のNETが判明した.なお,体下部前壁の病変は術前EUSでは第2~3層が主座という評価だったが術後病理では粘膜下層主体の病変だった.この解離はEUS時には胃壁の伸展が不十分で胃壁深部を含め評価するには十分でなかったことが原因と思われる.以上のように本症例においては胃全摘術を選択したが,前述の報告例や海外のガイドラインなどを参考にすると,前庭部切除を併用した内視鏡的切除という治療選択肢も方針として遜色なかったかもしれない.
本症例では初回のEGDで施行した胃生検ではNET(G2)の診断だったが,手術摘出標本では多数のNET(G1)を認めた.NETにおけるKi-67の染色性はheterogeneityが高度と言われ,また標本の固定条件や染色条件でも容易に染色性が変化し施設内較差も生じやすいと言われているが,本症例の胃体中部大彎病変の初回生検標本の再染色ではKi-67染色率は15%と同様にG2だった.またType Ⅰ胃NETについてはG1とG2で予後に差がない可能性が言われている 14)が,Type Ⅲ胃NETはType Ⅰ・Ⅱと比べてリンパ節転移率が高く,Ki-67 indexも高めであることが知られている.2011年には胃NETの多数例の検討でG2がG1と比べ予後不良であると報告されている 15)が,この報告ではG2はG1と比べ症例数が少なくType Ⅲの占める割合も高かった.他の消化管NET,例えば直腸NETでは細胞増殖能(Ki-67 index,核分裂像)が転移リスク因子とも言われているが 16),前述の報告などを考慮するとType Ⅰ胃NETでは現在G1とG2で予後に差があるとは必ずしも言えず,胃NETにおけるKi-67 indexの役割としてはむしろ転移リスクの高いType Ⅲの拾い上げにおいて重要と思われる.
多発性胃NET(Type Ⅰ)に胃全摘術を施行した症例を経験した.本例では胃全摘術を選択したが,近年はより低侵襲な治療で経過のいい報告も増えており,今後同様な例では内視鏡的切除を含めた局所切除+前庭部切除,もしくは内視鏡的切除のみで経過観察する選択肢も十分視野に入ると思われる.
本論文の要旨は2017年の第95回日本消化器内視鏡学会総会(東京)で報告した.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし