日本消化器内視鏡学会雑誌
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経験
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行期における消化器内視鏡診療の現状~大阪府北部基幹病院の取り組み
山本 政司 西田 勉山岡 祥大杉 直人杉本 彩中松 大向井 香織松本 健吾福井 浩司稲田 正己
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2020 年 62 巻 10 号 p. 2285-2292

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要旨

2019年12月に中国で発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,世界中に拡大し,医療従事者にも多くの感染者を出している.2020年3月の日本消化器内視鏡学会の提言に従い,当院では緊急性の低い内視鏡は延期し,内視鏡室受付にビニールシートを設置,内視鏡前に患者のリスク評価を行い,内視鏡施行医に個人防護具着用の徹底を図るなど,感染予防に努めてきた.個人防護具が全国的に不足する中,当院では,120Lのポリ袋から長袖ガウンを自主作成(Toyonaka Poly Gown)する工夫を行ってきている.今回は2020年4月末までの当施設におけるCOVID-19感染予防の現況と取り組みにつき報告する.

Ⅰ はじめに

新種コロナウイルスであるSARS-CoV-2を病原体とした新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,2019年12月に中国湖北省武漢市で発生した後,瞬く間に中国全土に広がり,その後,世界各地へと拡大する事となった.2020年4月30日時点の世界保健機構(WHO)の集計では,全世界の感染者数は309万445人に上り,死亡者数は21万7,769人を数えている 1.本邦も例外ではなく,2020年4月30日時点の厚生労働省の報告では,感染者数は14,281人,死亡者数は432人に上っている 2

医療従事者がCOVID-19に罹患する例も少なくなく,しかもCOVID-19診療を直接担当しない医療関係者に多く発症している事がChuらから報告された 3

消化器内視鏡診療にあたっては,経口・経鼻での施行では咳嗽を誘発する場合もあり,エアロゾルによる医療従事者への感染も危惧され 4),5,内視鏡検査室など密閉された空間では,エアロゾルによるウイルスの伝播が起こりうると考えられている.また,糞便PCRでもSARS-CoV-2-RNAが検出される事から 6大腸内視鏡検査における潜在的な感染リスクも指摘されている.以上より,日本消化器内視鏡学会から①緊急性のない内視鏡検査は延期する,②無症状で濃厚接触歴のない低リスク症例であってもスタンダードプリコーションを行いマスク・ゴーグル・キャップ・長袖ガウン・手袋などを着用の上で検査を行う,などの提言がなされており,同様の提言が米国消化器内視鏡学会・欧州消化器内視鏡学会からもなされてきた 7)~10.しかし,全国的にCOVID-19の拡大が続く中,徐々に防護具の不足が深刻な状況となってきており,現在,各施設で様々な工夫を行い,対処を行っている.

当院は大阪府北部に位置する病床数613床(うち14床が感染症病棟)の総合病院で,第二種感染症指定病院の指定を受けている.また,地域の基幹病院の1つとして,地域内視鏡診療において大きな役割を担ってきている.今回,COVID-19感染症流行期における当院の内視鏡診療の現状とその取り組みについて報告する.

Ⅱ COVID-19流行期における内視鏡診療

(1)内視鏡件数の変化

当院では,2020年2月末まで,COVID-19内視鏡診療に対して特別な対策を行っていなかったが,日本消化器内視鏡学会の提言により,当院でも2020年3月から,サーベイランス内視鏡・無症状の便潜血陽性・胃癌検診については,患者と相談の上で内視鏡診療を延期する方針とした.しかし,実際には,COVID-19拡大に伴い,すでに患者側から内視鏡検査の延期および中止希望が相次いでおり,当院から連絡を行う前に,内視鏡検査数は大きく減少していた.

その結果,2019年1月~4月の内視鏡総件数は3,223件(上部内視鏡1,638件,大腸内視鏡1,089件,ERCP 147件,ESD 51件)であったが,2020年1月~4月の内視鏡総件数は2,917件(上部内視鏡1,417件,大腸内視鏡1,081件,ERCP 144件,ESD 47件)と約10%の内視鏡検査件数の減少を認めた(Table 1).さらに,大阪府に緊急事態宣言が発令された2020年4月7日以降は,通常診療の患者数も激減,内視鏡検査の延期,キャンセルも急増し,2020年4月の内視鏡総件数は,前年同月比で37%の減少を認めた.特に,上部内視鏡は257件(前年同月比41%減)・大腸内視鏡は201件(前年同月比28%減)と大きな低下を認めた.

Table 1 

内視鏡件数の前年同月との比較.

(2)内視鏡室受付での感染予防

COVID-19の国内発症以来,当院内視鏡室受付担当者は,受診者の問診に加えて,サージカルマスクの着用と書類の受け渡しごとにアルコールによる手指消毒の徹底を施行してきた.また,待合室では,患者にマスク着用の上で,間隔をあけて座る様に指示している.

2020年2月から3月にかけて大阪府下でも徐々に感染者数が増加してきたため,当院では2020年3月16日から病院入口でトリアージされた発熱患者は,病院別棟に新設した発熱外来にて診察を行っている(Figure 1).

Figure 1 

発熱患者の外来受診のフロー.

日本消化器内視鏡学会・米国消化器内視鏡学会・欧州消化器内視鏡学会の提言では,内視鏡前に患者のリスク評価を行う事の重要性が示されている 7)~10.日本消化器内視鏡学会の提言では,①SARS-CoV-2 PCR陽性,②感冒症状の有無,③37.5℃以上の発熱の有無,④強い倦怠感や息苦しさの有無,⑤味覚異常や嗅覚異常の有無,⑥4~5日持続する下痢の有無,⑦2週間以内のCOVID-19症例/COVID-19疑い症例との濃厚接触の有無,⑧2週間以内のCOVID-19多発地域への渡航歴の有無などを評価し,すべて該当しないものを低リスク群,1つでも該当すれば高リスク群と評価する事が示された 9.当院でも,検査を含め当院受診患者が発熱を認めた場合には,まず病院入口でトリアージを行い,発熱外来で診察を行っている.発熱外来にてCOVID-19の可能性が低く,消化器疾患が原因の発熱と診断された場合は,その後の消化器内科医の診察を行い,状況に応じて内視鏡検査の適応を判断する事とした(Figure 1).また,内視鏡検査予定患者が高リスク群と判明した場合には,緊急性がない場合,検査を延期する事としており,2020年3月から4月において,最終的に高リスク群と評価された症例はすべて内視鏡を延期している.また,2020年6月23日時点,期間内に内視鏡検査を施行された患者で,後にCOVID-19を発症した被検者は認めていない.

さらに,受付スタッフも,可能であれば,フェイスシールドまたはゴーグル着用の考慮,社会的距離を確保するという提言に従い,2020年4月末に飛沫感染予防のために内視鏡受付のカウンターにビニールシートを貼り,来院患者と受付担当者の遮蔽を行っている(Figure 2).

Figure 2 

当院内視鏡室受付の様子.

受付カウンターから天井まで木枠を設置し,木枠にビニールシートを貼りつけ遮蔽を行っている.換気と書類のやり取りのため,ビニールシートの上35cm,下10cmは間隙を設けた.

(3)通常業務における内視鏡室内での感染予防

当施設では,COVID-19の発生以前から,毎日の内視鏡検査終了後に塩素系除菌シートを用いて内視鏡室全体の清拭を行っている.また,内視鏡機器の汚染予防として,内視鏡光源装置をビニールシートで被覆し(Figure 3),前述のごとくビニールシートを毎日清拭すると共に,ビニールシート自体も1週間に1回交換し,汚染予防に努めている.

Figure 3 

内視鏡光源のビニールシート被覆.

患者体液による汚染を予防するために,光源をビニールシートで覆い,接触感染の予防に努めている.ビニールシートは毎日塩素系除菌シートで清拭し,1週間に1回交換を行っている.

また,大腸内視鏡検査の前処置は,当院では,従来より自宅で施行する方針としているため,トイレの清掃に関する新たな問題は認めなかった.

(4)個人防護具(personal protective equipment:PPE)

COVID-19症例では無症候期でも感染性を有する事が示されている 11事から,前述の日本消化器内視鏡学会の提言 9では,入室時のリスク評価にて低リスクと評価された症例でも,防護策としてフェイスシールド付マスク(またはゴーグル+マスク)・手袋・キャップ・長袖ガウンの着用が推奨された.しかし,防護具の不足に伴い,当院においても2020年4月から内視鏡診療における長袖ガウンの確保が困難となった.そこで当院では,当院感染症対策室から病院総務課を介して,豊中市役所へ相談したところ,豊中市職員の協力を得る事ができ,120Lのポリ袋から,長袖ガウンの代用ガウン(Toyonaka Poly Gown(TPG)と命名)の作成を開始した 12.COVID-19流行に伴い休館中であった豊中市立柴原体育館にて約30人/日の豊中市職員の協力により1日約6時間程度で約1,200枚作成,4月末までに約2万着のTPGを確保する事ができた.内視鏡検査においても4月末より,このTPGを積極的に利用し,内視鏡医の飛沫感染予防を行っている(Figure 45).この代用ガウン(TPG)は,一人で汚染部に触れないよう着脱が可能である.着脱の実際は,各検査ごとに手洗いを行い,患者入室前(退出後),各検査室において,不必要な部分に触れない注意をし,内視鏡医が一人で着脱している.

Figure 4 

Toyonaka Poly Gown(TPG)外観(a)と着用時正面像(b).

120Lポリ袋・型紙・ヒーティングガン・ハサミを用いて作成.作成の詳細は,市立豊中病院ホームページ( https://www.chp.toyonaka.osaka.jp/section/kansen/index.html)で公開している.袖口を3分の2程溶接する事で,腕を出した際に適度な密着感が出る様にしている.着用は,両腕を袖に通した後に頭を通すと容易である.

Figure 5 

Toyonaka Poly Gown(TPG)内視鏡施行時の外観.

検査終了後は既製のディスポーザブル長袖ガウンと同様の工程で脱ぐ事が可能.

日本環境感染症学会「医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド第2版改訂版(ver2.1)」 13によると,キャップ,フットカバーなどの使用は,着脱の際や,手指で触れた際,付着したウイルスによる粘膜汚染が懸念されるとあり,当院では感染対策室の指導のもと,キャップは半日単位で交換とし,フットカバーや頸部の保護は行っていない.

(5)COVID-19ハイリスク症例に対する緊急内視鏡

COVID-19ハイリスク症例(COVID-19症例およびCOVID-19疑い症例)については,内視鏡施行時の咳嗽などでエアロゾルが発生する可能性があり,接触感染・飛沫感染・飛沫核感染を起こす危険性が高いため,極力,内視鏡検査は施行せずに保存的加療を行う方針としている.上記方針にて,2020年5月9日時点,COVID-19ハイリスク症例に対する緊急内視鏡は施行せずに至っているが,保存的加療困難な消化管出血などで,内視鏡検査が必要な場合は,暫定的に下記に示す運用としている.具体的には,上部消化管出血症例に対する検査前の胃洗浄はエアロゾルが発生するリスクがあるため施行しない.閉塞性黄疸に対するERCPなどは,可能であればPTCDなど内視鏡以外の手法を検討する.

また,実際に緊急内視鏡検査を行う場合の運用としては,以下の方針とした.

①ハイリスク症例に対する内視鏡検査は,感染症病棟(個室)に出張して行う.感染症病棟は,一般病棟を利用しているため,陰圧室ではない.そのため,十分な換気の下で検査を施行する.

②通常内視鏡検査,治療に使用していない予備の内視鏡光源装置を用いる.

③止血用のデバイスはすべてディスポーザブルの製品を使用する.

④内視鏡光源・高周波装置・ウォータージェット装置などは,前述のビニールシートでの被覆に加えて,検査終了後の搬出前にすべてビニールシートで追加の被覆を行う.

⑤内視鏡処置に際して,窓を開け,十分な換気を行う.

⑥内視鏡処置は術者・介助者共にN95マスク・フェイスシールド・キャップ・長袖ガウン・フットカバーを着用し,手袋は2重にして処置を行う.また,処置は短時間で終了する.

⑦検査終了後の内視鏡スコープは,蛋白分解酵素配合の洗浄剤を15~30秒吸引したのち,外装を塩素系除菌シートで清拭する.使用した機器類もすべて塩素系除菌シートで清拭する.

⑧使用後内視鏡は,2重のビニール袋に入れたのち,移動用コンテナボックスに入れ病室より出す.洗浄室では,蛋白分解酵素配合の洗浄剤を満たした一次洗浄用のコンテナに,スコープを浸し,一次洗浄を行い,その後,内視鏡用洗浄消毒機(富士フイルム社,ESR-200)での洗浄を行う.

(6)消化器内科医のCOVID-19診療への関わり

当院は,第二種感染症指定病院の指定を大阪府から受けており,二類感染症または新型インフルエンザなど感染症の患者の入院を担当する医療機関としての役割を担っている.2020年2月よりクルーズ船ダイヤモンドプリンセス号におけるCOVID-19患者から,感染症病棟において受け入れを開始,国内のCOVID-19拡大を受け,その後は一般病床を一部閉鎖して感染症病棟の拡充(4月24日より45床)を行っている.COVID-19入院患者の診療体制は,内科系副院長が全体を統括し,部長クラスの医師が1名マネジメント医として保健所や他院との連携および病棟運営のとりまとめを行っている.また,呼吸器内科医の主導のもと,内科系外科系医師(後期研修医を含む)7名が1週間ごとのローテーションを組んで診療を行っている.消化器内科医も,このローテーションに加わり,感染症病棟担当の期間は,内視鏡検査を行わないようにしている.この体制において,現時点,院内感染の発生は認めていない.

Ⅲ 問題点と今後の展望

日本消化器内視鏡学会「新型コロナウイルス感染症への消化器内視鏡診療についての提言」を,随時,内視鏡部内で共有し,これに従って,感染対策を行ってきたが,いくつかの問題点も明らかとなった.

感染対策としては,患者付き添い者に関しての対策が不十分である事がわかった.また,当院では内視鏡室中待合スペースが十分ではないため,患者間の動線を分離する事ができず,また,時間的問題から内視鏡光源装置を被覆するビニールシートを検査ごとに清拭できていないなどの問題点も見えてきた.

教育指導施設としては,米国からの指摘 14と同様にCOVID-19の流行が長期化した場合,内視鏡検査数の減少により本邦でも若手内視鏡医師への教育に支障が出てくる可能性がある.

今後の問題点として,夏場のエアコン対流によるエアロゾル感染の可能性も考慮する必要がある.当院内視鏡室は,検査室ごと壁で敷居されているため,エアコンの対流によりエアロゾル感染が拡大する可能性は低いと考えているが,背面では通路で繋がっている事から,今後,煙を用いるなど対流の可視化により,換気の状況を把握する必要がある.

COVID-19拡大の終息は未だ先が見えず,今後,第2波および第3波が発生し,さらに個人防護具が枯渇してくる事が予想され,複数の施設で個人防護具の代用品など様々な工夫が行われている 15),16.今後,内視鏡診療におけるPPE不足に対しては,代用PPEを積極的に導入していく事が重要である.しかし,PPE不足に伴い代用品の材料自体が品薄となり,代用品の品薄や価格の変動の問題も危惧される.

COVID-19流行期において,内視鏡診療が必要な消化器疾患に対して,適切に内視鏡診療を提供する事は非常に重要であり,医療従事者および患者の安全性を担保しながら,診療を継続していくための工夫が,今後さらに求められている.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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