要旨
胃癌治療に対する本邦のガイドラインは,胃癌の治療法についての適正な適応を示すこと,胃癌治療における施設間差を少なくすることなどを目的に2001年に初めて出版された.エビデンスの蓄積と内視鏡的粘膜下層剝離術の発展・普及とともに,早期胃癌内視鏡的切除の適応と根治度基準は拡大していった.だが,現在においてもいくつかの問題が残っている.リンパ節転移を予測するリスクスコアリングシステムeCura systemは,早期胃癌内視鏡的切除の治癒切除基準を満たさない患者(最新のガイドラインでは内視鏡的根治度C-2と表記)における治療方針決定の一助となるが,たとえeCura systemにて高リスクであってもリンパ節郭清を伴う追加外科切除は多くの患者において過剰医療となる可能性がある.だが,非穿孔式内視鏡的胃壁内反切除術+センチネルリンパ節生検のような低侵襲機能温存外科手術によりこの問題を克服できる可能性がある.また,追加外科切除を望まない患者に対する内視鏡的切除+化学療法のようなさらなる低侵襲治療法の確立が望まれる.
Ⅰ 序 論
胃癌の罹患は過去半世紀にわたって世界的に減少してきているが,現在でも胃癌は世界で5番目に多い癌腫で,癌死では3番目に多い癌腫として世界的な健康問題であり続けている
1).胃癌は疫学的に東アジア諸国と西洋諸国の間に著明な地域差を認め,中国,韓国,日本にて罹患率が高い
2),3).韓国と日本では,バリウム二重造影X線検査や消化器内視鏡検査のような胃癌検診システムが発達しており,胃癌の約50%-70%が早期で発見されている
4)~6).
早期胃癌は,リンパ節転移の有無に関わらず粘膜もしくは粘膜下層までにとどまる癌腫と定義されている
7).胃癌治療の基本は外科切除であるが,リンパ節転移を伴わない早期胃癌に対する低侵襲治療として,内視鏡的切除がある
8).本邦におけるガイドラインはエビデンスの蓄積と内視鏡的粘膜下層剝離術(Endoscopic submucosal dissection;ESD)の発展・普及とともに改訂されてきた.だが,現在でもいくつかの問題が残っている.本レビューでは早期胃癌治療,特に内視鏡的切除に対する本邦ガイドラインの歴史と現在の問題点,将来展望について述べていく.
Ⅱ 本邦ガイドラインのコンセプトと改訂
日本胃癌学会ガイドラインは,1)胃癌の治療について適正な適応を示すこと,2)胃癌治療における施設間差を少なくすること,3)治療の安全性と治療成績の向上を図ること,4)無駄な治療を廃して,人的,経済的負担を軽減すること,5)ガイドラインを広く一般にも公開して,医療者と患者の相互理解にも役立てることを目的として2001年に初めて発刊された
9).エビデンスの蓄積に伴い,2004年に第2版
10),2010年に第3版
11),2014年に第4版
12),そして2018年に第5版に改定された
13).また,日本消化器内視鏡学会より胃癌に対するESD/endoscopic mucosal resection(EMR)ガイドラインが2015年に発刊された
14).
Ⅲ 早期胃癌内視鏡的切除の原則
リンパ節転移は胃癌におけるもっとも重要な予後予測因子であるため
15)~18),本邦では早期胃癌であってもリンパ節郭清を伴う外科的胃切除が標準治療である
19).早期胃癌のうち,内視鏡的切除を行った患者における予後が外科的胃切除患者と同等であるカテゴリーでは内視鏡的切除が許容される.また,リンパ節転移リスク評価には正確な病理診断が必須であり,内視鏡的切除にて分割切除となった際には局所再発のリスクがあることから,内視鏡的切除の際には一括切除が必要である
20)~24).
粘膜内癌,粘膜下層浸潤癌に対してリンパ節郭清を伴う外科的胃切除術を行った患者の5年疾患特異的生存率は,それぞれ99.3%,96.7%であった
25).外科切除関連死割合と5年疾患特異的生存率(99.3%)を考慮すると,粘膜内癌においては,リンパ節転移率の95%信頼区間上限が1%未満となるカテゴリーでは内視鏡的切除が開腹外科切除に類似した生存成績を有すると仮定されている.だが,これらのカテゴリーにおいては,内視鏡的切除を行った際の長期予後がリンパ節郭清を伴う外科的胃切除を行った患者と類似した長期予後であることを明らかにすることが重要である.したがって,ほぼリンパ節転移がないことに加えて良好な長期予後結果のエビデンスがあるかないかによって内視鏡的切除適応は絶対適応と適応拡大に分けられており,良好な長期予後結果を有している場合には絶対適応となるのに対して,信頼性の高い長期予後結果がない場合には適応拡大とされている.
粘膜下層浸潤癌においては,リンパ節転移率の95%信頼区間の上限が3%未満であった際に,内視鏡的切除が外科切除と同等と仮定されている
14),26).
Ⅳ EMRとESD
EMRは1984年に初めて報告され
27),早期胃癌に対する有効な低侵襲治療として広く受け入れられてきた.だが,径の大きい病変をEMRにて一括切除することはできず,このような場合には局所再発のリスクがあった.
ESDはGotodaらによって1999年に初めて報告された
28).ESDはEMRに比して,高い一括切除率や病理学的完全切除率が得られ,局所再発を減少させることが可能である
29)~31).ESDは2006年に本邦において保険収載され,EMRに取って代わり,2015年には早期胃癌に対する内視鏡的切除の90%以上がESDとなっている
32).
Ⅴ 本邦における内視鏡的切除適応の歴史
1)日本胃癌学会ガイドライン初版~第4版と日本消化器内視鏡学会ガイドライン
ガイドライン発刊以前より受け入れられてきた早期胃癌内視鏡的切除適応は,径の小さな腸型の粘膜内癌であった
33),34).径の大きな病変や潰瘍(Ulceration;UL)を有する病変の内視鏡的切除は,ESDが普及するまでは技術的に適さないとされてきた.そこで,日本胃癌学会ガイドライン初版と第2版では
9),10),EMRの適応を分化型・粘膜内・≦2cm・UL (-)とした(Table 1).
だが,このEMRに対する適応は厳格すぎ,それによって過剰な外科切除が行われている可能性があった
10).さらに,ESDの発展・普及により径の大きな病変やUL病変を一括切除することが可能となってきた.そこで,早期胃癌胃切除患者を対象とした2つの大規模研究結果に基づいて,内視鏡的切除適応拡大基準が提案された.Gotodaらは5,265例の患者を解析し,1)分化型・粘膜内・>2cm・UL(-)病変,2)分化型・粘膜内・≦3cm・UL(+)病変,ではリンパ節転移を認めず,これらのカテゴリーではリンパ節転移率の95%信頼区間上限が1%未満であった
35).さらにHirasawaらは,3)未分化型・粘膜内・≦2cm・UL(-)病変,においてもリンパ節転移を認めず,リンパ節転移率の95%信頼区間上限が1%未満であることを明らかにした
36).したがって,これらの3つのカテゴリーは,日本胃癌学会ガイドライン第3版・第4版においてESD適応拡大病変とされた(Table 2-A)
11),12).
日本消化器内視鏡学会ガイドラインでは
14),内視鏡的切除適応基準は日本胃癌学会ガイドライン第4版
12)と同様であったが,内視鏡的切除適応基準を満たさない病変を適応外病変と定義した(Table 2-A)
14).
2)日本胃癌学会ガイドライン第5版
上記基準の1)2)にあたる患者を対象とした多施設共同単群検証的臨床試験(JCOG0607)が近年行われた
37).同試験では,登録患者の実際の年齢・性別分布に基づいて5年全生存率予測値(90%)を計算し,それより5%低い値を同試験の5年全生存率の閾値として設定した.その結果,登録患者の5年全生存率は97.0%(95% 信頼区間,95.0%-98.2%)であり,その95%信頼区間下限値(95.0%)は実際の5年全生存率閾値(86.1%)より高かった.同試験の良好な結果に基づいて,1)2)は日本胃癌学会ガイドライン第5版にて絶対適応になった(Table 3-A)
13).さらに,日本消化器内視鏡学会ガイドラインにおける「適応外」の用語が日本胃癌学会ガイドライン第5版では「相対適応」に変更となった.この理由としては,同カテゴリーにおける標準治療はリンパ節郭清を伴う外科的胃切除であるものの,治療方針決定の際には患者の身体状況(例:基礎疾患,認知症状,栄養状態,身体機能)が考慮されるためである.
Ⅵ 本邦における内視鏡的切除の根治性評価の歴史
1)日本胃癌学会ガイドライン初版~第4版と日本消化器内視鏡学会ガイドライン
治癒切除と適応拡大治癒切除の基準を満たすためには,一括切除,脈管侵襲陰性,断端陰性のすべてを満たす必要がある.内視鏡的切除適応基準の拡大とともに根治度基準もまた拡大されていった(Table 2-B).さらに,Gotodaら
35)の研究結果に基づいて,≦3cm・分化型・粘膜下層浸潤<500µm(SM1)を満たす早期胃癌は日本胃癌学会ガイドライン第3版・第4版にて適応拡大治癒切除と定義された
11),12).この治癒切除基準を満たさなかった場合には,非治癒切除と呼称した.日本消化器内視鏡学会ガイドライン14)における用語と根治度基準は,日本胃癌学会ガイドライン第4版における用語・根治度基準と同様である.
2)日本胃癌学会ガイドライン第5版
日本胃癌学会ガイドラインの第5版
13)への改訂に伴い,早期胃癌内視鏡的切除の根治性に関する専門用語が改訂となり,内視鏡的根治度(eCura)A~C-2と呼称されるようになった(Table 3-B)(注:後記のeCura systemと日本胃癌学会ガイドラインのeCuraは偶然に似た名称となり混同される場合があるので注意を要す).同ガイドラインでは,治癒切除・適応拡大治癒切除はそれぞれ内視鏡的根治度A・Bに変更となり,JCOG0607の結果
37)に基づいて,適応拡大治癒切除のうちの分化型粘膜内癌のカテゴリーが内視鏡的根治度Aとなった.さらに,非治癒切除は内視鏡的根治度C-1・C-2の2つのカテゴリーに分類され,分割切除もしくは側方断端の因子のみが内視鏡的根治度A・Bの基準から外れる場合に内視鏡的根治度C-1とし,それ以外を内視鏡的根治度C-2とする.このように分類した理由は,ESD後の治療方針が内視鏡的根治度C-1とC-2の間で異なるためであり,詳細は後述する.この「eCura」という用語の使用においては,臨床医の混乱を来している.この理由としては,「eCura」は既にeCura system(Table 4)
38)で用いられており,eCura systemと日本胃癌学会ガイドライン第5版の内視鏡的根治度A~C-2で用いられている「eCura」の概念が異なるためである.このため,これらの違いをTable 5に要約して記載する.
Hasuikeら
37)の報告に基づいて,適応拡大治癒切除のうちの分化型粘膜内癌のカテゴリーは日本胃癌学会ガイドライン第5版にて内視鏡的根治度Aとなった
13).だが,大規模多施設共同後方視的研究では,日本胃癌学会ガイドライン第4版の基準での適応拡大治癒切除にあたる患者の0.14%(6/4,202)にて転移再発を認めた
39).さらに,転移再発した6例のうちの3例は,日本胃癌学会ガイドライン第5版では内視鏡的根治度Aと定義されるカテゴリーであった(Table 3-B).したがって,非常に少ないながら内視鏡的根治度AであってもESD後に転移再発する可能性があることに留意する必要がある
40),41).
韓国における早期胃癌外科的胃切除に関する研究では,粘膜下層に未分化型成分を有する病変がリンパ節転移リスクを有することが明らかとなった
42).これにより,日本胃癌学会ガイドライン第5版では,粘膜下層に未分化型成分を有する際には内視鏡的根治度C-2とされるようになった(Table 3-B)
13).粘膜下層未分化成分のリンパ節転移リスクに関しては,粘膜下層浸潤≧500µm(SM2)の胃癌に対してESD後に追加外科切除を行った患者を対象とした多施設共同後方視的研究においても確認された
43).さらに近年の報告では,分化型で未分化成分を有する早期胃癌が内視鏡的切除後内視鏡的根治度C-2に対するリスク因子であることも示されている
44).
Ⅶ それぞれの内視鏡的根治度での内視鏡的切除後の対応
1)内視鏡的根治度A・B
早期胃癌内視鏡的切除後内視鏡的根治度Aであった患者では,異時性胃癌を発見することを主目的として6-12カ月毎の内視鏡での経過観察が推奨されている(Figure 1)
45).内視鏡的根治度Bであった患者では,6-12カ月毎に内視鏡だけでなく超音波内視鏡あるいはCTを用いた経過観察が望ましい(Figure 1).だが,病理の追加深切り切片による再評価をすると,内視鏡的根治度A・Bであった症例の14.7%では内視鏡的根治度C-2に変更となることが報告されており,留意すべきである
46).
2)内視鏡的根治度C-1
内視鏡的根治度C-1患者のリンパ節転移リスクは非常に低いため,患者へのインフォームドコンセントの上で再ESD,焼灼術,初回ESDでの焼灼効果を期待しての慎重な経過観察が外科切除の代替法として選択されることがある(Figure 1)
12),14).追加治療を行わなかった場合には,6カ月毎の内視鏡での慎重な経過観察が望ましい
14).
3)内視鏡的根治度C-2
内視鏡的根治度C-2にあたるカテゴリーでは,日本胃癌学会ガイドライン第4版まではリンパ節転移のリスクから全例に追加外科切除を行うことが推奨されていた.しかし,これらの患者におけるリンパ節転移率がわずか5.2%-11.0%
38),47)~60)であることから,この推奨は過剰である可能性があった.日本胃癌学会ガイドライン第5版
13)では,内視鏡的根治度C-2への対応が「追加外科切除が標準であるが,患者状態から外科的胃切除を選択しないこともある」に変更となった.実臨床においては,80歳以上の内視鏡的根治度C-2患者の約80%が無治療経過観察を選択した
61).このような状況においては,リンパ節転移リスクを評価するリスクスコアリングシステムeCura system
38)の使用が推奨される.このような患者で無治療経過観察が選択される際の経過観察間隔については,ガイドラインでは推奨の記載はないが(Figure 1),6カ月以下の間隔でのCTによる定期的経過観察を提案する報告もある
62).だが,ESD後内視鏡的根治度C-2で無治療経過観察を選択した際に転移再発が発見された場合,大多数では予後不良であることに留意すべきである
63).
Ⅷ リンパ節転移を予測するリスクスコアリングシステム
1)eCura system
大規模多施設共同研究では,内視鏡的根治度C-2後の追加外科切除患者と無治療経過観察患者の5年疾患特異的生存率はそれぞれ98.8%,97.5%であった
64).だが,傾向スコア解析では,内視鏡的根治度C-2患者の胃癌死は追加外科切除により1/3に減少したことが報告されている
65).内視鏡的根治度C-2患者のさらなるリスク層別化のため,リンパ節転移リスクを予測するスコアリングシステムeCura systemが開発された(Table 4)
38).eCura systemでは,各病理学的因子のポイントの重み付けが行われ,リンパ管侵襲に3点,腫瘍径>30mm,垂直断端陽性,SM2,静脈侵襲にそれぞれ1点が割り当てられた.eCura systemは計7点で,さらに3つのカテゴリーにリスク分類されており,低リスク(0-1点),中リスク(2-4点),高リスク(5-7点)のリンパ節転移率はそれぞれ2.5%,6.7%,22.7%であった.Niwaらは追加外科切除の必要性のある患者選択においてeCura systemが有用であったことを報告した
66).だが,Niwaらの研究は単施設後方視的研究であり,この研究からeCura systemが外的検証されたとの結論に達することは難しい.信頼性の高い外的検証のためには,大規模多施設共同前向き研究が必要である.
2)eCura systemによるリンパ節転移リスク評価の一例(Figure 2)
85歳男性の早期胃癌患者に対してESDを行い,病理結果は腫瘍径25mm,分化型,SM2,リンパ管侵襲陽性(D2-40染色),静脈侵襲陰性(Elastica-Masson染色),UL(-),垂直断端陰性であり,内視鏡的根治度C-2であった.
合計スコア=3点(リンパ管侵襲)+1点(SM2)=4点
eCura systemでは中リスクであり,リンパ節転移リスクは6.7%,5年胃癌死率は4.0%との判定であった.同患者は無治療経過観察を選択したが,2年間の経過観察では転移再発を認めていない.
Ⅸ 最新の知見
1)未分化型早期胃癌
近年,未分化型・≦2cm・UL(-)・粘膜内癌と術前に診断された患者における前向き検証的試験 (JCOG1009/1010)が行われ,良好な長期予後が得られた
67).実際に胃癌死は認められず,この良好な結果に基づいて,将来のガイドラインではこのカテゴリーの内視鏡的切除適応が変わる可能性がある.
2)ESD患者における追加外科切除後の対応
ガイドラインにおいては,内視鏡的根治度C-2にて追加外科切除を行った後の対応についての推奨はない.近年の大規模多施設共同研究では,追加外科切除後の5年再発率は1.3%であり,TNM分類におけるリンパ節転移の程度と静脈侵襲の組み合わせが追加外科切除後の再発リスクを同定するのに重要であることが明らかとなった
68).N2/N3もしくはN1+静脈侵襲を有する患者は追加外科切除後の再発高リスク患者(19.4%-42.9%)であり(Table 6),術後補助化学療法の候補である可能性がある.それに対して,それ以外のカテゴリーでは再発リスクはほとんどなかった(0.0%-0.5%)(Table 6).同研究では高リスク患者が少ないことがlimitationの一つであるが,多変量解析を行った結果であることがこれらの結果の妥当性を支持する.したがって,これらの結果は内視鏡的根治度C-2にて追加外科切除を行った患者に対して有用な情報となりうるが,ガイドラインでは早期胃癌に対する初期治療として外科切除を行った後の対応についても推奨はなく(Figure 1),これらの患者においても有用な情報となる可能性がある.
Ⅹ 本邦以外でのガイドライン
早期胃癌内視鏡的切除に関するガイドラインが本邦以外でも世界ではいくつか発刊されている.ヨーロッパのガイドラインにおける内視鏡的切除適応と根治性評価は,日本胃癌学会ガイドライン第4版に類似している
12),69).一方,韓国のガイドラインでは,日本胃癌学会ガイドライン第4版における適応拡大に相当するいくつかのカテゴリーについて,より弱く内視鏡的切除を推奨している
70).米国では,早期胃癌の内視鏡的切除基準は限定されている.National Comprehensive Cancer Network guidelines
71)では,EMR/ESDは分化型・径<2cm・UL(-)・粘膜内を満たす癌のみに推奨されている.しかし,近年の米国での早期胃癌外科的胃切除に関する多施設共同後方視的研究
72)では,分化型・>2cm・UL(-)・粘膜内癌ではリンパ節転移は認められず,このカテゴリーは米国における内視鏡的切除の良い候補となる可能性がある.胃癌罹患の少なさが西洋諸国におけるESDの導入を遅らせていたが,最近ではESDが行われるようになってきており,エビデンスもでてきている
12),73).
Ⅺ 早期胃癌治療の現在の問題点と将来展望
内視鏡的切除適応のためのエビデンスは蓄積されてきているが,そのエビデンスは主にリンパ節転移リスクのほとんどないカテゴリーに対する適応拡大に焦点が当てられてきた.しかし現在の問題点の一つとして,通常のリンパ節郭清を伴う外科的胃切除がeCura system
38)における高リスクでさえ何人かの患者にとっては過剰医療となる可能性があることが挙げられる.このセクションでは,リンパ節郭清を伴う外科的胃切除を行わずにリンパ節転移陽性患者を同定できる可能性,そして内視鏡的根治度C-2後のリンパ節転移高リスク患者において代替となる低侵襲治療オプションの可能性について述べていく.
1)センチネルリンパ節理論に基づいた機能温存手術
センチネルリンパ節とは腫瘍から直接リンパ流を受ける最初のリンパ節のことを指すが,このセンチネルリンパ節理論は早期胃癌患者への機能温存手術にあたって魅力的なオプションとなりうることが報告されている
74),75).同理論では,ラジオアイソトープでラベルされたコロイドと色素で同定され切除されたセンチネルリンパ節に転移を認めない際には,リンパ節郭清範囲を最小限にとどめることが可能である
76)~79).本邦における多施設共同前向き試験では,腫瘍径4cm未満のcT1/cT2胃癌におけるセンチネルリンパ節発見率は98%であり,転移の正診率は99%であった
78).
本邦では,ESDと腹腔鏡下胃壁切除を組み合わせた腹腔鏡内視鏡合同手術(laparoscopic endoscopic cooperative surgery;LECS)が胃粘膜下腫瘍患者に対して安全に適用されてきた
80).さらに,LECS関連手技
81)~85)の一つである非穿孔式内視鏡的胃壁内反切除術(non-exposed endoscopic wall-inversion surgery;NEWS)は,手技中に穿孔を来すことがないことから医原性腹膜播種のリスクがなく,癌に対して用いられている
83).Takeuchiらは,NEWS+センチネルリンパ節生検を行った早期胃癌患者の良好な短期成績を報告した
83).この手技の臨床的有益性は多数例での長期予後結果が得られた後に評価されるべきだが,同手技は早期胃癌におけるリンパ節転移の有無に対する適切な評価が可能な低侵襲機能温存手術として治療のオプションとなる可能性がある.
2)内視鏡的根治度C-2患者における低侵襲治療オプション
リンパ節郭清を伴う外科的胃切除は胃切除後障害を伴い患者の生活の質を低下させうる.一方で,内視鏡的根治度C-2患者で無治療経過観察を選択した際には,特にeCura systemで高リスク
38)である場合は転移再発のリスクを有する.食道扁平上皮癌では,内視鏡切除+選択的化学放射線療法が外科切除と同等の生存率を有することが明らかとなり,低侵襲治療オプションとなる可能性が示唆されている
86).また,Stage Ⅱ/Ⅲ胃癌患者では,術後1年間のS-1による補助化学療法
87)が推奨されている
13).内視鏡的根治度C-2患者における補助化学療法の効果や安全性のエビデンスはこれまでにないが,特にeCura systemで高リスクとなったものの追加外科切除を希望せずかつ再発の心配がある患者にとっては,この補助化学療法が有効な可能性がある(Figure 3).将来的には,この治療法の有効性と安全性を評価する臨床試験が必要と思われる.
Ⅻ 結 論
本レビューでは,本邦におけるガイドラインの歴史と早期胃癌治療に対する将来展望を述べた.早期胃癌の治療と対応はこの20年で劇的に発展してきたが,内視鏡的根治度C-2後の対応などまだいくつかの問題が残っている.したがって,次の10年では早期胃癌治療と対応のさらなる進歩が期待される.
謝 辞
本レビューにおいて,病理に関するご指導を頂きました藤島史喜先生(東北大学病院病理診断科)にこの場をお借りして厚く御礼申し上げます.
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