日本消化器内視鏡学会雑誌
Online ISSN : 1884-5738
Print ISSN : 0387-1207
ISSN-L : 0387-1207
症例
EUS-FNAで診断し,ジエノゲストが著効した腸管子宮内膜症の1例
勝野 貴之 森口 明宣木下 智子田中 百合香石田 真由子南野 弘明早川 剛青松 和輝塩見 進藤原 靖弘
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2020 年 62 巻 11 号 p. 2958-2963

詳細
要旨

症例は44歳女性.下腹部痛,嘔気と血便で当院を受診した.精査目的でCTやMRI,下部消化管内視鏡検査を施行し,S状結腸に粘膜下腫瘍様隆起を認めた.月経時に腹痛や血便を認めていたため腸管子宮内膜症が疑われた.しかし内視鏡下生検や画像診断では診断に至らなかったため,EUS-FNAを施行し,子宮内膜組織を確認できたため,臨床症状や各種画像所見と併せて腸管子宮内膜症と診断.ジエノゲストの投与を開始し,その後症状は消失,内視鏡で病巣の著明な縮小を経時的に確認した.

Ⅰ 緒  言

腸管子宮内膜症は稀少部位子宮内膜症の一つであり腹痛や血便が出現する 1.下部消化管内視鏡検査で粘膜下腫瘍様隆起として発見されることが多いが,内視鏡下生検で子宮内膜組織を認める頻度は9%と低率であり 2,外科的切除によって診断されることもある.EUS-FNAで確定診断を行い,ジエノゲストの投与で治療した報告はなく,若干の文献的考察を加えて報告する.

Ⅱ 症  例

患者:44歳,女性.

主訴:月経期間中の排便時下腹部痛と血便.

既往歴:甲状腺癌.

家族歴:特記すべきことなし.

現病歴:半年前より月経期間中の排便時に下腹部痛を自覚していたが経過観察していた.来院2日前より下腹部痛や嘔気を自覚し,血便も認めたため当院へ精査加療目的で来院となった.

初診時現症:血圧:106/60mmHg.脈拍:113/分,整.体温:36.6℃.SpO2:98%(room air).眼瞼結膜貧血なし,眼球結膜黄染なし.腹部:平坦,軟.明らかな圧痛なし.腫瘤触知せず.直腸診:黄色便,血液付着なし.

血液生化学的検査所見:RBC 493×104/μl,Ht42.6%,Hb 14.5g/dlと貧血はなく,その他明らかな異常値は認めず.CEAやCA19-9,CA125を含め各種腫瘍マーカーは正常であった.

Ⅲ 経  過

下腹部痛・血便精査のため腹部超音波検査を施行し,S状結腸の浮腫を指摘され,虚血性腸炎が疑われた.診断のため下部消化管内視鏡検査を施行,S状結腸下部に粘膜がやや発赤調の粘膜下腫瘍様隆起と近傍の粘膜下に暗紫色を認め(Figure 1),虚血性変化を疑わせる所見は認めなかった.血便は月経中に出現しており臨床的には腸管子宮内膜症が疑われたため,粘膜下腫瘍様隆起より内視鏡下生検を施行したが正常上皮のみであり,子宮内膜組織は認めなかった.造影CT検査とMRI検査を施行し,造影CT検査ではS状結腸に著明な壁肥厚と淡い造影効果のある腫瘤を認め,MRI検査ではS状結腸にT1強調画像では等信号(Figure 2),T2強調画像で低信号,拡散強調画像では淡い高信号を認めた.これらの画像検査のみでは腸管子宮内膜症と診断できず,GISTなどの悪性腫瘍の否定もできなかった.そのためEUSを施行した.コンベックス型EUS(UCT260,Olympus)を慎重にS状結腸まで挿入し病変を観察,第3層内に主座を置く境界不明瞭な低エコー性腫瘤として描出され,病変は31mm×16mmで内部は不均一であった(Figure 3).続けて,確定診断のためEUS-FNAも施行した.22G穿刺針(EZ Shot 3 Plus,Olympus)で1回穿刺吸引施行し,検体採取を確認し終了した.なお偶発症は認めなかった.採取された組織は,平滑筋組織からなる組織や結腸粘膜片がみられ,その一部で腺組織と楕円形核をもった間葉系細胞からなる領域がみられた.腺管はEstrogen Receptor陽性,間質細胞はvimentin陽性,CD10陽性であり(Figure 4),子宮内膜組織として矛盾しなかったため臨床症状や各種画像所見と併せて腸管子宮内膜症と診断した.

Figure 1 

下部消化管内視鏡検査.

S状結腸下部に粘膜がやや発赤調の粘膜下腫瘍様隆起と近傍の粘膜下に暗紫色を認めた.

Figure 2 

単純MRI検査.

T1強調画像ではS状結腸に筋肉と等信号の病変を認めた(矢印).

Figure 3 

超音波内視鏡像.

第3層内に主座を置く境界不明瞭な低エコー性腫瘤として描出され,病変は31mm×16mmで内部は不均一であった.

Figure 4 

EUS-FNAの細胞像.

a:HE染色,平滑筋組織からなる組織や結腸粘膜片がみられ,その一部で腺組織と楕円形核をもった間葉系細胞からなる領域がみられた.b:腺管はEstrogen Receptor陽性,間質細胞はc:vimentin陽性,d:CD10陽性であり,子宮内膜組織として矛盾しなかった.

症状は軽度の腹痛と少量の血便のみであったため薬物療法を選択.産婦人科診療ガイドラインの子宮内膜症治療を参照し,ジエノゲスト2mg/日を開始したところ,排便時の下腹部痛は徐々に消失し,血便も認めなくなった.その後,下部消化管内視鏡検査を経時的に施行し,病巣の著明な縮小を認め(Figure 5),投薬開始から現在まで24カ月,症状の再燃は認めていない.

Figure 5 

ジエノゲスト投与後の内視鏡像の変化.

a:6カ月後.

b:12カ月後.

c:18カ月後.

経時的に縮小を認めた.

Ⅳ 考  察

腸管子宮内膜症とは,腸管壁に子宮内膜症が異所性に発育・増殖する非腫瘍性疾患であり,稀少部位子宮内膜症の一つである.好発年齢は30歳から50歳で,主訴は腹痛が最も多く,次いで血便が多い.発生部位では直腸とS状結腸が最も多く,解剖学的に子宮に近い腸管に発生していると報告されている 1

内視鏡像としては,正常粘膜に覆われた粘膜下腫瘍様の隆起性病変として観察され,時にひだの引きつれを伴う圧排性変化,狭小像として観察される.病変が粘膜表層に及ぶと,発赤調の粗造粘膜として観察され,月経周期に伴い内視鏡像の変化が捉えられれば診断の補助となることが報告されており 2,月経直前には病変部の粘膜が浮腫状に変化し発赤を認め,月経期間中には粘膜下出血を認めると報告されている 3.しかしこれらの内視鏡像は非特異的であり,転移性腫瘍やGISTを含めた粘膜下腫瘍,悪性リンパ腫などとの鑑別が必要である.自験例では粘膜がやや発赤調の粘膜下腫瘍様隆起として観察されたが明らかな出血なども認めず,粘膜下の暗紫色は,子宮内膜からの出血による血腫であるブルーベリー斑の可能性も考えられたが,内視鏡像のみでは悪性疾患の鑑別が必要であった.多くの病変では主座が粘膜下より以深であり,組織学的に腸管子宮内膜症と診断された患者のうち約半数が漿膜下に結節状病変を認め,粘膜まで達していたのは10%前後であったとの報告がある 4),5.内視鏡下生検で子宮内膜組織を認める頻度は9%と低率であるが 2,直腸やS状結腸の場合では約30%との報告もある 5

EUSでは,子宮内膜症の病巣が,漿膜および固有筋層を主に存在するため,第4層以深の比較的明瞭な低エコー像を呈する場合が多いが,病巣が粘膜表面に伸展するに伴い,表面の層構造は消失するとの報告がある 6)~8.また青柳らは内膜症の腸壁内主座をまとめており,固有筋層から漿膜下組織が最も多く,次いで粘膜下組織から漿膜下組織,固有筋層,粘膜下組織から固有筋層の順に多く認めると報告している 9.自験例では第3層に主座を置く低エコー像として認識されており,粘膜下組織に主座を置いていた.また腸管子宮内膜症に対してEUS-FNAが有用であるとの報告もあり 6),10,子宮内膜組織を採取できれば自験例のように手術を回避できる可能性がある.

その他の画像診断としてMRIが診断に有用である報告もある 11.T1強調画像で肥厚した腸管壁の中に高信号の囊胞性変化を示すことが知られており,これは囊胞内の出血性変化を示唆している.しかし稀少部位子宮内膜症は卵巣病変ほど出血性嚢胞を形成することは珍しく,出血成分は非常に小さいかあるいは全くみられないこともあると言われており 12,自験例の様に出血性変化が乏しかった場合はT1強調画像で高信号が指摘できない可能性もある.

治療法は大きく分けると手術療法と薬物療法がある.薬物療法としては,低用量ピルやダナゾール,ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アゴニストが第一選択薬として使用されていたが 13,近年,長期投与が可能なジエノゲストが子宮内膜症に対して使用されている.ジエノゲストはプロゲステロン作用の特異性が高くアンドロゲン作用などの副作用が少ない特徴により,単独で長期に使用可能であり,特に血栓症のリスクという観点から低容量ピルが使用しにくい40歳代の症例では有用な薬剤であり,稀少部位子宮内膜症にも有効であると考えられている 14.しかし根治性はなく,薬物療法で症状が改善しない例,閉塞症状が高度な例,挙児希望がある例や悪性を否定できない例は手術療法を選択されることが多い.手術療法は病巣の一部のみを切除する保存的手術療法と,それに加えて子宮全摘・両側付属器切除を行う根治療法がある.根本的な治療を行うことで,約80-90%症状の改善が得られるとの報告もあるが,病巣を完全に除去した場合でも,約30-40%は術後数年以内に再発するとの報告もあり,若年者では再発率が高率である 15),16.また薬物療法が一度著効しても再発する例や,経過中の悪性化の報告もされている 17),18ため,長期化した場合は外科的切除も考慮する必要があり,治療選択については個々の患者背景を踏まえた上で慎重な配慮が必要である.2018年10月には稀少部位子宮内膜症ガイドラインが発行され,直腸・S状結腸子宮内膜症に対する薬物療法は症状の改善・病巣の縮小に有効であり推奨されている.

自験例は40歳代で症状が軽度であったため,薬物療法を選択し,ジエノゲストを投与開始した.その後,排便時の下腹部痛は徐々に消失し,血便も認めなくなった.経時的に下部消化管内視鏡検査を施行し病巣の縮小を認め,内腔からは粘膜下腫瘍様隆起が視認し得なくなったが,再発や悪性化に注意し今後も慎重に経過をみていく必要がある.

腸管子宮内膜症の診断は問診から疑うことが大切であり,各種画像診断や内視鏡検査を検討する必要がある.腹痛のみを主訴とする場合もあるため性成熟期女性の場合は本疾患も念頭に置き大腸の精査も検討する必要があると考えられる.

Ⅴ 結  語

EUS-FNAが診断に有用であり,ジエノゲストが著効した腸管子宮内膜症の1例を報告した.

本症例の要旨の一部は第100回日本消化器内視鏡学会近畿支部例会(2018年5月大阪)で報告した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
© 2020 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
feedback
Top