日本消化器内視鏡学会雑誌
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手技の解説
バイポーラスネアを用いた十二指腸EMRのコツ
野中 哲 小田 一郎斎藤 豊
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2020 年 62 巻 11 号 p. 2965-2971

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要旨

十二指腸の内視鏡治療は,消化管の内視鏡治療の中で最も難しいとされている.現在,内視鏡的粘膜下層剝離術(Endoscopic submucosal dissection;ESD)は日本において広く普及しており,筆者らの施設はESDのパイオニアのひとつであるが,十二指腸においては積極的にESDを施行しない立場であり,バイポーラスネアを用いた十二指腸EMRを主に選択している.バイポーラスネアは,高周波電流がスネアとシース先端部にのみ流れるため,筋層方向への焼灼=組織のダメージがほとんどない.スネアを絞扼したあとに,5-10秒かけてかなりゆっくりと切除する.バイポーラスネアEMRの最大のメリットは後出血割合が低いことであると考えている.内視鏡手技としては通常のEMRと同様であり,使用するスネアやセッティングが異なるのみである.後出血リスクは非常に低く,安全な内視鏡治療が可能であり,多くの施設で汎用できると考えている.

Ⅰ はじめに

十二指腸の内視鏡治療は,消化管の内視鏡治療の中で最も難しいとされている.その理由としては,管腔が狭く,急峻な屈曲部のため,スコープの操作性が不安定であること,粘膜下層のブルンネル腺の存在により局注による良好な膨隆が得られにくいこと,筋層が薄く穿孔・遅発性穿孔の頻度が高いこと,後出血割合が高いこと,などが挙げられる.現在,内視鏡的粘膜下層剝離術(Endoscopic submucosal dissection;ESD)は日本において広く普及しており,胃のみならず食道や大腸にもその適応が広がっている.しかしながら,筆者らの施設はESDのパイオニアのひとつであるが,十二指腸においては積極的にESDを施行しない立場である.なぜなら,前述した要因により,十二指腸ESDは極めて技術的に困難であり,偶発症の頻度が高く,他の消化管に比較して容易に重篤化するからである.これらを解決するために,様々な工夫や方法が検討されているが,現時点での標準的な内視鏡治療は,内視鏡的粘膜切除術(Endoscopic mucosal resection;EMR)であると考えている 1.本稿では当院で主に選択しているバイポーラスネアを用いた十二指腸EMRについて述べる.

Ⅱ 十二指腸における遅発性穿孔と後出血

十二指腸の内視鏡治療において最大の問題点は,技術的困難性(術中穿孔)以外では遅発性穿孔の割合が約5-10%と高いこと 2)~5,次いで後出血割合が約10-20%と高いことである 1),6)~8.EMRやESDの際に高周波電流が少なからず筋層方向へ流れることによる組織の焼灼が発生する.また,潰瘍底が露出した状態で,胆汁・膵液に暴露されると組織が傷害され,その結果,遅発性穿孔や後出血が発生する.これらは切除後潰瘍の閉鎖が完全であれば,そのほとんどを予防できると考えられるため 9,原則として切除後潰瘍はすべて閉鎖する方針としているが,閉鎖が持続できないことも少なくない.偶発症が発生した場合,他臓器よりはるかに重篤化しやすいため,できるだけ十二指腸壁にダメージを与えずに(高周波電流を筋層方向へ流さずに)病変を切除することが理想的である.

ひとたび遅発性穿孔が発生すると,緊急手術を要したり,かりに保存的に加療できたとしても数十日以上の入院を要することが知られている.十二指腸は後腹膜臓器であり,容易に重篤化しやすく,腹膜炎・後腹膜炎から致死的な病態へ進展することもある.また,十二指腸の後出血において,胃と異なるのは,前述の内視鏡切除の技術的要点とほぼ同じであり,管腔が狭く,スコープの操作性が不安定である.大量のコアグラが存在しているときは,出血点の同定すら難しい.止血鉗子やクリップを思い描いたように適切に使用することは,血液・コアグラが充満している十二指腸では本当に難しい.胃の後出血では,出血量は多く,大量のコアグラ貯留もあるが,管腔は広く,ターゲット領域を垂直方向にアプローチすることは多くの場合で可能である.また,食道の後出血は頻度が低く,出血量もそれほど多くない.十二指腸と同様に狭い管腔であるが,直線的であり,コアグラ貯留があっても,胃に落とし込むこともでき,そこまで難渋しない.当然のことであるが,特に十二指腸ではできるだけ後出血がないようにしたいという願いは,十二指腸の内視鏡治療に関わるすべての内視鏡医の共通のものであろう.

Ⅲ バイポーラスネアを用いたEMRのメリット

現在選択可能な内視鏡治療手技としては,高周波装置を用いない機械的切除術であるcold forceps polypectomy(CFP)とcold snare polypectomy(CSP),高周波装置を用いた電気的切除術であるpolypectomy(hot snare polypectomy),EMR(underwater EMR含む),ESDおよび腹腔鏡内視鏡合同手術(laparoscopy and endoscopy cooperative surgery;LECS)などが挙げられる.腫瘍径5mm以下はCFP・CSP・EMR,10mm以下はCSP・EMR,10-20mmはEMR・ESD,20mm以上はEMR・ESD・LECS・外科手術などが一般的な選択だろう.腫瘍径や部位,瘢痕の有無などにより適切な方法を各医療機関が独自に選択しているのが現状である.多くの意見があり,当然のことであるが分割切除は容認しない,ESDは原則施行しない,サイズの大きい病変は外科手術を適応する,など様々である.それぞれの治療法に長所短所があり,術者の熟練度や経験,コメディカルを含む内視鏡チームの習熟・経験,医療機関としてのポリシー,などにより判断されればよいと考える.

バイポーラスネア(DRAGONARE,Size:10mm/13mm/20mm/26mm, XEMEX, ZEON medical INC., Tokyo, Japan)は,高周波電流がスネアとシース先端部にのみ流れるため,筋層方向への焼灼=組織のダメージがほとんどない.ESDナイフや様々なスネアはほぼすべてモノポーラデバイスであり,バイポーラデバイスに比べて切除能力・凝固能力が高いのは当然であるが,そのかわり深部方向への組織のダメージが発生してしまう.大腸EMRにおいてバイポーラスネアの安全性・有用性が報告されているが,後出血割合および穿孔割合はモノポーラスネアと同等であった 10.当院でも大腸の多発ポリープに対するバイポーラスネアEMRを以前より導入していたが,後出血がより少ないという実感を得ており,バイポーラスネアEMRの最大のメリットは後出血割合が低いことであると考えている.それはおそらく前述のような原理が主に寄与していると推測され,私見ではあるが,ある程度の厚さが保たれている粘膜下層が熱損傷を受けずに消化管に露出していても,その潰瘍底からEMR後に血管が破綻して出血をきたす頻度は低いと考えられる.どの臓器よりも後出血割合が高く,かつ止血困難な状況に遭遇しやすい十二指腸に適応したらよいのではないかと考えたことが,2012年にバイポーラスネアEMRをスタートしたきっかけである.現在は,基本的にバイポーラスネアによるEMRを行っているが,10mm以下(特に5mm以下)の腺腫に対してはcold snare polypectomyを選択することもあり,またunderwater EMRも特に線維化を有する病変(局注で膨隆不良)に対して行うことがある.

Ⅳ バイポーラスネアを用いたEMRの実際

1 セッティング

・スコープ(何を重視するかで選択する).

-ダウンアングル→下部スコープ,GIF-H290T(オリンパス社).

-右チャンネル→マルチベンディングスコープ,2チャンネルスコープ.

-反転操作→細径スコープ(GIF-H290(径8.9mm),Q260(径9.2mm)(オリンパス社)など).・局注液:生理食塩水,グリセオール.

・先端フード:エラスティックタッチ(トップ社).

・高周波装置設定(対極板は装着せずに施行する).

-VIO3(ERBE;Elektromedizin, Tübingen, Germany)Forced Coag,Effect 2.0~2.5.

-VIO300D Forced Coag,Effect,20W.

・スネア.

-DRAGONARE(XEMEX, ZEON medical INC., Tokyo, Japan)(Figure 1)Size:10mm,13mm,20mm,26mm.

Figure 1 

バイポーラスネア(DRAGONARE, XEMEX, ZEON medical INC., Tokyo, Japan).

バイポーラスネアを用いること以外は通常のEMRと同じである 11.スコープ選択は,病変の性状や部位により,何を優先するかでスコープ選択が変わるため,術者の判断が重要である.スネアリングには柔らかい膨隆形成が適しており,ヒアルロン酸ナトリウムなどの比較的硬く膨隆形成が長時間保持される局注液より生理食塩水やグリセオールがよいと筆者らは考えている.VIO300Dでの設定はForced Coag,Effect 3,20W(モノポーラ設定),VIO3ではForced Coag,Effect 2.0~2.5(モノポーラ設定)を使用している.重要なことは対極板を使用しないことであり,それによりスネアとシース先端部にのみ高周波電流が流れるようになっている.もし,いつもの習慣で対極板を使用してしまうと,バイポーラスネアを用いているにもかかわらず,普通のモノポーラスネアとして切除されてしまうということである.その場合,瞬時に切除されてしまうため,バイポーラスネアを用いてゆっくり切除することによる切除後潰瘍の縮小効果が得られない.セッティングが大切であるため,介助者をはじめとするチーム全体での共通認識が必要である.

2 スネアリングのコツ

スネアを絞扼したあとに,5-10秒かけてかなりゆっくりと切除する(イメージとしてはジュワーッと蒸し焼きにする).モノポーラスネアでは長い通電時間にしてしまうと,高周波電流が筋層方向へ行ってしまうため,過通電・過焼灼となり危険であるが,バイポーラスネアでは筋層方向へはほとんど通電しないため,長い通電時間で切除することが可能になる.モノポーラスネアよりは切れ味が劣るため,実際にはゆっくりと切除する.結果として,EMR後の潰瘍がモノポーラスネアによるEMR後潰瘍に比べて,かなり小さくなる(Figure 23).特に長軸方向に縮むように切れるので,円形の潰瘍ではなく,短軸方向に細長い潰瘍(ケルクリング襞と平行)を呈することが多い.その結果,EMR後潰瘍の閉鎖が容易になることも大きなメリットである.ただ,時間経過とともにEMR後潰瘍は徐々に長軸方向へ開いていくため,潰瘍閉鎖を切除後直ちに行うことがタイミングとしても最もよいと言える.しかしながら,バイポーラスネアを用いたとしても,当院では十二指腸のEMR後潰瘍は原則としてすべて閉鎖することとしているため,家族性大腸腺腫症(FAP)患者の多発十二指腸腫瘍(主には腺腫)に対する小病変に対する複数個のEMR(またはpolypectomy)を一期的に行う場合以外では,全例で閉鎖を試みている 1),12

Figure 2 

十二指腸下行部後壁0-Ⅱa M 10mm前医生検は腺腫.

a:WLI像.

b:インジゴカルミン撒布像.

c:グリセオール局注後.

d,e:バイポーラスネア13mmを使用し,絞扼した.ゆっくり通電して切除する(サイズにもよるが5-10秒を目安).

f:切除後潰瘍底.モノポーラスネアによるものと異なり,短軸方向に細長い形状を呈する.

g:クリップにて完全閉鎖した.

h:切除検体.最終病理診断:Tubular adenoma, intestinal type, Category 3 Vienna classification,8×6mm,切除断端陰性.

Figure 3 

十二指腸下行部後壁乳頭対側 0-Ⅱa M 30mm生検腺腫.バイポーラスネアによる計画的分割切除を施行した.乳頭対側の白色領域がひきつれを呈しており(前医にて複数個の生検施行あり),同部位での線維化が予想された.

a:WLI像.

b:インジゴカルミン撒布像.

c:NBI非拡大像.

d:NBI拡大像 中心部口側の白色領域 一部で白色化を認める.

e:NBI拡大像 4の外壁側 異型血管の増生を認める.

f:後壁側からの切除を計画し,グリセオールを局注.

g,h,i,j,k:バイポーラスネア13mmを使用し,絞扼した.ゆっくり通電して切除する(サイズにもよるが5-10秒を目安).瘢痕部を回るように4分割切除した.

l:切除後潰瘍底.内視鏡的に遺残がないことを確認した.

m,n:単純なクリップ閉鎖は角度が合わず,留置スネアを併用して完全閉鎖した.

o:切除検体.最終病理診断:Well differentiated adenocarcinoma, low grade atypia:38×22mm(再構築検体),pM,ly0,v0,pHMX,pVMX.

p,q:EMRから4.5年後の内視鏡像 局所再発所見は認めない.

2000-2019年に非乳頭部十二指腸腺腫・がんに対してEMRを施行した272症例410病変(FAP39症例165病変を含む)を対象として病変ベースで検討したところ,後出血割合はモノポーラ群で10%(16/160),バイポーラ群で1.6%(4/250)であり,有意に低かった(P<0.01).また,予防的潰瘍閉鎖を行っていない場合においても,モノポーラ群で17%(3/18),バイポーラ群で0%(0/71)であり,有意に低かった(P<0.01).また,多変量解析では,モノポーラスネア,分割切除が後出血に対する独立危険因子であった(Table 1).それはすなわち,バイポーラスネア,一括切除が後出血を減少させたということである.筆者らの経験でも,バイポーラスネアで一括切除&潰瘍閉鎖した症例では1例にのみ後出血を認めており,後出血の可能性は非常に低い(0.4%:1/250).当院では,EMRによる遅発性穿孔は1例も発生していないため,遅発性穿孔に対するバイポーラスネアの有用性は検討できない.バイポーラスネアを用いたEMRは2012年に導入し,徐々にその割合が高くなり,現在は基本的にすべての十二指腸EMRをバイポーラスネアによって施行している.

Table 1 

多変量解析 後出血に対する因子.

Ⅴ まとめ

当科で主に施行しているバイポーラスネアを用いた十二指腸EMRについて解説した.後出血リスクは非常に低く,安全な内視鏡治療が可能である.内視鏡手技としては通常のEMRと同様であり,使用するスネアやセッティングが異なるのみである.当科における実臨床での成績や感触は非常によいことから,多くの施設で汎用できると考えている.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
© 2020 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
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