2020 年 62 巻 11 号 p. 2972-2979
潰瘍性大腸炎の患者数増加や長期経過例増加,内科治療進歩による手術回避例増加により,サーベイランス内視鏡(SC)の必要性は今後益々高まり,手技の効率化が必要である.narrow band imaging(NBI)によるSCは,欧米の過去のstudyでは有用性が示されていなかったが,2012年に第2世代のNBI機器が市販化され,画質の向上や遠景が明るくなることにより,日常臨床で全大腸NBI観察によるSC(NBI-SC)が行い易くなった.われわれは本邦の多施設前向きランダム化比較試験(Navigator Study)で,世界で最もエビデンスがあり高精度とされている全大腸色素内視鏡によるSCに対し,NBI-SCは腫瘍性病変やUC関連腫瘍の発見率が劣らず,検査時間は有意に短いことを示した.本稿ではNBI-SCの手技の手順やコツに留まらず,その前提となる患者の診療方針やSCの目標についても述べた.
潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC)の国内患者数は増加の一途を辿り,特定疾患の中で最多の20万人を超えたとされ,世界的にも米国に次いで世界第2位の患者数と言われている.その治療の進歩は近年目覚ましく,抗TNFα抗体製剤以降も,ヤヌスキナーゼ阻害剤,抗α4βインテグリン抗体製剤,抗IL-12/23p40抗体製剤と,毎年のように新たな作用機序の薬剤が承認されている.UC治療の基本である従来治療に加えて,これらの新規薬剤が加わったことで,ステロイド抵抗例やステロイド依存例に代表される難治例の治療成績も大きく向上し,外科手術を回避できる割合が増している.一方,国内の長期経過UC例は確実に増加しており,高齢患者が増えてきている.こうした状況を背景に,今後さらに重要性を増すと思われるのが,UC関連の癌やdysplasia(colitis associated cancer/dysplasia:CC/D)の早期発見のために行うサーベイランス内視鏡(surveillance colonoscopy:SC)である 1),2).
良性疾患であるUCにおいて,CC/Dは血栓症などとともに致死的な合併症であり,上記の状況を背景に,SCの対象患者は今後,益々増え続ける.このため,SCには精度向上のみならず効率化も大切な要素となってくる.SCの効率化には2つの側面があり,1つは対象患者のハイリスク群の設定やSC施行間隔の設定である.本稿は手技の解説なので,詳細は触れないが,慢性に活動性炎症が持続する例や強い炎症が治癒した後の萎縮を伴う瘢痕の内視鏡所見を有する例がCC/Dのハイリスクと筆者は考えている 3).また,本邦の炎症性腸疾患ガイドラインでは1~2年毎のSC施行が推奨されている 4).もう1つの側面はSC手技の効率化であり,SC観察法や生検法が該当する.本稿では,この効率的なSC法として,全大腸NBI観察によるSC手技を紹介させて頂く 5).なお,生検については本法の多施設共同前向きランダム化比較試験により狙撃生検の有用性が示されているが 6),臨床現場で狙撃生検のみのSCを施行するか,ランダム生検を含めるかは,術者の考え方や技量によって異なる.筆者は狙撃生検のみによるSCを行っており,後述する.
サーベイランス内視鏡とは,非腫瘍のUC背景粘膜から腫瘍性病変の可能性がある所見を見出す作業であり,その視認性向上のためには,非腫瘍と腫瘍の境界(demarcation)を明瞭にすることが前提となる.そのためには非腫瘍のUC背景粘膜の炎症をできるだけ消退させ,内視鏡的寛解の状態を保つ内科的治療を行っておく必要がある 1),7).UCに対するSCの精度向上には,高い内視鏡観察技術の他に,多数のUC例数を診療していることや,こうしたUC内科治療に長けていることが必要なのである.昨今の炎症性腸疾患診療の世界では,“treat-to-target” として,客観的な内視鏡的寛解などを治療目標に,内視鏡検査などの客観的モニタリングを計画的に施行し,その結果に応じて治療内容を変更しながら治療目標を達成する診療方針が受け入れられてきている 8),9).UCに対するSCは,こうした “treat-to-target” 戦略による診療の一環として,少なくとも臨床的寛解,できれば内視鏡的寛解の時期に,計画的に施行されることが望ましい.
本稿は全大腸narrow band imaging(NBI)観察によるSCの手技解説を目的とするため,治療については細かく述べないが,内視鏡的切除を試みることができる段階でCC/Dを発見することをSCの目標と設定するなら,low grade dysplasiaの段階で発見することを日常臨床におけるSCの目標と設定すべきである 10).CC/Dに対する内視鏡観察による範囲診断や深達度診断は未確立で,生検でhigh grade dysplasiaであっても,実際には浸潤癌である可能性もあるからである.筆者自身は径5mm以下の段階でlow grade dysplasiaを発見することを日常臨床におけるSCの目標として設定している.この観点に立ったとき,上述のように非腫瘍の背景粘膜と腫瘍であるCC/Dのdemarcationの視認性を向上する内視鏡観察法が望ましいことは明らかである.近年,内視鏡機器の発達に伴い,色素内視鏡観察を用いず,白色光観察でも十分である,との論調もあるが 11),どのような病変を発見しているかによって,当然,データは異なってくる.比較的明瞭な病変を主体に発見率のデータを算出していれば,2群間の差は小さくなるのであり,世界をリードする高い内視鏡技術を有する本邦の消化器内視鏡医であれば,是非,精度の高い内視鏡観察でなければ発見困難なCC/Dの視認を,UCにおけるSCの目標として設定して頂きたいと願っている 2).
エビデンスを伴った高精度のSC観察法として世界的に認識されているのは,2004年にRutterらが発表した全大腸色素内視鏡によるSCである 12).原法は,全大腸にインジゴカルミン溶液を散布(panchromoendoscopy)するもので,SCにおける世界的コンセンサスであるSCENIC(Surveillance for Colorectal Endoscopic Neoplasia Detection and Management in Inflammatory Bowel Disease Patients: International Consensus Recommendations)consensusでも認められている 13).しかし,理想的なpanchromoendoscopyによるSCを実践しようとすれば,粘液が多く内視鏡前処置不良例の頻度が高いUCにおいては,内視鏡観察中の粘液の洗浄をしっかり行った後に色素散布を行うことが必要で,検査時間の大幅な延長をもたらすことになっていた.太径の前方送水機能を有する内視鏡に色素散布カテーテルを挿入したままで,前方送水機能による洗浄と吸引を繰り返しながら色素散布を行うことで,時間的にはある程度短縮可能だが,一旦色素を散布すると,白色光観察に戻りたいと思った場合には,再度洗浄が必要になる.このため,本邦のIBD専門施設のSCでは,CC/Dの頻度が高いS状結腸から直腸に限って色素散布を行うSCを施行している施設も散見される.
一方,NBI開発以降,NBIを用いたSCは,白色光観察に対して上乗せ効果を見出せず,上述のSCENIC consensusでもNBIによるSCは推奨されていなかった 13).筆者は以前から全大腸NBI観察によるSCを日常臨床で施行していたが 14),2012年に第2世代のNBI機器が発売されるのを契機に,全大腸色素内視鏡観察群vs全大腸NBI観察群による多施設共同前向きランダム化比較試験(Navigator Study)を非劣性試験で行った 15).その結果の概要は,全大腸NBI観察群のCC/D発見率は全大腸色素内視鏡観察群に劣らず(数的には有意差はないが勝っていた),全内視鏡検査時間は全大腸NBI観察群が有意に短い(約15分/例)というものであった.このNavigator Studyから導けた結果は,「内視鏡的寛解に近いUCにおいて,全大腸NBI観察のトレーニングを受けた内視鏡医は,全大腸色素内視鏡観察に代わって,全大腸NBI観察によるSCを施行しても良く,その検査時間は有意に短い」というものであった.
以上をまとめると,高精度でlow grade dysplasiaを発見目標とするようなSCにおいては,色素内視鏡観察ないしNBI観察によるSCを行うべきで,全大腸NBI観察に慣れていれば,後者の検査時間は前者より有意に短縮されるということである.実際,UC以外の通常の大腸腫瘍においても,第2世代のNBIは白色光より腫瘍発見率が勝るとの最近のmeta-analysisがある 16).
2020年5月現在,われわれは第2世代のNBIスコープとして,CF-HQ290ZI(オリンパス株式会社製)を頻用している.ハイビジョン対応の高画質に加え,鉗子口径が3.7mmと太く,前方送水機能を有し,下記の全大腸NBI観察に最適と考えているからである.残渣の多いUC症例では,鉗子口径が太いことも,大切な要素と考えている.
少なくとも拡大内視鏡は用いるべきである.全大腸NBI観察は,幾つかのステップがあるSCにおいて,最も重要な最初のdetectionの第1段階を担うものであり,そこで視認された「CC/Dの可能性がある病変」は,すぐにNBI拡大観察にて色素内視鏡による質的診断を行うべき病変か,内視鏡的に鑑別される.腫瘍と非腫瘍のdemarcationの観察や質的診断を試み,精度を高めるためには拡大内視鏡を用いるべきであると筆者は考えている 3).
なお,日常臨床で全大腸NBI観察を行うには,事前に20例程度の練習を行ってから本格的に導入した方が良いと考えている.慣れてくれば白色光に切り替えなくても,切り替えた場合にどのような所見を呈するか,NBI画面だけで想起できるようになり,白色光に切り替えた写真の撮影枚数が減ってくる.
UCにおけるSCは,detection, characterization, diagnosis, treatmentの4段階に分かれるが,NBIによるSCは,detection(CC/Dの可能性がある所見の視認)とcharacterization(質的診断)に関わってくる.本邦のガイドラインでは,罹病期間8年以上の左側大腸炎型ないし全大腸炎型のUCを対象に,1~2年間隔でSCを施行することを推奨している 4).
上述の如く,内視鏡的寛解に近いと思われる活動性のUC患者に適切な前処置を施行し,SCを行う.良性疾患であるUCでは長期に亘り,繰り返し内視鏡検査を要するため,必要に応じて適切なsedationを行うことも肝要で,強い疼痛を与えると,次回のSCを被験者が敬遠するようになる.
まず盲腸ないし回腸終末部まで白色光で原則としてCO2送気を用いて,挿入する.盲腸でNBIに切り替え,そのまま直腸まで問題ある所見を見つけない限り,NBI観察のみで抜去してくる.その際,幾つかのポイントがある.
(1)赤色の残渣は前方送水で洗浄:全大腸NBI観察で最もストレスになると耳にするのが,赤色の残便,残渣の存在である.ただ筆者は,こうした赤色残渣が存在する部位は,白色光においても粘膜面の観察が不十分になる部位であり,NBIではまさに “red flag” として,洗浄すべき部位を分かり易く示してくれていると捉えている.寛解期でも粘液が多いUCでは,こうした赤色残便は非UC例よりも頻度が高い.このため,その患者にとって適切な前処置法を,次回SCのためにカルテに記載しておくこともコツである.赤色残渣の洗浄には,フットスイッチによる前方送水機能が簡便で(Figure 1-a~c),それでは十分に洗浄ができない残渣のみ,シリンジによる鉗子口からの送水で洗浄する.
NBIサーベイランス内視鏡における前方送水機能を用いた赤色残渣の洗浄.
a:NBI観察では赤色の残渣,残便を認めることが多い.こうした部分は,白色光においても粘膜の観察が不十分となる部位であり,NBIでは赤色で明瞭に認識される.
b:前方送水機能(極薄く消泡剤を混ぜる)を用いて粘膜面が見えるまで洗浄と吸引を繰り返す.
c:洗浄後は粘膜面の所見が明瞭に見えるようになる.
(2)surface patternによるdetection:全大腸NBI観察によるSCにおけるdetectionは,vessel patternでなく,surface patternでCC/Dの可能性のある所見を視認するように観察する.vessel patternは,UCによる炎症でも修飾を受け,異型度が低い病変では腫瘍を示唆する所見が乏しいためである.逆に言えば,vessel patternの細かな変化は,過去の炎症進展範囲を認識することにも有用である.
もちろん粗大なCC/Dでは,色調の変化や病変の高低差でも視認できるが,先述のようにCC/Dを早期のlow grade dysplasiaの段階で発見しようとした場合,どうしても平坦な病変の頻度が高くなる.NBI観察でもCC/Dは茶色調を呈することが多く,白色光に比べ視認性が向上することが多い.NBI観察で腫瘍性病変の可能性があるsurface patternを見つけ出すことから,実際のdetectionは始まる(Figure 2-a,b) 17).CC/Dは内視鏡所見はUC非関連のsporadicな腫瘍性病変より多様で,1病変内にも様々な所見を認める場合がある.detectionにおいては,最も異型度が高い,腫瘍性病変を示唆するsurface patternがきっかけとなることが多い.
NBIサーベイランス内視鏡による腫瘍性病変のdetection.白色光観察(a)に比べ,NBI観察(b)では茶色調に視認されることが多く,視認性が向上する.
(3)基本に忠実ならせん状回旋による内視鏡観察:NBI観察でsurface patternの視認性を向上するためには,粘膜との距離感が大切で,surface patternにピントが合うように,粘膜との適正な距離を保ちながら,基本に忠実に,らせん状に内視鏡先端を回旋させつつ抜去してくる.瘢痕や萎縮が著明なハイリスクの粘膜などにおいて観察の精度を高めたい場合には,若干拡大倍率を上げた状態でらせん状観察を続けると,粘膜のsurface patternがより明瞭になる(Figure 3-a,b).
NBIサーベイランス内視鏡では,遠景で管腔全体を俯瞰するような観察(a)ではなく,surface patternにピントが合うような粘膜との距離感(b:必要に応じて僅かに拡大倍率を上げる)を保ちながら,基本に忠実にらせん状に内視鏡先端を回旋させつつ観察することで,病変の視認性がさらに向上する.
(4)連続したNBI拡大観察で色素拡大内視鏡観察を行うべき病変か絞り込む:こうした内視鏡観察で発見した所見に対し,NBI拡大観察を連続して行う(Figure 4-a,b).この際の観察ポイントは,demarcation lineや異型度の高い部位の拡大観察で,最大倍率の観察は必須ではなく,ピントが合い易い低倍率の観察で,通常は十分である.
NBIサーベイランス内視鏡による病変の観察手順.
茶色調に視認された病変(a)に対して,そのままNBI拡大観察による質的内視鏡診断(第1段階)を行い,色素拡大内視鏡観察を行うべき腫瘍性病変の可能性がある病変か絞り込む(b).病変を非腫瘍の背景粘膜から腫瘍性病変に向かって全周性に辺縁を観察し,腫瘍性病変を示唆する所見の有無の他,潰瘍性大腸炎関連腫瘍に見られることが多い不明瞭な辺縁やtype ⅣH様所見などの有無を観察する.こうして絞り込んだ病変に対して高濃度インジゴカルミン溶液による色素内視鏡観察を行う(c).範囲診断はインジゴカルミンの方が容易であることが多く,背景粘膜から病変に対して全周性にdemarcation lineを観察する(d).最後に行うクリスタルバイオレット溶液による色素拡大内視鏡観察でも辺縁の不明瞭な部位を認め(e),最も異型度が高いと思われる部位の観察から病変の質的診断を試みる(f).本病変はp53抗体染色陰性だったが,Ki-67染色で増殖帯がbottom-up typeを示し,low grade dysplasiaと病理診断された.
こうしてdetectされ,CC/Dを含む腫瘍性病変の可能性があると判断された病変は,時間をかけてでも色素内視鏡観察を行う.
(1)まず高濃度のインジゴカルミン溶液散布による観察:病変のdemarcation lineの観察には,インジゴカルミン溶液が適している.その際,低濃度では所見がぼやけるため,高濃度の溶液を用いる 10).筆者はインジゴカルミン注射液のアンプル原液(0.4%)を鉗子口から散布している.
内視鏡観察は異型度の低い辺縁から全周性に行う.demarcation lineが不明瞭な部位の存在(Figure 4-c~e)や,腺管の間隔が開大したtype ⅣH様の所見(Figure 4-f)がUC関連のCC/Dを示唆する所見となる.
(2)染色法による質的診断の試み:次にクリスタルバイオレット溶液等による質的診断(精査)を試みることになる.この際,病変辺縁のdemarcation lineや異型度の低い部位も観察するが,観察の主体は腺管密度が上昇した異型度の高い部位(Figure 4-f)で,病変の悪性度を推測する.先述の如くCC/Dの質的診断は未確立の分野であるが,病理所見を類推しながら質的診断を試み,その結果を病理所見と対比することは,SCの技術向上に重要である.
(3)意図を持った狙撃生検:最後に狙撃生検を行う.まずUC関連腫瘍か否かの鑑別には,異型度の低い辺縁部位で,type ⅣH様の所見の部位などを狙撃生検する.次に病変の悪性度を確認する目的で,最も異型度の高い部位を狙撃生検する.後日,total biopsy目的の内視鏡的切除の可能性がある場合には,生検鉗子を最大に開いた生検でなく,半分くらい開いた生検を心掛ける.また,low grade dysplasiaが予測される病変では,病理診断の比較対照として,辺縁の明らかに非腫瘍と思われる部位も生検しておく.
本稿では述べないが,信頼できる病理医との協力はSCの精度向上の重要な事項である.SCの技術が向上すればするほど,病理学的にUC関連病変か否かを鑑別することが抗p53抗体による免疫染色を用いても困難な病変が増えることが,ジレンマとなる.
過去にはイメージだけで敬遠されることが多かった全大腸NBI観察によるSCだが,特に第2世代のNBI機器が登場して,遠景も明瞭に観察できるようになり,内視鏡技術やSCに対して意欲のある若手の消化器内視鏡医を中心に,日常臨床で全大腸NBI観察を施行する医師が増えている.むしろ炎症性腸疾患専門医でない医師の方が,先入観なしに取り組んで頂いているように思える.
“treat-to-target” のUC診療戦略において内視鏡検査は重要な位置を占め,治療前後の内視鏡所見の比較提示による患者説明は,患者にとって非常に理解し易く,診療への理解や協力を高めると実感している.SCは,こうした客観的モニタリングとしての内視鏡検査の際に行うことが基本である.
この分野の今後の進歩のためには,CC/Dに特化した内視鏡所見分類の開発も重要で,Navigator Study 2として,消化器内視鏡専門医,炎症性腸疾患専門医,病理医の協力したstudy groupで,内視鏡診断アルゴリズムを含めて開発を行っている 15).SCの研究では欧米の後塵を拝することが多かった本邦だが,臨床現場で真に有用な知見を発信して参りたい.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし