日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
アルコール性重症膵炎に伴う巨大被包化壊死に対するlumen-apposing metal stentの使用経験
松永 和大 辻 重継平井 博和増永 哲平宮島 沙織脇田 重徳木藤 陽介土山 寿志
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2020 年 62 巻 2 号 p. 173-178

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要旨

症例は59歳,男性.アルコール性重症急性膵炎に対する集学的治療後に巨大な被包化壊死を形成した.経皮的および経胃的にドレナージするも効果不十分であり,lumen-apposing metal stentを用いて経胃的ドレナージおよび内視鏡的ネクロセクトミーを追加し改善を得た.Lumen-apposing metal stentは使用可能となって間もなく,その使用経験について報告する.

Ⅰ 緒  言

2011年にBinmoellerらは超音波内視鏡ガイド下治療専用のステントとして,両端に展開されるflangeにより離れた2つの管腔を密着させ,かつfully-covered typeであり液体の漏出を防ぐことが可能なlumen-apposing metal stent(LAMS)を開発した 1.以降,膵周囲液体貯留および胆嚢炎に対するLAMSの臨床応用が報告され 2,本邦では膵周囲液体貯留のみを適応として2017年10月に保険承認,2018年7月に保険償還を獲得し,特定の講習プログラムを受講した医師に限定して臨床での使用が可能となっている.今回われわれはアルコール性重症膵炎に伴う巨大な被包化壊死(walled-off necrosis:WON)に対しLAMS(Hot AXIOSTM)を用いた超音波内視鏡下膵嚢胞ドレナージ術(EUS-guided pancreatic cyst drainage:EUS-CD)および内視鏡的ネクロセクトミー(direct endoscopic necrosectomy:DEN)を施行した症例を経験し報告する.

Ⅱ 症  例

症例:59歳,男性.

主訴:発熱,腹痛.

既往歴:アルコール性急性膵炎の入院加療歴2回.

飲酒歴:大酒家.

喫煙歴:20本/日,30年間.

家族歴:特記事項なし.

現病歴:アルコール性重症急性膵炎で入院となり,集学的治療により膵炎は改善し一旦退院となったものの,上腹部から左右側腹部および骨盤腔まで連なる巨大なWONを形成し再入院となった(Figure 1-a,b).右水腎症を併発していたため第1病日に尿管ステントを留置した.WONに対しては第4病日に右季肋部および第18病日に左側腹部からの経皮的ドレナージ術を施行し,第30病日には経胃的にプラスチックステントを用いたEUS-CDを施行した(Figure 2).外瘻チューブより生理食塩水で連日洗浄するも,頻回にチューブ閉塞を認めドレナージ不良であった.大口径のドレナージルートが必要と判断し第68病日にLAMSを留置した.スコープはGF TYPE UCT260(Olympus Medical Systems)を用いて,まずスネアで以前に留置したプラスチックステントを1本抜去し,瘻孔からガイドワイヤー(VisiGlide 2TM 0.025inchアングル型:Olympus Medical Systems)をWON内に留置した.もう1本のプラスチックステントも抜去し,ガイドワイヤー下に内径15mmのLAMSを通電せずにWON内へ挿入し,遠位側のflangeを展開した.さらに近位側を胃内で展開したところ大量の膿汁が胃内に排出された(Figure 3-a~c).第82病日および第102病日にDENを施行したが,WON内腔へのスコープ挿入は非常に容易であり短時間での効率的な壊死組織の除去が可能であった.実際には,汎用の直視型スコープ(GIF TYPE Q260J:Olympus Medical Systems)に先端アタッチメントを付け,ステント近傍の壊死組織を吸引し胃内に除去,さらにWONの縮小に伴いステント近傍に押し出されてくる奥の壊死組織を再度吸引し胃内に除去することを繰り返すのみであり,従来のDENと比べ非常に容易であった(Figure 4-a~c).上腹部から左右側腹部にかけてのWONは縮小したものの,骨盤腔にかけてのWONが残存し,第100病日にプラスチックステントを用いた経直腸的なEUS-CDを追加した.第125病日にはLAMSを抜去し(留置後58日目),瘻孔維持および嚢胞再発予防を目的にプラスチックステントを再留置した.経過でLAMSに関連した合併症は認めず,巨大なWONは著明に縮小し,第140病日に退院となった(Figure 5).

Figure 1 

腹部単純CT検査(治療前).

a:上腹部に巨大な被包化壊死を認める.

b:被包化壊死は上腹部から連続して直腸背側まで及んでいる.

Figure 2 

腹部レントゲン検査.

経皮および経胃ドレナージチューブと尿管ステントを認める.

Figure 3 

LAMS留置時の透視像および内視鏡像.

a:プラスチックステントを1本抜去し,瘻孔よりガイドワイヤーをWON内に留置した.

b:もう1本のプラスチックステントを抜去し,ガイドワイヤー下にLAMSを通電せずにWON内へ挿入し遠位側のflangeを展開,胃内で近位側のflangeを展開した.

c:胃体部後壁より留置されたlumen-apposing metal stentを認める.

Figure 4 

上部消化管内視鏡検査.

a:ステント近傍に膿汁および壊死組織を認める.

b:先端アタッチメント内に壊死組織を吸引し,胃内に除去した.

c:内視鏡的ネクロセクトミーにより著明に改善している.

Figure 5 

入院経過.

Ⅲ 考  察

2012年に国際コンセンサスをもとに上梓された改訂Atlanta分類では,本症例はWONに分類され 3,本邦における急性膵炎診療ガイドライン2015においては発症4週以降のインターベンション治療が推奨されている 4.治療内容については経皮的もしくは内視鏡的ドレナージから始め,状況により内視鏡的ネクロセクトミー,さらには外科的ネクロセクトミーを施行していくstep up approachが提唱され,低侵襲かつ偶発症が少ない治療法としてコンセンサスが得られており 5,本症例においても大きな偶発症なく治療が可能であった.また巨大で複雑な形態を呈するWONに対するドレナージの追加方法として,multiple transluminal gateway technique(MTGT) 6とsingle transluminal gateway transcystic multiple drainages(SGTMD) 7が提唱されている.MTGTは複数の部位よりドレナージチューブを留置する方法であり,外瘻から生理食塩水を用いて洗浄・灌流を行う場合にはドレナージルートが複数あり洗浄効果を高める利点もあるが,安全に複数の部位を穿刺できることが条件となる.一方,SGTMDは単一の部位からWON内の複数の部位にドレナージチューブを留置する方法であり,WONが消化管から距離がある部位まで進展しており穿刺可能部位が限られる場合においても高いドレナージ効果が期待できる.また2011年にBinmoellerらは超音波内視鏡ガイド下治療専用のステントとして,両端に展開されるflangeにより離れた2つの管腔を密着させ,かつfully-covered typeであり液体の漏出を防ぐことが可能なlumen-apposing metal stent(LAMS)を開発した 1.以降,膵周囲液体貯留および胆嚢炎に対するLAMSの臨床応用が報告された 2.本邦では膵周囲液体貯留のみを適応として2017年10月に保険承認,2018年7月に保険償還を獲得し,特定の講習プログラムを受講した医師に限定して臨床での使用が可能となっている.本症例においては,経皮および経胃的に計3箇所からのドレナージおよび生理食塩水を用いて洗浄・灌流を施行したにも関わらずドレナージ不良であったため,経胃ルートの瘻孔を利用して大口径のLAMSを留置したところ大量の排液が得られた.またDENを施行する際にも,LAMSは大口径であるため汎用上部消化管内視鏡のWON内腔への挿入は非常に容易であり,従来必要であったバルーン拡張や各セッション終了時のプラスチックステント留置も必要なく,短時間で効率的なDENが可能であった.LAMS自体は非常に高価であるものの,瘻孔形成を待たずにDENが施行可能であり,また治療困難なWONに対しては総合的な医療経済効果からも優れていると報告されており 8,前述のstep up approachにおいて内視鏡的ネクロセクトミーが必要と思われる症例においては内視鏡的ドレナージ術に使用するステントとして第一選択となり得る.しかしながら長期間留置されたLAMSは逸脱などのリスクが累積的に増加すると報告されており 9,公式の取扱説明書でも60日以内の留置が推奨されており,本症例でもWONの縮小を確認し留置後58日目に抜去した.また本症例では骨盤腔にWONが残存し,非観血的にLAMSからのSGTMDを予定したが交通部位が著明に縮小しガイドワイヤーの挿入が不能であったため,MTGTとして経直腸的にEUS-CDを追加し全体の改善を得た.

Ⅳ 結  語

巨大なWONに対しLAMSを用いたEUS-CDおよびDENを施行した症例を経験し報告した.治療効果は非常に高く,特にDENを必要とするWONに対する有用性および安全性が確認できた.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:土山寿志(オリンパス(株))

文 献
 
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