日本消化器内視鏡学会雑誌
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急性下部消化管出血に対する緊急下部内視鏡検査と待機的下部内視鏡検査の有効性と安全性
岡 志郎
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2020 年 62 巻 2 号 p. 298

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【背景】急性下部消化管出血に対して,受診後24時間以内に施行する緊急下部内視鏡検査の有効性と安全性は確立されていない.

【目的】急性下部消化管出血患者において,受診後24時間以内に施行する緊急下部内視鏡検査(緊急群)による出血源同定率と受診後24時間後96時間以内に行う待機的内視鏡検査(待機群)による出血源同定率を比較検討した.

【方法】緊急下部内視鏡検査の優越性を検証する本邦15施設オープンラベルランダム化比較試験を行った.主要評価項目は出血源同定とし,副次評価項目は30日以内再出血,内視鏡治療成功の有無,追加内視鏡検査の有無,Interventional Radiologyの必要性,外科手術の必要性,輸血率,入院期間,30日以内血栓塞栓症の発生,30日以内死亡率,腸管洗浄に関連した有害事象,内視鏡に関連した有害事象を検討した.

【結果】2016年7月から2018年5月までに170例が登録され,緊急群81例,待機群81例に割り付けられた.出血源同定率は両群で有意差がなかった(緊急群17/79(21.5%)vs.待機群17/80(21.3%),差分0.3,95%信頼期間-12.5~13.0:p=0.967).30日以内再出血率(緊急群15.3%vs.待機群6.7%),内視鏡治療成功率(緊急群93.3%vs. 待機群100%),輸血率(緊急群38.0%vs.待機群32.5%),平均入院日数(緊急群7.1日vs. 7.6日),30日以内血栓塞栓症(緊急群0%vs.待機群1.3%),30日以内死亡率(緊急群0%vs.待機群0%)に両群間に差を認めなかった.腸管洗浄に関連した有害事象の発生(緊急群45.6%vs.待機群35.1%),下部消化管内視鏡検査に関連した有害事象の発生率(緊急群1.3%vs.待機群0%)であった.

【結語】急性下部消化管出血において24時間以内の緊急下部内視鏡検査は24時間後96時間以内に行う待機的内視鏡検査と比較して出血源同定率および30日以内再出血率を改善しなかった.

《解説》

消化管出血は,診断や治療の遅れが生命の危機に直結することもあり,速やかな出血源の同定と止血処置が要求される.一般的に保存的な薬物治療でコントロール困難な消化管出血は内視鏡的止血術が第一選択であり,中等量以上の出血が認められる場合には,緊急内視鏡検査の適応である.これまで血便を来す疾患群を対象としたstudyにおいて,最終血便から24時間以内の内視鏡検査は出血源同定率を向上させるが,再出血率や入院日数,外科手術移行率,死亡率などの重要なクリニカルアウトカムに影響がないことが報告されている.また,血便を来す疾患群に対する内視鏡検査による出血源同定率は,最終血便から24時間以内で26.4~88.6%で,24時間以上が経過した場合と比較するといずれの臨床研究においても出血源同定率で勝ったと報告されている 2.しかし,これらは単施設の後ろ向き研究が主であり,本研究は初めての多施設・大規模な前向きランダム化比較試験であったことに臨床的意義がある.本研究の結果より急性下部消化管出血では必ずしも24時間以内の緊急下部消化管内視鏡検査は必要ないこと,出血源が同定できれば内視鏡治療成功率が高いことが明らかとなった.これはリスクマネージメントの観点からみても,患者のバイタルの安定と同時に適切な処置がとれる態勢(内視鏡のセッティング,止血器具,薬剤,人員確保など)を整えて,患者に十分なインフォームドコンセントを行い,必要に応じて前処置を施行した上で内視鏡検査を行うことを支持する結果といえる.ただし,本研究では血便をきたす対象疾患として,大腸憩室出血,腫瘍,感染性腸炎などの様々な病変が含まれている点に関して注意が必要である.臨床の現場では,患者背景,出血の状況,重症度を正確に見極めて適切なタイミングで内視鏡検査を行うことが重要であることはいうまでもない.多量の血便を何回か認める場合は間欠的に動脈性出血が続いている状態であり,バイタルが安定しても対応が遅くなれば出血性ショックに伴う血圧低下,頻脈,意識低下を生じうる.一方,少量の新鮮血や有形黒色便は,出血から長い時間経過が考えられるため緊急内視鏡検査は不要であり待機的に対応可能である.また,術者は出血の性状に応じた適切な内視鏡的止血法の選択と止血操作に習熟しておく必要がある.

文 献
 
© 2020 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
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