要旨
症例は76歳女性で,吐血・黒色便を主訴に入院となった.オスラー病にて当院外来通院中であった.胃毛細血管拡張部より頻回にoozingを認め,輸血療法や内視鏡的止血術(高周波止血鉗子法・アルゴンプラズマ凝固など)を繰り返されていた.潰瘍瘢痕形成による胃毛細血管拡張の消失と処置時間の短縮を期待して内視鏡的バンド結紮術(endscopic band ligation:EBL)を施行した.EBLによる潰瘍瘢痕形成が得られた部分には胃毛細血管拡張の再発が消失した.オスラー病の胃毛細血管拡張に対するEBL治療は有用な治療法と考えられた.
Ⅰ 緒 言
オスラー病の発症頻度は本邦の報告では5,000~8,000人に1人
1)という比較的稀な疾患であり,常染色体優性遺伝,皮膚粘膜や内臓の多発末梢性血管拡張,反復する出血を3主徴とする
2)~4).消化管病変としては毛細血管拡張が主体であり出血の際には内視鏡的治療が有効である.アルゴンプラズマ凝固(argon plasma coagulation;APC)
5)~9)やクリッピング
10)などによる治療法が報告されているが,oozingを伴う胃毛細血管拡張部に対してEBLにて良好な止血および再発の抑制を得られた症例を経験しえた.医学中央雑誌で「オスラー病」,「EBL」および「EVL」をキーワードとし1983年~2018年で検索した限り,会議録を除き報告はなく,増補版遺伝性出血性末梢血管拡張症(オスラー病;HHT)の診療マニュアルには内視鏡的静脈瘤結紮術endscopic variceal ligation;EVL)を施行し,EVL後の超音波内視鏡検査にて結紮部位の壁内血管は消失し,その周囲の粘膜下層内の拡張した壁内血管の残存を認めたという報告
11)があるのみであり貴重な症例と考えられ文献的考察を加えて報告する.
Ⅱ 症 例
患者:76歳,女性.
主訴:吐血・黒色便.
既往歴:56歳オスラー病,72歳僧房弁閉鎖不全症,74歳脳出血,74歳心房細動.
家族歴:母と同胞(女性)がオスラー病.
生活歴:飲酒歴なし,喫煙歴なし.
現病歴:オスラー病にて通院中であった.頻回に胃毛細血管拡張部からoozingを認め,輸血療法や内視鏡的止血術を繰り返されていた.心房細動および僧房弁閉鎖不全症のために抗凝固薬を内服されていたが消化管出血を繰り返され生命に関わるため,厳重なICの上内服中止としていた.吐血・黒色便にて当院救急搬送となり入院となった.
入院時現症:身長150cm,体重37㎏,意識状態JCS1.血圧114/86mmHg,脈拍60/分,不整.体温36.2℃.眼瞼結膜に貧血を認めた.眼球結膜に黄染なし.心音はⅠ音の減弱,全収縮期雑音を認めた.呼吸音異常なし,表在リンパ節触知せず.腹部平坦・軟,圧痛なし,肝・脾触知せず.下腿浮腫認めず.直腸診にて黒色の血液を認めた.
臨床検査成績(Table 1):Hb低下,BUN上昇を認めた.
入院後経過:上部消化管出血を疑い緊急上部消化管内視鏡検査を施行したところ胃内の毛細血管よりoozingを認めた.胃体上部大彎後壁の内視鏡治療後瘢痕に胃毛細血管拡張を認め(Figure 1-a),同部位に対してニューモ・アクテイベイトEVLデバイスを用いEBLを施行(Figure 1-b),EBL施行8日後には潰瘍化を得られた(Figure 2-a).3カ月後には同部位に瘢痕化を認め,胃毛細血管拡張の消失を得られた(Figure 2-b).ホットバイオプシー鉗子による高周波止血鉗子法加療後瘢痕に胃毛細血管拡張の再発を認めている部位(Figure 3-a)に対して超音波内視鏡検査を施行し,粘膜下層に拡張血管を認めた(Figure 3-b).胃毛細血管拡張部にEBLを施行し,胃毛細血管拡張の再発を認めない瘢痕部(Figure 4-a)に対して超音波内視鏡検査を施行したところ粘膜下層に拡張血管を指摘できず血栓化が得られていると考えられた(Figure 4-b).胃毛細血管拡張に対する内視鏡的止血術のみで貧血の改善を得られており,胃内の毛細血管拡張からの出血が貧血の責任病変と考えられた(Figure 5).EBL施行後は入院頻度が減少し,ほとんど輸血せず治療可能となった.
当初は胃毛細血管拡張部に対してAPCや高周波止血鉗子による内視鏡的止血術にて止血を行っていた.5mm以下の小さい胃毛細血管拡張部では3分程度の止血時間で良好な止血を得られていたが,7~8mm以上の範囲を持つ毛細血管拡張部の焼灼止血によって,粘膜下層の拡張血管を損傷させてしまい,止血部位よりoozingが継続することが多かった.強い呼吸性変動や同じ部位の止血処置を繰り返し必要とすることで1病変につき20分程度の時間を要することもあった.EBL治療では1病変につき3分程度で止血処置が完了し,処置時間の短縮および良好な止血効果を得られた.
Ⅲ 考 察
オスラー病による多発する胃毛細血管拡張部出血に対してAPCによる止血が有効とする報告がある
5)~9)が,APC施行部から毛細血管が再燃し,消化管出血を何度も繰り返すという報告
12)もある.
オスラー病の臨床症状・所見は中間に毛細血管を介さない動静脈の直接連結に起因している
13),14).それによって直接動脈からの圧力負荷が加わり続けると血管が破裂して出血する危険性が高くなる
15).脈管奇形を呈する病態において,治療方針に関わってくるため,病変内を流れる血液の流れの速さを高流速と低流速に分けて考える必要があるとされており
16),オスラー病は高流速に分類される
17).
オスラー病の胃毛細血管拡張においてAPCによる焼灼治療は,粘膜下層の発達している拡張血管を損傷させてしまうことや,血流が高流速であることからも,APC焼灼部位からのoozingが続く場合や容易に再出血する可能性があり,処置時間が長くなってしまう場合が多い.オスラー病の拡張血管は粘膜下層などの深層部にも多いことから,エルベ社の第2世代APC2において,比較的広く浅い焼灼を生じるパルスドAPCよりも,相対的に狭く深い焼灼が得られるフォースドAPCが有効との報告がある
18)が,APCは理論上凝固深度が最大3mmまでにとどまる
19)ため,潰瘍瘢痕形成による胃毛細血管拡張の消失も期待できるEBLがオスラー病の胃毛細血管拡張からの出血に対して有効と考えられる.O-ringでの結紮に必要な時間は数分であるため,潰瘍瘢痕形成による胃毛細血管拡張の消失による毛細血管再発の抑制,処置時間の短縮や入院回数の減少による患者負担の軽減を得られ,従来のAPCや高周波止血鉗子法などでの止血法よりも有用であると考えられた.
EBL治療による合併症として穿孔があげられるが,EBL後瘢痕部のEUSにおいて筋層は保たれており,EBLによる胃穿孔のリスクは比較的低い可能性が示唆された.
オスラー病の毛細血管拡張は全消化管に発症し得る.本症例において,小腸カプセル内視鏡にて活動性の出血は認めなかったものの,十二指腸から回腸末端にかけて毛細血管拡張の多発を認めた.胃内の毛細血管拡張部の処置のみで徐々に貧血の改善を得られた.現状は貧血の進行をきたすような小腸の毛細血管拡張病変はないが,出血を引き起こす場合は止血治療が必要となる可能性がある.
オスラー病に対するEBLの報告は少ない一方で,胃前庭部毛細血管拡張症(Gastric antral vascular ectasia,以下GAVE)に対する内視鏡的止血術において,EBLがAPCに比し有効な治療手技であるという報告がある
20),21).GAVEの発症機序は不明であるが,基礎疾患として肝硬変,慢性腎不全,大動脈弁狭窄,自己免疫性疾患,骨髄移植後,甲状腺機能低下症,糖尿病などが多いと報告
22)~27)される.オスラー病とGAVEにおける胃毛細血管拡張の病変は,粘膜下層における毛細血管拡張および増生が認められる点で共通しており,いずれの疾患も潰瘍瘢痕形成による胃毛細血管拡張の消失によって良好な治療効果が得られている可能性があると考えられる.
内視鏡的止血術以外の治療として,保険適用外であるが,エチニルエストラジオールやノルエチステロンの投与
28)や,ベバシズマブの静脈投与がオスラー病における消化管出血に対し有用性があると報告
29)されており,今後の臨床応用が期待される.
EVLは1986年にStiegmannらによって開発された
30),31),O-ringによる結紮によって機械的に静脈瘤を荒廃させる治療法である.EVLという用語は消化器内視鏡用語集第4版にも記載されている
32)が,EVLのVはvariceal(静脈瘤の)であり,静脈瘤治療以外のO-ringによる結紮療法は用語としてEVLよりもEBLとするほうがより適切と考えられ,今後検討が必要であると思われる.
オスラー病の胃毛細血管拡張部に対するEVLデバイスによる止血術は適応外使用に相当するため,当施設にて倫理委員会の承認を得た.患者・家族に対して適切なICを行い同意取得した.
Ⅳ 結 語
オスラー病における胃毛細血管拡張部の出血に対してEBLにて良好な止血を得られた1例を経験したので報告した.
本論文の要旨は第101回日本消化器内視鏡学会近畿支部例会(2018年11月10日,大阪)にて報告した.
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