日本消化器内視鏡学会雑誌
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手技の解説
小腸血管性病変に対するポリドカノール局注法の有用性
井川 敦 岡 志郎田中 信治
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2020 年 62 巻 3 号 p. 371-376

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要旨

小腸血管性病変は小腸出血の原因として頻度の高い疾患である.血管性病変の中でもangioectasiaは大部分を占め,小腸血管腫は稀ではあるが,時に出血の原因となりうる.現在,両病変に対する治療法・取り扱いについては一定のコンセンサスが得られていない.われわれは小腸angioectasiaと小腸血管腫に対してダブルバルーン内視鏡(Double-balloon endoscopy:DBE)下のポリドカノール局注法(Polidocanol injection therapy:PDI)を行い,良好な治療成績が得られている.

Ⅰ はじめに

全消化管出血のうち小腸出血の割合は約5% 1で,小腸出血の23~52%を血管性病変が占める 2)~4.また,血管性病変の中でもangioectasiaはその大部分を占めており,小腸出血の原因の30-40%である 5.また,小腸血管腫は稀な疾患ではあるが,時に小腸出血の原因となりうる.小腸血管性病変の内視鏡分類として,矢野―山本分類 6が知られているが,angioectasiaはType 1に分類され,血管腫はType 4に分類される.治療法に関しては,angioectasiaはアルゴンプラズマ凝固法(argon plasma coagulation:APC)などによる内視鏡治療 7,血管腫に対してはこれまで外科手術,APC 8やpolypectomy 9などの内視鏡治療が報告されているが,一定のコンセンサスが得られていないのが現状である.

われわれは小腸angioectasiaと血管腫に対してダブルバルーン内視鏡(Double-balloon endoscopy:DBE)を用いたポリドカノール局注法(Polidocanol injection therapy:PDI)による内視鏡治療を行い,良好な成績を得られていることを報告している 10),11.本項では,小腸angioectasiaと血管腫に対するPDIの手技について解説する.

Ⅱ ポリドカノールの止血原理

ポリドカノールは下肢静脈瘤や食道静脈瘤の硬化療法でも使用される薬剤である.われわれがPDIに使用するのは1%ポリドカノールで,院内製剤を使用している(Figure 1).ポリドカノールの止血原理としては,岡野らは早期止血作用として間質の浮腫に伴う血管への圧迫と小血管内の血栓形成,後期止血作用として血管内膜炎にもとづく血栓形成と報告し 12,竹内らはPDI後の粘膜下層の変化について,粘膜下層の変化はポリドカノール注入部に限局し,筋層の動脈にはほとんど影響なく,穿孔/穿通を1例も認めなかったと報告している 13

Figure 1 

1%ポリドカノール(院内製剤).

Ⅲ 使用する内視鏡

使用するDBEはFUJIFILM社製EN-450P5,EN-450T5,EN-580Tである(Figure 2).

Figure 2 

使用するダブルバルーン内視鏡.

a:EN-450P5/T5.

b:580T.

いずれの内視鏡も有効長2,000mmであるが,EN-450P5は外形8.5mm,鉗子口径2.2mm,EN-450T5とEN-580Tは外形9.4mm,鉗子口径2.8mmであり,EN-450TとEN-580TはEN-450P5と比較して太く,鉗子口径も大きい.また,全例CO2送気装置を用い,angioectasiaなどの微小病変を描出する場合や内視鏡的止血術を考慮する場合には先端フード(OLYMPUS社製 ディスポーサブル先端アタッチメント φ11.8mm)を使用している.局注針はTOP社製25Gの小腸用局注針(Figure 3)を用いる.PDIはスコープの種類に関係なく使用可能であるが,APCや止血クリップを併用することもあるため,より鉗子口径の太いEN-450TやEN-580Tを選択した方が良い.

Figure 3 

25G 小腸用局注針.

Ⅳ 小腸血管性病変に対する治療方針

小腸血管性病変に対する治療指針について示す(Figure 4).原則,oozingのないType 1aは経過観察,oozingのあるType 1aはPDIを適応としている.Type 1bはPDIのみでは止血効果が不十分であるため,PDIに加えてAPCやクリッピングを併用している.Type 2はクリッピング+補助療法としてPDI 14,Type 3は径10mm未満の病変にはPDI,径10mm以上の病変は血管内治療あるいは外科手術を考慮する 15.Type 4のうち血管腫に対してはPDIを行っている.以上のように,血管性病変の中でも特にangioectasiaと血管腫はPDIの最も良い適応である.

Figure 4 

当科における小腸血管性病変に対する内視鏡治療指針.

広島大学病院内視鏡診療科における治療成績を以下に示す.小腸angioectaiaに対する治療成績に関しては,oozingのないType 1aは経過観察を行い,再出血は1例も認めなかった.oozingのあるType 1aはPDI施行し,35例中2例(6%)に再出血を認めたが,いずれも新規病変からの再出血であった.Type 1b 29例中17例はPDI単独,12例はPDI+APCまたはPDI+クリッピングを施行し,5例(17%)に再出血を認めたが,いずれもPDI単独の治療施行例で,その4例は治療施行部位からの再出血であった.偶発症は1例(1.6%)のみ潰瘍形成を認めたが,保存的加療で軽快した 10.また,血管腫に対するPDIの治療成績に関して,再出血は12例中1例(8%)のみであり,偶発症は1例も認めなかった 11

Ⅴ 小腸angioectasiaに対するPDIの実際

われわれは小腸angioectasiaの場合,病変を指摘した際に内視鏡治療を施行するが,その理由としては,小腸のひだに隠れて深部挿入後の再指摘が困難な場合が多いこと,DBEのバルーンによる粘膜傷害と判別しにくくなることが多いからである.PDI手技に関しては,直視下に局注針を病変周辺に穿刺し,注入時の膨瘤の程度を参考に0.5ml単位でポリドカノールを注入する(Figure 5).膨隆の程度はEMR時の局注で膨隆を作成するのとほぼ同様である.Type 1bの場合にはPDI後にAPCやクリッピングを追加で施行する(Figure 6).PDI後にAPCを加える場合には穿孔などのリスクも低減されることも利点である.

Figure 5 

小腸angioectasia(Type 1a)に対するPDI.

a:小腸angioectasia(Type 1a).

b:PDI後.ポリドカノールを1ml局注.

Figure 6 

小腸angioectasia(Type 1b)に対するPDI+APC.

a:小腸angioectasia(Type 1b).

b:angioectasia周囲にPDI施行.ポリドカノールを1.5ml局注.

c:PDI後にAPC追加.

Ⅵ 小腸血管腫に対する PDIの実際

小腸血管腫に対するPDIは直視下に局注針を病変に穿刺し,血液の逆流がないことを確認後,注入時の膨瘤の程度や色調変化を参考に0.5ml単位でポリドカノールを注入する(Figure 7).膨隆の目安としては,治療対象とする血管腫の大きさを少し超える程度まで膨隆させ,おおよそ径5mmに対して1mlを目安に注入する 11.局注後はそのまま局注針を抜針する.局注した部位から一時的な出血を認めることはあるが,oozing程度であり問題はない.特に青色ゴムまり様母斑症候群などの小腸に多発性血管腫を認める症例にPDIは良い適応である.

Figure 7 

小腸海綿状血管腫に対するPDI.

a:径10mm大の海綿状血管腫.

b:血管腫に直接穿刺し,PDI施行.ポリドカノールを2ml局注.

c:PDI後.

Ⅶ おわりに

小腸angioectasiaおよび血管腫に対するPDIの手技について解説した.PDIは簡便かつ安全な治療法であり,小腸angioectasiaや血管腫に対する標準的治療法になりうる手技である.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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