要旨
【背景】高齢化社会に伴い抗血栓薬使用者に合併した胆管大結石が増加している.胆管大結石の治療に,内視鏡的乳頭大口径バルーン拡張術(endoscopic papillary large balloon dilation;EPLBD)は有用であるが,内視鏡的乳頭括約筋切開術(endoscopic sphincterotomy;EST)を先行しないことにより,出血リスクを減少させる可能性がある.しかしながら,このEPLBD without ESTの抗血栓薬内服者に対する安全性は確立されていない.
【方法】今回の多施設共同後ろ向き研究は,2008年3月から2017年12月の間に胆管結石に対してEPLBD without ESTを施行した症例を対象とした.抗血栓薬(抗血小板薬または抗凝固薬)使用者および非使用者間で,EPLBD without ESTの早期偶発症および治療成績を比較した.
【結果】144例(抗血栓薬使用者47例および非使用者97例)を解析対象に含めた.抗血栓薬使用者において,EPLBD without EST施行時の抗血栓薬は13%で継続,62%でヘパリン置換された.臨床的に問題となるような出血もしくは周術期の血栓塞栓症は,使用者群および非使用者群いずれにおいても認めなかった.早期偶発症率は2群間で有意差を認めなかった(使用者群6.4%,非使用者群7.2%,P=0.99).治療成績に関しては,結石破砕率(28% vs. 29%),初回治療での完全結石除去率(72% vs. 71%)と,使用者および非使用者群において有意差を認めなかった.
【結語】EPLBD without ESTは抗血栓薬使用者においても,術後出血のリスクを増やすことなく,安全に大結石を除去しうる可能性がある.個々の抗血栓薬周術期管理については,さらなる大規模研究で検討する必要がある.
Ⅰ 背 景
近年の内視鏡技術の進歩により,胆管大結石は内視鏡的逆行性胆管膵管造影(endoscopic retrograde cholangiopancreatography;ERCP)により治療可能となった
1),2).高齢化社会に伴い,心疾患および脳血管疾患を背景疾患に有する症例が増加し,抗血栓薬(抗血小板薬または抗血栓薬)使用者に対して,内視鏡的胆管結石除去を行う機会が増えている.それ故,このような症例群における,安全で効率的な治療法の確立が必須である
3)~6).
内視鏡的乳頭大口径バルーン拡張術(endoscopic papillary large balloon dilation;EPLBD)は,胆管大結石治療における有効性が多数報告されている
7)~11).EPLBDは通常,内視鏡的乳頭括約筋切開術(endoscopic sphincterotomy;EST)を先行させてから行われる
8)~11).しかし,ESTを先行させずに行うEPLBD without ESTも同等に有効,かつ懸念されるERCP後膵炎発症率も変わらないとする報告も増えており,ESTを付加しないことにより術後出血を減少させる可能性がある
12)~15).内視鏡的乳頭バルーン拡張術(endoscopic papillary balloon dilation;EPBD)は凝固機能障害を有する症例に対しても安全に施行可能であるが
16),17),EPLBD without ESTに関してはまだ十分に検証されていない.
アメリカ消化器内視鏡学会(American Society of Gastrointestinal Endoscopy;ASGE)
18),ヨーロッパ消化器内視鏡学会(European Society of Gastrointestinal Endoscopy;ESGE)
19),20),日本消化器内視鏡学会(Japan Gastroenterological Endoscopy Society;JGES)
21),22)のガイドラインでは,ESTを出血高危険度,EPBDは出血低危険度の治療と位置付けている.EPLBD without ESTの出血危険度は現時点でコンセンサスが得られていないが,ESTやEPLBD with ESTよりも低いことが予想される
23).
今回われわれは,多施設共同後ろ向き研究で,抗血栓薬使用者におけるEPLBD without ESTの安全性を検討した.
Ⅱ 方 法
研究デザイン
本研究は,多施設共同後ろ向き研究であり,内視鏡的胆管結石治療におけるEPLBD without ESTの安全性を抗血栓薬使用の有無により比較検討した.われわれは,2008年3月までは,EPLBD with ESTを,それ以降はEPLBD without ESTをconsecutiveに施行した.臨床データは3施設(東京大学医学部附属病院,日本赤十字社医療センター,東京警察病院)において,電子カルテから抽出した.背景因子や早期偶発症を含めた治療成績は,抗血栓薬使用者および非使用者の間で比較検討した.主要評価項目は,治療後14日以内の出血とした.副次的評価項目は,周術期の血栓塞栓症,ERCP関連早期偶発症,結石破砕率,初回治療での完全結石除去率とした.
研究に関する同意はERCP施行前に,個々の症例で取得した.本研究は,ヘルシンキ宣言に則って行い,また各施設の倫理委員会で承認され実施した.
対象症例
2008年3月から2017年12月までの期間に,胆管結石除去に際しEPLBDが施行された症例を対象とした.除外基準は,1)EPLBD with ESTを施行した症例,2)EPLBD施行歴がある症例,3)術後再建腸管(R-YもしくはB-Ⅱ再建)とした.ERCPはすべて入院中に施行され,少なくとも術後1日は入院経過観察した.血算および生化学検査(肝胆道系酵素,膵酵素,炎症反応)は,治療後18-24時間に評価した.
抗血栓薬の周術期の管理
JGESのガイドラインが公表される2014年より前は,抗血栓薬(抗血小板薬または抗凝固薬)はすべて中止の上,必要であればヘパリン化を行った.ガイドライン公表後は,周術期の抗血栓薬は出血高危険度に準じて取り扱った.即ち,アスピリンは継続,チエノピリジンは5-7日前に中止もしくはアスピリン置換,抗凝固薬はヘパリン置換とした.すべての抗血栓薬は,出血が疑われなければERCP翌日から再開とした.
内視鏡治療詳細
十二指腸鏡(JF-260VもしくはTJF260V:オリンパスメディカルサイエンス社)は,中等度鎮静化に挿入した.鎮静には塩酸ペチジン塩およびジアゼパムもしくはミダゾラムを使用した.Wire-guided cannulation法もしくは造影法で胆管挿管し,胆管造影で胆管結石の有無を確認した.十二指腸主乳頭は,12-20mmのEPLBDバルーン(CRE胆道拡張バルーンカテーテル:ボストンサイエンティフィック社,もしくはGIGA:センチュリーメディカル社)を用いて拡張した.バルーン径は最大結石径に応じて選択したが,下部胆管径を越えないようにした.EPLBDバルーンは希釈した造影剤により緩徐に拡張し,バルーンのnotch消失を確認した後にデフレートした.下部胆管狭窄はEPLBD後胆管穿孔のリスクと報告されており
24),notchが消失しなかった場合でも追加の拡張は行わなかった.EPLBD後はバスケットもしくはバルーンカテーテルを用いて結石除去を行った
25).内視鏡的結石破砕術(endoscopic mechanical lithotripsy;EML)は必要に応じて施行したが,EMLによる破砕が困難だった場合には
26),電気水圧衝撃波結石破砕術もしくは体外衝撃波結石破砕術を追加した.
早期偶発症の定義
早期偶発症およびその重症度はASGEのlexiconに沿って定義した
27).出血は吐下血もしくは血清ヘモグロビン値2g/dL以上の低下と定義した.早期偶発症は,ERCP後14日以内に発症したものとした.膵炎は,腹痛もしくは背部痛を伴う,血清アミラーゼもしくはリパーゼが正常上限3倍以上の上昇と定義した.
統計学的手法
既報では,EPLBD without EST後の出血率は2%未満であった
13).本研究において,われわれはEPLBD without EST後出血は,抗血栓薬使用者および非使用者の間で大きく変わらないと仮定した.両群においてEPLBD後出血が1.5%と仮定すると,抗血栓薬非使用群と比較し,抗血栓薬使用群の非劣性を示すためのsample sizeは,抗血栓薬使用群38例,抗血栓薬非使用群77例だった(α,0.05;power,0.80;non-inferiority margin,0.06;allocation ratio,1:2).
カテゴリー変数はχ二乗検定もしくはFishの正確検定を用いて,また連続変数はWilcoxon rank-sum検定を用いて比較した.すべての解析はEZR software(自治医科大学附属さいたま医療センター)を用いて行った
28).
Ⅲ 結 果
研究期間内に239人が胆管結石除去目的にEPLBDを行い,47人の抗血栓薬使用者と,97人の抗血栓薬非使用者を解析に含めた(Figure 1).症例の背景因子はTable 1に示した.非使用者と比較し,使用者は男性が多く,またアメリカ麻酔学会術前状態分類(American Society of Anesthesiologists Physical Status Classification)scoreが高かった.最大結石径および結石数は2群間で差を認めなかった.
Table 2には抗血栓薬使用群における抗血栓薬の周術期管理を示した.35例が抗血小板薬を使用しており(アスピリン26例,チエノピリジン8例,シロスタゾール8例),2例はdual antiplatelet therapyを受けていた.また18例は抗凝固薬を使用していた(ワーファリン12例,直接経口抗凝固薬6例).6例は,抗血小板薬と抗凝固薬を両方とも使用していた.抗血栓薬は周術期に,43%が中断,62%がヘパリン置換,13%が継続された.
周術期に臨床的に問題となる術後出血は,使用群および非使用群いずれにおいても認めなかった(Table 3).アスピリンをヘパリン置換していた1例においては,EPLBD without EST施行直後の出血を認めたが,バルーン圧迫により直ちに止血が得られた.周術期の血栓塞栓症は,本研究では認めなかった.ERCP後膵炎は,抗血栓薬使用群で3例(6.4%),抗血栓薬非使用群で6例(6.2%)に認めた.重症膵炎を抗血栓薬非使用群の1例で認めたが,保存的治療により改善した.肝硬変や透析症例
16),17)でも出血は認めなかった.
内視鏡治療手技詳細はTable 4に示した.結石破砕率,完全結石除去率(初回治療,全治療)に群間差は認めなかった.ERCP後膵炎予防目的の非ステロイド抗炎症薬は抗血栓薬使用群の2例(4.3%),および抗血栓薬非使用群の5例(5.2%)で使用された.
Ⅳ 考 察
本研究において,EPLBD without ESTは抗血栓薬(抗血小板薬または抗凝固薬)使用者においても,手技関連出血率を増加させることなく施行可能であった.また血栓塞栓症も,周術期の血栓薬継続の有無に関わらず認めなかった.抗血栓薬使用の有無は,結石治療成績に関与しなかった.本研究における早期偶発症率および治療成績は既報と同程度であった
13).
EPLBD without EST後に臨床的に問題となる出血は,今回認めなかった.1例で,EPLBD without EST施行直後に出血を認めたが,バルーン圧迫により速やかに止血し,その後再出血も認めなかった.現在,ESTは内視鏡的胆管結石除去における標準治療法であるが,手技に伴う術中および術後出血が問題となる
5).近年の大規模retrospective studyでは(抗血栓薬使用者27%を含む),EST後出血は10%にも及ぶと報告された
29).内視鏡治療周術期における各国のガイドラインでは
18)~21),EPBDは出血低危険度とされ,凝固機能異常を呈する小結石症例においてはよい適応となる.今回のわれわれの検討結果によると,EPLBD without ESTはEPBDの延長として考えられ,抗血栓薬使用者においてよい適応であると考えられる.しかしながら,現在までに,抗血栓薬使用者に限定したEPLBD without EST術後出血については報告がない.本研究はEPLBD without ESTが抗血栓薬使用者においても安全に施行できる可能性を示唆し,胆管大結石治療におけるEPLBDの適応拡大につながると考える.
血栓塞栓症は抗血栓薬中止に伴い発症しうる重篤な偶発症であり,1-9%に発症すると報告される
30)~32).それ故,各国のガイドラインでは内視鏡治療の周術期に抗血栓薬継続を推奨する傾向にあるが
18),20)~22),周術期の管理は,個々の抗血栓薬作用機序によっても異なる.ESTを含む出血高危険度の治療施行時には,アスピリンは継続が,チエノピリジンおよび抗凝固薬は中断が推奨されている.過去の報告において,ヘパリン置換は抗凝固薬使用者における治療後出血のリスク因子として報告されており,問題となっている
33),34).特にEST後出血に関しては,術後1-6日での遅発性出血がありうるが
29),35),この期間においては経口抗凝固薬の再開に加えてヘパリンが通常投与されており,遅発性出血の危険性が高まると考える.それぞれの抗血栓薬におけるサブグループ解析は,今回は症例不足のため施行困難だったが,今後さらなる大規模試験での検討が必要である.
本研究の抗血栓薬使用率は,既報の日本全国のコホート研究(9.6%)と比較して高かったが
36),われわれの研究は胆管大結石・多数結石の症例を対象としており
3),併存疾患が多い高齢者が主体であることが原因と考えている.75歳以上の高齢者を対象にEPLBDの安全性を検討した既報のretrospective studyでは,抗血栓薬は21%に処方されていた
37).脳血管疾患を併存する高齢者に対する内視鏡治療はリスクが高いと考えられるが
38),EPLBDはその治療効率のよさからERCP施行回数を減少させる可能性があり,これらの対象に対してもよい適応と思われる.
複数の臨床研究は,術後再建腸管症例における胆管結石治療に対するバルーン内視鏡を用いたERCPの有用性を報告している
39).バルーン内視鏡補助下ERCPではESTの施行が困難であることから,EPLBD without ESTは,術後再建腸管症例の大結石治療におけるよい適応と考える.研究期間中に10例のR-YもしくはB-Ⅱ再建後の抗血栓使用者(4例アスピリン継続,4例ヘパリン置換,2例休薬)に対してEPLBD without ESTを施行したが,これらの症例において出血は認めなかった.しかしながら,この解析における統計学的検出力は極めて限定されており,術後再建腸管症例におけるEPLBD without ESTの有用性に関しては,さらなる検討が必要である.
本研究にはいくつかのlimitationがある.まず,sample sizeが小さくかつretrospectiveなデザインであることが挙げられる.しかしながら,われわれは,EPLBD without ESTにおける抗血栓薬使用者の非劣性を症例するための推定sample sizeより多くの症例を集積した.次に,retrospective studyのため,ERCP後早期偶発症発症率は過小評価されている可能性がある.具体的には,治療後に他院へ出血などの早期偶発症で入院した症例に関しては,拾い上げることが困難だった.しかしながら,大多数の症例は少なくとも1回は外来で経過観察され,評価している.最後に,ESTまたEPBD施行歴がある症例を除外しなかったことで,EPLBD without EST後の出血を過小評価した可能性がある.
Ⅴ 結 論
EPLBD without ESTによる大結石除去は抗血栓薬使用者においても安全であった.今回の結果の妥当性検証および個々の抗血栓薬に対して周術期管理の確立には,さらなる大規模研究が必要である.
文 献
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