2020 年 62 巻 3 号 p. 386-394
【背景】高齢化社会に伴い抗血栓薬使用者に合併した胆管大結石が増加している.胆管大結石の治療に,内視鏡的乳頭大口径バルーン拡張術(endoscopic papillary large balloon dilation;EPLBD)は有用であるが,内視鏡的乳頭括約筋切開術(endoscopic sphincterotomy;EST)を先行しないことにより,出血リスクを減少させる可能性がある.しかしながら,このEPLBD without ESTの抗血栓薬内服者に対する安全性は確立されていない.
【方法】今回の多施設共同後ろ向き研究は,2008年3月から2017年12月の間に胆管結石に対してEPLBD without ESTを施行した症例を対象とした.抗血栓薬(抗血小板薬または抗凝固薬)使用者および非使用者間で,EPLBD without ESTの早期偶発症および治療成績を比較した.
【結果】144例(抗血栓薬使用者47例および非使用者97例)を解析対象に含めた.抗血栓薬使用者において,EPLBD without EST施行時の抗血栓薬は13%で継続,62%でヘパリン置換された.臨床的に問題となるような出血もしくは周術期の血栓塞栓症は,使用者群および非使用者群いずれにおいても認めなかった.早期偶発症率は2群間で有意差を認めなかった(使用者群6.4%,非使用者群7.2%,P=0.99).治療成績に関しては,結石破砕率(28% vs. 29%),初回治療での完全結石除去率(72% vs. 71%)と,使用者および非使用者群において有意差を認めなかった.
【結語】EPLBD without ESTは抗血栓薬使用者においても,術後出血のリスクを増やすことなく,安全に大結石を除去しうる可能性がある.個々の抗血栓薬周術期管理については,さらなる大規模研究で検討する必要がある.