日本消化器内視鏡学会雑誌
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総説
小児における内視鏡検査の役割
中山 佳子
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2020 年 62 巻 5 号 p. 529-537

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要旨

日本では小児消化器病医が不足しているために,小児の消化管内視鏡検査を成人の消化器内視鏡医が小児科から依頼され,検査を行うことがある.本稿では小児の上部消化管内視鏡検査(EGD),大腸内視鏡検査(CS),小腸カプセル内視鏡検査,小腸バルーン内視鏡検査の役割を概説し,検査の適応や内視鏡機器の選択について述べる.診断を目的とした内視鏡検査では,生検の適応が成人と小児では大きく異なる.症状のある小児のEGDでは十二指腸,胃,食道から,CSでは終末回腸と大腸の各部位から生検を採取する.CS前の消化管前処置は,安全性に加えて,患者の好みや受容性を考慮する.また,小児の内視鏡検査の多くは,安全性,快適性,検査への協力を促すために鎮静または全身麻酔下に行われる.鎮静に伴う合併症のリスクは成人と小児では異なり,鎮静前から鎮静後まで十分な管理体制を要する.また,小児の内視鏡検査前には,患者と保護者の不安な気持ちへの対応が必要である.

Ⅰ はじめに

小児科学の領域では,“Children are not small adults”という言葉が古くから使われてきた.小児の消化器内視鏡検査においても,単に体格が小さいというだけではなく,好発疾患が成人とは大きく異なり,消化器内視鏡検査に対する患者と家族の不安が強いなど,成人と異なる対応が必要になる.小児の消化器内視鏡検査の標準的な在り方を示すことを目的に,日本消化器内視鏡学会などの協力を得て「小児消化器内視鏡ガイドライン2017」が公開された 1.本項では,診療ガイドラインを引用し,近年の国内外からのエビデンスを踏まえ,小児の消化管内視鏡検査の役割を述べる.

Ⅱ 消化管内視鏡検査

1)上部消化管内視鏡検査(EGD:esophagogastroduodenoscopy)

小児におけるEGDの適応は,腹痛・悪心・嘔吐・体重増加不良などの症状があり,身体所見ないし一般的な検査から上部消化管の器質的疾患が疑われる症例,既知の上部消化管疾患の経過観察,治療内視鏡の適応となる疾患・病態を有する症例である 1

American Society for Gastrointestinal Endoscopy(ASGE)による,小児の体重別のスコープ選択を示す(Table 1 2.概ね10kg以上の体格の小児であれば,成人で使われる通常径のスコープを選択でき,治療内視鏡の処置具も成人と同様に使用できる.一方,国内の小児消化器内視鏡専門施設へのアンケート調査では,半数の施設が小中学生であっても細径スコープを診断目的のEGDで使用していた.細径スコープは,気道閉塞のリスクが低く,鎮静下の嘔吐反射が少ないため,好まれていると考えられた 3

Table 1 

ASGE Technology Committeeによる体重別のビデオスコープの選択(文献2より引用).

EGD前の絶食は,幼児期以降の予定された検査では前日夕食摂取後から,乳児や緊急内視鏡検査では清澄水2時間,母乳4時間,人工乳や食事摂取後6時間の2-4-6ルールが目安である 1.年齢や基礎疾患によっては,2-4-6ルールでは不十分という意見もあり,症例毎に主治医の判断を要する.

小児の上部消化管粘膜の内視鏡観察に関して,胃粘膜萎縮の判断には注意を要する.乳児期から1歳の幼児の胃底腺領域は,あたかも萎縮性胃炎のように薄く見える(Figure 1-a).1歳を過ぎた頃から胃底腺領域に集合細静脈が観察され,胃底腺の発達とともに2~3歳になると集合細静脈が整然と配列するregular arrangement of collecting venules(RAC)像が観察される(Figure 1-b,c).RACが観察される胃底腺領域と幽門腺領域の境界は,あたかも萎縮境界のようにコントラストを呈することがあり注意が必要である.

Figure 1 

同一症例における1歳から3歳までの胃底腺領域の内視鏡初見の変化.

a:1歳 胃底腺領域の粘膜はあたかも萎縮様に観察される.

b:2歳 萎縮様の変化は軽減し,近接観察では集合細静脈が観察される.

c:3歳 萎縮様の変化はなく,近接観察ではRACが観察される.

腹痛,嘔吐,吐き気,嚥下困難などの症状の原因精査を目的として行われる小児のEGDでは,粘膜所見が正常であっても好酸球性胃腸炎・食道炎や胃炎の診断のために生検を採取する 1.生検に伴う出血や穿孔のリスクよりも,鎮静・全身麻酔下に繰り返し内視鏡検査を行うことのデメリットの方が大きいと考えられている.生検部位は,十二指腸下行脚,球部,胃前庭部,胃体部,食道下部がランドマークとなる.内視鏡所見がある場合には,さらに所見部位から生検を追加する.好酸球性食道炎を疑う食道の縦走溝,輪状襞,白斑を認める症例では,食道から5個以上の生検採取が望ましい 4.また,鳥肌胃炎と体部RAC消失の所見からヘリコバクター・ピロリ感染胃炎が疑われる症例では,胃前庭部と胃体部からヘリコバクター・ピロリ培養検査を追加し,抗菌薬感受性検査の結果に基づく一次除菌治療を行うことが推奨されている 5

小児の治療内視鏡として,異物除去術,止血術,胃・食道静脈瘤に対する結紮術と硬化療法,過誤腫性ポリポーシスのポリープ切除術,食道狭窄に対するバルーン拡張術などが行われている.特に10kg未満の小児に対する治療内視鏡はスコープや処置具が限られ,難易度が高くなる 6.食道静脈瘤に対するニューモアクティベイトEVLデバイスカフ無し(住友ベークライト株式会社)を用いた結紮術に関しては,筆者自身が経験した最年少は生後11カ月,体重は9.5kgである.フレキシブルオーバーチューブを用いずに,挿管下の全身麻酔で施行が可能であった.

小児のEGDに伴う有害事象の頻度は0.1%未満〜2.3%との報告があり 7),8,海外の大規模症例研究では鎮静・麻酔に伴う一過性低酸素血症が偶発症の約75%を占め,次いで出血0.3%,穿孔0.01%未満と重篤な合併症は希である 8

2)大腸内視鏡検査(CS:colonoscopy)

小児におけるCSの適応は,腹痛・血便・慢性下痢・体重増加不良などの症状があり,身体所見ないし一般的な検査から下部消化管の器質的疾患が疑われる症例,既知の下部消化管疾患の経過観察,治療内視鏡の適応となる疾患・病態を有する症例である 1

CSは,新生児を含むすべての年齢の小児に施行される.使用するスコープの目安を示す(Table 1).小児の腹腔は狭く,深部挿入時のスコープの湾曲がきつくなるため,年少児のCSに硬度の高いスコープは不向きである.国内の小児消化器内視鏡専門施設へのアンケート調査では,小中学生であっても外径10mm台の細径大腸スコープが頻用されていた 3.また,腸間膜の固定が緩く,消化管壁が薄いことから,手元の抵抗感に留意して,愛護的に操作する.

CS前の絶食時間は,幼児期以降の予定されたCSでは前日夕食摂取後から,乳児では母乳4時間ないし人工乳6時間が目安である 1.CS前の消化管前処置は,患者の発達や好みに合わせた対応が必要となり,成人とは異なる配慮を要する.小児に対する腸管洗浄剤の投与は,内服困難のために予定通り進まないことが多い.角田らは,6歳以上の小児20例を対象として,アスコルビン酸含有ポリエチレングリコール電解質製剤(PEG-Asc;モビプレップ)を含む前処置を検討した(Table 2).服用できた19例で,大腸全体で観察の妨げになる残渣はなく,モビプレップを主体とする本レジメンは有効であった.1例は内服困難,3例は酸味が強く飲みにくいと訴えたが,忍容性は概ね良好であった.小児期特有の有害事象は認めず,腸管洗浄剤の内服前後の血液検査で電解質などに変化はないことから,小児においても有効で安全な前処置であると報告している 9.日頃の診療では,乳児では2~3回の浣腸で全大腸の観察が可能な症例が多く,腸管洗浄剤の内服が困難な症例では洗浄剤の種類を変更する,フレーバーで味を変える,経鼻胃管を用いて注入する,浣腸など経肛門的処置に変更するなどの方法を患者の好みと受容性に合わせて組み合わせている.また,リン酸二水素ナトリウム水和物および無水リン酸水素二ナトリウムを含むビジクリア配合錠は,電解質異常をきたした思春期例の報告があり 10,12歳以下の腎機能障害を有するまたは腎機能障害を起こす可能性のある薬剤を内服している症例への投与は控える.

Table 2 

角田らが検討した小児大腸内視鏡検査前の消化管前処置法(文献9より引用).

劇症型の潰瘍性大腸炎などの症例を除き,下部消化管疾患の診断を目的としたCSは原則として終末回腸まで挿入する.特にクローン病疑いの小児例では,終末回腸が好発部位である.下痢や腹痛などの症状のある小児に対する診断目的のCSでは,粘膜所見が正常であっても病理組織検査のため,終末回腸,結腸,直腸から生検を採取する 1.好酸球性胃腸炎,新生児乳児食物蛋白誘発胃腸症(消化管アレルギー),collagenous colitisなどの診断の契機となる.

小児CSの偶発症は,出血,穿孔,使用する薬剤への過敏症,鎮静・麻酔に伴う偶発症があげられる.偶発症の頻度はおよそ0.21~1%であり,消化管出血が0.05〜0.5%,穿孔は0.01〜0.16%と報告されている 7),11

3)小腸カプセル内視鏡検査(SBCE:small bowel capsule endoscopy)

SBCEは,2015年に18歳未満の小児への適応が拡大した.この際に「小児には,身体の発達状況により,嚥下機能が未発達であるおそれや,開通性が不十分なおそれがあるため慎重に適用すること.」,「事前に嚥下が可能かどうかについて確認すること,又,滞留発生時等の処置のリスクについても事前に十分考慮し,慎重に使用すること.」という使用上の注意が付記された.

SBCEの適応は,他の診断モダリティでは確定診断が困難な小腸疾患の診断,ならびに既知の小腸疾患の経過観察や治療効果判定である 1.小児においては,クローン病や消化管ポリポーシスの診断とサーベイランス,原因不明の消化管出血の原因精査が良い適応となる 1),12.小児におけるSBCEのメタ解析によると,全小腸観察率86.2%,有所見率65.4%であり,成人と同等の診断精度が期待される 12.成長障害,消化管出血・貧血があり,上下部消化管内視鏡検査で診断が確定しない小児患者は,小腸内視鏡検査の可能な施設への紹介が望ましい.SBCEで全小腸を観察しえた国内の最年少は生後10カ月,体重7.9kgの乳児である 13

SBCEの禁忌は,成人と同様に消化管の閉塞,瘻孔,狭窄のある症例,心臓ペースメーカーまたは他の電気医療機器が埋め込まれている症例である.

カプセルを嚥下できる年齢の目安は概ね6歳以上であるが,中学生であっても嚥下できない症例がおり,個人差がある.日頃嚥下障害や嚥下困難感があるか,錠剤やカプセル剤を内服できるかを問診し,嚥下の可否を判断する.パテンシーカプセルの嚥下が可能であれば,カプセル内視鏡の嚥下はパテンシーカプセルよりも容易であることが多い.

概ね6歳以下の乳幼児などカプセル内視鏡が嚥下できない症例では,カプセル内視鏡挿入補助具であるアドバンス(Figure 2:製造販売株式会社ジェイエスエス,販売富士フイルムメディカル株式会社)を上部汎用ビデオスコープの先端に装着し,PillCamTMカプセル内視鏡を十二指腸に挿入する.Iwamaらは,日本人小児154例(1~17歳)に対する,183件のアドバンスを用いたカプセル内視鏡留置術を多施設で検討し,181例で留置が可能であり,小児において有効な手技であると報告している 14.本検討で留置が困難であった2例は,1歳と3歳の幼児で,いずれも咽頭の通過が困難であった.留置術に伴う軽微な合併症を64件(35%)に認め,多くは処置を必要としない軽微な出血であった.また,鎮静下留置が77件,全身麻酔下が106件で行われ,鎮静群では軽微な合併症のオッズ比3.65(95%CI 1.74-7.65)であった.鎮静と全身麻酔のいずれで行うかは,様々な要因を考慮して各施設で決定されているが,気道確保や咽頭から食道入口部の直線化が難しいことが予想される症例では全身麻酔下留置が望ましい.カプセル内視鏡のリリース時には,スコープを直線化した後に球部でリリースするのが容易である.球部のカプセル内視鏡は,スコープを再挿入し先端フードで十二指腸下行脚に落とすと確実である.

Figure 2 

内視鏡挿入処置具アドバンスにカプセル内視鏡をセット.

上部ビデオスコープの先端にアドバンスを装着し,カプセル内視鏡をセットした状態.

小児におけるカプセル内視鏡の滞留率は,18歳以下の小児メタ解析で2.6%と成人とほぼ同等である 12.カプセル滞留のリスクは,年齢よりも検査の適応となる基礎疾患による.特に小児クローン病患者で,るいそうが著しい症例では滞留率が43%との報告が海外からあり,注意を要する 15.小児のクローン病や消化管術後などで小腸狭窄や狭小が疑われる症例では,パテンシーカプセルを含めた消化管開通性の評価を注意深く行う.パテンシーの小腸開通性の確認において,非崩壊性のパテンシー排出が30~33時間に確認できない症例では,腹部エコーや低線量局所CTなど,可能な限り被曝のない検査で確認する.当院では,腹部超音波検査をまず行い(Figure 3),超音波検査でパテンシーが確認できない場合に低線量局所CTを考慮している.

Figure 3 

腹部超音波検査によるPillCamTMパテンシーカプセルの位置確認.

a:腹部単純X線像では骨盤内にパテンシーカプセルが観察される.

b:aと同時に施行した腹部超音波検査でパテンシーカプセルは直腸内にある.

c:腹部超音波検査で上行結腸内のパテンシーカプセル縦断像が観察される(矢印).

d:cの横断像,サイズがパテンシーと同一であることを確認(矢印).

(a,bとc,dは別症例).

万一,カプセル内視鏡やパテンシーが滞留し腸閉塞症状が出現した場合に,年少児では小腸バルーン内視鏡の深部挿入が困難で,外科的摘出が必要になる可能性を考慮し,SBCEの適応を決定する.

4)小腸バルーン内視鏡検査(BAE:balloon-assisted enteroscopy)

小児においても粘膜の観察に加えて生検,ポリープ切除術,止血術,胆管空腸吻合部狭窄に対するに対する拡張術などの治療内視鏡を目的にBAEが行われる 1),16.特にPeutz-Jeghers症候群の小児では,小腸に過誤腫性ポリープが好発するため,8歳までを目安に小腸を含む全消化管を観察する 17.腹部超音波検査あるいはSBCEで10〜15mmを超える小腸ポリープに対しては,小腸-小腸型腸重積による緊急手術を回避するために,BAEによる内視鏡的ポリープ切除術を行う.また,肝移植術後などRoux-en-Y再建後の胆管空腸吻合部狭窄に対するダブルバルーン内視鏡下拡張術は,これまでの外科的治療に比較してはるかに侵襲性が低く,有用な治療手技となっている 16

国内で使用可能な小腸スコープのスペックを示す(Table 3).細径スコープは幼児期など体格の小さな小児,腹部術後で癒着のある症例の挿入で有利であるが,生検や点墨など対応できる処置が限られている.小児においても治療内視鏡を目的としてBAEを施行する症例が多く,チャンネル径2.8mm以上のスコープを用いてる.

Table 3 

細径スコープを含むバルーン内視鏡スペック.

国内の8施設が参加した96件の前方視的症例集積研究によると,経口的挿入の最年少は3.7歳(体重12.9kg),経肛門的挿入の最年少は1.6歳(体重10.8kg)であった 18.本研究において10歳以下の約半数は鎮静下に行われており,気道閉塞のリスクの少ない経肛門的挿入では鎮静下に行われている実態が明らかになった.一方,年少児の経口的挿入で気道確保が困難になることが想定される,治療内視鏡で手技時間が長いことが想定される症例などでは,全身麻酔下の施行が望ましい.検査時の体位は左側臥位で開始して仰臥位に体位変換,もしくは全身麻酔の場合には初めから仰臥位で行っている.

小児においても経口的と経肛門的な挿入を組み合わせることで全小腸観察が可能である 16),19.しかし,全小腸観察を試みた40例中12例(30%)のみが実際に全小腸観察が可能であったと報告されており 19,成人に比較して全小腸観察率が低いと考えられる.BAEのみで全小腸観察を完結することにこだわらず,非侵襲的なSBCEによる全小腸観察とBAEによる生検や治療内視鏡を病態に応じて組み合わせる工夫が必要である.

BAEに伴う偶発症は,2.0〜5.2%と報告され,出血,膵炎,穿孔が注意すべき重篤な合併症である 16),18),19.Yokoyamaらは,BAEの検査時間が120分を超えると,検査後48時間以内の血清アミラーゼ値が有意に高くなると報告している 16.血清アミラーゼ上昇は,膵型および唾液腺型も検査後に上昇するとされ,高アミラーゼ血症が治療を要する膵炎の発症と直接関係するものではないものの,経口的挿入のBAEの1回あたりの検査時間は120分以内とするのが安全である.

Ⅲ 基礎疾患のある小児への対応

内視鏡処置による出血のリスクに応じた抗凝固薬や抗血小板薬の休薬については,小児における十分なエビデンスはなく,成人における診療ガイドライン 20を参考とし,内視鏡処置後に出血した場合の止血処置の難易度も考慮のうえ個別に対応する.

感染性心内膜炎のハイリスクとなる先天性心疾患や弁膜症を有する小児に,食道静脈瘤硬化療法や食道拡張術,胆道閉塞に対するERCP,大腸粘膜生検を行う場合には,感染性心内膜炎の予防について循環器科と事前に検討が必要である 1

Ⅳ 鎮静と全身麻酔

小児の消化器内視鏡検査では,安全に検査ができるよう体動を抑制する,検査前の不安を軽減する,二度と内視鏡検査を受けたくないという精神的なトラウマを残さないために,鎮静もしくは全身麻酔下に施行さることが多い.鎮静と全身麻酔のいずれを選択するかは,患児の年齢,背景疾患,予想される内視鏡手技やその時間,各医療施設のハードとソフトの整備状況を総合して判断する 1.鎮静または全身麻酔の決定に際しては,消化器内視鏡医,小児科医,麻酔科医による事前の十分な検討が重要である.一方,内視鏡検査の手技や苦痛について十分に説明を受けたうえで,患者自身が鎮静を希望しない場合には,覚醒のまま行うこともある.

鎮静下に消化器内視鏡を行う場合には,解剖学的また生理学的な成人と小児の異同を理解する必要がある.小児は相対的に舌が大きく,扁桃組織が発達しているため,上気道の閉塞が起きやすい.また,食道に挿入されたスコープによって気管が圧迫される.このため低換気から呼吸抑制を合併しやすい.また,鎮静薬単独では十分な鎮静が得られず,鎮静薬と鎮痛薬の併用が推奨される 1),21.鎮静前,鎮静中,鎮静後に適切な患者評価と緊急時に備えた医療体制の整備が必須である(Table 4 1

Table 4 

鎮静による内視鏡検査を安全に行うために必要な医療体制(文献2より引用).

Ⅴ 内視鏡技師と看護師の関わり

初めて消化器内視鏡検査を受ける患者と保護者は,多くの不安を抱えている.小児患者と保護者を対象としたアンケート調査によると,患者の検査前の不安は「寝ている間に検査が終わるのか」,「痛い検査でないか」,「いつから食事が取れるのか」,保護者の不安は「内視鏡検査や鎮静・麻酔の偶発症」が多かった 22.検査の前後に内視鏡技師あるいは看護師など医療スタッフによる,不安の軽減を考慮した声がけが,患者と家族の安心に繋がることが期待される.また,「小児消化器内視鏡ガイドライン2017」の資料編として,小児向けの検査の説明文,パス,説明と承諾書を掲載しており,各施設での利用が可能である.

Ⅵ 小児内視鏡医の研修と育成

欧米に比較し国内では,小児内視鏡の経験が豊富な小児消化器病医が少なく,小児内視鏡検査は小児消化器病を専門とする小児科医,小児外科医,消化器内科医が行っている.炎症性腸疾患など消化器内視鏡検査が診断とサーベイランスに必須な消化器疾患の増加に伴い,国内でも小児消化器病医のニーズが高まっている.当学会の附置研究会である「小児消化器内視鏡医育成のための研究会」では,小児科医や小児外科医が日本消化器内視鏡学会の専門医レベルに到達できる研修体制の整備を目指している.当面は消化器内視鏡医の協力を仰ぎながら,各地域で小児消化器内視鏡診療の中核となる病院の整備と人材の育成が急務である.

Ⅶ おわりに

世界のトップレベルを駆け抜けてきた日本の消化器内視鏡診療に対して,小児消化器内視鏡診療は欧米の後塵を拝している.今後成人の消化器内視鏡医ともさらなる連携を深めながら,日本の小児消化器内視鏡診療が発展し,消化器病で苦しんでいる小児患者に速やかに適切な医療が提供されることを期待する. 

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
© 2020 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
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