肝門部領域胆管癌の治療には,外科的な肝切除を必要とすることから,術前に正確な進展度診断を行うことが求められる.検査を行う前に知識として,肉眼分類,浸潤形式,TNM分類による病期診断,Bismuth分類による胆管の浸潤範囲を理解し,それに応じた切除範囲を考える力が必要である.内視鏡診断は侵襲性が高いため,事前に放射線画像を用いて外科と予定術式を議論し施行することが望ましい.胆管癌における内視鏡検査には,EUS,ERCPおよび関連手技,胆道鏡が挙げられる.腫瘍がどこまで進展しているかを,様々な検査を組み合わせることで,可能な限り正確に診断することを心掛ける.そのためには,それぞれの検査の手技だけではなく,期待される役割も把握した上で検査を行いたい.EUSは肝外胆管の進展度診断に有用であるが,術者依存の検査である.直接胆道造影の評価は必須であり,IDUSやMapping生検を加えることで,進展度の情報を増やすことが可能である.胆道鏡の設備がある場合は,直接胆管上皮の肉眼診断を行うこともできる.
肝門部領域胆管がんの根治治療は切除であり,肝切除も要することから難易度が高い.さらに術前化学療法の試みもあり,近年切除率は上昇してきている.しかしながら,胆管切除例の検討において,胆管断端および剝離面の癌の遺残は,術後の予後不良因子であり 1),正確な術前診断が求められている.
外科的切除の適応が病期に加えて,腫瘍の進展度範囲,脈管浸潤,肝機能,肝臓の容量などから総合的に判断する必要があるため,肝門部領域胆管がんの診療の際は,肉眼分類(乳頭型,結節型),浸潤形式(膨脹型,びまん浸潤型)の診断,TNM分類による病期診断に加えて,Bismuth分類に基づく癌の浸潤範囲を正確に診断する必要がある.浸展度範囲の診断については,造影CT,MRI/MRCP,腹部超音波検査による放射線画像診断を基盤として,主に腫瘍の存在,脈管浸潤(動脈・門脈等)を精査し,内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査(ERCP),超音波内視鏡検査(EUS),胆管内超音波検査(IDUS)等の内視鏡診断では主に進展範囲の診断を行う必要がある 2).しかしながら肝門部領域胆管がんは84-90%が黄疸を契機に見つかるため 3),4),術前に必要な精密検査が施行される前に胆道ドレナージが行われ,留置されたステントの影響による胆管壁に炎症が加わることで正確な進展度診断に難渋することや,さらには急性胆管炎が惹起されることがある.
本稿では,内視鏡診断による肝門部領域胆管がんの診療において考慮すべきことを解説する.
切除を企図した場合,切除範囲は胆管における腫瘍の進展度によって決定される.当院では内視鏡検査の前に内科と外科にてFigure 1を用いて術式の推定を行い,切除ラインを意識して最低限必要な検査を選択するようにしている.
肝切除における胆管切除ライン.
赤ライン:膵頭十二指腸切除術(PD)のラインは膵上縁胆管.
黄色ライン:左葉切除のラインは前区・後区胆管の合流部.
右葉切除のラインは内側区・外側区の合流部.
茶色ライン:左三区域切除のラインは後区胆管.
右三区域切除のラインはB2・B3の合流部.
また各種検査に入る前に腫瘍の性質をある程度推察するために肉眼分類・浸潤形式,T分類,Bismuth分類を理解しておく必要がある.肉眼分類は腫瘍の進展方向の目安として,Union for International Cancer Control(UICC)や胆道癌取扱い規約におけるT分類は局所進行度について,Bismuth分類は胆管に占める進行度について,考える上で有用である(Figure 2).MDCT,超音波診断を内視鏡診断・ドレナージ前に行い,想定される術式について外科と協議しておくことが肝要である.一度ERCPを施行してしまうと,正常な胆管にも炎症が及び二度と正確な評価ができなくなってしまうため,上記の分類を意識しながら,一度の検査で過不足なく検査を施行することが望まれる.肝門部領域胆管がんは閉塞性黄疸を呈するものの,重症急性胆管炎で発症する可能性は極めて低く,肝門部領域胆管がんが疑われた場合は専門施設へ紹介いただくことが望ましいと思われる.
肝門部領域胆管癌の診療で意識する“分類”.
胆管癌は腫瘍の胆管内腔への拡がりから乳頭型,結節型,平坦型に分類され,粘膜下への浸潤形式から膨脹型と浸潤型に分類され,合わせて計六つに分類される(Figure 3).腫瘍が進展する際に,乳頭膨脹型,乳頭浸潤型,結節膨脹型は表層のみの粘膜内進展をすることが多く,結節浸潤型,平坦膨脹型,平坦浸潤型は粘膜下浸潤部での粘膜下進展をすることが多いと言われている(Figure 3) 5).進展形式から前者は限局型,後者は浸潤型と大きく二分類されることもある
胆道癌取扱い規約に基づく胆管癌の肉眼分類.
腫瘍の増殖形式,粘膜下浸潤の有無により6分類される.進展形式.
肝外胆管癌はUICCのTNM分類8版(2017年)および,本邦における胆道癌取扱い規約第6版(2013年)において,胆嚢管合流部肝門部領域(Perihilar)と遠位(Distal)の2区域に分離され,肝側は左門脈臍部の右縁から右門脈後枝の左縁に位置する胆管とし,局在についてはより簡素に定義されることとなった(Figure 4) 6)~8).
胆道癌取扱い規約に基づく肝外胆管癌の境界.
腫瘍の進展度においてUICC第8版および取扱い規約第6版におけるT分類をTable 1に示す.T分類は,主に局所における臓器や血管浸潤による腫瘍の進展度を層別化したものであり,腫瘍の悪性度と近似するものである.
UICCおよび取扱い規約におけるT分類.
肝門部領域腫瘍による胆管の泣き別れはBismuth分類を用いる(Figure 5) 9).腫瘍の原発部位にも影響を受けるが,胆管の閉塞から腫瘍の進展範囲を肉眼的に推定することができるため,切除範囲の決定にも非常に有用である.閉塞性黄疸に対する胆管ドレナージを行う際も,ステントを留置する枝はBismuth分類から必要最低限の胆管を選択する.
Bismuth分類による肝門部胆管の泣き別れ.
胆管癌の進展度診断を行う検査として,放射線画像診断と内視鏡診断に大別される.Table 2に各診断モダリティとその有用性が期待される役割を提示する.先にも述べた通り,胆管癌の進展度診断は切除範囲に影響を与えるため,可能な限り様々なモダリティで評価することが望ましい.また内視鏡診断は侵襲性も高く,最小限の試行回数に抑えたいため,あらかじめ放射線画像診断で可能な限り範囲診断や脈管侵襲の評価を行う必要がある.
胆管癌の診療における検査の役割.
本稿では内視鏡診断の解説を行うため,放射線画像診断についての詳細は割愛する.しかしながら,内視鏡診断を正確に,過不足なく施行する上でも,MD-CTやMRIを用いて腫瘍の範囲を推定することは必須である.また胆管や血管には先天性の走行異常もあるため,それらの読影も行うようにする(Table 3) 10),11).
注意すべき胆管・血管の走行異常.
内視鏡を用いた胆管癌の進展度診断にはERCPおよびそれに関連する検査であるIDUS(管腔内超音波),胆管Mapping生検,経口胆道鏡,EUS,経皮胆道鏡が挙げられる.Table 2の通り,各検査に期待される役割があるため,目的に応じて検査を選択する.胆管癌に伴う閉塞性黄疸は,初発時に胆管炎を併発していることは少なく,緊急のドレナージは必須ではない.ERCPおよび関連手技は,処置により正常な胆管の損傷も来してしまうため,内視鏡検査はその順序も配慮する必要がある.理想的には,まず胆管内に直接影響を及ぼさないEUSで観察をしてから,ERCPを行う.ここからは,各内視鏡検査の手技についてEUS,ERCPおよび関連手技の順に解説する.
1.EUSEUSは術者による技量差があるものの,肝外胆管の描出に優れている.当院ではスコープはオリンパス社製のコンベックス型EUSスコープ(UCT260)に観測装置はEU-ME2 PREMIER PLUSを用いて施行している(Figure 6).動画は録画し,術後も再評価できるようにしている.肝門部領域胆管は胃内および十二指腸球部から観察が可能である.胃内からの観察では,門脈より深部側の脈管が肝外胆管であり,球部からはプローブに最も近い脈管が胆管である.特にコンベックスEUSは胆管を長軸方向に描出することが可能である.肝門部領域胆管癌の進展度診断においてEUSに期待されることは,腫瘍本体の壁外進達度,周囲血管浸潤,肝側・乳頭側への粘膜内進展であるが,手技そのものに修練と経験が必要であり,膵胆道疾患に精通した内視鏡専門医が施行することが望ましい.
当院でのEUS使用機器.
a:オリンパス社製のコンベックス型EUSスコープ(UCT260).
b:EU-ME2 PREMIER PLUSを観測装置として用いている.
EUSで胆管を観察する場合,まずは層構造を認識することが重要である.正常胆管は内側の低エコー層と外側の高エコーの2層として描出される.低エコー層は粘膜層(m),線維筋層(fm),漿膜下層(ss)の一部が含まれ,外側の高エコーはss深層を反映している.通常超音波で腫瘍は低エコー領域として描出されるため,腫瘍本体部では垂直方向への進展度診断を行う.具体的には外側高エコー層の菲薄化や断裂の評価,門脈や肝動脈など周囲脈管への浸潤などの評価が可能である.また腫瘍部より連続する粘膜内進展(胆管水平方向の進展)は,内側低エコー層の肥厚や不整像で評価を行う.乳頭側への進展範囲は,膵上縁との位置関係を意識することで,膵切除の有無を評価することも可能である.EUSにて肝内胆管の描出については技量と知識が必要であるため,腫瘍より肝側の評価は難しいことが多い.肝門部を同定し,左右肝管の描出が可能であれば,肝管への腫瘍の進展を評価可能である.
Figure 7は慢性肝炎のフォロー中の症例で,単純CTにて偶発的に肝門部胆管腫瘍疑い(CT:緑矢印)を指摘され精査となった症例である.同部位はコンベックス型EUSの十二指腸球部操作で,明瞭に観察が可能であった.CTにおける高吸収域はEUSでは胆管内に発育する腫瘍であることが分かる(①②:緑矢頭).腫瘍部から乳頭側に胆管を観察すると,膵上縁側の胆管上皮に壁肥厚は認めず(③:青矢頭),膵内胆管までの進展は否定的であった.また肝門側の胆管も明らかな粘膜肥厚は認めず(④:青矢頭),肝門部への進展も否定的であり,EUSではBismuth Ⅰ型の肝門部領域胆管癌の診断した.
肝門部領域胆管腫瘍のEUS評価の1例.
ERCPに入る前に,検査に入る前に必ず放射線画像を用いて想定される術式を議論する.検査においては,その術式を実現する,あるいは不能とする客観的所見を抽出することが目的である.ERCPおよび関連手技を施行するにあたり,当院では胆管の損傷が診断に影響を与える可能性もあるので,直接胆道造影,IDUS,胆道鏡,Mapping生検の順に施行している.胆道鏡については下部胆管の径が細い症例や強い狭窄を有する病変に対して有効性は低く,粘液産生性腫瘍など特殊な症例に限定している.また,特に肝門部領域胆管がんの術前精査のERCPでは助手の役割が大きく,当科では常に2-3名の胆道内視鏡専門医がグループとして診療にあたっている.
2-1.直接胆道造影
直接胆道造影では,胆管の狭窄像から腫瘍の局在,胆管壁の不整や硬化像から腫瘍の進展度を診断することが可能である.複数回の胆管造影や胆管ドレナージは二次性の胆管壁損傷を来し,進展範囲を不正確にする可能性がある.そのため,初回造影が非常に重要である.
当院では内視鏡はオリンパス社製の側視鏡(JF-260V,TJF-260V)を用いて,造影カテーテルはワイヤー操作と造影を効率よく行うため,アビス社のMTW ERCPカテーテルやボストンサイエンティフィック社製のタンデムXLトリプルルーメンERCPカニューラ(Figure 8)を用いることが多い.肝門部領域胆管がんの場合,胆管狭窄が複雑になる場合があるため,探った枝を維持しつつ,造影のみで評価する状況もある.
ERCPに使用する内視鏡,カテーテルの例.
a:オリンパス社製JF-260V(スコープ最大径13.2mm,チャネル径3.7mm).
b:オリンパス社製TJF-260V(スコープ最大径14.9mm,チャネル径4.2mm).
c:ボストンサイエンティフィック社製 タンデムXL トリプルルーメン ERCP カニューラ.
d:アビス社 MTW ERCPカテーテル.
直接胆道造影の原則は,下部胆管から腫瘍まで,腫瘍部,腫瘍部から肝内胆管に分けて造影を行うこと,切除肝の胆管が完全閉塞していた場合は無理に造影をしないことが挙げられる.また胆管内への余分な送気は,胆管像に影響を与え,さらに後述するIDUS検査にも影響する.
下部胆管からの造影では,腫瘍の乳頭側への進展度の評価が重要である.腫瘍部から連続する壁の不整や硬化像,狭細像などを陽性所見として評価する.また腫瘍と胆嚢管の位置関係は客観的指標であり,可能な限り評価する.
腫瘍部は胆管の閉塞や狭窄像を認め,同部位で造影剤の圧入を行うことで,胆管閉塞の進行度や泣き別れ(胆管の分断)を評価することができる.ここでも予定術式における残肝胆管の評価が重要となるため,各肝内胆管と腫瘍との距離や位置関係を意識して,丁寧に写真を撮影したい.腫瘍により,肝臓が偏移し胆管の合流部や胆管そのものが重なってしまうこともあるため,透視装置にCアームがある場合は透視方向を調整し,ない場合は患者さんの体位を動かし,全体の胆管像が連続的に評価できるように撮影を行う.
肝内胆管の造影では,腫瘍と各胆管の枝の評価を行う.肝内胆管の評価は肝切除の範囲に影響を与えるため,Figure 1に従い胆管の合流部を丁寧に造影したい.特に,左右肝管,後区枝の合流部,内側区枝の合流部の評価は,肝切除の区域を決定するのに重要なポイントである.しかし,肝内胆管が著明に拡張している症例では十分に胆道造影が得られないことも経験する.その際は,造影前に拡張胆管の胆汁の十分な吸引をするか,それでも不十分な場合は予定残肝の胆管ドレナージを行ってから二期的に評価を行う.
Figure 9は放射線画像にて肝門部の左葉よりに腫瘤を認め(緑矢頭),Bismuth Ⅲb型の胆管狭窄疑いと診断した症例.胆道直接造影では,外側区の造影にてB4合流部の根部がやや狭く見える(青矢頭).右胆管の造影では前後区胆管は合流部まで胆管壁の変形を認めずに造影された.
直接胆管造影にて進展度診断を行った1例.
2-2.IDUS
胆道造影に引き続き,IDUSを行うことを推奨する.当院ではオリンパス社製のUM-DG20-31Rのミニチュアプローブを用い,EU-ME2およびEU-ME2の観測装置にて検査を行っている.IDUSの特長として,意図した胆管の上皮を評価することができる点,腫瘍の深達度や粘膜内進展を評価することができる点が挙げられ,特に肝内胆管の評価に非常に優れている.しかし,操作が短軸方向であり,描出範囲が限定的であり,異物やアーチファクトに非常に弱い点などから,しばしば読影が困難となる.IDUSは高周波数装置であり,描出範囲に制限がある.サイズが大きい腫瘍や,胆管拡張が著明な症例では辺縁の評価が不十分となり,検査が不十分となることに留置する必要がある.
IDUS上でも,胆管は内側の低エコー層と外側の高エコー層の2層構造となっており,腫瘍の水平方向および垂直方向への進展は層構造で評価を行うこととなる.動画を録画し,外科医も含め複数の専門医で検査後も見直すことが肝要である.それでもIgG4関連硬化性胆管炎などとの鑑別が困難な場合がある 12).
IDUSでは,予定術式の残肝胆管への腫瘍の進展範囲,腫瘍部の壁外浸潤,乳頭側への進展範囲の評価を行う 13).残肝胆管,可能であれば亜区域胆管までガイドワイヤの誘導を行い,IDUSを肝内胆管まで進め観察を開始する.プローベをゆっくりと引いてくると,各分枝胆管が合流してくるのが分かる.それぞれがどの胆管に該当するのか,解剖学に則って記載する.その際,超音波画像では後から見返すことができるように,適宜コメントで観察部位やメルクマルを記載する.透視画像も参照しながら腫瘍部まで引いてくるが,腫瘍の粘膜内進展がある場合は,粘膜の肥厚が出現するため,その出現部位を見逃さないように注意する.特に二次分枝の合流部に該当する,肝右葉であれば前後区胆管の合流部,肝左葉であれば内側区胆管の合流部は,術式に影響を与えるため丁寧に観察を行う.
腫瘍部では可能な限り,外側高エコー層を慎重に観察し胆管壁外への浸潤を読影する.壁外への浸潤が陽性の場合,外側高エコー層が断裂し,境界不明瞭な腫瘤像を描出することができる.腫瘍周囲には,門脈や肝動脈など主要な血管も走行しているため,腫瘍の血管浸潤も評価を行う.引き続き,腫瘍より乳頭側への粘膜内進展の評価を行う.胆管壁の評価ポイントはこれまでと同様であるが,進展範囲を意識する.進展範囲の目安として,胆嚢管合流部,膵上縁,膵内胆管をIDUS上で認識する.
Figure 10は放射線画像診断では肝門部領域胆管を充満する胆管内腫瘍の症例で,Bismuth Ⅲb型を疑う症例であった.直接造影でも,肝門部から肝外胆管にかけての透亮像を認め,右肝管は前後区胆管の合流部まで,胆管壁は保たれているように見えるが,左肝管からB4合流部までは透亮像を認め腫瘍の進展を疑う所見であった.外側区胆管B3からIDUSを施行し,B3胆管には腫瘍を認めないものの(①),B2+3とB4の合流部(②③)には胆管内腫瘍を疑う所見であった.また後区胆管B7からのIDUSでは,後区(④)および前後区胆管の合流部(⑤)には腫瘍は認めなかった.腫瘍部において右肝動脈との一部境界が不明瞭な部位を認めるが(⑥),腫瘍は概ね胆管内に発育する形状であった(⑦).膵内胆管には壁変化を認めず(⑧),進展範囲は肝門部領域までと診断した.このように内視鏡による超音波診断(EUS/IDUS)では,外科医が最も知りたい腫瘍の進展度診断,さらに動脈浸潤の評価が詳細に可能となる.
IDUSにて進展度診断を行った1例.
2-3.胆道鏡
IDUS施行後,放射線画像検査で特殊な形態を疑う腫瘍や粘液産生性腫瘍を疑う場合など,直接腫瘍の評価が有用である症例は,胆道鏡での評価を行いたい.ここでの胆道鏡は親子方式経口胆道鏡に限定して解説する.
当院では胆道鏡にオリンパス社製の細径内視鏡(CHF-B209など)とボストンサイエンティフィック社製の(SpyScopeTM DS Ⅱなど)を主に使用している.Figure 11にそれぞれのスペックについて提示する.近年,高画質化や操作性の向上,鉗子口径の大口径化,耐久性の向上が進んでいるが,どちらのカメラも胆管の挿入に際しては,ESTやEPBDなどの乳頭部の拡張処置と,ある程度の胆管径(10Fr程度)が必要となる.また,胆管内に生理食塩水を注入し洗浄しながら観察するため,胆道内圧上昇による胆管炎や膵炎の発症を予防する上でも,事前に乳頭処置を行う.
当院で使用可能な親子方式経口胆道鏡とその特徴.
胆道鏡は,腫瘍および胆管上皮の腫瘍性変化を直接観察することが可能であり,腫瘍部の評価および乳頭側の胆管進展の評価が期待される.特に粘液産生性の腫瘍などは,乳頭型の形状であることが多く,粘膜内進展を来しやすく,腫瘍部およびそれに連続する乳頭状の上皮の変化などを直接観察することが可能である.カメラが直視鏡であるため,腫瘍部より肝内側については,連続性の評価が難しいことがあるが,二次分枝の胆管上皮の評価は可能な場合が多く,残肝胆管は可能であれば観察を試みたい.
粘膜内進展が疑われる所見として,上皮の乳頭状あるいは顆粒状変化,不整な拡張血管所見,易出血性を陽性としている.NBIが併用できれば,関心領域の観察を行い,粘膜構造や粘膜血管の微細な変化を観察可能となる.胆道鏡では直視下の生検も可能であるため,腫瘍本体だけでなく,進展が疑われる部位の生検も行いたい.
Figure 12は肝門部腫瘍の症例で,前医の検査にて肝門部狭窄を突破できなかった症例であり,SpyScopeTM DS を用いた精査の方針となった.腫瘍より乳頭側の胆管に上皮性の変化は認めない(①②).狭窄部にて乳頭状の腫瘍を認め,診断可能であった(③④).狭窄部を越えた肝内胆管壁には上皮性の変化は認めなかった(⑤).腫瘍部からSpyBiteTMを用いで生検を行い(⑥)腺癌の診断であった.
経口胆道鏡が診断に有用であった1例.
胆道鏡は直接腫瘍を観察することができる理想的な内視鏡検査ではあるが,手技の難易度や偶発症のリスク,コスト面など汎用化にはまだ課題の残る検査であり,適応は限定される.
2-4.Mapping生検
ERCP関連の画像検査を十分に行った後に,生検による進展度診断を施行している.当院では生検鉗子として,腫瘍部より上流の胆管にはオリンパス社製のガイドワイヤ誘導式の片開き生検鉗子を用い,腫瘍部および腫瘍乳頭側では上部消化管内視鏡検査用の両開きの生検鉗子(ボストンサイエンティフィック社製,Radial JawTMなど)を用いている.
Mapping生検もこれまで同様,予定術式を想定することが重要で,特に切除ラインに該当する部位の生検を可能な限り行いたい(Figure 1).その際,コンタミネーションを予防するため,腫瘍部は最後に生検を行うようにしている.検査の手順として,まず膵切除のラインとなる膵上縁,次に肝切除ラインを決める各肝内胆管,最後に腫瘍部を生検する.Figure 13はFigure 9にて提示した症例のMapping生検である.腫瘍の進展範囲を診断する目的で,①膵上縁,②後区合流部,③B4合流部,④腫瘍部の順に生検を行ったが,④以外からは腫瘍は検出されなかった.
Mapping生検実施の実際.
透視下の生検はあくまでもブラインドでの操作となるため,狙撃部位を正確に採取することが困難な場合がある.特に肝内胆管の生検は,腫瘍による胆管軸の偏位もあり,ピンポイントで行うことに難渋することや,そもそも狭窄部を生検鉗子が通過しない場合もある.腫瘍部より肝内側を確実に生検する方法としては,胆管拡張用のダイレーションカテーテルと細径鉗子との組み合わせで可能な場合がある 14).10Frの胆管拡張用のダイレーションカテーテルと片開き把持鉗子(オリンパス社製,FB-46Q-1)の組み合わせや,6Frのダイレーションカテーテルとボストンサイエンティフィック社製のSpyBiteTMの組み合わせが可能とされているので,肝内胆管の生検が術式の決定に非常に重要な場合は覚えておきたい.
Mapping生検については,診断感度やコンタミネーションの問題もあるが,陽性の場合に術式に大きく影響を与えることがある.逆に陰性であれば,切除ラインとしての客観性を担保することができ,術前には可能な限り行っておきたい.
肝門部領域胆管癌の進展度診断について,内視鏡診断を中心に解説した.胆管癌の診断は,胆膵領域において専門性が高く,様々な知識を応用する必要がある.進展度診断においては,内科,外科ともにチームで議論を行い,適切な検査を選択できるようにしたい.
謝 辞
本稿を作成するにあたり,資料やデータの提供,構成や内容について御助言をいただきました横浜市立大学附属病院肝胆膵消化器病学教室,細野邦広先生,長谷川翔先生,栗田裕介先生に深く御礼申し上げます.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし