2020 年 62 巻 6 号 p. 706-711
症例は60歳男性,3年前より発熱と下痢のエピソードを繰り返していたが,近医より発熱,腹痛,および下痢の精査目的の依頼で入院になった.感染性腸炎が疑われたが有意な病原菌は検出されず,大腸内視鏡では盲腸から横行結腸にかけてcobble stone様病変と浅い潰瘍が多発していた.Crohn病を疑い5-アミノサリチル酸などで治療したが無効であった.しかし,自然に改善して退院となった.4カ月後再び39.2度の半日程度の発熱,下痢,腹痛で再入院し,家族性地中海熱を疑い遺伝子検査でMEFV遺伝子に変異があり診断が確定し,コルヒチンの長期服用で内視鏡像や症状も改善した.この例では2箇の胃潰瘍瘢痕とその後結腸粘膜にintestinal Spirochetosisを合併していた.
本邦では自己炎症性疾患である家族性地中海熱(familial Mediterranean fever FMF)は稀な疾患と考えられてきた.しかし,家族性地中海熱の遺伝子研究や不明熱患者がコルヒチンで軽快することが分かり,不明熱の中には本症によるものがあることが次第に明らかになった 1).以前からCrohn病に合併する本症が中近東のトルコ人,アルメニア人,ユダヤ人で報告されている.一方,家族性地中海熱病の症例に消化管病変が見られることがNakaseらにより報告され,その後仲瀬らを中心に研究が進んでいる 2).
著者らは年に1から2回,繰り返す数日の発熱,腹痛,下痢などを呈し大腸内視鏡検査で右半結腸にCrohn病のcobble stone病変に類似した病変を認め,遺伝子検査で家族性地中海熱病の遺伝子変異が確認され,コルヒチンで消化管病変と症状が改善した症例を経験したので報告する.なお,この症例には胃潰瘍瘢痕が2箇と改善後の結腸粘膜にintestinal Spirochetosisが見られ,因果関係は不明であるが報告する.
患者:60歳,男性.
主訴:発熱,下痢,腹痛.
既往歴:腰痛(腰椎椎間板ヘルニア),非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)の服用が10カ月ほどあったが吐血下血の既往はない.停留精巣術(30歳代),高血圧(治療中),パニック症候群.
家族歴:特記することはない.
現病歴:3年前頃より年に1から2回の下痢と37度台の数日で収まる発熱のエピソードを繰り返し,某診療所で加療していた.某年2月発熱,下痢,腹痛を呈し,某医から難治性のため当院を紹介され,感染性腸炎の疑いで入院精査をすることになった.なお,最近は2から3カ月に1回腹痛と水様下痢を認めるが,7から10日で改善することが多かった.
第1回入院時身体所見:身長163cm,体重52kg,体温36.5度,血圧76/45mmHg,脈拍102/分,理学的には腹部全体に圧痛が見られたが反跳痛はなく,グル音は正常.下肢浮腫はない.
入院時検査成績:CRP 5mg/dl,アルブミン3.8g/dl,末梢血白血球数11,760cmm,便培養では有意な病原菌は検出されなかった.
腹部CT検査(某年2月):上行結腸から横行結腸にかけて腸管壁肥厚,腸管周囲のリンパ節腫大,腸間膜脂肪織濃度の軽度上昇が見られた.
上部消化管内視鏡検査(某年3月):EC接合部はGERD LA分類M型,胃前庭部後壁に潰瘍瘢痕2個(S2),体部に胃底腺ポリープ散在,rearrangement of collecting venules(RAC)陽性,十二指腸には異常はない.胃粘膜生検では細胞浸潤は軽度で,腺窩上皮の再生・過形成像が見られた.
大腸内視鏡検査(某年3月):盲腸から横行結腸にかけて浮腫状で散在性に浅い潰瘍が多発し,上行結腸から横行結腸にかけて一見潰瘍性大腸炎の偽ポリポーシス様所見とも考えられ粘膜面が見られたが右側大腸のみに見られたので,Crohn病のcobble stone様所見と考えた.しかし,縦走潰瘍は見られなかった(Figure 1-a).結腸生検では形質細胞,リンパ球,好酸球,好中球浸潤が著明で陰窩膿瘍も見られた(Figure 2-a).

全大腸内視鏡検査所見.
a:3月:上行結腸に一見潰瘍性大腸炎の偽ポリポーシス様所見とも考えられる粘膜面が見られたが右側大腸のみ見られたのでcobble stone様所見としたが,縦走潰瘍は見られなかった.
b:10月:上行結腸から横行結腸にかけての多発性の浅い潰瘍.
c:翌年10月:上行結腸に見られた散在性炎症性ポリープ.

a:3月の上行結腸生検病理像:リンパ球,形質細胞,好中球の著明な浸潤が見られる.陰窩膿瘍が見られる.H&E染色,60倍.
b:翌年10月の上行結腸生検病理像:上皮表面にintestinal Spirochetosis を認める.H&E染色,200倍.
入院後経過:一日3行ほどの下痢と腹痛が見られた.腹痛は強くペンタゾシンで軽快した.Crohn病を疑い整腸薬,5-アミノサリチル酸1,500mg/日を処方し,一時コルヒチンが2週間処方されたが効果ないと判断し中止された.症状は次第に改善したため3月初めに退院し,外来で経過を見ることにした.同年9月初め頃より発熱,十数回の下痢,血便,下腹部の腹痛が見られたため,第2回目の入院となった.
第2回目入院経過:入院時しばしば腹痛を訴え,ふらつきはないが下痢と下血のためか収縮期血圧70mmHgと低下しヘマトクリット値はやや低下していた.入院4日目37度台体温が急に39.1度に上昇,翌日には37度に解熱した.血液培養では有意な菌は検出されず,また便中のClostridioides difficile抗原も陰性であった.Crohn病を疑い,5-アミノサリチル酸3,000mg/日,経口ブデソニド9mg/日で加療した.繰り返す発熱,腹痛,下痢が見られたため家族性地中海熱を疑い,本人の了解の元に遺伝子検査を施行したところ,家族性地中海熱MEFV遺伝子の変異(exon 3・codon369がCCCからTCCに,exon 8・splicing donor site 8ntがcからtへ)が検出されたので本症非定型型と診断し,前記の薬剤と共にコルヒチン2mg/日で経過を見ることにして,外来通院となった.退院後は軽度の腹痛や軟便はあったが発熱はなかった.次第に症状が改善したので,経口ブデソニドは中止し,下痢が著明なのでコルヒチンは一日1mgに,さらに0.5mgに減量して維持療法をしている.
2回目入院時検査:某年9月(Table 1).

第2回目入院時検査.
大腸内視鏡検査(某年10月):多発性に小潰瘍と炎症性小ポリープが右半結腸に見られた(Figure 1-b).(翌年10月):回腸末端は発赤あり,盲腸から上行結腸には粘膜はやや浮腫状,前回のcobble stone様所見は改善し,小炎症性ポリープが散在していた(Figure 1-c).一部に発赤が見られた.
上行結腸生検(翌年10月):粘膜内にはリンパ球浸潤,一部軽度の好中球浸潤が見られた.興味あることに粘膜上皮上にintestinal Spirochetosisが見られた(Figure 2-b).
小腸レントゲン(某年9月):粗大病変は見られなかった.
家族性地中海熱FMFはその名の通りトルコ人,アルメニア人,ユダヤ人などの地中海沿岸に住む民族に見られ,本邦では希な疾患と思われてきた.しかし,1997年FMFの責任遺伝子が染色体16番の短腕にあることが明らかにされた 3).本疾患は遺伝性炎症性疾患で1908年に報告され1955年に疾患概念が確立された 4).本邦では繰り返す不明熱の中にFMFが見られ,本症の診断は困難であったが遺伝子検索により多くの症例が見つかるようになった 5).MEFV遺伝子は10個のexonからなり,このうち本邦ではexon2のE148Qとexon10のV726A,M694V,M694I,M680Iなどの変異の報告が多く見られる 6).現在では本症は自己炎症性疾患の範疇に入り,MEFV遺伝子がコードするpyrinの機能が障害されるとインフラマソームが活性化され,caspase-1さらにinterleukin-1β/IL-8の産生プロセスが促され発熱などをきたすと考えられている.さらに,pyrinは消化管粘膜上皮間tight junctionの働きにも関与し,粘膜透過性防御に働くので,この機能が消化管病変の形成にも関与すると考えられる 7).日本人の本症では,繰り返す発熱(95.5%),胸背部痛(36.9%),腹痛(62.7%),下痢,関節痛(31.3%)などが報告されている 5).
欧米では本症とCrohn病,潰瘍性大腸炎,Bechet病,アミロイドーシスなどの合併例が報告されている 8).Crohn病や潰瘍性大腸炎の活動性粘膜ではMEFV遺伝子の発現亢進が見られるという.しかし,MEFV exon10の遺伝子変異はCrohn病や潰瘍性大腸炎の疾患感受性には関与していなかった.一方,トルコ人の炎症性腸疾患患者ではMEFV遺伝子の変異は対照が9.9%であったが,潰瘍性大腸炎では28%,Crohn病では22.6%見られたという 9).Nakaseらは本症に伴う特異な消化管病変を独立した疾患単位ではないかと報告し,本邦でも本症に伴う小腸病変が共同研究で報告されている.その報告では,回腸末端の浅い潰瘍,瘢痕,充血,浮腫,びらん,花びら様発赤などが見られる 10),11).また,十二指腸・空腸にはじめはびらん,浅い潰瘍,顆粒状粘膜を呈し,1年後は多発性偽ポリポーシスを呈した症例もある 12).肝膿瘍合併例も見られる 13).小腸カプセルや小腸鏡でも小腸粘膜の潰瘍,びらん,浮腫が空腸や回腸に見られたと報告されている 14),15).多くの粘膜生検の病理像はリンパ球と好中球の浸潤が著明で,病理学的に本症とCrohn病や潰瘍性大腸炎の鑑別はかなり難しいと考えられる 16).大腸に関してはリンパ濾胞増殖症,発赤などが報告されているが,潰瘍,cobble stone様所見,炎症性ポリポーシスなどの報告は少ない.本例では結腸粘膜上にintestinal Spirochetosisが見られた.この病変は様々な疾患に見られ,無症状の例が多く,多くは治療の対象にはならないようであるが,免疫異常などの素因の関与も示唆されている 17).
本例では胃前底部に潰瘍瘢痕が見られたが,胃病変では発赤,線状びらんが見られたという報告はある.本例では胃粘膜はRAC陽性で胃底腺ポリープが見られるので,胃潰瘍の成因にヘリコバクター・ピロリ菌の関与は少ないと思われる.また,NSAIDsの服用の既往はあったが吐血下血の既往はなかった.本例では精巣の手術が行われているが,本症の精巣漿膜炎との関わりは不明である.
診断は臨床症状からは12から72時間続く38度以上の発熱を3回以上と非限局性腹膜炎による腹痛,胸膜炎による胸背部痛,関節炎,心膜炎,精巣漿膜炎,頭痛などのいずれかが存在し,コルヒチンで軽快するか,あるいはMEFV遺伝子に変異があるなどから診断する.
MEFV遺伝子に変異があっても必ずしも上記の症状を満たされない例は非定型型としている.MEFV変異のない本症もあるという.
治療はコルヒチンが本邦では91.8%に有効である.無効の場合はIL-1 receptor拮抗薬anakinraや抗IL-1βモノクロナール抗体canakinumabがある.本例ではコルヒチンが有効であった.
繰り返す発熱,腹痛,下痢のエピソードを有し,MEFV遺伝子変異がある家族性地中海熱に,右半結腸にcobble stone様病変,多発性の浅い潰瘍を合併した症例を経験した.本例には精巣手術の既往と胃潰瘍瘢痕が見られた.コルヒチンが症状や大腸病変の改善に有用であった.
謝 辞
日本鋼管病院内科吉岡政洋先生のご協力に感謝する.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし