2020 年 62 巻 7 号 p. 753-763
膵疾患に対するEUS-elastographyで用いられるelastographyはstrain elastography(SE)とshear wave elastography(SWE)に大別される.これまでの検討のほとんどはSEを用いて行われてきた.SEの解釈の方法としてはROI内の画像のパターンを認識する方法,脂肪組織または結合組織と病変部の硬度を比較するSR(strain ratio)を用いる方法,対象の硬度分布をヒストグラム解析により評価する方法の三つがある.前二者は再現性が悪く,複数回の評価が必要となり,その解釈には十分な注意を払う必要がある.この方法は主に腫瘍性疾患に対して用いられてきた.ヒストグラム解析は再現性に優れ,硬度分布を評価するような慢性膵炎などの評価に用いられてきた.膵は加齢により硬度が上昇するので,年齢を考慮した検討が必要となる.
膵に限らず多くの疾患はその発症過程で炎症を惹起し,その結果として多かれ少なかれ線維化を生ずる.線維化は一般に高硬度であることから,対象の硬度評価が可能なelastographyの臨床的意義が生じ検討されてきた.本総説では下記の項目につき,内外の文献を渉猟しつつ,若干の私見を交えて記述した.なお,文中のelastographyはすべて超音波elastographyを示すものとする.
1.Elastographyの分類
2.膵疾患診療におけるEUS-elastographyの現状
3.膵疾患診療におけるEUS-elastographyの課題と今後の展望
Table 1にelastographyの分類を示した 1).Elastographyは対象になんらかの刺激を与えることによって生ずる“変化”を測定し画像化あるいは数値化する技術である.測定対象は二つに大別され,一つは“ひずみ,変形,変位(strain,displacement)”,もう一つは剪断弾性波の速度(shear wave velocity)である.
Elastographyの分類.
刺激方法としては,プローブを動かして圧迫することで対象に力学的変位を生じさせる方法(対象がプローブから遠位にある場合には深部動脈からの拍動により対象が変位することを利用する.)がある.また,ARFI(acoustic radiation force impulse 音響放射力インパルス)によって対象に変位を生ずる方法がある.また,ARFIによって変位させられた部位から剪断弾性波(shear wave)が周辺に伝播する.剪断弾性波速度検出用のトラックパルスを送受信することで剪断弾性波速度の測定が可能である.ヤング率(Young’s module:伸び弾性率)Eとshear wave velocity(Vs)には,E≒3Vs2の関係が成り立つことが知られている.従って,Vsが大きいほど高硬度であると言える.EUS-elastographyに用いられている手法は主にstrain elastographyであったが,ごく最近になってshear wave elastographyがEUS-elastographyで使用可能となった 2)~4).
膵疾患に関するelastographyの有用性が報告され始めたのは2005年頃からである 5)~12).本邦からは経腹壁超音波検査によるelastographyの有用性も報告されたが 6),13),欧米からの報告はそのほとんどがEUS-elastographyであった.これは欧米と本邦との被験者体格差に起因するものと考えられる.有用性を強調した報告が多い中で,Hircheら 14)はEUS-elastographyの限界について報告している.Hircheらは,膵局所病変に対するEUS-elastography診断の感度,特異度,正診率はそれぞれ41%,53%,45%と報告した.一方で,膵疾患に対するEUS-elastographyを最初に報告したGiovanniniら 8)は,膵限局性病変診断の感度,特異度はそれぞれ100%,67%と報告している.この違いは何に由来するのであろうか?膵疾患に対するEUS-elastographyで用いられてきた手法はOhnoら 2),3),Yamashitaら 4)の報告を除けばすべてstrain elastograpy(Table 1)である.EUS-elastographyを理解するにはstrain elastographyの解釈を知る必要がある.
Strain elastographyの解釈Table 2にstrain elastographyを解釈する上で基本となる考え方を示した.
Strain elastographyの解釈.
Strain elastography画像は一点のみの硬度表示ではないため(ある一定領域での硬度情報を表示し得る),そこから得られる情報は大きく分けて二つになると考えられている.
なお,呈示したelastography画像では右端barで示す緑色がROI(region of interest)内の平均硬度を示しており,赤になるほど軟で青になるほど高硬度となっている(装置によっては硬軟が逆表示になるものもある).
1-a
一つは設定されたROI内におけるターゲットの認識で,画像診断における伝統的な手法であるパターン認識(あるいはパターン分類)である.すなわち,周囲組織に比して高硬度である,あるいは低硬度であるという考えである(Figure 1).これは,あくまでROI内での相対的な硬度であるため,ROIの形状が異なる場合や被験者自体が異なった場合の被験者間での正確な比較は理論的に不可能である.
膵管癌のEUS-elastography画像.
EUS-B-mode画像(右)では,輪郭が明瞭で不整な低エコー領域が描出された.EUS-elastography画像(左)では同部が周囲に比して青色に描出されており高硬度腫瘍と診断された.B-mode画像と合わせて膵管癌と診断可能であった.
1-b
組織内において脂肪組織または結合組織は異なる個体であってもほぼ同一の硬度を有するという仮定のもとで,SR(strain ratio)というパラメーターが考案され検討されている(Figure 2).SRは半定量化のための一つの考え方ではあるがROIの形状,設定によりSRの値は容易に変化する.さらに,対象が設定可能なROIの大きさを越える場合や対象付近に脂肪組織または結合組織が存在しない場合など,設定されたROI内に脂肪組織または結合組織が含まれない場合もありその場合にはSR自体を計算することが不可能である.
Strain Ratio(SR)による評価.
Figure 1と同一症例である.EUS-elastography画像上の左上矢印部分を脂肪組織または結合組織とし病変矢頭部分との硬度比を計測すると6.26であった.
2
二つ目は得られたstrain elastography画像内での硬度分布情報である.一般に肝硬変や慢性膵炎では組織の改変が生じており,硬軟様々な組織が混在している.Strain elastographyではこのような硬度分布情報を提供し得る.Figure 3は慢性膵炎症例を示す.EUS-elastography画像では硬軟の部位が不規則に分布している.ここで重要なことは,ROIの大きさを変化させた場合には色調が変化する可能性はあっても“不規則な分布形状”は変化しないということである.Figure 4はEUS-elastography画像のヒストグラム解析(strain histogram analysis:SH)を示す.EUS-elastography画像上の任意の領域を選択するとカラー画像から256階調のグレイスケール画像(歪値画像)に変換される.さらに,ある一定の閾値のもとで二値化画像に変換する.歪値画像と二値化画像から自動的に複数の特徴量が算出される(本解析は市販のいくつかの装置に装備されており検査中に解析可能である).
慢性膵炎のEUS-elastography画像.
EUS-B-mode画像(右)では,膵実質は高エコーと低エコーの混じた画像所見を呈した.EUS-elastography画像(左)では同部は緑と青が不規則に混じた画像所見を呈していた.
慢性膵炎EUS-elastography画像のヒストグラム解析.
Figure 3と同一症例である.EUS-elastography画像のヒストグラム解析を示す.EUS-elastography画像上の任意の領域を選択するとカラー画像から256階調のグレイスケール画像(歪値画像)に変換する.さらに,ある一定の閾値のもとで二値化画像に変換する.歪値画像と二値化画像から自動的に複数の特徴量が算出される.本解析は市販のいくつかの装置に装備されており検査中に解析可能である.
われわれは,設定閾値に依存しない歪値画像から得られた特徴量の中から硬度と関連する特徴量を検討した結果硬度と逆相関する,あるいは硬度と負の相関を示すMean値が最も有用な特徴量であることを見出した 15).
膵疾患のEUS-elastography(局所性占拠性病変を中心に)Strain elastographyの十分な理解のもとでこれまでの報告を再検討してみたい.Figure 5にGiovanniniらが提唱したEUS-elastographyにおけるelastic scoreを示した 1),8).前述したように良悪性の感度100%,特異度67%と素晴らしい成績が報告されている.Giovanniniらは簡略化した分類を用いて多施設共同研究を行った結果,良悪性の感度92.3%,特異度80.0%と報告している 16).Itokawaら 17)~19)の報告では,同様の手法による検討で良悪性の感度96.3%,特異度80%であったと報告している.さらにSR(Table 1)を付加した検討では腫瘤形成性膵炎と膵管癌の組織硬度の検討では有意に膵管癌群でより高い値(高硬度)を示したと報告した.報告された結果は素晴らしいものであり,その結果を解釈する際には,それぞれの報告者が前述のstrain elastographyの解釈を熟知した上で実際の症例に臨んでいることを知るべきである.
膵疾患のEUS-elastographyによる組織硬度パターン(elastic score) (文献1より引用一部改変).
正常は多くの場合score1を示す.膵管癌例はほぼ全例score5.慢性膵炎はscore2を示し,score3は小膵管癌,score4は膵内分泌腫瘍を示す.
Iglesias-Garciaら 20)はEUS-elastographyにおいてSRを用いることで膵腫瘍の良悪性診断の感度が100%,特異度が92.9%であると報告した.その後,韓国からもSRを用いたEUS-elastographyに関する報告がなされた 21),22).Leeら 21)は,limitationとして再現性の問題を挙げた上で有用性が勝ると結論した.同時期,われわれもSRを用いて同様の検討を行っていたがROIの設定方法によってSRの値が全く異なることからSRを用いた検討には限界を感じていた.結局,どのような工夫をしてもIglesias-Garciaらのような結果を得ることが出来なかったためSRを用いたEUS-elastographyの検討は諦めざるを得なかった.
Table 3にSR(EUS-elastography)を用いて膵腫瘍の良悪性診断を試みた検討の一覧を示した.SRのカットオフ値は3.17~10,また,感度,特異度もそれぞれ67%~100%,17%~93%とかなりの幅を持つことを銘記すべきである.
膵腫瘍良悪性診断におけるSR(strain Ratio)のカットオフ値と診断成績.
EUS-elastography画像のヒストグラム解析(strain histogram analysis:SH)を用いた場合にはROIの形状に依らず一定の値が得られることからび漫性膵疾患,特に慢性膵炎の診断に有用である.他方,Iglesias-Garciaら 29)はSRを用いた慢性膵炎診断について報告をしていた.彼らは,膵頭部・膵体部・膵尾部におけるEUS-elastographyでのSRの平均を用いて検討している.平均SRのカットオフ値を2.25としたときに91.1%の正診率で慢性膵炎を診断可能と報告した.
前述のようにSRには測定誤差が付きまとうこと,慢性膵炎では線維化の存在部位が不規則であるためにSRを用いた検討は困難と考えられる.さらに病理組織標本との検討からスタートする必要がある.
慢性膵炎をEUS-elastographyで診断するためには次のような過程が必要である.
①膵の線維化がEUS-elastographyを用いて評価可能であるということを病理組織標本との対比で証明すること.
②その上で,慢性膵炎診断基準に合致する症例をEUS-elastographyで診断可能であることを証明すること.
①の検討のために他疾患で手術をされた膵実質部分を用いて,術前に実施したEUS-elastographyのSHと病理組織標本との対比を行った.切除された膵組織中,病変の膵尾部側の病理組織標本を比較に用いた.線維化の程度の判定はKloppelら 30)の線維化スコアを用い(Figure 6),ヒストグラム解析で得られる特徴量との相関を求めた.検討の結果,Mean値が膵線維化と最も鋭敏に負の相関を示すことが判明した(Figure 7).これにより,EUS-elastographyによって膵線維化診断が可能であることが示された 15).
膵線維化スコア.
Kloppelら 30)は小葉内線維化(矢頭)および小葉間線維化(矢印)の程度によって線維化スコアを0から12までに細分化した.本検討ではスコア0~3をNormal,スコア4~6をMild,スコア7~9をMarked,スコア10~12をSevereと分類した.
ヒストグラム解析(strain histogram analysis:SH)における代表的特徴量.
ヒストグラム解析(strain histogram analysis:SH)で得られるMean, Standard Deviation, Skewness, Kutosisの四つの特徴量と線維化程度につき検討した結果,Meanが最も鋭敏に膵の線維化と逆相関することが証明された.
②次にRosemont分類 31)とEUS-elastographyにおけるMean値との検討を行った 32).その結果,Rosemont分類におけるNormal, Indeterminate, Suggestive, ConsistentとEUS-elastographyのヒストグラム解析におけるMean値が有意に逆相関を示した.このことからEUS-elastographyによる慢性膵炎診断の可能性が示された.EUS-B-mode画像と併せ相補的に診断することでEUSによるより客観的な慢性膵炎の診断の可能性が広がったと言える.“慢性膵炎臨床診断基準2009” 33)で提案された早期慢性膵炎の概念は “慢性膵炎臨床診断基準2019”―執筆時点では未刊行―へも引き継がれることになっている.より早期に慢性膵炎を診断し治療介入をすることはQOLを維持するために極めて重要であり,EUS-elastographyのヒストグラム解析による診断は早期慢性膵炎の診断に繋がる可能性があり今後の検討が重要である.
膵疾患のEUS-elastographyのその他の応用Dominguez-Muñozら 34)は,SRを用いた検討でEUS-elastographyが慢性膵炎における膵外分泌機能不全を予測し得ると報告している.本研究はEUS-elastographyを用いた膵外分泌機能の検討であるが,今後は膵内分泌との関連も含めた膵機能全般に関係するような検討がなされていく可能性がある.
Kuwaharaら 35)は,EUS-elastographyを用いたヒストグラム解析による検討で膵頭十二指腸切除後の膵液瘻の予測が可能であったと報告している.Kuwaharaらに依れば,EUS-elastographyによるヒストグラム解析でMean値70をカットオフ値にした場合に,感度84.2%,特異度80.0%で膵液瘻が予測可能であると報告している.
EUS-elastographyに限らず,経腹壁的elastographyも同様であるが,strain elastographyの課題の最も重要なものは再現性である.現状ではEUS-elastographyの再現性は不十分であり,どうしても複数回の計測を行う必要がある.再現性の低さは,超音波検査そのものが内包する本質的な問題かもしれないが,今後はAI技術などの応用でこの問題を克服する方向に進むことを期待したい.
ごく最近,Shear wave elastographyが使用可能なEUS-elastographyが開発され(Figure 8),既に三つの報告がなされている 2)~4).この技術は始まったばかりであり成熟するには今少し時間がかかるかもしれないが,対象の硬度が数値で示されることはこれまでに無い利点であり客観的な指標となり得る.
EUS-elastography(shear wave measurement).
胃から膵体部を観察した画像である.黄四角のROI内の剪断弾性波の速度が測定可能である.下段の赤枠内にVs(shear wave velocity)が1.70m/s.と示されている.
最後に加齢に伴う膵自体の変化について述べておきたい.EUS-elastographyのヒストグラム解析を用いた検討 36),37)では,加齢とともに膵自体の硬度が上昇することが分かっている.高齢化が進む本邦において,今後,膵のEUS-elastographyを検討するにあたり,加齢は間違いなく交絡因子(confounding factor)になると思われる.
以上,膵疾患診療に対するEUS-elastographyの現状と展望について述べた.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし