日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
EUS-FNAが術前診断に有用であった十二指腸Brunner腺過誤腫出血の1切除例
荒生 祥尚 小林 正明池見 雅俊塩路 和彦清野 智阿部 寛幸岩城 孝和田口 貴博谷 優佑寺井 崇二
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キーワード: Brunner腺過誤腫, 出血, EUS-FNA
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2020 年 62 巻 7 号 p. 778-784

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要旨

症例は75歳男性.黒色便を認め,内視鏡検査で十二指腸球部後面に無茎性腫瘤性病変(25mm)を認め,頂部に微小な露出血管を伴ったびらんがあり止血処置を行った. EUS-FNAを施行しBrunner腺の過形成を認め悪性の可能性は極めて低いと判断したが,出血を繰り返し治療適応と判断した.局在や大きさ,形態から内視鏡的切除困難なため外科的局所切除を施行した.病理はBrunner腺の他に導管や平滑筋の増生も認めBrunner腺過誤腫と診断した.Brunner腺過誤腫が内視鏡切除できない場合,病変の局在によっては膵頭十二指腸切除など侵襲的な手術が選択された報告もあるが,EUS-FNAは診断に有用であった.

Ⅰ 緒  言

Brunner腺過誤腫は良性腫瘍であるが,大きくなると出血や閉塞症状などを来し症候性となることが多い 1),2.粘膜下腫瘍の形態を示す場合が多く 3,通常の生検では深部の組織が採取できず診断できないため 1,病変の局在によっては膵頭十二指腸切除などの過剰な手術が選択されることもある 4)~6.今回われわれは出血を繰り返すBrunner腺過誤腫に対して術前にEUS-FNAを施行し,局所切除を選択した1例を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

症例:75歳,男性.

主訴:黒色便.

家族歴:特記事項なし.

既往歴:前立腺癌,高血圧症.抗血栓薬やNSAIDs内服はなし.

現病歴:前立腺癌治療後で当院泌尿器科通院中であった.同科受診時に黒色便を認めたため当科に紹介された.

入院時現症:意識清明,脈拍89回/分整,血圧121/49mmHg,眼瞼結膜に貧血を認めた.表在リンパ節は触知せず.胸部に特記所見なし.腹部は平坦,軟で圧痛なし.肝脾は触知せず.浮腫はなし.

入院時血液検査:RBC 298×104/μL,Hb 8.6g/dlと貧血を認めた.BUN 53.1mg/dlと高値であった.腫瘍マーカーは正常範囲内であった.

腹部骨盤造影CT:十二指腸球部から下行部に2.2×2.6cmの均一に造影される腫瘤を認めた.内部にはφ2mmの嚢胞も認めた.

上部消化管内視鏡検査:十二指腸球部後面に無茎性のポリープを認めた.表面は平滑で正常粘膜に覆われていたが,一部発赤調であり,頂部にびらんと微小な露出血管を認めた(Figure 1-a,b).活動性の出血は認めなかったが凝固止血を行った.上皮性腫瘍よりは粘膜下腫瘍を疑ったが,Brunner腺由来病変を示唆するような腫瘍の表面の開口部は認めず,また頂部のびらんのためgastrointestinal stromal tumor(GIST)も鑑別に挙げ,EUS,EUS-FNAも施行した.

Figure 1 

上部消化管内視鏡検査.

a:十二指腸球部後面に無茎性のポリープを認めた.表面は平滑で正常粘膜に覆われていたが,一部発赤調であった.

b:頂部にびらんと微小な露出血管を認めたが,明らかな活動性出血は認めなかった.

EUS:GF-UCT260(オリンパス,東京),EU-ME1(オリンパス,東京)を用いて観察した.病変は内部に一部嚢胞変化(φ2mm,単房性)を伴う比較的均一な高エコー腫瘤で,第4層との連続性はなく,第3層が主座と考えられた(Figure 2-a).血流シグナルは認めなかった.嚢胞状変化を伴うことがあるBrunner腺過形成や異所性胃粘膜,迷入膵などが考えられ,第4層に主座を置くことが多いGISTや筋原生腫瘍,神経原性腫瘍の可能性は低いと考えられたが,腫瘤に対してAcquire 22G(ボストンサイエンティフィック,アメリカ合衆国)を用いてEUS-FNAを施行した.

Figure 2 

EUS,EUS-FNA組織像.

a:内部に一部嚢胞変化(矢印)を伴う高エコー腫瘤を認めた(矢頭).第4層との連続性はなく第3層が主座と考えられた.

b:Brunner腺過形成を認めた.明らかな細胞異型は認めなかった.

EUS-FNA組織学的所見:Brunner腺の過形成を認め(Figure 2-b),Ki-67陽性の増殖細胞はごく少数であり(Ki-67 labeling index<1%),p53過剰発現は認めなかった.

EUS-FNAの4日後に再度黒色便とHbの低下を認めた.上部消化管内視鏡検査では以前より腫瘤自体の発赤所見が強く,前回同様に頂部にびらんと血液の付着を認めた.活動性の出血は認めなかった(Figure 3).出血を繰り返すこと,十二指腸球部後面に局在し無茎性病変で内視鏡的切除が困難であること,EUS-FNAでBrunner腺過形成が第一に考えられ,悪性の可能性は完全には否定できないが極めて低いことを十分に本人・家族に説明した上で,縮小手術の方針とし,2回目の止血処置の4日後に待機的に開腹下十二指腸腫瘤粘膜切除術を施行した.横行結腸を尾側に排除し,十二指腸を背側の膵が見えるまで後腹膜から受動した.術中エコーで腫瘍に切り込まない位置を確認し,十二指腸を短軸方向に切開したところ,腫瘍は十二指腸球部内側の膵臓側に位置し,粘膜下層で切除した.切開部は全層連続縫合と漿膜筋層縫合で縫縮した.術後は出血なく,貧血も改善し,術後8日後に退院した.

Figure 3 

上部消化管内視鏡検査(EUS-FNA4日後).

前回と比較してより発赤所見が強くなっていた.以前と同様に頂部にびらんと点状出血を認めたが活動性出血は認めなかった.

切除標本病理組織学的所見:検体は25×25×10mmで表面にびらんを伴った平滑な腫瘤であった.割面は白色調で硬,スリット状の空隙を認めた(Figure 4-a).組織学的には,異型を伴わないBrunner腺の増生を認め,平滑筋の増生と腺管の嚢胞状拡張も伴っていた(Figure 4-b5-a,b).免疫染色ではKi-67陽性の増殖細胞はごく少数であり(Ki-67 labeling index<2%),p53過剰発現は認めなかった.腺管,平滑筋の増生も伴っていることよりBrunner腺過誤腫と診断した.

Figure 4 

手術検体肉眼像,ルーペ像.

a:25×25×10mmで表面にびらんを伴った平滑な腫瘤であった.割面は白色調で硬,スリット状の空隙を認めた.

b:ルーペ像.:びらん部.**:断端.

Figure 5 

組織所見.

a:Figure 4-bの四角で囲んだ部位の拡大像.異型を伴わないBrunner腺の増生を認めた.導管の拡張も伴っていた.

b:Desmin染色.平滑筋の増生も認めた.

Ⅲ 考  察

Brunner腺過誤腫は,1835年にCruveilhierが最初に報告し 7,十二指腸良性腫瘍の10.6%を占める 8.Brunner腺は胞状管状腺で主に十二指腸球部に存在しており,空腸に近づくにつれて減少していくため 9,Brunner腺過誤腫も主に球部(70%),下行部(26%),水平部(4%)に存在している 6),9.50~60代に発生することが多く,性差や人種で発生率に差はない 10

Brunner腺過誤腫はBrunner腺の増殖スペクトラムの一部であり,他にびまん性過形成からBrunner腺腫やBrunner腺過形成と呼ばれるポリープ状病変が含まれる 11.過去の報告では過形成と過誤腫の区別は不明瞭であり,報告例も混在しているが,過誤腫はBrunner腺の過形成と共に脂肪組織や平滑筋,導管の増生を伴うものと定義されている 3.一方でBrunner腺過形成は主にBrunner腺の増生で,平滑筋と脂肪組織の増生は認めない.Brunner腺腫は細胞異型を示し,Brunner腺由来の腫瘍と考えられている.味岡らはBrunner腺過形成/過誤腫と腺腫の鑑別にKi-67免疫染色が有効であると報告している 12.本症例におけるKi-67 labeling indexは,FNA検体,手術検体共に<2%と著しい高値は認めず,構造異型・細胞異型共に認めず腺腫ではないと診断した.

Brunner腺過誤腫は小さい場合ほとんど無症状であるが,大きくなると出血や消化管閉塞を来し,稀に閉塞性黄疸や膵炎,十二指腸重積を来すことがある 1.有症状の場合や,無症状でも大きさが21mm以上では出血リスクが3倍になり,また悪性化の報告もあるため治療適応である 13.有茎性であることが多く(89%) 9,内視鏡治療されることが多いが 14,亜有茎性や病変の局在で内視鏡治療困難な場合もある.これまでのBrunner腺過誤腫の出血症例に対しての外科的治療では下行部に病変が存在していた30例中3例に膵頭十二指腸切除術など侵襲的な手術が選択されていた )~.その原因は病変の局在もさることながら術前診断の難しさであり,Brunner腺過誤腫は粘膜下腫瘍の形態をとり,普通の生検鉗子では診断が困難である 1.EUSが有用で2~3層由来の病変を示し,エコーレベルは均一・高エコーであることが多く,時に嚢胞を伴うなど特徴的所見を示す 15.本症例はBrunner腺過誤腫に典型的と考え,EUS所見からGISTや平滑筋肉腫の可能性は低いと考えたが,手術前に組織学的診断が望ましいと判断し 3,EUS-FNAを施行した.EUS-FNAのBrunner腺過誤腫/過形成に対する報告は少ない.診断がつかないものの悪性は否定的であった報告が存在する 16)~18.またBrunner腺過形成や過誤腫,腺腫と癌の合併の報告も散見されており,Brunner腺腫が癌化したと考えられるcancer in adenomaの報告 19),20や,生検でadenomaからadenocarcinomaへ経時的に変化した報告 21もあるため,EUS-FNAなどでBrunner腺過形成や過誤腫,腺腫と診断がついてもサンプリングエラーの可能性は残る.しかしBrunner腺過形成や過誤腫,腺腫の癌化率は低く,Sakuraiらは722例のBrunner腺過形成の検体で2.1%に異型性変化を,0.3%に浸潤癌を認めたと報告している 22.本症例は内視鏡的治療が困難であり外科的治療の方針としたが,上記踏まえ,まずは局所切除し悪性など認めた場合は追加切除の方針とした.以上のことを本人・家族に十分に説明した上で十二指腸切開+腫瘤切除術を施行し,手術検体から癌の合併を認めないBrunner腺過誤腫の最終診断を得た.最近では,腹腔鏡・内視鏡合同手術(Laparoscopy and Endoscopy Cooperative:LECS)にて切除した症例報告もあるが 23,本症例の場合,病変の局在により腫瘤の境界が不明瞭であったためLECSは選択しなかった.

医学中央雑誌で “Brunner腺過誤腫”,“Brunner腺過形成”,“Brunner腺腫” “出血”,Pubmedで “Brunner’s gland hamartoma”,“Brunner’s gland hyperplasia”,“Brunner’s gland adenoma”,“hemorrhage”,“bleeding” で検索すると,評価可能な報告例は医中誌で19例,Pubmedで61例,合計80例であった.まとめたものをTable 1に示す.病変の平均長径は4.5(0.5-10)cm,山田分類での形態はⅠ/Ⅱ/Ⅲ/Ⅳ/NAで3/3/8/51/15例,局在は球部45例,下行部30例,水平部2例,幽門輪3例であった.びらんや潰瘍の形成は50例,ヘマチンなどの付着6例,oozingなどは16例であった.術前に鉗子で生検されたものは32例であったが,診断がついたのは8例であった.ボーリング生検も1例施行され診断可能であった 14一方,腫瘤切開による組織診断は1例が施行され,こちらは診断がつかなかった 24.治療は内視鏡切除が31例(polypectomy30例,endoscopic submucosal dissection;ESD1例),外科切除が45例であり,膵頭十二指腸切除も3例に施行されていた 4)~6.14例でEUSが施行され,EUS-FNAを施行し縮小手術ができた報告は海外では1例 18,本邦では自験例が最初である.内視鏡切除の2例で術中出血 25と後出血 26を,外科的切除の1例で消化管閉塞の術後合併症を認めた 24.本症例の場合,EUS-FNA施行4日後に再度黒色便を来した.EUS-FNAによる合併症も疑われたが,EUS-FNAではびらん部以外から穿刺しており,また術後標本の検討では,組織切片上に穿刺による明らかな血管の破綻像は認めず,穿刺による出血は否定的であると考えた.頂部に認めたびらんの成因については,虚血性変化を示唆するような腺管の立ち枯れ像なども標本上認めないため,機械的刺激によるものと考えた.

Table 1 

Brunner腺過誤腫,過形成,腺腫の出血例(80例).

Ⅳ 結  論

出血を繰り返すBrunner腺過誤腫の外科的局所切除例を経験した.内視鏡的切除が困難なBrunner腺過誤腫には,術前診断と拡大切除を回避するためにEUS-FNAが有用である.

本論文の要旨は第84回日本消化器内視鏡学会甲信越支部例会において発表した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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