日本消化器内視鏡学会雑誌
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手技の解説
低緊張性十二指腸造影の撮影手技と読影
仲村 明恒 長濱 清隆土岐 真朗
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2020 年 62 巻 7 号 p. 803-816

詳細
要旨

低緊張性十二指腸造影は,鎮痙剤を用い十二指腸の蠕動を抑制して行うX線検査法である.その目的は腫瘍性病変の質的量的診断だけでなく,広範囲な病変の全体像,病変の正確な壁在,周辺臓器との関係性などを明確に把握できるため,内視鏡診断に補足すべき情報を多く得られる利点がある.検査法には十二指腸専用のゾンデを用い精密検査に特化した有管法と,造影剤を飲用させて行う無管法がある.造影剤はバリウム製剤を用い,二重造影法で撮影する.ただし,高度便秘や腸管の通過障害が疑われる場合は水溶性消化管造影剤を選択する.実際の検査と読影は,十二指腸の正常X線像を十分に理解した上で臨む.正常の十二指腸粘膜は Kerckring 皺壁を伴い,腸絨毛を反映した微細な模様を認める.また主乳頭の位置・形態を把握することも重要である.撮影における注意点は,標的病変の壁在を理解し,その上にバリウムを流すようにして造影効果の良好な写真を撮影することである.

Ⅰ はじめに

低緊張性十二指腸造影とは,鎮痙剤を使用して平滑筋の緊張を低下させることで,十二指腸の蠕動を抑制して行うX線検査法である.十二指腸のX線検査は,十二指腸の腫瘍性疾患や炎症性疾患のみならず,かつては膵癌や膵炎の診断にも用いられていた.しかし,その後の内視鏡検査,CT/MRI検査,超音波検査などの進歩によって,昨今は行われる機会が極めて少なくなっている.しかし,低緊張性十二指腸造影は,十二指腸を選択的に造影することで標的病変の質的量的診断に寄与すると同時に,その全体像や正確な解剖学的位置情報(壁在診断),周辺臓器との関係性などをより明確に把握することが可能であり,内視鏡診断に補足すべき有用な情報を提供し得る検査法である.そこで本稿では,特に初学者を対象に,低緊張性十二指腸造影の撮影手技や読影法について述べたい.

Ⅱ 低緊張性の意義について

消化管のX線検査は,機能評価目的の検査を除き,一般的に鎮痙剤を使用して行われる.それは消化管の蠕動を抑制することで,より詳細な形態診断が可能となるからである.したがって,原則的にはすべて「低緊張性」と言えるわけだが,十二指腸造影だけあえて「低緊張性」という言葉を付与して呼称することには理由がある.十二指腸造影は,十二指腸が十分に拡張した状態で撮影し,十二指腸粘膜の模様や凹凸,Kerckring皺壁の状態,十二指腸壁の変形などを読影する.しかし十二指腸は本来蠕動が特に顕著な消化管であり,内容物を貯留させる機能に乏しいため,造影剤を注入してもすぐに小腸へ流れてしまう.また強い蠕動によって粘膜ヒダは複雑に錯綜した状況となり,壁辺縁は変形して偽病変を作りやすくなってしまう.だからこそ,鎮痙剤を使用して十分に蠕動を抑制して撮影することが求められるのである.

Ⅲ 種類と適応

低緊張性十二指腸造影には,有管法と無管法がある.どちらも鎮痙剤により蠕動を抑制した状態で,十二指腸を二重造影法にて撮影する点は共通である.有管法は十二指腸専用のゾンデを球部まで挿入してバルーンで固定し,そこから造影剤と空気を注入して撮影する.したがって,胃の粘膜像との重なりがない選択的な十二指腸のX線像が得られ,造影剤と空気の増減が適宜可能であることが利点であり,精密検査に特化している.しかし,ゾンデを挿入する手技がやや煩雑で,患者への苦痛,ときに穿孔などのリスクも考慮しなければならない.一方,無管法は造影剤を飲用させ,腸管の拡張には発泡剤を用い,胃X線検査の要領で十二指腸に造影剤と空気を送り込み二重造影像を得る方法である.ゾンデを挿入しない点は簡便であり,胃X線検査に続けて行える利点はあるが,胃粘膜像との重なりの対処や造影剤と空気の増減が難しいことなどを鑑みると,胃X線検査に慣れていないとむしろ手技が煩雑になる場合がある.以上から造影方法の選択は,術前精密検査目的の場合は有管法を用い,無管法はスクリーニング目的,ゾンデの挿入が困難な例(挿入に同意が得られない場合も含む)に限られる.筆者の施設では,精密検査目的での検査依頼が多いため,ほとんどが有管法である.また,有管法の撮影は透視室の中で行う近接操作で,無管法は近接ないし遠隔操作で実施している.

十二指腸球部の病変に対するX線検査法については,その手技から胃X線検査に準じているため他稿に委ねるが,ここで簡単に触れておく.同様に有管法と無管法がある.無管法は胃X線検査の要領で行うことが可能であるが,前述のごとく精密検査としては限界がある.一方,有管法の場合,当施設ではゾンデが球部留置であり球部の病変に対しては不向きであることから,胃X線精密検査(有管法)の要領で行っている.

加えて,当然のことながら,これらのすべての検査に対しては,患者への十分なインフォームドコンセントの上で行われるべきである.

Ⅳ 準備と前後処置

A)二重造影法 1),2

十二指腸造影は,基本として二重造影法を用いて二重造影像を撮影する.二重造影法とは,陽性造影剤である硫酸バリウムと陰性造影剤である空気ないし炭酸ガスを組み合わせることで,両者のX線吸収率の差を利用した撮影法である.仔細に言うと二重造影法には2つの撮影法がある.すなわち,余剰バリウムを体位変換などで移動させ,広い範囲の粘膜面の模様像を表す方法を二重造影Ⅰ法(以下Ⅰ法),造影剤を流したり溜めたりしながら粘膜やヒダの凹凸を表す方法を二重造影Ⅱ法(以下Ⅱ法)と言う.実際の撮影では,両者の中間的な画像や粘膜面に漂うバリウムの量によって様々の程度のⅡ法も存在し,極めてバリエーションが多い.したがって,実際は得られた様々なⅠ法とⅡ法の画像を組み合わせることにより,標的病変の形態を読み,診断に導いてゆくことになる.

二重造影法の他には充盈法と圧迫法がある.充盈法は主に辺縁診断であるため二重造影法で代用可能であり,昨今では必ずしも必要ではない.また圧迫法は,十二指腸が後腹膜臓器であるため十分に圧迫できないことが多い.ただし,腹臥位での撮影においては,胃粘膜像と重なった際に圧迫用フトンを用いることによってこれを回避できる場合がある.また二重造影像の状態であっても,軽く圧迫することによって標的病変やその周囲の十二指腸の形が整えられ,より診断しやすい画像が得られる場合もある.なお腹臥位における圧迫用フトンに関して,筆者はタオルを折りたたむ等して適宜大きさを調整して使用している.

B)造影剤

使用するバリウム製剤の濃度は100〜120%程度が妥当である.バリウム濃度は低すぎると造影効果が悪くなり,高すぎるとバリウム付着過多となって十二指腸の微細な粘膜模様が潰れてしまう.昨今の胃X線検査で使用される高濃度低粘稠性バリウム製剤(200〜230w/v%)は,付着過多の状態となって診断の妨げとなることが多いため避けるべきである.現在,十二指腸造影に特化したバリウム製剤は市販されていないため,粉末製剤を水と混ぜて濃度を調整するか,あらかじめ濃度が調整されている市販のゾル製剤を使用するのが適当である.筆者は,バリトップゾル150(カイゲンファーマ株式会社)を適宜薄めて濃度調整したものを,100〜150cc程度使用している.ところで,低緊張性十二指腸造影は古くからバリウム製剤を使用して行うのが一般的である.しかし,バリウム製剤はたとえ低濃度であっても,検査後に高度便秘や腹痛を誘発する可能性があり,稀にイレウスや続発性の腸管穿孔から腹膜炎となる危険性もある.そこで高度便秘,腸管の通過障害の存在,消化管穿孔が既知の場合,あるいはそれが強く疑われる場合は,バリウム製剤の使用を避け,水溶性消化管造影剤を選択すべきである.筆者は水溶性消化管造影剤としてガストログラフィン経口・注腸用(アミドトリゾ酸ナトリウムメグルミン液/バイエル薬品株式会社)を用いている.ただし水溶性消化管造影剤の場合は,その原理上粘膜の詳細な評価が困難となる.したがって,筆者はバリウム製剤が使用可能な状況では極力バリウム製剤を使用し,そうでない場合は水溶性消化管造影剤を選択している.なお,検査に際しては,消泡剤としてバリトゲン消泡内容液2%(ジメチルポリシロキサン/伏見製薬株式会社)2mLを造影剤に混和させて使用している.

C)鎮痙剤

一般に副交感神経遮断剤(抗コリン剤)としてブチルスコポラミン臭化物製剤(ブスコパン注20mg)が用いられる.投与量は2アンプル(40mg)を基本として,患者の体格に応じて適宜調節している.投与方法は筋肉内注射(筋注)法と静脈内注射(静注)法があり,ときに筋注静注併用法も行われる(この場合は筋注と静注で1アンプルずつ用いる).筋注法は低緊張状態が比較的長く持続する利点があるが,ときにその効果が不十分な場合がある.静注法は投与直後から十分な低緊張状態が得られるが,効果は短時間であるため手早く検査を行う必要がある.筋注静注併用法は両者の利点を獲得しているが,二回分の注射が煩雑であり,患者にとっても苦痛である.筆者は検査内容によって使い分けている.すなわち,標的病変が大きく病変の描出が容易と思われる場合は静注法,標的病変が小さく描出に苦慮することが予想される場合は筋注法を選択している.また筋注法を選択した場合,血中濃度がプラトーに達し低緊張状態が安定するまで造影剤を入れないことがコツである.薬剤の効果が不十分な状態で造影剤を入れると蠕動が誘発され,その後の低緊張状態が保たれにくくなる傾向にある.筆者は筋注後おおよそ3〜5分待ってから造影を開始している.

抗コリン剤を投与する際は禁忌事項を確認する必要がある.すなわち重篤な心疾患(その既往も含む),緑内障あるは高眼圧,前立腺肥大症,甲状腺機能亢進症などがあった場合は使用できない.代用として糖尿病がなければグルカゴン製剤(グルカゴンGノボ注射用1mg)を1バイアル使用するが,低緊張に対する効果は十分でないことが多い.

D)ゾンデとガイドワイヤー

有管法で使用するゾンデとして,筆者は福大式十二指腸バルーンゾンデ(クリエートメディック社,6F,1,300mm)を使用している(Figure 1).ガイドワイヤーは固定式ストレートタイプ(クリエートメディック社,外径1.19mm,1,800mm)である.

Figure 1 

福大式十二指腸バルーンゾンデ.

E)前処置と検査後指示

原則,前処置は上部消化管造影のそれに準ずる.すなわち前日21時以降は禁食とし,飲水は前日就寝前までは可能であり,当日は検査開始2時間前までにコップ1杯(200cc)程度の水摂取は許可している.また,可能であれば,前夜にH2ブロッカーを投与すると胃酸分泌の抑制により造影効果が良くなる場合がある 3.また,緩下剤をかけておくと大腸内の便陰影やガス像が少なくなり,より読影しやすくなる.

一般にバリウム製剤を使用した検査では,検査後の下剤投与は必須である.筆者は緩下剤としてセンノシドA・Bカルシウム塩(センノシド錠12mg)2錠を基本として処方している.そして患者の排便状況に応じて適宜追加している.また,下剤のみならず,十分な水分摂取と食事摂取が重要である.水分は原則として一日2Lを目安に検査直後から三日間の摂取を推奨し,食事は直近から通常食を摂取してもらうように説明している.特に食事摂取が肝要であり,食事により腸の機能が活発化することで,バリウムの排泄も促進される.

Ⅴ 検査手技・撮影法・読影法の実際

A)十二指腸の解剖と正常X線像(Figure 2-a,b4
Figure 2 

十二指腸の正常X線像.

a:球部・球後部の正常X線像.

b:下行部以降の正常X線像.

十二指腸癌の精査目的で行われた低緊張性十二指腸造影の背臥位正面位二重造影像.下十二指腸角に腫瘍が描出され(黄矢頭),その口側に主乳頭開口部が示現されている(赤矢印).

実際の検査でしっかりと標的病変を描出させるためには,透視下でのリアルタイムな対処が求められる.それは検査手技のみならず,内視鏡検査と同様に,その場で異常所見とそうでない所見を見分けながら検査を行うことが要求される.その上でまずは十二指腸の正常解剖および正常X線像を知っておく必要がある.

十二指腸は幽門から十二指腸空腸曲(Treitz靭帯)までの長さ約30cmの消化管であり,小腸の最も近位側に相当する.十二指腸は球部を越えると後腹膜腔に入り,膵を取り囲むようにC字型のループを描いて背側に向かい,大動脈と上腸間膜動脈の間を通り,胃の後方でTreitz靭帯を経て腹腔内に戻り,空腸に移行する.

十二指腸は4つの部分に分けられる.第1部(1st portion)は幽門から上十二指腸角(SDA:superior duodenal angulus)までの約3〜8cmを言い,その口側2/3を十二指腸球部,肛門側1/3を球後部と呼ぶ.十二指腸球部は類三角形ないしタマネギ型をしており,十二指腸潰瘍の好発部位となっている.第2部(2nd portion)は十二指腸下行部と呼ばれ,上十二指腸角から下十二指腸角(IDA:inferior duodenal angulus)までの約6〜8cmの部分である.下行部のほぼ中央に主乳頭(Vater乳頭)が存在し,主膵管(Wirsung管)が開口している.またその2〜3cm口側に副乳頭があり,副膵管(Santorini管)が開口する.第3部(3rd portion)は十二指腸水平部と呼ばれ,下十二指腸角から第3腰椎付近の高さで約4〜7cm水平に走行する部分である.そして第4部(4th portion)は上行部と呼ばれ,水平部から左上前方に向かって走行する5〜7cmの部分である.十二指腸の終末部は十二指腸空腸曲と呼ばれる後腹膜腔と腹腔の境目であり,線維筋性のTreitz靭帯により強固に支持されている.

主乳頭より肛門側の十二指腸,空腸,回腸は,発生学的に中腸由来であり,粘膜面にKerckring皺壁を有している.このヒダは腸管の管腔面に対して輪状に横走するヒダであり,正常では規則的に配列している.各種の疾患でKerckring皺壁の乱れや消失といった所見が認められ,X線を読影する上で重要である.一方,主乳頭より口側の十二指腸は前腸由来であり,ときにKerckring皺壁は不明瞭ないし不完全であり,縦走ヒダが混在することがある.また十二指腸粘膜の正常X線像は,腸絨毛を反映した微細な網状影が見られる.

主乳頭部の形態にはバリエーションがある 5が,多くは大乳頭に開口部があり,はちまきヒダを伴っている.大乳頭の口側には輪状ヒダを伴う口側隆起があり,肛門側には小帯が連続している.X線上は大乳頭部と小帯が縦走するヒダの如く連続して示現されることが多いが,条件良く撮影されたX線像では詳細な解剖学的構造が確認できる.そのためには乳頭部の正面像と側面像を意識して撮影することが重要である.また,乳頭部は横幅が10mmを超えると乳頭腫大とされる.

B)有管法 3),6)~8

a)準備するもの

バリウム製剤,ゾンデ,ガイドワイヤー,鎮痙剤,注射器2本,紙コップ,オリーブ油,麻酔用スプレー/ゼリー,ガーゼ複数枚など.

b)ゾンデの挿入手技

背臥位で咽頭麻酔,鼻腔内麻酔を施す.咽頭麻酔はリドカイン(キシロカイン)スプレー,鼻腔内麻酔はリドカイン(キシロカイン)ゼリーを用いる.ゾンデは原則として経鼻的に挿入するが,挿入前に透視にて鼻孔の左右差や鼻中隔湾曲の有無を確認し,挿入する鼻孔の左右を決定する.この際,患者から普段の鼻腔環境についての情報を聴取し参考にすると良い.ゾンデの先端にもキシロカインゼリーを塗布し挿入する.鼻腔内の解剖学的状況には個人差が大きく,麻酔下にも関わらず疼痛を訴える患者も少なくない.したがって挿入はゆっくりと優しく,かつ慎重に行う方が患者への苦痛は少ない.口蓋レベルまで挿入した段階で深呼吸の後に呼吸停止させ,素早く左右どちらかの梨状陥凹を目指してゾンデを進め,嚥下動作を複数回してもらうとゾンデは食道へ移行する.呼吸停止下で行う方が咽頭反射は生じにくい.挿入時の体位は鼻腔から口蓋までは背臥位が良く,それより先は右側臥位の方がゾンデの先端に重力がかかりやすいため挿入しやすい.ゾンデが噴門を越えたら,ゾンデの先端が穹窿部方向に向かないように適宜ローテーションをかけながら進める.この際,胃内を空気で伸展させた方がゾンデの操作がしやすい場合がある.胃体部まで進めたところで,オリーブ油を塗布したガイドワイヤーを入れてゾンデに硬性を与え,そのまま幽門輪を越える.幽門輪を越える際はガイドワイヤーを少し引いて先端を柔らかくした方が入りやすい場合がある.また無理に押さずに蠕動に任せた方が入りやすい.そしてゾンデの先端をいったん十二指腸下行部まで落とし,バルーンに10ccの空気を注入し,徐々に抜きながらバルーンが十二指腸球部まで戻ってきたところで,さらにバルーンに空気を10cc追加して固定する.これで十二指腸球部でのゾンデ留置が完了する.最後にガイドワイヤーを抜去し,ゾンデを鼻孔部でテープ固定する.

c)撮影時の注意点とポイント

低緊張性十二指腸造影の撮影は,各施設や術者の様々な考え方に基づいて行われており,現状撮影手順に一定の基準はない.かつてはスクリーニング目的でも行われたが,他の検査法が充実している昨今では,内視鏡検査等で発見された病変に対する精密検査として行われる場合が多いであろう.撮影法の仔細を述べる前に,バリウム製剤を用いて標的病変をきちんと示現するために知っておくべき重要なポイントを2つ述べておく.

① 造影効果の良好な写真を撮影する

X線検査ではとにかく造影効果の良好な写真を撮影しなければ意味がない.そのためには体位変換を行ってバリウムを腸管内で移動させることが肝要であるが,十二指腸造影の場合,大きな体位変換はときにバリウムの多くを小腸へ流出させてしまう恐れもある.したがって,最初は十二指腸を虚脱させた状態でバリウムを入れて充盈させ,その後に空気を送って二重造影を得るのが良い.虚脱した腸管内はバリウムが付着すべき表面積が少ないため,虚脱状態でバリウムを充盈させた後,徐々に空気を入れて二重造影像を得る方が造影効果が高まるわけである.その後,体を揺さぶる方法(シェイキング法)や体位変換を適宜追加してバリウムを流していけば良い.

② 標的病変の位置情報取得と二重造影法の原理を理解する

標的病変を的確に描出するためには,病変の上にバリウムを流して撮影する必要がある.すなわち標的病変が重力側に来るような体位で撮影することが重要である.例えば,後壁病変なら背臥位を中心に,前壁病変なら腹臥位を中心に撮影する.また標的病変が乳頭側ならば,左側臥位を中心に後壁寄りなら背臥位第1斜位,前壁寄りなら腹臥位第2斜位で撮影し,乳頭対側ならば,右側臥位を中心に後壁寄りなら背臥位第2斜位,前壁寄りなら腹臥位第1斜位で撮影することになる.したがって,検査前に内視鏡像を確認し,標的病変の解剖学的位置(壁在)を周知した上で,検査に臨むべきである.

以上2つのポイントを厳守できれば,検査で大きく方向性を見失うことはないであろう.

d)撮影の実際と読影

まずは初学者のために,十二指腸を網羅的に撮影する1つの手順を示しておきたい.先にも述べたように昨今ではスクリーニングとして低緊張性十二指腸造影を行うことは少ないが,全体の造影手順としては参考になると思われる.

1)右側臥位でバリウムを50〜100cc程度注入し,全体が充盈されたら背臥位にして充盈像を得る.このとき十二指腸の走行の全体像を確認して撮影しても良いし,特に異常がなければ透視観察のみでも良い.

2)背臥位正面位で充盈像の状態からゆっくりと空気を注入しながら右腰を挙げ第1斜位とし,背臥位第1斜位二重造影像を撮影する.このとき,下行部に残る造影剤が多すぎる場合は,少し寝台を起こして水平部方向に流すようにすると良い.また造影剤の付着が不均一な場合は,シェイキング法を加えると造影剤が分散して付着が均一になることがある.次に,さらに第1斜位を強くかけると主乳頭部の後壁寄りが正面視される.また水平部以降の係蹄の全体像が観察できる.

3)体位を背臥位に戻し背臥位正面位,次に左腰を挙げ背臥位第2斜位で撮影する.

4)そのまま右側臥位としバリウムを50cc前後追加した後,腹臥位にする.次に患者の右腰を挙げいったん左側臥位とし,徐々に腰を落としていきながら,腹臥位第2斜位で撮影する.このとき主乳頭〜その前壁寄りが正面視される.これらの撮影でも,標的部位の造影剤の量が多すぎる場合は,適宜寝台の倒起やシェイキング法などを加えながら調整する.

5)体位が完全に腹臥位になったら腹臥位正面位も撮影し,次いで腹臥位第1斜位で撮影する.これらの体位では水平部以降の係蹄も広く描出できる.

6)最後に背臥位に戻して全体像を撮影し,適宜不十分な部分の追加撮影を行い終了となる.

次に,低緊張性十二指腸造影の撮影の実際について,症例を用いて具体的に述べてゆくこととする.

*症例1:60歳代男性(Figure 3

Figure 3 

低緊張性十二指腸造影の実際(症例1).

a:低緊張性十二指腸造影像(腹臥位正面位二重造影像).

まず腹臥位とし,空気を送り込んで二重造影像を得た.この際,隆起性病変を反映したバリウムのはじき像(透亮像)は認めなかったが,主乳頭の肛門側に隆起の立ち上がりの接線像と思われる線状陰影が示現された(矢印).

b:低緊張性十二指腸造影像(背臥位正面位二重造影Ⅱ法像).

バリウムを粘膜面に流し漂わせるようにして撮影した二重造影Ⅱ法像.下十二指腸角レベルにバリウムのはじき像が示現され,隆起性病変が存在することを確認した(矢印).

c:低緊張性十二指腸造影像(背臥位正面位二重造影Ⅱ法像).

病変周囲に均等にバリウムが漂うようにして撮影した二重造影Ⅱ法像.病変の隆起部は透視下でやや揺らぎを見せ,病変輪郭の周囲にはじかれたバリウム像は濃い輪状影として示現されることから,立ち上がりにくびれを持つ亜有茎性の隆起性病変であることがわかる(矢印).

d:低緊張性十二指腸造影像(背臥位第1斜位二重造影Ⅰ法像).

病変周囲の余剰バリウムを移動させて軽い第1斜位で撮影した二重造影Ⅰ法像.病変は乳頭部小帯と連続して見える.隆起頂部の模様に乱れはなく,目立った潰瘍形成はない.また,その輪郭も比較的整な印象である(矢印).同時に病変のサイズや主乳頭との位置関係がわかる全体像も得られた.

e:低緊張性十二指腸造影像(背臥位強第1斜位二重造影像).

主乳頭との位置関係を追求するため,さらに第1斜位を強くかけて,主乳頭の正面視を試みた.病変(矢印)と主乳頭開口部との位置関係がより明瞭に示現された.

f:通常内視鏡像.

表面平滑な亜有茎性の隆起性病変であり,基部は乳白色調で,大小不同の表面構造が密在している.頂部の観察範囲内にびらんは認めない.

g:NBI併用非拡大内視鏡像.

頂部は一部,腺管構造の延長(矢印)を認める.腺管構造は全体的にやや不均一であるが,無構造を呈する部分やびらん等は認めず,腺腫が考えられた.

h:側視鏡像.

病変と主乳頭部を正面視することができ,両者の位置関係が明瞭となった.主乳頭開口部(矢印)と腫瘍の立ち上がりは近接している.

i:病理組織像(弱拡大像).

26×18×15mm大の亜有茎性の隆起性病変.一部で高分化管状腺癌(赤枠)を伴った管状絨毛状腺腫の像である.

j:病理組織像(黄枠の拡大像).

腫瘍の表層を含む大部分は管状絨毛状腺腫の組織像である.

k:病理組織像(赤枠の拡大像).

不整管状腺管が密に増生し,核腫大,N/C比上昇を伴う腫瘍細胞で,核の配列極性は乱れ,胞体内粘液も減少している.高分化管状腺癌の像である.

前医の上部消化管内視鏡検査にて主乳頭の近傍に隆起性病変を指摘され紹介となった.諸事情で当施設では内視鏡検査に先行してX線検査となった.まず通常の行程を経てゾンデを十二指腸球部に留置し,ブスコパン2Aを筋注した.前医からの情報では,病変は主乳頭近傍であること以外わからない状況であったため,まずは病変の壁在を確認することにした.最初に下行部にバリウムを十分に付着させるため,右側臥位でバリウムを100cc注入し下行部を充盈した.そのまま腹臥位とし,充盈された十二指腸にゆっくりと空気を注入し,若干の体位変換やシェイキング法を加えながら,二重造影像を得た(Figure 3-a).この際,前医で指摘された隆起性病変に相当するバリウムのはじき像(透亮像)は認められなかったが,主乳頭の肛門側に隆起の立ち上がりの接線像と思われる線状陰影を確認した(Figure 3-a矢印).この時点で病変がやや後壁寄りに存在する可能性を考え,腹臥位―右側臥位と体位変換して背臥位とした.これは十二指腸水平部以降に流れたバリウムをある程度下行部に戻してきて,造影剤量を担保し造影効果を落とさないようにする配慮である.次に背臥位にてわずかに送気しながらバリウムを流し漂わせるような像(Ⅱ法)を撮影した.すると主乳頭肛門側後壁寄りにバリウムのはじき像が認められ,隆起性病変が存在することを確認した(Figure 3-b矢印).この際,軽く圧迫を加えて撮影した方が全体の形が整い良好な像となった.病変の存在部位が特定できたため,さらに病変の形態を現す目的で種々の撮影法を行った.まず,背臥位にて再度バリウムを50cc追加し下行部を充盈させた状態から,少しずつ送気し,病変部を用手的操作ないしシェイキング法で振わせ,病変周囲に漂わせるバリウム量が均一になるようにしてⅡ法を撮影した(Figure 3-c).これは立ち上がりの性状,表面の凹凸を診る目的である.病変の隆起部は透視下でやや揺らぎを見せ,病変輪郭の周囲にはじかれたバリウム像が濃い輪状影として示現されることから,立ち上がりにくびれを持つ亜有茎性の隆起性病変であると推定された(Figure 3-c矢印).また,表面の模様を診る目的でⅠ法で撮影すると,隆起頂部の模様に乱れはなく,隆起表面は目立った潰瘍や凹凸に乏しく比較的平滑であると思われた(Figure 3-d矢印).そして,病変の長径は近傍の椎体の高さとほぼ等しいことから,25mm前後の大きさであることもわかった.同時に主乳頭との位置関係がわかる全体像も得られた.さらに主乳頭との関係性を追求するために強第1斜位とし,主乳頭の正面視を試みたところ,病変の基部は主乳頭開口部と近接していることが確認された(Figure 3-e矢印).上部消化管内視鏡検査ではX線同様,表面平滑な亜有茎性の隆起性病変であり,病変の表面の腺管構造は全体的にやや不均一ではあるが,無構造を呈する部分やびらん等は認めず,腺腫が考えられた(Figure 3-f,g).側視鏡像でもX線像と同様に腫瘍の基部と主乳頭開口部が近接していた(Figure 3-h).生検の結果も腺腫であったが,病変サイズが大きいことから腺腫内癌の可能性も考慮され,内視鏡的に切除が行われた.病理診断では,26×18×15mm大の亜有茎性隆起性病変で,一部で高分化管状腺癌を伴った管状絨毛状腺腫であった(Figure 3-i~k).以上症例1は,十二指腸の腫瘍性病変の精査における低緊張性十二指腸造影の一例として提示した.

*症例2:80歳代女性(Figure 4

Figure 4 

低緊張性十二指腸造影の実際(症例2).

a:通常内視鏡像.

主乳頭の対側付近にKerckring皺壁の腫大と発赤を伴う陥凹性病変を認める(矢印).周囲腸管の伸展不良があり,病変の全体像の把握が困難であった.

b:低緊張性十二指腸造影像(腹臥位強第2斜位二重造影像).

伸展状況を確認するため左側臥位で十分な空気量を注入し,腹臥位強第2斜位にて撮影した二重造影像.下行部の中程にねじれる様な変形を認め,外圧排を思わせる弧状の接線像が示現された(矢印).しかし同部の粘膜模様は保たれて見える.

c:低緊張性十二指腸造影像(腹臥位正面位二重造影像).

透視下でKerckring皺壁の走行の乱れに気づき,腹臥位にて圧迫用フトンを挿入し周囲との重なりを避けながら,やや脱気したところでKerckring皺壁の集中像(丸印)と中心の陰影斑を捉えた(矢印).陰影斑は内視鏡で指摘された陥凹部分に相当すると思われた.

d:低緊張性十二指腸造影像(背臥位第1斜位二重造影像).

背臥位第1斜位では側面に近い像が得られた(矢印).圧排所見とともに腸管の長軸方向へのひきつれ像があり,いわゆる収束像と判断した.すなわち同部の漿膜側に転移性腫瘤の存在が疑われた.

e:造影CT水平断像.

下十二指腸角レベル,主乳頭対側の漿膜側に不整形の腫瘤像を認め,その存在が確認された(矢印).

f:病理組織像.

十二指腸の漿膜側は線維性に肥厚し,同部に浸潤性増殖を示す腺癌を認める.既往の上行結腸癌の組織像と類似しており,転移として矛盾しない所見であった.

上行結腸癌術後の経過観察中に腫瘍マーカー上昇を認めたため精査となった.上部消化管内視鏡検査では,主乳頭対側付近にKerckring皺壁の腫大と発赤を伴う陥凹性病変を認めた(Figure 4-a).しかし,周囲腸管の伸展不良がありファイバー操作が不自由となる状況であったため,病変の全体像を十分に把握できなかった.そこで低緊張性十二指腸造影が施行された.実際はグルカゴンしか使用できず,蠕動抑制効果は不十分な状況での検査となった.はじめに右側臥位にてバリウムで下行部を充盈させた後,伸展状況を確認するため左側臥位にて十分な空気量を注入し腹臥位強第2斜位二重造影像を撮影した(Figure 4-b).下行部の中程にねじれるような変形を認め,外圧排を思わせる弧状の接線像が示現されたが,粘膜面の模様は保たれて見えた(Figure 4-b矢印).透視下でKerckring皺壁の走行の乱れに気づき,腹臥位にて圧迫用フトンを挿入し周囲との重なりを避けながら,やや脱気したところでKerckring皺壁の集中像(Figure 4-c丸印)と中心に微細な陰影斑を捉えた(Figure 4-c矢印).陰影斑は内視鏡で指摘された陥凹部分に相当すると思われた.さらに再度送気しながら左側臥位を経由して背臥位第1斜位とすると,外圧排所見部分の側面に近い像が得られた(Figure 4-d).腸管の長軸方向へのひきつれ像があり,いわゆる収束像と判断した.すなわち同部の漿膜側に転移性腫瘤の存在が疑われた.また,Kerckring皺壁の集中と中心の陥凹の所見から,転移性腫瘤による漿膜側からの浸潤が粘膜面まで達した状態と推定された.造影CT検査では,下十二指腸角レベル,主乳頭対側の漿膜側に不整形の腫瘤像を認め,その存在が確認された(Figure 4-e).これに対して局所の外科的切除が行われた.病理組織学的に十二指腸の漿膜側は線維性に肥厚し,同部に浸潤性増殖を示す腺癌を認めた.これは既往の上行結腸癌の組織像と類似しており,転移として矛盾しない所見であった(Figure 4-f).以上症例2は,十二指腸壁外の病変との関係性の把握において低緊張性十二指腸造影が有用であった一例として提示した.

*症例3:40歳代男性(Figure 5

Figure 5 

低緊張性十二指腸造影の実際(症例3).

a:初回通常内視鏡像(吸引時).

b:初回通常内視鏡像(送気時).

粘膜下腫瘍を疑う所見は吸気時のみに出現し,送気すると不明瞭化する.

c:低緊張性十二指腸造影像(背臥位正面位二重造影像).

十二指腸の下行部〜水平部は拡張し,その内腔にさらに別の袋状の構造物を認め(矢印),その中にカプセルが停滞していた.

d:低緊張性十二指腸造影像(背臥位正面位二重造影像).

袋状構造の遠位は盲端となり,基部は上十二指腸角付近にあったため,用手的操作および体位変換にて内部のカプセルを排出させた.

e,f(eの拡大):低緊張性十二指腸造影像(背臥位正面位二重造影像).

袋状構造の内部には十二指腸粘膜と同様の微細模様が確認され,粘膜面の存在が示唆された.

g,h:通常内視鏡像(2回目).

袋状構造の内部を観察すると,十二指腸粘膜が確認された.

i,j:側視鏡像.

袋状構造がSMT様隆起として観察される.袋状構造を鉗子で口側へ反転させると,主乳頭開口部が確認された(矢印).

k:病理組織像.

袋状構造の壁は両面とも十二指腸粘膜に覆われている.中央部に固有筋層が共有され,重複腸管としても矛盾しない組織像である.

前医にて不整脈治療目的で精査中,鉄欠乏性貧血と血便を指摘され当院紹介となった.下部消化管内視鏡検査では異常所見は認められなかった.初回の上部消化管内視鏡検査では粘膜下腫瘍を疑う所見を認めたが,吸引時のみに出現し,送気すると不明瞭化する状態であった(Figure 5-a,b).この時点では,柔らかい粘膜下腫瘍,内腔型十二指腸憩室,重複腸管などが鑑別となった.また小腸の出血源精査のために,同時にカプセル内視鏡検査も行われた.しかしその後カプセルの排泄はなく,腹部単純写真で右上腹部にカプセルを確認したため,精査目的で低緊張性十二指腸造影の運びとなった.X線上,十二指腸の下行部〜水平部は拡張し,その内腔にさらに別の袋状の構造物を認め,その中にカプセルが停滞していた(Figure 5-c).袋状構造の遠位は盲端となり,基部は上十二指腸角付近にあったため,用手的操作および体位変換にて内部のカプセルを排出させた(Figure 5-d).袋状構造の内部には十二指腸粘膜と同様の微細模様が確認され,粘膜面の存在が示唆された(Figure 5-e,f).2回目の上部消化管内視鏡検査で袋状構造の内部に十二指腸粘膜を確認し(Figure 5-g,h),また,側視鏡にて袋状構造はSMT様隆起として観察され,これを鉗子で口側へ反転させると主乳頭開口部が確認された(Figure 5-i,j).臨床診断としては,内腔型十二指腸憩室ないし重複腸管が疑われ,腹腔鏡下にて病変部の切除が行われた.病理組織学的には,袋状構造の内腔面および外表面の両方に十二指腸粘膜を認め,両者の間には固有筋層が共有されており,重複腸管として矛盾しない組織像であった(Figure 5-k).以上症例3は,病変の正確な位置情報や全体像の把握に低緊張性十二指腸造影が有用であった一例として提示した.

C)無管法 3),6)~8

a)準備するもの

バリウム製剤,発泡剤,鎮痙剤,紙コップ,圧迫用フトンなど.

b)撮影手順

胃X線検査に続けて行われる場合もあるが,本稿では十二指腸造影に特化した無管法について述べる.

1)立位にて150w/v%のバリウムを150〜200cc飲用させ,台を水平まで倒し右側臥位とし,バリウムを十二指腸へ流す.バリウムが十二指腸水平部付近まで到達したら,腹臥位から左側臥位を経由して背臥位に戻す.ここでブスコパン2Aを筋注(ないし静注)する.蠕動が停止したことを確認したら,ここで充盈像を撮影しても良い.

2)再び立位にし,発泡剤5gを服用させる.胃内での発泡が落ち着いたら,左側臥位で台を倒し,腹臥位とする.腹臥位にすることで,胃内の空気が十二指腸に移動しやすくなる.また,この際心窩部に圧迫用フトンを挿入した方が胃前庭部〜幽門前部が伸ばされ,十二指腸との分離が良くなる.

3)2)の状態で腹臥位正面位,第1斜位像および第2斜位像を撮影する.

4)腹臥位から右側臥位を経由して背臥位とする.この時点で空気量が足りない場合は発泡剤を適宜追加する.そして背臥位正面像,第1斜位像および第2斜位像を撮影する.

5)最後に全体像を撮影し,適宜不十分な部分の追加撮影を行い終了となる.

以上はスクリーニング的に全体を撮影する手順として紹介したが,標的病変がある場合は,一連の流れの中で,それが明瞭に描出可能な体位角度で,適宜撮影を加えていけば良い.その詳細は有管法で述べた通りである.

D)透視検査における被曝低減 9

一般に消化管造影検査による患者個人の放射線影響のリスクは,検査により患者が受ける便益に比べて小さいとされている.ただし,これは検診における胃X線検査や注腸X線検査の場合であり,現状十二指腸造影における正確なデータはない.また,放射線画像情報の向上と被曝線量の低減には常にトレードオフの関係があるため,検査の内容によってはどうしても被曝線量が増えてしまう.このような場合,被曝による発がんなどのリスクは積算線量が問題となる.そこで,十二指腸造影にかかわらず透視検査一般に言えることだが,透視を使って検査・診断をする我々は,常に無駄な透視を避け,必要なときだけ必要な時間透視を行う最適化された検査を心がけるべきある.実際的には,標的部位以外の箇所での透視や標的部位までの管球移動中の透視など,不必要な透視は極力切ることを日頃から意識しなければならない.また,患者への配慮だけでなく,術者自身の被曝にも気を配ることが肝要である.特に消化管X線検査における近接操作では,どうしても用手的な操作を加えざるを得ない場合もある.したがって,放射線防護用のエプロンのみならず,放射線防護用グローブも装着すべきである.さらに,ゴーグル(水晶体被曝対策),ネックガード(甲状腺被曝対策)も常備し,十分な遮蔽を施した上で検査に臨んで欲しい.

Ⅵ おわりに

低緊張性十二指腸造影の撮影手技と読影について,筆者の経験に若干の文献的考察を加えて述べた.拡大内視鏡の時代において,X線検査はもはや絶滅に瀕しているモダリティかもしれない.しかし,X線は内視鏡診断に補足すべき情報を多く得られる検査法と思っている.本稿をきっかけに十二指腸のみならず消化管X線検査・診断に今一度スポットを当て,その利点を再考する機会となれば幸いである.

謝 辞

稿を終えるにあたり,平素より多大なご支援とご指導をいただいている阿部展次先生(杏林大学医学部 消化器・一般外科学)に深く感謝いたします.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
© 2020 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
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