日本消化器内視鏡学会雑誌
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資料
切除不能遠位悪性胆道閉塞に対する超音波内視鏡下胆道ドレナージにおけるcholedochoduodenostomyおよびhepaticogastrostomyのアプローチルートの有効性と安全性を比較検討する多施設共同前向き無作為化試験
三長 孝輔小倉 健塩見 英之今井 元伯耆 徳之竹中 完錦織 英史山下 幸孝比佐 岳史加藤 博也鎌田 英紀奥田 篤佐上 亮太橋本 宏明樋口 和秀千葉 康敬工藤 正俊北野 雅之
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2020 年 62 巻 7 号 p. 817-826

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要旨

【背景と目的】超音波内視鏡下胆道ドレナージ術(Endoscopic ultrasound-guided biliary drainage;EUS-BD)には,endoscopic ultrasound-guided choledochoduodenostomy(EUS-CDS)およびendoscopic ultrasound-guided hepaticogastrostomy(EUS-HGS)の2つのアプローチ方法が存在する.本研究は,悪性胆道閉塞に対するこれらの2つの手技の有効性と安全性を比較検討した前向き無作為化試験である.

【方法】ERCPが不成功であった悪性遠位胆道閉塞を有する患者を対象とし,EUS-CDS群およびEUS-HGS群に無作為に割り付けた.本研究は,2013年9月から2016年3月の期間に国内の高次医療機関9施設で行われた.主要評価項目は手技成功率とし,片側有意水準5%,非劣性マージンを15%と設定し,EUS-HGSのEUS-CDSに対する非劣性を検討した.副次的評価項目は,臨床的成功率,偶発症発生率,ステント開存期間,生存時間,および初期治療,二次治療を含めたEUS-BDの手技成功率とした.

【結果】EUS-HGS群:24例,EUS-CDS群:23例の計47症例が登録された.手技成功率は,EUS-HGS群およびEUS-CDS群で,各々87.5%,82.6%であり,リスク差の90%信頼区間の下限は12.2%であった(P値=0.0278).臨床的成功率は,EUS-HGS群およびEUS-CDS群で,各々100%,94.7%であった(P値=0.475).偶発症発生率,ステント開存期間,生存期間には両群で差がなかった.EUS-BDの二次治療を含めた全体での手技成功率は,EUS-HGS群およびEUS-CDS群で各々100%,95.7%であった(P値=0.983).

【結語】本研究により手技成功に関してEUS-HGSのEUS-CDSに対する非劣性が示された.いずれかの手技が困難な場合,他のEUS-BD手技に切り替えることが手技成功を高めることにつながる可能性がある.

Ⅰ はじめに

内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)下での内視鏡的胆管ステント留置術が胆道閉塞に対する第一選択の治療法と考えられているが,解剖学的変異や十二指腸狭窄,消化管再建術後などの理由により10%程度の症例で不成功となることが報告されている 1),2.2001年に,超音波内視鏡下胆道ドレナージ(EUS-BD)が新しい胆道ドレナージの方法として初めて報告されて以降 3,ERCP不成功の胆道閉塞症例に対する有効な治療手段として施行される機会が増えている 4),5.この10年間でEUS-BDに対する注目は高まっており,様々なEUS-BDの内視鏡的手技が報告されてきている 6)~8.これらの種々の手技のなかで,経消化管的ステント留置を行うEUS-BDでは,超音波内視鏡下経十二指腸的肝外胆管ステント留置術(EUS-CDS)および超音波内視鏡下経胃肝内胆管ステント留置術(EUS-HGS)の主に2つのアプローチ法が知られている.

悪性遠位胆道閉塞を有する患者においては,理論上,EUS-CDSおよびEUS-HGSのいずれものアプローチ法を施行することが可能である.両アプローチ法は多くの臨床研究で扱われているが,両アプローチ法を比較した無作為化試験の報告は単一施設からの1報のみに留まる 9.この報告では,EUS-CDSとEUS-HGSの手技成功率は同等であったが,臨床的成功率の観点ではEUS-HGSが支持される結果であった.過去の報告では,EUS-CDSはEUS-HGSと比較して胆汁漏出のリスクが高いことが知られている 10.加えて,EUS-HGSではEUS-CDSに比べて胆道閉塞部位からより離れた位置で瘻孔を形成するため,特に十二指腸閉塞を伴うような悪性遠位胆道閉塞では長期のステント開存期間が得られることが報告されている 11.このような背景から,われわれはERCP不成功の悪性遠位胆道閉塞患者を対象とし,EUS-CDSに対するEUS-HGSの非劣性を証明する無作為化試験を計画した.

Ⅱ 方  法

試験デザインと評価項目

本研究は,前向き無作為化非劣性試験であり,EUS-BDに精通した国内の高次医療機関9施設で行われた.主要評価項目は手技成功率とし,EUS-CDSに対するEUS-HGSの非劣性を検討した.副次的評価項目は,臨床的成功率,処置時間,偶発症発生率,ステント開存期間,生存期間,初期治療および二次治療を含めたEUS-BDの手技成功率とした.本研究は,参加施設における各施設の施設審査委員会の承認を得ており,大学病院医療情報ネットワーク(UMIN)に登録している(UMIN000011452).

患者選択基準と無作為化

2013年9月から2016年3月の期間に本試験に参加した9施設のいずれかを受診した患者が登録され,2017年3月までを追跡期間とした.この研究は経乳頭的治療困難であった患者を対象としているため,初回治療としてERCPによる胆道ドレナージが試みられている.胆道閉塞の原因となった悪性腫瘍の切除不能の評価は,CTやMRIなどの画像診断により判定した.本研究の適格基準は,①外科的切除不能な悪性遠位胆道閉塞(肝門部から2cm以上遠位の閉塞)症例,②ERCPが不成功であった症例,③病理組織学的に悪性と診断されている症例,④重篤あるいはコントロール不良な併存疾患がない症例,⑤CTやMRIで肝内胆管の拡張が認められた症例,⑥内視鏡的に十二指腸球部にアプローチ可能な症例の①~⑥のすべてを満たした症例とした.除外基準は,20歳未満の症例,ECOG performance statusが4である症例,出血傾向を認める症例(PT-INRが1.5以上,血小板数が50,000未満),研究への参加拒否症例とした.適格基準を満たした患者は,各施設の研究担当コーディネーターによってウェブ登録され,乱数ジェネレーターによりEUS-HGS群またはEUS-CDS群に1:1で割り付けられた.研究参加前に,全患者から書面によるインフォームドコンセントを得た.無作為化の方法では,内視鏡施行医は両手技の違いから盲検化はされていないが,患者と研究担当コーディネーターは盲検化された.本研究の全著者は研究データにアクセスし,最終原稿を確認,承認している.

手技

コンベックス型超音波内視鏡スコープを用いてEUS-BDを行った.EUS-CDSでは,まず十二指腸球部から拡張した肝外胆管を描出し,超音波内視鏡下に19ゲージ穿刺針で胆管を穿刺する.胆汁の吸引を確認した後,造影剤を注入して胆管造影を行い,0.025インチ径のガイドワイヤーを肝門部に向かって挿入する.ガイドワイヤーを留置し穿刺針を抜去,穿刺経路を胆管ブジーダイレーター,バルーンダイレーター,通電ダイレーターのいずれかを用いて拡張し,同部位に自己拡張型金属ステント(SEMS)を展開する.EUS-CDSに使用したSEMSは,両端がフレア型となった8mm径,60mm長のカバー付きSEMS(Modified Niti-S S-type stent;Taewoong Medical)であり,本研究専用にデザインされたものである(Figure 1).このSEMSは,胆汁漏出を防ぐ目的で全体をシリコン膜で覆われており,ステントの迷入予防として両端はフレア形状となっており,ステントの近位端8mmのみシリコン膜の覆いがないアンカバー形状となっている.

Figure 1 

本研究に使用したステント.EUS-CDSに使用したステント(上図)とEUS-HGSに使用したステント(下図)を示す.EUS-CDSに使用したステントは8mm径,60mm長の両端がフレア形状となった自己拡張型金属ステント(self-expandable metal stent;SEMS)である.EUS-HGSには,8mm径,100mm長の遠位端のみフレア形状となったSEMSを使用した.両ステントともにステントの腹腔内迷入を防ぐために,ステント近位端8mmはアンカバー構造になっている.

EUS-HGSでは,胃体部から拡張した左肝内胆管を描出し胆管穿刺を行う.造影剤注入後,0.025インチ径のガイドワイヤーを胆管内に挿入し,ガイドワイヤーを留置した後に穿刺経路の拡張をEUS-CDS同様に行う.左肝内胆管―胃体部間に,遠位端のみフレア形状となった8mm径,100mm長のカバー付きSEMS(Modified Niti-S S-type stent;Taewoong Medical)を展開する.EUS-HGSに使用したSEMSも本研究専用にデザインされたものであり,ステントの近位端8mmのみシリコン膜の覆いがないアンカバー形状となっている(Figure 1).

割り付けられた初回のEUS-BDが不成功であった場合は,同一セッションで代替のEUS-BD治療を試みた.胆嚢管が開存している症例では,EUSガイド下胆嚢ドレナージ(EUS-GBD)も胆道ドレナージの代替法とした 12.胆嚢管の開存はEUS-GBD施行前にEUSを用いて確認した.

定義

手技成功は,EUS-CDSでは肝外胆管と十二指腸間,EUS-HGSでは左肝内胆管と胃体部間にステント留置が成功した場合と定義した.全体での手技成功には,初回EUS-BD不成功時の代替療法として行った二次治療の手技成功を含んでおり,最終的に胆道―消化管間にステント留置が成功した場合と定義した.臨床的成功は,EUS-BD施行から2週間以内に血清ビリルビン値が正常化またはステント留置前の50%以下に低下した場合と定義した.偶発症の重症度に関しては,American Society of Gastrointestinal Endoscopyの重症度分類に準じた 13.早期偶発症および後期偶発症は,ステント留置後2週間を基準とし,2週以内に生じたものを早期偶発症,2週以降に生じたものを後期偶発症と定義した.ステント開存期間は,ステント留置からステント機能不全までの期間と定義し,画像検査で新たに胆管拡張を認めた場合や胆道閉塞症状の再燃が認められた場合と定義した.ステント機能不全なく死亡した症例は打ち切りとし,生存期間はEUS-BDによるステント留置から死亡までの期間と定義した.

統計分析

カテゴリー変数の結果は平均値(標準偏差),連続変数の結果は中央値(範囲)で示した.主要評価項目は,手技成功率の観点からEUS-CDSに対するEUS-HGSの非劣性を評価することであり,intention-to-treat(ITT)解析を行った.EUS-CDSに関する既報の成績に基づき 14,EUS-CDSの手技成功率を95%と仮定した.EUS-HGSの手技成功率をEUS-CDSと同じ95%と設定し,EUS-HGSのEUS-CDSに対する非劣性マージンは,臨床的に適切であるという臨床医の合意に基づき15%に設定した.上記設定で,片側有意水準5%,検出力80%で算出すると必要症例数は各群27例となったが,若干の脱落例を考慮して,目標症例数を各群30例の計60例に設定した.リスク差はEUS-HGSとEUS-CDSの手技成功率を比較し算出した.統計学的検定にはWald検定を用い,帰無仮説に基づくリスク差は-15%,片側有意水準5%とした.副次的評価項目に関してはITT解析およびper-protocol解析を使用した.カテゴリー変数についてはFisherの正確確率検定を使用し,連続変数についてはMann-WhitneyのU検定を使用した.ステント開存期間と生存期間の検討にはKaplan-Meier法を用いた.生存期間は,EUS-BD施行日から死亡または最終フォローアップ日までを測定した.Log-rank検定を使用してステント開存および生存曲線の比較検定を行った.すべての統計分析はSAS version 9.4(SAS Institute Inc., Cary, NC, USA)を用いて行った.

Ⅲ 結  果

症例登録

試験実施期間に切除不能悪性胆道閉塞を有する患者は9施設で計1,436例であった.本研究における患者選択のフローチャートをFigure 2に示す.初回の治療として96.0%の患者でERCPが施行され,ステント留置は90.9%で成功した.ERCPが不成功であった126例のうち,47例(3.3%)が本試験の適格基準を満たし,本研究に登録された.2年間で目標症例数に達することができなかったため,登録期間を6カ月間延長し計30カ月で登録を行ったが,目標症例数には達しなかった.登録期間に関してTherapeutic Endoscopic Ultrasound研究会の定期集会で協議され,全参加施設の合意のもとさらなる期間延長は行わず研究を終了することが決定した.無作為化の結果,EUS-HGS群が24例,EUS-CDS群が23例となった.

Figure 2 

本研究の患者フローチャートを各ステップで示す.

患者背景

登録症例の患者背景は両群間で有意差はなかった(Table 1).EUS-BDの適応となった理由では,ERCPにおける胆管挿管困難またはステント留置不成功が27例,十二指腸乳頭部へのスコープ到達困難が20例であった.登録後に除外となった症例や追跡不能となった症例は各群ともに認めなかった.

Table 1 

ERCP不成功悪性遠位胆道閉塞患者の背景.

主要評価項目

手技成功率は,EUS-HGS群で87.5%(21/24),EUS-CDS群で82.6%(19/23)であった(Table 2).リスク差は4.9%[90%信頼区間(CI)の下限:-12.2%,非劣性マージン15%における片側P値:0.0278]であった.手技不成功であった症例は,EUS-HGS群では3例あり,ガイドワイヤー操作の不成功が1例,穿刺経路の拡張困難が2例であった.また,EUS-CDS群では4例で手技不成功であり,血管の介在による穿刺困難が2例,腫大リンパ節の介在による穿刺困難が1例,スコープ保持困難が1例であった.これら7症例は同一セッションで他のEUS-BD手技を施行した.EUS-HGS群における不成功3症例のうち,2次治療として,EUS-CDSが2例で施行され,残りの1例ではEUS-GBDが施行された.また,EUS-CDS群における不成功4症例では,EUS-HGSが3例で施行され,残りの1例ではEUS-GBDが施行された(Figure 3).7症例中6例で手技成功が得られ,2次治療を含めた全体での手技成功率は,EUS-HGS群およびEUS-CDS群で各々100%,95.7%であった(P値=0.983).登録全症例では97.9%で手技成功が得られた(Figure 3).

Table 2 

ERCP不成功悪性遠位胆道閉塞患者に対するEUS-HGSおよびEUS-CDSの治療成績.

Figure 3 

本研究に登録された全患者(n=47)における超音波内視鏡下胆道ドレナージの手技成功率を示す.

副次的評価項目

ITT解析およびper-protocol解析の結果をTable 2に示す.初回EUS-BDが成功した40症例(EUS-HGS群24例中21例,EUS-CDS群23例中19例)におけるper-protocol解析による臨床的成功率は,EUS-HGS群で100%,EUS-CDS群では94.7%であった(P値=0.475).EUS-HGS群およびEUS-CDS群の平均処置時間は,各々37.7±14.0分,25.2±10.8分であり(P値=0.017),偶発症発生率は,各々28.6%および21.1%であった(P値=0.583).早期偶発症では,EUS-HGS群で急性膵炎を1例,胆汁性腹膜炎を1例に認め,EUS-CDS群では急性胆嚢炎を2例に認めた.後期偶発症に関しては,EUS-HGS群で19.0%(4/21例),EUS-CDS群で10.5%(2/19例)に認めた.EUS-HGS群でステント閉塞を来した4症例では,2例は既存のHGSステント内にプラスチックステントが追加挿入され,残りの2例ではHGSステント内を通して総胆管内に順行性にアンカバー型の金属ステントが追加留置された.EUS-CDS群でステント閉塞を来した症例に対しても,既存のCDSステント内を通してプラスチックステントが追加留置された.EUS-CDS群の1例ではステントが消化管内に完全に逸脱したが,EUS-CDSにより形成された瘻孔内に再度カバー付き金属ステントを留置し得た.処置関連偶発症の重症度では,軽症3例,中等症7例であった.

登録症例全例において研究期間終了までに死亡が確認された.Per-protocol解析におけるステント開存期間の中央値はEUS-HGS群で306日,EUS-CDS群では未到達であった(log-rank検定P値=0.597;Figure 4).同様にper-protocol解析における生存期間の中央値はEUS-HGS群およびEUS-CDS群で,それぞれ146日(21-400日),120日(43-408日)であった(log-rank検定P値=0.638;Figure 4).

Figure 4 

a:EUS-CDS群およびEUS-HGS群のステント開存率のlog-rank検定を使用したKaplan-Meier法による解析結果.

b:EUS-CDS群およびEUS-HGS群の生存率のlog-rank検定を使用したKaplan-Meier法による解析結果.

Ⅳ 考  察

本研究では,EUS-BDにおける代表的な2つのアプローチルートであるEUS-HGSおよびEUS-CDSの有効性と安全性の比較検討を行った結果,ERCP不成功となった切除不能悪性胆道閉塞におけるEUS-HGSのEUS-CDSに対する手技成功率の非劣性が示された.これまでに,これらのEUS-BDの2つのアプローチルートを直接比較した多施設臨床試験の報告はなく,今回の臨床試験の結果は悪性胆道閉塞に対する治療法選択に新たなエビデンスを提供するものである.

最近のメタ解析によると,EUS-CDSおよびEUS-HGSの手技成功率は,各々94.1%,93.7%と報告されている 15.今回の臨床試験ではEUS-CDSおよびEUS-HGSの手技成功率をいずれも95%と仮定して非劣性試験を考案したが,実際の手技成功率は当初の想定よりもかなり低い結果となった.経験豊富な内視鏡医がEUS-BDを施行した場合でも,無作為化によりEUS-HGSまたはEUS-CDSを施行した場合の手技成功率は90%を下回り,この成績は初回のERCPの手技成功率よりも低い結果であった.本研究では,超音波内視鏡スコープの挿入前に無作為化を行っており,EUS-HGSまたはEUS-CDSのいずれかの手技が困難である症例や通常臨床では選択しない方の治療に割り付けられた症例があったことが一因と考えられる.しかしながら,このような困難症例においても,同セッションで他のEUS-BD手技に切り替えることで,全体としてのEUS-BDの手技成功率が向上する可能性が考えられる.本研究では,初回EUS-BDが不成功であった場合の代替治療として施行したEUS-BD手技を含めると,全体での手技成功率は97.9%となり,近年のシステマティック・レビューにおける成績よりも良好な結果であった 16)~18.この結果は,単一のEUS-BD手技のみに拘泥するのではなく,困難であれば他のEUS-BD手技に切り替えることがEUS-BDの手技成功率の向上に寄与することを示唆している.

内視鏡の手技的観点から,EUS-CDSにはEUS-HGSに比べていくつかの利点がある 4),15),17.EUS-CDSでは十二指腸球部と肝外胆管が解剖学的に近接していることから 4,胆管穿刺に関してはEUS-HGSよりも容易であると言える.本研究においても,EUS-HGSの処置時間はEUS-CDSよりも有意に長かった.EUS-HGSでは,ガイドワイヤー操作に多くの時間を要することが多い 19.今回の研究においても,EUS-HGS群では,穿刺経路の拡張が困難であった症例の他に,ガイドワイヤー操作が困難で手技不成功となった症例が認められた.処置時間の短縮には今後のEUS-BD専用デバイスの開発が望まれる.

偶発症では,既報においては,肝内胆管アプローチに比べて肝外胆管アプローチの方が偶発症発生率は低いと報告されているが 20),21,本研究では,早期偶発症,後期偶発症ともに両群間で有意差はなかった.両群で偶発症の種類は異なり,多くは両手技の技術的な違いに関連したものであった.EUS-BD関連の偶発症のうち,ステントの腹腔内迷入はEUS-HGSにおける深刻かつ致命的な合併症の一つである 22.本研究ではEUS-HGS群の全症例で10cm長のステントを使用しており,腹腔内へのステント迷入は認められなかった 23.本研究における偶発症のなかで特筆すべきものとしてEUS-CDS施行後に発症した急性胆嚢炎の2例があげられる.EUS-CDSにおいて留置した金属ステントが胆嚢管を塞ぐことにより胆嚢炎が誘発された可能性がある.EUS-CDSの欠点の一つとして胆汁漏出リスクが高いことが知られているが 11,本研究では,予想に反してEUS-HGS群で1例,胆汁性腹膜炎を認めたが,EUS-CDS群では認められなかった.内視鏡施行医は各手技に特有な偶発症に精通しておくことが重要である.

本研究には,いくつかの限界がある.第一に,登録患者数が当初設定した目標症例数に到達しなかった.これにはいくつかの原因が考えられる.本研究は,ERCP経験数が豊富な9施設で行われたため,初回のERCP成功率が高く,EUS-BDが必要となる症例が少なかった.さらにこの研究では,肝内胆管の拡張が認められ,かつ十二指腸球部に狭窄のない症例を対象としたため,患者選択基準がかなり厳格であった.また,偶発症の種類,ステント機能不全やリインターベンションの割合に関して,両群で有意差がなかったが,本研究では症例数が少なく十分な検討が行えなかった可能性があり,これらの項目の検討にはより大規模な全国的な研究が必要と考えられる.第二に,この研究はEUS-CDSならびにEUS-HGSの内視鏡手技に精通した医療施設で実施されている.EUS-BDを実施する内視鏡医の技術的スキルの向上には習熟期間を有することが報告されており 19),24,本研究結果をEUS-BD経験が少ない施設に同じように適用することはできないと考えられる.

結論として,本研究はEUS-BDにおけるEUS-HGSとEUS-CDSの2つのアプローチルートを比較検討した最初の多施設無作為化試験である.ERCPが不成功であった悪性胆道閉塞を有する患者に対する胆道ドレナージ法として,EUS-HGSのEUS-CDSに対する手技成功の非劣性が示された.したがって,胆管穿刺前にEUSで各アプローチルートを評価することが重要と考えられる.また,いずれかのEUS-BD手技が困難と予想された場合は,他方のEUS-BD手技に切り替えることによりEUS-BDの手技成功率の向上が期待される.

謝 辞

本研究は日本学術振興会の助成を受けて行われた(16K09410).

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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