日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
青黛を含む漢方薬を内服中に虚血性小腸炎による空腸狭窄を来たした潰瘍性大腸炎の1例
野村 元宣 林 亮平田中 信治高砂 健若井 雅貴内藤 聡雄檜山 雄一弓削 亮上野 義隆茶山 一彰
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2020 年 62 巻 8 号 p. 1474-1480

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要旨

症例は62歳の女性.潰瘍性大腸炎・全大腸炎型の治療中に近医で青黛を含む漢方薬による治療が開始された.3週間後より嘔吐,黒色下痢,腹痛が出現した.前医で青黛は中止され,入院加療で一旦軽快するも1カ月後に嘔吐,腹痛を生じた.当院へ転院して精査したところ,小腸造影で上部空腸に長径10cmに渡る求心性狭窄を,また経口的ダブルバルーン小腸内視鏡検査で周囲に発赤を伴う全周性潰瘍を認め,虚血性小腸炎と診断した.外科的治療適応と判断し,腹腔鏡下小腸切除術を施行した.これまで青黛による消化管関連副作用として腸重積症や虚血性大腸炎の報告はあるが,小腸に副作用を来たした報告はなく,稀な経過を辿った症例と考えられた.

Ⅰ 緒  言

潰瘍性大腸炎に対する治療として青黛の有効性はこれまで報告されているが 1)~3,肺動脈性高血圧症や肝機能障害の他に腸重積・虚血性大腸炎など様々な合併症 4)~7を認めることが知られている.今回,青黛内服後に虚血性小腸炎による空腸狭窄を来たした潰瘍性大腸炎の1症例を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

患者:62歳,女性.

主訴:嘔吐,黒色下痢,腹痛.

既往歴:自律神経失調症,扁桃腺肥大症,A型肝炎.

家族歴:特記事項なし.

生活歴:機会飲酒,喫煙なし.

現病歴:2014年に腹痛,血便が出現し,近医で全大腸炎型の潰瘍性大腸炎と診断され,5-aminosalicyle acid(ASA)製剤(主にペンタサ4,000mg)により治療されたが,寛解と増悪を繰り返していた.2017年秋に潰瘍性大腸炎の病態悪化による血便を認めたため,自己判断で他クリニックを受診し,青黛を含む漢方薬(青黛の含有量は不明)の内服治療が開始された.潰瘍性大腸炎による血便・下痢症状は改善したが,青黛内服開始3週間後より繰り返す嘔吐・下痢が出現し,黒色便も認めた.近医総合病院を受診し青黛内服は中止され,同病院に入院した.絶食・輸液治療によって一旦改善し,22日後に退院したが,退院1カ月後に再度腹痛・嘔吐を発症し,その際に上部空腸狭窄による腸閉塞を指摘された.再度近医総合病院に入院となり,イレウス管を留置された.その後小腸精査・加療目的で当院に転院した.

入院時現症:身長157cm,体重50kg,脈拍69/分,血圧140/69mmHg,体温36.8℃,眼瞼結膜 貧血なし,眼球結膜 黄疸なし.胸部心音・呼吸音異常なし.腹部平坦・軟,腸蠕動音正常,圧痛なし.イレウス管留置中(緑色排液),四肢に浮腫なし.

青黛内服3週間後の初発時,臨床検査成績(Table 1)では白血球37,450/μl,CRP 13.2mg/dlと炎症反応の著明な上昇を認めた.青黛のDLSTは陰性だった.また,血管炎やサイトメガロウイルス腸炎などを示唆する検査所見はいずれも陰性であり,便培養でも有意な菌は検出されなかった.

Table 1 

臨床検査成績.

また,前医で施行された腹部単純CTでは上部空腸に拡張・肥厚した腸管壁を認め,骨盤周囲には著明な腹水の貯留を認めた(Figure 1-a).一方で,当院転院時の腹部造影CTでは上部空腸の浮腫性肥厚や腹水は改善していたものの,周囲の脂肪織濃度上昇を伴う小腸狭窄を認めた(Figure 1-b).イレウス管からのガストログラフィンを用いた小腸造影では,トライツ靭帯より50cm程度肛門長径約10cmに渡る求心性管状狭窄を認めた(Figure 2).また経口的ダブルバルーン小腸内視鏡検査では同部に周囲に発赤を伴う全周性の潰瘍性病変を認め,先進部ではピンホール状の狭窄を認めた.インジゴカルミン撒布後の観察では潰瘍の辺縁の境界は明瞭であった(Figure 3-a,b).また下部消化管内視鏡検査,腹部CT上で狭窄部以外に病変は認めなかった.

Figure 1 

腹部CT検査.

a:腹部単純CT.初発時.上部空腸の拡張・肥厚と著明な腹水を認めた.

b:腹部造影CT.発症1カ月後;イレウス管留置中.周囲の脂肪織濃度上昇を伴う小腸狭窄を認めた(矢印).

Figure 2 

小腸造影検査.

イレウス管からのガストログラフィン造影.

トライツ靭帯より50cm程度肛門側の上部空腸に約10cmに渡る求心性の狭窄を認めた.

Figure 3 

経口的ダブルバルーン小腸内視鏡検査.

a:白色光;周囲に発赤を伴う全周性の潰瘍性病変を認めた.

b:インジゴカルミン観察;潰瘍辺縁の境界は明瞭であった.

本症例では生検検体で悪性所見や好酸球増多を認めず,また担鉄細胞は確認できなかったが,画像所見に加えて各種培養検査においてもいずれも陰性であったため,虚血性小腸炎と診断し,狭窄解除目的で腹腔鏡下小腸切除術を施行した(Figure 4).切除標本肉眼所見では10cmに渡る潰瘍を認めたが,青黛の色素沈着は認めなかった.病理組織像では小腸病変は広範に粘膜が脱落し,腸管は全層性に炎症性肉芽組織に置き換わり固有筋層は消失してUL-IVの組織像を呈しており,腸間膜動脈は血管内腔の狭窄が種々の程度に認められた(Figure 5-a).また,担鉄細胞も認められ虚血性腸炎として矛盾しない所見だった.腸間膜動脈は中膜の硝子様変成を伴う肥厚により内腔の著しい狭窄を認めており,これに伴う虚血性変化と考えられた.しかしながら一般的な虚血性腸炎で見られる血栓形成や動脈硬化は認められず,通常とは異なる機序により発症したことが示唆された(Figure 5-b).

Figure 4 

切除標本.

腹腔鏡下小腸切除後.長径10cmに渡る潰瘍性狭窄を認めた.

Figure 5

a,b:病変部組織像.

a:粘膜は広範に脱落しており,腸管は全層性に炎症性肉芽組織に置き換わり,固有筋層は消失し,UL-Ⅳの組織像を呈していた.

b:腸間膜動脈は中膜の硝子様変性を伴う肥厚により,内腔の著しい狭窄を認めた(a,b矢印).

外科手術10日後に退院となり,潰瘍性大腸炎の治療は5-ASA製剤(リアルダ4,800mg)で継続しているが,小腸病変の再燃なく経過している.

Ⅲ 考  察

青黛はリュウキュウアイ,ホソバタイセイなどの植物から得られる藍色の染料であり,中国では生薬として,潰瘍性大腸炎やその他一部の疾患の治療に使用されている 2),8.また日本においても近年,青黛の潰瘍性大腸炎に対する有効性が示されており 3),9,Naganumaらによる多施設共同二重盲検試験 1では中等症以上の活動期潰瘍性大腸炎患者86例を4群に分け,カプセル化した青黛を内服させたところ非常に高い有効性を示したと報告している.青黛の潰瘍性大腸炎に対する効果のメカニズムとしては青黛の成分であるindigoやindirubinなどのインドール化合物が芳香族炭化水素受容体(AhR:aryl hydrocarbon receptor)にリガンドとして作用することが報告されている 10)~13).またKawaiらはデキストラン硫酸ナトリウム(DSS:dextran sodium sulfate)誘発性マウス大腸炎モデルにおいて青黛がAhRを介してIL-10やIL-22などの抗炎症性サイトカインを誘導することにより腸炎を改善させたと報告している 14

しかしその一方で青黛には肺動脈性高血圧症,肝機能障害,頭痛などの様々な副作用も生じ得ることが報告されている 9.その他に青黛の副作用として考えられる消化管関連病変として虚血性腸炎や腸重積 4,静脈炎誘発性大腸炎 5などが報告され,中には青黛内服の度に虚血性腸炎を繰り返してS状結腸狭窄を来たした報告 14がある.またSuoら 7は中国において乾癬,特発性血小板減少症に対する青黛治療後に青黛による副作用と思われる大腸粘膜障害を来たした13例を検討し,青黛内服後の副作用の特徴として全例で内視鏡画像また病理組織上で虚血性大腸炎と類似する所見を示したと報告している.さらにYanaiら 15は青黛内服後に上行結腸に浮腫性肥厚が生じ,同部の生検検体で高度の炎症,浮腫,鬱血,粘膜出血の所見を認めた症例を報告している.同症例は青黛中止4週間後の内視鏡像で上行結腸の炎症は改善しており,その際生検検体では軽度の炎症,線維化に加えて青黛成分由来のものである可能性のある藍色の色素沈着を認めたとしている.これらの青黛による消化管関連病変は内服開始後3週間から3カ月程度の期間で発症している症例が多く 4),5),7,本症例の発症時期とも一致する.

このようにこれまでの報告では青黛の副作用として大腸に関しては虚血性腸炎に類似するという点や特徴的な病理所見などが示されている.しかし医中誌,Pub Medで検索した限りでは,小腸に副作用を来たした報告はない.

本症例では青黛内服3週間後に嘔吐・黒色下痢を伴う腹部症状を突然発症して近医総合病院受診となったが,その際に虚血性腸炎を発症したと考えられた.当院入院中に行った小腸内視鏡所見と小腸造影と腹部造影CTでは虚血性小腸炎に特徴的な肉眼所見特徴である 16),17,①求心性管状狭窄,②境界明瞭な全周性区域性潰瘍,③腸管壁の高度な肥厚,を認めていた.虚血性小腸炎は小腸狭窄を来たし得る良性の炎症性疾患であるが,金成らは1979年から2006年まで本邦に報告された虚血性小腸炎は83例中62例が「狭窄型」であり,小腸狭窄の割合が多いことを報告している 18.本症例では前述の肉眼的所見に加えて,その他の血液検査,病理診断においても感染症や腫瘍性疾患が否定的であったことを総合的に判断して虚血性小腸炎と診断した.

本症例の青黛内服後から副作用出現までの期間はこれまでの報告 4),5),7と同程度であり,青黛内服を中止したことで症状が一過性に改善したと考えられる.しかし広範囲の虚血性変化の結果,腸管狭窄を来たしたため1カ月後に再度腸閉塞を発症したと考えられた.

一方で副作用の機序に関しては静脈炎誘発性大腸炎などの可能性 5の他に,青黛の成分であるindigo,indirubinが血管収縮作用,血液凝固作用のあるセロトニンと分子構造上類似していることを指摘している報告 19もあるが未だ不明な点が多い.前述の青黛の有効性を報告した多施設共同二重盲検試験の報告 1においても,副作用出現の可能性とその機序が未だ不明であることを理由に青黛の投与は現段階では推奨されないと結論づけている.しかしながら個人医院での処方や自己購入により青黛を使用する症例は存在しており,同剤を使用している症例を診療する際には引き続き副作用の出現に留意する必要がある.

Ⅳ 結  語

青黛を含む漢方薬の内服を開始した3週間後に虚血性小腸炎を発症した潰瘍性大腸炎の1例を経験した.潰瘍性大腸炎に対する青黛の有効性が報告される一方で様々な副作用が報告され,腸管病変として腸重積や虚血性大腸炎の報告が散見される.しかしながら小腸に虚血性腸炎を発症した症例の報告はなく,貴重な症例と考え報告した.

謝 辞

本症例の加療,並びに執筆過程において助言を戴いた当院消化器外科の大毛宏喜教授,渡谷祐介先生,上神慎之介先生,矢野雷太先生,広島修道大学の嶋本文雄教授にこの場をお借りして深謝申し上げます.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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