日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
ERCP後膵炎後の被包化膵/膵周囲壊死(WON)に合併した膵結腸瘻に対してover-the-scope clip(OTSC)systemが有効であった1例
村上 正俊 肱岡 真之隅田 頼信藤山 隆加来 豊馬原田 直彦河邉 顕
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2020 年 62 巻 9 号 p. 1592-1599

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要旨

症例は75歳女性.閉塞性黄疸の精査目的でERCPを施行し,肝門部領域胆管癌と診断した.検査後にERCP後膵炎を発症し,感染性被包化膵・膵周囲壊死(WON)を合併した.超音波内視鏡下および経皮的ドレナージを施行するも,感染のコントロールに難渋した.さらにWONとS状結腸に瘻孔形成を認めたため,低侵襲治療としてover-the-scope clip(OTSC)Systemによる縫縮術を行った.膵結腸瘻は閉鎖可能であり,結果的にWONの消失も得られた.急性膵炎での結腸瘻の合併の頻度は多くはないが治療に難渋する.ERCP後膵炎の膵結腸瘻にOTSC Systemが有効であった1例を経験したので報告する.

Ⅰ 緒  言

重症膵炎における膵結腸瘻の合併は多くはないものの,その死亡率は高く極めて予後不良である 1.今回われわれは,ERCP後重症膵炎の感染性被包化膵・膵周囲壊死(walled-off pancreatic/peripancreatic necrosis:WON)に合併した膵結腸瘻の閉鎖にover-the-scope clip(OTSC)Systemが有効であった1例を経験したため,文献的考察を加えて報告する.

Ⅱ 症  例

患者:75歳,女性.

主訴:心窩部痛.

既往歴:高血圧,2型糖尿病,骨粗鬆症,腰部脊柱管狭窄症,子宮脱術後.

家族歴:兄が大腸癌.妹が血液腫瘍.

生活歴:喫煙 なし,飲酒 なし.

現病歴:2017年9月頃より時折心窩部痛を自覚していた.2018年2月より心窩部痛の増悪,倦怠感,尿濃染を認めた.前医を受診し,腹部超音波検査にて総胆管の狭窄を指摘され,精査目的に当科紹介となった.

入院時現症:身長146.8cm,体重53.8kg,BMI 24.9,体温36.2℃,血圧151/73mmHg,脈拍75回/分,整.眼瞼結膜に貧血なく,眼球結膜に黄染を認めた.腹部は平坦,軟で,上腹部に圧痛を認めた.

血液検査では肝胆道系酵素の上昇を認め,CA19-9も上昇していた(AST/ALT 184/336IU/L,ALP/γGT 598/495IU/L,T-Bil/D-Bil 4.3/3.3mg/dL,CA19-9 278IU/mL).腹部造影CTでは左右肝管〜遠位胆管にかけて濃染される壁肥厚を認め,ERCPでは狭窄部に壁不整・硬化を伴い,肝門部領域胆管癌を強く疑った.内視鏡的乳頭括約筋切開後(中切開),左肝管にプラスチックステント(PS)を留置した.胆管生検から腺癌が検出され,肝門部領域胆管癌と診断したが,ERCP後重症膵炎を発症した(厚生労働省急性膵炎重症度判定基準にて予後因子6点(年齢,partial pressure of arterial oxygen,LDH,Ca,CRP,systemic inflammatory response syndrome),CT grade2(Figure 1-a)).集学的治療にて急性期は脱したが,炎症反応の再増悪や高熱を認めるようになり,第32病日のCTにて脾臓から膵尾部,そして骨盤腔にかけて巨大なWONを認めた(Figure 1-b).感染性WONを疑い,抗菌剤治療を継続したものの改善傾向に乏しく,超音波内視鏡下嚢胞ドレナージ(Endoscopic ultrasonography-guided pancreatic cyst drainage:EUS-CD)を施行した.

Figure 1 

腹部造影CT.

a:ERCP翌日の腹部造影CT.膵周囲〜左後腎傍腔まで液体貯留を認め,尾部には造影不良域が存在した.

b:第32病日の腹部造影CT.脾臓から膵尾部,そして骨盤腔にかけて,巨大な嚢胞性病変を認めた.嚢胞の内部には隔壁を伴い(矢頭),嚢胞の周囲には脂肪織混濁を認めた.

EUS-CD(第38病日):経胃的にWONを穿刺したところ,白濁した膿汁が回収された(細菌培養は陰性).WONは骨盤腔まで伸びており,同じ穿刺腔から内瘻としてプラスチックステントを3本に加え,チューブも1本留置した(Figure 2).

Figure 2 

超音波内視鏡下嚢胞ドレナージ(第38病日).

骨盤内にかけて広範な嚢胞腔を形成していた.内瘻プラスチックステントの他に外瘻チューブを留置した.

経過1:ドレナージが不十分であり,第44病日に内瘻ステントを追加で留置した.また,胆管炎を発症したため経乳頭的ドレナージを施行した.以後,入院中に胆管炎を計7回繰り返したが,播種の懸念や腹水出現もあり,いずれも経乳頭的ドレナージを行った.内瘻・外瘻ステントや金属ステントへの交換を必要としたが,その後のPEP発症は認めなかった.胆道ドレナージや胆汁培養結果(Escherichia coli,Stenotrophomonas maltophilia,Bacteroidesなどが検出)に応じた抗菌剤投与を行うも炎症の沈静化は得られず,骨盤内の WONは残存していた.EUS-CD単独ではドレナージ範囲に限界があると判断し,第57病日に左下腹部から経皮的ドレナージを追加した(排液の細菌培養からEnterococcus faeciumが検出).経皮ドレーンからは白濁した排液が持続し,ドレナージだけでは感染の終息が期待できないことから,内視鏡的ネクロゼクトミー(Endoscopic necrosectomy:EN)が必要と考えられたが,患者・家族から同意を得ることができなかった.その後の画像検査で経皮ドレーン近傍のWONは残存していたが,経胃ドレーン近傍のWONはほぼ消退した.経胃ドレーンの先端と結腸が近接し腸穿孔などの偶発症が危惧されたこと,経胃ドレーンを介してWONへの逆流も否定できなかったことから,経胃ドレーンの抜去の可能性を検討するために内視鏡検査を行った.

透視下上部消化管内視鏡検査(第102病日):経胃ドレーンを抜去後にWONから造影したところ,結腸への造影剤の流出を認め,膵結腸瘻と診断した(Figure 3).瘻孔部に干渉しないように浅めの位置でステントを再留置した.

Figure 3 

透視下上部消化管内視鏡(第102病日).

被包化膵・膵周囲壊死からの造影にて結腸へ造影剤の流出を認めた(矢頭).

下部消化管内視鏡検査(第128病日):S状結腸に瘻孔を認め,吸引にて白濁した膿汁の流出を認めた(Figure 4-a).

Figure 4 

下部消化管内視鏡検査(第128病日),瘻孔閉鎖術(over-the scope clip system)(第171病日).

a:S状結腸に瘻孔を認めた(矢頭:瘻孔,矢印:真腔).吸引にて白濁した膿汁の流出を認めた.

b:吸引にて周囲組織をフード内に十分挙上し,over-the scope clip systemにて縫縮した.

経過2:これまでの経過からも保存的治療ではWONと膵結腸瘻の改善が期待できず,人工肛門造設術などの外科的治療法も検討したが,長期に渡る炎症により全身状態は著しく低下していることから,手術リスクが高く,まずは侵襲の少ない内視鏡的治療を試みる方針とした.下部消化管内視鏡検査の前処置によりショックとなったことより,可能な限り全身状態を改善させることを優先した.膵結腸瘻の増悪した要因の可能性を考慮して経胃ドレーンをすべて抜去し,再燃を繰り返す胆管炎の治療も重点的に行った.長期間の栄養管理やリハビリテーションにより全身状態の改善傾向が得られ,第171病日にOTSC systemによる瘻孔閉鎖を試みた.

瘻孔閉鎖術:既知の結腸瘻を同定後,吸引にて周囲組織をフード内に十分挙上し,OTSC system(腸type,10mm径,Ovesco Endoscopy GmbH, Tüebingen, Germany)にて縫縮した(Figure 4-b).

経過3:OTSC systemによる瘻孔閉鎖後は経皮ドレーンからの排液が減少し,WONも縮小した(Figure 5).第236病日に経皮ドレーンを抜去し,その後も再燃なく経過したため,リハビリ目的に第257病日に転院となった.入院中の全経過をFigure 6に示す.なお,瘻孔閉鎖5カ月後の注腸造影では腸管外への漏出所見を認めず,その後のCTでもWONの再燃を認めなかった.全身状態改善後に化学療法の導入を検討していたが,その後も胆管炎により複数回の入院を必要とし,performance statusは低下したため,積極的な治療は困難となった.播種性イレウスや十二指腸狭窄など病状の悪化を認め,2019年9月に永眠された.

Figure 5 

経皮ドレーン造影.

a:第144病日.1カ月以上被包化膵・膵周囲壊死のサイズに変化を認めなかった.

b:第179病日(瘻孔閉鎖後8日目).被包化膵・膵周囲壊死の著明な縮小を認めた.

Figure 6 

入院中の経過.

Ⅲ 考  察

WONの治療に関しては,段階的に侵襲度の高い治療へと移行するstep-up approach 2の有用性が報告されており,本例でもまずは内視鏡および経皮的ドレナージを選択した.EUS-CDは1992年にGrimmらが報告した膵仮性嚢胞に対する経消化管的ドレナージの一つである 3.EUS下でリアルタイムに穿刺ルートを確認できるため,安全であり,低侵襲治療として広く行われている.一方で,WONは内部に隔壁を有し多房性となることが多く,一つのルートからではドレナージが不十分となることが経験される.ドレナージ効率の向上を目的にmultiple transluminal gateway technique 4やsingle transluminal gateway transcystic multiple drainages 5などの有用性が報告されているが,固形の壊死物質を含むWONに対するEUS-CD単独の臨床的奏効率は40-50%程度と十分ではない 6.その中で,開腹手術より低侵襲な治療として,内視鏡的に壊死物質を除去するENがSeifertらにより報告された 6.出血や穿孔など偶発症率や死亡率は高いが,良好な治療効果が報告されており 7,ドレナージのみで改善しない場合には,ENの追加の適応を考慮するべきである.自験例もENへのstep-upによりWONの改善を促す可能性が高いと考えられたが,患者・家族の同意を得ることができなかった.幸いにもドレナージのみで救命することはできたが,非常に長期の経過となり,患者・家族への身体的・精神的,また医療経済的にも多大な負担となった.なお,ENは保険適応外であり,施行にあたっては各施設の倫理委員会の承認が必要であることに留意されたい.

急性膵炎における大腸合併症の頻度は少なく,膵炎における合併症の1%以下と稀とされる 8.一方で,膵炎の重症度に応じて大腸合併症は増加し,重症急性膵炎では3-10%に大腸穿孔や膵結腸瘻を認め,その死亡率は17-67%と極めて予後不良であったと報告されている 1.大腸穿孔の発生機序としては,膵酵素を含んだ炎症性物質が結腸間膜に達し血栓や結腸周囲炎を起こし,腸管壁が虚血に陥ることが原因と考えられている 9.一方で,自験例の場合,経胃ステントが結腸と近接していた.膵結腸瘻との正確な位置関係や形成時期は不明だが,WONによる炎症に加え,ステントによる物理的な刺激が一因となった可能性も否定はできない.EUS-CDの際には迷入や逸脱防止のため,両端ピッグテール型PSを用いることが多いが,細径ゆえに閉塞率が高く,ドレナージ力は低い.近年,両端にアンカーがついたEUS-CD専用のデバイス(Lumen-apposing metallic stent(LAMS;Hot AXIOS,Boston Scientific Japan,東京)が開発され,本邦でも2018年に保険収載された.高いドレナージ力に加えてENへの移行も容易であり,理想的なステントと言える 10.自験例では保険収載時期の関係で使用できなかったが,LAMSを用いれば結腸瘻を形成せずに早期に治癒し得たかもしれない.

大腸合併症を呈した場合,一般的には壊死腸管の切除・膿瘍ドレナージ,回腸・結腸ストーマなど外科手術が選択されることが多いが 11,一方で全身状態の低下により外科的治療はリスクが高く,可能な限り低侵襲な治療が望まれる.自験例で使用したOTSCは,もともとnatural orifice transluminal endoscopic surgeryへの応用を目的に開発された全層縫合器である 12.2010年1月から2020年3月までの期間中,医学中央雑誌で「over-the-scope clip」「膵結腸瘻」または「結腸瘻」,PubMedで「over-the-scope clip」「pancreatico(-)colonic fistula」または「colonic fistula」で検索したところ,膵炎に合併した膵結腸瘻をOTSCで閉鎖した報告は会議録を除き5報(13症例)のみであった(Table 1 13)~17.膵炎の原因はアルコール,胆石がほとんどであり,自験例のようにERCPが原因の症例は認めなかった.膵結腸瘻は自験例同様左側結腸に多く,透視検査,CT,下部消化管内視鏡検査など,様々な方法で診断されていた.自験例は吸引のみで縫縮を行ったが,ツイングラスパーを用いた症例も多く認められた.瘢痕化例や30mmを越える例ではOTSCによる瘻孔閉鎖が困難で 18,特にそのような症例ではツイングラスパーやアンカーが有用であるが,自験例は発症から処置まで比較的時間が経過していたにもかかわらず,幸いにも瘻孔周囲の硬化はそれほど強くなく,吸引により瘻孔周囲組織の挙上が十分に得られたため,吸引のみでOTSCによる縫縮が可能であった.一方で,全層縫合となっていない可能性やOTSC脱落後に自然閉鎖した可能性については議論の残るところだが,少なくとも密で強固な縫縮が得られたこと,OTSC留置前後で明らかにWONの縮小や経皮ドレーンからの排液量の減少が得られたことからも,OTSC留置が膵結腸瘻の治癒過程を促進したと考えられた.また,経皮的ドレナージにより壊死・感染物質が貯留することなく管理できたこと,栄養状態の改善に努めたことも,離開せずに閉鎖した要因と考えられた.本例ではより早期に治療を行うことができなかったことは反省するべき点であった.瘻孔のサイズや性状にも左右されるが,OTSC systemによる瘻孔閉鎖術は低侵襲な治療法として勘案すべき手段と考えられた.なお,自験例ではOTSC施行5カ月後に注腸造影により膵結腸瘻の閉鎖を確認し,その後のCTでもWONは消失したまま経過した.過去の報告からも瘻孔の再開通を比較的多く認めており,注意が必要である.

Table 1 

膵炎に合併した膵結腸瘻をOTSCで縫縮した報告例(自験例を含む).

最後に本例を振り返ったところ,PEPの原因として胆管挿管時に用いた膵管ガイドワイヤー(GW)法の可能性が考えられた.ERCP画像の再検討では,GW操作による膵体部の分枝膵管の損傷を否定できない所見があり,膵尾部中心の炎症波及やWON形成の経過にも合致する.デバイス交換時や胆管処置時にも分枝膵管を損傷する可能性があり,GW操作には常に注意を払う必要があること,さらにチームとしてその可能性を共有することなどが,本症例のような重症PEP発生を減らすために重要と考えられた.

Ⅳ 結  語

ERCP後膵炎後のWONに合併した膵結腸瘻の閉鎖にOTSC systemによる縫縮術で瘻孔閉鎖が得られた1例を経験した.結腸瘻に対して外科手術が重要なポジションを占めることに変わりはないが,特に全身状態不良や高齢など耐術能が問題となる症例に対しては,より低侵襲な治療としてOTSCによる内視鏡的瘻孔閉鎖も治療選択の一つになり得ると考えられた.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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