日本消化器内視鏡学会雑誌
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総説
炎症性腸疾患診療にあたって注意すべき腸管感染症の内視鏡像
山本 章二朗 芦塚 伸也河上 洋
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2021 年 63 巻 1 号 p. 18-30

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要旨

炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease;IBD)の診断時には腸管感染症との鑑別は最も大切である.その後の経過が全く異なるため,誤診することはあってはならない.またIBDの再燃兆候がみられた場合,IBDの再燃か,感染症の発症か,またはその両者の合併かを的確に鑑別することは重要である.腸管感染症はIBDの増悪因子としても知られており,IBDを診療する上で腸管感染症は常に念頭に置くべき疾患である.そこで,本稿では,IBDを診療する上でIBDと鑑別を要する主な腸管感染症について,疾患概念や内視鏡所見について解説した.

Ⅰ 緒  言

一般的に炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel disease;IBD)とは潰瘍性大腸炎(Ulcerative colitis;UC)とクローン病(Crohn’s disease;CD)を指し,いずれも原因不明で若年者に好発する難治性の慢性疾患である.一方,腸管感染症は,細菌やウィルス,寄生虫などの病原体が経口感染し,下痢や腹痛,悪心,嘔吐,血便,発熱などの症状をきたす疾患であり,IBDの活動期と類似した症状を呈する.腸管感染症は自然軽快例が多いため,病院を受診されずに症状が改善することが多いと思われる.また,受診時に適切な病歴の聴取や正確な理学的所見の把握を行えば,IBDと腸管感染症の鑑別は困難ではないことが多いが,時にその両者の鑑別に苦慮する症例も存在する.『難治性炎症性腸管障害に関する調査研究』班(鈴木班)で作成された潰瘍性大腸炎・クローン病診断基準・治療指針やIBD診療ガイドラインには 1),2,IBDと鑑別すべき疾患として,UCでは細菌性赤痢,クロストリディオイデスディフィシル(Clostridioides difficile;C. difficile)腸炎,アメーバ性大腸炎,サルモネラ腸炎,カンピロバクター腸炎,大腸結核,クラミジア腸炎,腸管侵襲型病原性大腸菌,CDではエルシニア腸炎,腸結核などの腸管感染症が記載されている.近年,IBD診療では免疫調節薬などを使用する機会が増加しており,その上でも腸管感染症とIBDの鑑別はさらに重要性が高くなっている.すなわち,IBD患者は新規治療の登場によりその経過が良好になった反面,健常人より易感染性の状態であるため,各種感染症に罹患しやすい.それらの感染症ではしばしば消化管に障害を与え,消化器症状を呈する.その際,その消化器症状がIBD自体の悪化か,感染症の症状か,または両者の合併かを見極める必要がある.前述の治療指針などにも,ステロイド抵抗性UCの中にC. difficile感染やサイトメガロウィルス(Cytomegalo virus;CMV)の合併による増悪があると記載されており,IBD再燃時には常に感染症の可能性を念頭に置き診療にあたる必要がある.

近年著増しているIBDを診療する上で腸管感染症との鑑別は診断時,再燃時のいずれにおいても非常に大切であり,本稿では,IBDと鑑別を要する主な腸管感染症について,疾患概要と内視鏡診断を中心に解説する(Table 1).

Table 1 

IBDと鑑別を要する腸管感染症.

Ⅱ IBDと鑑別を要する主な腸管感染症

1.カンピロバクター腸炎

(1)疾患概要

本症ではCampylobacter jejuniC. jejuni)が原因の95%である 3.本邦における細菌性食中毒では最も頻度が高い 4.汚染飲食物(食肉・牛乳・水など)や家畜(ニワトリ・ブタ・ウシなど),ペットなどを介して経口感染する.特に加熱処理が不十分な鶏肉(鶏刺し,鶏レバー)や十分に加熱されていない鶏肉の加工品,豚肉は汚染率が高い.潜伏期間は2-10日間で他の食中毒病原と比較し,長い.このため,患者自身が摂食物との因果関係に気付かないことも多い.症状は,腹痛,水様性・血性下痢,発熱,嘔吐などである.C. jejuniは腸管粘膜侵入性があり,血便の頻度は比較的高い.多くは1週間程度で自然軽快するが,髄膜炎,虫垂炎,胆嚢炎,腹膜炎などの腸管外感染の報告もあり,少数例ではあるがGuillan-Barré症候群の合併もある.治療は軽症例では脱水補正,整腸剤で対処し,症状が強い場合や基礎疾患をもち重篤化が懸念される症例では,マクロライド系抗菌薬が第一選択となる.なお,セフェム系抗菌薬には自然耐性を示し,ニューキノロン系抗菌薬は耐性株が増加している 5

(2)消化管病変と画像所見

罹患範囲は直腸から大腸全域,回腸末端に病変が及ぶ.腹部超音波検査では大腸に加え小腸に炎症性壁肥厚を認める.内視鏡で最も典型的な所見は,Bauhin弁上の潰瘍であり(Figure 1-a),境界明瞭でBauhin弁全体に浅い潰瘍を呈するものやBauhin弁の一部に浅いびらんを呈するものなど,様々である.Bauhin弁の潰瘍の出現率は42-44%であるが 6),7,特異度は高い.Bauhin弁上の潰瘍以外の病変は,30%程度に回腸末端に潰瘍を認める.大腸では全域に病変を認め,内視鏡では粘膜の発赤,出血,びらんなどをびまん性あるいは斑状に認める(Figure 1-b).直腸・S状結腸にびまん性の病変を認める場合,UCとの鑑別が困難な場合がある.カンピロバクター腸炎では正常粘膜に点状の発赤と粘膜内出血を呈することが多い.一方,UCではびまん性に発赤した粘膜を背景に小白点が多発している点が鑑別のポイントである 7)~10

Figure 1 

カンピロバクター腸炎.

a:Bauhin弁上の潰瘍.

b:直腸の発赤と粘膜内出血.白斑は目立たない.

2.サルモネラ腸炎

(1)疾患概要

Salmonellaはチフス性と非チフスに分別され,本疾患は非チフス性であり,その大半はSalmonella enteritidisまたはSalmonella typhimuriumに汚染された鶏卵,肉,乳製品などの経口感染によって起こる.発生頻度として,事例数はカンピロバクター腸炎の1/15程度と低いが,患者総数はカンピロバクター腸炎の1/2~1/3であり,集団感染率は高い 4.潜伏期は8~48時間と短く,夏に好発する.症状は発熱,腹部疝痛,悪心・嘔吐,下痢などで,時に悪寒を伴う高熱もきたす.血便は比較的稀で,急性の緑色下痢便が特徴である 11.幼児,高齢者,糖尿病患者,悪性腫瘍患者,HIV感染者などの免疫能低下者ではサルモネラが血中に入り菌血症や敗血症となり,腹腔内膿瘍,皮下膿瘍,心膜炎,骨髄炎,髄膜炎,関節炎などの重篤な腸管外病変や急性腎不全をきたすこともある.血液検査所見では,炎症反応高値(白血球増加,CRP高値)以外に,CPK,LDH,ALT,ミオグロビン高値などを呈する.治療は健常者では脱水補正などが基本であるが,乳幼児や高齢者,症状が強い症例,基礎疾患をもち重篤化が懸念される症例などではニューキノロン系抗菌薬を1週間程度投与する.

(2)消化管病変と画像所見

罹患範囲は,空腸下部から結腸全体にわたる.Salmonellaは組織侵入型で,パイエル板のM細胞から侵入する.このため回腸末端が好発部位(82%)とされており,回腸末端から上行結腸にかけての病変が典型的とされるが,下行結腸やS状結腸にも6割程度の症例で病変を認める 12.軽~中等症のサルモネラ腸炎では血便の頻度も少なく,内視鏡を施行される機会は少ない.病変の内視鏡所見は,特徴的なものはなく,粘膜浮腫,発赤,びらん,粘膜内出血などを非連続性に認め 8),11,またBauhin弁上潰瘍も稀である(Figure 2 13)~15.多くは短期間で治癒するが,時に限局性に深い潰瘍形成をきたし遷延する場合がある.UCとの鑑別が必要となるが,本症では直腸病変は20%程度と少なく,特に下部直腸に病変がみられることが極めて稀である点でUCとの鑑別が可能である 8),13),16

Figure 2 

サルモネラ腸炎.

a:回腸末端にみられた膿性粘液の付着と粘膜発赤やびらん.

b:Bauhin弁の著明な粘膜内出血と上行結腸の粘膜浮腫.

※ 炎症性腸疾患 Imaging Atlas 2016:186-7より転載.

3.エルシニア腸炎

(1)疾患概要

Yersinia enterocoliticaおよびYersinia pseudotuberculosisなどに汚染された食肉(特に豚肉),牛乳,水,ペット(犬,猫)などから感染する.潜伏期は3~7日間である.本菌はリンパ組織に親和性が強く,回腸末端部のパイエル板から侵入し,腸間膜リンパ節で増殖してリンパ節炎やリンパ節腫大を起こす.症状によって急性胃腸炎型と虫垂炎型に分けられ,前者では発熱,嘔気・嘔吐,腹痛,下痢などを認めるが,血便は少なく,下痢は他の感染症と比較し,軽度である 17.一方,後者では回盲部痛などで虫垂炎と誤診されることもある.発疹や結節性紅斑,関節炎などがみられる例もあり,免疫能低下例では菌血症や敗血症,急性腎不全などを発症する.血液検査所見では,炎症反応高値(左方移動を伴う白血球増多,CRP高値)の他,好酸球増多,異型リンパ球出現,肝機能障害などを認める.糞便や生検組織培養にて菌を同定することで確定診断となる.本菌は他の腸内細菌属と異なり,発育至適温度は25~30℃で,35℃・24時間培養ではほとんど発育しない.本菌の感染が疑われる時は25℃・48時間培養が適している.以前は血清抗体価の測定も診断に有用であったが,現在は受託中止となっている.治療は経過観察が基本で,症例によってはニューキノロン系抗菌薬の経口投与を行う.セフェム系の感受性は低い.

(2)消化管病変と画像所見

本症はリンパ濾胞に富む回盲部に好発し,大腸病変は上行結腸に限局する 18.内視鏡所見は,回腸末端を中心に盲腸から上行結腸にかけてリンパ濾胞に一致してアフタ様びらん,タコイボ(隆起型)びらん,小潰瘍などを認める 11),19.特に回腸末端ではパイエル板に一致して粘膜不整,びらん,類円形ないし不整形潰瘍を認める(Figure 3).大腸病変より小腸病変が強い.病変部位や粘膜の凹凸隆起からCDやリンパ腫と鑑別を要する例もある.縦走潰瘍を呈することは少なく,敷石状外観に類似した所見を呈する例もあるが,CDと異なり隆起間粘膜の炎症は乏しく,隆起頂部にびらんを伴うことが多い 10),20.時に非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を認めることもあるが,本症では縦走潰瘍や輪状潰瘍は通常認めない 21.腹部CTでは回盲部のリンパ節腫大と回腸末端の壁肥厚が特徴である.

Figure 3 

エルシニア腸炎.

a:回腸末端にパイエル板を含め,浮腫,発赤,不整形潰瘍,びらんを認める.

b:Bauhin弁は発赤調で腫大しており,膿性分泌物付着を伴う.周囲の粘膜には配列に規則性のないアフタが散見される.

a.b.は別々の症例に認められた所見.

4.アメーバ性大腸炎

(1)疾患概要

アメーバ赤痢ともいわれ,赤痢アメーバ(Entamoeba histolyticaE. histolytica))による原虫感染症で,糞便中に排出されたE. histolyticaの囊子に汚染された水や食物の摂取によって感染する.近年は国内感染例が8割をしめ 22,従来から男性同性愛者での感染が知られていたが,最近では異性間の感染が頻度では上回っている 23.性行為感染症(sexually transmitted disease;STD)による感染者ではヒト免疫不全ウィルス,B型肝炎ウィルス,ヘルペスウィルス感染症などの合併例が少なくない 24.摂取された囊子は小腸下部で栄養型となり,大腸,特に盲腸で分裂,増殖する.その後大腸粘膜内に進入し,周辺組織を融解し潰瘍を形成する.肝臓へ進入し肝膿瘍を形成する例もある.赤痢アメーバ感染者で発症するのは10%以下で,多くは無症候性囊子保有者となる.確定診断は,糞便,腸粘液,病変部生検組織などで囊子や栄養型虫体を証明することである.最も迅速に診断する方法は,便汁や粘血便の直接鏡検で赤血球を取り込んだ虫体(栄養体)を確認することであるが,検体採取後1~2時間以内に直接鏡検を行う必要がある.生検組織での原虫検出率は80%程度であるが 25,HE染色にPAS染色を追加すると検出しやすい 26.アメーバ虫体は潰瘍底の白苔や粘液中に存在することが多く,生検時はこれらも含めて,潰瘍中心部から生検を行う.なお,腸管洗浄液による前処置で壊死物資が剝落すると生検診断が困難となるので要注意である 23),27.病理医に対しては検体提出時にアメーバ性大腸炎が疑われる旨を必ず伝えることも重要である.

症状は,腹痛,下痢,粘血便などであるが,無症状で検診の内視鏡で偶然発見される例もある.標準的な治療法はメトロニダゾール(MNZ)の経口投与であり治療効果が高い.JAID/JSC感染症治療ガイドラインではMNZ経口1回250mg・1日4回・10日間,または1回500mg・1日3回・10日間の投与が推奨されている 28.ただし,囊子体に対してはメトロニダゾールの効果が乏しく,再感染例や無症候病原体保有者にはパロモマイシン経口投与が有効である.

(2)消化管病変と画像所見

好発部位は盲腸および直腸である.内視鏡検査では周辺隆起の目立つタコイボ(隆起型)びらん・潰瘍が特徴的である(Figure 4).このタコイボ潰瘍は壊死物質と膿性粘液が付着し,潰瘍辺縁の粘膜は浮腫状で発赤し,易出血性で,いわゆる汚い白苔を付着する潰瘍である.病変が多発,融合し,増大すると不整形潰瘍や全周性潰瘍,打ち抜き様潰瘍,地図状潰瘍などを形成する 29.本症では,通常,潰瘍間の介在粘膜は血管透見良好であるが,直腸~S状結腸にびらん,潰瘍が多発し介在部粘膜の血管透見が不良となり,病変がびまん性・連続性にみえることがある.特に,重症例では全大腸に強い発赤やびらん,潰瘍をびまん性に認める.このような例ではUCとの鑑別が困難となる.しかし,本症では病変がびまん性にみえても介在粘膜のどこかに血管透見像を認めることや,タコイボ潰瘍の存在などがUCとの鑑別点となる.また本症では病変が通常skipしてみられるので,CDとの鑑別が問題となる場合もある.

Figure 4 

アメーバ性大腸炎.

a:大腸に不整なタコイボびらん様の潰瘍が不規則に多発している.介在粘膜には一部血管透見性を認める.

b:直腸下部には光沢を伴う粘膜とともに多発性の不整な潰瘍がみられる.

5.クラミジア直腸炎

(1)疾患概要

クラミジア・トラコマティス(Chlamydia trachomatis;CT)が直腸粘膜に感染して起こる性感染症であり,感染経路は,肛門性交による直腸粘膜からの感染や女性では感染膣分泌物が肛門部の汚染,子宮頸管・膣・尿道からリンパ行性での感染などが考えられている 23.CTは男性では尿道炎,前立腺炎,副睾丸炎,女性では子宮頸管炎,卵管炎,骨盤腹膜炎,肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis症候群)の原因となる.本症は女性に多く,排便時の出血,粘血便,肛門痛,肛門部掻痒感などの症状を認めるが,症状が軽微あるいは無症状で放置されている例も多い.検査法には分離培養法,抗原検出法,遺伝子診断法などがあり,肛門鏡下に直腸病変部を直接綿棒で擦過して検体を採取する 23

(2)消化管病変と画像所見

本症では下部直腸のリンパ濾胞の腫大をきたし,内視鏡では同部に半球状の小隆起が多発しており,“イクラ状粘膜”と表現される(Figure 5 30.隆起の密度は肛門に近いほど高い傾向がある 31.UCの初期病変としてリンパ濾胞過形成がみられることがあり,クラミジア直腸炎との鑑別を要することがある.またlymphoid follicular proctitis,直腸MALTリンパ腫,multiple lymphomatous polyposisなども鑑別疾患に挙げられる.本症では個々の隆起が比較的均一で境界が明瞭であるが,UCでは隆起のサイズが不揃いで融合傾向を示し,表面に微細なびらんを伴うことが多い 9),32.また背景粘膜に炎症を有することや病変部の粘膜が浮腫状であることも鑑別のポイントになる 33.しかし,隆起を伴わないCTによる直腸炎もあり 34,下部直腸に限局した隆起のない直腸炎では本例も考慮し,経過を追うことが大切である.

Figure 5 

クラミジア直腸炎.

a:下部直腸に比較的均一な大きさの半球状の小隆起が多発している.

b:インジゴカルミンを散布すると分かりやすくなる.

6.腸結核

(1)疾患概要

抗酸菌であるヒト型結核菌(Mycobacterium tuberculosisM. tuberculosis))の経口感染によって起こる.近年は減少傾向にあるものの,今なお年間約250例が腸結核と診断されている.腸管が初感染巣となる原発性(一次性)腸結核と肺結核から二次的に感染する二次性(続発性)腸結核があるが,近年の腸結核では活動性肺結核を伴うことが多く,原発性は全体の3割程度である 35.感染経路としては,管内性,血行性,リンパ行性,隣接臓器からの直接感染などがあり,管内性が最も多い 36.嚥下されたM. tuberculosisがパイエル板や孤立リンパ節上のM細胞から粘膜下のリンパ組織に侵入し,感染が起こる 37.症状は,腹痛,下痢,血便,腹部膨満感,発熱などで,長期にわたると体重減少,衰弱などをきたす.

腸結核の確定診断は,抗酸菌染色,培養,PCR法などで便や病変部組織内に結核菌を証明することである.しかし,原発性腸結核では糞便培養の結核菌検出率は6.4% 21,生検組織の結核菌陽性率は7~23.6%といずれも低い 21),35.生検組織培養の結核菌検出率は報告者により異なり,22.6~85.7%の幅がある 38.一方,腸粘膜の結核菌PCR検査の陽性率は38.6% 39,高感度液体培地による陽性率は44.7% 35であり,可能な限りこれらの検査も併用すべきといえる 40

また病変部腸壁や所属リンパ節の組織中に乾酪性肉芽腫を証明することも確定診断につながる.肉芽種は粘膜内に少なく,粘膜下層以深に多く存在するため,内視鏡時には潰瘍底部からの組織採取も重要である 27.乾酪性肉芽腫は腸結核に特徴的とされるが,治癒傾向の強い腸結核では結核菌も証明されず,非乾酪性肉芽腫しか認められないこともある.このような症例ではCDとの鑑別が問題となるが,非乾酪性肉芽腫でも大型で融合性であれば結核を強く疑う.腸結核病変部における乾酪性肉芽腫の検出率も10.9~60%と幅がある 35),38

結核の補助的診断法としては,ツベルクリン反応(ツ反)とインターフェロンγ遊離試験(interferon-γ release assay;IGRA)がある.IGRAは患者からの全血を結核菌特異的蛋白で刺激し,インターフェロンγの産生量に基づき診断を行う方法である.IGRAは過去のBCG接種や結核菌以外の抗酸菌感染の影響を受けず結核菌感染の診断法として高い感度と特異度を有するものであるが 40,免疫不全者などでは偽陰性になることがある 41),42

治療は肺結核の標準治療に準じて行う.初回治療は,イソニアジド(INH),リファンピシン(RFP),ピラジナミド,エタンブトールまたはストレプトマイシンの4剤療法を2カ月間行い,その後,INH+RFPの2剤療法を4カ月間施行する.

(2)消化管病変と画像所見

罹患範囲は小腸から大腸のいずれの部位も侵されるが,好発部位は回腸~上行結腸で,直腸やS状結腸に病変をきたすことは稀である.パイエル板の存在する腸間膜付着部反対側に病変を形成する傾向にあり,分布は区域性・非連続性である.特徴的な所見は,①萎縮瘢痕帯,②腸管変形(回盲弁の開大,右側結腸の短縮など),③多彩な潰瘍(輪状潰瘍,輪状に拡がる潰瘍,紅暈の強い不整形潰瘍)である 43.萎縮瘢痕帯は潰瘍が自然治癒を繰り返すことによって生じると考えられている.

小腸ではリンパの流れに沿って進展し,横軸方向の浅い潰瘍を形成する 44.一方,回盲部や結腸ではリンパ装置が不規則に存在するため,不整形潰瘍や地図状潰瘍をきたすことが多い 43.潰瘍の辺縁は不整で発赤も強い.様々な潰瘍が同時に存在するため潰瘍瘢痕は不規則となり,偽憩室などの変化をきたす.本症は自然軽快もあるため,活動期や治癒期の所見が混在する(Figure 6-a).つまり活動性潰瘍と多中心性の潰瘍瘢痕や萎縮瘢痕帯,炎症性ポリープが混在する 43

Figure 6 

腸結核.

a:上行結腸下部に多発する不整形の輪状潰瘍を認め,紅暈が強い.その深部には潰瘍瘢痕や縦走する潰瘍もみられる.

b:腸管の長軸方向に沿った浅い潰瘍や不整なびらんが多発している.潰瘍周囲の粘膜は発赤調で血管透見はみられない.

a.b.は別々の症例に認められた所見.

腸結核は炎症が非連続性であるためCDとの鑑別が重要である.腸結核では輪状潰瘍が特徴的で,潰瘍は白苔のはみ出しを認める(Figure 6-a).CDでは敷石様外観を伴った縦走潰瘍が特徴である.また,CDでは主病変から離れた部位(特に肛側)にアフタ様潰瘍や不整形潰瘍がskipして認められ,これらの病変は縦列する傾向を示す.回盲部の変形はいずれも起こるが,同部の粘膜は腸結核では萎縮調で,CDでは凹凸が著明である.回腸末端では,腸結核は腸間膜付着部反対側,CDでは腸間膜付着側に病変がみられる.また炎症性ポリープは腸結核ではCDに比して疎で小さい.アフタのみの症例で本症とCDとの鑑別が困難となる.アフタのみのCDは病変が全大腸に分布することが多いが,腸結核のアフタは右側結腸にとどまり,不整形で紅暈を伴うことが多い 10.これらの所見をふまえて鑑別を行う.時にびまん性の所見を認め,UCとの鑑別が問題となるが,腸結核では様々な形態の病変が多発しているのが特徴である(Figure 6-b).

7.CMV腸炎

(1)疾患概要

成人の多くは幼少期にCMVに不顕性感染し,その後CMVは骨髄などに常在し,正常免疫の状態では大きな障害を起こさず,生涯潜伏感染を維持するが,免疫能低下状態で再活性化が起こり,時に致命的なCMV感染症を発症する.再活性化の契機として,以前は化学療法施行中や臓器移植後などが多かったが,近年ステロイドに加え,免疫調節薬,カルシニューリン阻害薬,JAK阻害薬などの強力な免疫抑制作用を有する薬剤が登場し,特にUC患者でのCMV再感染の問題が注視されている.UCにおけるCMV感染は免疫低下以外の機序の関与もいわれており,腸炎そのものがCMV再活性化を生じやすい状態であり 45),46,TNF-αなどの炎症性サイトカインによりCMV再活性化が起こる 47.感染経路としては,産道感染,母乳などからの垂直感染と唾液,尿,輸血,性行為などによる接触感染がある.CMV感染症にはCMV胃腸炎,血管炎による皮膚紅斑,CMV肝炎や膵炎,CMV網膜炎,間質性肺炎などがあり,腸炎は網膜炎に次いで頻度が高い 48.CMV腸炎の症状としては,下痢,血便,腹痛,体重減少,発熱,関節痛などで,検査所見ではCRPは高値にもかかわらず,白血球減少や血小板減少を認め,乖離した炎症反応を示す.CMV腸炎の潰瘍形成の機序は,CMVが血管内皮細胞で活性化・増殖し,感染細胞が巨細胞化して血管内腔が狭小化し,虚血や血管炎が起こるとの説と,潰瘍に二次感染を起こすという説がある 48.CMV感染症の診断は,①末梢血の白血球中のCMV抗原を用いた感染細胞の検出(antigenemia法),②抗体検査を用いた抗CMV-IgM抗体陽性,抗CMV-IgG抗体のペア血清で4倍以上の上昇,③遺伝子増幅(polymerase chain reaction;PCR)法による血中CMV-DNAの証明,④血液や組織などの検体を用いた分離培養法,⑤病変部病理組織にて上皮や血管内皮にCMV核封入体を証明する方法やCMV免疫染色などがある 48),49.CMV腸炎は,消化器症状があり,内視鏡的に本症に特徴的な所見がみられ,病変部の生検でCMV感染が証明されることで診断に至る.治療においては,造血器ならびに腎臓の移植後のCMV感染症に対してはガイドラインが作成されているが,健常人に発生した場合は明確な指針などはない 50.UC再燃時にCMVの再活性化を認めた場合,CMVの治療を行わずに改善する例も多いが 51),52,CMVに対する治療適応について明確にされていない.基本的にはまずはUCの治療を行い,その治療でUC寛解が得られず,CMV抗原血症細胞の増加や組織で封入体を認める症例やCMV免疫組織染色が陽性の症例では抗CMV薬の投与を検討するのが妥当といえよう.

(2)消化管病変と画像所見

CMV感染症は食道から全大腸の全消化管にみられるが,病変好発部位は一定していないが,盲腸,S状結腸,直腸などとする報告が多い 53)~55.CMV腸炎は.CMV腸炎の最も特徴的な大腸内視鏡検査所見は打ち抜き潰瘍で,66~80%の割合で認められる(Figure 7-a 56),57.他にもアフタ様,類円形,地図状,不整形,縦走,輪状傾向,帯状,全周性,偽膜様などといった多彩な潰瘍性病変を呈する 55),58.UCの重症例でも打ち抜き潰瘍はみられるが,CMV感染症の典型的な打ち抜き潰瘍は境界明瞭な円形あるいは類円形であり,潰瘍間の介在粘膜は正常である.逆に重症UCで打ち抜き潰瘍が多発している場合はCMV腸炎合併を疑う(Figure 7-b 55),59.地図状潰瘍を呈する場合はUC,縦走潰瘍を呈する場合はCDとの鑑別が問題となる.また,大腸病変から診断がつかない場合,上部消化管の病変からCMV腸炎の診断がつくこともある.そのため,CMV腸炎の可能性を疑えば,大腸内視鏡検査で診断に至らない例では上部消化管内視鏡検査も考慮する.

Figure 7 

CMV腸炎.

a:S状結腸に打ち抜き潰瘍を認める.

b:CMV腸炎を合併したUC症例.S状結腸に境界明瞭な打ち抜き潰瘍が多発している.介在粘膜の血管透見はみられず,発赤,小白斑がびまん性に認め,UCの活動期の所見である.

a.b.は別々の症例に認められた所見.

8.C. difficile腸炎

(1)疾患概要

C. difficileは,従来はClostridium difficileと命名されていたが,細菌の表現型,化学分類学的・系統学的検討の結果,Clostridioides属が新設され,2016年にClostridioides difficileに名称変更となった.C. difficileは芽胞を形成することで腸管内でも抗菌薬に抵抗性を示し,菌交代現象により増殖し,C. difficile腸炎を発症する.C. difficile腸炎は抗菌薬使用後,数日から2,3週間経過して発症することが多いが,稀に抗菌薬投与がない症例にもみられる.C. difficile腸炎の発症のリスクには,胃切除術後,プロトンポンプ阻害剤などの投与による胃酸分泌低下,糖尿病,腎不全,IBDなどによる免疫能低下などがあり,これらの因子をもつ患者に抗菌薬を投与することでC. difficileが異常繁殖し,腸炎を発症する 60C. difficile腸炎の症状は,水性下痢が最も多く,発熱,腹痛などもみられ,症状により,①無症候性保菌者,②単純性抗菌薬起因性下痢症,③非偽膜形成性下痢症,④偽膜性大腸炎,⑤劇症偽膜性大腸炎に分類されている.C. difficile腸炎の診断は便中トキシンの検出,CDの共通抗原であるグルタミン酸脱水素酵素(GDH),内視鏡での偽膜の確認などで確定される.治療は誘因と考えられる抗菌薬を出来るだけ早急に中止する.標準治療薬はバンコマイシン(VCM)やメトロニダゾール(MNZ)経口投与であり,軽症~中等症ではMNZが推奨されているが,重症例ではVCMが治療の中心となる 60),61.再発例では1回目の再発なら初回と同様に加療するが,2回目以降では高容量VCMやVCMを一定期間投与した後に服薬と休薬を繰り返すパルス療法が有効である 62),63.近年認可されたフィダキソマイシンはVCMと比較して再発率が低い 64.このため,再発リスクの高い症例や難治例,重症例のC. difficile腸炎に対しては,フィダキソマイシンを第一選択として推奨するガイドラインもある 62),65.なお,欧米では難治のC. difficile腸炎に対し,糞便移植の有効性が報告されており 66,実施されている.

(2)消化管病変と画像所見

C. difficile腸炎の病変は遠位大腸,特に直腸に好発するが,全大腸や深部大腸のみに病変がみられる場合もある.内視鏡では偽膜が典型像であるが,アフタなど多彩な内視鏡像を呈する.C. difficile腸炎の内視鏡像として,稲松は①偽膜が全周性に均等に分布し,癒合や地図状の偽膜を認める偽膜性腸炎群,②粘膜の浮腫,発赤が主体で一部に点状の偽膜を認める軽症群,③偽膜を欠き,浮腫,発赤,粗造な粘膜,血管透見消失などを認める非特異的腸炎群に分類している 67.しかし偽膜がないと内視鏡所見のみからのC. difficile腸炎の想定は難しく(Figure 8),前記のようなリスク保持者で内視鏡で大腸にアフタや発赤などを認めた場合は本症を疑い,トキシン検査などを積極的に行うべきであろう.

Figure 8 

C. difficile腸炎.

a:直腸に配列に規則性のないアフタが散見している.偽膜はみられない.

b:C. difficile腸炎を合併したUC症例.血管透見性はみられず,小白斑が多発しており,UCの活動性を考えるが,内視鏡所見からはC. difficile腸炎の合併は診断できない.

a.b.は別々の症例に認められた所見.

Ⅲ おわりに

IBDと鑑別すべき主な腸管感染症について,疾患概要と内視鏡診断を中心に概説した.近年増加傾向を続けているIBDを診療する上で腸管感染症との鑑別は診断時,再燃時のいずれにおいても重要である.また内視鏡所見のみでは想定できない感染症もあるため,腸炎症状の内視鏡検査を行う際には病歴を詳細に聴取し,様々な鑑別疾患を予想できるか否かが重要である.その後の経過にも影響するため,IBDと腸管感染症を誤診することは絶対にあってはならない.

謝 辞

本原稿執筆にあたり,症例画像をお貸し頂いた製鉄記念八幡病院中村滋郎先生,琉球大学光学医療診療部金城徹先生,沖縄県立中部病院中村弘先生に深謝いたします.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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