日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
PTP誤飲による十二指腸穿孔に対しOver-The-Scope Clip(OTSC)を用いた内視鏡的治療が有用であった1例
杉山 智彦 手塚 隆一小木曽 富生田尻下 聡子奥野 充中山 千恵美小木曽 英介杉山 昭彦加藤 則廣冨田 栄一
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2021 年 63 巻 1 号 p. 38-44

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要旨

症例は88歳,男性.上腹部痛精査のため当院へ紹介された.腹部CT検査で十二指腸水平部の穿孔が疑われた.上部消化管内視鏡検査で,十二指腸水平部の腸管壁にPTPの刺入がみられた.内視鏡的にPTPを摘出したが,十二指腸壁に約15mm大の穿孔を認めた.治療は内視鏡的にOver-The-Scope Clip(OTSC)を用いて穿孔部の閉鎖術を施行した.その後,一時的に誤嚥性肺炎を併発したが経過良好で転院となった.PTP誤飲による十二指腸穿孔に対しOTSC治療が有用であった稀な症例を報告した.

Ⅰ 緒  言

包装シート(press-through package:PTP)は広く普及している薬剤包装形態であり,高齢者におけるPTPの誤飲は日常臨床で頻繁に遭遇する.また,誤飲されたPTPの多くは食道にとどまるが,幽門を通過し腸管穿孔を生じた症例も散見される.こうした消化管穿孔には従来は外科的手術が選択された報告が多く,内視鏡的治療が行われる症例は稀である.今回,われわれはPTP誤飲による十二指腸穿孔に対し,内視鏡的にOver-The-Scope Clip(以下OTSC)システム(Ovesco Endoscopy GmbH, Tüebingen, Germany)を用いて保存的に治癒した1例を経験したので文献的考察を加え報告する.

Ⅱ 症  例

症例:88歳,男性.

主訴:上腹部痛.

既往歴:大腸憩室出血(83歳),右鼠径ヘルニア(手術,86歳),脊柱管狭窄症.

家族歴:特記すべきことなし.

現病歴:前日より出現した上腹部痛が改善しなかったため近医を受診し,精査加療目的で当院へ紹介受診となった.

入院時現症:身長152.6cm,体重40.5kg,体温36.5℃,脈拍数86回/分,整.血圧90/62mmHg,SpO2 93%,腹部は平坦・硬で,心窩部に圧痛と筋性防御を認めた.腸雑音はやや減弱していた.

入院時血液検査所見(Table 1):炎症反応の上昇と腎機能障害がみられた.

Table 1 

入院時検査所見.

腹部CT検査所見(Figure 1):十二指腸水平部に壁肥厚があり,周囲から右前腎傍腔にかけてfree airを認めた.しかし十二指腸内に明らかな異物は指摘できなかった.

Figure 1 

腹部CT画像.

a:十二指腸水平部での壁肥厚を認めた(矢印).

b:後腹膜を中心にfree airを認めた(矢印).

c:十二指腸水平部で穿孔を疑う所見を認めた(矢印).

経過:十二指腸潰瘍などによる穿孔の可能性も鑑別診断として考えられた.手術適応に関して外科にも相談したところ,上部消化管穿孔であること,CTではfree airは認めるが腸液の後腹膜への漏出は目立たず穿孔面は大きくないと考えられたこと,高齢であり家族が外科手術に積極的ではなかったことなどの理由から,保存的治療を行う方針となった.胃管を留置し胃内の減圧を行いながら,絶食・補液・抗生剤(Sulbactam Sodium,Ampicillin Sodium)・proton pump inhibitor(PPI)での治療を開始した.徐々に発熱,腹痛は軽快傾向であったが,入院7日目に消化管造影検査を施行したところ,十二指腸水平部から造影剤の腸管外への漏出を認めた(Figure 2).入院8日目に上部消化管内視鏡検査を行い,十二指腸水平部の腸管壁にPTPの刺入を確認した(Figure 3-a).スコープ(Olympus Q260J)下で,把持鉗子(FG-47L-1,Olympus)を用いて慎重にPTPを摘出した.摘出されたPTPは,シドロシンOD錠4mgであり,薬剤1錠分の約15mm四方の大きさに切り分けられており,辺縁は鋭角となっていた.また,PTPの停滞していた部位に15mm大の粘膜損傷・穿孔面がみられた(Figure 3-b).穿孔部の大きさから縫縮クリップによる縫縮は困難と考えられたため,OTSCによる穿孔部閉鎖術を選択した.スコープ(Olympus Q260J)の先端に10mmのOTSC(traumatic clip)(Ovesco Endoscopy GmbH, Tüebingen, Germany)を装着し,内視鏡下で穿孔部を確認しながら,単純吸引で穿孔面の周囲粘膜を先端フード内に充分に引き込み,OTSCクリップをリリースし全層閉鎖した(Figure 4).閉鎖後の内視鏡観察では穿孔部は完全閉鎖されて,透視下で造影剤の明らかな腸管外への漏出は観察されなかった(Figure 5).入院9日目に発熱認め,一時的に誤嚥性肺炎を併発したが,抗生剤点滴治療で改善し,入院13日目から食事を開始した.その後も,発熱・炎症反応の再増悪は認めず,入院22日目の上部内視鏡検査ではOTSCの残存と穿孔部の縫縮を確認した.また,十二指腸の狭窄もなく,造影剤の腸管外への漏出もみられなかった.その後の経過は良好であり,入院36日目に他病院へ転院した.

Figure 2 

上部消化管造影像.

十二指腸水平部で腸管外へのリークを認めた.

Figure 3 

上部消化管内視鏡写真.

a:十二指腸水平部でPTPが壁に刺入していた.

b:15mm大の穿孔部位を認めた.

Figure 4 

上部消化管内視鏡写真(OTSC後).

OTSCにより穿孔部は完全閉鎖された(矢印).

Figure 5 

上部消化管造影像(OTSC後).

OTSC部位(矢印)で明らかな腸管外へのリークは認めなかった.

Ⅲ 考  察

高齢者のPTP誤飲は日常診療で遭遇する機会は少なくない.PTPは食道の生理的狭窄部位に停滞しやすく,誤飲されたPTPの90%以上が食道内にとどまる 1.一方で,幽門を通過した異物は症状をきたすことなく肛門から排泄されることが多く,穿孔や腹膜炎などの合併症を起こすのは1%以下と報告されている 2

しかし,自験例のように幽門輪を通過し消化管穿孔を生じた報告も散見されるため,医学中央雑誌で1990年~2019年まで「PTP」「穿孔」をキーワードに会議録を除き検索した.PTPにより消化管穿孔をきたした患者は74報告,78症例がみられた.穿孔部位は食道が11例,十二指腸が1例,小腸が46例(空腸8例,回腸38例),大腸が20例であり,小腸での穿孔症例が最も多かった.その理由は小腸の管腔径が細いことや経路が長いことが要因であると考えられる.また,小腸での穿孔部位は生理的狭窄部位である回腸末端や,開腹手術や放射線治療によって腸管の癒着など何らかの狭窄機転のある部位に多かった 3.一方,自験例のように十二指腸で穿孔をきたした報告は比較的稀であり,自験例以外では1例のみであった.

次に穿孔部位を食道,十二指腸,小腸,大腸に分けて検討した(Table 2).治療前の異物診断は,PTPと確定できなくても何らかの異物の可能性が疑われた症例は「有」とした.また,CTでのPTPの診断は,術前にPTPの認識ができていなくても術後に遡及的に確認ができた症例も「有」に含めた.平均年齢は78.2歳(49~97歳)と高齢者に多く,女性が51例と多かった.また,治療前に異物を確認できた症例は40例(50.6%)であり,38例(48.1%)はCTでPTPの存在を確認できた.治療法は,食道の穿孔症例は保存的治療を選択されることが多かったが,幽門輪を通過し消化管穿孔を生じた場合はすべての症例で外科手術が選択されていた.穿孔部位を内視鏡的に縫縮術を行って保存的な治療で改善した症例は自験例のみであった.

Table 2 

本邦でのPTPによる消化管穿孔の報告例(自験例も含む).

PTP誤飲の消化管穿孔では誤飲の認識は24%程度であり,PTPの誤飲の診断にはCTが有用であると報告されている 4)~7.PTPの材質としてはポリ塩化ビニル(polyvinylchloride;以下PVC),ポリプロピレン(polypropylene;以下PP),環状オレフィン・コポリマー(cycloolefin copolymer;以下COC)が一般的に用いられている.いずれの材質でも錠剤を含んだPTPは,錠剤がhigh density area,周囲の空気がlow density area,PTP周囲の腸液や便がややlow density areaと3層のdensityからなるtriple contrasted target signという特徴的なCT所見を呈するとされている 8.しかし,包装内に薬剤が存在しない場合は,PVC,PP,COCでそれぞれCT値が異なり,PVCでは比較的描出されやすいが,PP,COCでは描出されにくく指摘が困難である 7.そのため,CT検査を行っても術前にPTP誤飲による消化管穿孔が疑われたのは43%程度と報告されており 7,今回の検討でも50.6%と同程度の結果であり,半数例は手術後に初めてPTPの存在が確認されていた.自験例は,摘出したPTP内には薬剤はなく,患者が誤飲したのはシロドシンのPTPであり材質はPPであった.PTP誤飲のエピソードがなく,またCTでの描出が困難であったことから,入院時に異物による消化管穿孔を指摘できず,後日の上部内視鏡検査で初めてPTPの存在を確認することが可能であった.

PTPによる消化管穿孔の治療は,PTPを摘出し穿孔部を修復することが必要である.これまでの報告例では,小腸穿孔でのほとんどの症例で外科手術が選択されている.術前CTにてPTPの存在が確認されていても,これまでは内視鏡的摘出が困難であることも要因の一つとして考えられる.しかし,今後は小腸スコープの普及によって内視鏡的治療が選択される機会も増えることが予想される.

一方,自験例のようにPTPが十二指腸に存在する場合には内視鏡的に摘出することが可能である.しかし,川田らの報告例 7では穿孔部は縫縮クリップで治療されたが,第35病日の消化管造影検査で腸管外への造影剤の漏出を認めた.通常の縫縮クリップでは効果が不充分であり,最終的に外科手術を要した.

自験例では内視鏡的にPTPを摘出した後,同部位の巨大な穿孔部に対して縫縮クリップによる閉鎖は困難と判断し,OTSCクリップを選択した.

OTSCは消化管穿孔部の閉鎖やNOTES(natural orifice translumenal endoscopic surgery)への応用を目的に開発された内視鏡的全層縫合器であり,2011年に本邦でも保険適応となった 9.内視鏡検査・治療による消化管穿孔や出血,手術後の縫合不全や瘻孔の閉鎖に対し有用であるとされている 10.OTSCの臨床的改善率(OTSC手技成功後,1カ月以上原疾患の再燃を認めない完治率)は,出血,穿孔,瘻孔,縫合不全,全体の順にそれぞれ,平均91%(57~100%),87%(64~100%),50%(37~100%),77%(33~100%),73%(53~100%)と報告されている 9.自験例と同様に十二指腸穿孔例に対する治療報告もされている.また内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)検査後の十二指腸穿孔に対してOTSCの高い成功率が報告されている 11.OTSCに関しての全偶発症は約2%(11/566例),重篤な合併症は0.53%(3/566)とされ 9,比較的安全性の高い手技と考えられる.

自験例においては,約15mm大の穿孔面に対し単一のOTSCクリップで完全閉鎖が可能であった.Parodiらの報告によると,OTSCで閉鎖可能な粘膜欠損部の大きさは,上限の欠損径は30mmまでとされ,15mmまでの穿孔径は単一のOTSCクリップで完全閉鎖が可能とされており 12,自験例は適応症例と考えられる.

自験例は,腹部CTにて十二指腸水平部での消化管穿孔が疑われ,潰瘍穿孔を疑い保存的治療を行った.しかし,通常十二指腸水平部に潰瘍穿孔を生じることは稀であり 13),14,腫瘍性病変の可能性なども含め,来院時に原因検索を行うべきであったと考えられる.そのためには,内視鏡観察が可能な部位であれば早期に内視鏡検査を行うことが重要である.また,自験例では術後に一過性の誤嚥性肺炎の併発は認めたが,OTSCを用いた閉鎖術で十二指腸穿孔に対して確実な縫縮が施行され,これまでで食道穿孔以外で外科手術を回避できた初めての症例である.今後,上部消化管穿孔の患者に遭遇した際には,患者背景・基礎疾患・全身状態を考慮し,OTSCなどの選択を含めて低侵襲の治療方法を積極的に選択することも有用な治療法の一つと考えられた.

Ⅳ 結  語

PTP誤飲による十二指腸穿孔に対し,OTSCによる閉鎖術で保存的に軽快した1例を経験した.穿孔部の縫縮治療には,OTSCによる全層閉鎖術は低侵襲で確実性の高い極めて有用と考えられた.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

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