2021 年 63 巻 1 号 p. 45-51
症例は68歳の男性で,排便時出血を主訴に当院を受診した.大腸内視鏡検査では,上部直腸に表面の大部分が白苔で覆われた粗大結節状の隆起性病変を認め,一部に黒褐色調の色素沈着を伴っていた.生検では,メラニン色素を含む円形の異型細胞が充実性に増殖しており,S-100蛋白,HMB-45,Melan Aによる免疫組織化学染色でいずれも陽性所見を示したことから,悪性黒色腫と診断した.皮膚には悪性黒色腫を疑う色素沈着はなく,PET検査では直腸と胆嚢に集積を認めた.低位前方切除術と胆嚢摘出術を施行し,直腸原発悪性黒色腫と胆嚢転移の診断となった.
悪性黒色腫は,神経堤由来の細胞でメラニン産生細胞であるメラノサイトに由来する悪性腫瘍である.そのほとんどは皮膚に発生し,消化管原発の悪性黒色腫は比較的稀であり,直腸肛門部と食道に好発する 1).直腸原発の悪性黒色腫はこれまでにも報告されているが,歯状線を中心とした直腸肛門部からの発生がほとんどであり,それ以外の直腸から悪性黒色腫が発生することは非常に稀である.今回,われわれは上部直腸に原発巣を有し胆嚢と脳に転移を来した悪性黒色腫の1例を経験したので文献的考察を加え報告する.
症例:68歳,男性.
主訴:排便時出血.
既往歴:糖尿病,高血圧症,脂質異常症,睡眠時無呼吸症候群,高尿酸血症.
内服歴:シタグリプチン100mg/日,メトホルミン2,000mg/日,ピオグリタゾン15mg/日,アトルバスタチン5mg/日,アムロジピンベシル酸5mg/日,バルサルタン・ヒドロクロロチアジド配合錠(8mg・6.25mg)2錠/日,アスピリン100mg/日,フェブキソスタット20mg/日.
現病歴:201X年4月中旬頃から排便時出血を認めるため当院を受診した.
現症:身長176cm,体重92kg.血圧138/77mmHg,脈拍90/分,整.腹部に自発痛や圧痛なし.全身皮膚には色素沈着は認めない.
臨床検査所見:炎症反応の上昇(WBC 14,160/µl,CRP 2.82mg/dl),低蛋白/低アルブミン血症(TP 5.0g/dl,Alb 2.7g/dl),軽度の貧血(Hb 11.6g/dl)を認めた.腫瘍マーカーの上昇は認めなかった.
注腸X線造影所見:上部直腸に約30mm大の不整な隆起性病変を認めた(Figure 1).

注腸X線造影検査(右側臥位).
上部直腸に約30mm大の不整な隆起性病変を認める(矢印).
大腸内視鏡所見:肛門縁より約12cmの上部直腸(Ra)に,30mm大の粗大結節状の隆起性病変を認め,表面の大部分は白苔で覆われていた(Figure 2).Narrow band imaging(NBI)併用拡大観察では,表面の腺管構造は消失しており,口径不同で蛇行する形状不均一な微小血管を認めた(Figure 3).また,病変の周囲粘膜に黒色斑は認めず,盲腸~S状結腸にも異常所見は認めなかった.病変の一部に黒褐色調の色素沈着を認めたことから悪性黒色腫の可能性を考えたが,典型的な黒色調の色素沈着を呈していなかったことなどから,直腸癌(低分化腺癌)や悪性リンパ腫なども鑑別にあがったため,生検を施行した.

大腸内視鏡検査.
上部直腸に30mm大の粗大結節状の隆起性病変を認め,表面の大部分は白苔で覆われている.

NBI観察像.
表面の腺管構造は消失し,口径不同で蛇行する形状不均一な微小血管を認める.
生検の病理組織学的所見:褐色のメラニン色素を含む円形の異型細胞が充実性に増殖していた.免疫組織化学染色では,S-100蛋白,HMB-45,Melan Aのいずれも陽性であった.以上の結果より悪性黒色腫と診断した.
臨床経過:全身の皮膚には悪性黒色腫を疑う色素沈着はなく,PET検査では直腸と胆嚢にのみ集積を認めた(Figure 4).上腹部MRI検査では,胆嚢底部に20mm大の隆起性病変を認め,T1強調画像で高信号,T2強調画像で低信号を呈しており,悪性黒色腫に矛盾しない所見であった.消化管の中では直腸は好発部位であること,内視鏡所見やPET検査所見から直腸が原発巣で胆嚢に遠隔転移を来したと考えた.遠隔転移が単発であり完全切除が可能であると判断したため,6月中旬に低位前方切除術と胆嚢摘出術を施行した.

PET検査.
直腸(矢頭)と胆嚢(矢印)に異常集積を認める.
固定標本の肉眼的所見:直腸に33×30mm大の亜有茎性腫瘤を認めた.表面は分葉状の大小不同の結節であり,褐色調の部分もわずかに認めた.胆嚢では,内腔に突出する20×16mm大(黒色調),8×7mm大(褐色調)の腫瘤を認めた.
切除標本の病理組織学的所見:直腸の病変は,円形の核を有する円形細胞(腫瘍細胞)のびまん性増殖を認めた.核小体は明瞭で核の大小不同を認め,腫瘍細胞の細胞質に褐色の色素を伴っていた(Figure 5).深達度は粘膜下層までで,脈管侵襲および所属リンパ節転移は認めず,断端は陰性であった.免疫組織化学染色では,S-100蛋白,HMB-45,Melan Aのいずれも陽性であった(Figure 6).BRAF V600変異はなく,c-kit遺伝子変異も陰性であり,PD-L1は15%と低発現であった.胆嚢の病変も直腸と同様の所見であり,脈管侵襲はなく断端も陰性であった.以上の所見から,最終診断は直腸原発悪性黒色腫と胆嚢転移と考え,大腸癌取り扱い規約第9版に準じ,Ra,Type 0-Isp,33×30mm,malignant melanoma,pT1,pN0,pPM0,pDM0,pRM0,pM1a,pStage Ⅳaと診断した.

病理組織所見.
a:HE染色(ルーペ像).直腸の粘膜から粘膜下層に腫瘍を認める.
b:HE染色(強拡大像,400倍).円形の核を有する円形細胞(腫瘍細胞)のびまん性増殖を認める.核小体は明瞭で核の大小不同を認め,腫瘍細胞の細胞質に褐色の色素を伴っている.

免疫組織化学染色.
いずれも腫瘍細胞で陽性所見を示している.
a:S-100蛋白.
b:HMB-45.
c:Melan A.
術後経過:入院中(術後1カ月)に嘔気が持続するため,頭部MRIを撮像したところ,右後頭葉に転移を認め,他院にてγナイフ治療を施行した.免疫チェックポイント阻害薬での加療目的で7月下旬に別病院へ転院し,抗PD-1抗体(nivolumab)と抗CTLA-4抗体(ipilimumab)の併用療法が開始された.免疫関連有害事象(大腸炎)が生じたこと,新規脳転移を認めたことから(再度γナイフ施行),免疫チェックポイント阻害薬併用での継続は困難と考えられた.その後は,nivolumab単剤による維持療法を継続しており,術後1年3カ月経過した時点では,新規病変は認めていない.
悪性黒色腫は,BRAFなど様々な細胞増殖にかかわる遺伝子に変異を来し,メラノサイトが悪性化して発症する悪性腫瘍である 2).そのほとんどは皮膚に発生し,他には眼窩内などのメラノサイトが存在する臓器にも生じるが 2),消化管に原発巣を有することは比較的稀である.消化管での好発部位は直腸肛門部と食道で,その中でも直腸肛門部から発生することが多く 1),本邦における直腸肛門部悪性黒色腫の頻度は全悪性黒色腫の約0.2~5%と報告されている 3).直腸肛門部悪性黒色腫は歯状線近傍に好発するが,その理由として,直腸肛門部の基底層はメラニン色素細胞を含む重層扁平上皮を有していることがあげられている 3).同じ直腸原発でも,生理的にメラノサイトを有していない円柱上皮領域の直腸から発生した場合と歯状線近傍から発生した場合とでは腫瘍発生学的には異なる可能性がある.多淵ら 4)は,これまでの報告をもとに肛門縁より口側5cm以上に腫瘍下縁が存在するものは確実に円柱上皮から発生していると考え,同部位を真の直腸ないし結腸原発と定義し検討している.それによると,本邦報告の直腸肛門部悪性黒色腫の内,円柱上皮領域の直腸ないし結腸に原発しているものは4.9%であったとされている 4).本例も多淵ら 4)の定義に基づくと,肛門縁から口側12cmの上部直腸に主座があるため,円柱上皮領域の直腸から発生していると考えられる.円柱上皮領域の腸管から悪性黒色腫が発生する理由は定かではなく,メラノサイト異所性説 5)などがあげられている.他にも,皮膚などに原発巣があり,他臓器(腸管など)に転移した後に原発巣が免疫応答によって消退する可能性も考えられているが 6),7),これを証明するのは困難である.本例では他臓器に原発巣として考えられる病変がないため,上部直腸原発の悪性黒色腫とするのが妥当であると考えた.
医学中央雑誌(会議録を除く)にて「直腸」「悪性黒色腫」をkey wordに1983年から2019年12月の期間で検索を行ったところ,本邦における直腸悪性黒色腫は150例以上報告されている.その大部分は歯状線近傍や肛門管などから発生したもので,肛門縁から5cm以上口側の直腸に発生したのはわずか4例 4),8)~10)であった.同じ円柱上皮領域である結腸原発の悪性黒色腫についても,同様に「結腸」「悪性黒色腫」をkey wordに検索を行ったところ,本邦における結腸原発の悪性黒色腫は5例 11)~15)報告されている.これらの多淵ら 4)の定義に基づく円柱上皮領域の直腸ならびに結腸から発生した症例に自験例を加えた10例の臨床的特徴をTable 1に示す.肉眼所見としては,不整な結節状の隆起性病変が多く,潰瘍を伴っている場合や白苔に覆われている場合もあった.典型的な黒色調を呈しているのは1例のみで,病変の一部に黒褐色調の色調変化を認めるのは4例であった.術前正診率は50%と高くはなかったが,直腸肛門部悪性黒色腫全体での術前正診率よりは良好であった 16).直腸肛門部では痔核と誤診したり,直腸では低分化腺癌と鑑別になることがあるためと考えられる.色調については,全例が黒色調を呈するわけではなく,無~低色素性病変の割合は6.6~26.4% 8),16),17)と報告されており,診断に苦慮する場合がある.また,悪性黒色腫においてNBI観察や拡大観察を行った報告は少ないが,酒見ら 18)は,NBI拡大観察にて口径不同で蛇行するループ状の血管を認めたとしている.一方,高原ら 19)は,corkscrew様の異常血管を認めたとしているが,腫瘍増生による血管構造の変化であり,上皮性腫瘍と鑑別は困難と述べている.また,腫瘍の進展により上皮が脱落すれば表面微細構造は消失するが,腫瘍辺縁の立ち上がり部分は非腫瘍性粘膜に覆われていることがあり上皮性腫瘍との鑑別に重要であるとされている 20).

円柱上皮領域の直腸ならびに結腸原発悪性黒色腫の本邦報告例.
悪性黒色腫は小病変であっても転移しやすい腫瘍であり,肺,肝,脳に多いとされている 21).脳転移に関しては,悪性黒色腫の剖検例の内,39%と高頻度に認めており,悪性黒色腫に対して治療を行った患者の6%に脳転移の症状(嘔気,頭痛,片麻痺など)が生じたとされている 21).本例においては,嘔気を契機に術後1カ月で脳転移が判明したが,術前に脳転移が存在した可能性も否定できない.脳転移の頻度を考えると,術前に頭部画像検査を施行するべきであったと思われる.胆嚢転移に関しては,悪性黒色腫の剖検例で15%に胆嚢転移を認めたり 21),転移臓器側からみて転移性胆嚢腫瘍の27.2%を悪性黒色腫が占めていると報告されている 22).胆嚢への転移形式としては,血行性,リンパ行性,腹膜播種性が考えられている.血行性では胆嚢粘膜側に主病変を認め,リンパ行性では間質への腫瘍細胞浸潤が特徴であり,腹膜播種性では漿膜側に主病変を認めるとされている 23).本例では,主病変を粘膜層に認めること,後に脳転移を認めたことからも血行性に胆嚢に転移したと考えた.消化管への転移も稀ではなく,悪性黒色腫の剖検例では小腸,胃,結腸の順に頻度が多く 21),直腸では頻度が少ないとされている 24).消化管に悪性黒色腫を認めた場合は,皮膚などに原発巣がないかを検索し転移性悪性黒色腫を除外することが重要である.消化管における転移性悪性黒色腫の内視鏡所見の報告は多くないが,黒色調の平坦な斑状~類円形病変とする報告が散見される 25),26).本例でも胆嚢原発悪性黒色腫が直腸へ転移した可能性を除外する必要がある.Heathら 27)による胆嚢原発悪性黒色腫の診断基準では,1)孤発性で粘膜表面から発生していること,2)乳頭状もしくはポリープ状であること,3)junctional activityを認めるもしくは他の原発巣の可能性を除外すること(皮膚や眼など),とされている.本例は直腸と胆嚢病変にjunctional activityを認めないが,腫瘍増殖によってjunctional activityが消失する可能性もあるため,junctional activityを認めない場合でも原発巣の可能性を否定できないとされている 27).本例では,胆嚢病変は多発しており,他臓器(直腸)に原発巣となる病変を認めることからも,Heathら 27)の基準に該当せず,胆嚢病変は原発巣とは言い難い.また,PET検査でも直腸と胆嚢以外に集積はなく,直腸病変も典型的な転移性悪性黒色腫の所見ではなく,直腸病変は原発巣であると判断した.
切除不能悪性黒色腫に対する治療としては,分子標的薬あるいは免疫チェックポイント阻害薬が推奨されている 28).本例のようにBRAF変異がない場合は,免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体,抗CTLA-4抗体)を単剤もしくは併用療法で使用したり,直腸肛門部悪性黒色腫にnivolumabを使用し腫瘍の進行抑制効果を認めた報告もある 29).直腸肛門部悪性黒色腫は比較的稀な疾患であるが,悪性度が高く転移しやすいため,適切な診断と治療が必要である.今後,多数例を集積することで円柱上皮領域の直腸から発生した悪性黒色腫の発生機序や生物学的動態について明らかになることが期待される.
胆嚢転移を認めた直腸原発悪性黒色腫の1例を経験した.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし