日本消化器内視鏡学会雑誌
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ISSN-L : 0387-1207
ガイドライン
クローン病小腸狭窄に対する内視鏡的バルーン拡張術ガイドライン(小腸内視鏡診療ガイドライン追補)
山本 博徳矢野 智則荒木 昭博江﨑 幹宏大塚 和朗大宮 直木岡 志郎仲瀬 裕志馬場 重樹平井 郁仁細江 直樹松田 知己三井 啓吾渡辺 憲治緒方 晴彦勝木 伸一松本 主之藤城 光弘藤本 一眞井上 晴洋
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2021 年 63 巻 10 号 p. 2253-2275

詳細
要旨

日本消化器内視鏡学会は,ガイドライン委員会の下部組織としてワーキング委員会を設立し,新たに科学的な手法で作成した基本的な指針として,「クローン病小腸狭窄に対する内視鏡的バルーン拡張術ガイドライン」を「小腸内視鏡診療ガイドライン」の追補として作成した.バルーン小腸内視鏡の登場により深部小腸での内視鏡治療が可能となり,外科的手術に代わる低侵襲治療として,クローン病小腸狭窄に対する内視鏡的バルーン拡張術が近年普及しつつある.本ガイドラインでは,その標準的な方法について,バルーン内視鏡の挿入経路とそれに応じた腸管前処置,適応判断,偶発症,有効性,目標拡張径,拡張時間,狭窄多発例に対する対応,併用療法や代替治療の現状と,今後に残された課題をまとめた.

はじめに

クローン病は,消化管壁全層にわたる炎症を来し,非連続性に深い潰瘍を生じる慢性炎症性腸疾患である.再燃・寛解を繰り返すうちに消化管狭窄や瘻孔を生じ,消化管穿孔を来すこともある.高度の消化管狭窄が生じた場合は,腸閉塞の原因になり,経口摂取が困難になる.

従来は,小腸狭窄部位への内視鏡による到達が困難で,外科的に腸管切除や狭窄形成術を施行されることが多かった.しかし,外科的に治療してもクローン病が完治するわけではなく,再狭窄を来して外科的切除を繰り返せば短腸症候群のリスクが高くなる.特に,複数の狭窄が広範囲の小腸に分布している場合は切除範囲も広くなり,短腸症候群となるリスクがより高くなる.

バルーン小腸内視鏡(balloon assisted enteroscopy:BAE)が登場したことにより,深部小腸への到達だけでなく,内視鏡的バルーン拡張術(endoscopic balloon dilation:EBD)を含む内視鏡的治療が可能になった.EBDは,外科的手術に代わる低侵襲治療として近年普及しつつあるが,標準的な方法は確立されていない.

日本消化器内視鏡学会のガイドライン委員会は,2015年に「小腸内視鏡診療ガイドライン」 1を作成したが,EBDに関しては適応となる狭窄について触れたのみで,具体的な手技の方法については述べていなかった.そこでこの度,新たな知見を加えて,「クローン病小腸狭窄に対する内視鏡的バルーン拡張術ガイドライン」を「小腸内視鏡診療ガイドライン」の追補版として作成することとなった.なお,電動式挿入装置付の小腸内視鏡(PowerSpiral®小腸鏡;オリンパス株式会社)が2021年に本邦において認可されたが,小腸狭窄や潰瘍を有するクローン病患者に対しては,現時点でその有効性・安全性に十分なエビデンスがほとんど報告されていないため,本ガイドラインの対象外とした.

今回のガイドライン作成にあたっては,「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2017」 2に従い,evidence based medicineに基づいたガイドライン作成を行った(Table 1).執筆の形式はclinical question(CQ)形式とした.なお,この領域におけるレベルの高いエビデンスは少なく,専門家のコンセンサスを重視せざるを得なかったが,本ガイドラインがクローン病小腸狭窄に対する内視鏡診療での有用な指針となることを期待する.

Table 1 

推奨の強さとエビデンスレベル.

本ガイドラインの作成手順

1)委員

日本消化器内視鏡学会より,ガイドライン作成委員として消化管内視鏡医13名が作成を委嘱され,作成を行った.そして,委員長を加えた作成委員会でその内容を十分に吟味し最終案を確定した.また評価委員として,消化管内視鏡医3名が評価を担当した(Table 2).

Table 2 

クローン病小腸狭窄に対する内視鏡的バルーン拡張術ガイドライン(小腸内視鏡診療ガイドライン追補)構成メンバー.

2)エビデンスレベル,推奨度,ステートメント

診療の方向を左右する重要な適応,除外,手技,偶発症,併用療法,代替手段に対する疑問を13項目設定した.下記検索式を用いてPubMedにて2000年1月から2020年1月までの期間で,2020年2月に文献検索を行った.

(English[Language])AND(“2000/01/01”[Date - Publication]:“2020/01/31”[Date - Publication])AND(Crohn’s disease)AND((endoscopic balloon dilation)OR(endoscopic balloon dilatation)OR(endoscopic treatment)OR(endoscopic therapy)OR(endoscopic management))AND((stenosis)OR(stricture)OR(strictures)OR(structuring)OR(narrowing))

該当した610本の論文からtitleの内容で160本を選出し,不足あるいは検索漏れおよび検索期間外の文献に対してはハンドサーチにより適宜追加した.検索した文献を評価して重要な文献を採用し必要なエキスパートオピニオンを加え,各設問とそれに対するステートメントを含めた解説文を作成した.そして,作成委員は各文献のエビデンスレベルおよびステートメントに対するMinds推奨の推奨グレードを用いた推奨度を設定した(Table 1).

作成されたステートメントと解説文について,エビデンスレベルに応じて下記の3種類に分類した.

1.Background question(BQ):既に結論が明らかなもの,過去のガイドラインにおいてほぼ合意が得られているもの

2.Clinical question(CQ):診療の方向を左右する疑問かつ網羅的文献検索によって推奨と根拠水準を決定できるもの

3.Future research question(FRQ):現在の網羅的文献検索によっても,推奨と根拠水準が決定できないもの(エビデンスが存在しない.今後の研究課題)

各ステートメント案に対して,作成委員により修正Delphi法による投票を行った.修正Delphi法は,1-3:非合意,4-6:不満,7-9:合意,として7以上のものをステートメントとして採用し,CQについてはリコメンデーションとして記載した.完成したガイドライン案は,評価委員会の評価を受けたうえで修正を加えた後学会会員に公開され,パブリックコメントを求めたうえで,その結果に関する議論を経て本ガイドラインが完成した.

3)対象患者

本ガイドラインが取り扱う診療対象は,クローン病の小腸狭窄に対して内視鏡的バルーン拡張術を受ける患者であり,また,利用対象者は,EBDを施行する臨床医である.ただし,ガイドラインとはあくまで標準的な指針であり,個々の患者の意志,年齢,併存疾患,社会的状況などにより慎重に対応する必要があることを明記しておく.

本論文内容に関連する著者の利益相反

本ガイドライン作成委員,評価委員の利益相反に関して各委員には下記の内容で申告を求めた.本ガイドラインに関係し,委員個人として何らかの報酬を得た企業・団体について:報酬(100万円以上),株式の利益(100万円以上,あるいは5%以上),特許使用料(100万円以上),講演料等(50万円以上),原稿料(50万円以上),研究費,助成金(100万円以上),奨学(奨励)寄付など(100万円以上),企業などが提供する寄附講座(100万円以上),研究とは直接無関係なものの提供(5万円以上).

山本博徳(講演料:富士フイルム,富士フイルムメディカル,寄付講座:富士フイルム,富士フイルムメディカル),矢野智則(寄付講座:富士フイルム,富士フイルムメディカル),江﨑幹宏(講演料:アッヴィ,田辺三菱製薬,EAファーマ,ヤンセンファーマ,武田薬品工業,奨学寄付:アッヴィ,田辺三菱製薬,EAファーマ),大宮直木(講演料:EAファーマ,研究費・助成金:日本消化器病学会,日本消化管学会,総務省,日本化薬,EAファーマ,アッヴィ,マイランEPD,第一三共,味の素製薬,大川情報通信基金,鈴木謙三記念医科学応用研究財団,宮崎大学,磁気健康科学研究振興財団,奨学寄付:日本化薬,武田薬品工業,ブリストル マイヤーズ スクイブ,日本イーライリリー,田辺三菱製薬),仲瀬裕志(講演料:田辺三菱製薬,ヤンセンファーマ,武田薬品工業,アッヴィ,ファイザー,第一三共,セルジーン,JIMRO,キッセイ薬品工業,EAファーマ,持田製薬,日本化薬,杏林製薬,研究費・助成金:HOYA,田辺三菱製薬,持田製薬,アッヴィ,奨学寄付:アッヴィ,日本化薬,田辺三菱製薬,武田薬品工業,バイエル薬品,EAファーマ,エーザイ,大塚製薬),馬場重樹(講演料:ヤンセンファーマ),平井郁仁(講演料:アッヴィ,EAファーマ,武田薬品工業,田辺三菱製薬,持田製薬,ヤンセンファーマ,研究費・助成金:日本イーライリリー,ヤンセンファーマ,奨学寄付:アッヴィ,あゆみ製薬,旭化成メディカル,EAファーマ,エーザイ,大塚製薬,キッセイ薬品工業,持田製薬,寄付講座:アッヴィ,EAファーマ,JIMRO,杏林製薬,ゼリア新薬工業,田辺三菱製薬),細江直樹(研究費・助成金:オリンパス,コヴィディエンジャパン),渡辺憲治(講演料:アッヴィ,EAファーマ,キッセイ薬品工業,ファイザー,武田薬品工業,田辺三菱製薬,杏林製薬,持田製薬,研究費・助成金:EAファーマ,武田薬品工業,奨学寄付:アッヴィ,EAファーマ,田辺三菱製薬,寄付講座:アッヴィ,EAファーマ,田辺三菱製薬,杏林製薬,ゼリア新薬工業,JIMRO,大塚製薬工場,旭化成メディカル,持田製薬),松本主之(講演料:田辺三菱製薬,アッヴィ,EAファーマ,ヤンセンファーマ,杏林製薬,武田薬品工業,日本化薬,ファイザー,奨学寄付:田辺三菱製薬,日本化薬),緒方晴彦(講演料:武田薬品工業,奨学寄付:杏林製薬,田辺三菱製薬,アッヴィ,持田製薬),藤城光弘(講演料:オリンパス,富士フイルム,研究費・助成金:オリンパス,富士フイルム),藤本一眞(奨学寄付:第一三共)

資金

本ガイドライン作成に関係した費用は,日本消化器内視鏡学会より提供された.

クローン病小腸狭窄に対する内視鏡的バルーン拡張術ガイドライン

<総 論>

1)EBDの意義

EBDにより狭窄症状が改善し,その後仮に再狭窄を来してEBDを繰り返し行ったとしても外科手術を回避できれば短腸症候群にはならず,クローン病の長期予後において,その臨床的意義は非常に大きい.

小腸狭窄による腸内容の停滞が腸内細菌叢の異常増殖につながり 1,再燃の原因となることも考えられる 2が,EBDにより腸内容の停滞を改善できれば,再燃の抑制につながる可能性も期待される.

2)BAE挿入経路

BAEは経口でも経肛門でも挿入可能であるが,狭窄部位によって,アプローチがより容易な挿入経路を選択する.ただし,クローン病による小腸狭窄の多くは回腸に存在するため,経肛門を選択する場合が多い.

しかし,癒着や腸管変形などで経肛門挿入では狭窄部到達が困難な場合がある.一方,経口挿入であれば大腸を経由しないうえ,腸管変形が少なく,目的の狭窄部まで容易に到達できる場合もあり,過去の検査結果を踏まえて選択する.

広範囲の小腸に複数の狭窄を有し,一方向からのアプローチだけではすべての狭窄のEBDができない場合には,両経路の挿入で全狭窄に対してEBDを試みる.

3)腸管前処置

経肛門挿入だけでなく,経口挿入でも狭窄部の口側には食残渣が残りやすい.前日もしくは前々日から,経口摂取は流動食や成分栄養剤のみに制限し,徐放性の5-アミノサリチル酸(5-ASA製剤)など残留することの多い内服薬を休薬しておく.

経肛門挿入の腸管前処置として,腸管洗浄剤を治療当日の朝に全量内服すると,狭窄症状の出現が危惧される.腸管洗浄剤は半量ずつ前日と当日に分けるなど,ゆっくり時間をかけて服用することが望ましい 1.腹満感の訴えがあれば服用を中止する.高度狭窄の場合には高圧浣腸のみでの腸管前処置も検討する.

経肛門挿入の腸管前処置として内服した腸管洗浄剤を小腸に溜めた状態でCTもしくはMRIを撮影してCT/MR enterographyとすることも可能 2で,病変分布の把握,瘻孔や膿瘍の有無確認の一助となる.

4)偶発症

クローン病の小腸狭窄に対するEBDの成績をまとめたシステマティックレビューでは,穿孔,高度出血,および外科手術を要する主要な偶発症の発症率は,患者数ベースでは3.21%,手技数ベースでは1.82%である 1.最も回避すべき偶発症である穿孔は,多くの観察試験で0~10%とされている 2),3.大腸内視鏡による観察やEBDにおける穿孔のリスク因子としては,ステロイド治療が挙げられているが 4,小腸狭窄に対するEBDのリスク因子か否かは不明である.しかしながら,EBDの適応として,深い潰瘍や瘻孔性合併症がないことが挙げられており 5),6,施行前の狭窄病変部の活動性評価は重要である.また,穿孔を防止するためには愛護的な操作と拡張前期の加圧を緩徐に行うべきとされている 7),8.高度の狭窄に対しては,初回は小さめのバルーンサイズを選択するなどの工夫も必要である.

高度出血の頻度は少なく,0~3.2%である 3),5),9)~15.ただし,EBDは出血高リスクの手技であることは間違いなく,抗凝固薬併用の有無は事前に確認し,ガイドライン 16),17に沿った対応が必要である.一方,外科的治療を必要とした症例は報告されておらず,通常は保存的な治療で回復する.

また,経口で行うBAEでは約0.2%に膵炎を認めることが知られており 18,手技が長時間に及ぶ可能性がある経口のEBDの場合には注意を要する.

5)有効性の定義

有効性の定義に関して,エビデンスに基づいた質の高い論文は認められないのが現状である.既報によると,短期的有効に関しては,スコープが狭窄部を通過可能,あるいは狭窄に伴う腹部症状の消失(腹痛消失やEBD後の食事摂取可など)で定義した場合の短期的有効率は36~100%と報告されている 1)~17.長期的有効の定義に関しては,長期の定義そのものが論文によって異なっており(平均観察期間6カ月~10年),手術回避,再EBD回避,あるいは腸管狭窄に伴う腹部症状の再発を認めないもの,など多岐にわたる.再EBD回避率を指標とした場合(重複あり)の長期的有効率は46~93%と報告されている 1)~17.このうち,長期的有効性の指標として最も重要と考えられるEBD後の外科手術移行率については,Bettenworthら 17の検討ではEBD後12カ月,24カ月の累積手術率はそれぞれ30.1%,42.9%,Morarら 18のメタ解析では5年以内の累積手術率は75%と報告されている.一方,305例を対象とした本邦における多施設後ろ向き研究 19では,EBD後1,5,10年での手術移行率は順に26.0,45.6,55.7%であり,欧米と比較して本邦ではEBDによる比較的良好な外科手術回避効果が得られている.

外科手術を必要とする状況については,ⅰ)EBDの適応外病変である場合,ⅱ)EBDを考慮・実施するも十分な治療効果が得られない場合,の2つが考えられる.このうち,前者に関してはEBDの適応/除外について後述されるため,ここでは後者について記載する.クローン病の腸管狭窄に対するEBDの長期成績を前向きに検討した報告は3報 1),6),8)存在するが,外科手術への移行基準は「繰り返しのEBDでも腸閉塞症状の制御あるいは改善が認められなかった場合」と記載されるのみで,客観的な手術への移行基準は示されていない.また,多くの後ろ向き研究では,腹部症状の持続あるいは再発,手技的失敗,口側小腸の新たな狭窄病変の存在,狭窄病変口側の瘻孔,患者の希望,医師のアドバイスなど,様々であった.今後,一定の外科治療への移行基準を設定したうえでEBDの長期的有効性を検討していく必要がある.

<各 論>

BQ1:炎症や潰瘍を伴う狭窄に対してEBDは行ってよいか?

Statement:炎症や潰瘍を伴う狭窄に対するEBDは禁忌ではない.しかし,深い潰瘍は避けるべきである.

解説:

1991年から2013年までの33研究,1,463例3,213回のメタ解析では,狭窄部の炎症の有無は長期的予後に関係しないことが示されている 1.また,吻合部狭窄では,内視鏡的活動性は予後と関係しない 2

一方,13研究347例のメタ解析では,内視鏡的活動性があると技術的にEBDが難しい傾向があるとされている 3.潰瘍の有無により成功率や穿孔率に差がなかったという単施設からの報告もあるが 4,米国の単施設273例の報告では内視鏡的活動性があると再EBDや手術を要する可能性が高い傾向があった 5

なお,2016年に発表された126人の専門家へのアンケートでは,活動性炎症のあるものもEBD対象に含めるとした内科医は35.7%のみであった 6.2016年のEuropean Crohn’s and Colitis Organisation(ECCO)のテクニカルレビューでは,炎症や潰瘍の存在はEBDの禁忌とはならないとしている.一方,潰瘍がないことは予後良好因子であると述べている 7.しかし,引用している報告 8の対象の多くは吻合部狭窄であり,外科的吻合と無関係なクローン病そのものによる狭窄は2例しか含まれていないため根拠としては不十分である.本邦では,EBDの適応として深い潰瘍がないことを条件とすることが多く 9,厚生労働省の「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班による前向き多施設共同研究でも同様であった 10

以上より,潰瘍があることは必ずしも禁忌とはならず,EBDの適応は個々の状況に応じて検討するべきである.ただし,深い潰瘍がある場合は穿孔のリスクが高いことが考えられ,避けるべきである.

BQ2:長い狭窄に対してEBDは行ってよいか?

Statement:狭窄が長いほど,拡張の治療成績は悪い.狭窄長4ないし5cm以下の病変がよい適応と考えられる.

解説:

2019年の英国のガイドラインでは,回腸・結腸吻合部に一致した長さ4cm以下の狭窄に対してEBDを推奨している 1.また,内視鏡が到達すれば回腸狭窄はEBD可能であるとしている.これは,24研究1,163例のメタ解析 2に基づいている.特に,5研究167例によるメタ解析では4cm以下と4cmを超える狭窄の間で予後に差があった.2016年のECCOのコンセンサス 3では,狭窄長5cmがEBDによる拡張成功のしきい値であるとしている.1991年から2013年までの33研究,1,463例3,213回のメタ解析では,98.6%が回腸,62%が吻合部狭窄であり,狭窄長5cm以下であれば外科手術を回避できるとしている 4.また,2016年に発表された126人の専門家へのアンケート調査では,EBDの対象となる最大狭窄長は4.5±1.7cmであった 5.2017年7月までのシステマティックレビューに基づく欧米の15人の消化器医と放射線科医のコンセンサスによれば,狭窄長5cmまでがEBDの適応とされている 6

EBDと手術の比較では,手術の合併症率が高いものの,より長い狭窄に有用であることが予測される.EBD 117例と回盲部切除258例の比較では,EBD群で施行後の合併症は少なかったが,その後の手術率は高かった.長さ5cm以下の狭窄を対象病変としたEBD 46例と回盲部切除40例の比較でも同様の結果が得られている 7.また,回腸ないし回盲弁狭窄39例における狭窄長はEBD例で平均2.5(1~25)cm,手術必要例で7.5(1~25)cmであったことも示されている 8

狭窄長が長いほどEBDが技術的に難しいことが予測される.しかし,本邦多施設での95例の解析では,狭窄長はEBDの成否の要因とはならなかった 9.一方,長さ4cm以上の狭窄に対する39回のEBD(7cm以上のものが4.3%)を含むイスラエルのコホート研究では,EBD不成功例は 4cm以上の狭窄例で多かった 10.また,狭窄長 5cm以下を適応として施行した本邦単施設の65例においては,3cm以上の狭窄例で有意に不成功が多かった 11.スペインの多施設研究では,炎症性腸疾患187例における400回のEBD(回腸74例,大腸99例,吻合部227例)において狭窄長2cm未満の174例と狭窄長2cm以上の131例を比較すると,前者がより治療効果が維持されていた.なお,この研究では最長12cmの狭窄に対してEBDが施行されている 12

狭窄長が長いほど手術回避は困難になる.本邦32施設の小腸狭窄(回盲弁狭窄を含む)に対するEBD 305例の解析では,狭窄長2cm未満(215例)よりも2cm以上(90例)の狭窄例で手術回避率が低く,2cm以上の狭窄は手術に至る独立した危険因子であることが示された.しかし,EBD成功例を対象とした場合は2群間で手術率やEBDの施行間隔に差はなかった 13.一方,前述のイスラエルのコホートでは4cm以上の狭窄例で4cm未満の狭窄例よりも手術に至る期間が短かった 10.英国単施設151回のEBDの報告では,手術に至る有意な要因は抽出されなかったが, 4cmを超える狭窄長では再拡張を要することが多かった 14

一般にEBDの適応は狭窄長5cm以下の狭窄とされている.イタリアの37例の単施設研究では,平均3.4(2~6)cmの狭窄に対してEBDが施行されていた 15.一方,米国の273例の単施設研究でも対象となった狭窄長は1~5cmである 16.本邦でもEBDの適応を狭窄長5cm以下とすることが多い 17.また,台湾の多施設研究(26例)の解析では狭窄長は2.3±1.5cmとなっている 18

FRQ1:膿瘍や瘻孔を伴う狭窄はEBDを行ってよいか?

Statement:膿瘍や瘻孔を伴う狭窄はEBDの対象としない.

解説:

本邦では,膿瘍や瘻孔を伴わないことをEBDの適応としていることが多く 1,厚生労働省難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班(IBD班)による前向き多施設共同研究でも同様であった 2.Sunadaらは,内瘻を伴う狭窄は11例中8例が手術に至り,内瘻を伴わない例よりも有意に予後不良であったことを報告している 3.また,狭窄部の5cm以内の瘻孔は偶発症の危険因子であるとの意見がある 4.2016年のECCOのコンセンサスでは,膿瘍や瘻孔の存在をEBDの禁忌としている 5.最近の総説でもEBDの適応として膿瘍や瘻孔を伴わないことが挙げられている 6),7.なお,イスラエルの単施設における64例138回のEBDでは,3例で近傍に瘻孔はあったが,穿孔なく手技は成功している 8.また,膿瘍合併例でも絶食・抗菌薬により膿瘍消失後はEBDが有効である可能性がある 9

FRQ2:他にEBDの適応から除外すべき狭窄は?

Statement:癒着を伴う強い屈曲を伴う狭窄は,狭窄部だけでなく,狭窄の前後で穿孔が起きるリスクに注意する.

解説:

EBDの適応として,多くの研究が強い屈曲を伴う狭窄を適応外としている 1)~6.また,IBD班で行われたEBDの有効性についての全国の前向き試験では,強い屈曲と強い癒着を適応外としていた 7

海外からの報告では,狭窄部にスコープが到達しないことの他に,屈曲が強くバルーンカテーテルが通過しないために不成功に終わったものがある 8.また,大腸を含めてEBDの適応除外として急角度の屈曲が挙げられている 9.英国の多施設の報告では,偶発症を避けるため,狭窄の部位,程度,屈曲,瘻孔や膿瘍の有無を考慮して適応を決定すべきとされている 10.一方,138例の検討では,屈曲がEBDの成功率や合併症発生に影響を与えなかったとされている.ただし,この検討には小腸のEBDが31例しか含まれていない 11

EBDに関する総説でも,急角度の屈曲は適応外とされている 12.海外でもEBDの適応は屈曲のない狭窄であり,屈曲したものは回避すべきとしている 13)~18.さらに,屈曲のない狭窄はEBD成功の予測因子であり,癒着は偶発症の危険因子とされている 19

EBD用のバルーンは主として5cm長であり拡張時には硬度が増す.このため,癒着と強い屈曲を伴う狭窄では,狭窄周囲の腸管にも圧負荷が加わり穿孔が起きる可能性に注意する必要がある.

BQ3:悪性狭窄の除外として生検を行うか?

Statement:EBDを実施する小腸狭窄では悪性狭窄の可能性を念頭に置く.異型上皮を疑う領域があれば,組織生検による評価を検討する.

解説:

クローン病では小腸に悪性腫瘍を発症することがあり,標準化罹患比(SIR:standardized incidence rate)として41.1(95%CI:8.5~120) 1,あるいは66.67(18.13~170.68) 2等の高値が報告されている.1989年から2005年までに報告された6報のメタ解析のSIRも27.1(14.9~49.2) 3と高値である.また,クローン病における小腸悪性腫瘍による標準化死亡比は200(24.2~722)と極めて高い 4.罹患歴8年以上のクローン病における小腸癌の発見率は,0.464人/1,000人・年であり,長期罹患でそのリスクが増加する可能性も指摘されている 5.一方で,2年間以上の5-ASA製剤の併用や小腸部分切除歴は小腸癌に対して予防的に働く可能性が指摘されている 6.切除標本による検討では,多発病変 7や異型上皮の併存を伴うことが多く 6,内視鏡的には異型上皮による小結節状の隆起性病変が観察されることがある 8

クローン病に伴う悪性腫瘍の臨床症状は狭窄症状が75%と最も多い 9.狭窄症状はEBD適応例の症状と重複するので注意が必要である.また,小腸癌の合併は,手術標本の検討で初めて明らかになることが多く,術前に悪性腫瘍と診断されることは極めて少ない 9.さらに,内視鏡によるスクリーニングの有効性を検討した報告は皆無に等しい.前向きコホート研究では,内視鏡による小腸癌診断の感度は33%にすぎないが,この研究では観察範囲が上部空腸と終末回腸それぞれ20cm程度であり,観察範囲が不十分といえる 10

EBDにより外科手術が回避されることで,小腸切除による腫瘍の予防効果や早期発見機会が減弱することが懸念される.一方で,EBDによって深部小腸の観察が可能となり,前癌病変を含む腫瘍性病変の発見率上昇と内視鏡的スクリーニングの精度向上の可能性がある.したがって,EBDにより狭窄部通過が可能となった場合は,より深部の観察を行い腫瘍性病変の随伴がないかを確認することが重要である.ただし,クローン病に伴う低分化癌は粘膜深層から発育することがあるので,生検診断を盲信することなく判断する必要がある 11.一方,拡張術に抵抗性の狭窄 12は,悪性狭窄の可能性を念頭に置く.拡張術中ないし術後の穿孔例に対する外科手術では,悪性病変の可能性を念頭に置いた腹腔内の観察や処置が望まれる.

クローン病の良性狭窄と悪性狭窄の鑑別は容易ではないので,EBD施行時は悪性狭窄の可能性を念頭に置き,詳細な内視鏡観察と生検による評価を行うことが重要と思われる.

(†:原著に誤植あり.著者に確認のうえ修正)

CQ1:吻合部狭窄(anastomotic lesion)と非吻合部狭窄(de novo lesion)に対する効果・安全性は同等か?

Recommendation:両者に対するEBDの効果・安全性はほぼ同等であり,いずれにも行うことを推奨する.

修正Delphi法による評価:中央値9,最低値8,最高値9

推奨の強さ:2,エビデンスレベル:C

解説:

吻合部狭窄(anastomotic lesion)と非吻合部狭窄(de novo lesion)は発生機序が異なるため,EBDの効果も異なる可能性がある.しかし,現時点でクローン病の吻合部狭窄と非吻合部狭窄に対するEBDの効果の比較を主評価項目とした臨床研究はない.

2010年までは,拡張部位別のEBDの治療効果,および臨床経過を検討した文献は少なかった.EBDの対象となった吻合部狭窄は小腸・大腸吻合が圧倒的に多く,小腸・小腸吻合部にEBDを施行した症例数は少ない.一方,非吻合部狭窄に関しては,本邦からデータが報告されているのに対し 1,欧米では非吻合部狭窄に対するEBDの効果を多数例で検討した研究は少ない 2),3

2010年以降は狭窄部の性状からみたEBDの短期および長期効果に関する報告が散見される.しかし,欧米を中心とした報告では小腸-大腸吻合部狭窄を対象とした研究が多いのが現状である.これらの研究では,吻合部狭窄と非吻合部狭窄に対するEBDの効果に明らかな違いはないことが示されている 4)~6

一方,日本を中心にバルーン内視鏡を用いた小腸疾患の診断・治療が拡がり,クローン病における小腸・大腸以外の吻合部狭窄や非吻合部狭窄を対象としたEBDの短期および長期効果が報告されるようになった 7),8.Hiraiらは小腸狭窄に対してEBDを施行したクローン病95例を対象とした多施設前向き研究において,吻合部狭窄と非吻合部狭窄の間でEBDの短期効果に差はなかったことを報告している 9.EBDの安全性に関しては,吻合部狭窄と非吻合部狭窄で相違がないとする報告が多いが 6),9,Fosterらは端々吻合よりも側々吻合ないし側端吻合でEBDの合併症率が高かったことを示しており,吻合術式は考慮すべき要因と考えられる 10

CQ2:連続で拡張する狭窄の数に制限はあるか?

Recommendation:手技的に可能であれば,狭窄の個数による制限なく,拡張することを推奨する.

修正Delphi法による評価:中央値9,最低値7,最高値9

推奨の強さ:2,エビデンスレベル:C

解説:

クローン病小腸狭窄に対するEBDの成否は,狭窄個数以外にも,存在部位,狭窄部を含めたクローン病活動性病変の有無,狭窄の長さや形状,瘻孔の有無,腹腔内癒着などの要因に左右される.

初回EBDを施行したクローン病小腸狭窄85例による本邦の検討では,平均狭窄個数は2.4個であり,EBD後の手術を要する因子として単発例と多発例の間に有意差はなかったとされている[hazard ratio(HR)=0.70,95%CI:0.28~1.75,P=0.45] 1.またクローン病小腸狭窄に対するEBDを前向きに検討した本邦の多施設共同コホート研究では,95例中,単発が48.4%,多発が51.6%であり(4個以上狭窄が存在した例も16.8%含まれていた),それらのEBD後の短期的狭窄症状改善に関しては,単発例と多発例で有意差を認めなかった(P=0.97)と述べられている 2.EBD後の長期予後については,小腸狭窄を伴うクローン病65例での検討がなされており,単発例と多発例でEBD成功率に有意差はなく(P=0.75),EBD後にEBDによる再拡張を要する頻度についても単発例と多発例で有意差がなかった(P=1.0)と報告されている 3

こうしたことから最近報告された国内32施設305例の狭窄症状を有する小腸狭窄を伴うクローン病に関する多施設研究でも,EBD施行可能例と非施行例で狭窄個数に有意差はなく(P=0.127),手術に関して狭窄個数は関連がなく(HR=1.079,95%CI:0.885~1.315,P=0.446),初回EBD後の手術に関しても狭窄個数は関連がなかった(HR=0.548,95%CI:0.207~1.429,P=0.217)とされ 4.さらに小腸狭窄に関するEBD13研究をまとめたシステマティックレビューにおいても,各研究のEBD施行に関する適格基準や除外基準に狭窄個数は含まれていなかったと述べられている 5

一方,単発狭窄81例と多発狭窄36例を比較した米国の研究では,多発狭窄患者は,単発狭窄患者に比べて複数回のEBDを要し,その施行間隔も短期間であり,またEBD後の嘔気や嘔吐も多かったとされたほか,EBD後の手術率も多発例(66.7%)が単発例(35.8%)より有意に多かった(P<0.002)とされている 6

この研究では,多発狭窄は累積非手術に関連した因子ではなかった(HR=1.6,95%CI:0.9~2.8)としつつも,多発狭窄群の中では,2~3個の狭窄を有する例がEBD後の手術に関して関連がなかった(HR=1.5,95%CI:0.8~2.8)のに対し,4個以上の狭窄を有する例では有意にEBD後の手術が高率だったことにも言及している(HR=14.1,95%CI:1.6~120.3).このためか,この研究を引用した最近のGlobal Interventional Inflammatory Bowel Disease Groupからのガイドラインでは,EBDは3つ以下の狭窄が近接して存在している患者で,より安全で効果的であると述べるに留めている 7.しかし,引用された文献の中には抄録レベルのものもあり,また大腸狭窄症例も含まれているなど課題が残る.

近年,CO2送気以外にも,内視鏡の先端アタッチメントや細径内視鏡の開発なども進んでいる.また,多発小腸狭窄が広範囲に及ぶ場合,EBDで手術が回避可能だった際の恩恵は大きい.これまでの報告ではEBDを施行する狭窄数が増えても偶発症が増加するという報告は乏しく,適格基準や除外基準を遵守して行うEBDにおいては,手技的に可能であれば,1回のセッションで拡張する狭窄性病変の個数に制限を設ける根拠は乏しいと思われる.

CQ3:適切な拡張径は何mmか?

Recommendation:拡張径は安全性の観点から狭窄径に応じて調整する.有効性の観点から最終目標は一般に12~15mmとすることを推奨する.

修正Delphi法による評価:中央値9,最低値7,最高値9

推奨の強さ:2,エビデンスレベル:C

解説:

過去の報告における小腸用拡張バルーンの最大径として12~15mmが用いられ 1,最大拡張径については小腸病変に対しては15~20mmであること 2が報告されている.

至適拡張径については,Hiraiらの前向き研究において8~10mmのバルーンカテーテルを使用した場合症状の改善がみられない可能性が高くなることが報告されており 3,症状の改善を得るためには少なくとも12mm以上の拡張が望ましいと考えられる.小腸病変に限定した後ろ向き研究では,15mm以上の拡張で腸管切除回避率が上昇することが単変量解析にて示されている 4.また,小腸病変だけでなく大腸病変を含めた後ろ向き研究では12~15mm以上の拡張でアウトカムが改善することが報告されている 5)~8.大腸内視鏡を用いた小腸と大腸病変を含む後ろ向き研究でEBDの拡張径が比較されており,14~15mmと16~18mmでは手術リスクに差を認めなかったが,16~18mmの拡張径を選択した群では4回目以降の拡張間隔が長くなったことが報告されている(平均240±136.7日 vs. 456±357.3日,P=0.023) 7

拡張径が大きくなると有効性が高くなると考えられるが,穿孔などの偶発症の増加が懸念される.Gustavssonらは,回腸大腸吻合部狭窄が77%を占めるコホートにおいて拡張径25mmのバルーンを用いた症例で偶発症率が有意に高かったと報告している 9.また,システマティックレビューにおいて15mm以上の拡張は穿孔のリスク因子であることが示されている 10.しかしながら,15mm未満でも穿孔を来したとする報告も散見される 5),8),11),12.安全性の観点から小拡張径から開始し徐々に拡張径を増加させる手法も報告されており 8),12)~16,狭窄が高度である場合は12mm以下の拡張径から開始し徐々に拡張径を増大させることも選択肢の1つであろう.拡張径の選択は患者背景,狭窄の状態などからリスク・ベネフィットを考慮して決定されるべきである.

解析結果の解釈において,以下の点に留意する必要がある.クローン病のEBDの報告は単施設研究がほとんどであり,症例数が限られることから多くの報告は小腸病変と大腸病変を同時に解析していることが多い.また,後ろ向き研究が多く様々なバイアスを含んでいる.例えば,拡張径の選択は術者がその場で判断をしているため,拡張前の狭窄径とバルーンカテーテルの拡張径が相関している可能性がある.また,アウトカムが手術である場合,症状の改善を認めていないにも関わらず,患者希望により手術が選択されていない可能性がある.

FRQ3:EBD後の再狭窄の予防として,ステロイドや抗TNFα抗体製剤の局所投与は有効か?

Statement:再狭窄の予防策としてのステロイドまたは抗TNFα抗体製剤の局所投与の有効性は明らかでない.

解説:

ステロイドの局所注射は,食道癌に対する内視鏡切除後狭窄の予防やケロイド治療などに広く行われている.クローン病の狭窄に対するEBD後の狭窄拡張部へのステロイド投与は1995年のRamboerらの報告が最初である.彼らは13例のクローン病の狭窄に対し1~2回のEBD後にベタメサゾン局所投与を行い,全例狭窄症状が消失したと報告した 1.その後は別のステロイド剤であるトリアムシノロンの作用が3~4週間続くことから,持続的効果を期待し狭窄拡張部位への投与に使用されてきた 2.方法としては,トリアムシノロン40mgを生理食塩水2~5mLに溶解し,内視鏡下で狭窄の遠位端,または炎症の最も高度な部位に1/4周毎に0.5~1.0mLずつ投与し,狭窄が長い場合は2cm間隔で投与する 3.本FRQに関する研究の大部分が後ろ向き観察研究であり,前向きランダム化試験は以下の2つの報告しかない.1つは小児クローン病患者29人を対象とした単施設の前向きランダム化試験で,EBD後のトリアムシノロン40mg/5mLの局所投与群の患者ではプラセボ群と比較して再拡張と手術までの期間延長効果が確認された 4.もう一報は13例の成人クローン病患者の回盲部切除後吻合部狭窄を対象とした前向きランダム化比較試験で,プラセボ群と比較してトリアムシノロン40mg/5mL注射群でむしろ再拡張術の頻度が多くなったことが示され 5,相反する結果となった.2007年,2017年のシステマティックレビューでも,ステロイドの局所投与は臨床経過に影響を及ぼさないとする報告が相次いでなされている 6),7.したがって,再狭窄予防目的のEBD後のステロイド局所投与の有効性については一定の見解が得られていない.Global Interventional Inflammatory Bowel Disease Groupからのガイドラインでも,エビデンスレベルは低いが「実施しない」ことを推奨している 8

狭窄部への抗TNFα抗体製剤局所投与の有効性の報告は存在するが,症例報告やケースシリーズのみに留まる 9)~11

FRQ4:何分間バルーンを拡張状態に保つか?

Statement:一般的には,拡張時間は30秒から2分で実施されている.

解説:

クローン病の狭窄病変に対するEBDにおいて,拡張時間を比較した文献は存在しない.よって,クローン病狭窄病変のEBDの拡張時間を規定する根拠はない.大腸も含めたクローン病狭窄病変のEBDの拡張時間は1~3分とする報告が多い 1),2.大腸内視鏡を用いたクローン病狭窄病変におけるBettenworthらの多施設のアンケート調査の結果では,欧州では2分(±1.3分),北米では1.4分(±0.95分)と欧州で拡張時間がやや長めであることが報告されている 1.以下に,小腸狭窄に限定した報告における拡張時間が記載されている主な文献の一覧を示す(Table 3 3)~8.小腸狭窄に対するEBDの拡張時間はすべて本邦からのものであり,30秒から2分で実施されている.いずれの報告も,術者の臨床的経験に基づいて行われているのが現状であると考えられ,今後は,拡張時間を比較した前向き試験が必要であろう.

Table 3 

内視鏡的バルーン拡張術における拡張時間一覧.

FRQ5:偶発症への対策として予防的抗菌薬の投与は有効か?

Statement:偶発症への対策として,予防的に抗菌薬を投与する有効性は明らかではない.

解説:

小腸狭窄に対するEBDの偶発症対策として,予防的抗菌薬投与の有効性を検討した報告はない.抗菌薬投与は広く行われている状況ではなく 1,文献的には高度の全身合併症,免疫能低下,栄養不良などを認める症例で感染が憂慮される場合など限定的な使用に留まっている 2.EBDの偶発症を防ぐために最も重要なことは,各種の画像検査を検討し,適応外症例を適切に判断することである.抗菌薬投与を要する有害事象は事前に予測できないため,事前に投与する根拠は乏しい.しかしながら,実臨床ではbacterial translocationの存在などを考慮してEBD施行前に抗菌薬の事前投与を行っている施設や,偶発症発生時の感染リスク軽減のためEBD後に抗菌薬を投与している施設がある.本邦のエキスパート間でも意見が分かれており,前向き研究が必要である.

FRQ6:他の手段(内視鏡的狭窄切開術,ステント留置術)の適応は?

Statement:内視鏡的バルーン拡張術以外の内視鏡治療(内視鏡的狭窄切開術,ステント留置術)の有効性・安全性は確立されていない.

解説:

クローン病小腸狭窄に対して行うEBD以外の方法として,内視鏡的狭窄切開術(endoscopic stricturotomy)と,ステント留置術が挙げられる.内視鏡的狭窄切開術については,症例報告,少数例のパイロット研究 1,あるいは単施設からのヒストリカルコホートを用いた症例対象研究 2)~4などでその有効性が報告されている.しかしながら,遠位回腸や回盲部切除後の吻合部の狭窄や,狭窄長が比較的短い(1~2cm程度)狭窄に限定されていること,いまだ報告数・報告施設が限られていることなどから,その有効性についてはさらなる検討が必要である.

ステント留置術については,自己拡張型金属ステント(self-expandable metallic stent:SEMS)を用いた報告 5)~7,瘻孔形成を目的としfull-covered typeの大口径金属ステント(lumen apposing metal stent:LAMS)を用いた報告 8,自己崩壊型ステント(biodegradable stent)の報告 9),10がある.LAMS,自己崩壊型ステントに関しては,症例報告,あるいは少数例のパイロット研究のみであり,その有効性,安全性は,現時点では不明である.SEMSに関しては,大腸狭窄,回盲部切除後吻合部狭窄の両者を合わせて検討した報告 6),7),11と,大腸小腸吻合部狭窄 12に対する報告がある.システマティックレビュー 7(総症例65例)と前向きパイロット研究 11(組入れ11例)各一報,および2つの後ろ向き研究 6),12(組入れ17例,21例)では,ステントの留置期間(1~4週)は様々であり,有効性・安全性が高いとする報告 6),7),12と,ステント逸脱が高率である 11とする報告があり,現状では治療効果と安全性は不明といわざるを得ない.

以上から,現時点においてクローン病小腸狭窄に対するEBD以外の推奨しうる内視鏡治療法はないと考えられる.

(注:本邦における大腸用ステント,十二指腸用ステントは悪性腫瘍狭窄に対して使用することとなっており,良性狭窄は適用疾患とならない)

FRQ7:一度EBDを行った狭窄に対して,無症状でも予防的EBDを行うか?

Statement:予防的EBDを行うことの有効性についてのエビデンスは未集積であり,今後の検討課題である.

解説:

本FRQにおける予防的・計画的バルーン拡張術(prophylactic scheduled EBD)とは,消化管狭窄症状のない患者に将来の消化管狭窄症状再発予防を目的とした定期的EBDを行うことと定義する.

MatsuiらはEBD後も内視鏡的に狭窄悪化が予測される場合は,外来で予防的なEBDを2~4カ月毎に行うと報告している 1.ただし,無症状であればEBDを反復せずとも狭窄症状を呈さない可能性があること,EBD自体が偶発症のリスクを伴うことから,患者に対し十分なインフォームド・コンセントが必要である.EBDによる偶発症で炎症が悪化し,入院が必要になる,あるいは入院期間が延長される可能性,また穿孔を合併して外科手術になる可能性があるからである.

ただし,残存小腸が短く短腸症候群に進展するリスクが高い場合や,炎症・潰瘍を伴わない線維性狭窄で消化管狭窄症状を繰り返してきた患者では予防的・計画的EBDを推奨する.治療間隔の目安は6カ月~1年であるが,患者の症状や病態に応じて検討されるべきである 2.Global Interventional Inflammatory Bowel Disease Groupからのガイドラインでは,症状と狭窄所見は必ずしも相関しないこと,予防的EBDは狭窄症状の発生を予防する可能性があること,EBD後に深部腸管を評価することで再燃や腫瘍のサーベイランスも可能であることが述べられている 3.また,症状出現後や狭窄前拡張を伴う狭窄では無症状の狭窄よりEBDの効果が低いとされている 3

文 献
 
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