日本消化器内視鏡学会雑誌
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総説
EUS-FNA検体を用いた膵癌ゲノムプロファイリング
須藤 研太郎 辻本 彰子喜多 絵美里
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2021 年 63 巻 12 号 p. 2441-2452

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要旨

近年,次世代シ―ケンシング(NGS:next-generation sequencing)技術に基づく腫瘍のゲノムプロファイリングにより,進行癌に対するprecision medicineが実用化している.EUS-FNAは膵癌における病理診断において重要な役割を果たしてきたが,近年こうしたprecision medicineの導入を背景に,より多くの良質な“組織採取”という方向性のもと穿刺針や穿刺法などの検討が行われている.EUS-FNA検体を用いた膵癌NGS解析は解決すべき課題も多くその有用性は確立されたものではないが,近年,遺伝子パネル解析によるドライバー変異の同定にとどまらず,全エクソン/全トランスクリプトーム解析などの網羅的解析や患者由来オルガノイドモデル構築など,さらなる先進的な検討も試みられている.本稿ではEUS-FNA検体を用いた膵癌ゲノムプロファイリングについて文献的なレビューを行い,現状と課題について考察する.

Ⅰ はじめに

次世代シーケンシング(NGS:next-generation sequencing)は大量のデオキシリボ核酸(DNA)断片の塩基配列を並行して決定する技術であり,現在,個々の腫瘍におけるゲノムプロファイリングが可能となっている.NGS技術は遺伝子パネル検査として薬剤選択に用いられるほか,全ゲノム,全トランスクリプトームなどの包括的な解析により,がんの病態解明に向けた検討も行われる.

膵癌における治療標的として,プラチナ製剤/PARP阻害剤と相同組み換え修復欠損(HRD:homologous recombination deficiency)の関連が知られるほか,稀な標的としてBRAFERBB2,各種fusion,MSI-highなどの異常が知られる.現状では膵癌ゲノムプロファイリングについて国内外の主要な学会・ガイドラインの見解は異なっており,臨床的意義が確立されているとは言い難い(Table 1 1)~4.一方,昨年のLancet Oncology誌にはゲノム異常に対応する治療を受けた場合,膵癌患者の予後が改善する可能性が報告される 5.本邦でのオラパリブ承認やKRAS G12C変異を有する膵癌におけるソトラシブ奏効例の報告 6など,新規治療薬の開発も進んでおり膵癌ゲノムプロファイリングの重要性は今後高まっていくものとみられる.

Table 1 

膵癌遺伝子プロファイリングの位置づけ.

超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)は進行膵癌の病理診断において中心的な役割を果たしてきた.ゲノムプロファイリングの対象となる患者は基本的に切除不能例であり,腫瘍組織を比較的安全にサンプリング可能なEUS-FNAに期待される役割は大きい.こうした背景に基づき,膵癌を対象としたEUS-FNAでは従来の細胞診を主体とする検査体系から,より多くの良質な“組織採取”という方向性のもと,穿刺針や穿刺法など多くの検討が行われている.

EUS-FNA検体は微小でありNGS解析には適さないという意見もあるが,2021年2月現在,多くの報告がなされている.なかには全エクソンシーケンスやリボ核酸(RNA)シーケンスなどの網羅的な解析や少ない腫瘍検体をいかに利用するかという先進的な取り組みも含まれる.本稿ではEUS-FNA検体を用いた膵癌ゲノムプロファイリングについて文献的なレビューを行い,現状と課題について考察する.

Ⅱ NGS解析に用いる検体

NGS解析では対象疾患や解析内容により,ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE:formalin fixed paraffin embedded)検体,凍結検体,細胞検体などが使用される.各々の特徴をTable 2に示すが 7)~14,本邦で保険適応となっている遺伝子プロファイリング検査(FoundationOne CDxがんゲノムプロファイル(F1CDx)およびOncoGuideTM NCCオンコパネルシステム(NCCオンコパネル))ではFFPE検体(セルブロックを含む)のみが使用可能である.

Table 2 

ゲノム解析に用いられる検体.

EUS-FNA検体を用いたゲノム解析ではFigure 1に示すようなフローで解析可能な検体が選択される.NGS解析の障壁となる要因はいくつも存在するが,検体量,有核腫瘍細胞割合,核酸(DNA,RNA)の品質に集約される.なお,核酸の品質には検体の固定法や保管期間が大きく影響する.

Figure 1 

NGS解析における検体の選別.

1)FFPE検体

FFPEは日常診療の病理診断として使用されるため,残余検体として入手が容易であること,検体の病理学的な評価,腫瘍細胞細胞割合の推定が可能というメリットがあり,臨床的な遺伝子プロファイリング検査では主としてFFPE検体が使用される.一方,FFPE検体ではホルマリン固定に伴う核酸の断片化,種々の化学的修飾(C:G>T:Aや塩基脱落など)が問題となる 9.経時的に核酸品質は劣化し,NGS解析成功率は低下する 10.Scrum-Japan GI-screenからの報告では,2,500例以上の消化器癌において4年経過した切除または生検FFPE検体でのOncomine Cancer Research Panel(143遺伝子)の解析成功率は50%にまで低下している 10.ホルマリン固定等による解析への影響を最小化するため,日本病理学会の策定した「ゲノム診療用病理組織取扱い規程」( https://pathology.or.jp/genome_med/elearning.html)を参考に検体処理を行う必要がある 7

2)凍結検体

核酸品質が良好であり全ゲノムシーケンスやRNAシーケンスでは凍結検体が望ましいとされる.また,5~10年といった長期保管も可能である 8.長期保管には液体窒素保存容器(-180℃程度)が望ましく-80℃を用いることも可とされるが 8,FFPEと比較し保管にはコストが必要となる.また,検体の病理学的評価,腫瘍細胞含有率の推定はFFPEのように簡便に行うことはできず,凍結組織切片作製用包埋剤OCT(optimal cutting temperature)Compoundを用いる 8.さらにEUS-FNAにて凍結検体の採取を行う場合,診断用に加えて追加の採取が必要となる.

3)細胞検体

EUS-FNAで使用される細胞検体の処理法にはセルブロック法,スメア法,液状化検体細胞診法(LBC:liquid-based cytology)などがある.セルブロック法はホルマリン固定パラフィン包埋処理を行い,組織検体と同様に遺伝子パネル検査に使用可能である.スメア法や液状化検体細胞診法などの細胞検体からもNGS解析可能なDNAが抽出可能とされ,解析対象として期待されている 11)~14.現在,日本臨床細胞学会では「がんゲノム診療における細胞検体の取扱い指針 第1.0版」をホームページ上で公開している 14

Ⅲ NGS解析の精度管理

NGS解析は研究目的で行われるほか,臨床検査として患者の薬剤選択にも使用される.臨床検査としてのNGS解析は,患者の治療に直結するため,十分な品質・精度管理が必要となる.本邦では厚生労働省の「がんゲノム医療中核拠点病院等の整備に関する指針」において中核拠点病院の指定要件として,第三者認定を受けた臨床検査室および病理検査室を有することが記載されている.

米国においても臨床検査室は臨床検査室改善修正法(CLIA:Clinical Laboratory Improvement Amendments)に基づく認定が義務付けられている.この他,国際的な指標として,米国病理学会(CAP:College of American Pathologists)による臨床検査室認定プログラム(LAP:Laboratory Accreditation Program)認定が知られる(CAP-LAP).

研究目的で行われたNGS解析を参照する場合にも,こうした臨床検査の品質で行われたか否かについての情報はNGS解析の品質,精度を評価するうえで重要なポイントとなる.

Ⅳ EUS-FNA検体を用いたNGS解析と成功率

Table 3に膵病変に対するEUS-FNA検体を用いたNGS解析の報告を示す 15)~30.2021年2月現在,多くの報告があるが,膵癌のみでなく他の膵腫瘍が混在しているものもある.使用された検体はFFPEや凍結検体のみでなく,細胞検体に関する検討も複数みられる.解析の品質管理については研究目的で行われたものがほとんどで,CLIA認定などの臨床検査品質であることが明記された報告はわずかである.

Table 3 

EUS-FNA検体を用いた膵病変のNGS解析.

Table 3に各報告の解析成功率(解析数/総検体数として算出)について記載したが,約50~100%とばらつきが大きい.これはどこに母集団を設定するかで大きく変化するため,解釈には注意が必要である.例えば,ゲノム解析目的でEUS-FNAを行う症例を前向きに登録する研究ではFigure 1のEUS-FNA施行例に対する解析成功率を算出できる.一方,後方視的研究などデザインによっては病理検体提出例や核酸抽出例,NGS解析を試みた検体数を母集団にせざるを得ないため,見かけ上の解析成功率は上昇してしまう.

また,NGSの解析内容も大きく影響する.パネルの種類によって検体の要件は異なるし,臨床検査として行われる場合は精度を担保するため,より厳格な基準が用いられる.本邦のScrum-Japan GI-screenからの報告では,膵癌EUS-FNA検体67例についてCLIA認定機関での遺伝子パネル解析(Oncomine Cancer Research Panel)が行われ,38例(56.7%)で解析結果が得られている 25.これは切除検体の成績63.8%(69例中44例成功)と比較し,ほぼ遜色ない結果とも言えるが,検体量不足などにより除外された症例は含まれていないため,実際の解析成功率はさらに低下する可能性がある.

Ⅴ EUS-FNA検体におけるKRASおよびTP53変異の検出率

膵癌では切除検体を用いた検討により90%以上でKRAS変異が検出されることが知られている 31.次いで多くみられる遺伝子異常はTP53変異であり,概ね70%程度に認められる 31.こうした遺伝子異常の検出率は対象集団の特性(病期,予後など)によっても変化しうるが,NGS解析の精度を評価するうえで重要な指標となる.Table 3に示す各報告における膵癌コホートのKRAS変異検出率は78~96%,TP53変異の検出率は44~78%であり,報告によってばらつきが大きい.変異の検出率がKRAS 90%,TP53 70%を大きく下回る場合は腫瘍細胞含有率の低い検体が一定数含まれるなど,検出感度を低下させる要因の存在が示唆される.

この他,膵癌においてCDKN2ASMAD4の異常が約30%程度に認められる 31.この2つの遺伝子はしばしばhomozygous deletionを呈することが知られ,特にCDKN2Aでは頻度が高い 31.NGS解析結果をみるうえではこうした情報の有無も併せて評価することで,精度を確認することができる.

Ⅵ NGS解析の実際

Table 3に示すように既報ではEUS-FNA検体を用い,種々の解析が行われる.ターゲットシーケンス(遺伝子パネル解析)の報告が多いが,少数ながら全エクソンまたは全ゲノム,RNAシーケンスも試みられている.なお,本邦で膵癌患者に使用可能な遺伝子パネル(F1CDxやNCCオンコパネル)のデータは乏しい.

1)ターゲットシーケンス(遺伝子パネル解析)

治療標的となる遺伝子やドライバー遺伝子に限定して,塩基配列を決定する.解析対象は各パネルにより異なるが遺伝子数は400程度までと限定される.一方,がん体細胞変異の検出に推奨されるシーケンス深度(250×~500×以上)が得られ 32),33,臨床検査として診療にも用いられる.パネルの種類により融合遺伝子や腫瘍遺伝子変異量(TMB:tumor mutation burden),マイクロサテライト不安定性(MSI:microsatellite instability)の情報も得られる.

膵癌に対するprecision medicineの実践には最も一般的な解析であり,本邦で使用可能なF1CDxやNCCオンコパネルを対象としたデータ集積が急務である.また,研究レベルでは細胞検体を用いた解析も行われ,FFPE検体と比較し遜色ない結果が報告される(Table 3).

2)全エクソンシーケンス

ゲノム上のエクソン領域を中心に解析する手法である.遺伝子数は2万程度になる.種々の遺伝子のタンパク質コード領域を中心に解析することで病態解明に向けた効率的なデータ収集が可能である.また,単純に多数の遺伝子変異情報が得られるのみでなく,得られたデータを利用し,TMB算出,Mutational Signature解析も施行できる.遺伝子パネル解析と比較しシーケンス深度は低くなるが,より広範囲の塩基配列情報をもとに染色体レベルでのコピー数変化もみることができる.Texas MD Anderson Cancer CenterのSemaanらはEUS-FNA検体による全エクソンシーケンスを行い,aneuploidy と予後の関連,コピー数変化のComplexity Scoreを提唱しプラチナ有効性との関連を検討している 19

3)全ゲノムシーケンス

がんには多彩なゲノム構造変化がみられるが,全ゲノムシーケンスでは非コード領域を含めたゲノム全体の配列情報を得ることでゲノムの構造変化を検出しうる.昨年のNature誌には38種類のがん腫,2,638例の全ゲノムシーケンスのデータより,種々の構造変化(転座,逆位,重複,chromoplexy,chromothripsisなど)について詳細な報告がなされている 34.ただ,膵癌におけるシーケンス深度は多い報告でも75×程度であり 35,腫瘍細胞含有率が少ない場合や腫瘍内にheterogeneityを有するケースでは十分とは言えず,解析可能な検体は限定される.EUS-FNA検体を用いた報告は1編あり,Dreyerらは腫瘍細胞割合(25%以上),DNA量を指標に条件のよい検体(n=5)を使用し,全ゲノムシーケンスを施行している 18.シーケンスデータをもとにMutational Signature解析によるBRCA signatureの同定,ゲノム再構成の評価を行っており,EUS-FNA凍結検体による全ゲノムシーケンスは新たな有望な手法としている.

4)RNAシーケンス

全トランスクリプトームを解析する手法であり,未知の遺伝子を含めた発現レベルの情報が得られる.DNAを用いた遺伝子パネル検査と比較し,RNAシーケンスの方がより効率的に融合遺伝子を同定できる.また,エクソンスキッピングなどのスプライシングバリアントの検出も可能である.

Rodriguezらは膵癌および急性炎症,慢性膵炎などの良性病変を対象として22G穿刺針1回分より抽出したRNA 100ngを使用し,RNAシーケンスを施行している 15.登録された45例中36例(80%)で解析が可能であり,遺伝子発現プロファイルに基づく良悪性の鑑別を行っている 15.この他,DreyerらはEUS-FNA凍結検体を用いたRNAシーケンスを行い(n=35),Baileyらの報告 35に基づく膵癌のサブタイプ分類を行っている 18.近年,膵癌において遺伝子発現プロファイルに基づくサブタイプ分類が化学療法の効果と関連するという報告がなされており 36,今後のデータ集積に期待される.

Ⅶ EUS-FNAによる検体採取

NGS解析を前提とした検体採取では十分な検体量および腫瘍細胞含有率が重要である.なお,腫瘍細胞含有率は有核腫瘍細胞の割合であり,面積の比率ではない.また,血液の主な構成成分は赤血球だが,赤血球は無核であり含有率の算出にはカウントされない.関連する要因として,腫瘍組織への炎症細胞浸潤などがしばしば問題となる.EUS-FNAによる検体採取では穿刺針の種類,吸引法,穿刺法,穿刺回数,検体処理など種々の因子が関連し,検体採取量向上に向けて,多数の検討が行われてきた.

1)穿刺針の種類

近年,組織検体の採取量向上を目的として,特有の針先形状を有する穿刺針が登場し,FNB(fine needle biopsy)針と呼ばれる.代表的なものとして側孔を有するコアトラップ形状(EchoTip ProCore,Cook Medical),フランシーン針(AcquireTM,Boston ScientificおよびSonoTip TopGain,Mediglobe),フォークチップ針(SharkCoreTM,Medtronic)などが知られ,いずれの穿刺針も本邦で使用可能である.これらの穿刺針は穿刺吸引法を用いる点では従来の穿刺針(FNA針)と同様だが,先端形状の違いにより,組織採取量の増加が期待される(Figure 2).

Figure 2 

穿刺針の種類と形状.

a:FNA針メニンギーニ形状(EZ-Shot3 plus,Olympus 写真提供:オリンパス株式会社).

b:FNB針コアトラップ形状(EchoTip ProCore,Cook Medical 写真提供:クックメディカルジャパン).

c:FNB針フランシーン形状(AcquireTM,Boston Scientific 写真提供:ボストン・サイエンティフィックジャパン株式会社).

d:FNB針フランシーン形状(SonoTip TopGain,Mediglobe 写真提供:株式会社メディコスヒラタ).

e:FNB針フォークチップ形状(SharkCoreTM,Medtronic 写真提供:コヴィディエンジャパン株式会社).

FNA針とFNB針の比較についてはこれまで多数の無作為化比較試験,メタアナリシスが報告される.研究によって種々のエンドポイントが用いられているが,臨床的に重要な正診率についてはFNA針に対する優位性は否定的な報告が多い 37)~39.一方,FNB針の優れた点としては診断に必要な穿刺回数の低減 38),39やオンサイト迅速細胞診(ROSE: rapid on-site evaluation)のない状況での検体確保 39があげられる.組織構築を評価できるようなコア検体の採取率の向上についてはcontroversialであるが 37)~39,新しいFNB針であるフランシーン針(AcquireTM,Boston Scientific)とフォークチップ針(SharkCoreTM,Medtronic)を比較したメタアナリシスでは,両針とも90%以上の高いコア組織採取率が示されている 40.このうち,22Gフランシーン針(AcquireTM,Boston Scientific)については種々の検討が進んでおり,FNA針と直接比較を行った無作為化比較試験では,組織検体の面積 41),42,核酸の抽出量 42などで優位性が示されている.

このように,NGS解析を念頭に置いた場合,フランシーン針,フォークチップ針は有望な選択肢と考えられるが,実際の臨床では穿刺のしやすさを優先しFNA針が使用されるケースも少なくない.また,検体量,核酸抽出量などの指標はあくまでもサロゲートマーカーであり,FNB針の使用がNGS解析成功率の改善に結びつくかについては前向きの評価が必要である.

2)穿刺針の外径

既報のNGS解析では19G~25Gが使用されているが,25Gでは成功率が低下するという報告がなされている.Parkらは190例を対象に遺伝子パネル解析の成功率に関連する要因を後方視的に検討したが,多変量解析の結果,穿刺針外径のみがNGS成功に関わる因子として抽出され,19G/22G(n=133)と比較し,25G(n=49)の穿刺針では成功率が有意に低率であった(63.2% vs. 38.8%,P=0.003) 28.この他,Kandelらは25G FNA針と19G/22G フォークチップFNB針(SharkCoreTM,Medtronic)の無作為化比較試験にて,穿刺1回分でF1CDxの病理要件を満たす割合を検討した結果,19G/22G FNB針では78%で要件を満たしていたが,25G FNA針では14%と低率であった 43.本研究では外径のみでなく穿刺針の種類も異なるため評価が難しい点はあるが,Parkらの報告とあわせ25G針ではNGS解析の成功率が低下する可能性が示唆される.

19Gの穿刺針は組織量の増加が期待できるが,対象は限定される.実際,上記のParkらの検討で19G/22G針のNGS成功例84例のうち19Gを使用したのはわずか3例であり,22Gが大部分を占めている 28.Kandelらの報告でも当初,膵体尾部病変に19G FNB針を使用していたが,技術的な問題により22Gに変更されており,加えてF1CDxの病理要件を満たす検体の割合も19G針と22G針で違いはみられなかった 43.この他,米国Memorial Sloan Kettering Cancer Centerからの報告では,52例の膵癌FNA/FNB検体についてCLIA認定機関にて遺伝子パネル解析(MSK-IMPACT)を行ったが,穿刺針は22G/25Gが35例を占め,19Gはわずか2例であった 24

3)吸引法

検体採取時の陰圧の有無について,シリンジ吸引法,非吸引法,スタイレットを緩徐に引き抜くslow-pull法などが知られる.最近報告された吸引法とslow-pull法に関する3つのメタアナリシスではslow-pull法で血液混入が少ないことが示されるが,正診率についてはcontroversialであり,検体のcellularityの改善も示されていない 44)~46

なお,こうした吸引法の種類については穿刺針により適切な方法を選択すべきという報告もある.Bangらは4つの22G針(フランシーン針:AcquireTM,Boston Scientific,フォークチップ針:SharkCoreTM,Medtronic,逆刃コアトラップ針:EchoTip ProCore,Cook Medical,メニンギーニ針:EZ-Shot3 plus,Olympus)について無作為化比較試験を行い,フランシーン針,フォークチップ針で良好なcellularity(コア組織の面積比と定義)が得られたとしているが,本検討では各穿刺針ごとに3つの吸引法(20mL吸引圧,非吸引,スタイレット引き抜き法)についても無作為割付による評価を行っている 47.その結果,フランシーン針,フォークチップ針ではスタイレット引き抜き法が,逆刃コアトラップ針,メニンギーニ針では20mL吸引圧が推奨される結果であった.

4)穿刺回数

欧州消化器内視鏡学会(ESGE:European Society of Gastrointestinal Endoscopy)より発刊されたテクニカルガイドライン(2017年3月)ではROSEがない場合,FNA針では3~4回の穿刺を,FNB針では2~3回の穿刺を推奨している 48.ただし,これらは病理診断を目的とした場合の穿刺回数であり,NGS解析を行う場合は統一された見解はない.

既報のデータではDNA収量のみについて言えば,FNA針,FNB針ともに穿刺1~3回分でNGS解析に十分な検体が採取できる可能性がある 42),43.しかし,実際には穿刺回数を増やしても検体量の乏しいケースは存在し,症例によるばらつきが大きい.また,最終的なNGS解析の可否はDNA収量のみでなく,腫瘍細胞含有率なども加味して決定される.検体要件は解析方法,パネルの種類,臨床検査か否かによっても大きく異なり,必要な穿刺回数もこの点に大きく依存する.FNA針 vs. FNB針の比較同様に,今後の検討では種々のNGS解析の検体要件に併せた検体採取法の評価が必要と考えられる.

5)ROSE

病理診断におけるROSEの意義についてはcontroversialであり,ESGEのテクニカルガイドライン(2017)ではROSEの有り,無しいずれも推奨としている 48.なお,最近報告されたFNB針(フォークチップ針)単独 vs. FNA針+ROSEの無作為化比較試験では正診率においてFNB針単独の非劣性が示されており,FNB針ではROSEの必要性は低下する可能性が示唆される 49

一方,細胞検体によるNGS解析という視点からは,ROSE検体には腫瘍細胞の有無を迅速に評価できるというメリットがあり,解析にも使用可能という報告がみられる.Ishizawaらは膵癌ROSE検体(n=26)より中央値171ng(範囲:34~478ng)のDNAを抽出し,遺伝子パネル解析(Ion AmpliSeq Comprehensive Cancer PanelTM)を行い,KRAS変異(93%),TP53変異(44%)を検出している 27

Ⅷ 今後の課題と新たな取り組み

近年,血液中の遊離DNAを対象としたリキッドバイオプシーが非侵襲的な腫瘍ゲノム解析法として注目されており,本邦でも3月にFoundationOne Liquid CDxがんゲノムプロファイルが遺伝子パネル検査として承認されている.切除不能膵癌では検体採取が難しい症例が一定の割合で存在するため,血液検体で腫瘍ゲノム解析が可能となることの意義は大きい.今後はEUS-FNA検体などの病理組織を用いた解析とどのように使い分けていくかという点がひとつの課題である.リキッドバイオプシーは侵襲が少ないこと,経時的にゲノム変化のモニタリングが可能なこと,結果が出るまでの期間が短いこと,原発巣/遠隔転移も含めた腫瘍ゲノムのheterogeneityを検出しうることなどが利点と考えられている 50),51.一方,膵癌におけるリキッドバイオプシーの臨床的意義について,十分確立されているわけではない.本邦より報告されたGOZILA studyでは切除不能膵癌363例を対象にGuardant360(Guardant Health)による血中遊離DNA解析を行っているが,KRAS変異の検出は60%程度にとどまっている 50.加えて,リキッドバイオプシーでは全エクソンシーケンスなどの網羅的な解析は未だ開発途上である 52

現在,本邦における遺伝子プロファイリング検査ではセルブロックを含むFFPE検体のみが使用可能だが,NGS解析の裾野を広げていくために,研究レベルでは細胞診スメアや液状化検体細胞診を用いた解析も検討されている.実際,EUS-FNAでは十分な組織が採取できず,細胞検体のみが確保されるケースも少なくない.ホルマリン固定を行わない非セルブロック細胞検体は核酸の品質も良好とされ,NGS解析での使用も期待される 11)~14.一方,細胞検体は施設により処理法が異なり,NGS解析の精度,品質管理に向けた課題とされる 11)~14

この他,より先進的な試みとしてEUS-FNA検体を用いた三次元培養により,膵癌細胞のオルガノイド作製も行われる.オルガノイド培養は当初,正常上皮細胞の培養技術として開発され,もとになる臓器と構造的,機能的な類似性をもつことが特徴とされる.その後,腫瘍を対象としたオルガノイドが検討されるようになり,NGS解析や薬剤応答性の評価を含めた分子生物学的手法として期待されている.膵癌においても,これまで切除検体やEUS-FNA検体を用いたオルガノイドモデルが報告され,種々の分子生物学的検討が行われる 53)~56.Tiriacらは患者由来の膵癌オルガノイドを用いたゲノム,トランスクリプトーム,さらには薬剤応答性のプロファイリングを行い,precision medicineへの応用を試みている 57.なお,EUS-FNA検体を用いた膵癌オルガノイド作成は22G FNB針を用い,初代単離の成功率87%,第5継代66%と報告される 56.通常のEUS-FNAによる生検組織で複数の解析を同時に行うことは容易ではなく,こうした新技術の発展に期待される.

Ⅸ おわりに

EUS-FNA検体を用いた膵癌の分子プロファイリングは,遺伝子パネル解析によるドライバー遺伝子変異の同定にとどまらず,全ゲノムシーケンスによるゲノム再構成,Mutational signature解析,トランスクリプトーム解析に基づくサブタイプ分類など多岐にわたる.さらに最近ではオルガノイドモデル構築による薬剤応答性の評価なども試みられ,さらなる広がりをみせている.こうして得られた膵癌のプロファイリング情報と薬剤の効果,予後,腫瘍の進展様式などの情報と比較することで,新規薬剤の開発やバイオマーカーの確立が期待される.

ただ,現状では解析可能な検体は限定されており,臨床的に十分とは言い難い.多くの膵癌患者がゲノムプロファイリングの恩恵を受けるためには,NGS解析の成功率向上に向けた検討が不可欠である.検体採取や解析成功率に関する研究ではNGS解析の精度・品質が担保された条件下で,各々のプラットフォームごとに前向きの評価を行うことが重要である.EUS-FNA検体を用いたprecision medicineの確立に向け,今後のさらなるエビデンスの蓄積に期待したい.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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