日本消化器内視鏡学会雑誌
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総説
胆管結石に対する内視鏡治療の新たな知見
齋藤 倫寛 新後閑 弘章前谷 容
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2021 年 63 巻 2 号 p. 172-182

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要旨

近年の胆管結石に対する治療の進歩は目覚ましく,様々なデバイスが開発されるとともに,新たな内視鏡治療方法が出現してきている.巨大結石や嵌頓結石などの様に以前は内視鏡的,経乳頭的に治療可能であっても難渋していた症例が,内視鏡的乳頭ラージバルーン拡張術(endoscopic papillary large balloon dilation:EPLBD)や経口胆管鏡下結石破砕術(peroral cholangioscopic lithotripsy:POCSL)により,より簡便に治療可能となっている.また,術後再建腸管症例や肝内結石などの様に,以前は経皮的または外科的な治療に移行せざるを得なかった症例においても,バルーン内視鏡下ERCP(balloon enteroscopy-assisted ERCP:BE-ERCP),超音波内視鏡ガイド下順行性治療(endoscopic ultrasound-guided antegrade treatment:EUS-AG)などの新たな治療方法が出現した事により,その治療戦略は劇的に変化している.様々な内視鏡治療が出現してきている中で,胆管結石を安全かつ効率的に治療するためには,それぞれの治療方法の特徴をよく理解した上で,それぞれの施設の設備状況,患者の状況,結石の状況に応じて適切な治療方法を選択し,慎重かつ臨機応変に治療を行う事が重要である.

Ⅰ はじめに

総胆管結石は無症状であっても原則治療の適応である.腹痛や黄疸,肝障害などの有症状化率は90%以上とされ 1,放置すれば急性胆管炎や胆石性膵炎を併発し,重症化した場合には致命的となる事もある.従来から,総胆管結石治療の第1選択は内視鏡的逆行性胆管膵管造影(endoscopic retrograde cholangiopancreatography:ERCP)関連手技による経乳頭的な内視鏡的結石除去術である事に変わりはない.肝内結石は従来,経乳頭的なERCP関連手技のみでの治療は困難な事が多く,体外衝撃波結石破砕療法(extracorporeal shock wave lithotripsy:ESWL)を併用した治療や経皮経肝胆管鏡下結石破砕術(percutaneous transhepatic cholangioscopic lithotripsy:PTCSL),外科的肝切除が行われていた.近年,様々なデバイスの開発や新たな内視鏡治療方法の出現により,以前は経乳頭的に治療可能であっても難渋していた結石がより簡便に治療可能となり,以前は経乳頭的には治療できなかった結石であっても経皮的または外科的な治療に移行せずとも治療が可能となってきている.本稿では,従来からの内視鏡的な胆管結石の治療に加え,近年出現してきている内視鏡的乳頭ラージバルーン拡張術(endoscopic papillary large balloon dilation:EPLBD)や経口胆管下結石破砕術(peroral cholangioscopic lithotripsy:POCSL),バルーン内視鏡下ERCP (balloon enteroscopy-assisted ERCP:BE-ERCP),超音波内視鏡ガイド下順行性治療(endoscopic ultrasound-guided antegrade treatment:EUS-AG)などの新たな内視鏡治療について概説する.

Ⅱ 乳頭処置

総胆管結石に対する治療は現在,内視鏡的乳頭括約筋切開術(endoscopic sphincterotomy:EST)に引き続きバスケットあるいはバルーンカテーテルを用いて結石を除去する手技が最も標準的となっている.2015年には日本消化器内視鏡学会より「EST診療ガイドライン」 2が発刊され,ESTを安全かつ確実に実施するための,基本的な指針として活用されている.

内視鏡的乳頭バルーン拡張術(endoscopic papillary balloon dilation:EPBD)はESTと比較して乳頭機能を温存できる事や出血,穿孔などの偶発症リスクが少ない事などから標準的な手技の一つとして挙げられる.しかし,EPBDにおいてERCP後膵炎の発症が有意に多く,死亡例も認められた事が報告されてから 3,EPBDは若年などの理由で乳頭機能を温存したい症例や出血傾向及び抗血栓薬内服などのためにESTを施行できない症例など限られた症例での適応となっている.近年,抗血栓薬内服症例の増加や,術後再建腸管症例におけるバルーン内視鏡下ERCPの際にESTに難渋する症例が少なくない事などから,EPBDを施行する機会は以前より増加してきている印象である.2010年には,EPBD施行において1分以下の拡張と5分以上の拡張を比較したRCT 4が報告され,5分以上拡張したほうが膵炎の発生が少なかった事が示されている.今後さらなるエビデンスの積み重ねにより,EPBD後の膵炎を予防する方法が確立されれば,EPBDが見直され,さらに施行する機会が増加する可能性もある.

EST及びEPBD単独では除去困難な大きさの結石では,内視鏡的機械的砕石術(endoscopic mechanical lithotripsy:EML)が広く行われている.しかしEMLを併用したとしても,結石径が大きくなればなるほど,結石数が多くなればなるほど,治療時間が長くなり,治療回数も多くなってしまう.また,3cmを越えるような巨大結石の場合や,confluence stoneなどの嵌頓結石においては,そもそも物理的に結石の把持及び砕石が困難となる.近年,内視鏡的乳頭ラージバルーン拡張術(endoscopic papillary large balloon dilation:EPLBD)が行われる様になり,大結石や多数結石症例においてはより簡便に結石除去が可能となってきている.EPLBDは,2003年にErsozら 5により初めて報告された手技であり,12mm以上のラージバルーンを用いて乳頭拡張を行う事で大きな開口部が得られ,結石除去が比較的容易に行う事ができるのが利点である(Figure 1).2017年には日本消化器内視鏡学会より「EPLBD 診療ガイドライン」 6が発刊され,胆管拡張を有し,ESTやEPBD単独では除去困難な大結石や多数結石などに対する治療手技として確立されたものとなってきている.

Figure 1 

内視鏡的乳頭ラージバルーン拡張術(EPLBD).

a:胆管内に積み上げ結石を認める.

b:ラージバルーン拡張時の透視像.バルーン中央にはnotchが見られる.

c:ラージバルーン拡張時の内視鏡像.

d:多数の結石を一期的に完全除去する事が可能であった.

EPLBDは,EST施行後にラージバルーンを用いて乳頭拡張を行う手技として報告 5されたが,ESTを付加せずに乳頭を拡張させる方法が報告され,RCTでもESTの有無で膵炎発症率,結石除去率,ML使用率に差はないと報告されている 7.しかし,「EPLBD 診療ガイドライン」では,EPLBD with ESTの論文30編,EPLBD without ESTの論文3編によるmeta-analysis 8の結果から,EST付加後のEPLBDは,初回結石除去率を向上させ,ML使用頻度を減少させる可能性があるとしている.2019年にはEPLBD aloneとEPLBD with ESTを比較した新たなRCT 9が報告された.EPLBD alone群とEPLBD with EST群における偶発症はそれぞれ6%と4%,膵炎発症率はそれぞれ1%と3%,全結石除去率はそれぞれ92%と88%,初回結石除去率はそれぞれ77%と78%,ML使用率はそれぞれ6.5%と9.1%であり,ESTの有無による差は認められていない.2020年にはEPLBD without ESTとESTのみを比較した他施設共同RCT 10が報告された.EPLBD without EST群とEST群における初回結石除去率はそれぞれ90.7%と78.8%(P=0.04)と有意にEPLBD群で良好であり,ML使用率はそれぞれ30.2%と48.2%(P=0.02)と有意にEPLBD群で少なかった.全体の早期偶発症はそれぞれ9.3%と9.4%,膵炎発症率はそれぞれ4.7%と5.9%であり,EPLBD群とEST群で差は認められていない.以上の様に,EPLBDにESTを付加しない,しなくても良いとする報告が増加しているが,さらなるエビデンスの積み重ねによる検証が必要と考えられる.

Ⅲ 胆管鏡下結石破砕術及び体外衝撃波結石破砕療法(extracorporeal shock wave lithotripsy:ESWL)

EMLやEPLBDを駆使しても除去困難な巨大結石や,嵌頓結石の場合は,胆管鏡下の電気水圧衝撃波結石破砕術(electrohydraulic lithotripsy:EHL)及びレーザー砕石術(laser lithotripsy:LL)や体外衝撃波結石破砕療法(extracorporeal shock wave lithotripsy:ESWL)が有用である.2018年にはLL,EHL,ESWLを比較検討したsystematic review 11が報告され,LLでの完全結石除去率が95%で,EHL 88%,ESWL 85%と比較して有意に高率であると共に,偶発症率はEHLにおいて14%であり,LL 10%,ESWL 8%と比較して有意に高率であったと報告している.

以上の様にLLは総胆管結石治療においてEHLやESWLと比較しても有用かつ安全なデバイスである.しかし,現在LLで主流となっているホルミウムYAGレーザーを使用した砕石術(Ho:YAG-LL)ではレーザー発生装置本体が大きく(たとえばVersaPulse SelectTM 80W(Lumenis社製)は559×1,240×860mm,136kg),電源も200V/30Aの特殊コンセントが必要である上EHLと比べて著しく高価であり,導入可能な施設は限定されると考えられる.EHL装置は本体が比較的小さく,取り扱いがしやすい(たとえばAUTOLITH TOUCH(Northgate Technologies社製)は152.4×304.8×304.8mm,5.2kg).LL装置と比較するとEHL装置の本体価格は安価であり,比較的導入がしやすいと考えられる.

ESWLは透視下で照準を合わせながら破砕を行うため,X線非陽性結石では事前にERCPを施行し,結石の目印となるよう胆管ステントや経鼻胆管ドレナージチューブを事前に留置する必要がある.また破砕中にできるだけ体を動かない様にするなど,照準の位置合わせのために患者の協力が必要であり,認知症や意識障害などのため操作者の指示に従えない患者に対しての施行は困難である.さらに多くの場合で内視鏡的な結石破砕片の除去を併せて施行する必要があり,治療期間が長くなるといった問題もあり,後述する様に胆管鏡が発達してきている現在では,以前と比べて施行される機会が減少しているのが実情である.一方で,胆管鏡下の結石破砕術が可能な設備を備えている施設は決して多くないが,ESWLは腎尿路結石治療のために導入されている施設は多く,各施設の設備状況によって,現在でもESWLは除去困難結石に対する重要な治療選択肢である.

EHL及びLLで用いられる胆管鏡は経皮経肝胆管鏡(percutaneous transhepatic cholangioscopy:PTCS)と経口胆管鏡(peroral cholangioscopy:POCS)がある.経皮経肝胆管鏡下結石破砕術(percutaneous transhepatic cholangioscopic lithotripsy:PTCSL)は経皮経肝的な瘻孔形成が必要で治療期間が2週間を超える事もあり,患者の苦痛が大きく,ADL低下を来す可能性があるなどの問題がある.そのため,経口胆管鏡の発達に伴い経口胆管鏡下結石破砕術(peroral cholangioscopic lithotripsy:POCSL)が行われる事が多くなっている.しかし,術後再建腸管症例や消化管閉塞などのため経乳頭的なアプローチが困難な症例においては,現在でもPTCSLは重要な治療選択肢の一つである.

従来,用いられてきた親子式(mother-baby system:MBS)の経口胆管鏡は,起上装置の操作により子スコープが破損しやすく耐久性に問題があり,さらに操作アングルが2方向で操作性が悪いといった問題があった.2010年に発売されたSpyGlassTM(Boston Scientific社)は新しいMBSの経口胆管鏡システムであり,2015年には第二世代のSpyGlassTM DS ,2019年には第三世代となるSpyGlassTM DSⅡが発売された.SpyGlassTM DSは操作アングルが4方向と操作性が良くなっている他,ワーキングチャンネルと別に独立したイリゲーションポートを備えているため灌流機能が良く,術中の内視鏡視野確保が容易となっているのが特徴である(Figure 2).SpyGlassTM DSⅡでは,さらに解像度や調光機能が向上した.この様な操作性や画質の改善のみならず,使用に至るまでの準備や設定も簡便になっており,最近ではこのSpyGlassTMシリーズを用いた報告が増加している.

Figure 2 

経口胆管下結石破砕術(POCSL).

a:三管合流部に嵌頓する結石を認める.

b:SpyGlassTM DSを胆管内に挿入し結石を破砕した.

c:SpyGlassTM DSをVater乳頭から胆管内に挿入する際の内視鏡像.

d:SpyGlassTM DS下にEHLプローブを結石に近接させ破砕を行った.

第二世代のSpyGlassTM DSを用いた検討として,2019年にはEPLBDによる結石除去困難例に対するSpyGlassTM DS下LLとEMLを比較したRCT 12が報告され,治療成功率はEML群で63%であったのに対し,SpyGlassTM DS下LL群では100%と有意に良好な成績であった事が示された.2020年には,通常のバスケットやバルーンカテーテルによる結石除去困難例に対するSpyGlassTM DS下LLとEPLBDを比較したRCT 13が報告され,治療成功率はEPLBD群で72.7%であったのに対し,SpyGlassTM DS下LL群では93.9%と有意に良好な成績であった事が示された.特に先細り状の総胆管などで,胆管径より結石径が大きい場合にはEPLBDよりSpyGlassTM DS 下LLの施行を優先すべきであるとしている.また,胆管径より結石径が大きい症例に対してSpyGlassTM DS下LLでの治療を行った場合$10,000の費用が節約できると述べている.2018年には治療困難結石に対するSpyGlassTM DSを用いた治療が通常ERCPと比較して,治療回数を27%減少させるとともに費用も11%減少させたという報告 14もある.SpyGlassTMDSのスコープはディスポーザブル型であるため費用がかかるといった点が懸念されていたが,SpyGlassTM DSのスコープ自体は高価であるものの,治療回数を減らす事で,結果的に全体の経費削減ができる可能性が示唆されている.今後は2019年に発売された第三世代のSpyGlassTM DSⅡを用いた治療の報告が待たれる.

経口胆管鏡は前述のMBSの他に,経鼻内視鏡として用いられる細径内視鏡などを応用し,直接乳頭から胆管内に内視鏡を挿入する直接経口胆管鏡(direct peroral cholangioscopy:DPOCS)がある.MBSと比較して高画質であり,鉗子口径も大きく,使用できる処置具の制限も少ないメリットがあるが,胃十二指腸と胆管の解剖学的関係から実際に細径内視鏡を直接乳頭から胆管内に挿入するには,かなり高度な技術を要する.細径バルーンを肝内胆管内に進めインフレートしアンカー代わりにして内視鏡を深部胆管に進めるなどの工夫 15が各施設でなされているが,MBSと比較して胆管への挿入性は劣ると言わざるを得ない.一方で,この細径内視鏡を用いた手技は,開口不能例における胃瘻症例でも胃瘻造設部の瘻孔から内視鏡を挿入する事で胆管結石治療を行う事(Figure 3)などが可能であり,症例によって胆管結石に対する重要な治療選択肢となる.

Figure 3 

胃瘻症例に対する細径内視鏡を用いた胆管鏡下結石破砕術.

a:胃瘻造設部の瘻孔から細径内視鏡を挿入.十二指腸内でスコープを反転させる事でVater乳頭を見上げる状態にして胆管挿管した.

b:下部胆管に狭窄あり,その肝側に結石を認める.

c:バルーンカテーテルをアンカーにしながら胆管内に細径内視鏡を挿入し,結石を確認した.

d:内視鏡が胆管から抜けやすく,バルーンカテーテルをアンカーにしたままHo:YAG-LLを施行した.

Ⅳ 術後再建腸管症例に対するバルーン内視鏡下ERCP(balloon enteroscopy-assisted ERCP:BE-ERCP)

胃切除術後のRoux-en-Y再建やBillroth Ⅱ法再建などの術後再建腸管症例における総胆管結石の治療は,まず目的とする十二指腸乳頭に到達する事が困難な事が多く以前はPTCSLなどの経皮的治療や外科的治療が選択される事が多かった.目的部位に到達する事が困難である理由は,目的部位への長い距離や吻合腸管分岐部の急峻な角度,癒着などの術後変化などが挙げられるが,2001年に初めて報告 16された小腸疾患用のバルーン内視鏡がERCPに応用されるようになった事から,目的部位に到達する事が比較的容易となり,術後再建腸管症例における総胆管結石治療に劇的な進歩をもたらした.当初のバルーン内視鏡は小腸疾患用であったためスコープ長が非常に長く,ERCP関連手技に使用できるデバイスが限られていたが,スコープ長の短いショートタイプのバルーン内視鏡が開発され,このショートタイプバルーン内視鏡を用いたERCP関連手技に関する多施設共同前向き研究が2016年に報告された 17.盲端到達成功率97.7%,ERCP関連手技成功率97.9%,偶発症発生率10.6%であり,その高い有用性と安全性が示された.当初のショートタイプバルーン内視鏡は鉗子口径が2.8mmと小さかったが,2016年に発売されたダブルバルーンのEI-580BT(富士フイルム社),シングルバルーンのSIF-H290S(オリンパス社)は,鉗子口径が3.2mmと大きくなった事から,通常のERCPによる総胆管結石治療で使用するデバイスをほぼ制限なく使用する事が可能となり,さらに術後再建腸管症例に対するバルーン内視鏡下の総胆管結石治療が行いやすくなってきている.

術後再建腸管症例においても通常のESTやEPBD,さらにはEMLやEPLBDを用いても除去できない様な巨大結石や嵌頓結石が経験される.その場合にはPTCSLへの切り替えや,一旦ENBDを留置して,造影下にESWLで結石破砕し,再度バルーン内視鏡で結石除去を行う治療法が行われている.近年,バルーン内視鏡のオーバーチューブを腸管内に残し,SpyGlassTM DSや経鼻用の細径内視鏡をオーバーチューブ内に通して総胆管内に挿入する事でPOCSLを行う治療方法もcase seriesで報告されている 18)~20.また,乳頭処置で大きな開口部を得る事ができればバルーン内視鏡を直接胆管内に挿入しEHLを施行する事も可能である(Figure 4).

Figure 4 

ダブルバルーン内視鏡を用いた経口胆管下結石破砕術(POCSL).

a:幽門側胃切除,RY再建症例.ショートタイプダブルバルーン内視鏡を用いVater乳頭部まで到達した.

b:胆管内に巨大積み上げ結石を認める.

c:バルーン内視鏡を直接胆管内に挿入しEHLを施行.

d:胆管内の結石が明瞭に視認できる.

e:EHLで破砕された結石をバスケットで把持し除去した.

Ⅴ EUSガイド下順行性治療(endoscopic ultrasound-guided antegrade treatment:EUS-AG)

近年,バルーン内視鏡を用いても治療困難な術後再建腸管症例や消化管閉塞などにより十二指腸乳頭に到達できない症例における総胆管結石に対し,経消化管的なEUSガイド下順行性治療(EUS-AG)が報告されている.2011年にRoux-en-Y再建後の総胆管結石6症例に対してEUS-AGを行った報告が最初である 21.2016年には本邦からも29例を集積した多施設共同後ろ向き研究 22が報告されたが,結石除去成功率72%,偶発症率17%であった.EUS-AGはEUSガイド下に経消化管的に胆管穿刺をした後,ガイドワイヤーを胆管,乳頭を越えて十二指腸まで進め,ガイドワイヤーに沿って拡張バルーンを挿入し,EPBDを行い,バルーンカテーテルで結石を十二指腸へ排出するという手技である.一期的に手技を行っているため胆汁が腹腔内に漏れるリスクがあり,デバイス径の大きい処置具は使いにくいという問題がある.近年,まずは超音波内視鏡下胆管胃吻合術(EUS-guided hepaticogastrostomy:EUS-HGS)でステントを留置し胆管ドレナージをしつつ瘻孔形成を待ち,二期的に瘻孔を介してEMLやSpyGlassTM DS下EHLで結石を除去する治療法もcase seriesで報告されている 23)~25.しかし,これらのEUSガイド下の治療法は,まだエビデンスレベルの高い報告はなく,その有用性,安全性について今後もさらなる検討が必要である.手技難易度の高い治療であり,その適応は慎重に検討する必要があり,胆管拡張に乏しく胆管穿刺に難渋する事が予測されるなどの症例においては,古典的な経皮経肝的順行性治療やPTCSLを選択する事も必要である.

Ⅵ 肝内結石治療

肝内結石の治療は従来,胆管狭窄を伴っている事が多い事や,肝門部及び肝内胆管の屈曲が強い事などから,経乳頭的なERCP関連手技のみでの治療は困難な事が多く,ESWLを併用した治療やPTCSLが行われる.さらには肝内胆管癌を併発する可能性がある事や,結石再発を繰り返す事が多い事から外科的な肝切除が選択される事も少なくない.しかし,内視鏡的治療の進歩により,経口胆管鏡も含めた経乳頭的なERCP関連手技が行われる事が増加してきている 26.特に胆道再建術後の肝内結石においてはPTCSLが選択される事が一般的であったが,2009年に術後再建腸管症例に対するBE-ERCPに関するケースシリーズの中で,バルーン内視鏡を用い胆管空腸吻合部からの結石除去に成功したとの報告がされ 27,以後同様の治療例が増加している.近年,胆管空腸吻合部からバルーン内視鏡を直接胆管内に挿入しEHLを施行した症例報告 28や,オーバーチューブを腸管内に残し,SpyGlassTM DSや経鼻用の細径内視鏡をオーバーチューブ内に通して肝内胆管内に挿入する事でPOCSLを行う治療方法もcase seriesで報告されている 29.さらには近年,総胆管結石のEUSガイド下治療と同様の手技で肝内結石治療を行う治療方法もcase seriesで報告されている(Figure 5 19),20),30.以上の様に肝内結石の治療は従来の外科的治療や経皮的治療が減少し,経乳頭的または経消化管的治療が増加する事が今後も予想されるが,その長期成績などを含めた検討が待たれる.

Figure 5 

胆管空腸吻合症例における肝内結石に対するEUS-HGSルートからの胆管鏡下結石破砕術.

a:EUS下にB3を19GFNA針で穿刺し胆管造影を施行.B3起始部に結石を認める.

b:瘻孔を形成するため10Frのプラスチックステントを留置してEUS-HGSを施行.

c:瘻孔形成後にHGSルートからSpyGlassTM DSを挿入し肝内結石に対しEHLを施行.

d:SpyGlassTM DS下にEHLプローブを結石に近接させ破砕を行った.

Ⅶ おわりに

近年の胆管結石に対する内視鏡治療の進歩は目覚ましく,様々な治療方法が可能となり,従来は内視鏡的に治療困難であった結石を,内視鏡的により簡便に治療する事が可能となっている.胆管結石を安全かつ効率的に治療するためには,それぞれの治療方法の特徴をよく理解した上で,それぞれの施設の設備状況,患者の状況,結石の状況に応じて適切な治療方法を選択し,場合によっては複数の治療方法を組み合わせるなど,慎重かつ臨機応変に治療を行う事が重要である.現状では熟練した術者のいるhigh volume centerでの施行が推奨される難易度の高い治療方法もあり,この様な手技の普及のため,さらなる治療手技の標準化及びデバイスの開発が待たれる.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

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