日本消化器内視鏡学会雑誌
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手技の解説
咽喉頭腫瘍に対するELPS(endoscopic laryngopharyngeal surgery)の適応と手技の実際
卜部 祐司 岡 志郎田中 信治
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2021 年 63 巻 2 号 p. 213-222

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要旨

近年,咽喉頭領域に表在癌が多く発見されるようになり,咽喉頭表在腫瘍に対する内視鏡治療に注目が集まっている.ELPS(endoscopic laryngopharyngeal surgery)は内視鏡医と耳鼻咽喉科医が合同で咽喉頭腫瘍を切除する手技であり,他の内視鏡手技と同様に臓器温存が可能な術後QOLに優れた安全性の高い手技である.また,ELPSはスピーディーな切開剝離が可能であり,喉頭展開下における良好な視野で治療方針を耳鼻咽喉科医と相談しながら治療ができるなど利点も多い.特に放射線化学療法後の遺残再発病変に対してELPSは有用な手技であり,咽喉頭癌の治療の選択肢の一つとして期待される.

I はじめに

内視鏡観察にて狭帯域光観察など画像強調技術が広く用いられるようになり,早期の咽喉頭癌が早期に診断される機会が増えている.特に中下咽頭癌は食道癌と同様に飲酒や喫煙が危険因子であるため 1,食道癌のスクリーニング中に発見されることが多い.中下咽頭癌の治療は放射線化学療法や喉頭全摘術が施行されることが多いが,表在癌で発見される機会が増えるにつれて内視鏡切除が増加傾向にある.これまで本邦では,当初,中下咽頭表在腫瘍の治療として内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD:endoscopic submucosal dissection)が主流であったが 2,耳鼻咽喉科医が表在癌診療を行う機会が増加するにつれ,耳鼻咽喉科医も咽頭表在腫瘍の治療に積極的に参加するようになっている.endoscopic laryngopharyngeal surgery(ELPS)は,内視鏡医と耳鼻咽喉科医が共同で治療する手技で,咽頭表在腫瘍を彎曲型喉頭鏡により喉頭展開を行い,内視鏡視野下に鉗子や高周波処置用内視鏡機器を用いて切除する術式である.本稿では,当院におけるELPSの適応と手技の実際,ELPSにおける内視鏡医の役割を概説する.

Ⅱ 咽喉頭の解剖

咽頭は高さにより上咽頭,中咽頭,下咽頭の3部位に区別される.頭頸部癌取扱い規約第6版 3によると,上咽頭は頭蓋底から硬口蓋と軟口蓋の接合部までを指し,後上壁,ローゼンミュラー窩を含む側壁,軟口蓋上面の下壁が含まれる.中咽頭は硬口蓋と軟口蓋の移行部から喉頭蓋野底部の高さまでを指し,舌根と喉頭蓋野の前壁,口蓋扁桃と扁桃窩および口蓋弓と舌扁桃溝の側壁,後壁,軟口蓋下面と口蓋垂の上壁が含まれる.下咽頭は舌骨上縁から輪状軟骨下縁までを指し,輪状後部,梨状陥凹,咽頭後壁が含まれる.このうち内視鏡で大部分が観察できるのは中下咽頭であり,この領域がELPSの治療対象となる.また下咽頭は解剖学的には輪状軟骨下縁までとされるが,内視鏡観察では下咽頭と食道入口部の境界は確認できない.このため川久保らは食道柵状血管に注目し,柵状血管網上端が境界部の指標になると報告している 4

組織学的には咽頭上皮層は食道と同じく重層扁平上皮で被覆されており,上皮下層は血管やリンパ管を豊富に含む繊維組織層で構成されている.粘膜筋板は食道と異なり,下咽頭食道接合部近傍を除いて欠損しており(Figure 1 5,この粘膜筋板の存在も食道と咽頭の鑑別の指標となる.また筋層は横紋筋で構成されているため,食道と比較して厚いが,硬口蓋や声帯上部などでは固有筋層がなく骨や軟骨が上皮下層の直下にある.

Figure 1 

咽喉頭領域の解剖 5

Ⅲ ELPSの適応

咽頭表在癌は明確に定義されていないものの,一般的に食道癌に準じて「咽頭,喉頭で癌細胞の浸潤が上皮下層にとどまり,固有筋層におよんでいないものを表在癌とし,リンパ節転移の有無は問わない.」とされている.なお,咽喉頭癌では早期段階の癌の深達度や大きさとリンパ節転移との関連が十分に検討はされていない.従って,リンパ節郭清を伴わない内視鏡治療の適応に関するclinical evidenceはないが,上皮下層浸潤癌ではリンパ節転移例を散見することが報告されており 6),7,川久保らは絶対適応が術前検査にてリンパ節転移を認めない上皮内癌,相対適応が術前検査にてリンパ節転移を認めない上皮下浸潤(SEP)癌としている 4

通常,術前診断は咽頭腫瘍の肉眼型とNBI食道学会分類(JES-SCC)を用いて診断される.Tateyaら 8は139症例の咽喉頭癌に対して食道癌に準じて腫瘍の肉眼型を0-Is(1mm以上の隆起性病変),0-Ⅱa(1mm未満の隆起性病変),0-Ⅱb(平坦型),0-Ⅱc(0.5mm未満の陥凹性病変),0-Ⅲ型(0.5mm以上の陥凹性病変)とわけた場合0-Ⅰ型のすべての症例,0-Ⅱaの約50%の症例において上皮下もしくは筋層への浸潤が認められたと報告している.また,Kikuchiら 9は164の咽喉頭表在癌症例を,JES-SCCに準じてIPCLをB1-3に分類し,深達度と浸潤距離を検討したところ,B1血管のみ認めた症例では約80%程度の症例が上皮内癌であったが,B2血管を認めた症例で78%,B3血管を認めた症例では100%で上皮下浸潤をきたしており,浸潤距離はB2血管を認めた症例ではtumor thicknessの中央値720μmであったが,B3血管を認めた症例では2,256μmとより深部まで癌が浸潤していたと報告している.さらに堅田ら 10はJSC-SCCのTypeB2血管や無血管野(AVA)といった拡大内視鏡所見がリンパ管侵襲やリンパ節転移と相関することも報告している.

Ⅳ ELPSの手技の実際

1.準備器具

ELPSに必要な器具をFigure 2に示す.当院では,手術室にない器具は内視鏡室より持参し,スコープは主にGIF-290Z,高周波電源装置はVIO300D(ERBE)を使用している.高周波ナイフはKD-600 ELPS用針状ナイフ(Olympus),切除困難な部位におけるESDを併用する場面では先端アタッチメントを装着してKD-650デュアルナイフ(Olympus)やMD-47702 SBナイフJr(住友ベークライト)を使用する.また,喉頭展開には,佐藤式彎曲型喉頭鏡,喉頭鏡ホルダ,喉頭鏡ホルダ指示台(いずれも永島医科)を使用している.

Figure 2 

当院でのELPS治療時の器具セット.

a:彎曲鋭匙鉗子,鼻用曲鉗子(永島医科).

b:吸引チューブ.

c:ELPS用ガイド管(太)(永島医科).

d:ELPS用ガイド管(細)(永島医科).

e:佐藤式彎曲型喉頭鏡(永島医科).

f:angle wider.

g:グリセオール(院内製剤).

h:ディスポーザブル注射針 NeedleMaster(Olympus).

2.内視鏡の挿入前に

全身麻酔施行後に気管挿管を行うが,われわれは挿管チューブを病変部位により使い分けている.中咽頭の舌根や喉頭蓋野は狭いため,同部に病変がある場合は,治療デバイスの操作性を確保するため,5mmのスパイラルチューブを経鼻挿管している.一方,この細いチューブでは喉頭挙上の際に喉頭鏡の展開力が伝わりにくいため,中咽頭後壁や下咽頭病変の治療では径8mmの通常チューブを経口挿管している.

3.喉頭展開

下咽頭から食道入口部までの視野を確保するために喉頭展開を行うが,患者の切歯に損傷を防ぐため軟性プラスチックのtooth protectorを装着させる.このtooth protectorは事前に歯科を受診し作成しておく.さらにangle widerを使用し口角の展開も行う.喉頭展開は佐藤式彎曲型喉頭鏡によって施行するが,喉頭鏡による声帯損傷を防ぐため,必ず内視鏡ガイド下に挿入し,喉頭鏡の先端は声帯直上に置き,同部位で喉頭を挙上しホルダと支持台を用いて固定する(Figure 3).彎曲型喉頭鏡の不適切な固定は,術中に喉頭鏡が深く入り声帯損傷の原因となる.このため術中に定期的に喉頭鏡先端の位置確認を行う.また,病変が喉頭蓋野である場合は,声帯直上に喉頭鏡を置くと病変の視認が困難になるため,喉頭鏡の先端を舌根に置いて固定する.

Figure 3 

喉頭展開後の喉頭鏡の固定方法.

佐藤式彎曲型喉頭鏡(a)にて喉頭展開を行い喉頭鏡ホルダ(b)にて喉頭鏡ホルダ指示台(c)に固定する.

4.病変の精査

咽頭腫瘍は通常内視鏡観察時には全体像の把握が困難であるため,ELPS術直前に病変の詳細な観察を行う.われわれはGIF-290Z(Olympus)を用いて通常光観察,NBI観察,ヨード染色を施行し,腫瘍がELPSの適応病変か否かを確認している.また,治療時には副病変を発見されることが多く,咽頭全体の詳細な観察も重要である.

観察の手順は,まず病変を微温水で十分に洗浄し,唾液や粘液を取り除く.通常白色光観察とNBI観察にて病変の全体像を観察し,拡大観察にて病変内のIPCLを観察する.観察所見はJES-SCCに準じて記載する.さらにわれわれはより正確な深達度診断を行うために超音波装置ARIETTA S70(日立製作所)と小型リニアプローブL51K(日立製作所)を用いて観察を行い,最深部の深達度と病変範囲の把握に努めている.最後に5%ヨード5cc 1A(院内製剤)を1.5%に希釈して中下咽頭全域に散布し,病変の範囲と副病変の有無を精査する.同時にまだら咽頭がないか観察し,異時性多発病変の危険性について把握する.その後,これら一連の精査の結果,病変の深達度,主病変と副病変との位置関係,切除範囲などを推察し治療計画を立てる.全身麻酔下での治療は手術枠などの兼ね合いもあるが,短期間で複数回行うことは困難なため,できる限り1回で全病変の切除が望ましい.しかし,両側梨状窩に病変を認める場合は術後に狭窄をきたす可能性もあるため,2期的な切除も考慮する.

5.マーキング(Figure 4
Figure 4 

手術の手順.

a:ルゴール不染域より2.3mm離してマーキングしその外側を切開する.

b:鉗子でカンタートラクションをかけながら切除する.

c:止血を確認する.

d:切除標本に再度ルゴールを散布しマージンの確認する.

ヨード染色後に治療対象病変に対してマーキングを行う.マーキングは病変の約2-3mm外側に施行する(Figure 5 5.ただし上皮下浸潤が疑われる病変では3-4mm外側にマーキングを施行している(Figure 5 5.マーキングは切開や剝離に使用するデバイスやAPCで施行すると良い.われわれはマーキングから切開・剝離までKD-600 ELPS用針状ナイフ(Olympus)を使用する.高周波電源装置はVIO300D(ERBE)を用い,SoftCoagモードeffect 5 50Wで行っている.マーキング後にチオ硫酸ナトリウム水和物(院内製剤)20ccを散布し,ヨードを中和する.

Figure 5 

当院での水平・深部切除マージンの取扱い 5

6.切開・剝離(Figure 4

局注液は生理食塩水でも良いが,われわれは十分な膨隆を確保するためグリセオールを局注液として使用している.局注は局注針をELPS用ガイド管に挿入し,マーキングの同心円上に行う.ただし,グリセオールを使用する際は,局注液による喉頭浮腫を予防するため,局注量は消化管ESDと比べて控えめとするように心がける.同様に,喉頭浮腫予防のためヒアルロン酸ナトリウムの使用は控える.

切開はマーキングの外側1-2mmをEndocut effect 2で行う.切開を開始するのは頭側,肛門側のいずれの場所でも良いが,ELPSはESDのようにフードを用いて切開部位を視認することができない.このため梨状窩など狭い部位での切開では,局注液などによる粘膜膨隆で視野確保が困難となりやすい肛門側から切開を行うのが望ましい.

ELPSは,内視鏡と剝離デバイスを別々の術者によって操作するため,ESDと比べ広い視野で剝離を施行できることが利点である.さらにESDで使用される糸付きクリップは1方向にしかカウンタートラクションをかけることができないが,ELPSでは把持鉗子を用いて多方向へカウンタートラクションをかけることが可能である.このため,短時間で広範囲の剝離が可能となる.高周波電源装置の設定は,咽頭部は脂肪が多く,できる限りEndocutなどの切開モードで剝離を行うのが望ましい.また,ELPSは病変の深達度によって切除深度の調整が容易である.われわれは,cEP癌は癒着予防のため上皮下層を残すよう上皮下層中層で剝離を行い,cSEP癌は筋層直上で切除を行っている(Figure 5 5

7.偶発症

偶発症としては出血,穿孔,声帯損傷,声帯麻痺などが挙げられる.

術中に出血で難渋することは少ないが,中下咽頭の側壁や舌根部は上行咽頭動脈や上行口蓋動脈の分枝が走行しており,損傷すると噴出性の出血をきたす.ほとんどの出血は針状メスなどの切開・剝離デバイスを用いて止血可能であるが,止血困難な場合はディスポーザブル高周波止血鉗子 FD-411QRコアグラスパー(Olympus)で止血を行う.抜管後の後出血は気道閉塞や誤嚥性肺炎の原因となるため特に注意が必要であり,治療後の潰瘍底に露出血管がないように処理をしておくことが重要である.

咽頭は周囲を分厚い横紋筋と軟骨に覆われているため穿孔の危険性は極めて低いが,下咽頭から食道入口部では周囲に骨や軟骨がなく,薄い平滑筋の外側は縦隔となっているため,同部位に対する治療では穿孔に注意しながら治療を行う.

梨状陥凹喉頭面や被裂には上喉頭神経の分枝が走行しており,同神経に電気的な刺激が加わることで,一過性声帯麻痺を起こすことがある.特に右梨状陥凹喉頭面では同神経は上皮下層の浅い部分を走行しており(Figure 6),同神経を切除することによって嚥下障害の原因にもなるため,同部位での処理の際には注意を要する.

Figure 6 

ELPS後潰瘍底に対する処置.

左:左梨状陥凹喉頭面の腫瘍に対するELPS後の潰瘍底.上咽頭神経の分枝を残して切除した.

右:左梨状陥凹の腫瘍に対するELPS切除例.喉頭変形予防のためネオベールを貼布した.

8.術後管理

下咽頭の被裂や輪状後部付近を切除した場合は治療終了時に喉頭浮腫を認める危険性がある.このため同部位付近の治療後には必ず,声帯や声門上部を内視鏡で観察し浮腫がないこと確認する.浮腫が軽度であった場合は抜管可能であるが,喉頭や声帯の刺激により浮腫が増悪する可能性があるため,過剰な咳や喀痰行為は控えるよう患者に指導する.さらに緊急時に対処するため術後翌日まではSICUなどの集中的に看護が可能な場所に入室してもらうことが望ましい.当院でも,喉頭浮腫のため,実際に1例で術翌日の再挿管を経験している.喉頭浮腫が顕著な場合は,術後すぐに抜管せずSICUなどに入室し,浮腫の改善を待って抜管を行う.われわれは,浮腫の程度を午前中に喉頭鏡で確認して,声帯が視認できるようになっていれば抜管を行っている.抜管後に浮腫が増悪する可能性もあるため一晩はSICUに在室して翌日に基準階の病室に帰室している.挿管中は喉頭浮腫予防のため,1日1回サクシゾン100mgを点滴静注する.

下咽頭癌で切除が広範囲におよぶ場合は,嚥下障害による誤嚥性肺炎の危険性が高まるため術後管理には慎重を要する.われわれは切除範囲が両側の梨状陥凹におよぶ腫瘍や約3/4周性におよぶ腫瘍に対しては,切除後潰瘍底にトリアムシノロン10mg/mlを5cc局注している.トリアムシノロン局注療法は食道表在癌治療後潰瘍に対する狭窄予防と同様である.さらに梨状陥凹の喉頭側に広がる腫瘍では喉頭の変形によって誤嚥の危険性が増す可能性がある.このような症例では喉頭の変形による誤嚥を回避するために,ベリプラストPコンビセット(3mLキット,CLSベーリング)によるネオベールシート015G/03G(グンゼメディカルジャパン)の被覆を術後潰瘍に施行している(Figure 6).現時点では症例数がまだ少なくまだ十分なエビデンスは得られていないが,われわれの経験症例では術後に変形をきたした例はない.なお,広範な咽頭表在癌症例では早期の食事再開が困難なため,ELPS直後に胃管を内視鏡ガイド下に挿入している.胃管挿入により栄養状態を気にすることなく,嚥下訓練後に食事を開始することが可能である.このようにELPS後の術後管理には専門性が求められるため,咽頭表在癌患者を耳鼻咽喉科入院とし,消化器内科医が併診する形を取っている.

術後に経口摂取が可能になれば退院としている.追加治療の必要性については,病理組織所見の結果を踏まえて耳鼻咽喉科と消化器内科合同のカンファレンスで決定している.当院の現在の方針は明らかな深部断端の露出がなければ,tumor thicknessに関わらず経過観察とし,深部断端陽性や脈管侵襲陽性であれば追加治療を考慮している.

9.術後サーベイランス

術後サーベイランスは主に耳鼻咽喉科で行われており,EGDと診察を1年目は4カ月毎,2,3年目は半年毎,4年目以降は1年毎に行っている.咽頭腫瘍のリンパ節転移は最初に頸部リンパ節にきたすため,診察の際には頸部の触診を必ず行い,リンパ節が腫れていないか診察する.上皮内癌であれば定期的なCTやPET/CT撮影は行っていないが,上皮下浸潤癌であれば半年毎にCTもしくはPET/CT撮影を行っている.

Ⅴ ELPSにおける内視鏡医の役割

ELPSにおける内視鏡医の役割は多岐にわたる.最も重要な役割はELPS時の内視鏡操作であることは言うまでもない.ELPS時の内視鏡観察は腹腔鏡手術の際の腹腔鏡のように,治療箇所を視認できるように展開する.比較的広い中咽頭後壁での手術では問題ないが,喉頭蓋野や下咽頭の梨状陥凹での手術は管腔が狭く視野の確保に難渋することも多い.このような狭い場所でELPSを施行する際は,ESD時よりやや遠めより腫瘍を視認するような感覚でスコープを保持することがポイントである.なぜならば,狭い空間における治療の際は,スコープが鉗子と干渉を起こして器具の操作に悪影響を与えてしまうからである.干渉を回避するためには,鉗子を先に腫瘍部付近まで挿入し,それに沿わせるようにスコープを挿入すると鉗子とスコープの軸が平行になり干渉を起こしにくくなる.しかし,下咽頭の食道入口部付近や右梨状窩の腫瘍に対するELPSでは,鉗子が届かなかったり内視鏡と干渉して操作が困難になったりするため,ELPSが困難であることが多い.このような場合には,全周切開もしくは肛門側の切開はESDで行い,剝離をELPSで行うハイブリッド手術を施行するなどの工夫が必要である.ESDは主に針状ナイフを使用するが,操作性困難な部位や食道入口部などではKD-650デュアルナイフ(Olympus),MD-47702 SBナイフJr(住友ベークライト)も併用している.また,当院では,咽頭表在癌の治療方針について耳鼻咽喉科,放射線治療科と一緒にカンファレンスを行い決定している.治療の際も病変の範囲診断や深達度診断では内視鏡医は一日の長があるため,治療方針の決定に積極的に関わる必要がある 5

以上,ELPSに関与する内視鏡医は十分な知識と技術を持つ必要があり,食道や胃において少なくとも10例以上のESD経験のある医師であることが望ましい.その際,スコープ操作の簡便な中咽頭後壁病変から開始し,徐々に舌根・喉頭蓋野病変や下咽頭病変に対して施行をすると良いであろう.

Ⅵ 当院におけるELPSの治療成績

当院では,2007年11月より咽頭腫瘍に対する内視鏡治療を導入したが,2014年4月以降,咽頭表在癌は全例ELPSで行っている.2020年3月までに44例64病変[男性41例,女性3例,中咽頭13病変,下咽頭51病変,腫瘍径20±10mm(中央値;20mm,5-40mm),0-Is 7病変,0-Ⅱa 24病変,0-Ⅱb 21病変,0-Ⅱc 12病変]に対してELPSを施行した(Table 1).治療成績は,完全一括切除率が92%(59/64)で,不完全切除5例の内訳は深部断端陽性2例,側方断端陽性3例であった.偶発症は誤嚥性肺炎6例,後出血1例に認め,出血からの誤嚥性肺炎のため再挿管を1例に施行したが,偶発症関連死など重篤な偶発症は経験していない.病理組織所見はDysplasia 2病変,上皮内癌 36病変,上皮下浸潤癌 26病変(脈管侵襲陽性 3病変)であった.

Table 1 

当院におけるELPSの治療成績.

Ⅶ ELPSの利点と課題

ELPSの利点としては,耳鼻咽喉科医と共に加療を行うことで,内視鏡医の多くにとって知識が乏しい咽喉頭の解剖を詳細に把握しながら治療を行うことができること,ELPS後の術後管理を耳鼻咽喉科に依頼できることが挙げられる.また,咽頭腫瘍は病変発見時には腫瘍の全景の観察ができていないことや副病変の検索が十分に行えていないことが多いが,ELPSでは視野良好な喉頭展開下で治療方針を耳鼻咽喉科医と相談しながら決めることができるため柔軟な対応が可能である.一方,課題として,内視鏡医に比べてまだまだ耳鼻咽喉科医の数が少なく,中小規模病院では耳鼻咽喉科医が不在な施設もあることが挙げられる.また,常勤医であっても咽喉科や頭頸部外科が専門でなく,耳や鼻が専門である耳鼻咽喉科医もいるためELPSが施行できない施設も存在する.現時点では,症例数も限られるため,ELPS含めた咽頭表在腫瘍の加療は拠点病院への症例集積が望ましいであろう.

頭頸部癌の治療は早期であれば放射線治療で癌腫の根治と機能温存の両立が可能であるが,進行再発癌では喉頭全摘がさけられない場合も多い.癌治療のため発声機能を失うのは,患者のQOLを著しく低下される.このためわれわれは放射線化学療法後の遺残病変に対しても積極的にELPSを施行している.また,咽頭癌のリンパ節再発はほぼ頸部リンパ節に転移することから,手術やCRTの拒否例にELPSと頸部リンパ節郭清を施行して癌のコントロールも行うこともある.

Ⅷ おわりに

ELPSの適応と手技の実際について当院での経験を中心に解説した.ELPSは中下咽頭領域のすべての病変に対応可能な手技であり,短時間で安全かつ確実な切除が可能となる.ELPSに関わる内視鏡医は,咽喉頭の解剖を十分に理解した上で,他臓器でのESD手技に加えてELPS特有の手技の習得が必須である.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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