日本消化器内視鏡学会雑誌
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手技の解説
Zenker憩室に対する軟性内視鏡的憩室隔壁切開術(動画付き)
桑井 寿雄 楠 龍策田丸 弓弦
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電子付録

2021 年 63 巻 2 号 p. 223-235

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要旨

Zenker憩室(ZD)は比較的稀な疾患であるが,嚥下障害や摂食困難による体重減少,逆流による誤嚥性肺炎などによりQOLの低下の原因となる.これまで外科的外切開術や硬性内視鏡を用いた憩室隔壁切開術が施行されてきたが,近年欧米を中心として経口軟性内視鏡を用いた憩室隔壁切開術(Flexible endoscopic septum division:FESD)が広まり,2020年の欧州消化器内視鏡学会(ESGE)ガイドラインでは第一選択の治療法に位置付けられた.本邦でも2020年7月より先進医療として承認され,今後標準治療としての保険収載が期待される.そこで本稿では,ZDの病態およびその治療法としてのFESDの手技,治療スケジュールとフォローアップについて詳細に解説する.

Ⅰ 緒  言

Zenker憩室(Zenker’s diverticulum:ZD)は欧米と比べ本邦では稀と思われ認知度も低い.そのため,症状はあるが診断まで至っていない,あるいは外科的手術しか治療選択肢がないと思い経過観察されている潜在的な患者が相当数いると考えられる.このような状況下であったが,2020年7月より本邦でもZDに対する軟性内視鏡的憩室隔壁切開術(Flexible endoscopic septum division:FESD)が「先進医療」として施行可能となった.

Ⅱ Zenker憩室(ZD)とは?

咽頭食道憩室であるZDは,咽頭食道後壁の下咽頭収縮筋斜走部と輪状咽頭筋横走部との間のKillian三角部と呼ばれる解剖学的脆弱部に圧出性に生じる(Figure 1).その原因はまだ明らかになっていないが,輪状咽頭筋の弛緩不全により食道内圧が上昇することが主な原因と考えられている 1.出現する主な症状は嚥下障害や咳嗽で,重症になると嘔吐や摂食困難による体重減少,食物の逆流による誤嚥性肺炎の原因となり,QOL(Quality of Life:生活の質)の低下が著しい.

Figure 1 

Zenker憩室.

英国の疫学データでは高齢男性に多く,発症率は年間10万人に2人と比較的稀な疾患であると言われている.本邦の疫学データはないが,アジア特に本邦では欧米と比べ非常に稀であると考えられてきた 2.しかし,国立病院機構消化器ネットワークグループ19施設のアンケート調査では過去3年で63人の患者が確認された.これは疾患検出率が比較的低いと言われている内視鏡検査のファイリングからの簡易的抽出のみであることも考えると,本邦にも潜在的な患者が相当数いると予想された.このことから決して稀な疾患とは言えず,消化器内視鏡医なら知っておくべきである.

Ⅲ Zenker憩室(ZD)の診断

臨床的にZDを疑われた場合,その診断にバリウムによる消化管造影検査は必須である.内視鏡検査で病変を指摘された場合も造影検査をして最終診断をする必要がある.食道造影検査の際はFigure 2のような角度で撮影し,術前に隔壁およびパウチの大きさを把握する 3

Figure 2 

Zenker憩室の大きさの測り方.

食道と憩室の間の隔壁が同定される角度の食道透視の写真を用い「高さ」と「幅」を測定する.「憩室の高さ」は隔壁上縁の高さから憩室内最底部までの距離①とし,「憩室の幅」は「高さ」を測定した線と直角に交わるラインで最も広いところの距離②とする.

ZDの診断で注意しなければならない点が2点ある.まず,存在診断について内視鏡検査は決して疾患検出率が高くないことを知っておく必要がある.内視鏡検査で過去2年連続で病変を指摘されていなかったにもかかわらず,CTで初めて発見された例も経験している.当院では,臨床的にZDを疑われた時は,内視鏡検査で病変を指摘されていなくても食道造影検査を施行するようにしている.

もう一点は,その他の咽頭食道憩室との鑑別診断である.ZD以外にもヘルニアの部位によって,いくつかの咽頭食道憩室がある(Figure 3).特にKillian-Jamieson憩室(Killian-Jamieson diverticulum:KJD)との鑑別は重要である.ZDは後壁に,KJDは側壁から前壁に存在し,ZDでは憩室直下に輪状咽頭筋の隆起を認めることが主な鑑別点となる.実はKJDに対してもFESD施行報告がある 4.しかし,反回神経がKJDの近傍を走っていることや,目的が食道壁の輪状筋を切除しパウチの形状を消失させることとなるので,注意深い手技が必要で難易度が高くなるためその適応には慎重になる必要がある.

Figure 3 

Zenker憩室とKillian-Jamieson憩室.

Zenker憩室は輪状咽頭筋直上のKillian三角部から後壁に圧出性に生じる(青点線).一方Killian-Jamieson憩室は輪状咽頭筋の直下の側方から前方へKillian-Jamieson spaceより圧出性に生じる(赤点線).

Ⅳ Zenker憩室(ZD)の治療

治療適応

治療の適応となるZDは,症状のある症例である.ZDは無症状で経過することも多々あり,その場合は経過観察でよい.しかし,年齢を経るごとに症状が出現しやすくなるので予め注意しておくことは必要である.前述のように主な症状は嚥下障害や逆流で,重症になると体重減少や誤嚥性肺炎を生じる.症状のスコアとしてはこれまでDakkak・Bennett嚥下障害スコアscore 5が多く用いられてきた(Table 1).しかし,ZDの症状は嚥下障害だけでなく多彩なため,われわれは上記各症状を考慮したThe Dysphagia, Regurgitation, Complications(DRC)scale 3を欧州の医師と共に作成し,それを元に治療の効果を判定するようにしている(Table 2).

Table 1 

Dakkak・Bennett嚥下障害スコア.

Table 2 

The Dysphagia, Regurgitation, Complications(DRC)scale.

主な治療法

ZDに対してこれまで外科的外切開術,硬性内視鏡を用いた憩室隔壁切開術そして経口軟性内視鏡を用いた憩室隔壁切開術(Flexible endoscopic septum division:FESD)と3種類の治療法が報告されている 6.前二者の治療成績の報告では,外科的外切開術は成功率93%,合併症発生割合10.5%(反回神経損傷3.3%,縫合不全[または穿孔]3.3%,術後頸部感染1.8%など),再発率5%,死亡率0.6%であった 7),8.また,硬性内視鏡手術は成功率91%,合併症発生割合9.6%(穿孔4.8%,縦隔気腫1.3%,歯損傷0.9%など),再発率12.8%,死亡率0.2%と報告されている 9

一方,FESDは1995年にMulderらによって初めて報告された一番新しい治療法である 10.その後,内視鏡器具や高周波ナイフ,高周波発生装置の進歩に伴い次第に広まっていき,その治療成績もメタアナリシスで成功率91%,合併症発生率11.3%,再発率10.5%と,安全性,有効性とも従来の2つの治療法と同等であった.特に合併症に関しては全例で保存的に加療されており,重篤なものは報告されていない(主な合併症は縦隔気腫5.7%,穿孔4.0%,出血3.1%) 11.現時点でFESDと他の治療法を直接比較するRCTなどの報告はないが,FESDは従来の治療法と同等の成績で,より患者への侵襲が少ないことから欧米を中心として急速に広まっている.そして,2020年5月にESGEから出されたガイドラインでは,FESDがZDに対する第一選択治療法とされた.ちなみに,治療後(外切開術や硬性内視鏡手術後でも)の症状が再発したZDに対しても,まずはFESDを考慮することを欧州消化器内視鏡学会(European Society of Gastrointestinal Endoscopy:ESGE)のガイドラインで勧められている 6

国内の現状に関しては,FESDは保険収載されておらず,未だ外科的外切開術と硬性鏡手術の症例報告が散見されるだけであった.2019年になり,われわれの施設からFESDに関する報告をしているが,現時点でわれわれの知る限り本邦からのFESDに関する報告はこれだけである 12.その結果をもとに厚生労働省にFESDを「先進医療」として申請し,2020年7月1日付で承認を得た.今後は正式に「先進医療」として施行可能となる.

Ⅴ 軟性内視鏡的憩室隔壁切開術(Flexible Endoscopic Septum Division:FESD)

FESDは内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)の際に使用する高周波ナイフを用い,食道と憩室の間にある輪状咽頭筋よりなる隔壁を切開することで通過障害や憩室の内圧上昇を軽減させる(Figure 4).前述のように輪状咽頭筋の弛緩不全がZDの原因と考えられているため,この輪状咽頭筋を完全に切開し内圧を軽減させることを目的とする.パウチの完全な消失までいかなくとも症状の改善は期待できるが,結果としてパウチが消失すれば尚よい.

Figure 4 

軟性内視鏡的憩室隔壁切開術.

Zenker憩室に対する軟性内視鏡的憩室隔壁切開術は,食道と憩室の間にある輪状咽頭筋よりなる隔壁を切開することで通過障害や憩室の内圧上昇を軽減させる.

FESDで使用する高周波ナイフは繊細な処置ができるため,切開距離や深度の微調整が可能となる.このため従来の治療法と比べ,患者や憩室の特性による制限を受けにくく,患者への侵襲も少ない.その上,手術時間は20分程度と短く簡便で,入院期間の短縮などメリットが多いとされる 13

先進医療としての注意事項

本治療に用いる高周波ナイフはESD,「内視鏡的に組織の切断,切除,切開,焼灼,止血,凝固,蒸散,剝離等を行うため」の使用に薬事承認されている.一方で,FESDの手技は保険収載されていないため,「先進医療」として行う必要がある.そこで2点注意しなければならない事項がある.

まず,「先進医療」としてFESDを行う場合,全身麻酔管理下での施行を原則とされた.海外の既報や当院でのこれまでの施行例でも多くで非挿管のdeep sedationで行われている 12),14.しかし,その場合プロポフォールやレミフェンタニルなど内視鏡時の鎮静鎮痛に保険収載されてないものを使用する必要がある.「先進医療」と薬剤の保険適応外使用の併用は安全性の担保の面から問題があるため,挿管による全身麻酔管理下での施行が原則となった.

もう一点は,本治療の研修体制として新規に始める医師は,日本消化器内視鏡学会専門医でESDの十分な経験症例数(50例)を有していることを必須とし,さらにその上で,施行経験のある医師の指導の下に術者として最低2例経験し,手術の流れや切開する場所を理解することが条件とされた.

使用する器具

内視鏡と先端フード

当院では内視鏡はGIF-Q260J(オリンパス社製)を好んで使用している,鉗子の出口が6時方向に近いことで,ハサミ型ナイフの操作を視認しやすくなるからである.また,送気には炭酸ガスを用いることがESGEのガイドラインでも推奨されている 6.主な合併症として縦隔気腫や穿孔が指摘されているので,その予防および対策としてである.

先端フードは,元々狭い操作野における視野確保のために必須である.使用する先端フードは日頃から慣れているものでよいが,当院ではトップ社製のエラスティック・タッチ(スリット&ホール型)を使用している.このフードは自由に長さの調整ができるため,われわれの場合,内視鏡先端から6mm程度フードが出る長さでテープを用いて固定している.ハサミ型ナイフを使用する場合,フード内でハサミを開いたり回転させたりするのである程度の空間が必要になる.先端フード装着した後,事前にハサミ型ナイフが干渉することなく回転するかどうかをチェックすることを忘れないようにする.

高周波ナイフ

ESDで使用するナイフが応用されている.FESDが施行され始めのころはニードルタイプのナイフ使用例の報告が多かった.基本的に使い慣れたものでいいと思われるが,ESGEのガイドラインでは特にフックナイフ(オリンパス社製)とSBナイフJr(住友ベークライト社製)の2種類のナイフをFESDに適した高周波ナイフとして取り上げている 6

当院では,以前よりハサミ型ナイフを用いて大腸ESDを施行していたこともあり,FESDにもハサミ型ナイフを使用している 15.当院でFESDを開始した2018年当時はSBナイフJrには,添付文書上で筋層把持が禁忌となっていたため,クラッチカッター(富士フイルム社製)を使用していた.その後,SBナイフJrに関しても「筋層把持が禁忌」の文言が削除されたため,現在はSBナイフJrを使用している.

局注針と局注液

当院では局注針はトップ社製のスーパーグリップ(25G鈍針4mmハイブリッドタイプ)を使用している.また局注液に関しては,生理的食塩水20mlに,エピネフリン0.1mgとインジゴカルミン0.5mlを加えている.

高周波切開装置

VIO300D(エルベ社)を使用し,そのSBナイフJrに対する設定は基本的に大腸ESDで使用する設定と同じである.具体的には粘膜切開・粘膜下層剝離・筋層切開ともEndocutQ,effect 1,duration 1~3(鋭利さを求める場合は3),interval 1で,止血時はSoft Coag(40W)を使用する.

ガイドワイヤー

憩室パウチと食道管腔の区別をつきやすくするため,ガイドワイヤーを食道管腔を通じて胃内に留置しておく.当院では0.035inのJagwire(ボストンサイエンティフィック社)を使用している.

回収ネット

FESD前に憩室パウチ内の残渣を取り除くために使用する.当院ではUS endoscopy社製のRoth Netを使用している.

クリップ

隔壁切開後の縫縮に用いる.大きな粘膜欠損を縫縮する必要があるため当院では,16mmのSureClip(マイクロテック社)を必ず使用するようにしている.FESDの粘膜欠損縫縮の際には把持力の強いこのクリップは必須と考える.

FESDの手順(Figure 5,6,7,8,9電子動画 1
Figure 5 

Zenker憩室症例.

症例は70歳代,男性.

a:食道造影検査で憩室の大きさは29×21mm大であった.

b:EGDでは,大きなパウチ(6時方向)と狭くなった食道管腔(12時方向)を認めた.

Figure 6 

FESDの手順(1).

a:12時方向に食道管腔,6時方向に憩室パウチが位置するように内視鏡を持って行く.最初に憩室隔壁の中央に生理的食塩水を局注する(X点).

b:局注後隆起.隔壁中央,食道管腔よりの部分から切開を始める(X点).

c:SBナイフJrを縦にして,輪状咽頭筋まで切開していく.

d:左右に走っている輪状咽頭筋を同定する(青矢印).輪状咽頭筋を縦方向に切開する時の下縁は,輪状咽頭筋下端(パウチ側を最深部;赤矢印)を目安とする.

Figure 7 

FESDの手順(2).

a:輪状咽頭筋をSBナイフJrで縦に掴み切開を加えていく.

b,c:輪状咽頭筋(青矢印)の切開を進めていく.

d:切開のゴール地点は,輪状咽頭筋を全切開し,薄い筋線維の束(食道壁の筋層;青矢印)となるところを目安とする.

Figure 8 

FESDの手順(3).

a:切開が終了したら食道管腔の開きが改善したことを確認する.

b:16mmのSureClip(マイクロテック社)を使用して粘膜切開面を縫縮する.

c:パウチも消失し,完全縫縮できた.

Figure 9 

FESD後3カ月のフォローアップ.

3カ月後,症状は消失しており臨床的成功であった.

a:食道透視ではパウチは消失していた.

b:EGDでも狭窄なく,パウチも消失していたが,クリップが残存していたため抜去した.

電子動画 1

実際のFESDの手順を以下に順を追って詳述する.なお,下記の手順はこれまでの当院で施行してきた手術室での麻酔科医管理によるdeep sedation下での手順である.今後「先進医療」で挿管管理下での全身麻酔で行う場合は,1~3および7の手順は省略される.

提示する症例は,70歳代,男性,嚥下困難と逆流を主訴に紹介となった.Zenker憩室の大きさは約3cm大である(Figure 5).

1.手術室入室後リドカインにて咽頭麻酔後,左側臥位.

2.ネーザルハイフロー(30L/分)にて酸素投与.

3.レミフェンタニルで麻酔導入(Target Controlled Infusion[TCI]使用が望ましい).

4.硫酸アトロピン投与後,軟性内視鏡を挿入.

内視鏡は送水機能付きのものを使用し,送気には炭酸ガスを用いる.

5.回収ネット等を使用し,憩室内残渣を全部摘出.

通常憩室パウチ内には残渣を認めることが多い.そのため,隔壁切開を始める前にパウチ内の残渣を回収ネットを用いてすべて摘出する必要がある.柔らかな残渣に関しては,送水機能を用いて洗いながら吸引することでかなりの量を摘出することができる.

前日に予め憩室内残渣を摘出する施設もある.それによりこの手順が省くことができる.(本症例も前日にパウチ内残渣を摘除している.)

6.軟性内視鏡を用いてガイドワイヤーを胃内まで挿入し留置(電子動画 1 00:16~00:31).

ガイドワイヤーを食道管腔を通じて胃内に留置しする.憩室パウチと食道管腔の区別をつきやすくするためだけでなく,もし穿孔など偶発症が起こってしまった場合にも胃管を容易に挿入することを可能にするための安全管理の意味合いもある.胃管そのものを留置しておく方法もあるが,その際は極々細径のものを使用する必要がある.それでなくても術野が狭く,内視鏡操作時に胃管が干渉してしまうからである.

7.憩室隔壁切開開始前にプロポフォールによる鎮静を開始(TCI使用が望ましい).

8.先端フードを装着し内視鏡を挿入し,憩室隔壁を確認(電子動画 1 00:32~00:34).

まず,12時方向に食道管腔,6時方向に憩室パウチが位置するような内視鏡画像になるように内視鏡を持って行く(Figure 6-a).これが手術中も基本的な画面位置となる.先端フードを装着することで,隔壁の視認性はよくなるが,それでも内視鏡の操作できるスペースは解剖学的に広くはない.症例により内視鏡の操作性は違うので,最初に上下左右どの程度内視鏡を振ることができるのか確認しておく.なかなか視野が取りづらいことも多々あるが,切除を進めていくと視野が開けてくるので,最初が最も視野が悪い状態であることを知っておけば気持ち的に楽になれる.

9.憩室隔壁にインジゴカルミン添加生理的食塩水を局注(電子動画 1 00:33~00:40).

最初に憩室隔壁の中央に生理的食塩水を局注する(Figure 6-aのX点,Figure 6-b).これまでの報告では,局注せずに直接切開に入る症例も多数見かける.そのような症例は輪状咽頭筋の同定を気にすることなく,筋線維をがんがん切開していくような症例報告が多い.当院では安全性を重視する目的で,輪状咽頭筋の筋線維を同定して切除深度を決めるようにしている.そのため,局注して粘膜切開を加えることで,輪状咽頭筋の筋線維を同定しやすくしている.もし,局注液が流出して筋線維の同定が難しくなった時は適宜追加する.

10.高周波ナイフを用いて,憩室隔壁中央やや食道管腔よりの部分より粘膜切開を開始(電子動画 1 00:41~01:12).

輪状咽頭筋の筋線維の走行している部位をしっかりと想定して,基本的に憩室隔壁の真ん中から粘膜切開を始めるようにする.いきなり大きなクラッチカッター(富士フイルム社)で,隔壁のパウチ側からがっつり掴んで切開し穿孔をきたした症例報告 16もあることから,最初は食道管腔よりの部分を輪状咽頭筋まで切開していくようにしている(Figure 6-bのX点,Figure 6-c).

11.粘膜下層に切開を進め,輪状咽頭筋を同定(電子動画 1 01:13~01:19).

粘膜切開した部分にさらに切開を加えていくと,左右に走っている筋線維の束を同定することができる(Figure 6-dの青矢印).これが輪状咽頭筋である.

12.輪状咽頭筋を切開(電子動画 1 01:20~02:23).

左右に走っている輪状咽頭筋の筋線維の束をしっかりと同定したら,その束をSBナイフJrで縦に掴み切開を加えていく(Figure 7-a).切開する深度については一定の見解はないが,当院では輪状咽頭筋の筋線維の束の最もパウチ側を最深部として切開を進めていくようにしている(Figure 6-dの赤矢印).逆に12時方向(食道管腔側)の粘膜の部分は完全に切開して広げながら進んでいく.

切開のゴール地点は,輪状咽頭筋を全切開したところ,すなわち食道壁の筋層までとなるので,薄い筋線維の束となるところまでを目安に切開を進めていく(Figure 7-b~d).

13.切開した粘膜をクリップで縫縮(電子動画 1 02:24~02:55).

スコープの通過の際の抵抗の軽減や,空気を出し入れして食道管腔の開きが改善したことを確認して,切開を終了し切開した粘膜のクリップ縫縮に移る(Figure 8-a電子動画 1 02:24~02:30).最も大きな開き幅である16mmのSureClip(マイクロテック社)を用いることで,大きな粘膜切開面でも完全縫縮することが可能となる.術後のクリップ縫縮の目的は,穿孔や出血などの偶発症の予防であるが,その効果については実は一定の見解はない.メタアナリシスでも,クリップ縫縮の有用性は示されていない.しかしながら,これまでの報告例では多くでクリップ縫縮が施行されており,完全縫縮したほうが無難であると思われる.可能であればクリップで粘膜を縦方向に掴んで縫縮することで,管腔を狭窄することなくパウチも消失させることができる(Figure 8-b,c).

Ⅵ 治療スケジュールとフォローアップ

治療は基本的に入院にて行う.欧米では外来手術でされることも多い.その際は午前中にFESDを施行し,リカバリー室で十分休んでから帰宅するというスケジュールとなる.しかし,本邦では先進医療で,なおかつ気管挿管した全身麻酔下で行うことになるため,安全性を確保するために入院での施行としたほうがよいと思われる.

その基本的な入院スケジュールはTable 3のようになる.

Table 3 

治療スケジュール.

手術前日

通常の上部消化管内視鏡検査と同様に夕食後より絶食とする.前日に内視鏡検査を施行し,パウチ内残渣を回収しておく施設もある.そうすることで,翌日の手術時にすぐに切除から開始できる.

手術当日

術後感染予防抗菌薬の投与の必要性に関して一定の見解はない.当院ではこれまで,術後発熱症例もあったので,念のため術前から手術翌日まで投与するようにしていた(CEZ 1g q8h).しかし,先日発行されたESGEのガイドラインでは抗菌薬の予防投与は推奨されていない.

また,術後の疼痛管理のため帰室時から鎮痛薬(アセトアミノフェン 1V 500mg q8h)を投与する必要がある.症状が全くない患者に途中中止したところ,疼痛を訴え始めた経験があるため,術後2日目まではつづけたほうがよい.

術後1~3日目

当院では術後1日目に食道透視を施行しリークがないことを確認している.その後明らかな偶発症を認めなければ,飲水可としている.ESGEのガイドラインでは,夕食から流動食から始める報告が多いとされているが,当院ではアイスクリームやヨーグルトを食べてもらうようにしている.特に冷たいアイスクリームはまだ炎症の残っている傷口には気持ちいいようである.その後,術後経過が良好であれば術後2日目に3分粥とし,術後3日目に退院とする.

退院後フォローアップ

まず,1カ月後に外来で偶発症などの確認を行う.そして,3カ月後に食道透視およびEGDを施行し,症状の改善があるかどうか詳細に問診して,臨床的成功の判定をしている(Figure 9).症状の改善に関しては,術後翌日から認められる例もあるが,月単位で徐々に症状が改善する例もあるので,臨床的成功の判定は3カ月後に外来診察で行うようにしている.そして,術後6カ月および12カ月時に症状の再発の有無を確認する.

その後は1年に1回を基本としてフォローアップしている.

Ⅶ FESDのバリエーション

FESDの基本的な手技を詳述したが,さまざまな工夫やバリエーションも報告されている.

Diverticuloscope 17

海外ではCook medical社より,隔壁に固定できるように先端が楔形になっているオーバーチューブ(Zenkerʼs Diverticulum Overtube)が発売されている(Figure 10).このdiverticuloscopeを隔壁に固定することで,視野確保が容易となり,治療成績が向上したとの報告がある 18.一方で,使用できる憩室の大きさに制限があるとされる.本邦では未発売である.

Figure 10 

Diverticuloscope.

隔壁に固定できるように先端が楔形になっている.

Double Incision and Snare Resection(DISR) 19

隔壁の中央1カ所を切開するのではなく,左右2カ所に切れ目を入れ,広く切開する方法である.まず,上記のdiverticuloscopeを挿入し,隔壁の左右それぞれ合計2カ所にSBナイフを用いて切開を入れる.そして,その間の隔壁をスネアを用いて広く切除する.これにより隔壁をU字型に切除することができるため,憩室のパウチが消失しやすくなる効果が期待できる.

Z-POEM(Zenker’s diverticulum Peroral Endoscopic Myotomy) 20

アカラシアに対する内視鏡治療のPeroral Endoscopic Myotomy(POEM)を応用した方法である.ZDの口側1-3cmのところに粘膜切開を入れ,憩室隔壁上縁まで粘膜下にトンネルを掘っていく.そして輪状咽頭筋を露わにして完全切開を施行する.Z-POEMは輪状咽頭筋の確実な完全切開が期待できるため,再発率が低くなる利点があると報告されている 21.非常に有効な治療法として期待されている一方で,挿管管理での全身麻酔が必要であることや手術時間が長いことや,経験を必要とする手技であることから,ESGEのガイドラインでは,現時点では臨床研究として施行するように勧めている.

また最近になり,小さなZDに対してさらにZ-POEMを簡略化したPOES(Peroral endoscopic Septotomy) 22という方法も報告された.これは直接最初の粘膜切開を隔壁へ横方向に入れていく方法であり,挿管管理も必要なくなり術時間も短くなる利点が報告されている.

Ⅷ 最後に

FESDについてその適応から手技の詳細までを概説した.本治療法は2020年7月に本邦でも先進医療として施行できるようになったばかりである.今後さらに症例を蓄積しその有用性を明らかにすることで,本邦でもZDに対する標準治療として保険収載されることを期待している.本稿がその一助となれば幸いである.

謝 辞

本稿作成に指導いただいたBirmingham City UniversityのSauid Ishaq教授に感謝する.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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