日本消化器内視鏡学会雑誌
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総説
EBウイルス関連胃癌の内視鏡診断と治療
西川 潤 柳井 秀雄坂井田 功
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2021 年 63 巻 3 号 p. 255-263

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要旨

EBウイルス関連胃癌は胃癌の約10%を占め,胃上部・中部に多く存在し,リンパ球浸潤癌が多い.内視鏡的には,胃体部から噴門部の陥凹を主体とした病巣が多く,陥凹の周囲に境界不明瞭な隆起を伴い,粘膜下腫瘍様の形態を呈する.超音波内視鏡では第3層に境界明瞭な低エコー腫瘤が観察される.EBウイルス関連胃癌はH. pylori感染胃炎を背景に発生し,除菌後にも発生する.EBウイルス関連胃癌は,粘膜下層に浸潤してもリンパ節転移が極めて少なく,内視鏡的切除が適応拡大できる可能性がある.EBウイルスの有無が胃癌の治療法や経過観察に影響を与えるため,EBウイルス関連胃癌を診断する重要性が高まってきている.

Ⅰ はじめに

EBウイルスは,1964年にアフリカのバーキットリンパ腫から発見されたヒト腫瘍ウイルスであり,バーキットリンパ腫,上咽頭癌,ホジキン病などに関連している 1),2.1990年に初めて胃癌にEBウイルスが検出され 3,EBウイルス関連胃癌の頻度は世界各国で概ね10%前後である 4.EBウイルス関連胃癌は病理学的にリンパ球浸潤癌の像を呈することが多く,リンパ節転移の頻度が低く,外科的切除による予後が比較的良好である 5.従って,EBウイルスの有無が胃癌の治療に影響することはなく,臨床的に注目されることはなかった.

2014年,The Cancer Genome Atlas(TCGA)による網羅的な分子生物学的解析により,胃癌は4つのサブタイプに分けられ,EBウイルス関連胃癌はその1つに分類された.また,EBウイルス関連胃癌はDNAのメチル化や免疫チェックポイント分子Programmed death 1-ligand 1(PD-L1)やProgrammed death 1-ligand 2(PD-L2)の高発現など際立った特徴を持つことが報告された(Figure 1 6.このような分子生物学的な特徴に基づく,EBウイルス関連胃癌に特異的な治療が展開される可能性があり,EBウイルス関連胃癌を診断する重要性が高まっている 7

Figure 1 

The Cancer Genome Atlas による胃癌の分子生物学的分類とその特徴.文献6より引用.

CIN:chromosomal instability, GS:genomically stable, EBV:Epstein-Barrvirus, MSI:microsatellite instability.

今回われわれはEBウイルス関連胃癌の臨床像と内視鏡診断に加え,病理学的,分子生物学的な特徴に基づく,EBウイルス関連胃癌に特異的な治療について説明する.

Ⅱ EBウイルス関連胃癌とは

EBウイルス感染細胞にはEBV-encoded small RNA1(EBER1)という,170塩基のsmall RNAが多コピー存在する.このEBER1に相補的なプローブを用い,EBウイルス感染細胞を染色するin situ hybridization(ISH)法で診断を行う.この方法で,すべての胃癌細胞の核にEBER1のシグナルを認める胃癌をEBウイルス関連胃癌という 8)~10

EBウイルス関連胃癌は,すべての胃癌細胞にEBウイルスが感染している(Figure 2-a,b).また,感染しているEBウイルスのモノクロナリティーも証明されており 11),12,EBウイルス関連胃癌はEBウイルスが感染した胃上皮細胞がモノクローナルに増殖して発生する 5

Figure 2 

EBウイルス関連胃癌の組織像.

a:EBV-encoded small RNA1 in situ hybridization法.すべての癌細胞の核にEBER1のシグナルを明瞭に認める.

b:リンパ球浸潤癌の組織像.充実性低分化腺癌の周囲に著明なリンパ球浸潤を認める.

Ⅲ EBウイルス関連胃癌の臨床像

1)患者背景

EBウイルス関連胃癌の臨床病理学的特徴については,多くのメタアナリシスが発表されている.Gastroenterologyへの報告では,頻度は胃癌の8.7%,男性が女性より2倍多い.存在部位は胃上部・中部に存在するものが胃下部に存在する病巣より2倍多い.残胃の癌では,約4倍の35.1%にEBウイルスが陽性であり,リンパ球浸潤癌では90%以上にEBウイルスが陽性であると報告されている 13.最近のreview articleによるEBウイルス関連胃癌の特徴をTable 1に示す 14

Table 1 

EBウイルス関連胃癌の特徴(文献14より引用).

山口大学医学部附属病院及び関連施設で経験したEBウイルス関連胃癌143症例155病巣の臨床病理学的特徴をTable 2に示す.この結果は一定期間の全胃癌症例を対象としたcase seriesである.男性優位で男女比は124:19,平均年齢は64.3歳で比較的若年である(Table 2).

Table 2 

EBウイルス関連胃癌の臨床病理学的所見.

2)病理組織学的特徴

EBウイルス関連胃癌の最大の特徴はリンパ球浸潤癌の組織像といえる.一般にリンパ球浸潤癌の90%はEBウイルス陽性であると報告されている 15)~17.リンパ球浸潤癌はWatanabeらによって,報告された著明なリンパ球浸潤を間質に伴う未分化型主体の癌である(Figure 2-a,b 18.EBウイルスに関連する他臓器の腫瘍においても腫瘍の周囲には著明なリンパ球浸潤が伴っており,EBウイルスの遺伝子を標的にリンパ球が浸潤していると考えられている.

リンパ球浸潤癌の胃癌全体における頻度は3.8%であり 18,EBウイルス関連胃癌の頻度よりは低い.EBウイルス関連胃癌の半数以上は通常の組織型の胃癌に分類されており,注意を要する.われわれのcase seriesでは,EBウイルス関連胃癌の40%(62/155)が分化型癌,60%(93/155)が未分化型癌に分類されていた.病理所見の記載から抽出したリンパ球浸潤癌は29.0%(45/155)を占めていた(Table 2).

TokunagaらはEBウイルス関連胃癌の粘膜内病巣の病理学的特徴として,腺管が不規則に融合した像をlace patternとして報告している(Figure 3-a,b 19.Watanabeらはリンパ球浸潤癌の粘膜内には分化型の組織像を伴うことを報告している 18.EBウイルス関連胃癌は内視鏡的生検で中分化型腺癌と診断されることが多く,EBウイルスのスクリーニングに至らない症例を増す一因になっていると考えられる.多彩な分化像を示す病巣が多く,分化型癌と未分化型癌の混合型が多い 20

Figure 3 

EBウイルス関連胃癌の組織像.

a:癌細胞の核にEBER1のシグナルを明瞭に認める.

b:癌腺管が不規則に融合した像,lace patternを認める.

EBウイルス関連胃癌の粘液形質についての検討では,胃型やいずれの形質も示さないnull typeが多いと報告されている 21),22

3)内視鏡的特徴

EBウイルス関連胃癌は胃中部から上部にすなわち噴門部から胃体部に多く存在する.われわれのcase seriesでは存在部位は残胃癌を含め,胃中部から上部に存在した病巣が142/155(92.3%)を占め,胃下部の病巣は13/155(7.7%)であった.肉眼型は陥凹を主体としたものが多く,124/155(86.2%)を占めた(Table 2).

EBウイルス関連胃癌は,やや境界不明瞭な0-Ⅱc型から,リンパ球浸潤癌の腫瘤を形成するものは,粘膜下腫瘍様の形態(Figure 4-a 23や若干の厚みを伴う0-Ⅱa+Ⅱc型を経て,潰瘍を伴う0-Ⅱc+Ⅲ型や3型の進行癌に発育すると考えられる(Figure 5 5.進行癌の症例においても陥凹の周囲に立ち上がりがなだらかで,粘膜表面の変化が乏しい周堤を伴う特徴を有する(Figure 4-b).粘膜下層深部浸潤を来した病巣では超音波内視鏡で高エコーの第3層内に非常に境界明瞭な低エコー腫瘤が観察され,EBウイルス関連胃癌の特徴的な所見と考えられる(Figure 6-a,b 24

Figure 4 

EBウイルス関連胃癌の内視鏡像.

a:粘膜下腫瘍様のEBウイルス関連胃癌.胃体下部小彎に存在する20mm程度の粘膜下腫瘍様の病変である.

b:EBウイルス関連進行胃癌.体上部大彎の3型の進行胃癌である.不整型潰瘍の周提は粘膜表面の変化が乏しい.

Figure 5 

EBウイルス関連胃癌の内視鏡的特徴.文献5より引用.

Figure 6 

EBウイルス関連早期胃癌.

a:胃体上部大彎になだらかな立ち上がりの台状の隆起上にびらんを有する病変である.

b:超音波内視鏡で第3層に明瞭な低エコー腫瘤が検出される(白矢印).

初回の手術が消化性潰瘍などの良性疾患のため行われた残胃に発生する胃癌,狭義の残胃癌の25%~41.2%にEBウイルスが陽性である 25),26.特にBillroth-Ⅱ法再建の断端吻合部に多く,胆汁の逆流などによる吻合部の残胃炎が関与していると考えられる.また,初回の手術が胃癌のために施行された残胃に発生した胃癌のEBウイルス感染や,初回胃癌,残胃の癌ともにEBウイルス感染を伴っていた症例の報告がなされている 27.EBウイルス関連胃癌では,同時性・異時性多発胃癌の頻度が高いとの報告もあり 28,EBウイルス関連胃癌の発生する胃粘膜自体に発癌のポテンシャルが高い可能性が危惧される.

EBウイルス関連胃癌の背景胃粘膜についての検討では,木村・竹本分類での胃粘膜萎縮は中等度(C3-O1)が31/34(91.2%)を占めており,残りの2例は高度萎縮(O2-O3),1例は残胃であり,萎縮を認めない症例はなかった 29.EBウイルス関連胃癌は胃体部に多く発生するが,胃炎のない胃底腺領域に発生するのではなく,H. pylori感染による慢性萎縮性胃炎を背景に発生する 30.また,胃粘膜萎縮境界は胃癌の発生母地として重要であり,EBウイルス関連胃癌は中等度萎縮した胃粘膜の萎縮境界近傍より発生する 30

治療時のH. pyloriの感染状態は,現感染が55.9%(19/34),除菌後が11.8%(4/34)不明32.3%(11/34)であった.H. pylori感染状態が不明であった11症例の胃粘膜萎縮はC3が4例,open typeが6例,胃潰瘍術後の残胃が1例であり,内視鏡的にH. pylori未感染を示唆する症例を認めなかった 29.諸家の報告でもH. pylori感染による慢性萎縮性胃炎を背景にEBウイルス関連胃癌が発生しているという報告が多い 31)~33

H. pylori除菌後にもEBウイルス関連胃癌は発生する.EBウイルスが陽性のH. pylori除菌後発見胃癌の3例はいずれも男性で除菌治療後5年以上経過して発見されていた 34.胃体部に存在する陥凹を主体とした病変であり,背景胃粘膜には萎縮性変化を認めた.3例中1例はリンパ球浸潤癌と診断されていたが背景胃粘膜の炎症細胞浸潤は軽度であった 34.KatoらはH. pylori未感染胃に発生したEBウイルス関連胃癌を報告しており,発生機序を考える上で興味深い 35.EBウイルスが潜伏感染しているBリンパ球から上皮細胞にEBウイルスが感染し,胃癌が発生すると考えられている 36H. pylori感染胃炎はEBウイルス関連胃癌の背景因子として重要であると考えている.

2011年に悪性貧血に合併した胃癌症例と悪性貧血のないコントロールについてEBウイルスの陽性率を比較した興味深い報告がなされた.この報告では,悪性貧血合併胃癌55病巣中の8病巣(14.8%)にEBウイルス感染を認め,コントロールの7.6%より有意に高率であった 37.しかしながら,この論文ではH. pylori感染について言及されていない.

Ⅳ EBウイルス関連胃癌の臨床的意義

1)内視鏡治療の適応拡大

EBウイルス関連早期胃癌にはリンパ節転移が非常に少ないと報告されている.1994年Tokunagaらは,外科的切除されたEBウイルス関連早期胃癌(M癌30例,SM癌45例)には1例もリンパ節転移がなかったと報告している 38.内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)が一般化される以前の報告であるが,既に縮小的な治療が適応できる可能性が示唆されていた.

近年,EBウイルス陽性のSM癌について,リンパ節転移率を詳細に検討した報告がなされてきている.Parkらの報告では,756例のSM癌のリンパ節転移率は19.3%であり,64例のEBウイルス陽性例は2.1%(3/64)であったと報告している.多変量解析により,EBウイルス陰性がリンパ節転移要因となることを示している 39.また,Osumiらは,脈管侵襲陰性のSM癌を多施設で検討し,96例のEBウイルス陽性例のうち,リンパ節転移が陽性であったのは1例(1.0%)のみであったと報告している 40.内視鏡治療後に追加胃切除を行うか,否かの判断に,切除標本におけるEBウイルス検索が有用であることを示唆するデータが蓄積されつつある.

2)EBウイルス関連胃癌特異的化学療法

免疫チェックポイント阻害剤である抗programmed cell death 1(PD-1)抗体が胃癌にも使用されている.TCGAの報告でEBウイルス関連胃癌はPD-L1の発現頻度が高い報告とされた(Figure 1).PD-L1が高発現している腫瘍,間質にリンパ球浸潤が強い腫瘍は抗PD-1抗体の効果が高いとされており 41,EBウイルス関連胃癌への効果が期待された.Pembrolizumabの第二相試験の症例のうち,奏効した症例の多くは,マイクロサテライト不安定性の強い癌とEBウイルス関連胃癌と報告されている 41.今後,実地臨床からのデータの発表が期待される.

Ⅴ おわりに

一般臨床では,内視鏡的生検や切除標本の病理像から,リンパ球浸潤癌の特徴が認められた場合,EBウイルスの検索がなされる.実際には一般的な組織像を示すEBウイルス関連胃癌が存在する.内視鏡的・超音波内視鏡的な特徴もリンパ球浸潤癌を反映したものであり,臨床的な特徴からEBウイルス関連胃癌を診断する上乗せ効果がどの程度あるか,分からない.EBウイルスの有無が治療選択に影響を及ぼす,切除不能再発胃癌や内視鏡治療後のSM浸潤癌に対して,EBウイルスの検索を行い,治療方針や経過観察の決定に役立てることが推奨される.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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