日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
超音波内視鏡下肝管胃吻合術(EUS-HGS)施行後に自然排石した胆管空腸側側吻合術後肝内結石の1例
友岡 文優北川 洸 美登路 昭小堤 隆広依岡 伸幸松田 卓也藤永 幸久古川 政統西村 典久吉治 仁志
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2021 年 63 巻 3 号 p. 293-299

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要旨

48歳男性.19歳時に十二指腸潰瘍のため幽門側胃切除術を施行された.その際に胆道損傷を来たし,術後に胆管空腸吻合術を追加で施行された.2019年に腹痛・発熱のため近医を受診し,腹部CTで肝内胆管に多数の結石を認め,急性胆管炎と診断された.当科に紹介となり,バルーン内視鏡を用いてERCPを試みたが,吻合部に到達不能であった.超音波内視鏡下肝管胃吻合術(EUS-guided hepaticogastrostomy;EUS-HGS)を施行し,片ピッグテイル型プラスチックステントを留置した.速やかに胆管炎は改善し,二期的な結石除去を企図したが,HGS2カ月後の胆管造影では結石はすべて消失していた.EUS-HGS施行後に肝内結石が自然排石した例はこれまでに報告がなく,貴重な症例と考えられる.

Ⅰ 緒  言

胆管空腸吻合術後の晩期合併症の一つに術後肝内結石症があり,治療法として外科的な再手術の他,経皮経肝胆道鏡下切石術(Percutaneous Transhepatic Cholangioscopy;PTCS)などが行われている 1一方で,術後再建腸管に対するバルーン内視鏡(Balloon Assisted Enteroscopy;BAE)を用いたERCPの有用性も多数報告されている 2),3.しかしながら,BAEを用いてもERCPが困難な例もあり,また使用できる処置具が少ないことから,依然として治療に難渋する例も認められる.このような内視鏡治療困難な術後再建腸管症例に対し,超音波内視鏡下胆道ドレナージ(Endoscopic ultrasound/ultrasonography-guided biliary drainage;EUS-BD)の有用性も近年報告されている 4)~7

今回われわれは,BAE-ERCPが不成功となった胆管空腸吻合術後肝内結石症に対し超音波内視鏡下肝管胃吻合術(EUS-guided hepaticogastrostomy;EUS-HGS)を施行し,施行後に自然排石した稀な1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

Ⅱ 症  例

患者:48歳,男性.

主訴:心窩部痛,発熱.

既往歴:19歳時に十二指腸潰瘍に対し幽門側胃切除Billroth-Ⅰ法再建術を施行された.またその際に胆管損傷を生じ,術後に胆管空腸吻合術を追加で施行されたとのことだが,詳細不明である.

家族歴:特記事項なし.

現病歴:2019年に心窩部痛・発熱を主訴に近医を受診した.採血で肝胆道系酵素の上昇を認め,腹部CT検査で肝内結石を認めた.急性胆管炎と診断され,当院に紹介となった.

入院時現症:眼球結膜に軽度黄染あり,眼瞼結膜蒼白なし.腹部は平坦・軟だが,心窩部・右季肋部に自発痛・圧痛あり.反跳痛・筋性防御なし.

入院時血液検査所見:WBC 6,200/μL,Hb 13.9g/dL,Plt 31.4×104/μL,PT% 84%,AST 65U/L,ALT 138U/L,ALP 373U/L,γ-GTP 403U/L,T-Bil 2.5mg/dL,CRP 9.33mg/dL.

腹部CT:肝内胆管にX線陽性結石を多数認めた.胆道気腫は認めなかった(Figure 1-a).

Figure 1 

a:腹部CT.肝内胆管に多数の結石を認める(矢印).胆道気腫は認めない.

b:腹部MRI(T2強調,HASTE).遺残総胆管内にも陰影欠損を認める(矢印).

腹部MRI(T2強調,HASTE):肝内胆管に5mmから15mmの大小様々な陰影欠損を認めた.結石は肝門部に集中して認め,末梢胆管は拡張していた.同時に遺残した総胆管内にも陰影欠損を認めた(Figure 1-b).

経過:一般的にはRoux-en-Y法で挙上空腸と胆管を吻合する術式が多いと考えられたが,本症例では他院にて20年以上前に手術を施行されており,手術記録が入手できず,術式の詳細は不明であった.一方でMRIでは遺残する総胆管が描出されており,胆管空腸吻合部は側側吻合となっている可能性が示唆された.また術前のCTでは胆道気腫は認めなかったが,多数の結石の影響もあり,画像上は吻合部狭窄の有無の判定は困難であった.まずダブルバルーン内視鏡(EC-450BI5;富士フイルム株式会社)を用いてERCPを試みたところ,輸入脚の吻合部は同定できたものの,胆管空腸吻合部にはスコープ到達不可能であった.経皮経肝的胆道ドレナージ(Percutaneous Transhepatic Biliary Drainage;PTBD)と超音波内視鏡下の治療法について,それぞれのリスクとベネフットを十分に説明した.早期退院と内瘻を希望されたため,EUS-HGSでのドレナージを行い,結石除去は二期的に行う方針となった.残胃内からコンベックス型超音波内視鏡スコープ(GF-UCT260;オリンパス株式会社)を用いて肝内胆管を描出し(Figure 2),B3枝を19G FNA針(Sono Tip Pro Control 19G;株式会社メディコスヒラタ)で穿刺した.急性胆管炎が完全には沈静化しておらず,高圧造影は施行していないが,肝内胆管に結石を疑う陰影欠損を複数認めた(Figure 3-a).0.025 inchのガイドワイヤー(VisiGlide2;オリンパス株式会社)を誘導し,7Fr片ピッグテイル型プラスチックステント(Type IT;ガデリウス・メディカル株式会社)をB3枝から右肝内胆管にまたぐように留置して終了した(Figure 3-b).EUS-HGS翌日に腹部単純CTを撮像したところ,肝内胆管には依然として多数のX線陽性結石が確認されたが(Figure 4-a,b),一部はEUS-HGS時に使用した造影剤とともに小腸内に落下していた(Figure 4-c).有害事象なく経過し,EUS-HGS後4日目に退院した.

Figure 2 

EUS画像.肝内胆管は拡張しており,B3枝に結石を疑う高エコー像を認める(矢印).

Figure 3 

EUS-HGS.

a:B3枝を穿刺,造影で胆管内に複数の陰影欠損を認める(矢印).

b:片ピッグテイル型プラスチックステントを留置した.

Figure 4 

HGS翌日の腹部CT.

a:残存する肝内結石(矢印).

b:胆管空腸吻合部(矢印).

c:落下結石と考えられる小腸内の石灰化成分(矢印).

吻合部の評価と結石除去目的に,EUS-HGS施行2カ月後に再入院とした.ERCP用十二指腸スコープ(TJF-260V;オリンパス株式会社)を用い,まず瘻孔部からガイドワイヤーを胆管内に留置した後にステントを抜去した.カテーテルを挿入して胆管造影を行ったところ,結石はすべて消失していた.また総胆管と挙上空腸が側側吻合されていることが明らかとなり,吻合部に狭窄は認めず,良好に挙上空腸が造影された(Figure 5).片ピッグテイル型プラスチックステントの再留置のみを行い,さらに2カ月後に再度瘻孔部を介して胆道造影を施行したが結石再発は認めず,吻合部の開存も良好で,最終的にステントを抜去した.

Figure 5 

EUS-HGS施行から2カ月後の胆管造影所見.肝内結石はすべて消失しており,造影剤の流出は良好で挙上空腸が造影されている(矢印).

術後1年以上外来にて腹部CTとMRIで経過観察しているが,結石の再発は認めておらず,胆管炎の再燃なく経過している.

Ⅲ 考  察

胆管空腸吻合術後の肝内結石の成因については,乳頭機能の消失による逆行性感染・吻合部狭窄による慢性胆汁鬱滞などの病態の関与が指摘されている.また胆管と腸管が側側吻合されている例においては,吻合部より末梢側での食物残渣・debrisの貯留や胆汁鬱滞により生じる盲嚢症候群,いわゆるsump症候群が知られており 8,特に食物残渣が容易に貯留する胆管十二指腸側側吻合例において問題となる.本症例において胆管空腸吻合部は側側吻合となっていたが,挙上空腸内には理論的にあまり多くの食物残渣は流入しないと考えられるため,いわゆるsump症候群のような病態ではないと考えられる.また結果的に胆管空腸吻合部に狭窄が存在しなかったことから,本症例における結石形成の背景として逆行性感染を推察している.

胆管空腸吻合術後肝内結石に対する治療法は,外科的な再手術の他,PTBDやPTCSなどの経皮的な治療が従来行われてきた.しかし近年術後再建腸管に対するBAEを用いたERCPの有用性が報告されている 2),3.肝胆膵術後合併症例に対しても施行されているが 9),10,その一方で本症例のような治療困難例も経験される.このような術後再建腸管のBAE-ERCP困難例に対し,EUS-BD後に二期的に結石除去術を行うEUS-BD関連手技の有用性が注目されている.EUS-BDは,2001年にGiovanniniら 11が超音波内視鏡下に胆管十二指腸吻合術(EUS-guided choledochoduodenostomy;EUS-CDS)を報告したのが始まりとされており,近年先進施設を中心に普及が進んでいる.本邦でも2012年に保険収載され,PTBDと比較して良好なquality of lifeが維持される一方で,腹膜炎・ステントの腹腔内逸脱・出血など重篤な有害事象の可能性が指摘されており 12)~14,不慣れな術者が安易に施行するのは厳に慎むべきであると関連学会からも注意喚起がなされている 15.特に胆管結石や術後狭窄など良性例における報告 16)~18はまだ少なく,2018年に本邦から刊行されたEUS-BDガイドラインにおいても,良性疾患に対しては適応を慎重に決定すべきであると記載されている 19.従って,胆管空腸吻合術後の肝内結石症に対してもまずはBAE-ERCPによる治療を試み,困難例においてPTBDあるいはEUS下治療について検討するのが妥当な治療戦略と考えられるが,現状においてはPTBDとEUS下治療をどのように使い分けるかについてはエビデンスが乏しく,今後の検討が必要である.

EUS下治療の場合は,瘻孔完成後にERCP用十二指腸スコープを用いて通常の処置具の使用が可能であり,瘻孔部を介して経口胆道鏡や処置具を挿入し,結石除去や狭窄部の拡張を行う方法が報告されている 16),20)~22.本症例でも二期的にHGSルートを介して吻合部の評価と結石除去を行う予定であり,狭窄があれば吻合部をバルーンカテーテルで拡張し,結石の残存があれば機械的砕石具を挿入して順行性に破砕・除去することを検討していた.しかし幸いにも結石はすべて自然排石しており,側側吻合のため吻合部が広かったことに加え,EUS-HGSの際のガイドワイヤー操作やステント挿入による機械的刺激により排石が促進されたと推察される.本症例のように側側吻合により吻合部が広く,肝門部に結石が集まっているような症例においては,自然排石が生じやすい可能性がある.しかしながら,結石除去に難渋した場合は長期の定期的なステント交換や胆管空腸の再吻合手術が必要になった可能性もある.またドレナージ後の結石除去の時期について,一般的には2週間程度で瘻孔が完成するとされているが,適切なタイミングについては明らかではなく,今後の検討が必要である.また結石除去の観点からは,HGSステントとして大口径の金属ステントを留置した方が効率的であると考えられるが,本邦においては良性疾患に対する金属ステントの使用は保険適応ではなく,本症例ではプラスチックステントを使用した.

われわれが1990年から2020年4月までの期間で,医中誌・PubMedを用いて「胆管空腸吻合」「胆管結石」「肝内結石」「自然排石」「choledochojejunostomy」「choledocholithiasis」「hepaticolithiasis」「intrahepatic stone」「migration」「pass」をキーワードに国内外の文献を検索したところ,総胆管結石症に対する総胆管空腸吻合術(吻合形式不明)後に,再発結石の自然排石が原因で生じたと考えられる胆石イレウスの症例報告を1報認めたのみであり 23,胆管空腸吻合術の吻合形式の違いが自然排石に及ぼす影響について検討した報告は認められなかった.胆管空腸吻合術後肝内結石の自然排石そのものが稀な病態と考えられ,さらに本症例のようにEUS-HGS施行後に自然排石が確認された例はこれまでに報告がなく,興味深い症例と考えられる.

Ⅳ 結  語

EUS-HGS後に自然排石した非常に稀な肝内結石の1例を経験したので報告した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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