要旨
Endoscopic submucosal dissection(ESD)は消化管腫瘍の内視鏡的切除法として,非常に緻密で手技的にも優れた方法である.どのような病変も病変径に関わらず一括で切除できるという大きな利点がESDにはあり,特に日本およびアジア諸国では消化管腫瘍の内視鏡的治療法として広く普及している.しかし一方で,米国においては様々な諸事情によりESDは未だ広く受け入れられてはいない.米国でESDを普及させるにあたっては,日本のトレーニングの原点である「師弟モデル」に基づくトレーニングモデルをベースに,近年になり開発された新しいテクニックやテクノロジーを活用し改良を加えることが必要である.本稿では,米国におけるESDトレーニングの現況につきレビューする.
Ⅰ 背 景
ESDは当初早期胃癌の内視鏡治療法として日本で開発されたが,その後消化管のほぼ全領域の腫瘍性病変に適応が拡大されている.ESDの大きな利点は病変径に関わらず病変の一括切除ができることにあり,この点がendoscopic mucosal resection(EMR)と比較して非常に低い局所再発率に繋がっている.ESDは従来の外科切除と比較して低侵襲で,術後の創部痛がない.また術後回復も早く早期退院が可能で,日常生活に早期復帰することができる
1)~4).ESDは,このような点で日本における上下部消化管の腫瘍性病変切除法のゴールドスタンダードとして定着しているが
5),米国では依然として外科的切除やEMRによる分割切除が主流である
6).また米国では大腸の良性腫瘍に対する手術症例数がここ数十年で著明に増加してきており,それに伴う高い合併症率や致死率が報告されている
6),7).この原因としてはESDには長いトレーニング期間が必要なこと,手技時間が長いこと,偶発症などのリスクへの危惧,そしてESDに対する保険償還などの社会基盤が未だ構築されていないことなどが挙げられる
8).本稿では,米国におけるESDトレーニングの現況を概観しつつ,その質を如何に改善できるかを検討したい.
Ⅱ 従来のESDトレーニングモデル
日本やアジア諸国でのESDトレーニングは概して伝統的な「師弟モデル」,すなわち,指導医が修練医に対し長い期間を費やし段階的・継続的にトレーニングを行うことでESDに必要な知識や手技的な習熟度を徐々に高めていくトレーニングモデルに基づいている
9),10).修練医はまず,講義やカンファレンスなどで十分な知識を得つつ,指導医のESDを一定期間見学する.次に切除胃などの動物モデルを使用しESDデバイスの操作の練習をする一方で指導医のESDをアシスタントとして補助し,許可が下りれば指導医の監視下にESDの一部を施行する.この時期には修練医は,ESDを施行可能なものの,難しい部分は依然として指導医が行う.病変としては,一般的には手技的に難しくない胃前庭部にある小病変から開始する.最終的には手技の向上とともに胃体部病変や食道病変などさらに難しい病変を経験することができるものの,大腸病変は手技的困難さや偶発症のリスクからトレーニングの最終段階に行われる
10)~12).一般的には大腸ESDを施行する前には20-40件の胃ESDを施行することが勧められている
13)~17).
Ⅲ 日本で成功したESDトレーニング法を米国でどのような形で受け入れる必要があるか
米国における胃癌罹患率の低さそして食道腺癌および大腸癌の高い罹患率
18),19)を踏まえると,米国におけるESDトレーニングプログラムとしては米国独自で包括的,そして同様の段階的なアプローチをとったトレーニングプログラムの確立が理想的である.European Society for Gastrointestinal Endsocopy(ESGE)のガイドラインでは,欧米においても段階的なトレーニング,すなわち直腸や胃前庭部にある病変から始め,大腸,胃体部,そして食道へステップアップすることが勧められている
20)~22).しかしながら近年の研究によれば,ESDのエキスパートの指導下でトレーニングを受ければ大腸ESDの前に必ずしも胃ESDの経験が必要ではないことが示されている
22)~25).大腸ESDのトレーニングを指導医および段階的アプローチなしで行った場合には技術的な習熟度を得るのに非常に多くの症例数(250例程度)が必要であることが報告されており
26),この点は非常に重要である.
また,現在のところ米国と日本との間には消化器内科のトレーニングの基盤に大きな相違点が存在する.米国の消化器内科フェローシップおよび1年間のAdvanced Endoscopy Fellowshipにおいては上下部の一般的な内視鏡および胆道系の内視鏡のトレーニングに主眼が置かれ,ESDに必須な知識,すなわちParis分類,Narrow Band Imaging(NBI)International Colorectal Endoscopic(NICE)分類
27),Japan NBI Expert Team(JNET)分類
28),高周波凝固装置の設定,病理結果の評価(一括切除,完全切除,リンパ節転移のリスク)などが教育項目に含まれていない.その上,米国にはESDトレーニング関連のガイドライン
27),28)が未だ存在しない.ESDの技術的なトレーニングを開始する前にESDに関連した重要な概念,すなわちESDの適応病変や理論をフェローが理解していることが重要である.
Ⅳ 米国におけるESDトレーニングプログラム
米国では従来の師弟モデルによるESDの症例見学やアシスタント,そして段階的なトレーニングは遂行可能であるものの,1年間のAdvanced Endoscopy Fellowship期間中にESDの技術をフェローに習得させることは容易ではない.ESDのトレーニング効率を向上するため,現在までに人工ESDシミュレーターやバーチャルトレーニング,切除臓器,そしてその他の方法に関し様々な研究がなされている.
ESDのシミュレーターおよび切除臓器モデル
トレーニングシミュレーターを使用することにより内視鏡手技能の向上が可能であることが明らかになっているが
10),ESDトレーニング用の様々なシミュレーターも開発されてきている
29)~32).Chenらは,動画によるトレーニングと切除臓器を用いたトレーニングとの橋渡し役として樹脂製ESDシミュレーター(Figure 1)を新しく開発した.その結果切除臓器でのESDトレーニングにあたり,シミュレーターを使用しなかった場合と比較して手技に対する自信度が明らかに向上したと報告している
30).またVirtual Endoluminal Surgery Simulator(VESS)と呼ばれる新しいシミュレーターも開発されている.これはバーチャルリアリティを利用したシステムで,腹腔鏡手術のトレーニングプログラムにも広く使用され,大腸ESDのトレーニングと習熟度評価を目標にしている
31).このシステムではリアリティを追求するために手に対する触覚のフィードバックに注目し「運動感覚コミュニケーション」や「3D触覚」と呼ばれる新しいテクノロジーを応用している.
切除臓器もESDのトレーニングにおいての有用性が示されている.豚の切除胃はその解剖学的・組織学的な類似性により,ESDのトレーニングに広く一般的に使用されている
10),33),34).米国においても切除臓器とトレイを販売しているいくつかの会社が存在する(EndoSim[ www.endosim.com ](Figure 2)およびDeLegge[ www.deleggemedical.com ](Figure 3)
10),35),36)).Katoらは前向き無作為試験において,豚の切除胃を用い胃内の6つの異なる領域(胃穹窿部前壁および後壁,体部前壁および後壁,前庭部前壁および後壁)でESDを計150症例施行した.その結果,30症例施行後にはESD未経験者2名いずれにおいても100%の一括切除率が得られたと報告している
37).一般的に大腸ESDは技術的にはさらに困難であるが,切除大腸モデルも大腸ESDのトレーニングにおいて有用であるという報告がある
25).
生体動物モデル
切除臓器モデルでのトレーニングの次のステップとしては,生体動物モデルを用いたトレーニングがある
38).生体動物モデルの有用性としては,臨床でのESDにさらに近い状態でのトレーニングが可能な点である.すなわち呼吸変動や心拍動による病変の不安定性が再現できること,そして出血時には止血鉗子を使用した止血のトレーニングができることが利点である.切除臓器モデルを使用したトレーニングは安価である反面,この生体動物モデルの難点は動物実験施設において獣医の管理下に使用する必要があり,高いコストがかかることである.
症例見学の有用性
ESDエキスパートの症例を短期間に集中的に見学することでESDの技術向上が得られることが近年の研究により示されている
39).しかしながら,米国におけるESDの有名施設においても日本と比較して十分な症例数があるとは言い難く
10),日本やアジア諸国を訪問し1-2週間の短期間または長期(1-6カ月)の症例見学をすることが勧められる.日本の一部の医療施設では特別な手続きにより,海外からの長期訪問者に臨床ハンズオンの機会を与えることが可能である.米国でESD症例見学の希望者が増加している状況を鑑み,ASGEは「国際ペアリングプログラム」を立ち上げており,プログラム参加施設とASGEの会員を繋げる機会を提供している.希望者はすべて米国におけるAdvanced Endoscopy Fellowか消化器内科フェローシップを終了した者に限られている
40).
遠隔医療および電子メディア
最近になり,遠隔通信および電子メディアは,遠隔教育用の効率的なツールとして医療以外の様々な分野でも頻繁に活用されてきている.この手段を用いれば,遠隔地においても教育用の資料や手技の動画を閲覧することが可能である
41).内視鏡コースにおけるESDのライブ配信では様々な症例を見学することが可能で,遠隔通信を利用したエキスパートによる臨床指導も大変に有用なツールとして評価されている
42).Piocheらは,ESDのセルフトレーニング用のソフトウェア(Figure 4)を開発し,従来の動画でのトレーニングとの比較検討を行った
43).このソフトウェアでは,ESDのそれぞれのステップに応じて内視鏡画面と内視鏡医の手の動作が同期して再生され,さらに詳細に解説が加えられている.検討の結果,このソフトウェアでトレーニングを受けた内視鏡医はESD症例の70.9%で偶発症なく一括切除が可能で,コントロールの61.2%と比較して一括切除率が有意に(P=0.03)良好であった
10),43).
ESDハンズオンおよび教育コース
米国では現在,ESD関連の様々なコースが学会または企業により開催されている(Table 1).このようなコースでは,国際的に有名なESDエキスパートからハンズオントレーニングを受ける機会が得られる.レベル1にあたるコースは主に,ESDのデバイスや概念に触れる機会を与えることを目標にしており,一般的には短時間(数時間から半日)のハンズオンである.レベル2にあたるコースでは,さらに集中した数日間のハンズオンの機会が与えられる.これらのコースでは講義,切除臓器および生体動物モデルを利用したハンズオン,そしてESDの症例見学が含まれている.臨床でESDを始める前にはこれらのコースに参加する一方で,切除臓器を用いたESDのセルフトレーニングを並行して行うことが重要である.さらに,ESDの技術習得が得られた場合でも,技術維持および知識のアップデートのためこのようなESDコースに定期的に参加することが勧められる.ESD関連の新しいテクノロジーや新しいトレーニング法がこれから生まれていく可能性を鑑み,今後,米国におけるESDの拠点施設がこれらのESD関連のコースを主導していく必要がある.
ESDの習熟度評価
ESDのトレーニングに関し,米国の内視鏡医には現在,様々な障壁があるものの,これらは決して乗り越えられないものではなく,諦めるべきものでもない
13).日本ではESDの技術は一般的には3-4年の師弟モデルに基づく修練期間を経て習得される.しかしながら米国では,ESDエキスパートの数が未だ少なく,十分な習熟度を得るために必要な時間や労力がどれだけ必要か見積もることは依然困難である
44),45).一般的な内視鏡手技の技術習得に必要な症例数は,卒後医学教育を管理しているAccreditation Council for Graduate Medical Education(ACGME)が基準を設けているものの,ESDに関する症例数に関しては未だ規定されていない.The American Gastroenterology Association(AGA)Practice Update
46)では,段階的なアプローチ,すなわち自己学習,ESDトレーニングコースへの参加,切除臓器を用いたセルフトレーニング,ESDのエキスパートの症例見学に引き続き低リスク病変から開始し,次第に対象病変の難易度を上げることを勧めているものの,米国の消化器関連のいずれの学会も未だ具体的な症例数の提示をしていない.ある文献では完全切除(R0)率80%以上,切除スピード9cm2/時以上,そして偶発症率10%未満を習熟度の基準としている
47),48).また他の文献ではESDを考慮する前にまずEMRでの習熟が必要であるとしている
44),49),50)が,これはEMRでの基本的手技すなわち粘膜下局注および内視鏡先端のコントロールはESDでも必須だからである
13).以上の点を踏まえ,米国でESDを普及させるためには米国の独特の社会背景に応じた標準化したコンセンサスをまとめたもの,すなわちESGEが作成したようなESDトレーニングガイドラインの作成が必要である
20).
ESDの習熟度評価に関してはいくつかの疑問点が残る.特に切除臓器や生体動物モデルでのトレーニング時の技術評価をどのように行うか,そしてESDの技術習熟を得るのにどれくらいのトレーニングが必要なのかは未だ不明である.シミュレーターでは基本的な技術を取得できるものの,習熟度を得るのに必要な基準が明確化されていない.そこで以前,Jirapinyoらが内視鏡の基本手技のトレーニングのために開発したendoscopic part-task training box(Thompson Endoscopic Skills Trainer(TEST))
51)を用い,ESDの習熟度評価に関する検討が行われた.まずTESTでのスコアは一般的な内視鏡手技の習熟度,そしてさらに胃ESDでの習熟度評価の指標として有用であることが示された
29).しかしながら,エキスパートの監督下による指導が可能であったにせよ,研修医および指導医それぞれの能力は非常に多様であり,習熟が得られるまでの時間や習熟の目標とする基準を設定することは依然困難である.
ESDの技能取得のスピードを高める新しいテクニックやテクノロジー
ESDトレーニングの早期においては症例選択が重要であるが,これは患者に対するリスクや偶発症率を上げることなく技術習得が得られることが必須だからである
46).当然のことながら,指導医がいないトレーニングにおいては早期の偶発症が最も多い
52).ESDの難易度を下げ,トレーニング期間を短縮するため,これまでに新しいトラクションデバイスや関節を持った鉗子,そして新規ロボット技術が開発されてきた
53).Heら
54)はデンタルフロスとクリップを用いたトラクション法を使用し,この方法が胃ESDにおける粘膜下層の視認性を改善することを示した.この方法ではコントロール群と比較し,ESDの手技時間が有意に短縮(5.6min vs 13.6min;P=0.003)し,切除時間の短縮,粘膜下局注量の減少,そして偶発症率の減少も見られたとしている.このトラクション法は以前Suzukiら
55)によって報告された方法で,その時点では偶発率の減少は見られなかったもののESDの手技時間の短縮が見られていた.
Suture-pulley法
56),57)でも同様に,胃ESDでの粘膜下層の視認性が改善し,ESDの技術習熟が得られるまでの時間を短縮できる可能性が示されている.外科手術で必須とされるトラクションが得られないことが従来ESDにおける手技の難易度および手技時間の遅延の一因であるが,Aiharaらの研究
56)において有意な手技時間の短縮(531sec vs 845;P<0.001)および手技難易度の低下が示された.さらに,ESDの経験のない研修医および指導医を対象としたsuture-pulley法の前向き試験
57)でも,このトラクション法は手技時間を短縮しESDの難易度を低下させることを示した.Nakadateらは関節を持った鉗子を開発し,ex vivo比較研究を施行している
58).このデバイスを用いた胃ESDでは,ESDに熟練した内視鏡医では差が見られなかったものの,経験の乏しい内視鏡医では有意に手技時間の短縮が見られた.粘膜下剝離層の視認性の改善はESDの律速段階でありかつESDの中で最も困難な側面であるが,これまでに紹介したトラクション法はこの側面に特化している点で非常に有用である
58),59).
近年になり米国では,ロボット技術を用いた内視鏡下手術システム(Figure 5)が開発された.このシステムは内視鏡手技における緻密さ,効率性,安全性,そして信頼性を高め内視鏡医のパフォーマンスを向上する可能性がある
60),61).Turiani Hourneaux de Mouraらは2019年に切除大腸モデルを用い前向き無作為試験を施行し,ESDの従来法とロボットESDとのパフォーマンスを比較検討した.ロボットESDにおける一括切除率は100%で従来法の50%と比較すると非常に高く,手技時間の有意な短縮(34.1min vs 88.6min;P<0.001)および穿孔率の有意な低下(30% vs 60%;P=0.002)が示された
62).この研究の参加者はESDの従来法およびロボットESDのいずれも未経験であった.この結果に基づきロボットESDは米国でのESDの普及を促進する可能性があるが,これは切除臓器モデルを用いた比較的少ない参加者数に基づく研究であり,追加試験が必要である.

その他,将来的に可能性のある治療法のオプションとしては,pre-cut EMRとhybrid ESDが挙げられる.EMRの前に粘膜全周切開を行う方法は,胃のEMR困難病変の一括切除法として2005年にMutoらによって報告された
63).スネアを併用したESDの亜型であるhybrid ESDはESDの最終局面に未剝離の粘膜下層をスネアで切除する方法であり,手技時間の短縮およびESDのトレーニングを効率化する可能性がある
64).Kimらによる後向き研究では,pre-cut EMR,hybrid ESD,およびESDの治療成績が203症例で比較検討され,pre-cut EMR群では一括切除率が有意に低かったものの,出血および穿孔率が有意に低下することが示された
65).重要なことは,この3群間で局所再発率には差が見られず,pre-cut EMRとhybrid ESDで手技時間に短縮が見られたことである.近年米国では,pre-cut EMRやhybrid ESDを大きな消化管腫瘍性病変に対して施行する症例が増加してきており,粘膜下層剝離の難易度低下や手技時間の改善が見られている.しかしながらpre-cut EMRやhybrid ESDなどのESD変法においても,あくまでも病変を一括切除することが原則であり,一括切除率を悪化させるものであってはならない
65)~69).Baeらによる無作為比較試験においては,ESDの従来法と比較してhybrid ESDでは手技時間の短縮が見られ,一括切除率および偶発症率には差が見られなかった
70).これらのESD変法はESD初心者がESDを開始する前のトレーニング法として確立できる可能性があるが,今後ESDトレーニングにおけるESD変法の教育効果に関する研究が必要である.
ESDフェローシップの確立
近年になり,Geら
8)は米国における1年間のAdvanced Endoscopy Fellowshipの期間中にESDが安全かつ効率的に習得できる可能性があることを示した.米国におけるAdvanced Endoscopy Fellowshipの本来の目的はEndoscopic retrograde cholangiopancreatography(ERCP)やendoscopic ultrasound(EUS)の修練であるものの,それに並行して本稿の指導執筆者であるESDエキスパートの監督下および指導下にESDのトレーニングが行われた.重要なことは,このフェローはESDに対する強い関心を持っていたものの,フェローシップ開始前にESDの経験が全くなかった点である.この点において,ESDエキスパートを擁する他の米国の施設でもこのフェローシップモデルが再現できる可能性がある.このフェローシップにおいてはその他の内視鏡トレーニング同様,トレーニングの3原則,すなわちESDに関する知識,認知能,そして技術取得に主眼が置かれESDの指導が行われた
8).ESDに関する知識,正しい症例選択法および適応病変,正確な内視鏡診断,高周波装置のセッティング,ESDデバイスの選択法,そしてESDにおける正しいストラテジーおよびテクニック,剝離面の認識,これらのすべての項目がESD指導医の監督下に綿密に評価され,習熟度の評価が行われた.重要なことは,このトレーニングプログラムでは日本のような従来の胃のESDから開始する段階的なトレーニングモデルを使用せず,米国におけるESDを取り巻く現実的な環境に即した形,すなわち食道や大腸の困難部位症例,そして前医が施行したEMRや点墨に起因する線維化による困難症例など多彩なESD症例にも積極的にフェローを参加させ,フェローの知識・認知能・技術習熟度の向上に応じフェローの担当時間を延長していく方針で行われた.このようなトレーニング方式の改変により,1年間のフェローシップの間にこのフェローはESDの技術習得を安全に達成することが可能であった.この研究は,米国におけるESDフェローシップの概念立証が可能であったという点で重要であるものの,このフェローの長期的なESDのパフォーマンスを示し,このモデルの他施設における再現による立証を行うことが必要である.
米国におけるESDトレーニングモデルの提案
従来の師弟モデルに基づくESDトレーニングではESDの技術習熟に一般的に3-4年の期間が見積もられているものの,われわれが提案するESDトレーニングモデルの変法においては,2-3年の比較的短期間に習熟が得られる可能性がある.ESDに興味のある米国の研修医,および消化器内科医はまず,米国で開催されている正規のESDコースもしくはバーチャル技術を用いた講義への参加,そして可能であれば日本での短期間の症例見学をすることを推奨する.そして次のステップとしては切除臓器などを用いたトレーニングののちESD変法,すなわち粘膜切開や粘膜下層剝離技術の習得のためまずpre-cut EMRやhybrid ESDのトレーニングを遂行することである.この技術の習得後,ESDエキスパートによる監督下に直腸または胃のESDのトレーニングを行い,将来的にトラクション法を用いた大腸や食道ESDに進むという段階的なトレーニングモデルである.特にトレーニング早期において病変は内視鏡医個人の技術レベルを考慮する必要がある(標準的な大きさ:長径5cm以内,線維化なし,困難領域に存在しない)
20),48),71),72).一方で紹介医に対してはESDを困難にするような内視鏡処置,すなわちEMRによる病変の部分切除や病変内への点墨を避けるように指導する必要がある
46).師弟モデルに基づくESDトレーニングの従来法および欧米におけるESDトレーニングモデルを比較したシェーマをFigure 6に示す.
Ⅴ 結 語
ESDは確立された方法であるものの,その技術的な困難さゆえ,米国における普及が依然として遅れている
13).ESDは日本で生まれ日本の内視鏡教育環境に即して普及したが,それをそのままの形で米国の教育システムに取り入れることは困難である.全く新しいトレーニング法,すなわちESDの新しいテクニックやテクノロジーのいくつかを活用し,遠隔通信を活用したESDエキスパートによる指導,症例見学,そして切除臓器や生体動物モデルによるトレーニングを組み込んだプログラムの確立が必要である.米国におけるESDの修練医は,まずESDに関する正しい基本知識・概念を学ぶことが必要で,ESDエキスパートが施行する症例を見学し,実際に症例を開始する前にはエキスパートから直接的な指導を受けることが肝要である.そして,ESDの米国におけるさらなる普及のために,ESDに特化したトレーニングおよび技術認定プログラムの確立が必要である.
本論文内容に関連する著者の利益相反:相原弘之(オリンパスアメリカ,ボストンサイエンティフィック,フジフイルムメディカルシステムズとコンサルティング契約)
本論文の日本語訳はDr. Aiharaによって作成されたものである.
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