2021 年 63 巻 5 号 p. 1099-1105
症例は68歳男性.右下肢開放骨折で入院中に腹痛と下痢が出現し,改善しないため当科へ紹介となった.CTで遠位回腸に壁肥厚を認め,経肛門的シングルバルーン内視鏡で同部位に全周性区域性潰瘍がみられた.低アルブミン血症もみられることから99mTc-DTPA-HSAシンチグラフィを行うと,潰瘍と一致する部位に集積を認めた.虚血性小腸炎による蛋白漏出性胃腸症と診断し,保存的加療を行ったが改善しないため回盲部切除術を施行した.術後,症状や低アルブミン血症の改善が得られた.虚血性小腸炎により蛋白漏出性胃腸症が生じ得ることを念頭に置く必要がある.
小腸は腸間膜の側副血行路が豊富なため虚血は生じにくいが 1),全身の循環障害,腸間膜血管の障害,腸管壁の血行障害などが原因となり虚血性腸病変が生じる 2).虚血性大腸炎と同様に,小腸で腸管虚血を生じたものが虚血性小腸炎とされる.蛋白漏出性胃腸症は消化管へのアルブミンをはじめとする血清成分の漏出が生じる病態であるが,虚血性小腸炎に合併した報告は少ない.今回,虚血性小腸炎による蛋白漏出性胃腸症を認め,回盲部切除を行い改善した症例を経験したので報告する.
症例:68歳,男性.
主訴:腹痛,下痢.
既往歴:高尿酸血症,高血圧,鼠径ヘルニア.
現病歴:交通事故による右下肢開放骨折のため当院に入院となった.事故時に腹部打撲や外傷はなかった.創外固定を入院第1病日に行い,第30病日に骨接合術を施行した.手術開始後しばらくして収縮期血圧が80mmHg以下に低下し,手術開始2時間後から無尿となった.手術時間は5時間41分,出血量は936mlで術中に赤血球濃厚液を4単位輸血した.術後も無尿が持続し,腎機能障害が進行したため,術中の循環血液量低下による急性尿細管壊死と診断され一時的に血液透析を行った.また術後から腹痛と下痢が生じ,改善を認めないため第66病日に当科紹介となった.
内服薬:術前にセレコキシブの内服をしていたが,術後は中止されている.抗菌薬の内服はない.
現症:身長169.0cm,体重69.6kg,体温37.1℃,HR 105/min,BP 131/71mmHg,SpO2 97%(room air),腹部平坦,軟,右下腹部に圧痛を認める.
臨床検査成績:低アルブミン血症,およびIgGとIgMの低下を認める(Table 1).

臨床検査成績.
心電図:心房細動は認めない.
造影CT:遠位回腸に著明な壁肥厚がみられ,腹水を少量認める(Figure 1).主幹動脈の閉塞はみられない.

造影CT所見.
遠位回腸に著明な壁肥厚がみられ,腹水を少量認める.
経肛門的シングルバルーン内視鏡(第70病日):遠位回腸に白苔を伴う全周性の潰瘍を認める.白苔のため視野不良で深部挿入はせず,病変全体の観察は行わなかった(Figure 2-a).

経肛門的シングルバルーン内視鏡所見.
a:全周性の潰瘍がみられる.白苔のため口側の評価は困難であった(第70病日).
b:白苔はほぼなく,潰瘍面には一部発赤調の小隆起を認める(第104病日).
c:潰瘍は白苔に覆われている(第189病日).
d:小腸造影では軽度の管状狭窄を認める.
臨床経過:第70病日に経肛門的シングルバルーン内視鏡を施行し,回腸病変の生検で炎症細胞浸潤および壊死所見を認めた.便培養では腸内細菌のみ検出され抗酸菌は認めず,血清学的検査ではサイトメガロウイルスの感染は否定的であった.CD toxinが陽性のためClostridioides difficile感染症と診断してバンコマイシンの内服を行い,腹痛の軽減とCD toxin陰性化を認めるも下痢は持続していた.第104病日に経肛門的シングルバルーン内視鏡を再び施行すると,遠位回腸に約15cmの全周性区域性潰瘍を認めた(Figure 2-b).同部位は軽度の狭窄を認めるも内視鏡の通過は可能であった.術中に血圧が低下して虚血が生じやすい状況にあり,経過から薬剤性消化管障害は否定的なこと,検査所見を総合し虚血性小腸炎と診断した.低アルブミン血症のため主科より連日アルブミンの投与が行われていたが,投与を中断したところアルブミン値の低下を認め,蛋白漏出性胃腸症を疑いtechnetium-99m human serum albumin diethylenetriamine pentaacetic acid(99mTc-DTPA-HSA)シンチグラフィを行うと回腸病変に一致する集積を認めた(Figure 3).虚血性小腸炎による蛋白漏出性胃腸症と診断し,高蛋白食や中心静脈栄養を行ったが低アルブミン血症は改善しなかった.第189病日の経肛門的シングルバルーン内視鏡で狭窄部の口側に厚い白苔に覆われた全周性潰瘍を認め,病変の改善がみられないため(Figure 2-c,d),第199病日に外科的に病変切除を行った.病変は回盲弁から近いため回盲部切除を施行し(Figure 4),縫合不全のリスクを考慮して腸管吻合はせずに人工肛門を増設した.病理学的に潰瘍は粘膜下層にとどまり,血管に富む肉芽組織を認めた.線維化,線維筋症および好中球・形質細胞の浸潤があり,わずかながら動脈内膜の肥厚もみられたが,担鉄細胞は認めなかった(Figure 5).

99mTc-DTPA-HASシンチグラフィ所見.99mTc-DTPA-HSA投与6時間後に,回腸病変に一致して集積を認める(矢印).

切除標本.
遠位回腸に15cmの潰瘍を認める.破線2a~2cはそれぞれFigure 2-a~2-cの位置.病変口側は白苔が付着しているが(2b,2c),肛門側には白苔が乏しい(2a).赤枠のミクロ像はFigure 5で提示する.

病理所見.
Figure 4赤枠の拡大.潰瘍面は毛細血管が豊富な肉芽組織があり,一部上皮が残存している.潰瘍底は粘膜下層まででUl-Ⅱを呈し,好中球,形質細胞をはじめとする炎症細胞浸潤がみられる.
術後経過:術後,アルブミン値の上昇がみられ(Alb 3.0 g/dl),第241病日に人工肛門を閉鎖した.その後,下痢は改善し,歩行訓練を継続している.
虚血性大腸病変が虚血性大腸炎と壊死穿孔型に分類されるように,岩下ら 3)は虚血性小腸病変を狭義の虚血性小腸炎と壊死穿孔型に分類可能としている.狭義の虚血性小腸炎とは慢性経過となり狭窄が生じる狭窄型と,急性期を過ぎれば改善する一過性型を合わせた分類で,狭窄型では腸閉塞症状を生じ外科的切除が行われることがある.虚血性小腸炎の定義は様々で,主幹動脈の閉塞などの原因が明らかではない虚血性小腸病変を狭義の虚血性腸炎と分類した報告 4)もあれば,主幹動脈の閉塞などの原因が判明したものを続発性虚血性小腸炎とし,原因不明のものを特発性虚血性小腸炎とした報告 5)もある.虚血性大腸炎は一般的に主幹動脈の閉塞がないとされることから 6),今回は主幹動脈の閉塞がない虚血性小腸病変を虚血性小腸炎と定義し考察する.主幹動脈に閉塞のない虚血性腸疾患として非閉塞性腸管虚血(NOMI)があるが,虚血性小腸炎と同じ疾患,病態か一定の見解はない 7).うっ血性心不全,不整脈,循環血液量低下,低血圧,敗血症などが腸管虚血の危険因子とされる 1).虚血性小腸炎140例における臨床像では,回腸に好発し多発病変が17例にみられ,狭窄長は平均15.3cmと報告されている 8).回腸に好発する原因として石丸らは流体力学的な影響と,回腸と空腸における血管走行の違いを挙げている 9).
蛋白漏出性胃腸症は低アルブミン血症,低ガンマグロブリン血症(IgA,IgG,IgMの低下),リンパ球減少などを認め 10),下痢や浮腫,胸腹水貯留などの症状がみられる.原因はびらん性消化管障害,非びらん性消化管障害,中心静脈圧の上昇もしくはリンパ管閉塞に分類される 11).びらん性消化管障害による蛋白漏出性胃腸症は,炎症性腸疾患や消化管悪性腫瘍,Clostridioides difficile感染症でも生じるとされるが,虚血性小腸炎での蛋白漏出性胃腸症は報告例が少ない.医中誌で「蛋白漏出性胃腸症,虚血性小腸炎」をキーワードに検索し得たのは3例のみであったが,うち1例は上腸間膜動脈の閉塞例のため,主幹動脈に閉塞のない小腸病変という定義に合致するのは2例のみであった 12),13).Pubmedで「protein-losing gastroenteropathy, ischemic」をキーワードに検索すると,内ヘルニアによる虚血性小腸炎の症例 14),および虚血性小腸炎との記載はないが,NOMI後に生じた難治性多発小腸潰瘍に伴う蛋白漏出性胃腸症の報告を認めた 15).前述のとおりNOMIと虚血性小腸炎は同一疾患か議論はあるが,今回は虚血性小腸炎と同じカテゴリーと考えTable 2にまとめた.本症例を合わせた5症例中のうち4症例で下痢がみられ,3症例が単発の潰瘍であった.全症例で外科的切除を施行し,低アルブミン血症が改善した.

虚血性小腸炎による蛋白漏出性胃腸症の報告例.
蛋白漏出性胃腸症の診断は,肝臓で合成されるα1-アンチトリプシンの漏出試験が低コストで施行できる 16).一方,99mTc-DTPA-HSAシンチグラフィはコストがかかるものの,漏出部位の同定が可能となる.α1-アンチトリプシンクリアランスは便の採取が必要であるが,本症例は骨折のため離床が困難で便の採取ができず,99mTc-DTPA-HSAシンチグラフィを選択した.
蛋白漏出性胃腸症の治療には原疾患の改善が必要であるが食事療法も治療の1つであり, 低脂肪かつ蛋白と中鎖脂肪酸を多く摂取することが有効とされる 17).通常時の蛋白必要量は0.6~0.8g/kg/日であるが,蛋白漏出性胃腸症の場合は2.0~3.0g/kg/日にまで増加する 11).本症例では高蛋白食を提供していたが食事摂取量が増加しないため,中心静脈栄養とアミノ酸製剤の投与を行うも無効であった.
虚血性小腸炎の肉眼的特徴は求心性管状狭窄,全周性区域性潰瘍,狭窄部腸管壁の肥厚と報告されている.病理組織学的所見はUl-Ⅱ以上の潰瘍,血管に富む肉芽組織による潰瘍底の裏打ち,粘膜下層を中心とする線維筋症と線維化,炎症性細胞浸潤,担鉄細胞の出現,動脈内壁の線維筋性肥厚,再疎通像を伴う器質化血栓,リンパ管壁の肥厚などが挙げられている 3).本症例は担鉄細胞,器質化血栓,リンパ管壁の肥厚はなかったものの,Ul-Ⅱの潰瘍,血管に富むに肉芽組織,炎症細胞浸潤など虚血性小腸炎に矛盾しない所見を多く認めた.
本症例は生検や感染症の検索をしたが有意な所見はなく,経過や画像・病理所見から虚血性小腸炎と診断した.骨接合術中に生じた血圧の低下が,腸管の循環動態に影響を与え今回の病態を引き起こしたと考える.虚血性小腸炎の患者に低アルブミン血症が生じた際は,蛋白漏出性胃腸症の合併例があることを念頭に置く必要がある.
虚血性小腸炎による蛋白漏出性胃腸症を認め,回盲部切除を行い改善し得た症例を経験した.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし