2021 年 63 巻 5 号 p. 1119-1124
症例は74歳,男性.便潜血反応陽性を主訴に受診.内視鏡検査で直腸に隆起性病変を認め直腸粘膜脱症候群を疑った.経過観察中に短期間で潰瘍性病変へ形態が変化したことから悪性リンパ腫を疑ったが確定診断に難渋し,内視鏡検査と生検を繰り返し,最終的にはEBER(EBV-encoded RNA)陽性所見からEBV(Epstein-Barr virus)関連の末梢性T細胞リンパ腫・非特定型(peripheral T-cell lymphoma,not otherwise specified:PTCL-NOS)と診断した.全身化学療法を行ったが,初診から約10カ月の短期間で死亡した.消化管原発悪性リンパ腫においてT細胞性リンパ腫は少なく,EBV陽性のPTCL-NOSはさらに稀であり予後不良であることが知られる.本例は内視鏡所見が短期間で急激に変化し,その経時的変化を観察し得た貴重な症例であり報告する.
消化管原発の悪性リンパ腫は病理組織学的にB細胞性が多く,T細胞性は少ない 1).中でも大腸末梢性T細胞リンパ腫・非特定型(peripheral T-cell lymphoma, not otherwise specified:PTCL-NOS)は,大腸に原発する稀な腫瘍で悪性度が高いとされる.今回われわれは,便潜血陽性を契機に発見され,経時的に急激な形態変化を観察し得た消化管原発PTCL-NOSの1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.
患者:74歳,男性.
既往歴:特記事項なし.
家族歴:特記事項なし.
喫煙歴:1日5本(50年間).
飲酒歴:なし.
現病歴:検診で便潜血反応陽性を指摘され,当院を受診した.
身体所見:身長165.7cm,体重57kg,体温37.9度,血圧110/69mmHg,脈拍111回/分,整,SpO2 98%(室内気),貧血・黄疸・浮腫なし,頸部リンパ節腫脹なし,腹部所見異常なし.
血液検査成績:Hb 11.6g/dlの軽度の貧血,LDH 333IU/lの軽度上昇,および可溶性IL-2レセプターは542U/mlで軽度上昇を認めた.ウイルスに関してはHTLV-1(-),EBVCAIgM(-),EBVCAIgG(+),EBNAIgG(+),CMVIgM(-)であった.
経過:便潜血反応陽性に対して,20xx年2月下部内視鏡検査(CS)を行った(Figure 1).上部直腸(以下Ra)において表面粘膜に小びらんの多発を伴う隆起性病変を認めた.下部直腸(以下Rb)には小びらんが多発していた.虫垂開口部を含め,その他の大腸には内視鏡的な異常はみられなかった.色素散布像やNBIでは悪性所見を疑わせる粘膜構造や血管構造の不整はみられなかった.生検では高度のcryptitis,crypt abscess,リンパ球浸潤などの非特異的な炎症を認めるのみで確定診断には至らなかった.脱肛の訴えがあり当院外科へ紹介し,脱出性内痔核の診断で注入軟膏処方された.同年4月にCSを再検したところRaの隆起性病変はびらんが増悪して粘膜の脱落が広がり.Rbには深掘れ潰瘍様の卵円形の粘膜欠損を認めた.この時点では息み習慣もみられたことから混合型の粘膜脱症候群(MPS)を疑いRbの瘻孔は注入軟膏による外的刺激により粘膜欠損をきたしたと考えた.

(下部消化管内視鏡)2月,4月,6月の内視鏡所見.
上段がRaの所見.2月に多発性のびらんがみられ,4月には粘膜の脱落が広範囲に広がり,6月には陥凹した潰瘍性病変に変化した.下段がRbの所見.2月は微小なアフタ性びらんのみであったが,4月に深掘れ潰瘍様の粘膜欠損が出現し,6月には筋層が露出した深い巨大な潰瘍に変化した.
同年5月外科的対応を検討中であったが,血便,発熱が出現し緊急入院となった.腹部造影CTでは下部直腸の壁肥厚あり,背側のリンパ節が10mm程度に腫脹していた.CSを施行したところ,Raの病変は粘膜下腫瘍様の立ち上がりを呈した平皿様の形態を呈し,Rbの病変は潰瘍が深くなり筋層が露出しており,その周囲の粘膜は白色調で血管透見性が低下していた(Figure 1).内視鏡所見より悪性リンパ腫を疑い複数の生検を提出したが生検結果からは悪性リンパ腫の確定診断には至らなかった.同年6月に再度CSを行いRaの病変は潰瘍がさらに深くなり,周堤の耳介様隆起もより明瞭化した.この時虫垂にも粘膜下腫瘍様の隆起があり,虫垂開口部に当たると思われる部位に潰瘍を認めた.内視鏡的に悪性リンパ腫が鑑別に上がったため,確定診断を得るため再度複数の生検を施行した.
虫垂および直腸の潰瘍部周辺粘膜の生検では,ともに陰窩上皮の萎縮がみられ,間質には異型の乏しいリンパ浸潤がみられた.また虫垂および直腸の潰瘍部の生検では粘膜上皮の消失と間質の壊死を認め,そこに中~大型のリンパ腫細胞を認めた(Figure 2).免疫組織学的検討から,CD4が一部陽性であったことより(Figure 2),T細胞系リンパ腫の可能性を疑ったがT細胞レセプター(TCR)遺伝子と免疫グロブリン(IG)遺伝子の再構成を行ったが陰性であった.

(病理組織学検査)直腸潰瘍部の生検.
HE染色で中~大型のリンパ腫細胞を認めた.CD4は一部陽性と判断した.
診断確定のために国立がん研究センターがん対策情報センター・がん診療支援システムに病理診断を依頼したところ,Table 1に示す免疫組織化学染色の結果で,腫瘍細胞はCD3+,CD4一部(+),CD5(-),CD7(+),CD8(-),CD10(-),TIA(+),granzymeB(+),EBER(EBV-encoded RNA)(+),CD20(-),CD79a(-),Ki-67 MIB 90%であったため,PTCL-NOSと診断した(Table 1・Figure 3).胸部CTでは粗大な腫瘍やリンパ節腫脹を認めず,PET-CTにて直腸と回盲部に病変を疑う集積を認め,病期分類はLugano分類でStageⅡ1と診断した.

病理組織学検査・免疫染色結果.

(病理組織学検査)虫垂開口部の潰瘍周囲粘膜からの生検.EBER陽性であった.
入院経過中,38度台までの発熱が持続したが,血液培養・尿培養・便培養を行うも陰性であり,悪性リンパ腫のB症状と臨床的に判断し,ナプロキセン内服による対症療法を行った.化学療法目的に他院血液内科へ転院し,Cyclophosphamide,doxorubicin,Vincristine,Prednisolone(CHOP)療法が導入されたが無効であった.Dexamethasone,Etoposide,Ifosfamide,Carboplatin(DeVic)療法,gemcitabine(Gem)療法も不応,抗CCchemokine recepor4(CCR4)抗体陽性であり抗CCR4抗体療法を行った.直腸病変に奏効したが回盲部病変が増悪し,初診より10カ月後に回盲部病変において穿孔をきたし腹膜炎を発症し,緊急回盲部切除+回腸人工肛門造設術が施行された.切除標本の病理所見では,穿孔部に広範なリンパ腫細胞の浸潤がみられ,免疫組織学的検討により術前の生検での診断と同一のPTCL-NOSの所見が得られた.腹膜炎は術後に一旦改善したが,その後,直腸病変からの出血を契機に全身状態が悪化し,術後から約2週間で永眠した.
消化管悪性リンパ腫の内視鏡診断は肉眼所見から5型(隆起型,潰瘍型,MLP(multiple lymphomatous polyposis)型,びまん型,混合型)に分類される 2)が,Leeらの大腸悪性リンパ腫での検討では,T細胞性リンパ腫では深い潰瘍性病変やびまん性の地図状潰瘍,アフタ様所見が特徴的としている 3).
本症例は内視鏡的に経時的変化を追え,初診時の内視鏡像としては,直腸Raでは隆起性病変,直腸Rbではアフタ様所見がみられた.その後Raの病変は徐々に潰瘍型へ変化し,Rbの病変は注入軟膏によるものと思われる機械的刺激の影響もあるが,筋層が露出したような深い潰瘍性病変となった.病変形態の経時的変化を観察できた貴重な症例であった.
自験例の病理学的診断はPTCL-NOSの他に,鑑別疾患として,extranodal NK/T-cell lymphoma,nasal type(ENTL),angioimmunoblastic T-cell lymphoma(AITL), enteropathy-associated T-cell lymphoma(EATL),monomorphic epitheliotropic intestinal T-cell lymphoma(MEITL)やintestinal T-cell lymphoma- NOS(ITCL-NOS)が挙がった.それぞれの免疫組織化学的検討について記載する 4),5).
ENTLはCD2+,surface CD3-,cytoplasmic CD3-,CD56+,AITLはCD5+,CD7+.AITLはT follicular helper(TFH)細胞の腫瘍と考えられており,CD2+,CD3+,CD10+,BCL6+,PD1+などを示す.EATLはCD3+,CD5-,CD7+,CD4-,CD8-,CD103+,時にCD30+を示す.またMEITLはCD3+,CD5-,CD7+,CD4-,CD8+,CD56+,CD103+,TIA+を示し,20%の症例でCD20+を示す.
ITCL-NOSの免疫組織学的特徴としてはその多くがTCR-silentでcytotoxic phenotypeを有するものが多い.EATL・MEITL・ITCL-NOSのいずれもEBVは陰性である.PTCL-NOSはCD2(+),CD3(+),CD5(+),CD45RO(+)であるが,時としてCD5,CD7は発現が低下することがある.大多数のものはCD4(+),CD8(-)をとるとされる.細胞障害性マーカーgranzymeB,TIA-1,perforinは陽性のこともある.稀にB細胞マーカーのCD20やCD79aの報告もある.Weisenburgerらの報告では,PTCL-NOS症例の14%がEBER強陽性であるとしている 6).
本症例は他院の病理診断でCD56陰性からENTLと異なり,CD10陰性からAITLと異なった.EATL,MEITL,ITCL-NOSではEBVは陰性であるとされ,上記から稀なEBV陽性のPTCL-NOSと診断することは妥当であると考えた.
PTCL-NOSの治療については,アントラサイクリンを含む6~8クールのCHOP療法が第一に選択される 6),7).PTCL-NOSは男性に多く,一般に予後不良な疾患で,5年全生存率は32% 6)と報告されている.またGELA studyではEBER陽性は単独の予後不良因子と報告され 7),他にKi-67(>70%),細胞障害性マーカーも予後不良因子に挙げられている 5).
本症例に一致する大腸原発のT細胞リンパ腫の報告は少なく,PTCL-NOSの報告はさらに少ない.WHO分類の改定が行われた2009年以降の医学中央雑誌で,「大腸」,「T細胞リンパ腫」で検索した中で内容について詳細な記載がなされたものとしては5例の症例報告があった 8)~12)(2019年11月まで,会議録を除く).
大腸原発のPTCL-NOSして報告された症例は,佐藤ら 8)と自験例の2例であった.PTCLの5例のうち自験例と同じく直腸に病変を有する症例は3件 8),10),12)で男性の比率が高かった.肉眼型については潰瘍型の他に,びまん型と,隆起型も散見された.予後としては,観察内で1年以上生存している症例は1例のみ 9)であった.大島ら 13)の報告から非ホジキンリンパ腫の悪性度による分類に則れば,PTCLは中~高悪性度の腫瘍であり,本症例も含めて予後不良の報告が多い.
短期間で直腸病変の急激な形態変化を観察し得たEBV関連末梢性T細胞リンパ腫の稀な1例を経験した.本症は生検病理診断に苦慮する場合があり,内視鏡所見の急激な形態変化から本症を念頭においた専門機関による病理診断を考慮することが重要である.
謝 辞
本例の病理診断に尽力いただいた久留米大学医学部病理学講座に謝意を表する.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし