日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
同一病変内の2カ所に癌化を認めたSessile serrated lesionの1例
河井 裕介 和唐 正樹石川 茂直榊原 一郎泉川 孝一山本 久美子髙橋 索真田中 盛富稲葉 知己安藤 翠
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2021 年 63 巻 6 号 p. 1262-1268

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要旨

症例は63歳女性.下部消化管内視鏡検査で盲腸に25mm大の0ʼ-Ⅱa病変を認め,生検で高~中分化腺癌と診断され,治療目的に紹介された.NBI拡大観察で2カ所の発赤隆起部に口径不同や血管の走行異常を認め,発赤が強い部分でより顕著であった.クリスタルバイオレット染色拡大観察で2カ所の発赤隆起部はⅤI型軽度不整pitを,周囲の表面隆起部はⅡ型pitを認めた.以上からSessile serrated lesion(SSL)に合併した粘膜内癌と診断し,ESDを施行した.病理診断は,SSLを背景に4×3mmの上皮内癌と3×2mmのSM癌を認めた.SM浸潤部は低分化成分が占めていたため,追加外科手術を施行した.癌及び腫瘍成分の遺残や,リンパ節転移は認めなかった.同一病変内の2カ所に癌化を認め,うち1カ所はSM浸潤を認めた,貴重な症例であった.

Ⅰ 緒  言

Sessile serrated lesion(SSL)に由来する癌は,高齢女性に多く,右側結腸に発生する傾向があり,表層部は分化型の管状腺癌が主体であるが,浸潤先進部では低分化傾向を認めるなどの特徴が報告されている 1.SSLにおける癌の発生については,別部位に多発していた報告例は散見されたものの 2)~5,同一のSSL病変内に複数箇所認めた報告例はない.今回,われわれは同一病変内の2カ所に癌化を認めたSSLの1例を経験し,その内視鏡像,病理組織像を検討したので報告する.

Ⅱ 症  例

症例:63歳,女性.

主訴:なし.

家族歴:なし.

既往歴:59歳 子宮頸癌(準広汎子宮全摘,両側付属器摘出術,ⅠB1期).

現病歴:2018年3月に便潜血陽性に対して下部消化管内視鏡検査を施行したところ,盲腸に25mm大の0ʼ-Ⅱa病変を認めた.生検で高~中分化腺癌と診断され,同年4月,治療目的に当院紹介となった.

受診時身体所見:身長164cm,体重51.4kg.胸腹部に異常所見を認めず.

血液生化学所見:腫瘍マーカーを含め,異常を認めず.

胸腹部造影CT検査:病変は指摘できず,遠隔転移やリンパ節転移は認めなかった.

下部消化管内視鏡検査:盲腸に25mm大の0ʼ-Ⅱa病変を認めた.色調は全体にやや白色調で,水洗を複数回行ったが,病変全体に粘液付着を認めた.病変内に2カ所,わずかに発赤した隆起を認めた(Figure 1-a).インジゴカルミン散布により,隆起部分とその発赤がより明瞭となった.白色矢頭部と比して,白色矢印部はより発赤が目立っていた(Figure 1-b).NBI拡大像で,2カ所の発赤隆起部の表面模様は不明瞭で,血管の口径不同や走行異常を認め,JNET Type 2B相当と判断した.その所見は発赤の強い白色矢印部でより顕著であった(Figure 1-c,d).周囲の表面隆起部はJNET Type1相当で,開Ⅱ型pitに相当する黒点もみられた(Figure 1-d).クリスタルバイオレット染色拡大像では,病変表面の粘液付着が多く,複数回の水洗を行うも取りきれず十分な染色が得にくかったが,2カ所の発赤隆起部で辺縁不整,大小不同の腺管開口部がみられており,ⅤI軽度不整と判断した.2カ所の発赤隆起部分に明らかな差異はみられなかった(Figure 1-e,f).

Figure 1 

下部消化管内視鏡検査.

a:通常内視鏡像.盲腸に25mm大の0ʼ-Ⅱa病変を認めた.色調は全体に白色調で,2カ所にわずかに発赤を伴う隆起(白色矢印部,白色矢頭部)を認めた.

b:インジゴカルミン色素散布像.2カ所の発赤隆起部(白色矢印部,白色矢頭部)はより明瞭となり,白色矢頭部と比して,白色矢印部はより発赤が目立っていた.

c:NBI拡大像.bの白色矢印部.不整に分岐,拡張する異常血管像を認めた.

d:NBI拡大像.bの白色矢頭部.一部に軽度拡張した異常血管像を認め,周囲の表面隆起部には黒点もみられた.

e:クリスタルバイオレット染色拡大像.bの白色矢印部.染色不良であるが,辺縁不整,大小不同の腺管開口部を認めた.

f:クリスタルバイオレット染色拡大像.bの白色矢頭部.染色不良であるが,わずかに辺縁不整な腺管開口部を認めた.

内視鏡所見で発赤隆起部はJNET Type 2BならびにⅤI軽度不整と判断したこと,前医の生検で高~中分化腺癌の診断であったことより,SSLに由来した早期大腸癌,0ʼ-Ⅱa,上皮内癌と診断し,2018年5月,ESDを施行した.

病理組織所見:Figure 2において橙色破線で示す断面Aでは,SSLを背景として,3×2mmの範囲に表層はtub1相当の高分化腺癌を認めたが,深部は小胞巣状構造を示す低分化な成分が占め,わずかな範囲で100μmのSM浸潤を認めた(Figure 3-a,b).水色破線で示す断面Bでは,SSLを背景に,4×3mmの範囲にtub1相当の上皮内にとどまる高分化腺癌であった(Figure 4).

Figure 2 

切除病理標本像.

12分割し,橙色破線(断面A)が白色矢印部,水色破線(断面B)が白色矢頭部.白色線部がSSL,赤色線部が深達度M,黄緑色線部が深達度SM1.青色線部がMLH1発現欠失部.

Figure 3 

切除病理組織像(橙色破線部,断面A).

a:HE染色.茶色線部が高分化腺癌,黄色矢印が粘膜筋板下端.粘膜表層は高分化癌で覆われ,低分化癌部は深部に局在していた(×40).

b:HE染色.黄色矢印が粘膜筋板下端,黒色矢頭が腫瘍腺管下端.低分化腺癌部分は粘膜筋板を破壊し,100μmの深さで粘膜下層へ浸潤していた(×200).

Figure 4 

切除病理組織像(水色破線部,断面B).

HE染色.紫色線部がSSL,茶色線部が高分化腺癌.癌は粘膜内にとどまっていた(×20).

内視鏡画像と切除病理所見を対比すると,癌病変は内視鏡で発赤ならびに軽度の隆起を認めた2カ所に一致しており,より発赤の目立つ部分でSM浸潤を来していた.脈管侵襲認めず,水平垂直断端共に陰性であったが,断面AのSM浸潤部は低分化成分が占めており,追加で腹腔鏡下回盲部切除術を施行した.手術標本内に,癌及び腫瘍成分の遺残や,リンパ節転移は認めなかった.術後1年9カ月経過し,再発なく経過している.

Ⅲ 考  察

SSLは,従来は非腫瘍性病変と考えられていたが,近年では多方面からの検討により,adenoma-carcinoma sequenceやde novo発癌とは異なる発癌経路(serrated neoplastic pathway:SNP)をとる大腸癌の前駆病変として注目されている.SNPは,全大腸癌の20~30%を占めると推定されているマイクロサテライト不安定性(microsatellite instability:MSI)を示す大腸癌への経路と考えられている 1),6

一般に,SSLに由来する癌は,高齢女性に多く,右側結腸に発生する傾向があると言われている 1.本症例も63歳の女性で,右側結腸である盲腸に発生した病変であった.

SSLの癌化率は2.7%~13%と報告 2),7),8されている.SSLにおける癌化時の内視鏡所見として,Murakamiら 9は,(亜)有茎,二段隆起,発赤,陥凹の4所見をあげ,各所見ごとのcytological dysplasiaとinvasive carcinomaの頻度を検討し,4所見のうち1つでも陽性なら癌化の拾い上げに高い感度と特異度を示すことを報告している.Burgessら 10,林ら 11は,部分的に小隆起を認める場合や,雲状発育を呈したSSLの一部が盛り上がっている場合に,同部に癌が存在する可能性を報告している.本症例も,病変内に部分的な小隆起や,発赤の内視鏡所見を認め,病理組織学的所見も,同部に一致して癌病変を認めていたため,発赤や部分的な小隆起はSSLの癌化時の内視鏡所見と考えた.壁深達度に関しても,2カ所の発赤隆起部を比較して,より発赤し,NBI拡大で血管異型の強い部でSM浸潤を来していたことから,これらの内視鏡所見が目立つ場合は,より慎重に深達度診断をする必要があると考えられた.

治療対象とするSSLの大きさについては,藤井ら 12は多施設によるアンケート調査より,10mm以上で9.8%に癌化を認めるため,10mm以上が内視鏡治療適応病変としている.特に,21mm以上の病変は20%以上に癌化を認めており,積極的な治療が望まれるとしている.一般に,病変径が大きくなるにつれて癌化率が高まるとの報告が多いが,一方で,異型の強さと平均腫瘍径が相関しなかったとの報告 13や,SSL癌化症例の約半数が10 mm未満であったとの報告 14もあり,大きさだけで癌化率が決まるとは言い難く,経年変化を認めない症例も多数存在する.また,欧米においては,腫瘍径5mm以上のSSLすべてを切除対象にすべきであるという報告 15もある.すなわち,SSLの切除対象について一定の治療指針が定まっておらず,各施設の判断に委ねられているのが現状であると言える.本症例において病変は25mmと大きく,発赤や小隆起など,癌化を示唆する内視鏡所見を呈していたことや,前医の生検結果より治療適応病変と考えた.切除方法についても一定の見解はみられないが,本症例では,病変の最大径が25mm以上で,癌の混在を疑う点から,確実に一括切除かつ深部断端評価が可能であるESDを選択した.

SSLの病理学的特徴としては,特異的ではないものの,鋸歯状構造,篩状・融合腺管,小型腺管,小型円形核,低異型度癌,粘液癌,脱分化(癌の低分化化)など7つの特徴的な組織所見を示すことが報告されている 3),6),16.河久 6は,SSLに由来する早期大腸癌を上皮内癌部とSM浸潤部とに分け,上記所見の出現頻度を解析した結果,上皮内癌部では低異型度癌が75.6%にみられるが,SM浸潤部では,上皮内癌部で認めなかった粘液癌を36.4%に,脱分化(低分化化)を25.5%に認めたと報告しており,粘膜内では中分化型と高分化型の両者の性格が共存し,SM浸潤に伴い急激に脱分化し,粘液癌に移行する傾向があることを推定している.

深達度に関しては,藤井ら 12は,SSLの癌化例51病変のうち15病変(29.4%)がSM癌であり,SM癌はすべて右半結腸に存在し,盲腸が40%を占めていたと報告している.林ら 4はSSLの癌化30例の検討を行い,病変全体の大きさは平均11.7 mm,癌病巣の大きさは平均3.0mmと小さいにも関わらず,60%にSM浸潤を認めたと報告している.本症例においても,病理標本所見において,1つは3×2mmと非常に小さいにもかかわらずSM浸潤を認めた.術前の内視鏡所見より,SSLの癌化は想定していたが,粘膜表層は高分化癌成分の粘膜内病変で覆われており,またSM100μmの微小浸潤であり,深部に局在する低分化成分を内視鏡的に同定することは困難であったと考えられた.

SSL癌化の多発例については,医学中央雑誌(会議録を除く)で「鋸歯状病変 大腸癌 多発」,「sessile serrated adenoma polyp 大腸癌 多発」を,PubMedで「sessile serrated cancer multiple」をキーワードに検索を行ったところ,SSLから発生したと考えられる多発大腸癌の報告は散見され 2)~5,7例中6例はSerrated polyposis syndrome(SPS)の定義 17のうち,「少なくとも直腸より近位に鋸歯状ポリープが5個以上,すべてが径5mm以上で,2個以上が径10mm以上の大きさを有していること」を満たすものであった.しかし,同一病変内に癌が多発していたという報告例は認めなかった.また,本症例では,病変は単発でSPSには該当しなかった.

SSLの癌化において,MSIは癌化の重要なマーカーであるが,ミスマッチ修復機構(mismatch repair:MMR)において重要な構成成分の1つであるMLH1(mutL homolog 1)の発現低下はMLH1のプロモーターメチル化を反映している可能性があり,MSIが生じているかどうかの検討に有用であると報告 18されている.同様に,MMR遺伝子の生殖細胞系列変異はLynch症候群由来の大腸癌に大きく関与する 19.本症例においては,既往歴や家族歴からLynch症候群は考えにくく,また遺伝子情報に関する染色に対しての説明・同意が得られておらず,MLH1の免疫染色のみ追加したところ,MLH1発現の欠失している箇所が癌病変部周囲と別の部位にも存在していた(Figure 2).MLH1欠失がこの癌化経路のすべてを説明できるものではないが,少なくともMLH1を介する経路が同一病変内に多数働いており,癌化ポテンシャルの高い粘膜を背景にして複数箇所に癌化が認められた,serrated neoplasia pathway仮説を裏付ける重要な事実の1つと考えられた.

SSLは癌化の可能性も考慮した慎重な内視鏡診断が必要であり,(亜)有茎,二段隆起,発赤,陥凹所見など,癌が疑われる所見を認めた場合は,多発やSM浸潤の可能性を考慮する必要があるため,EMRあるいはESDによる一括切除が望ましいと考えられた.

Ⅳ 結  語

SSLに由来した早期大腸癌の1例を経験し,同一病変内の2カ所に癌化を認めた貴重な症例であった.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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