日本消化器内視鏡学会雑誌
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原著
大腸における超拡大内視鏡所見と病理組織所見との整合性に関する検討
中尾 栄祐 斎藤 彰一佐野 芳史綾木 花奈松野 高久池之山 洋平鈴木 桂悟土方 一範光吉 優貴屋嘉比 聖一城間 翔井出 大資千野 晶子五十嵐 正広藤崎 順子河内 洋
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2021 年 63 巻 7 号 p. 1344-1350

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要旨

【目的】大腸における超拡大内視鏡所見と病理組織所見との対応に関して検討することを目的とした.

【方法】2017年12月から2019年9月までの期間に,超拡大内視鏡を用いて観察後,内視鏡的切除術または外科切除術を施行した188例を対象とした.超拡大内視鏡所見はEC分類を用いて分類し,病理組織所見との対応について検討した.

【結果】EC 1aはすべて非腫瘍に,EC 1bは過形成ポリープおよび鋸歯状病変に対応していた(61.5%)が,腺腫(7.7%),粘膜内癌(7.7%),粘膜下層浸潤癌(23.1%)もみられた.EC 2は腺腫と粘膜内癌に対応していた(87.3%).EC 3aは半数が粘膜内癌と粘膜下層軽度浸潤癌に対応していた(47.6%)が,残りは粘膜下層深部浸潤癌が占めていた(52.4%).EC 3bはすべて粘膜下層深部浸潤癌に対応していた.

【結論】大腸における超拡大内視鏡所見は病理組織所見を反映しており,病理組織所見を予測する上で有用なモダリティと考えられた.

Ⅰ 緒  言

大腸腫瘍性病変の診断において,拡大内視鏡の果たす役割は大きく,治療方針の決定において欠かすことのできないものとなっている.特に超拡大内視鏡(CF-H290ECI,オリンパス社)は,通常観察から約520倍の超拡大観察まで行うことが可能で,生体内で腺管から核に至るまで組織所見の観察をリアルタイムに行うことができる.2018年に超拡大内視鏡が市販化され,徐々にその使用機会は増えており,実際に超拡大内視鏡所見が病理組織所見を反映しているのかに関して検討が必要である.これまでに超拡大内視鏡所見はEC分類として報告されており,各分類と病理組織所見との対応に関して検討されている 1が,限られた施設での使用にとどまっているのが現状である.同時に,超拡大内視鏡所見とこれまで報告されてきた拡大内視鏡所見であるJNET分類 2およびpit pattern分類 3との対応に関する報告はなく,検討が必要であると考えられる.そこで,ここでは超拡大内視鏡所見と病理組織所見,および拡大内視鏡所見(JNET分類・pit pattern分類)との対応に関して検討することを目的とした.

Ⅱ 対象と方法

2017年12月から2019年9月までの期間に,超拡大内視鏡を用いて観察後,内視鏡的切除術(ポリペクトミー,EMR,ESD)あるいは外科切除術を施行した188例,188病変を後ろ向きに検討した.

内視鏡検査の経験年数5年以上の5名の専門医により検査は行われた.病変を十分に水洗した後に通常白色光観察を行い,大腸癌取扱い規約第9版 4に基づいて病変の大きさ・部位・肉眼型を評価した.次に,NBI観察を行い表面構造と血管構造を評価し,JNET分類に基づいてNBI拡大観察所見を診断した.続けてインジゴカルミンを撒布して観察し,再度十分に水洗した.次にCrystal violet染色を行い,pit patternを評価し,続けて可能な限り速やかにMethylene blue染色を行い,二重染色を行った上で超拡大内視鏡観察を行った.既報 1に従って腺管と核を評価し,EC分類に基づいて超拡大内視鏡所見を分類した.各病変のJNET分類・pit pattern分類・EC分類は,記載がある場合は検査報告書から情報収集し,記載がない場合は1名の内視鏡専門医が検査画像を用いて評価した.いずれも病変の組織型や深達度を最も反映している関心領域の所見に基づいて分類した.なお,評価に値する画像が記録されていないなどの理由で,検査報告書および検査画像いずれからも適切な情報が得られない場合,その病変は除外とした.

病理組織所見は内視鏡的切除術あるいは外科切除術が施行されたすべての検体を速やかにホルマリン固定し,内視鏡的に切除された検体は2mm間隔で,外科的に切除された検体は5mm間隔で切片を作成し,大腸癌取扱い規約第9版に基づいて病理医によって評価された.

対象となった188病変の年齢・性別・大きさ・部位・肉眼型,および各EC分類と病理組織所見・JNET分類・pit pattern分類との対応に関して検討した.さらに,EC 1aは非腫瘍,EC 1bは過形成ポリープおよび鋸歯状病変,EC 2は腺腫および粘膜内癌,EC 3aは粘膜内癌および粘膜下層軽度浸潤癌,EC 3bは粘膜下層高度浸潤癌に対応するものとした場合の各EC分類の感度・特異度・正診率を調べた.なお,本論文では過形成ポリープ以外の非腫瘍性病変を非腫瘍と扱った.

Ⅲ 成  績

1.患者背景(Table 1
Table 1 

患者背景.

本検討で対象となった188例の患者背景をTable 1に示す.平均年齢は64.4歳(37-89歳)で,男性103例,女性85例であった.平均腫瘍径は20.9mm(5-100mm)で,肉眼型は隆起型が53.2%と最も多く,続いて表面型が30.9%,陥凹型(隆起型と表面型に陥凹面を有するものを含む)が15.9 %であった.また,病変の部位は結腸が68.1%,直腸が31.9%であった.

2.EC分類と病理組織所見との対応(Table 23
Table 2 

各EC分類と病理組織所見との対応(n=188).

Table 3 

各EC分類の感度・特異度・正診率.

EC分類と病理組織所見との対応をTable 2に示す.EC 1aはすべて非腫瘍(粘膜脱症候群,過誤腫性ポリープ,痔核)に対応していた.EC 1bは61.5%が過形成ポリープおよび鋸歯状病変に対応していたが,腺腫(7.7%),粘膜内癌(7.7%),粘膜下層軽度浸潤癌(15.4%),粘膜下層深部浸潤癌(7.7%)にも対応していた.EC 2は87.3%が腺腫および粘膜内癌に対応していたが,鋸歯状病変(4.2%)や粘膜下層癌(5.1%),さらには非腫瘍(3.4%,過誤腫性ポリープ,炎症性ポリープ)にも対応していた.EC 3aは47.6%が粘膜内癌および粘膜下層軽度浸潤癌に対応していたが,52.4%が粘膜下層高度浸潤癌に対応していた.EC 3bはすべて粘膜下層高度浸潤癌に対応していた.

各EC分類の感度・特異度・正診率をTable 3に示す.各EC分類の感度・特異度・正診率(括弧内は95%信頼区間を示す)はそれぞれ,EC 1a:42.9%(20.2%-42.9%)・100%(99.1%-100%)・97.9%(96.2%-97.9%),EC 1b:61.5%(39.2%- 78.3%)・97.1%(95.5%-98.4%)・94.7%(91.6%-97.0%),EC 2:86.6%(81.9%-90.2%)・78.3%(70.3%-84.5%)・83.5%(77.6%-88.1%),EC 3a:35.1%(25.8%-44.3%)・83.2%(79.2%-87.2%)・68.6%(63.0%-74.2%),EC 3b:30.8%(23.8%- 30.8%)・100%(98.2%-100%)・85.6%(82.7%- 85.6%)であった.

3.EC分類とJNET分類との対応(Table 4
Table 4 

各EC分類とJNET分類との対応(n=188).

EC分類とJNET分類との対応をTable 4に示す.EC 1aおよび1bはJNET分類Type1に対応していた.EC 2は93.2%がJNET分類Type 2Aに対応していたが,6.8%はType 2Bに対応していた.EC 3aのうち90.5%がJNET分類Type 2Bに対応していたが,7.1%はType 2Aに,2.4%はType3に対応していた.EC 3bは83.3%がJNET分類Type3に対応していたが,残り16.7%はType2Bに対応していた.

4.EC分類とpit pattern分類との対応(Table 5
Table 5 

各EC分類とpit pattern分類との対応(n=188).

EC分類とpit pattern分類との対応をTable 5に示す.EC 1aおよび1bはそれぞれⅠ型pit patternおよびⅡ型pit patternに対応していた.EC 2は95.8%がⅢ・Ⅳ型pit patternに対応していたが,4.2%はⅤI型pit patternに対応していた.EC 3aのうち83.3%がⅤI型pit patternに対応していたが,Ⅲ(2.4%)・Ⅳ(7.1%)・ⅤN(2.4%)型pit patternにも対応していた.EC 3bはすべてⅤ型pit patternに対応していた.

5.症例提示(Figure 12
Figure 1 

内視鏡所見.

a:通常光観察.S状結腸に位置する15mm大の隆起性病変.

b:インジゴカルミン撒布後.陥凹内隆起を有することから,肉眼型は0-Ⅰs+Ⅱcと診断.

c:NBI拡大観察.JNET分類Type 2Bと診断.

d:Crystal violet染色後.ⅤI高度不整pit patternと診断.

e:超拡大内視鏡観察.EC 3aと診断.

Figure 2 

病理組織所見.

a:固定標本の実態顕微鏡所見.黒線から矢印方向に面出しを行った.

b:aに対応した内視鏡所見における想定割線.

c:HE染色像(弱拡大).粘膜筋板以深への浸潤を認めず,粘膜内に限局していた.

d:HE染色像(強拡大).小型の癌腺管が密に増生していた.

ここで,従来の拡大内視鏡観察に加えて超拡大内視鏡観察の併用が治療方針の決定に有用であった症例を提示する.S状結腸にみられた15mm大の表面隆起型病変であり,インジゴカルミンによる色素撒布後観察では陥凹内隆起を認めたことから,肉眼型は0-Ⅰs+Ⅱc病変と診断した.NBI拡大観察では,隆起部に不整な表面構造と口径不同の目立つ血管を認め,JNET分類Type2Bと診断した.Crystal violet染色後の拡大観察では,隆起部に大小不同で内腔の狭小化した腺腔を認め,ⅤI高度不整pit patternと診断した.陥凹内隆起を有する病変であることとに加えて,拡大内視鏡所見はJNET分類Type2B,ⅤI高度不整pit patternであったことから,粘膜下層深部浸潤の可能性も考えられた.しかし,Methylene blueによる二重染色後に超拡大観察を行うと,核は重層化しており,腺腔はやや辺縁不整で狭小化しているもののスリットに近い形態を呈しており,EC 3aと診断し,粘膜内癌の可能性も示唆された.そこで,十分なインフォームドコンセントを行ったのち,total biopsy目的にESDを施行した.病理組織所見では小型の癌腺管が密に増生し,粘膜筋板以深への浸潤を認めず,粘膜内に限局していた.以上より,最終病理診断は,ESD,S,0-Ⅰs+Ⅱc,12×9mm,tub1,pTis,Ly0,Ⅴ0,HM0,ⅤM0,ER0で,内視鏡治療により治癒切除を得られた.

Ⅳ 考  察

大腸腫瘍性病変の診断において,拡大内視鏡が広く用いられるようになり,これまでにNBI拡大観察を用いたJNET分類の有用性 2や,Crystal Violet染色を用いたpit pattern分類の有用性 3が報告されてきた.超拡大内視鏡に関しては,すでに生検に対する非劣性が示され 5)~7,さらに粘膜下層深部浸潤を疑う間質反応を同定する上での有用性も示され 8,生検を行わずとも超拡大内視鏡所見から病理組織所見を予測する,いわゆる‘optical biopsy’が可能となりつつあると考えられる.そして正確な‘optical biopsy’が可能となれば,超拡大観察の結果,低異型度腺腫と診断された病変は病理組織診断を省略することも許容されると報告されている 9.しかしながら,いまだ超拡大内視鏡が十分に普及しているとは言い難く,専門施設での使用に限られているのが現状であり,超拡大内視鏡所見と病理組織所見との対応を多数例で検討した報告は少ない.さらに超拡大内視鏡所見と,JNET分類やpit pattern分類といったこれまで報告されてきた拡大内視鏡所見との対応に関する報告はなく,今回,EC分類と病理組織所見の対応に加えて,JNET分類・pit pattern分類との対応に関しても検討を行った.

既報 1では,EC 1bを非腫瘍としてEC 2・3a・3bを腫瘍とした場合の感度と特異度はともに100 %であり,腫瘍・非腫瘍の鑑別に関してはEC分類が有効であることが示されている.またEC 3bを粘膜下層浸潤癌として,EC 2・3aを腺腫・粘膜内癌・粘膜下層軽度浸潤癌とした場合,感度:90.1 %,特異度:99.2%であり,EC 3bは粘膜下層深部浸潤癌を強く示唆する所見として有効性が報告されている.本検討においてEC 1aは非腫瘍,EC 1bは過形成ポリープおよび鋸歯状病変,EC 2は腺腫および粘膜内癌,EC 3aは粘膜内癌および粘膜下層軽度浸潤癌,EC 3bは粘膜下層高度浸潤癌に対応するものとした場合の各EC分類の感度・特異度・正診率をみると,特異度・正診率は概ね良好であったが,感度に関してはばらつきがみられた.そのうち,EC 3aの半数以上が粘膜下層高度浸潤癌に対応しており,感度は35.1%と低値であった.腺腔構造が不明瞭あるいは不鮮明であった場合に,核所見の評価が重要となるが,染色された滲出物と腫瘍細胞の核との区別が困難なことがあり,評価に影響を及ぼしたことが一因として考えられ,そのような場合には従来の拡大観察までの所見を加味して読影されていた可能性が考えられた.また,超拡大内視鏡の重要な役割のひとつとして,「深達度の推定」が挙げられる 10.特に,内視鏡治療の適応病変であるかどうか,つまり深達度が粘膜下層軽度浸潤までであるかどうかが重要となるが,EC 3bの特異度は100%であり,超拡大内視鏡所見でEC 3bと診断された場合には内視鏡治療適応外と判断可能であることが示唆された.一方で,感度は30.8%と低値であり,超拡大内視鏡所見がEC 3b以外であっても,粘膜下層高度浸潤癌は否定できないことも示唆された.このような結果に至った原因として,粘膜内病変が残存している粘膜下層浸潤癌や,multifocalに粘膜下層へ浸潤しているといった病変側の要因や,粘膜表層しか観察できない,病変のごく一部の領域しか観察できないという超拡大内視鏡の特性上の問題が考えられた.

JNET分類およびpit pattern分類との対応に関しては,上述の通り概ね想定していた通りに対応していた.ごく少数ながら,EC 3aにType 3・ⅤN型pit patternが含まれるなど乖離がみられたが,これも病理組織所見との対応と同様に,超拡大観察で観察している領域が限定的であるため,従来の倍率で観察している領域と超拡大観察を行っている領域とでずれが生じている可能性が考えられた.本検討ではJNET分類やpit pattern分類に対する超拡大内視鏡の上乗せ効果は検討していないが,今回提示した症例のように,拡大観察までの所見では粘膜下層深部浸潤を強く疑う場合でも,超拡大観察による詳細な評価により内視鏡治療の適応と判断可能な場合も存在するが,一方で超拡大観察により診断を誤る場合もある.すでに粘膜下層浸潤癌に対する上乗せ効果は報告されており 11,今後,Type 2BやⅤI型pit patternなど従来の拡大内視鏡所見のみでは深達度診断に苦慮する場合の上乗せ効果を多数例で検討する必要があると考えられた.さらに,超拡大内視鏡を用いたNBI観察を行いその血管パターンを分類するEC-Ⅴ分類の有用性も報告され 12,人工知能による診断にも応用されており 13,こちらに関しても追加の検討が必要と考えられた.

本検討のlimitationとしては,単施設での後方視的検討であり,症例選択バイアスがあること,静止画での検討であるため超拡大観察時の観察範囲が曖昧であること,超拡大内視鏡の使用経験が十分ではなく,観察方法や読影に関して内視鏡医間で若干のばらつきがあることなどが挙げられる.

Ⅴ 結  語

超拡大内視鏡は病理組織所見を予測する上で有用なモダリティと考えられた.今後,さらに症例を集積し,超拡大内視鏡の特性を十分に理解し,観察方法や読影に関して習熟した上での再検討が必要と考えられた.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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