2021 年 63 巻 7 号 p. 1425
【目的】早期胃癌に対するESD後の潰瘍出血は,ESD後の主な有害事象の1つであり,メタアナリシスでは約5%の出現が報告されている.本研究は本邦の33施設で行われた多施設共同研究であり,早期胃癌に対するESD後潰瘍出血を引き起こすリスクの層別化による予測モデル(BEST-Jスコア)を開発することを目的に行われた.
【方法】早期胃癌に対するESD施行例をderivation cohortとして25施設より8,291症例を,validation cohortとして8施設より2,029人を後向きに登録した.Derivation cohortでは多変量ロジスティック回帰分析により潰瘍出血に関連する因子を抽出し,リスクの高低を考慮した点数を設定することで予測モデルを作成した.Validation cohortでその予測モデルの有用性と妥当性について検討した.
【結果】Derivation cohortで抽出された予測モデルは10種類の要因(ワルファリン,DOAC,血液透析,チエノピリジン系抗血小板薬,アスピリン,シロスタゾール,腫瘍径30mm以上,腫瘍が肛門側1/3に局在,複数の腫瘍の存在,抗血栓薬の中止)が候補因子として挙がり,出血リスクに応じて点数を-1より4点まで設定した.それらの候補因子の合計点数により,0-1点の潰瘍出血低リスク,2点の中リスク,3-4点の高リスク,5点以上の超高リスク群に分け,それぞれの群の出血率は,2.8%,6.1%,11.4%,29.7%であった.Validation cohortでのC統計量は0.70(95%CI:0.64-0.76)であり,良好な較正(Calibration-in-the-large:0.05,calibration slope:1.01)を示した.
【結語】今回の全国多施設共同研究では,ESD後の潰瘍出血の予測モデルを導き出し,validation cohortで予測モデルの有用性を証明した.このモデルを使用することで,早期胃癌に対するESD後の潰瘍出血の予測が可能となり,治療法自体選択や治療後の対応法の選択に有用となる優れた決定支援ツールとなる可能性が高い.