EUS下腹腔神経叢融解術(EUS-CPN)は,EUS下に胃噴門部背側・腹部大動脈前面に存在する腹腔神経叢に薬液を注入して不可逆的変性を起こすことによって,上腹部内臓の疼痛を緩和する手法である.EUS-CPN施行1~2週間後の疼痛減弱効果は46%~81%にみられ,麻薬性鎮痛薬を減量する効果があると報告されている.癌性疼痛の早期にEUS-CPNを行うべきかどうかに関する無作為化比較試験は2編あり,肯定的な結論と否定的な結論にわかれ一定の結論を導きにくいものの,近年発達している薬物を中心とした疼痛緩和療法を行いうる場合には,全例にルーティーンに行う意義は高くないと考えられる.EUS-CPNには重篤な有害事象が報告されている上,長期的に生命予後を短縮するとする報告もある.一方,疼痛が高度で薬物療法でのコントロールが難しい例,オピオイドの副作用が高度である例,頻繁な通院が難しい例,薬剤に係る経済的負担に配慮すべき例など,薬物による疼痛コントロールが難しい症例には有用である可能性がある.
腹腔神経叢融解術(celiac plexus neurolysis:CPN)は,腹腔動脈根部周囲の腹部大動脈前面に存在する腹腔神経叢組織を破壊することにより上腹部内臓の疼痛を減弱する目的で行われる疼痛緩和治療で,従来X線ガイド下に行われてきた 1).後方アプローチが一般的で,椎体の脇,腎の脇(時に貫通)を経由して大動脈の脇から腹腔動脈根部近傍に針を進めて薬液を注入する.
疼痛コントロールは,人類が常に向き合ってきた課題である.有史以前よりアヘンの使用が確認されており疼痛緩和治療の歴史はきわめて古いと思われるが,Table 1に示すように,さまざまな麻薬性鎮痛薬が登場してきたのはつい最近のことである 2).製品としてモルヒネが発売されてから200年足らず,さまざまな剤型が市販されてきたのは数10年にすぎない.われわれの先輩たちは,長らく,少ない武器で難治性の疼痛と闘ってきたわけであり,薬剤以外の新たな手法の開発にも高い関心があっただろう.CPNは,こういった背景で誕生した手法である.

疼痛緩和薬と腹腔神経叢融解術に関する歴史.
CPNはEUS下に行うと,胃噴門部からほんのわずかな距離を穿刺すればよい(Figure 1)ため,1996年にMayo Clinic本院からWiersemaら 3)によって初めて報告されたあと,内視鏡医によってEUS-CPNが行われるようになっていった.EUS下CPN(EUS-CPN)は徐々に簡便かつ安全であると認識されながら2000年代にはいって急速な拡がりをみせ,多数の研究が報告された.2010年前後には本学会の学術集会においてもEUS下治療の主題セッションでは常に最新の知見が報告された.しかしながら,最近では学会発表のみならず新たに報告される研究論文も減少し,実臨床医においても,積極的施行を基本とする立場は減っていった.

EUS下腹腔神経叢融解術.
コンベックス型EUSを用いて腹腔動脈(*),腹部大動脈(**)を描出し,腹腔動脈根部の頭側,または両側に薬液を注入する.矢印:局注針先端.右スケールは1目盛り5mm,全体で約45mm.
本稿では,EUS-CPNに関するエビデンスを俯瞰する.途中,現時点でのCPNの位置づけ――CPNを行うべきかどうかについても論じたい.
なお,本稿はエビデンスの解説とこれを基とした議論を中心に行うこととし,技術的なコツについては他に譲ることとする.
文献の検索は,PubMed Medline,Cochrane Libraryで,「endoscopic ultrasound」,「celiac plexus」,「celiac ganglia」,「neurolysis」,「block」,「bilateral」,「splanchnicectomy」を用いて,検索エンジンの開設から2021年1月までの期間を対象に網羅的に行った.
ここで,CPNに関連して現在一般的に使われている用語を整理しておく.
一般に,神経ブロックと総称される手法のうち,局所麻酔薬や副腎皮質ステロイドなどを用いて神経叢・神経節の麻酔を行う手法を狭義のブロック術(block),エタノールやフェノールによって変性壊死を企図するものを融解術(neurolysis,破壊術と訳されることもある)と称する.腹腔神経叢におけるブロック術は,融解術同様EUSの登場とともに行われはじめ(EUS-CPB)は,慢性膵炎疼痛など良性疾患における疼痛コントロール法として,ステロイドを用いた手法が多く報告されている.
広義のブロック,狭義のブロック,および融解術に対する用語は,過去にはさまざまなものが用いられたが,今日,ほぼ上述のごとく整理されていると思われる.なお,chemical splanchnicectomy,neurolytic celiac plexus block,alcohol celiac plexus block,neurolytic sympathetic plexus blockなどはすべて,今日言うところのCPNにあたる.
EUS-CPNには,手技的改良に伴う多くの亜種が存在する.腹腔動脈(CA)根部近傍の1カ所に局注する手法は,central methodないしunilateral method(unilateral法)と呼ばれ,最もシンプルな方法である(本稿ではcentral法と呼ぶことにする).CA根部の左右両側に局注を行う方法はbilateral method(bilateral法)と呼ばれ,従来EUS以外のCPNで標準的に行われていた手法に倣っている.CA本幹の脇からさらに深く針を進めて上腸管膜動脈(SMA)根部の左右両側まで広く局注する方法をbroad method(broad法) 4)と呼称することがある.また,神経節(ganglion)を穿刺して節内に局注を行う方法は,EUS下腹腔神経節融解術(EUS-CGN)と呼ばれる.
CPNの最大の目的は疼痛緩和であるが,その効果の程度について客観的に評価するためには,前向き比較試験が望ましい.後ろ向き試験では,よほど厳格な適用基準がない限り,用いた薬剤,行った手技に関する選択バイアスが大きすぎるためである.前向き試験であっても単群で評価すると,EUS-CPNが効いたのか併用された鎮痛薬が効いたのか判らない.もちろん良くデザインされた後ろ向き研究や前向き単群研究も多数あり,研究数が多いとは言えない本領域において高い価値があると断言できるが,本稿での紹介は最小限にとどめ,前向き比較試験を軸に有効性を論じることにする.
まず,EUS下以外の手法によるCPNの成績を振り返ってみたい.CPNの最初の報告は,1914年のKappisによる開腹手術中に施行した旨を報告したドイツ語の会議録と言われている 5).その後,開腹下,レントゲン下,CT下などの手法で行われるようになり,世界中で試みられた.CPN施行と非施行を直接比較した無作為化比較試験(RCT)はこれまで7編報告されている(Table 2) 6)~12).このうち5編はレントゲン下,1編がX線+CTガイド下,1編が開腹下のCPNに関するものである.

腹腔神経叢融解術の施行群と非施行群を比較した無作為化比較試験.
膵癌を対象とした6編のRCT 6)~11)のメタ解析が,Cochrane Libraryに報告されている 1).4週時点の疼痛を評価した4研究のうち,有意にCPN群で疼痛が軽度であったのは1編のみ 8)だったものの,メタ解析では有意にCPN群で疼痛が軽度であり(10点満点のVAS値で−0.43,95%信頼区間−0.73~−0.14,p=0.004),CPNによる疼痛減弱効果があると考えられた.8週時点で評価した5研究では,2編 6),7)が有意にCPN群で疼痛が軽く,メタ解析ではわずかに有意差はなかったもののCPN群で良好な成績を示した(VAS値−0.44,95%信頼区間−0.89~+0.01,p=0.06)(このメタ解析は,Mercadante 7)の7週時点のデータを8週時点として転用して計算している.原典で8週時点での成績は報告されていない.本稿では原典に忠実に,Table 2においてMercadanteの8週時点の成績を「記載なし」とした).オピオイドの投与量は,4週時点で評価した4研究 7),8),10),11)すべてでCPN群で少なく,メタ解析ではモルヒネ換算51.07mg/日(95%信頼区間−82.71~−19.43)の減量効果があったようだ(p=0.002).下痢の副作用はCPN施行群で多い傾向にあり(リスク比3.25,95%信頼区間0.95~11.13,p=0.06),便秘の副作用は非施行群で有意に多かった(リスク比0.38,95%信頼区間0.25~0.59,p=0.000013).
この他に,膵癌以外の癌種を含んだためにメタ解析に含まれなかったRCTが1編あり,この研究では4週,8週時点の疼痛スコアとオピオイド消費量において,CPN群で好ましい結果を報告している 12).症例数は少ないものの,メタ解析の結果を補強する研究である.
これらのデータから,CPNは有効で,有痛性の非切除癌患者すべてに行うことが望ましいということになる.ただし後で述べるように,この解釈には問題もある.
このようにEUS以外のCPNは,研究によって結論にばらつきがあるものの,メタ解析により施行する意義があると評価されている.一方EUS-CPNは,EUS下に前方からアプローチするというまったく異なるルートを用いて行われる手技であり,改めて評価する必要がある.
これはEUS下以外のCPNでも言えることだが,CPNそのものの疼痛減弱効果は,CPN後にオピオイド投与量を増やしてしまっては評価が難しくなる.したがって,CPN施行のあと評価時点まで,疼痛緩和効果のある治療を一切行わないか,施行前の薬物量を一切変更しないか,いずれかのルールがなければ客観的に判定できない.当然ながら,倫理的配慮が必要であるので,このルールを採用した研究は少ない.
参考までに後ろ向き研究も含めたシステマティックレビューに当たると,EUS-CPNの「奏効率」は1ないし2週後には46~81%,4週後には39~68%,8週後には33~59%と報告されている 13).奏効率は,研究ごとに独自の定義で評価されており,そもそも研究ごとの条件・背景やEUS-CPNの手法が異なるため,数値のみ結論とするのは問題があることを断っておく.
奏効率の定義として客観性が高いものは,「麻薬性鎮痛薬を増量することなく疼痛が減弱し,かつ持続する」とするものである.Iwataらは,VAS 5/10以上の癌性疼痛を有する患者47名にEUS-CPN(bilateral法とは記載されていないが各症例2回以上穿刺局注を行っている)を行い,1週間後の疼痛を評価する研究を報告している 14).EUS-CPN施行後の使用薬に制限を設けたわけではない状況で,1週間麻薬性鎮痛薬を増量することなく,かつVASが3/10以下に減少したもの「成功」と定義した.すると「成功」は68%でみられたと言う.また,全体の36%で,鎮痛薬を増量することなく疼痛が消失した(VAS 0か1)と言う.この研究から,麻薬性鎮痛薬をもってしてもVAS 5/10以上の疼痛を有する患者に対するEUS-CPNは,約3分の2の確率で1週間程度は好ましい効果があると言える.
1週間より長期間に亘って,薬物の影響を無視した(「麻薬性鎮痛薬を増量しないで」という定義を含む効果測定で)効果を論じうる報告はみつけられなかった.疼痛を有する非切除癌患者に薬物増量を禁じるプロトコールを計画するわけにはいかないので,仕方ないことである.
EUS-CPN施行の意義を考察する-WyseらのRCT研究を目的として薬物療法を制約するのは難しい.したがってEUS-CPNの効果を論ずるには,両群とも薬物療法の制限を設けずに,施行と非施行を比較するしかない.EUS-CPN自体が単独でもたらした効果の量的測定できないが,行うことによって望ましい効果があるかどうかは推定できる.
EUS-CPN施行と非施行を比較したRCTはこれまでに2編ある.いずれの報告もEUS-CPNとしてはbilateral法を採用しており,ブピバカインに引き続いて無水エタノール(Wyseら 15)は20mL,Kannoら 16)は15~30mL)を注入している.なおいずれも,対照群においてEUS下生理食塩液局注のような盲検化目的のplacebo投与は行っていない(対照群は単純にEUS-CPNを行わないだけである).
この2編のRCTについては少し詳しく紹介する.
2011年に報告されたWyseらのRCTは,カナダのモントリオール大学中央病院で2006年4月から1年9カ月に亘って行われたもので,各群49例が登録・解析された 15).対象は有痛性非切除膵癌患者で,3カ月以上の余命が見込める者である.登録後の疼痛コントロールは患者自身で行われ,登録時の他に,1カ月後,3カ月後の各時点に電話インタビュー調査がなされた.疼痛の強さはLikert score(疼痛なしを0点,きわめて高度の疼痛を6点とする7段階評価)で評価された.
疼痛の強さが平均何ポイント変化したかを比較すると,EUS-CPN群と対照群で順に(以下,この順でデータを呈示),1カ月後に-0.6対-1.6で,3カ月後に-0.3対-2.6で,それぞれ有意差がみられた(Table 3).すなわち,EUS-CPN群で有意に疼痛減弱効果が高いと解釈できる.モルヒネ換算でのオピオイド投与量(登録時からの変化量)は,1カ月後に+54mg対+53mg,3カ月後に+ 100mg対+50mgで,これらには有意差はみられなかった.

Wyseらの無作為化比較試験 15)の主な結果.
この研究における最大の問題は,baselineの疼痛強度に群間の差があることである.本文中に,登録時の疼痛強度の群間差に関する記述はみられないが,提示されたサンプル数・平均値・標準偏差を用いてt検定を行うと,p値は0.001となるのである.このことについて論文中で一切触れず,変化量のみ解析し,絶対値の検定は示されていない.これは,統計のマジックと言ってよい領域を超えており,偽計と言って差し支えないレベルである.もちろん,割付け時点で主要評価項目である疼痛強度に差があったことは不運としか言いようがない.しかし,baselineで疼痛が弱い群では疼痛減弱の幅が少なくなるのはありえそうな事象なのであるから,この差を明示した上で議論を行うべきであろう.
さらに,対照群における疼痛コントロールが悪すぎる点は,baselineの不運と切り離して個別に議論する必要がある.対照群では,登録時に6点満点で平均4.1もの疼痛があったにも関わらず,平均値の変化がほとんどない.背景にはわが国と異なる事情――地理的な広さや医療保険制度などが存在すると思われるが,適切な疼痛コントロールが行われた症例が多いとは思えない.実際,「われわれの患者は,頻繁な経過観察のために来院してくれる信頼性は低い」ことを理由に,VASではなくLikert scoreという電話聞き取りでやりやすい指標を選んだとはっきり書かれている.「コントロールは患者自身で行った」とも記載されており,少なくとも,研究実施施設で積極的な疼痛コントロールを行ったわけではないことが窺える.
すなわち,この研究の結果は「十分な薬物療法が実践できない集団においてはEUS-CPNは有用である可能性がある」と解釈するのが妥当と言える.特にわが国においては,十分な麻薬性鎮痛薬を用いた適切な疼痛緩和治療を提供できることが多いので,薬物療法単独の成績はもう少し良いはずである.したがって,本邦においては参考にしにくいデータと言って差し支えないだろう.
KannoらのRCT我田引水の感があるものの,2つ目のRCTである筆者らの報告を紹介する.
2011年から足掛け8年に亘って本邦で行われたこの試験では,非切除膵癌でVAS 4/10以上の症例が各群24例登録され,2例の同意の取り下げによりEUS-CPN群24例,対照群22例が解析された 16).両群共に,オキシコドンやフェンタニルを用いた積極的な疼痛緩和を行い,補助的薬剤にも制限は設けず,緩和ケアチーム医療を実践して,総合的な緩和医療が提供された.
両群共に,登録4週後の疼痛は,ベースラインと比べて有意に減弱していた(Table 4).すなわち,薬物療法+EUS-CPNでも,薬物療法単独でも,明らかに疼痛が緩和された.一方,評価項目である疼痛強度,オピオイド使用量,QOL,副作用のすべての項目において,すべての時点で2群間の差はみられなかった.つまり,薬物療法にEUS-CPNを追加することによる上乗せ効果は証明されなかった.

Kannoらの無作為化比較試験 16)の主な結果.
この研究の最大の問題はサンプルサイズが小さいことである.サンプル数が多いかばらつきが少なければ何らかの差が出る可能性がある.
しかしながら,サンプルサイズ計算に際の「4週時点でVASにして1程度の差があれば臨床的に有意義であろう」という仮説は,このサンプル数では棄却された.この結果が仮にβエラーであっても,薬物単独群と比較してVAS値の平均値がせいぜい1下がるかどうかという治療法と考えられる.したがって,VASで3も4も差がつくということは到底なさそうである.この解釈の仕方が統計学的に正確でないことは承知しているが,EUS-CPNを行わなくても十分疼痛がコントロールされる症例が多いことは読み取れるし,EUS-CPNによる恩恵は,仮にあってもさほど大きくなさそうである,という解釈には無理はないだろう.
2つのRCTを総合するとここに紹介した2つのRCTはいずれも,症例を登録する時期に関する規定はない.非切除膵癌(疑いを含む)と診断されていて疼痛があればいつでも登録可能である.言葉を変えると,疼痛がコントロール困難になってから行ったわけではなく,診断後早期にリクルートされたという共通点がある.つまり,「非切除膵癌患者において,早期(診断時点または疼痛出現時点)にEUS-CPNを行うべきか否か」という問いに答えるための研究と言い換えることができる.
この問いに対する答えは,Wyseらは是,Kannoらは否(または是とは言えない)と読み取れる.しかし,Wyseらの研究には前述のような問題があり,医療介入による適切な疼痛コントロールを継続的に受けられる集団には適応しにくい.このことから,「適切な医療介入を継続的に受けられる場合には,早期のEUS-CPNによる上乗せ効果は乏しい」という結論を提案する.
生命予後への影響CPNは,長期的な影響はないのであろうか.
CPNの生命予後に対する影響を評価した研究のほとんどが,影響はなさそうであると結論している 9),15)~18).
CPN施行によって生命予後が延長するという結論をRCTで報告しているのはJohns Hopkins大学のグループのみと思われる 6),13).彼らの報告は開腹下CPNを評価したものである.なお,研究の対照群ではplaceboとして生理食塩液を局注されているので,うがった見方をすれば,腹腔神経叢への生理食塩液局注に予後「短縮」効果があるという可能性もある.
一方,これまでに唯一「CPNは生命予後を短縮する」と報告した2015年の論文は,1996年にEUS-CPNを最初に報告したMayo Clinicのグループによる後ろ向き研究である 19).417例(EUS下230例,非EUS下179例.合計が417例にならない理由は不明)のCPN症例と,マッチングを行った840例の非施行症例を比較し,診断後の余命の中央値が0.5年(95%信頼区間0.5~0.6)対0.7年(同,0.6~0.7)で,有意にCPN群で短かったと言う(ハザード比 1.34,p<0.0001).一方,EUS下とEUS下以外のCPNを比較すると,前者の方が予後が良く,さらにCPN(330例)とCGN(73例)を比較すると,これも前者の方が予後が良かったと報告している.生命予後が良好な順に判りやすく書くと,「CPN非施行>CPN施行」,「EUS-CPN>非EUS下のCPN」,「CPN>CGN」という結論が別々に提示されている.EUS下に限った成績の比較(EUS-CPN施行と非施行の比較,EUS-CPNとEUS-CGNの比較など)は報告されていない.
これらのエビデンスを総合すると,「CPNの生命予後に対する影響は,現在あるエビデンスでは一定の結論を導き出すことは難しい」とするしかない.特にEUS-CPNに限ると,生命予後に影響があるとする報告はみられない.しかし,後ろ向きで非EUS下の成績を含んでいるとはいえ症例数の多い研究 19)で有意にCPN施行後の予後が悪いとされていることから,必要のない症例には慎むべきという考え方もできるだろう.
CPNは行うべきかこれまでみてきた論文をもとに,CPNの適応について結論を出したい.
上述のように,適切な薬物コントロールが受けられる患者に対する早期のEUS-CPNは,長期的な効果が乏しい可能性がある.したがって,膵癌と診断した次のステップは薬物療法単独であって,即座にEUS-CPNを持ち出す意義は低いと考えられる.
EUS以外のCPNでは,メタ解析 1)によって効果の面で好ましい結果が得られたことは先に述べた.EUS下と非EUS下のCPNを比較したRCTは報告がないので,この乖離をどうとらえるべきかに関する客観的なデータは存在しない(EUS-CPNが奏効しなかった症例にX線下後方アプローチのCPNが奏効したとする1例報告は存在する 20)).
しかし,薬剤をはじめとする疼痛緩和療法が時代とともに発展している事実は関係していると思われる(Table 1).非EUS下CPNに関するRCTはいずれも研究年代が古い(登録期間が1987年~2006年 6),9)~11).文献7,8には登録期間の記載はないが,発表年である1993年,1996年以前であることは間違いない).オキシコドン徐放剤の発売は1995年,フェンタニル貼付製剤の発売が1990年台半ばなので,用いられる薬剤は現在とはまったく異なっていたはずである.
しかも先に紹介したように,RCT6編のメタ解析で,VAS値の差はそれぞれ4週時点で0.43,8週時点でと0.44にすぎない.統計学的に有意であることと,臨床的に意義が高いことは別問題であるので,統計で好ましいからと言って即座に目の前の患者に応用するべきであるとは限らない.わずか数カ月のあいだVAS値0.4か0.5程度の減少を得る治療を,有意差があるからと言って「全例に行うべきである」と結論づけるのはエビデンスの拡大解釈である.
これらより,EUS-CPNもEUS下以外のCPNも,癌性疼痛発生の早期に,ルーティーンとして全例に行う意義は乏しいとするのが妥当であると考える.
一方,すべての症例においてEUS-CPNが無意味であるということを示すわけではない.たとえば,経済的に麻薬性鎮痛薬の使用が難しい,遠方ないし低ADLのために通院が難しいなどの事情がある場合には,早期のEUS-CPNの恩恵が期待できる.
また,麻薬性鎮痛薬の効果が乏しかったり,副作用によるQOL低下が著しかったり,高用量になってしまった場合などにも,有用である可能性が高い.これらの状況でEUS-CPNが有効かどうかに関しては比較試験がないが,奏効したという報告や経験は多くみられることから,試行する価値は十分にあると考えられる.
EUS-CPNの手法の改良によって,成績が向上して早期施行の意義が生じるかもしれない.EUS-CPNを行う場合にどんな手法が好ましいのかを研究した試験は多数報告されているので,いくつかみていきたい.
まずbilateral法とcentral法(unilateral法)の比較についてみてみたい.これまでEUS-CPNのcentral法とbilateral法を比較したRCTは1編報告されている 21).症例数は少なく,central法29例,bilateral法21例での研究であるが,疼痛緩和効果,疼痛緩和期間,完全疼痛消失率,晩期有害事象のいずれにも統計学的な差はみられなかった.
一方,最も多数例を扱ったSahaiらの後ろ向きコホート研究(central法71例,bilateral法89例)では7日後の疼痛減弱効果はbilateral法で有意に高かったとしている 22).この研究では長期的な評価は行われていない.一方,Téllez-Ávilaら後ろ向き研究では4週後の疼痛を評価しており,central法21例とbilateral法32例のあいだに差はみられなかったとしている 23).
残念ながら,EUS-CPNにおけるcentral法とbilateral法の比較に関しては,強固な結論を導き出せるほど多数の研究はない.強いて現時点での結論を述べれば,「短期的な効果はbilateral法の方が高い可能性があるが,長期的な効果は定かではない」とするべきであろう.
やや本題から逸れるが,そもそも「bilateral法」とはいっても,症例によっては解剖学的に,食道胃接合部でスコープが向かう軸に対してCAが離れていく方向に角度を成している場合があり,EUSアプローチでCA本幹右側を穿刺できないことがある.先ほど紹介したIwataらは,全例少なくとも2回の穿刺局注を行うよう定めているにも関わらず,大動脈正中線より右側にまで薬液が分布したのは81%にとどまっていた 14).またSakamotoらのRCTでも,薬液が左右両側に分布していたのは,対照群(従来のbilateral法)では59%,broad法群でも88%にとどまっている 4).EUS-CPNでは,EUS描出面の外側に薬液が拡がっていく様子を手技中に確認できないので,この程度の成績が限界なのであろう.
薬液の拡がりで効果が予測できるIwataらは,EUS-CPNの効果の予測因子として,薬液がCA本幹の左側に拡がっているかどうかという因子を挙げている(Figure 2) 14).SakamotoらはSMA本幹の両側に局注するbroad法に関するRCTで,やはり薬液がより広範囲に分布していることが高い効果と関連すると結論している 4).これらから,bilateral法とするかどうかというよりも,bilateral法を行うことによって広い範囲に薬液を分布させるという因子が,効果と関連していると考えることもできる.

EUS下腹腔神経叢融解直後のCT像.
局注液(無水エタノールなど)に少量のヨード造影剤を混じておき,薬液の拡がりを術直後にCTで評価する(矢印).
通常のbilateral法とbroad法を比較したRCTはSakamotoらの研究のみである.Broad法の方が効果が高かったと報告されており,安全に行いうる場合にはbroad法を検討する価値は高いと思われる.一方KannoらのRCT 16)では,Sakamotoらの提唱した薬液分布領域の評価法(CA根部とSMA根部の高さで頭尾方向を3分割,大動脈正中線で左右方向を2分割した6領域中,薬液が分布している領域の数で評価,Figure 3)で,Sakamotoらのbroad法と遜色ない成績を確認している(4領域以上への分布がSakamotoら85%,Kannoら82%).したがって,通常のbilateral法でも十分広い範囲に薬液を分布させることができる可能性がある.

Sakamotoら 4)の提唱した薬液分布領域の評価法.
腹腔動脈(CA)根部と上腸間膜動脈(SMA)根部の高さで頭尾方向を3分割し,大動脈正中線で左右方向を2分割することにより6領域に分割する.このうち何領域に薬液がみられたかを評価する.
EUS-CPNの効果を高める手法の代表格が,神経節融解術であろう.
腹腔神経叢内には結節状の神経節(ganglion)が存在し,EUSで高率に描出できることが確認されている 24)~27).これを直接穿刺して薬液を注入する方法がEUS-CGNである.1996年にEUS-CPNを初めて報告したMayo Clinic本院のグループによって,2008年にEUS-CGNの第1報が報告された(Levyら) 27).この研究では,EUS-CGNを施行した膵癌17例中16例(94%)で疼痛減弱がみられたとしている(疼痛消失例はなし)が,調査のタイミング,疼痛減弱の定義に幅があり,一定の結論は導きにくい報告だった.
これを受けて行われたDoiらによる本邦での多施設共同第Ⅱ相RCTでは,EUS-CGNとcentral法のEUS-CPNと比較し,各群34例で解析を行っている 28).VAS 4/10以上の疼痛を有する膵癌症例で,登録後7日目にVASが3以下であったpositive response例,1以下であったcomplete response例がともに,EUS-CGN群で有意に多かった.長期的な疼痛緩和効果には差がみられなかったが,短期的な効果が高いEUS-CGNの方が望ましいという結論となる.
しかし,EUS-CGNの第1報から11年後の2019年に,同じMayo ClinicのLevyらから驚くべきRCTが報告される 29).無作為に割付けられたEUS- CGN群57例とEUS-CPN群53例を比較したところ,EUS-CGN群で生命予後が有意に短かったと言う(中央値5.6カ月対10.5カ月,ハザード比1.49,p=0.042).この差は病期ごとの解析でより顕著になり,特に遠隔転移がない症例に限ると,ハザード比2.95,p値0.001未満でEUS-CGN群で予後が悪かった.登録後最初の評価が4週後であるためDoiら(7日目で評価)のような即効性に関する評価はできないものの,48週後までのすべての評価時点で,疼痛の強度に群間の差はみられなかった.さらに,QOLや麻薬性鎮痛薬の使用量も差がなかったことから,EUS-CGNの施行意義は否定的となってしまった.
EUS-CGNに関し否定的な前向き研究はLevyらのこの研究1編のみであり,今後追試が行われれば解釈が変わる可能性があるが,現時点では,「早期にEUS-CPNを行う場合,わざわざCGNとする意義は高くない」と解釈すべきである.一方,Doiらの結果から,短期的な奏効率はCGNの方が高い可能性があるので,薬物でコントロール困難になった症例や,最終末期の緩和としては有用かもしれない.
EUS-CPNが奏効しやすい因子Bilateral法/broad法やEUS-CGNは,手法の工夫によって成績の向上を目指すものだが,患者因子によってEUS-CPNの効果が予測できれば,施行する症例を層別化できると考えられる.しかし,決定的な因子は報告されておらず,ある因子を持つ患者には必ず有効または効果が大きく,そうでない者には無効ないし低効果というような知見は存在しない.
統計学的に有意な奏効傾向がみられた因子としては,癌の腹腔神経叢への直接浸潤がないこと 14),30),遠隔転移がないこと 30),サルコペニアがないこと 31),神経節が観察できないこと 30)などが報告されている.直接浸潤に関しては複数の多変量解析で比較的強い相関がみられている(IwataらはOdds比4.8[95%信頼区間1.1~23.4,p値0.039] 14),HanらはOdds比15.1[95%信頼区間4.0~51.2,p値0.001] 30).
また手技中・手技後に判明する因子としては,先に紹介した薬液の拡がりがある.そのほかに,エタノール注入中に心拍数が15回/分以上増加する状態が30秒間以上続くという事象が観察されると,効果が高い可能性が高いという報告もある 32).
これらの因子は,EUS-CPNの適否を判断する基準となるほど強力なものではないかもしれないが,個々の症例において参考にできると思われる.
複数回のEUS-CPN施行の有用性では,複数回の施行には意義があるだろうか.この問いに答えるRCTは報告がないが,Facciorussoらは2回以上のEUS-CPNを受けた膵癌患者156例において,1回目の奏効率は87%,2回目の奏効率は34%であったと報告しており,繰り返し行うことによって効果は減弱すると結論している 33).疼痛完全消失率,オピオイド減量できた症例の割合も1回目より2回目で低く,繰り返し行う場合には有効性の期待値は低いと考えられる.一方,まったく無効というわけではないので,症例によってはオプションとしうるだろう.
EUS-CPNに伴う有害事象は,非常に多彩である.意外にも出血の報告は少なく,16研究871例をまとめた最新のメタ解析では,0.10%(1例)と報告している 34).この研究は,各論文の読み込み不足による不備も目立つ(central法とbilateral法を取り違えていたり,明記されている結果が “not reported” として解析に加えられていなかったりする)が,最も多数例を扱った解析なので,概数としては十分参考になる.1例の出血を報告した原典に当たると,EUS-CGN直後に出血を指摘し,その場でクリッピングによって止血されたものであり,重大な転帰には至っていない 28).
同メタ解析によると,下痢の副作用が9%であったとまとめられている.交感神経である腹腔神経がブロックされて副交感神経優位になるためと考えられているが,癌による腸管運動機能低下や,オピオイドによる便秘で悩む症例においては,効果的に作用することがある.高度酩酊は2%とされているが,Minagaら 35)は8%,Kannoら 16)は13%と,本邦の試験では高い数値を報告するものもある.人種によってアルコールへの耐性が大きく異なるためかもしれないが,いずれにせよ完全なアルコール不耐症例に対して本法は禁忌となるため,個別に事前の聞き取りが必要である.そのほか,一過性血圧低下(6%),一過性疼痛増強(8%)が,比較的数が多い有害事象として報告されている.
少ないながら重大な有害事象もみられる.癌性疼痛に対するEUS-CPN施行後,脊髄梗塞による対麻痺 35)~38),動脈塞栓による肝梗塞・脾梗塞・腸管虚血 39),40),横隔膜麻痺 41),後腹膜膿瘍 42)などが報告されている 43).引用文献のうち,軽快したのは後腹膜膿瘍のみで,対麻痺は回復せず,梗塞症例は短期間後に死亡し,横隔膜麻痺も永久人工呼吸器管理となっている.他に,慢性膵炎疼痛に対してEUS-CPNを受けた症例が,膵壊死,脾梗塞,胃壊死とこれに引き続く幽門狭窄をきたし,幽門側胃切除を要したという報告もある 44).
微細な血管を含めて穿刺部周辺をリアルタイムに観察できるというEUSの特長によって,EUS-CPNの安全性は高いと考えられがちである.しかし,有害事象の報告は少なからずあり,時に不幸な転帰を辿る可能性があることを認識しておきたい.
EUS-CPNに関するエビデンスについて,特に適応に関する議論に必要な研究を中心に概説した.ここに紹介できなかった興味深い研究も多数あるが,紙面の事情で割愛したことをご容赦いただきたい.
EUS-CPNの適応は,他の疼痛緩和医療の状況によって変化する.鎮痛薬は新規薬剤が開発されるだけでなく,さまざまな剤型によって投与経路や作用時間が選択でき,副作用が低減される.麻薬性鎮痛薬の便秘・悪心・眠気などに対する対策や対処法も発展した.さらには,神経傷害性疼痛治療薬,セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬,副腎皮質ステロイドに加え,抗てんかん薬,血管拡張薬などの鎮痛補助薬の効果もつぎつぎと証明されている.他にも,放射線治療,種々の運動療法,精神療法,東洋医学,コンサルテーションシステムなど,疼痛緩和をサポートする領域の数は枚挙にいとまがない.
現在のところ,これらを十分に利用する場合には,疼痛早期にルーティーンにEUS-CPNを行う意義は高いとは言えない.薬剤副作用が高度である場合や,通院が困難な場合など,状況によっては施行する意義があると考えられる.
もちろん,患者ひとりひとりの状態や好みによって適応を決定するべきであることは,読者諸賢には述べる必要がないことと思う.本稿が,適応決定を考慮する際の一助となってくれれば幸いである.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし