日本消化器内視鏡学会雑誌
Online ISSN : 1884-5738
Print ISSN : 0387-1207
ISSN-L : 0387-1207
63 巻, 8 号
選択された号の論文の15件中1~15を表示しています
Image of the Month
総説
  • 飯島 克則
    2021 年63 巻8 号 p. 1465-1474
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/20
    ジャーナル フリー HTML

    欧米においては,1960~1970年代に食道腺癌の増加が始まり,1980~2000年代に急激に増加した.本邦においても,欧米より40~50年遅れて,2000~2010年代に食道腺癌の増加が始まったという報告が最近相次いでいる.食道腺癌の発生時期の欧米と本邦でのタイムラグは,H. pylori感染率の低下が始まった時期の違いと関連がある可能性がある.今後,本邦においても欧米で起こったような食道腺癌の急激な増加が起きうるかどうかは,重大な関心事である.現状では,日本人の胃酸分泌レベル,肥満の割合,食道腺癌罹患の人種差から,本邦においては,食道腺癌の急激な増加は起きにくい状況である.しかし,H. pylori感染率のさらなる低下から本邦における食道腺癌の発生は漸増していくものと考えられる.

  • 菅野 良秀
    2021 年63 巻8 号 p. 1475-1488
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/20
    ジャーナル フリー HTML

    EUS下腹腔神経叢融解術(EUS-CPN)は,EUS下に胃噴門部背側・腹部大動脈前面に存在する腹腔神経叢に薬液を注入して不可逆的変性を起こすことによって,上腹部内臓の疼痛を緩和する手法である.EUS-CPN施行1~2週間後の疼痛減弱効果は46%~81%にみられ,麻薬性鎮痛薬を減量する効果があると報告されている.癌性疼痛の早期にEUS-CPNを行うべきかどうかに関する無作為化比較試験は2編あり,肯定的な結論と否定的な結論にわかれ一定の結論を導きにくいものの,近年発達している薬物を中心とした疼痛緩和療法を行いうる場合には,全例にルーティーンに行う意義は高くないと考えられる.EUS-CPNには重篤な有害事象が報告されている上,長期的に生命予後を短縮するとする報告もある.一方,疼痛が高度で薬物療法でのコントロールが難しい例,オピオイドの副作用が高度である例,頻繁な通院が難しい例,薬剤に係る経済的負担に配慮すべき例など,薬物による疼痛コントロールが難しい症例には有用である可能性がある.

症例
  • 神野 成臣, 夏目 まこと, 内藤 格, 吉田 道弘, 堀 寧, 加地 謙太, 浅野 剛, 熱田 直己, 佐橋 秀典, 林 香月
    2021 年63 巻8 号 p. 1489-1494
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/20
    ジャーナル フリー HTML

    症例は68歳男性.天疱瘡にて皮膚科加療中に胆管狭窄に伴う肝機能障害を来し,当科紹介受診となった.精査・加療目的にてERCPならびに胆道ドレナージを施行し,内視鏡抜去時に胸部中部~下部食道に長軸に広がる食道粘膜下血腫を認めた.絶食などの保存的加療により食道粘膜下血腫は速やかに改善した.特発性食道粘膜下血腫の報告は散見されるが,これまでにERCP関連手技に伴う食道粘膜下血腫の報告は極めて稀である.出血素因や天疱瘡などの基礎疾患を有する症例では,ERCP関連偶発症の一つとして機械的刺激を軽減するような慎重で愛護的な内視鏡手技を施行する必要があると考え,文献的考察を加えて報告する.

  • 清水 良, 鳥羽 崇仁, 小林 俊介, 小野 真史, 岡本 陽祐, 木村 隆輔, 定本 聡太, 若山 恵, 澁谷 和俊, 五十嵐 良典
    2021 年63 巻8 号 p. 1495-1500
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/20
    ジャーナル フリー HTML

    症例は69歳,男性.2008年に左腎淡明細胞癌(pT1bN0M0 StageⅠ,Fuhrman grade:G2>G1)に対して左腎摘出術を施行した.2012年,2013年に縦隔リンパ節転移,肺転移それぞれに対して外科的切除を行い,その後,インターフェロン治療を継続していた.

    2018年8月に急性胆嚢炎を発症し,胆嚢摘出術の術前精査で上部消化管内視鏡検査を施行した際,食道胃接合部直上に10mmのY-Ⅲ型発赤調隆起性病変を認めた.生検組織診断は転移性腎淡明細胞癌であった.腎細胞癌の孤発性転移巣に対する局所切除は有意に予後を改善させることが示されており,泌尿器科と協議の上,内視鏡的粘膜切除術を行った.転移性腎淡明細胞癌の内視鏡的治療の意義と有益性について報告する.

  • 角 直樹, 春間 賢, 山田 学, 尾立 磨琴, 小原 英幹, 正木 勉, 眞部 紀明, 鎌田 智有, 八尾 隆史
    2021 年63 巻8 号 p. 1501-1507
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/20
    ジャーナル フリー HTML

    症例は77歳女性.心窩部痛の精査目的で行った上部消化管内視鏡検査で胃内に5病変の早期胃癌を認めた.背景胃粘膜の内視鏡所見は,前庭部には腸上皮化生を伴う萎縮を認め,胃体部から穹窿部にかけては,血管透見が明瞭で著明な萎縮性変化を認めた.血清ガストリン値410pg/ml,血清抗Helicobacter pylori(以下H. pylori)-IgG抗体3.0U/ml未満,抗胃壁細胞抗体および抗内因子抗体は陽性であった.組織学的所見では幽門腺,胃底腺ともに著明に固有腺が消失し,腸上皮化生も認めた.また,Chromogranin染色にてendocrine cell micronest(以下ECM)があり,上記所見から自己免疫性胃炎と診断した.本例は,幽門腺領域にも萎縮や腸上皮化生を伴う自己免疫性胃炎で5重胃癌を合併していた.

  • 小林 聡, 北畠 央之, 宮澤 仁美, 宮澤 鷹幸, 佐藤 淳一, 山本 力, 篠原 直宏, 越知 泰英, 原 悦雄, 長谷部 修
    2021 年63 巻8 号 p. 1508-1513
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/20
    ジャーナル フリー HTML

    症例1:62歳男性,潰瘍性大腸炎に対してメサラジン内服中.血便精査のため施行した全大腸内視鏡検査で上行結腸に20mm大の0-Ⅱa様病変を認めた.生検で悪性所見は認めず3カ月後の再検で病変はほぼ消失していた.症例2:84歳男性,潰瘍性大腸炎に対してメサラジン内服中.黒色便精査のため施行した全大腸内視鏡検査で上行結腸に結節が密集した厚みのある隆起性病変を認めた.悪性所見は認めず経過を見たところ3年後の再検では瘢痕と炎症性ポリープを残すのみとなっていた.病変は炎症性ポリープの集簇と考えられ,潰瘍性大腸炎に伴う一つの内視鏡所見である可能性もあり文献的考察を加えて報告する.

経験
  • 千葉 宏文, 永井 博, 諸井 林太郎, 岡本 大祐, 下山 雄丞, 新海 洋彦, 小野寺 美緒, 石山 文威, 萱場 尚一, 正宗 淳
    2021 年63 巻8 号 p. 1514-1519
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/20
    ジャーナル フリー HTML
    電子付録

    歯状線近傍の直腸病変に対する大腸ステント留置は,留置後の肛門痛のリスクが高く適応外とされている.最近,直腸病変に対してproximal release型大腸ステントが保険収載された.この新規ステントはその展開方式から従来のステントより位置調整が容易で,適切な位置での留置が可能となっている.われわれは4例の下部直腸悪性狭窄に対し緩和治療目的に,この新規ステント留置を試みた.その結果,4例すべてで留置成功し速やかに経口摂取可能となった.4例とも病変は歯状線から5cm以内の下部直腸に位置していたが,留置後に肛門痛を認めなかった.proximal release型大腸ステントは歯状線近傍の下部直腸病変に対して肛門痛なく留置可能であり有用であった.

手技の解説
  • 鎌田 智有, 物部 泰昌, 春間 賢
    2021 年63 巻8 号 p. 1520-1537
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/20
    ジャーナル フリー HTML

    自己免疫性胃炎とは何らかの自己免疫異常に伴い壁細胞が破壊・消失し,この過程においてプロトンポンプ(H/K ATPase)に対する自己抗体(抗壁細胞抗体)が産生される特殊型胃炎である.内視鏡的逆萎縮が特徴であり,これに加えて固着粘液,残存胃底腺粘膜,前庭部における輪状模様などの所見が認められることがある.近年,非萎縮粘膜の縦走する発赤した偽ポリープ様の顆粒状隆起や胃小区の腫脹,穹窿部のモザイク模様所見などが初期内視鏡像として報告が散見される.

    自己免疫性胃炎に合併する胃癌は,主にL~M領域に発生する隆起を主体とした分化型早期癌であり,非癌症例より血清ガストリン値が高く,悪性貧血の頻度も高率であった.さらに,背景胃粘膜の組織学的所見として非癌症例と比較して萎縮が高度,単核球浸潤が軽度であった.また,本胃炎に合併した胃神経内分泌腫瘍はRindiらのⅠ型に分類され,高ガストリン血症を伴い,腫瘍径は小さく胃体部に発生する予後の良い腫瘍とされている.色調は薄黄色や赤色調のものが多く,中心部で発赤や陥凹,拡張血管などの所見がみられることもある.

  • 竹内 洋司, 七條 智聖, 上堂 文也
    2021 年63 巻8 号 p. 1538-1544
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/20
    ジャーナル フリー HTML

    現行のガイドラインではCold Snare Polypectomy(CSP)は出血高危険度の内視鏡処置に分類され,血栓塞栓症のリスクに応じた抗血栓薬のマネージメントが必要である.ただしCSPの出血リスクは低いと報告されており,抗血小板薬,ワルファリンは継続のまま,直接経口抗凝固薬(DOAC)は治療前に休薬せず治療後に1日休薬してCSPを安全に実施できる可能性がある.

    CSP自体は,抗血栓薬非服用例と同様にポリープの周囲粘膜も十分含めてスネアで絞扼し,通電せずに切除する.切除後は出血が弱まる傾向がなければクリップによる止血を行う.切除直後の出血は可及的に洗浄,吸引し,患者には若干の赤みを帯びた液体が排泄される可能性があることを説明しておく.

    本来のCSPの適応は10mm未満の腺腫であるが,10mmを超える病変でも状況に応じて適応になりうる.いずれにせよ,患者の予後と治療の利益とリスクを熟慮の上で治療すべきである.

資料
  • 鈴木 英雄, 渡海 義隆, 由雄 敏之, 多田 智裕
    2021 年63 巻8 号 p. 1545-1554
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/20
    ジャーナル フリー HTML

    近年,人工知能(AI)が画像認識の分野で医師の役に立つことがわかってきたのは,深層学習(すなわちConvolutional Neural Network:CNN),高性能コンピュータ,そして大量のデジタルデータの3つの要素によるものである.消化器内視鏡分野では日本の内視鏡医は,胃がんや食道がんを検出するための世界初のCNNを基盤としたAIシステムの成果を生み出している.本研究では消化管がんに対するCNNを基盤としたAIに関する論文をレビューし,臨床現場におけるこの技術の将来性について考察する.AI技術のAIを基盤とした診断能力を取り入れることは,内視鏡医の診断能力や精度にばらつきがある早期消化管がんにおいて有益である可能性がある.AIは内視鏡医の専門性に加わることで内視鏡診断の精度を高めることになるだろう.

内視鏡室の紹介
最新文献紹介
  • 蘆田 玲子
    2021 年63 巻8 号 p. 1560
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/20
    ジャーナル フリー HTML

    【背景と目的】膵嚢胞液の分子学的解析は嚢胞の鑑別診断に有用であるが依然として変動的である.そこで膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)および粘液性嚢胞性病変(MCLs)の診断におけるEUS下採取膵嚢胞液を用いたKRASおよびGNAS遺伝子解析の診断性能を評価するためシステマティックレビューとメタアナリシスを施行した.

    【方法】各々の論文検索はPRISMA,MOOSE,コクランDTAといった手法に基づき行われた.95%CIとサマリーポイントを含めたサマリーROCのプロットのためには2変量モデルを用いて統合感度および統合特異度の計算を行った.

    【結果】6つの研究(785病変)が解析に含まれた.IPMNおよびMCLs診断において,KRAS+GNAS(組み合わせ)の遺伝子解析は,KRAS単独およびGNAS単独よりも高い精度(P<0.001)を有していた.またIPMN診断におけるKRAS+GNAS変異は感度,特異度,および精度においてそれぞれ94%(95% CI,72-99;I2=86.74%),91%(95% CI,72-98;I2=89.83),97%(95% CI,95-98)であり,CEAのみと比較して有意に高値であった(P<0.001).MCLs診断に関してはKRAS+GNAS遺伝子解析はCEAのみと比較して同様の感度と特異度であったが精度は有意に改善された(97%[95% CI,95-98] vs 89%[95% CI,86-91];P<0.001).

    【結論】IPMNおよびMCLs診断におけるEUS下採取膵嚢胞液を用いたKRAS+GNAS遺伝子解析は,CEA単独と比較し高い感度と特異度を有し,かつ精度を有意に改善した.

Information
feedback
Top