日本消化器内視鏡学会雑誌
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症例
5重胃癌が発生した前庭部の萎縮を伴う自己免疫性胃炎の1例
角 直樹 春間 賢山田 学尾立 磨琴小原 英幹正木 勉眞部 紀明鎌田 智有八尾 隆史
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キーワード: 自己免疫性胃炎, 5重胃癌
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2021 年 63 巻 8 号 p. 1501-1507

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要旨

症例は77歳女性.心窩部痛の精査目的で行った上部消化管内視鏡検査で胃内に5病変の早期胃癌を認めた.背景胃粘膜の内視鏡所見は,前庭部には腸上皮化生を伴う萎縮を認め,胃体部から穹窿部にかけては,血管透見が明瞭で著明な萎縮性変化を認めた.血清ガストリン値410pg/ml,血清抗Helicobacter pylori(以下H. pylori)-IgG抗体3.0U/ml未満,抗胃壁細胞抗体および抗内因子抗体は陽性であった.組織学的所見では幽門腺,胃底腺ともに著明に固有腺が消失し,腸上皮化生も認めた.また,Chromogranin染色にてendocrine cell micronest(以下ECM)があり,上記所見から自己免疫性胃炎と診断した.本例は,幽門腺領域にも萎縮や腸上皮化生を伴う自己免疫性胃炎で5重胃癌を合併していた.

Ⅰ 緒  言

自己免疫性胃炎はA型胃炎と同義語に用いられることが多く,A型胃炎はStricklandら 1により1973年に提唱された特殊型胃炎である.胃自己抗体の1つである抗胃壁細胞抗体が産生され,胃壁細胞の消失による無酸症と高ガストリン血症を起こす.内視鏡所見では胃体部には高度萎縮を認めるが,前庭部には萎縮を認めない,いわゆる逆萎縮パターンを示す 2

自己免疫性胃炎は悪性貧血の原因となり,胃癌や胃Neuroendocrine cell neoplasm(以下NEN)の高リスクであること 3),4,さらに,他の自己免疫疾患との合併が多いことが知られているが 5)~7,多発胃癌を伴った症例報告は少ない.われわれは,自己免疫性胃炎に5重胃癌を併発した症例を経験したので,文献的考察も含めて報告する.

Ⅱ 症  例

患者:77歳,女性.

主訴:心窩部痛.

既往歴:緑内障,高血圧,自己免疫疾患は認めない.

家族歴:特記事項なし.

現病歴:高血圧で定期通院中に3日前から心窩部痛を認めたため,当院当科に紹介となった.前医の検査で血清抗H. pylori-IgG抗体が陰性でH. pylori除菌歴はなかった.

当科受診時の現症:身長 152.5cm,体重 61.5kg,血圧148/86mmHg,脈拍69回/分,体温36.6℃,眼瞼結膜に貧血や眼球結膜に黄疸は認めず,舌乳頭に萎縮は認めなかった.胸腹部四肢に特記すべき事項は認めなかった.運動知覚障害や神経学的異常所見も認めなかった.血液検査では,血算では貧血は認めなかった.生化学所見は,空腹時血清ガストリン値はランソプラゾール30mg/日を常用下で410pg/ml(正常値:200pg/ml以下),Pepsinogen Ⅰ(以下PGⅠ)8.8ng/ml(正常値:70.0ng/ml以上),Pepsinogen Ⅰ/Ⅱ(以下PG Ⅰ/Ⅱ)1.0(正常値:3.0以上),抗胃壁細胞抗体陽性(80倍),抗内因子抗体陽性,血清抗H. pylori-IgG抗体(Eプレート‘栄研’H. ピロリ抗体Ⅱ:EIA法)は3.0U/ml未満,H. pylori便中抗原検査は陰性であった.なお,血清ガストリン値はランソプラゾール内服を中止後の再検査で360pg/mlであった.甲状腺機能は,TSH 4.67μIU/ml(正常値:0.34-4.00)と軽度高値であったが,FT3 3.55pg/ml(正常値:2.50-5.00),FT4 1.13ng/ml(正常値:0.80-1.70)は正常範囲内であった.

上部消化管内視鏡検査所見:内視鏡所見では前庭部小彎に約35mmと5mmの発赤調の中心陥凹を伴った平坦隆起型病変を2病変,胃角部小彎後壁には約4mmの褪色調の平坦隆起型病変を1病変,体下部小彎には約3mmの褪色調の平坦隆起型病変を1病変,体中部大彎に約5mmの褪色調の平坦隆起型病変を1病変認めた(Figure 1).背景胃粘膜は前庭部では,全周性に腸上皮化生を認め,体部から穹窿部にかけては全周性に血管透見が明瞭であり高度な萎縮性変化を認めた(Figure 2).5病変は,内視鏡所見から,いずれも内視鏡的治療の適応である早期胃癌と診断しEndoscopic submucosal dissection(以下ESD)で切除を行った.ESDで切除した胃癌5病変の病理組織結果は,いずれも粘膜内にとどまる早期胃癌であったが,前庭部小彎に認めた2病変はLy1であり非治癒切除であった.ご本人の意向により外科的な追加切除は希望されず,定期的な内視鏡検査と造影CT検査にて経過観察を行っている.内視鏡治療後は,2年経過しているが,腫瘍性病変の再発は認めず経過は良好である.

Figure 1 

胃癌の分布.

a:前庭部小彎前壁には境界明瞭で周辺がやや不整に隆起し中央が陥凹した発赤調の病変を認め,前庭部小彎後壁には境界不明瞭で発赤調の平坦陥凹性病変を認める.

b:胃角部小彎後壁に4mmの境界やや不明瞭な褪色調の表面隆起性病変を認める.

c:胃体下部小彎に3mmの褪色調の表面隆起性病変を認める.

d:胃体中部大彎に5mmの境界明瞭な褪色調の表面隆起性病変を認める.

Figure 2 

上部消化管内視鏡写真(背景胃粘膜).

a:胃前庭部の内視鏡像(酢酸撤布像).前庭部には全周性に腸上皮化生を認める.

b:胃体部の内視鏡像.胃体部全体に血管透見が明瞭であり,容易に視認できる.体部大彎の皺襞は消失している.

病理所見:本症例でESDにて切除した早期胃癌5病変の「胃癌取扱い規約第15版」による病理組織結果を以下に示す 8.前庭部小彎の病変は,2病変を同一標本内に収めるように一括切除した.

・前庭部小彎前壁の病変:0-Ⅱc,35×8mm,tub1>pap,pT1a(M),pUL0,Ly1,V0,pHM0,pVM0.

・前庭部小彎後壁の病変:0-Ⅱc,5×5mm,tub1>por2,pT1a(M),pUL0,Ly1,V0,pHM0,pVM0.

・胃角部小彎後壁の病変:0-Ⅱa,3.5×3mm,tub1,pT1a(M),pUL0,Ly0,V0,pHM0,pVM0.

・胃体下部小彎の病変:0-Ⅱa,3×3mm,tub1,pT1a(M),pUL0,Ly0,V0,pHM0,pVM0.

・胃体中部大彎の病変:0-Ⅱa,5×5mm,tub1,pT1a(M),pUL0,Ly0,V0,pHM0,pVM0.

また,背景胃粘膜は,体中部大彎の組織では,胃底腺は著明に消失し,粘膜深部では好酸球を伴う炎症,粘膜筋板の肥厚を認めた.前庭部大彎の組織では,幽門腺は消失しており萎縮性変化や腸上皮化生を認めた(Figure 3).さらにChromogranin染色にて胃体中部大彎にECMを認め,組織学的にも自己免疫性胃炎に矛盾しない所見であった(Figure 4).

Figure 3 

病理組織像(背景胃粘膜:HE染色).

a:幽門腺.粘膜深層に軽度のリンパ球主体の炎症細胞を認め,一部に固有腺が残存しているが著明な萎縮・腸上皮化生を全体に認める(HE染色×100倍).

b:胃底腺.幽門腺同様に粘膜深層にリンパ球を有意とした炎症細胞,著明な萎縮を認め,腸上皮化生を広範囲で認める(HE染色×100倍).

Figure 4 

病理組織像(背景胃粘膜:Chromogranin-A).

胃体中部大彎の病変のESD標本の背景胃粘膜.粘膜筋板直上にはECMを認め,Chromogranin-A染色は陽性であった(Chromogranin-A染色×100倍).

Ⅲ 考  察

自己免疫性胃炎は,Stricklandら 1がA型胃炎として提唱した胃体部中心の萎縮性胃炎で,その内視鏡所見は,黒川ら 2が報告したように,胃体部粘膜の高度萎縮を認めるが,前庭部粘膜には萎縮がない逆萎縮パターンを示すのが特徴である.自己免疫性胃炎は,H. pylori感染胃炎と同様に胃癌の発生母地の1つとして考えられている.自己免疫性胃炎に胃癌の合併頻度が高い理由として,胃体部を中心とした高度の萎縮性胃炎が合併していることが胃癌発生の母地となることが考えられる.他には,胃酸分泌の低下のため,胃内pHが上昇し,窒素産生菌が増殖をきたし,その結果ニトロソアミンなどの発癌性窒素化合物が産生され,それにより発癌が起こるという説 9や,高ガストリン血症による胃底腺へのtrophic作用と発癌を関連づける説などがある 10

自己免疫性胃炎における胃癌の発生率は,海外の報告では,Hsingら 11の報告したスウェーデンでのコホート研究では,悪性貧血患者4,517人を平均5.9年間追跡調査したところ102人(2.3%)が胃癌を発症し,Yeら 12は,1965年から1999年にかけて悪性貧血で入院した20歳以上の患者21,265人を平均7.1年間追跡したところ,フォローアップの期間が長いほど発癌リスクが高くなり,A型胃炎が非噴門部の胃癌リスクの上昇に関連することを報告している(SIR 2.4,95%CI 2.1-2.7).また,Vannellaら 13が報告したメタ解析では悪性貧血患者の胃癌リスクは6.8倍であったと報告されている.本邦では,春間ら 14は,悪性貧血を合併した24例を内視鏡検査で検討し2例(8.3%)に胃癌の合併を認めたが,いずれも単発の病変であった.また,白壁ら 15は1950年から1969年までの悪性貧血に胃癌を発症した報告を文献的に検討し,257例中15例(5.8%)に認めたと報告している.寺尾ら 16は,多施設で検討したretrospectiveな報告で,血清学的検査や内視鏡所見にて自己免疫性胃炎と診断した245例中24例(9.8%)に胃癌を合併し22例が早期胃癌,2例が進行胃癌であったと報告している.

重複癌は,1932年にWarrenら 17により提唱された各腫瘍は悪性像を示し,互いに離れた位置に存在しているが,転移したものではないという定義が広く用いられている.多発重複胃癌の報告例は多くあるが,胃癌発生の高リスクであるにも関わらず自己免疫性胃炎に併発した多発胃癌の報告例は少ない.本症例を含めた1971年から2019年までの本邦における自己免疫性胃炎に合併した多発胃癌(腺癌)の報告は6例でTable 1にまとめて提示した(Table 1 18)~21.胃癌の組織型の記載があった13病変中11病変が高・中分化型管状腺癌(tub1,tub2)主体であり,2病変は胃底腺型胃癌(fundic gland type)であった.胃底腺型胃癌の2病変は同一症例で認められていた.Table 1に提示した本症例を除く5例の自己免疫性胃炎の症例では,前庭部の萎縮に関する詳細な記載はなかった.また,H. pylori感染診断についても3例で記載はなく,残りの2例はH. pylori感染の厳密な判定ができなかったと記載されていた.

Table 1 

自己免疫性胃炎に多発胃癌(腺癌)を合併した報告例.

H. pyloriは胃粘膜に感染し,胃粘膜の炎症,萎縮,そして腸上皮化生をきたすことで胃癌発生のリスクとなる 22.春間ら 23,江頭ら 24は,多発胃癌の背景として萎縮や腸上皮化生が強く,広範囲に認める症例に胃癌が多発していることを報告しており,自己免疫性胃炎に関わらず,萎縮や腸上皮化生が高度な症例では多発胃癌の高リスクとなる可能性がある.

本症例では,胃体部に限局した高度萎縮でなく,前庭部にも萎縮性変化や腸上皮化生を認めたが,除菌歴がなく,前医検査(血清抗H. pylori-IgG抗体)にてH. pylori陰性であったことから自己免疫性胃炎を疑った.胃生検の病理所見では,胃底腺領域から幽門腺領域にかけて腸上皮化生を伴う萎縮性変化を認めたことから,典型的な自己免疫性胃炎の症例とは異なる.血清抗H. pylori抗体や便中H. pylori抗原検査が陰性であったことは胃炎の進行に伴いH. pyloriが消失した結果であり,過去にH. pylori感染を伴った自己免疫性胃炎で,胃全体に萎縮や腸上皮化生をきたしていることから,多発胃癌の発症のリスクとなる可能性がある.

本症例のように前庭部にも萎縮や腸上皮化生を伴う自己免疫性胃炎では多発胃癌のリスクとなりうることから,より注意深い対応が必要である.

Ⅳ 結  語

自己免疫性胃炎に合併した5重胃癌の1例を報告した.幽門腺領域にも萎縮や腸上皮化生を伴う自己免疫性胃炎で,胃全体に萎縮や腸上皮化生をきたしていることから多発胃癌のリスクであったと考えられる.

謝 辞

原稿の作成にあたり,直接のご指導,ご協力いただいた川崎医科大学健康管理学教授の高尾俊弘先生,同大学准教授の藤本壮八先生,同大学講師の山中義之先生に深謝いたします.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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