日本消化器内視鏡学会雑誌
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経験
下部直腸悪性狭窄に対する新規proximal release型大腸ステントの使用経験(動画付き)
千葉 宏文 永井 博諸井 林太郎岡本 大祐下山 雄丞新海 洋彦小野寺 美緒石山 文威萱場 尚一正宗 淳
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電子付録

2021 年 63 巻 8 号 p. 1514-1519

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要旨

歯状線近傍の直腸病変に対する大腸ステント留置は,留置後の肛門痛のリスクが高く適応外とされている.最近,直腸病変に対してproximal release型大腸ステントが保険収載された.この新規ステントはその展開方式から従来のステントより位置調整が容易で,適切な位置での留置が可能となっている.われわれは4例の下部直腸悪性狭窄に対し緩和治療目的に,この新規ステント留置を試みた.その結果,4例すべてで留置成功し速やかに経口摂取可能となった.4例とも病変は歯状線から5cm以内の下部直腸に位置していたが,留置後に肛門痛を認めなかった.proximal release型大腸ステントは歯状線近傍の下部直腸病変に対して肛門痛なく留置可能であり有用であった.

Ⅰ 緒  言

大腸癌のうち10-20%で大腸閉塞に至るとの報告がある 1)~3.悪性大腸閉塞に対する大腸ステントは2012年の保険収載以降,急速に普及している 4),5.しかし直腸,特に歯状線近傍の病変に対する大腸ステント留置は留置後の肛門痛のリスクが高く 6,適応外とされている.これまで歯状線近傍の病変に対しては,食道狭窄用のproximal release型ステントを使用し,その有用性が報告がされていた 7.最近,直腸病変に対するproximal release型大腸ステントが保険収載され,その使用例が報告されている 8),9.proximal release型ステントはその展開方式から従来のステントに比して留置時の位置調整が容易であり,今後の使用症例の増加が予想される.

しかし,この新規ステントをどのような症例に対して用いれば良いかなど,その適応についてはまだ不明な点が多い.今回,われわれは4例の下部直腸悪性狭窄に対し本ステントを用いた.その使用経験について報告し,有用性と課題について考察する.

Ⅱ 症  例

1.患者

2020年1月から8月までに岩手県立胆沢病院および白河厚生総合病院において,proximal release型大腸ステント留置を試みた下部直腸悪性狭窄4例を対象とした.患者背景をTable 1に示す.

Table 1 

患者背景および治療成績.

2.新規proximal release型大腸ステント

新規proximal release型大腸ステント(Niti-S Colonic Stent Proximal Release Type, Taewoong Medical Co., LTD, Gyeonggi-do, South Korea)は直径22mm・長さ70mmで,迷入防止のためステント両端にフレア(口側25mm,肛門側15mm)がある(Figure 1).また,クローズドセル構造(セルを固定しない編み込み構造)となっており,留置後30%短縮する.デリバリーシステムが16Fr/ 5.3mmと太く,through-the-scopeでの留置は不能でover-the-wire techniqueで留置する.

Figure 1 

新規proximal release型大腸ステント.

3.方法

内視鏡下に0.035インチのガイドワイヤーおよびERCP用の造影カテーテルを狭窄口側に誘導し,ガストログラフィン造影により狭窄部位と範囲を描出する.ガイドワイヤーを留置したまま,内視鏡と造影カテーテルを一旦抜去し,over-the-wire techniqueで透視下にデリバリーシステムを狭窄口側に誘導する.再度内視鏡を挿入し,内視鏡像および透視像を確認しながら,病変肛門端にデリバリーシステムを軽く押し付けるようにして,ステントをゆっくりと展開する(電子動画 1Figure 2).従来のdistal release型ステントでは展開時に病変口側にステントが引き込まれやすいため,強く手前に引きながら展開する必要があった.一方,新規proximal release型ステントでは病変肛門端に軽く押し付けながら展開することで,病変肛門端とステント肛門端を合わせるように位置を調整し,留置することが容易である.そのため歯状線近傍の病変でも安全にかつ容易に留置可能である.

電子動画 1

Figure 2 

直腸癌の内視鏡像および透視像(86歳男性:症例2).

a:歯状線から4cm口側に直腸癌あり.

b:0.035インチのガイドワイヤーおよびERCP用の造影カテーテルを狭窄の口側に誘導した.

c:ステントを肛門側から展開した.

d:ステント留置後の透視像.狭窄長は4cmだった.

e:狭窄が拡張された.

f:ステントは腫瘍の肛門側ぎりぎりに留置された.

4.結果

4例の下部直腸悪性狭窄に対してproximal release型大腸ステント留置を試みた.4例すべてで留置成功し,速やかに経口摂取可能となった.4例はすべて緩和治療目的の留置であった.4例のうち2例は直腸癌,多発肝転移の症例で,残りの2例は胃癌腹膜播種に伴う直腸狭窄であった.全例で病変は歯状線から5cm以内の下部直腸に位置していた.全例でステント留置に伴う肛門痛を認めず,逸脱・穿孔などの有害事象も認めなかった.2例(症例3,4)ではステント留置以前からテネスムスや漏便を認めていたが,ステント留置により改善もなかったが,増悪もなかった.

Ⅲ 考  察

悪性大腸閉塞では早急な減圧術を要するが,近年は経肛門イレウスチューブ留置や人工肛門造設術に替わり,よりQOLの高い大腸ステント留置術が広く普及している 4),5.しかし,これまで下部直腸病変に対してはステント留置後の肛門痛のリスクが高いため,人工肛門造設術などが選択されることが多かった.下部直腸病変に対する従来型の大腸ステント留置による肛門痛の割合は高く,62.5%(10/16)と報告されている 6.一方,食道用のproximal release型ステントを使用した例での肛門痛は33.3%(2/6)との報告があった 7.一度留置したステントは抜去することが困難なため,留置後の肛門痛やステント留置に伴う違和感が生じると,特に緩和治療目的の症例では,著しくQOLを低下させる.今回のわれわれの報告では新規proximal release型大腸ステントを使用することで,4例と少数ではあるが全例で肛門痛を生じることなく留置可能であった.解剖学的に歯状線は肛門縁から20mm口側に位置し,感覚神経支配は歯状線からさらに口側3-15mm程度までに存在するとされている 10.proximal release型大腸ステントでは,展開時にデリバリーシステムを病変肛門端に軽く押し付けるように展開する.この際,内視鏡直視下に確認しながら展開することが推奨されており 8),9,ステント肛門端を適切な位置に保持しての留置が容易である.そのため歯状線からの距離を確保した留置が可能となる.以上のことから,proximal release型大腸ステントは下部直腸悪性狭窄において,肛門痛のリスクを低下させ安全に留置可能であり,また留置の容易さも勘案すると,臨床上非常に有用であると考えられた.

また,われわれの報告は緩和治療目的の留置のみだったが,本ステントはBride to Surgery(BTS)症例に関しても有用となる可能性がある.下部直腸の手術において吻合部が肛門に近くなるほど,術後の縫合不全や機能障害が生じやすくなる 11),12.前述のように従来型の大腸ステントではその構造上,展開時にステントが口側へ引き込まれやすく,適切な留置位置を保持するためにデリバリーシステムを強く肛門側に引っ張る必要がある.そのためステント肛門端の位置を調整することが難しく,意図した部位より肛門側にステントが留置される危険性が高い.直腸癌に対する術前減圧として従来型の大腸ステントを使用すると,吻合の妨げになる恐れがある.経肛門イレウスチューブは吻合の妨げにはならないが,ステントと比べて減圧が不十分なことが多い 5

本ステントの問題点として,デリバリーシステムが16Frと太いためthrough-the-scopeでの留置は不能であることや,ステント長が70mmの1サイズしかないことが挙げられる.そのため適応病変は下部直腸で狭窄が長すぎない病変に限定される.また,実際にステントを留置してみないと肛門痛が出現するかどうかが不明なことも問題点である.前述のように解剖学的には感覚神経支配は歯状線から口側3-15mm程度までに存在するため,歯状線からの距離を確保して留置することで肛門痛のリスクを低下できると考えるが,実際に肛門痛が生じるかどうかは留置してみないと不明である.一旦留置したステントを抜去することは困難であり,留置前には十分なインフォームドコンセントが必要である.また,直腸でのステント留置により,テネスムスや漏便が出現することも知られている.本報告ではステント留置によりこれらの症状が悪化した症例はなかったが,2例では留置前からテネスムスや漏便を認めた.テネスムスや漏便は下部直腸の炎症が原因で出現するが,直腸悪性腫瘍でもしばしば経験され,これらの症状の出現は肛門痛同様に著しくQOLを低下させる.下部直腸へのステント留置の症例数は少なく,ステント留置に伴うこれらの症状との関係は不明である.また肛門痛のみならず,逸脱や穿孔といった一般的なステント合併症についても従来のステントと同程度と推測しているが,現在のところその頻度は不明であり今後の症例の蓄積を要する.

Ⅳ 結  語

proximal release型大腸ステントは下部直腸の悪性狭窄に対して,肛門痛を生じる危険性を低下させつつ留置可能であり有用であった.しかしながら,少数例の経験であり,今後の症例の蓄積が必要である.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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