日本消化器内視鏡学会雑誌
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手技の解説
自己免疫性胃炎および合併胃腫瘍の臨床像と内視鏡所見
鎌田 智有 物部 泰昌春間 賢
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2021 年 63 巻 8 号 p. 1520-1537

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要旨

自己免疫性胃炎とは何らかの自己免疫異常に伴い壁細胞が破壊・消失し,この過程においてプロトンポンプ(H/K ATPase)に対する自己抗体(抗壁細胞抗体)が産生される特殊型胃炎である.内視鏡的逆萎縮が特徴であり,これに加えて固着粘液,残存胃底腺粘膜,前庭部における輪状模様などの所見が認められることがある.近年,非萎縮粘膜の縦走する発赤した偽ポリープ様の顆粒状隆起や胃小区の腫脹,穹窿部のモザイク模様所見などが初期内視鏡像として報告が散見される.

自己免疫性胃炎に合併する胃癌は,主にL~M領域に発生する隆起を主体とした分化型早期癌であり,非癌症例より血清ガストリン値が高く,悪性貧血の頻度も高率であった.さらに,背景胃粘膜の組織学的所見として非癌症例と比較して萎縮が高度,単核球浸潤が軽度であった.また,本胃炎に合併した胃神経内分泌腫瘍はRindiらのⅠ型に分類され,高ガストリン血症を伴い,腫瘍径は小さく胃体部に発生する予後の良い腫瘍とされている.色調は薄黄色や赤色調のものが多く,中心部で発赤や陥凹,拡張血管などの所見がみられることもある.

Ⅰ はじめに

自己免疫性胃炎 (autoimmune gastritis:AIG)の内視鏡所見は「逆萎縮」と呼称される胃体部優位の高度萎縮が特徴であり,これに加えて胃体部~穹窿部にみられる固着粘液,偽ポリープを代表とする残存胃底腺粘膜や過形成性ポリープ,前庭部においては輪状模様などの所見が認められることがある.近年,Narrow Band Imaging:NBIなどを用いた拡大観察による粘膜所見 1)~6や白色球状外観 7),8(white globe appearance:WGA)および抜け殻所見 8(cast-off skin appearance:CSA)という比較的新しい所見,さらには「逆萎縮」が完成していない初期病変の報告 9)~11も散見されるようになってきた.このように,近年注目されているAIGは,H. pylori感染以外の胃炎・胃粘膜変化の一つとして「胃炎の京都分類」改訂第2版 12にも取り上げられている.

一方,AIGは高ガストリン血症を伴うためECL細胞の過形成を経て,胃神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor:NET)を合併 13)~16しやすいこと,胃体部には高度萎縮を認めるため,胃癌の発生母地でもある 14)~19.よって,AIGの内視鏡所見に加えて,これに合併する胃腫瘍の臨床的および内視鏡的特徴を十分に把握しておくことは重要である.

本稿ではAIGおよびこれに合併した胃腫瘍の臨床像と主な内視鏡所見について自験症例を交えて概説する.

Ⅱ 自己免疫性胃炎の疾患概念

AIGとは何らかの自己免疫異常(細胞性免疫)に伴い壁細胞が破壊・消失し,この過程においてプロトンポンプ(H/K ATPase)に対する自己抗体(抗壁細胞抗体[anti-parietal cell antibody:PCA])が産生される特殊型胃炎である.1973年,StricklandとMackay 20はAm J Dig Dis誌に慢性萎縮性胃炎を2つのタイプ(A型胃炎とB型胃炎)に分類し,報告した.原著ではこれらの鑑別診断にはPCAの有無と血清ガストリンと前庭部生検の評価による前庭部胃炎の有無が基本となっている.すなわち,PCA陽性および前庭部胃炎が「なし」あるいは「軽度」(逆に胃体部萎縮は高度)の症例をA型胃炎(type A gastritis),PCA陰性および前庭部胃炎を優位とする症例(逆に胃体部萎縮は「なし」あるいは「軽度」)をB型胃炎(type B gastritis)と定義している.現在,本邦ではA型胃炎はAIGとも呼称されているが,その病態および臨床像から両者はほぼ同義語であると考えられる.しかしながら,進行期をほぼ捉えているA型胃炎よりも初期病変を包括するAIGという呼称の方がより適していると考えられる.なお,海外ではAIGと表現されている論文がほとんどであり,本稿でも以後AIGと統一表記する.

このように胃体部は高度萎縮のため無酸状態となり,このためnegative feed back機構により高ガストリン血症(G細胞は過形成)を来す.PCAに加え,抗内因子抗体(intrinsic factor antibody:IFA)が産生されることがあるため,これにより内因子の分泌低下からビタミンB12吸収障害を来し,晩期には巨赤芽球性貧血である悪性貧血や亜急性連合性脊髄変性症を発症することがある.

その他,甲状腺や膵臓などの胃外腺組織の自己免疫性疾患と高率に合併するため,AIGは「胃炎」という単一疾患ではなく,全身疾患として理解する必要がある.特に,自己免疫性甲状腺炎に様々な自己免疫症候群を合併する疾患として多腺性自己免疫症候群(polyglandular autoimmune syndrome:PAS)が提唱 21されている.これには合併する自己免疫性疾患により1~4型に分類され,自己免疫性胃炎との合併は3Bとなる.

Ⅲ 自己免疫性胃炎の疫学

青木ら 22は本邦5施設で施行されたスクリーニング内視鏡8,761例を対象に,AIGの内視鏡診断に熟知した専門医3名が検討した結果,その頻度は0.49%(43/8,761)であったと報告した.その内訳は性別では男性0.14%,女性0.9%と女性に多く,年齢別では50歳未満0.23%,50歳以上0.51%と加齢とともに多くなり,胃体部の高度萎縮(木村・竹本分類:OⅡ/OⅢ)での頻度は6.22%であったとした.このように高度萎縮例ではAIGが潜在的に存在している可能性があるため,内視鏡検査施行の際には逆萎縮の有無を留意すべきである.また,Notsuら 23は,単一の検診施設において6,739例を対象にAIGの頻度を検討した結果,その頻度は0.49%(33/6,739)であったと報告し,先の青木らの調査した頻度とほぼ同等であった(約200人に1人).これまでに本邦ではH. pylori感染による萎縮性胃炎が多く 24,欧米よりも悪性貧血の頻度が低い 25ことから,AIGは稀な疾患とされてきた.しかしながら,本疾患への関心度の向上などから内視鏡検診を契機に発見に至る症例 26)~28,胃がんリスク層別化検査におけるD群 29H. pylori陰性かつペプシノゲン:pepsinogen[PG]法陽性),貧血(大球性貧血や鉄欠乏性貧血)や甲状腺疾患などの自己免疫性疾患,胃癌や胃NETの精査,泥沼除菌 30(腸管由来のウレアーゼ産生菌により尿素呼気試験が陽性となり,何度も除菌を繰り返す)症例などからAIGと診断される症例が増加している.Teraoら 31は,2010年1月~2016年10月までに本邦11施設(Committee of AIG Research Group:CARP)から集計したAIG245例の臨床的および内視鏡的特徴を後向きに検討した.この報告におけるAIGの診断契機は,内視鏡所見が最も多く31.2%,次に大球性貧血16.1%,泥沼除菌15.1%,胃がんリスク層別化検査D群6.5%に続いた.

Ⅳ 自己免疫性胃炎の病態

Nishizukaら 32の研究グループは,Balb/cマウスの胸腺を生後3日目に摘除することにより,ヒトに極めて類似したAIGが発症することを報告した.胸腺はT細胞の分化・成熟を司る臓器であり,これを摘除することにより,プロトンポンプに特異的な制御性T細胞(Treg)が欠落し,この結果,プロトンポンプに特異的な細胞傷害性T細胞(cytotoxic T cell)が形成され,壁細胞の破壊・消失が生じ,その過程でPCAが産生される.AIGにおける胃粘膜傷害の本体はこの細胞傷害性T細胞で,PCAはその結果であり,本来病的意義はないとする理論である(Figure 1).

Figure 1 

自己免疫性胃炎の病因とその病態メカニズム.

H. pylori感染の関与については肯定派と否定派の両者があり,定まった見解は未だない.欧米を中心とした肯定的な見解としてH. pylori感染が胃体部に炎症を来し,壁細胞が破壊されることによりPCAが産生され,さらに胃体部胃炎が進展 33するものである.加えて,除菌によりAIGの胃体部萎縮が改善するという報告 34がある.一方,否定的な見解として,本邦での悪性貧血症例ではH. pylori感染率は低い 35),36こと,また,Ohanaら 37は,AIGを発症させたマウスにH. pyloriを感染させると腺萎縮,過形成性変化,血清ガストリン値が有意に減少・低下したことを報告している.AIGはTh1反応優位であるが,一方,H. pylori感染はTh1反応に加え,Th2反応も惹起することにより,H. pylori感染はAIGの発症を抑制することが推測 38されている.これを裏付けるものとして,除菌治療後にTh2反応が低下し,AIGが進展したと考えられる症例を経験した(Figure 2).症例は77歳の女性.心窩部痛の精査目的で行った上部消化管内視鏡検査で萎縮性胃炎(H. pylori感染胃炎)を認めた(Figure 2-a,b).除菌成功1年後の内視鏡検査で胃体部大彎の皺襞は消失し,血管透見像が明瞭となり,内視鏡的逆萎縮を示した(Figure 2-c,d).この時点でPCA40倍,IFA陰性,血清ガストリン673pg/ml,PG Ⅰ 2.2ng/ml,PG Ⅱ 7.2ng/ml,PG Ⅰ/Ⅱ比 0.3を示し,胃体部の生検にて壁細胞の消失,粘膜深層を中心としたリンパ球,好酸球浸潤および粘膜筋板の肥厚,さらにendocrine cell micronest(ECM)の所見が確認された(Figure 2-g,h).除菌2年後には胃体部大彎には固着粘液の付着を認め,萎縮はさらに進展した(血清ガストリン1,291pg/ml)(Figure 2-e,f).

Figure 2 

除菌治療により胃体部萎縮が進展したAIG症例.

a:前庭部は萎縮とびまん性発赤を認める(除菌前:前庭部).

b:胃体部はびまん性発赤と大彎の皺襞腫大・蛇行を認め,H. pylori現感染の所見を示す(除菌前:胃体部).

c:前庭部は除菌前と比較しびまん性発赤が改善している(除菌1年後:前庭部).

d:胃体部大彎の皺襞は消失し,血管透見像が明瞭となる(除菌1年後:胃体部).

e:前庭部はびまん性発赤が消失し,幽門輪のみ正常粘膜が保持されている(only adjacent to pylorus)(除菌2年後:前庭部).

f:胃体部大彎には固着粘液の付着を認める(除菌2年後:胃体部).

g:胃底腺領域では壁細胞は消失し,粘膜深層を中心としたリンパ球,好酸球浸潤および粘膜筋板の肥厚を認める(HE染色,弱拡大像)(除菌1年後).

h:強拡大像にてECMを認める(矢印)(HE染色,黄色枠強拡大像).

Ⅴ 自己免疫性胃炎の内視鏡所見

現在,AIGの診断基準が確立されていないため,内視鏡所見,自己胃抗体の有無,血清学的所見(高ガストリン血症,低PG血症)および組織所見から総合的に各施設の基準で診断しているのが現状である.日本消化器内視鏡学会附置研究会「A型胃炎の診断基準確立に関する研究会」(代表世話人:鎌田智有)が2019年に発足され,その診断基準作成に向けた活動が現在進行中であり,2022年春の本学会総会においてその成果報告が行われる予定である.

本稿ではAIGの特徴的な内視鏡所見について以下に概説する.胃体部の高度萎縮,いわゆる内視鏡的逆萎縮が典型的な所見であるが,全例ではないがこれ以外にもAIGに認められる多くの所見が報告 31されている.本邦多施設共同研究 31では,胃体部粘膜の所見において固着粘液,残存胃底腺粘膜,WGA,前庭部粘膜においては斑状発赤,輪状模様,稜線状発赤などの所見が報告されている.通常,前庭部粘膜の萎縮は「なし」あるいは「軽度」とされているが,蠕動や胆汁逆流の影響を受けること,H. pylori感染合併例では萎縮・炎症を伴うため,その所見は多様となり,逆萎縮の診断が容易でない症例も存在する.

1.通常観察所見

a.逆萎縮(胃体部優位の高度萎縮)

内視鏡的逆萎縮はAIGの典型的所見であり,この所見が契機となりAIGと診断されることが多い(Figure 3).本邦多施設共同研究 31では,O4(O-P)は90.1%(200/220)で最も多く,次いでO1-O3 5.9%(13/221)と報告されており,多くは萎縮境界を認めないが,胃体部萎縮が完成されていない症例も少数ながら存在している.逆萎縮を的確に診断するには胃体部大彎を十分伸展させることが内視鏡手技上のポイントであり,送気不足はこの所見を見逃すことがある(Figure 4).

Figure 3 

内視鏡的逆萎縮.

a:胃体部小彎は著明な血管透見像を認める(Linked Color Imaging [LCI]観察).

b:胃体部大彎の皺襞は消失し,著明な血管透見像を認める.萎縮境界を認めないO4(O-P)と診断した(LCI観察).

c:幽門部はほぼ正常粘膜である(LCI観察).

d:前庭部の肛門側半周に健常幽門腺を認め(around half of the antrum),わずかな輪状模様を認める(LCI観察).

Figure 4 

内視鏡観察時の十分な伸展により診断し得たAIG症例(胃過形成性ポリープ合併例).

胃過形成性ポリープ診断時.

a:前庭部は全体が健常な幽門腺(whole area normal)である.

b:胃体下部大彎に表面発赤調の過形成性ポリープを認める.この際には胃体部の伸展不足のため,高度萎縮の診断には至らなかった.

胃過形成性ポリープ内視鏡治療3年後.

c:前庭部は同じく全体が健常な幽門腺(whole area normal)である.

d:胃体部は十分な伸展により,皺襞の消失と著明な血管透見を認め,内視鏡的逆萎縮の診断に至った.

萎縮粘膜において非AIGは発赤・粗大な粘膜所見を認める一方で,AIGでは平滑あるいは微細な粘膜所見であるため,血管透見像がより顕著となり,これらが両者の鑑別点となり得る(Figure 5).また,丸山らは,AIGでは胃体部萎縮粘膜の平滑,微細アレア,点状発赤が少ないこと,境界明瞭な非萎縮残存胃底腺粘膜の形状などの胃体部所見を認めることから,これらの所見が非AIGとの内視鏡による鑑別に重要であることを報告 39している.

Figure 5 

AIGと非AIGにおける胃体部粘膜の比較.

a:胃体部小彎の萎縮粘膜は平滑である(AIG,LCI観察).

b:胃体部小彎の萎縮粘膜は発赤し,粗造である(非AIG:除菌後,LCI観察).

c:胃体部大彎の萎縮粘膜は平滑で,血管透見がより顕著となる(AIG,LCI観察).

d:胃体部大彎の萎縮粘膜は粗造である(非AIG:除菌後,LCI観察).

b.固着粘液

穹窿部~胃体上部に存在する水洗では容易に除去できない淡黄~白色調の粘調な粘液を指す(Figure 6).本邦多施設共同研究 31では,固着粘液はAIGの32.4%(72/222)に認めたと報告されている.鈴木ら 40はAIG79例のうち,胃癌合併8例と非癌71例の内視鏡所見について検討し,胃癌合併例において固着粘液の出現率が高かったことを報告している(71.4% vs. 37.3%).

Figure 6 

固着粘液.

a:穹窿部を中心に固着粘液を認める.

b:穹窿部~胃体上部の固着粘液は水洗にても除去されない.

c.残存胃底腺粘膜

胃粘膜がびまん性に萎縮する際に,限局した範囲で取り残された胃底腺粘膜を指す.周囲の粘膜の丈が減ずるため,これを免れた残存胃底腺粘膜は平坦あるいは段差をもって高くなり,その表面には正常の粘膜構造が観察される.本邦多施設共同研究 31では,残存胃底腺粘膜はAIGの31.5%(70/222)に認められ,その形状(頻度)をflat・localized type(48.6%),pseudopolyp like type(22.9%),island-shaped type(18.6%),extensive type(7.1%)およびgranular type(2.9%)の5型に分類している(Figure 7).

Figure 7 

残存胃底腺粘膜の分類.

a:flat・localized type(平坦限局型).

b:island-shaped type(島状型).

c:pseudopolyp like type(偽ポリープ型).

d:extensive type(広範囲型).

d.過形成性ポリープ

小ポリープ~つらら状の形態で,通常の萎縮性胃炎より合併頻度は高いと報告されている.丸山らはAIG20例と非AIG20例の内視鏡所見を検討し,過形成性ポリープはAIGで50%(10/20),非AIGでは15%(3/20)であり,AIGでは発現頻度が有意に高いことを示した 39.また,本邦多施設共同研究 31では過形成性ポリープはAIGの21.2%(52/245)に認めている.

e.前庭部所見

正常な幽門腺粘膜の範囲と色調から① whole area normal(全体に健常な幽門腺粘膜を認める) ② around half of the antrum(肛門側半周に健常な幽門腺粘膜を認める) ③ only adjacent to pylorus(幽門周囲のみに健常な幽門腺粘膜を認める) ④ whole area discolored(全体に褪色調粘膜を認める) ⑤ whole area reddish(全体に発赤調粘膜を認める)に分類 31される(Figure 8).多施設共同研究 31では,これらの頻度はwhole area normal 43.7%,around half 8.6%,only adjacent to pylorus 24.3%,whole area discolored 9.5%,whole area reddish 13.1%であったと報告されている.その他,斑状発赤(22.1%),輪状模様(22.1%)(Figure 9),稜線状発赤(10.4%)などの所見が認められる.

Figure 8 

前庭部正色調範囲の分類.

a:whole area normal(全体に健常な幽門腺粘膜を認める).

b:around half of the antrum(肛門側半周に健常な幽門腺粘膜を認める).

c:only adjacent to the pylorus(幽門周囲のみに健常な幽門腺粘膜を認める).

Figure 9 

輪状模様(前庭部).

a:前庭部にはわずかな輪状模様を認める(白色光観察).

b:色素散布にて輪状模様は明瞭となる.

2.拡大内視鏡観察所見

拡大内視鏡観察からみたAIGの内視鏡的特徴を検討した報告 1)~8が散見される.下記に主な所見について概説する.

a.萎縮粘膜における円形~楕円形開口部配列

Yagiら 1は,拡大内視鏡観察にてH. pylori胃炎とAIGにおける萎縮粘膜所見の検討を行っている.H. pylori胃炎では萎縮粘膜は管状模様を呈するのに対して,AIGでは萎縮粘膜においてもやや大型の円形~楕円形の開口部が密に配列していることを報告した.両胃炎における炎症の主座の相違(H. pylori胃炎:腺頸部~腺窩上皮;AIG:壁細胞周辺の粘膜深層)によるものと考えられる.

b.WGA(white globe appearance)

WGAは分化型胃癌の辺縁に存在する胃癌診断に有用な内視鏡的マーカーとして注目 41),42されている.一方,WGAは胃癌辺縁のみばかりではなく,非癌病変であるAIGの胃体部小彎にも好発することが報告 7),8され,NBI拡大観察がその診断に有用とされている.本邦多施設共同研究 31では,WGAはAIGの32.0%(71/222)に認められている.病理学的には拡張した腺管内に好酸球性の壊死物質の貯留を認め,intraglandular necrotic debris(IND)に合致する所見である.なお,Teraoら 31は,本病変を散在性微小白色隆起(scattered minute whitish protrusions:SMWP)と命名している.

c.CSA(cast-off skin appearance)

丸山ら 8は,通常観察では高度萎縮所見にも関わらず,NBI拡大所見でネットワーク状毛細血管が保たれ中央に存在すべき腺開口部が脱落し,あたかも「抜け殻」のようにみえる所見をCSAと呼称し,胃体部小彎に観察されると報告している.

3.初期病変の内視鏡所見

Koteraら 9は,AIGの初期病変を呈した2例(48歳男性;70歳女性)を報告している.同報告では,胃体部萎縮は小彎に限局し,非萎縮粘膜の表面は縦走する発赤した顆粒状隆起(偽ポリープ様)を認め,この偽ポリープ様所見をAIGの初期内視鏡像としている.顆粒状隆起は病理学的に斑状萎縮とリンパ球浸潤に伴う限局した胃底腺の破壊を認めたと報告している.また,Ayakiら 10は同じくAIGの初期病変を呈した2例(40歳女性;35歳女性)を報告している.同報告では,典型的な胃体部の高度萎縮は未完成で,胃体部における胃小区の腫脹(色素散布にて明瞭),穹窿部のモザイク模様(近接観察にて明瞭)を認め,これらをAIGの初期内視鏡像としている.さらに,岸野ら 11もAIGの初期病変2例を検討し,その内視鏡所見は萎縮のない体部腺領域のびまん性粘膜腫脹であったと報告した.初期病変における内視鏡所見については,非常に興味深く今後さらに多数例での検討が待たれるところである.

Ⅵ 自己免疫性胃炎に合併した胃癌の臨床病理学的特徴

1.胃癌の合併頻度

悪性貧血に胃癌が高率に合併することは古くから知られている.Hsingら 17は,スウェーデンにおける悪性貧血の男性2,021例および女性2,496例を20年間経過観察した結果,全体で553症例の癌が発見され,その中で最も多かったのが胃癌であり,その標準化罹患比は2.9であったと報告している.その原因として,ニトロソアミンなどの発癌窒素化合物の産生や高ガストリン血症による胃底腺へのtrophic actionが考えられている.黒川ら 43は,悪性貧血20例の胃内視鏡所見を検討し,胃体部全域の高度な萎縮とこれより幽門洞の軽度な萎縮を「逆萎縮型胃炎」と名付けた.また,胃癌合併は20例中5例(25%)と高率であり,「逆萎縮型胃炎」の認識を強調した.春間ら 44は悪性貧血24例に上部消化管内視鏡検査を施行し,胃癌2例および胃過形成ポリープ3例を認め,これら合併胃病変の頻度は20.8%(胃癌合併は8.3%)と高率であったことを報告している.また,Vannellaら 18のメタ解析においても悪性貧血における胃癌の相対リスクは6.8(95%CI:2.6-18.1)であったと指摘している.中国の第三次医療センターにおいてAIG320例を集計した大規模研究 45では,胃癌は6例(1.9%)に認められ,その内訳は分化型4例,未分化型2例であった.一方,本邦の多施設共同研究 31では,AIGに合併した胃癌は245例中24例(9.8%)に認められ,その内訳は早期癌22例,進行癌2例,組織型では分化型19例,未分化型5例であった.

2.胃癌の臨床病理学的特徴

八板ら 46は,AIG合併胃癌20例23病変(男性9例,悪性貧血7例,平均年齢76.6歳)の臨床病理学的所見について遡及的に検討した.その結果,胃癌の大部分は胃体部に発生した隆起型の高分化型腺癌であり,22病変はすべて早期癌であった.胃型の粘液形質を半数に有し,過形成ポリープの合併が多く,背景胃粘膜の組織学的所見として非癌と比較して萎縮が高度,単核球浸潤が軽度の傾向であったと報告している.すなわち,晩期のAIGに胃癌を合併しやすい特徴を有していた.本邦11施設(CARP)より集計したAIG合併胃癌24例に,症例を追加した35例39病変(男性13例,女性22例,平均年齢74.7歳)の臨床病理学的検討を行った 47.その結果,39病変中35病変(89.7%)が早期癌,32病変(82.1%)が分化型,23病変が隆起型(59.0%,0-Ⅱa 17病変,他),18病変(46.2%)が胃体部に発生していた.血清ガストリン値の比較では癌合併例は非癌例より高い傾向を示し(3542.4±471.6 vs. 2763.6±146.6,p=0.065),さらに癌合併例では悪性貧血の頻度が有意に高率であった(37.1% vs 18.6%,p=0.023).これら35例に1981年~2020年の期間内に医学中央雑誌で検索し得た胃癌を追加した68例72病変の臨床的病理学的特徴をTable 1に集計した.男女比はほぼ1:1,主にL~M領域に発生する隆起を主体とした分化型早期癌であり,悪性貧血の併存は67.6%と高率であった.また,胃NETとの同時合併率は8.8%,H. pylori感染率は15.0%であった.

Table 1 

本邦における自己免疫性胃炎に合併した胃癌(68例72病変)の臨床病理学的特徴.

3.症例提示

(症例1)81歳の男性.既往歴は甲状腺機能低下症,検診目的にて行われた上部消化管内視鏡検査で前庭部後壁に約5mm大の褪色調で平坦な隆起性病変を認めた.萎縮性変化は認めなかった(Figure 10-a).NBI拡大観察では,隆起表面には褪色調のやや陥凹した不整粘膜と明瞭なdemarcation lineを認めた(Figure 10-b).胃体部粘膜は高度萎縮を認め,背景胃粘膜は逆萎縮を呈していた(Figure 10-c,d).生検にて高分化型腺癌と診断され,本病変に対してendoscopic submucosal dissection(ESD)が施行され,0-Ⅱa,L post,5×2mm,tub 1,M,ly0,v0,Stage IAの病理結果であった.PCA20倍,血清ガストリン7,445pg/ml,H. pylori-IgG抗体は3未満であり,以上よりAIGに合併した早期胃癌と診断した(Figure 10).

Figure 10 

AIGに合併した隆起型早期胃癌症例.

a:前庭部後壁に約5mm大の褪色調で平坦な隆起性病変を認める.萎縮性変化を認めない(白色光観察).

b:隆起表面には褪色調のやや陥凹した不整粘膜と明瞭なdemarcation lineを認める(NBI拡大観察).

c:胃体部小彎には著明な血管透見像を認める.

d:胃体部大彎の皺襞はほぼ消失している.

(症例2)83歳の女性.甲状腺機能低下症にて加療中,検診目的にて行われた上部消化管内視鏡検査で胃体部大彎の皺襞は消失し,下部後壁に約25mm大の辺縁隆起を伴う不整な陥凹性病変を認めた(Figure 11-a,b).前庭部には軽度の萎縮性変化を認めるのみで,背景胃粘膜は逆萎縮を呈していた(Figure 11-c).生検にて印環細胞癌と診断され,病変に対して幽門側胃切除術が施行された.粘液成分を背景に印環細胞型や低分化型の腫瘍細胞が粘膜下層深層にびまん性に浸潤増殖していた(Figure 11-d~g).0-Ⅱc+Ⅱa,M less-post,27×18mm,sig>muc>por2,SM2,ly0,v1,pN0,pStage IAの病理結果であった.PCA80倍,IFA陰性,血清ガストリン1,954 pg/ml,PG Ⅰ 4.4,PG Ⅱ 7.3,Ⅰ/Ⅱ ratio 0.6,H. pylori-IgG抗体は3未満であった.背景胃粘膜の病理組織学所見では,幽門腺領域は炎症細胞の浸潤や幽門腺の萎縮は乏しくほぼ正常であった.一方,胃底腺領域では壁細胞が消失し,粘膜深層を主座としたリンパ球の浸潤巣を認め,胃底腺の破壊や粘膜深層にはECMを認めた(Figure 11-h~k).以上よりAIGに合併した早期胃癌と診断した(Figure 11).

Figure 11 

AIGに合併した陥凹型早期胃癌症例.

a:胃体部大彎の皺襞は消失し,下部後壁に発赤した陥凹性病変を認める(遠景像).

b:同部に約25mm大の辺縁隆起を伴う不整な陥凹性病変を認める(近接像).

c:前庭部には軽度の萎縮性変化のみを認める.

術後病理所見(病変部).

d:粘膜内に印環型の腫瘍細胞がびまん性に浸潤増殖している(HE染色,弱拡大像).

e:印環型の腫瘍細胞の増殖を認める(HE染色,強拡大像).

f:多量の粘液を産生する腫瘍細胞が粘膜下層深層に浸潤増殖している(HE染色,弱拡大像).

g:粘液成分を背景に印環細胞型や低分化型の腫瘍細胞が浸潤増殖している(HE染色,強拡大像).

術後病理所見(非病変部:前庭部および胃体部).

h:幽門腺領域は炎症細胞の浸潤や幽門腺の萎縮は乏しくほぼ正常である(HE染色,中拡大像).

i:胃底腺領域は壁細胞が消失し,粘膜深層を主座にリンパ球の浸潤巣を認める(HE染色,弱拡大像).

j:胃底腺内にリンパ球が浸潤し,胃底腺を破壊している(HE染色,強拡大像).

k:粘膜深層にECMを認める(HE染色,強拡大像).

Ⅶ 自己免疫性胃炎に合併した胃神経内分泌腫瘍の臨床病理学的特徴

1.胃NETの分類と頻度

2010年のWHO分類 48は腫瘍細胞の形態・分化度,核分裂数とKi-67指数による細胞増殖能を組み合わせた分類であり,NETはNET G1(carcinoid),NET G2,NEC(neuroendocrine carcinoma)に分類され,NEC成分と腺癌成分の混在例はその比率によりMANEC(mixed adenoneuroendocrine carcinoma)としている.また,胃NETは臨床的にⅠ型:AIGが主体となる慢性萎縮性胃炎を背景,Ⅱ型:多発性内分泌腫瘍症1型(multiple endocrine neoplasm syndrome type 1)/Zollinzer-Ellison症候群に合併する,Ⅲ型:散発性の3型に分類 49される.これらの臨床的特徴として,Ⅰ型およびⅡ型はECL細胞由来で高ガストリン血症を伴い,腫瘍径は小さく多発する予後の良い腫瘍,一方,Ⅲ型は高ガストリン血症を伴わず,大きく単発で予後の悪い腫瘍である.また,Ⅰ型胃NETがこれら3型の中で最も頻度が高く,全体の70- 80%を占めるとされている 50.先の中国第三次医療センターにおける大規模研究 47では,AIGに合併したNETは14例(4.4%)に認められ,その内訳はG1 13例,G2 1例であった.一方,本邦の多施設共同研究 31では,245例中28例(11.4%)に認められたと報告されている.

2.AIGに合併した胃NETの内視鏡所見および臨床病理学的特徴

AIGに合併した胃NETの内視鏡的特徴 51)~54は,胃体部に存在するやや平坦な隆起性病変であり,大きさは10mm以下のものが多く,単発あるいは多発することがある.腫瘍は粘膜深層の内分泌細胞から発生し,次第に粘膜下層へ膨張発育すると考えられており,そのため腫瘍が大きくなるにつれて半球状を呈し,粘膜下腫瘍様の形態となる.色調は薄黄色や赤色調のものが多く,褪色調,周囲粘膜と同色調を呈すること,中心部で発赤や陥凹,拡張血管などの所見がみられることもある.

本邦での治療成績や長期予後などについての報告は少なく,Satoら 13は日本消化器内視鏡学会学術研究として「A型胃炎に合併した胃カルチノイドの治療指針に関する研究」の中間成績を報告し,最終的に2019年3月末日までに登録が終了した.2007年1月から本学術研究に登録されたAIGに合併した胃NET 190例の臨床的特徴および長期予後を後方視的に検討 47した.解析対象は172例であり,その内訳は男性90例,年齢24-74歳,観察期間は0-25年(平均9.3年)であった.腫瘍は粘膜・粘膜下層にほぼ限局し(94.4%),腫瘍径は0.8mm〜55mm(平均7.2mm)であった.治療法は内視鏡的切除が80例(43%)で最も多く,次いで経過観察51例,胃切除術18例(前庭部切除術11,全摘術7例)であった.リンパ節転移を2例に認めたが,遠隔転移は認めなかった.予後不明例を除き,無病生存率は93.2%(123/132),疾患特異的生存率は100%であった.AIGに合併した胃NETの悪性度は低く,その長期予後は良好であった.

近年,山出ら 55),56はPAS陽性AIGとPAS陰性AIGの2群における血清学的および病理組織学的検討を行っている.その結果,PAS陽性群では有意にPG Ⅰ/Ⅱ比低値,ガストリン高値,胃体部萎縮スコア高値およびECMが高率に検出され,胃NETのリスク群であることを報告している.

3.症例提示

(症例1)52歳の女性.既往歴は甲状腺癌および乳癌,検診目的にて行われた上部消化管内視鏡検査で穹窿部~胃体部にかけて多発する発赤調の小隆起性病変を認めた(Figure 12-a,b).前庭部には稜線状発赤のみで萎縮は認めなかったが(Figure 12-c),胃体部粘膜は高度萎縮であり,背景胃粘膜は逆萎縮を呈していた.腫瘍はなだらかに隆起し,その表面は発赤調でpitの拡大と拡張血管を認めた(Figure 12-d,e).生検標本では比較的小型の核を持つ腫瘍細胞が充実性,索状に配列・増殖し,chromogranin A陽性(Figure 12-f~h),MIB-1 indexは2%であった.幽門腺領域には腺窩上皮の過形成変化あり,胃底腺領域では壁細胞の消失,膵腺房細胞化生が認められた(Figure 12-i~k).同時にPCA80倍,血清ガストリン13,168 pg/ml,PG I 5.1,PG Ⅱ 10.5,Ⅰ/Ⅱ ratio 0.5,H. pylori-IgG抗体は3未満であり,以上よりAIGに合併した胃NET(G1)と診断した(Figure 12).

Figure 12 

AIGに合併した胃NET症例.

a:胃体部大彎の皺襞は消失し,発赤した小隆起性病変が散見される.

b:穹窿部にも同病変が多発している.

c:前庭部は稜線状発赤のみで萎縮は認めない.

腫瘍はなだらかに隆起し,その表面は発赤調でpitの拡大と拡張血管を認める.

d:白色光観察.

e:白色光近接観察.

病理所見.

腫瘍部:比較的小型の核を持つ腫瘍細胞が充実性,索状に配列・増殖している.腫瘍細胞はchromogranin Aにて染色される.

f:HE染色,弱拡大像.

g:HE染色,強拡大像.

h:chromogranin A染色.

非腫瘍部:幽門腺領域には腺窩上皮の過形成変化を認める.胃底腺領域では壁細胞の消失と膵腺房細胞化生が認められた.

i:幽門腺(HE染色,中拡大像).

j:胃底腺(HE染色,中拡大像).

k:膵腺房細胞化生(HE染色,強拡大像).

Ⅷ おわりに

自己免疫性胃炎および合併胃腫瘍の臨床像と内視鏡所見について概説した.特徴的な内視鏡所見や臨床病理学的所見など見逃がすことなく自己免疫性胃炎を拾い上げ,腫瘍性疾患や自己免疫性疾患,悪性貧血などの合併や今後の発生について,精査および定期的なサーベイランスを行うことが重要である.今後は自己免疫性胃炎の診断基準の早期確立とこれに基づく全国レジストリーが行われることが期待される.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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