日本消化器内視鏡学会雑誌
Online ISSN : 1884-5738
Print ISSN : 0387-1207
ISSN-L : 0387-1207
症例
サラゾスルファピリジンにより薬剤性腸炎を呈したメサラジン不耐症の1例
景山 宏之 喜多 雅英村上 詩歩井上 佳苗永井 裕大森分 梨奈梶谷 聡三宅 望松三 明宏西村 守
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2021 年 63 巻 9 号 p. 1603-1608

詳細
要旨

症例は32歳女性.SAPHO症候群に対してサラゾスルファピリジン腸溶錠1,000mgで加療中に下痢,血便,38度台の発熱をきたし,大腸内視鏡検査で下行結腸から盲腸にかけて連続性病変を認めた.非典型ではあったが,潰瘍性大腸炎の合併を疑い,メサラジン2,000mg及びメサラジン注腸1gに変更したところ悪寒戦慄,40度の発熱,頭痛,関節痛を認めた.再投与により再現性が得られ,5-ASA不耐症と診断した.約1カ月後の大腸内視鏡検査で粘膜治癒が確認されたため,サラゾスルファピリジンよる薬剤性腸炎と診断し,その原因成分は5-ASAと考えた.

Ⅰ 緒  言

SAPHO症候群とはSynovitis(滑膜炎),Acne(ざ瘡),Pustulosis(膿疱症),Hyperostosis(骨化過剰症),Osteitis(骨炎)の頭文字を取り,皮膚・骨・関節に症状を認める稀な疾患であり,クローン病,潰瘍性大腸炎などを合併することがある.当初,潰瘍性大腸炎の合併と思われたが,実はサラゾスルファピリジン(salazosulfapyridine:SASP)腸溶錠の5-ASA(5-aminosalicylic acid:5-ASA)成分が粘膜傷害を引き起こしたと診断された症例を経験した.5-ASA不耐の報告は多いが,実際に粘膜傷害をきたすことはあまり知られていないので報告する.

Ⅱ 症  例

症例:32歳,女性.

主訴:発熱,下痢,血便.

既往歴:光線過敏症,アトピー性皮膚炎,アレルギー性鼻炎,掌蹠膿疱症.

家族歴:母親が原発性胆汁性胆管炎に対し肝移植されている.

生活歴:喫煙 なし,飲酒 機会飲酒.

現病歴:当院整形外科で胸鎖関節及び仙腸関節の疼痛に対してNSAIDsを内服していたが,コントロール不良のため20XX年4月から脊椎関節炎の診断のもとサラゾスルファピリジン腸溶錠500mgが開始され,9月にSASP腸溶錠1,000mgに増量となった.11月から1日5-10行の泥状便と血便が出現し,12月から連日38度台の高熱を認めたため膠原病内科に受診となった.SAPHO症候群と診断され,精査目的に大腸内視鏡検査(colonoscopy:CS)を行った.回腸末端はやや浮腫状で粘液付着が目立ち,盲腸から下行結腸まで血管透見は消失し粘膜下出血やびらんなどの炎症所見を認めたが,S状結腸から直腸には炎症を認めなかった(Figure 1).回腸末端から直腸まで9箇所の生検を行い,病理組織検査では回腸粘膜の間質にリンパ球や形質細胞浸潤が中等度あり,大腸粘膜には好中球・リンパ球等の中等度炎症細胞浸潤と陰窩炎や陰窩膿瘍を認めた.潰瘍性大腸炎(Ulcerative colitis:UC)の合併が疑われ当科に紹介受診となった.感染性腸炎としては経過が長く否定的だが,鑑別に便培養を提出した.また,ベーチェット病は特徴的な皮疹や口腔内のアフタ性潰瘍,眼症状,外陰部潰瘍を認めなかったことから否定的であった.臨床的重症度と内視鏡像とに乖離があることと臨床経過からSASPによる薬剤性腸炎を最も疑った.UCとしては非典型的炎症分布であり,黄色点などのUCに特徴的な粘膜所見は認めなかったが,薬剤性腸炎と非典型例としてのUCを考慮しSASPを中止の上,時間依存性放出メサラジン(5-aminosalicylic acid:5-ASA)2,000 mg,5-ASA坐剤1gに変更した.夕食後に内服し,眠前に坐剤を挿肛した30分後から悪寒戦慄,40度の発熱,頭痛,手足の関節痛を認め,精査・加療目的に当科入院となった.

Figure 1 

SASP内服中の大腸内視鏡検査所見.

a:回腸末端はやや粘膜粗造で粘液付着が目立つ.

b:盲腸から下行結腸は連続性に粘膜粗造,血管透見消失し多発びらんを認める.

c:S状結腸から直腸はびらんはなく,比較的血管透見は良好であった.

入院時現症:身長160cm,体重58kg.意識清明,体温40.0℃,血圧116/76mmHg,脈拍120回/ 分,呼吸数27回/分,SpO2 99%.眼瞼結膜貧血なし.腹部は平坦,軟,腫瘤触知せず,圧痛を認めない.手指に落屑あり.左胸鎖関節及び左仙腸関節に疼痛あり.

臨床検査成績(Table 1):小球性貧血があり,CRP上昇,アルブミン低下を認めた.

Table 1 

臨床検査成績.

便培養:病原性大腸菌が検出されたがベロ毒素の産生は,認めなかった.

 病理組織学的検査(Figure 2):大腸粘膜は好中球・リンパ球等の中等度炎症細胞浸潤を認め,陰窩炎や陰窩膿瘍が散在していた.

Figure 2 

病理組織学的検査.対物20倍.

間質に中等度の炎症性細胞浸潤を認め,陰窩炎(矢印)・陰窩膿瘍(矢頭)を認める.

臨床経過(Figure 3):一旦内服を中止したところ約24時間後には解熱が得られた.解熱して4日目に患者に同意の上,再度5-ASA 2,000mgを内服したところ約12時間後に悪寒戦慄,40度の発熱,頭痛,手足の関節痛を認めたことから5-ASA不耐症と診断し5-ASAを中止の上,経過観察することとした.約24時間後には解熱し,数日で泥状便,血便は改善し固形便が出るようになった.約1カ月後にCSを再検したところ回腸末端の粘膜は改善し,大腸粘膜も治癒していた(Figure 4).今回使用したSASP及び5-ASAのリンパ球幼若化試験(drug-induced lymphocyte stimulation test:DLST)を行ったが,いずれも陰性であり,狭義の5-ASA不耐症であった.その後,関節炎に対しセレコキシブやアセトアミノフェンで疼痛コントロールを行ったが,効果が乏しく関節炎に対しプレドニゾロンが開始され,現在1mgで疼痛コントロールされている.SASP休薬後約2年経過するが,腹部症状の再燃は認めていない.

Figure 3 

臨床経過.

Figure 4 

SASP,5-ASA中止して約1カ月後の大腸内視鏡検査所見.

回腸末端は粘液付着は認めず,大腸は粘膜治癒が得られている.

Ⅲ 考  察

SASPはSvartzによって関節リウマチとUCに対する治療薬として開発された 1.抗菌薬のsulphapyridin(SP)と抗炎症薬の5-ASAとをアゾ結合して合成され,RAに作用するときはSASP自体が活性本体として抗リウマチ効果をもたらし,潰瘍性大腸炎では5-ASAが有効とされる 2.SASPには,薬剤過敏症状,消化器症状,頭痛,溶血,無顆粒球症,肝障害,男性不妊などの副作用のために服薬を中止せざるをえない場合が15~30%の頻度でみられる 3.このSASP不耐となる副作用の主な原因はSPによるものであり 4,SPを含まないUC治療薬として5-ASAが開発され,SASP不耐症患者に対する有用性が示されている 3

FardyらはUC患者においてSASPと5-ASAで同様の副作用を認めた2例を報告し,SPよりも5-ASAが原因であろうと報告している 4.SASPの副作用出現は投与量依存性でほとんどが治療開始後2週間以内に発生するとされている 5.福島らの報告ではmesalazine製剤不耐症患者の不耐症状出現までに平均7.7日を要しており,脱感作療法中に平均222mgで症状再燃したことを報告 6しており,mesalazineにおいても同様に用量依存性に症状が出現すると考えられる.本症例ではSASPを1,000mgに増量してから症状出現までに約2カ月も要しているため,不耐症の典型例とは言えないが,5-ASA2,000mg内服して半日で症状が出現していることを考慮すると用量依存性に症状出現時期も早まる可能性が示唆された.

5-ASA不耐には,5-ASAに対する代謝能力が弱く,免疫反応を介さない異常反応の結果,副作用が出現する狭義の5-ASA不耐と免疫反応を介して異常反応が出現し,DLSTが陽性となることが多い5-ASAアレルギーをも含めた広義の5-ASA不耐がある 7.本谷らはメサラジンを増量した際に不耐症状が出現した症例のDLST陽性率は47.6%と高率であったと報告している 8.また,本症例でそうであったように臨床的重症度が比較的高いにもかかわらず83.3%の症例で内視鏡所見はMatts2と軽度であり,臨床的重症度と内視鏡的活動度が乖離する傾向を指摘している 8.また,5-ASA不耐の患者で回腸にびまん性に粘膜発赤やアフタを認め,内服中止で軽快した症例の報告 9),10もあるが,久部らは活動期潰瘍性大腸炎の40%に小腸病変を認めると報告 11しており,回腸末端の変化だけでは5-ASA不耐の診断は困難である.アトピー性皮膚炎と気管支喘息の既往のあるSASP不耐のUC患者において5-ASA注腸の追加投与で下行結腸までの粘膜傷害の増悪をきたした症例の報告 12から推察すると,より高濃度の5-ASA暴露が直接粘膜に傷害を与えることが示唆される.本症例では回腸の変化に加えて遠位大腸に比べ近位大腸に粘膜傷害が強いという特徴があった.これはその考えを支持するものであり,炎症の分布が診断の一助になるかも知れない.

UC患者では5-ASAを開始して症状が増悪した場合には5-ASA不耐を疑いやすいが,実際に粘膜病変の増悪を伴った場合には原疾患の増悪との鑑別が難しく,診断の遅れから結腸全摘除術まで施行した報告 13もあり,ステロイド,免疫学的製剤,外科手術などの追加治療を検討する際には,今一度5-ASA不耐も考慮すべきである.

本症例はUCの既往のない患者であり,5-ASAが正常粘膜に傷害を引き起こしたと診断された貴重な症例である.

Ⅳ 結  語

5-ASA製剤は大腸粘膜傷害をきたすことがあり,UCの発症や増悪と誤認せずに不耐症を考慮して診療にあたる必要がある.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
© 2021 一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
feedback
Top