日本消化器内視鏡学会雑誌
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手技の解説
消化管内視鏡的切除後のポリグリコール酸シート被覆法のコツと意義
滝本 見吾
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2021 年 63 巻 9 号 p. 1639-1648

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要旨

内視鏡治療の進歩に伴い,偶発症対策の重要性が高まっている.ポリグリコール酸シートおよびフィブリン糊を用いた被覆法は外科領域から内視鏡領域に応用された方法である.今回,本被覆法を内視鏡で実施する際の準備や実施方法などを,臓器別に食道,胃,十二指腸,大腸,そして目的別に,術後狭窄予防,遅発穿孔予防,後出血予防に関して自験例や想定される機序などを交えて解説した.外科領域での使用実績から,消化器内視鏡処置の偶発症対策としての広い応用が期待できるため,ひとつの選択肢として,同方法の理解の参考として頂きたい.

Ⅰ はじめに

消化管腫瘍に対する内視鏡治療は,小型病変に対する内視鏡的粘膜切除術(EMR)から内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)に発展し,現在ではどちらも標準的な治療として定着した.そして,近年では,治療の進歩によって,巨大病変や困難例に対するESDが積極的に行われるようになり,さらなる広がりをみせている.

それに伴い,偶発症対策がより重要性を高める結果となった.広範囲の病変切除は,遅発性穿孔や術後狭窄などのリスクを相対的に高めることとなった.また,環境要因として,抗血栓療法の発展や超高齢化社会の基準を超える人口比率の変動によって,抗血栓薬の服用率が高まっており,後出血リスクに悩まされることも増えた 1

これらの対策として,潰瘍の縫縮などが検討されてきたが,未だに結論は出ておらず,最適な対処法に関しては議論が続いている 2.今回,当院で行っている内視鏡治療後の関連偶発症対策としての,潰瘍底に対するポリグリコール酸(Polyglycolic acid;PGA)シートとフィブリン糊を用いた被覆法について,実際の手技のコツや工夫とその成績を報告する.

Ⅱ 適  応

われわれは,2012年に十二指腸ESD後の遅発性穿孔予防法としてPGAシートとフィブリン糊の併用法を報告し 3,現在まで,様々な症例を重ねてきた.適応について定まったものは無いが,当院では,主に出血リスクが高い患者の胃癌ESD後や十二指腸腫瘍切除後,広範囲の食道ESD後を適応としている.具体例を以下に示す.

・遅発性穿孔が生じる可能性が高い病変(例,十二指腸腫瘍ESD後)(Figure 1).

Figure 1 

十二指腸下行部の3cm程度のⅡa病変をESDで切除した.Vater乳頭に接する部位で膵液胆汁に曝露されるため遅発性穿孔の可能性も高いため,PGAシートで被覆を行った.

・後出血が生じる可能性が高いと思われる病変(切除経が大きなESD後潰瘍や抗血栓療薬内服の患者)(Figure 2).

Figure 2 

十二指腸球部の7cm亜全周のⅠs+Ⅱa病変に対してESDを行った.十二指腸は食道や大腸よりも後出血の可能性が高く,エリキュース(Apixaban)を内服していたため,後出血予防として術後PGAシートで被覆を行った.

・術後狭窄が生じる可能性がある切除後潰瘍(広範囲の食道や大腸ESD後潰瘍底)(Figure 3).

Figure 3 

バウヒン弁全周に存在する病変に対してESDで全周切除を行った.術後狭窄の可能性も高いと判断し,狭窄予防にPGAシートで被覆を行った.POD41の内視鏡画像では図の通りで軽度に狭くなっているがスコープ通過は可能であり,腸閉塞症状も認めなかった.

Ⅲ 切除後潰瘍に対する被覆法の意義

内視鏡治療で大きな切除となった場合は,後出血や遅発性穿孔の可能性が生じやすいこと,そして狭窄が生じやすいことが問題点として挙げられる.

1.術後狭窄の機序としては粘膜治癒の遅延,潰瘍底での広範な繊維症をもたらす重度の炎症,潰瘍周囲の粘膜が引き連れて瘢痕拘縮を生じ消化管狭窄を生じるとされている 4.狭窄予防に関しては,PGAシートとフィブリン糊の併用法は有用である可能性が高い.本法は15年以上前より,多くの外科領域で頻繁に使用されてきた 5)~8.特記すべきことは,耳鼻科・歯科口腔外科領域で腫瘍切除後の粘膜欠損部に被覆法を用いると,PGAシートが欠損粘膜の代用となり,大きな欠損部治癒時に生じる瘢痕拘縮や狭窄,変形を予防すると報告されており 9,内視鏡治療でも応用できる可能性がある.消化器内視鏡領域でも,胃噴門部での狭窄予防効果 10および食道狭窄予防効果 11),12に関しては,その有用性を示唆する報告があり,今後の研究により,その効果が証明されることが待たれる.

2.遅発性穿孔予防に関しては,特に十二指腸ESD後潰瘍に有用である可能性がある.十二指腸は膵液・胆汁の曝露や筋層が薄いことが原因で他の消化管より遅発性穿孔が高率である.PGAシートにより膵液・胆汁の直接の曝露を予防するため,PGAシートの被覆は有用である可能性が高い.

3.内視鏡切除後潰瘍底の被覆は,後出血予防となる可能性も報告されているが 13)~15,一方で有意差を示すには至らなかった報告 16もあり,現在も多くの議論がなされている.胃,十二指腸の術後潰瘍や,抗血栓療法中の患者に対しては,有効な予防手段が無いため,その効果に期待が集まっており,患者背景を統一可能な,大規模な試験での検証が待たれる.フィブリン糊は,血液凝固因子であるフィブリンとトロンビンを高度に精製したものであり,つまり高密度の血餅を人工的に形成させるための薬剤である.外科領域でも出血予防を目的に広く使用されており 17,適切な使用方法が確立できれば,同様の効果が期待できるものと考えられる.

Ⅳ 準備物

Ⅰ.使用薬剤

1.PGAシート(ネオベール)(グンゼ株式会社)Figure 4-a

Figure 4 

a:PGAシート.

b:19×7mmで裁断しているが,大きな潰瘍底ではサイズアップし,deliveryの方法としては大きな切片をオーバーチューブ越しに潰瘍底へ運ぶ.

c:PGAシートを切断する際のコツは,PGAシートを直接,切れ味が悪いハサミで切ると,端がほつれてしまい,生検鉗子でdeliveryする際に,病変部で外れなくなる経験をする.そのため保護シートごと,切れ味の鋭いハサミで切断する.

d:病変部までdeliveryするコツ.細径の先端に鰐口がついていない生検鉗子でPGAシートを掴む(病変部で外れやすいために).鉗子口キャップを外してPGAシートを生検鉗子で運ぶ(内視鏡鉗子口やチャンネルの中で球状にならないために).鉗子口キャップを図のようにつけておくと,PGAシートを鉗子口挿入後すぐにキャップをつけれる(空気漏れを塞ぐために).

PGAシートは,化学式で表記すると―(O-CH2-C=O)―nであり,ポリグリコール酸が重合したものである.同シートは約15週間で加水分解されることにより生体内で吸収され異物として残らないのが特徴である.また縮んだり皺になったりすることが少なく通気性にすぐれ軟らかく軽いのが特徴である.大きさ,厚さは様々なものが製品化されているが,当院では大きさ5×10cm,厚さ0.15mmのものを使用している.厚くなればなるほど,固有筋層との接着力が落ちる印象を持っているため,最も薄い0.15mmを当院では使用している.

PGAシートを使用するときの工夫と注意点

当院で使用している5×10cmのPGAシートは,そのままのサイズでは鉗子口から病変部へ運ぶことは不可能である.またスコープ先端から生検鉗子を出し,シートを直接つかんでdeliveryを試みたが,食道や胃内の水分にPGAシートが当たるとシートに水分が吸収されて球状かつ一塊化してしまい病変部で広げることが困難となる.当院での工夫としては,PGAシートを約20×10mm程度の短冊状に切離して使用している(短冊の大きさは病変部の大きさなどで適宜サイズの変更を行っている)(Figure 4-b).小切片にすることにより,生検鉗子で端をつかみ内視鏡の鉗子口から病変部にdeliveryすることが可能となる.生検鉗子は病変部で外れやすいように鰐口が付いていない生検鉗子(可能であれば細径生検鉗子(1.9mm))を使用している.また,PGAシートの工夫としてはシート保護ビニールごと,切れの良いハサミを使用してPGAシートを切離している.以前は,PGAシートの端がほつれているために鉗子から外れにくくなることを経験していたが,この工夫により,端がほつれず,大きな改善が得られた(Figure 4-c).その他,当院では鉗子口キャップを外してPGAシートをdeliveryしている.これは,キャップを外さずに挿入するとPGAシートが帯状ではなく球状になってしまうからである(Figure 4-d).鉗子口キャップを外すと管腔内の空気漏れが生じるため,CO2送気を行いながらdeliveryを行っている.

一方で,広範囲のESD後の潰瘍底に対する被覆ではPGAシートそのままのサイズや大きめでdeliveryする機会もある.その具体的な方法はⅤ 手技の実際で述べるが,その場合は鉗子口から大きなPGAシートは入らないため,オーバーチューブを先に患者に挿入しておき,スコープ先端から鉗子口を通した生検鉗子でPGAシートをつかみ,オーバーチューブを通して潰瘍底へdeliveryする.

2.フィブリン糊(ベリプラストPコンビセット(CSLベーリング),ボルヒール(KMバイオロジクス))Figure 5

Figure 5 

フィブリン糊.

フィブリン糊は,人体の凝固カスケードを応用した血液製剤である.フィブリノゲン液(A液)とトロンビン液(B液)が混ざることにより,フィブリンゲルが形成され接着作用を生じる.問題点として高価であることに加え,潜在的な感染のリスクが残るが,外科領域では長年多くの患者に使用されており,製剤の加熱処理や原料血漿の遺伝子増幅検査等の安全性対策によって,これまで因果関係が判明したC型肝炎やB型肝炎を含めた感染例の報告は無い.

フィブリン糊を使用するときの工夫と注意点

A液とB液が接触すると直ちに凝固が始まりゲル状となるため注意を要する.他の外科領域では,A液を散布し,その後PGAシートを貼り付け,A液+B液を散布する方法が浸透しているが 5)~7,内視鏡では操作の制限上,PGAシートの貼付に一定の時間を要するため,先行塗布したA液の流れ落ちや,血液との接触によってA液の凝固反応が開始してしまい,PGAシートの接着がうまくいかなかった経験がある.よって当院ではまずPGAシートを潰瘍底に貼り付け,次にA液を固有筋層とPGAシートの間に刷り込むように注入し,最後に別のチューブを用いてB液を散布するよう心がけている.当院ではA液は局注針(針を出さずに使用),B液は散布チューブを使用している.同方法でPGAシートが貼付後に外れないようにする最も重要なコツは,PGAシートと固有筋層との接着つまりA液の注入方法であると考えている.当院ではA液を局注針(針を出さずに使用)でPGAシートの上からであるが,PGAシートと固有筋層の間に注入されるように,A液を0.1-0.2mlずつ刷り込みながら押さえ込むようにゆっくり注入し,計15~30カ所注入している.尚,フィブリン糊は冷蔵保存の凍結乾燥製剤である.A液は温度が低い状態では,溶解性が低く,調製作業に時間がかかるため,当院では使用を決定したときに速やかに冷蔵保存から常温に戻すようにしている.

Ⅱ 使用器具

当院で使用している機器について解説する.別社のものでも対応可能であるため各施設で揃えることが可能な物品で良いと思われる.

・オリンパス回転クリップ装置,クリップ(middle 90度)(オリンパス株式会社):上記はPGAシートの辺縁を固定するときなどに併用することがあるため準備している.実際には用いないこともある.

・局注針(TOP社製):フィブリン糊を注入するときに用いる.前述の通りA液とB液が交じると即座に凝固するので必ず別の局注針を用いる.また実際使用時には針は出さずに使用するので注意が必要である.また代用品としてはベリプラストPコンビセット購入時にはCSLベーリング社から,ボルヒール購入時にはKMバイオロジクス社から専用マルチルーメンカテーテルがあり,別途無償で提供を受けることができるため,それを使用することもある.これらのチューブは無償であること,内腔が2つあることによりA液,B液が混ざらないため2本のチューブの出し入れが必要ないという利点がある.

・生検鉗子(オリンパス社製):PGAシートをdeliveryするときに用いる.

・ハサミ:PGAシートを切離するときに用いる.切れ味が悪いと切離面がほつれたシートとなり,そのシートを実際に潰瘍底で外すときに生検鉗子から外れにくくなる.そのため当院では眼科手術用剪刀を用いている.現実的には切れ味の鋭いハサミであれば対応可能であると考える.

Ⅴ 手技の実際

穿孔部や潰瘍底の被覆を行う際の実際について下記に述べる.

1)患者の体位を決める.通常左側臥位のままで施行するが,同方法を行うときは体位変換が必要となることが多い.理由は,病変部が完全に水没する位置であるとPGAシートも水没してしまい接着せずに流れてしまうからである.また完全に水没部対側に病変部があると貼付中に外れてしまうこともある.そのため当院では,水没部対側を0時方向とすると5時または7時方向へできるだけ体位変換を行うようにしている.そうすることにより重力を使用できかつ水没が避けられるようになる(Figure 6-a).

Figure 6 

潰瘍底へのPGAシート貼付の実際(食道癌全周切除後潰瘍底に対する被覆).

2)予め切離していた短冊状にしたPGAシートを,生検鉗子を用いて病変部まで運ぶ.PGAシートの端を持ち,鉗子口キャップを外すことが重要である.

3)PGAシートが病変部までdeliveryできれば次はPGAシートのreleaseである.Releaseのコツは助手とのコンビネーションである.生検鉗子の開閉を何度も行ったり,生検鉗子の開閉および出し入れと先端アタッチメントに当てたりすることで一旦PGAシートを外すこともある(Figure 6-b).一旦外したPGAシートを鉗子でつかみ直して病変部へ運ぶ.

4)潰瘍底にPGAシートを貼付するときのコツを述べる.PGAシートを潰瘍底の上まで生検鉗子でつかんで運び一旦外す.その後生検鉗子を閉じたまま先端やシース部分で軽く2秒ほど押し当てる(Figure 6-c).PGAシートは少量の水分を含むと少し接着力が出てきて潰瘍底に接着しやすくなる印象である.

5)2)から4)をくり返し,PGAシートを一枚一枚貼付する.短冊状のPGAシートを水平に一枚一枚貼付させて潰瘍底全体を覆うのが理想であるが,大きな切除面の場合不可能であることがあるため目的部位を中心に貼付するようにしている.またPGAシートの端と端が一部のみ重なるのが理想である.完全に重なるのは無意味であるだけでなく,PGAシートが厚くなるため糊が筋層とPGAシートの間に入りにくくなり後日剝がれてしまう一因となる.PGAシートの端が丸まってしまったときも鉗子を用いて伸ばして貼付しなければ後日剝がれることがあるのは上記と同様の理由である.また,PGAシートは曲がらないように皺を作らず伸展した状態で,かつ筋層との間が浮かないように,筋層上に接着させる.

6)フィブリン糊の注入のコツは,潰瘍底とPGAシートの間に両液が入るようにPGAシート上から,しっかりとシース先端でPGAシートを押さえつけながら注入することが重要である.当院では0.1から0.2mlの少量ずつ,潰瘍底全体に均等に注入している.注意事項としては,PGAシートの上からの散布のみにはしないことである.

7)フィブリン糊のA液およびB液をPGAシートと筋層の間にいれてシートの接着を行い終了である(Figure 6-d).

尚,東京大学からは大きなサイズのPGAシートを内視鏡クリップとの併用にて効率よく貼付する方法が報告されている 13.また,PGAシートの輸送装置として香川大学からはDevice delivery station system(DDSS) 18,神戸大学からはデリバリーエンベロープ(Figure 7 19の開発が報告されている.どちらも,装置内にPGAシートを格納し,スコープを用いて消化管内に輸送し,それらを取り出して使用する.

Figure 7 

デリバリーエンベロープ.

Ⅵ 準備の指示

1.準備品を前もって伝え,処置前に揃えてもらう.特に,フィブリン糊およびPGAシートは内視鏡室に在庫が無い場合があるため,事前に取り寄せておく.

2.切除の状況をみつつ,早めにフィブリン糊を調製(溶解)してもらう.溶解に数分程度時間を要するため,余裕を持って依頼する.

3.PGAシートのトリミングの指示を出す.特定のサイズに切り揃えたり,潰瘍底のサイズに合わせて切離したり,自身のイメージを正確に伝える.

Ⅶ 臓器別攻略

①食道

管腔が狭いためやや困難となることがある.Sakaguchiらは,大きなPGAシートを内視鏡クリップと併用することで効率的な貼付を実現している 11.本稿では詳細を省くが,スコープに添わせるようにPGAシートを巻いて最肛門側にクリップで仮止めを行い,送気しつつ潰瘍底にシートを密着させる方法である.

②胃

施行する機会は多くなるが,予想以上の苦労を経験することもある.例えば,前庭部や小彎病変では,反重力方向にPGAシートを貼ることになり,かつそれが大きな切除径の潰瘍底であった場合,特に初学者では難航することが予測される.

また,胃粘液など,粘性の高い液体にPGAシートが浸漬されると,PGAシート内にフィブリン糊がうまく浸透できず,接着の妨げとなることが報告されている 20.鉗子孔経由でdeliveryする場合は,鉗子孔内をきれいに洗浄しておくことが重要となる.また,大きなシートを輸送する際は,前述の輸送装置の活用も選択肢として考えておくと良い 18),19

③十二指腸

十二指腸ESD後潰瘍は,胃ESD術後潰瘍と比較してサイズが小さいことが多いため,PGAシートを大きな切片で持っていかなくても小さな短冊状切片(当院では20×15mm)を複数枚deliveryするだけで潰瘍底を完全に被覆することができると考えている.

④大腸

最もやりやすい部位である.鎮静を行わずESDを行うことも多いため,ESD後潰瘍底が重力の下になるように体位変換が可能である.さらには息止めも可能であるため,PGAシートを運んで接着しやすい.また食道などと比べると屈曲部でなければ容易に全体にシートを接着することが可能である.

Ⅷ 注意点

1.同意書の所得

フィブリン糊は血液製剤であるため,同意書を術前に所得しておく必要がある.

2.被覆法の実施可否の判断

費用や治療時間の延長もあるため,患者の不利益にならないよう必要な症例を術前または術後に適宜判断する.後出血,遅発性穿孔や狭窄の可能性を考慮して施行するか決定する.フィブリン糊の調製やPGAシートの切離に時間を要するため,処置中に判断する場合も早めの判断が肝要である.

3.重力を考慮した体位や貼り方の選択

すべての臓器で意識して行う.また術後潰瘍底の大きさを考慮して,PGAシートのサイズを考慮する.本編では17×10mmと報告しているが,大きな潰瘍底であればもう少しサイズを大きな切片にするべきであるし,また十二指腸などの小さな潰瘍底であればサイズを小さな切片にするべきである.もっと大きな潰瘍底であれば,前述の通りスコープの先端に大きなPGAシートを持って潰瘍底へdeliveryする必要もある.いずれにせよ大きな切片になるほど,取り回しが悪くなるので注意が必要である.

4.欲張らない

完全に被覆することが希望であるが少し間隙ができることも経験する.著者らの経験では,一部間隙ができても,PGAシートをある程度被覆しているとフィブリン糊がその周囲にも残存しやすくなり,ある程度有用であると思われる.よって,完全な被覆でなくても時間や困難性を考慮して終了することも重要である.

5.焦らない

貼付したPGAシートが途中外れることもある.特に初学者の場合は時間がかかることもあるため焦らず被覆することが肝要である.

6.被覆終了後の対応

可能であれば術後2日間ほど絶食がすすめられる.理由は口腔外科領域における同方法の臨床経報告にて,1週間以内に脱落した早期脱落例の比率と,経口摂取の開始日との関係性が報告されているためである 21.当該報告では,早期脱落の発生頻度を,手術当日の経口摂取の開始では31.4%(11部位/35部位),翌日からでは7.7%(1部位/14部位),2日目以降の場合は1.7%(1部位/58部位)と報告している.食事の通過によりシートが剝がれる可能性もあるため,可能な範囲での絶食は推奨される.

Ⅸ 結  果

当院での結果はTable 1の通りである.既存の偶発症対処の報告 22)~25よりも治療手技成功率は高く,治療関連の偶発症は少なく,手術(拡張術を含む)や輸血への移行率は減少傾向であり良好な成績であった.また同方法による有害事象は3例高熱が生じたのみであった.しかし十二指腸を中心に無効例も経験すること,遅発性穿孔や瘻孔に対しても無効であることも経験するため,決して過信せず慎重なる対応が必要である.

Table 1 

成績.

Ⅹ おわりに

本法は未だ一般化された手技ではなく,機序も推測であり,有効性は証明されていないが,複数の施設から有用である可能性が示唆されており,注目すべき方法であると考える.

本稿では本法のコツと工夫の実際について報告した.本法を使用する際,手技の実際や準備品などについて,本稿をご参考頂きたい.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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